説明

電気装置制御システム

【課題】 LCフィルタによって電波障害の抑制を図りながら、電流検出手段の検出精度や耐久性等の低下を招くことのない電気装置制御システムを提供する。
【解決手段】 ECU9は、演算制御手段であるCPU41と、スイッチ回路42と、MLV32が接続される正負の接続端子T1,T2と、スイッチ回路42と両接続端子T1,T2とアースEとの間に設置されたLCフィルタ43と、スイッチ回路42とLCフィルタ43との間に設置された電流検出回路44と、アースEと電流検出回路44の上流側との間に設置されたフライホイールダイオード45と、バッテリ電源Bが接続する電源端子T3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気装置制御システムに係り、詳しくはLCフィルタによって電波障害の抑制を図りながら、電流検出手段の検出精度や耐久性等の低下を招かない技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションは、自動車の走行安定性や乗り心地を左右する重要な要素であり、車体に対して車輪を上下動自在に支持させるためのリンク(アームやロッド類)と、その撓みにより路面からの衝撃等を吸収するスプリングと、車体の上下振動を減衰させるダンパとを主要構成要素としている。サスペンション用のダンパとしては、作動油が充填された円筒状のシリンダチューブとこのシリンダチューブ内で摺動するピストンが先端に装着されたピストンロッドとを備え、ピストン(ピストンロッド)の移動に伴って作動油を複数の油室間で移動させる構造を採った筒型が広く採用されている。
【0003】
近年、筒型ダンパの特性を改善するものとして、自動車の運動状態に応じて減衰力を可変制御する減衰力可変ダンパが種々開発されている。減衰力可変ダンパとしては、オリフィス面積を変化させるロータリバルブをピストンに設け、このロータリバルブをアクチュエータによって回転駆動する機械式のものが主流であったが、構成の簡素化や応答性の向上等を実現すべく、作動油に磁気粘性流体を用い、ピストンに設けられた磁気流体バルブによって磁気粘性流体の粘度を制御するものが出現している(特許文献1参照)。この種の減衰力可変ダンパでは、電流検出回路によって磁気流体バルブへの供給電流を検出し、その検出結果に基づいてフィードバック制御を行っている。
【特許文献1】特開2006−77789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気粘性流体を用いた減衰力可変ダンパでは、通常、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:以下、PWMと記す)スイッチ回路を用い、磁気流体バルブに供給する電流を増減することによって減衰力が制御される。そのため、制御装置から減衰力可変ダンパに電流を供給する配線等からPWM信号の周波数(例えば、20kHz)を整数倍した電波ノイズが放射され、その電波ノイズによってラジオ放送等の受信障害がもたらされることがあった。そこで、本発明者等は、PWMスイッチ回路の下流にインダクタとコンデンサとからなるLCフィルタを設置し、所定周波数以上の電波ノイズを低減させることを試みた。
【0005】
ところが、LCフィルタでは、所定の周波数域で共振が発生することが避けられず、前述した電流検出回路にその検出範囲を逸脱する信号が印可され、正確な電流検出が行われなくなったり、電流検出回路の耐久性が低下したりする等の問題が生じた。また、LCフィルタの共振が減衰力可変ダンパの制御周波数付近で発生した場合、制御に乱れて車両の挙動に悪影響を及ぼす虞があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、LCフィルタによって電波障害の抑制を図りながら、電流検出手段の検出精度や耐久性等の低下を招くことのない電気装置制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る電気装置制御システムは、電気装置への電力供給に供される電源と、前記電源と前記電気装置との間に設置され、当該電気装置への供給電力を制御するスイッチ手段と、前記スイッチ手段と前記電気装置との間に設置されたLCフィルタと、前記電気装置への供給電流を検出する電流検出手段とを備えた電気装置制御システムであって、前記電流検出手段が前記スイッチ手段と前記LCフィルタとの間に設置されたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載された電気装置制御システムにおいて、前記スイッチ手段が所定の作動周波数をもって作動するパルス幅変調回路であり、前記電流検出手段が、前記作動周波数より低い出力周波数をもって前記供給電流の積算値を出力することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載された電気装置制御システムにおいて、前記LCフィルタは、前記スイッチ手段の作動周波数より低い周波数に共振点が設定されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された電気装置制御システムにおいて、前記LCフィルタは、10kHz以上の周波数を減衰し、かつ、その共振点が10kHz付近に設定されたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載された電気装置制御システムにおいて、前記電気装置は、自動車の左右サスペンションにそれぞれ設置され、当該サスペンションに懸架された車輪の上下振動を減衰させる電気制御式の減衰力可変ダンパであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る電気装置制御システムによれば、LCフィルタが共振してもその共振が電気装置内で減衰されるため、電流検出手段に検出範囲を逸脱する信号が印可されなくなって電流検出の精度や電流検出回路の耐久性が低下しなくなる。また、請求項2の発明に係る電気装置制御システムによれば、スイッチ手段の閉成および開成によってLCフィルタのコンデンサでの電荷の蓄積や放出が生じても、電流検出手段が出力する供給電流の積算値が影響を受けない。また、請求項3の発明に係る電気装置制御システムによれば、スイッチ手段の作動周波数と共振周波数とが一致しないため、電気装置の制御が乱されなくなる。また、請求項4の発明に係る電気装置制御システムによれば、通常20Hz以下である減衰力可変ダンパの制御周波数がLCフィルタの共振によって乱されず、車両の挙動に悪影響が生じなくなると同時に、530kHz以上のAM放送やFM放送の受信障害を効果的に防止できるようになる。また、請求項5の発明に係る電気装置制御システムによれば、減衰力可変ダンパの制御精度が向上する他、車載ラジオの受信障害が効果的に防止できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を4輪自動車のリヤサスペンションに適用した一実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係るリヤサスペンションの斜視図であり、図2は実施形態に係るダンパの縦断面図であり、図3は実施形態に係るMLV(Magnetizable Liquid Valve:磁気流体バルブ)の概略構造図であり、図4は実施形態に係るダンパ制御回路の要部構成図である。
【0014】
《実施形態の構成》
<サスペンション>
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2,3や、両トレーリングアーム2,3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7,8を懸架している。ダンパ6は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU9によってその減衰力が可変制御される。
【0015】
<ダンパ>
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダチューブ12と、このシリンダチューブ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダチューブ12内を上部油室14と下部油室15とに区画するピストン16と、シリンダチューブ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0016】
シリンダチューブ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上端のスタッド13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0017】
図3に示すように、ピストン16には、上部油室14と下部油室15とを連通する連通孔31と、連通孔31の内側に配設されたMLV32とが設けられている。ECU9からMLV32に電流が供給されると、連通孔31を流通するMRFに磁界(図3中に矢印で磁束をしめす)が印可されて強磁性微粒子が鎖状のクラスタを形成し、連通孔31内を通過するMRFの見かけ上の粘度(以下、単に粘度と記す)が上昇する。
【0018】
<ダンパ制御回路>
図4に示すように、本実施形態のECU9は、演算制御手段であるCPU41と、スイッチ回路(スイッチ手段)42と、MLV32が接続される正負の接続端子T1,T2と、スイッチ回路42と両接続端子T1,T2とアースEとの間に設置されたLCフィルタ43と、スイッチ回路42とLCフィルタ43との間に設置された電流検出回路44と、アースEと電流検出回路44の上流側との間に設置されたフライホイールダイオード45と、バッテリ電源Bが接続する電源端子T3とを備えている。
【0019】
CPU41は、自動車の走行状態や運転者の操舵状態等から左右のダンパ6の目標減衰力を設定し、所定周波数(本実施形態では、20kHz:以下、PWM駆動周波数と記す)のPWM駆動信号をスイッチ回路42に出力する。LCフィルタ43は、電流検出回路44と接続端子T1との間に介装されたインダクタ43lと、接続端子T1の上流側と接続端子T2の下流側との間に介装されたコンデンサ43cとから構成され、スイッチ回路42からMLV32に供給される電流を平滑化する。なお、LCフィルタ43は、図5に示すように、10kHz以上で周波数の減衰を行い、その共振点が10kHz付近に現れるように設定されている。電流検出回路44は、シャント抵抗による電流・電圧変換と、その電圧に対するオフセット付差動増幅および反転増幅を行うことによって電流を検出するもので、所定の出力周波数(本実施形態では、2Hz)をもって積算電流値をCPU41に出力する。
【0020】
≪実施形態の作用≫
自動車が走行を開始すると、ECU9は、前後Gセンサ、横Gセンサ、および上下Gセンサから得られた車体の加速度や、車速センサから入力した車体速度、車輪速センサから得られた各車輪の回転速度、操舵角センサから入力した操舵速度等に基づき、左右ダンパ6の目標減衰力(すなわち、MLV32への目標供給電流)を設定した後、スイッチ回路42にPWM駆動信号を出力する。これにより、スイッチ回路42は、PWM駆動信号の周波数をもって閉成と開成とを繰り返し、バッテリ電源Bが接続した電源端子T3からの電流をMLV32に間欠供給する。また、ECU9は、電流検出回路44から前記出力周波数で入力した積算電流値に基づき、供給電流(PWM駆動信号)をフィードバック制御する。
【0021】
本実施形態の場合、スイッチ回路42が閉成すると、図6中に矢印で示すように、電源端子T3からの電流は、電流検出回路44およびLCフィルタ43のインダクタ43lを介してMLV32に供給され、MLV32を励磁した後にアースEに還流する。この際、電流の一部がLCフィルタ43のコンデンサ43cに電荷として蓄えられることにより、電流検出回路44によって検出される電流はMLV32に実際に供給される電流より大きくなる。
【0022】
一方、スイッチ回路42が開成すると、MLV32(すなわち、コイル)のインダクタンスによって、電流は、図7中に矢印で示すように、フライホイールダイオード45、電流検出回路44およびLCフィルタ43のインダクタ43lを介して、徐々に減衰しながらMLV32に供給される。また同時に、LCフィルタ43のコンデンサ43cに蓄えられていた電荷も電流としてMLV32に供給され、これらの電流によってMLV32が励磁されることになる。
【0023】
本実施形態の場合、このような構成を採ったことにより、LCフィルタ43の共振がMLV32に吸収されて検出範囲を逸脱した信号が電流検出回路44に印可されなくなり、正確な電流検出が行われなくなったり、電流検出回路44の耐久性が低下したりする等の問題が生じなくなる。なお、電流検出回路44は、スイッチ回路42の閉成時において、MLV32に供給される電流に対してコンデンサ43cに蓄えられる電流を加えた電流を検出し、スイッチ回路42の開成時において、MLV32に供給される電流に対してコンデンサ43cから放出される電流を減じた電流を検出することになる。しかしながら、スイッチ回路42の閉成時にコンデンサ43cに蓄えられる電流の値がスイッチ回路42の開成時にコンデンサ43cから放出される電流の値と等しく、電流検出回路44の出力周波数がスイッチ回路42の開閉周波数(すなわち、PWM駆動周波数)に較べて遙かに小さいため、電流検出回路44からCPU41に出力される積算電流値はMLV32に実際に供給される電流値と等しくなり、前述したフィードバック制御が正しく行われる。
【0024】
一方、本実施形態のLCフィルタ43では、周波数の減衰が10kHz以上で行われ、その共振点が10kHz付近に設定されているため、図5に示すように、減衰力制御の周波数域(本実施形態では、0〜20Hz)のゲインが低減されず、車両の挙動に悪影響が生じない。また、LCフィルタ43は、スイッチ回路42のPWM駆動周波数(本実施形態では、20kHz)より低い周波数で共振するため、PWM駆動周波数と共振周波数とが一致せず、PWM駆動周波数のゲインを低減させることができ、PWM駆動周波数の整数倍となる周波数のゲインを減衰させるため、AM放送(531〜1602kHz)やFM放送(76〜90MHz)の受信障害を効果的に防止できるようになる。
【0025】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態は本発明を磁気粘性流体を用いた減衰力可変ダンパの制御回路に適用したものであるが、他種の減衰力可変ダンパの制御回路や、減衰力可変ダンパ以外の電気装置の制御回路に適用してもよい。また、上記実施形態ではLCフィルタとして各1つのインダクタとコンデンサとからなるものを採用したが、図8に示すように、各2つのインダクタ43la,43lbとコンデンサ43ca,43cbとからなるLCフィルタ43を採用するようにしてもよい。また、上記実施形態では、LCフィルタとして、20kHz以上の周波数を減衰し、かつ、その共振点が20kHz付近に設定されたものを採用したが、減衰域や共振点の異なるものを用いてもよい。その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、制御回路を始め、サスペンションや減衰力可変ダンパの具体的構成等も適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る4輪自動車の概略構成図である。
【図2】実施形態に係るダンパの縦断面図である。
【図3】実施形態に係るMLVの概略構造図である。
【図4】実施形態に係るダンパ制御回路の要部構成図である。
【図5】実施形態に係るLCフィルタの特性を示すグラフである。
【図6】実施形態に係るスイッチ回路閉成時における電流の流れを示す説明図である。
【図7】実施形態に係るスイッチ回路開成時における電流の流れを示す説明図である。
【図8】LCフィルタの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 リヤサスペンション
6 ダンパ(減衰力可変ダンパ)
7 リヤホイール(車輪)
32 MLV
42 スイッチ回路(スイッチ手段)
43 LCフィルタ
43c コンデンサ
43l インダクタ
44 電流検出回路(電流検出手段)
B バッテリ電源
E アース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気装置への電力供給に供される電源と、
前記電源と前記電気装置との間に設置され、当該電気装置への供給電力を制御するスイッチ手段と、
前記スイッチ手段と前記電気装置との間に設置されたLCフィルタと、
前記電気装置への供給電流を検出する電流検出手段と
を備えた電気装置制御システムであって、
前記電流検出手段が前記スイッチ手段と前記LCフィルタとの間に設置されたことを特徴とする電気装置制御システム。
【請求項2】
前記スイッチ手段が所定の作動周波数をもって作動するパルス幅変調回路であり、
前記電流検出手段が、前記作動周波数より低い出力周波数をもって前記供給電流の積算値を出力することを特徴とする、請求項1に記載された電気装置制御システム。
【請求項3】
前記LCフィルタは、前記スイッチ手段の作動周波数より低い周波数に共振点が設定されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された電気装置制御システム。
【請求項4】
前記LCフィルタは、10kHz以上の周波数を減衰し、かつ、その共振点が10kHz付近に設定されたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された電気装置制御システム。
【請求項5】
前記電気装置は、自動車の左右サスペンションにそれぞれ設置され、当該サスペンションに懸架された車輪の上下振動を減衰させる電気制御式の減衰力可変ダンパであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載された電気装置制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−62895(P2008−62895A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245779(P2006−245779)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】