電界電子放出装置およびその製造方法
【課題】 カソード・アノード間の絶縁耐圧が高く、かつ電子放出効率が高く、かつ発光均一性の高い電界電子放出装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、カソード電極11b上に形成され、孔6aを有する絶縁膜2と、絶縁膜2上に形成され、孔6aに連通する孔6bを有するゲート電極3aと、孔6の底部に形成され、かつカソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7と、孔6bの内壁面に沿って形成された絶縁膜8とを備えている。
【解決手段】 本発明の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、カソード電極11b上に形成され、孔6aを有する絶縁膜2と、絶縁膜2上に形成され、孔6aに連通する孔6bを有するゲート電極3aと、孔6の底部に形成され、かつカソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7と、孔6bの内壁面に沿って形成された絶縁膜8とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界電子放出装置およびその製造方法に関し、より特定的には、フィールドエミッションディスプレイなどに用いられる電界電子放出装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界電子放出装置の電子放出源としてカーボンナノチューブなどの物質が盛んに研究されている。電界電子放出装置において、カーボンナノチューブは、電子源の基本構造である直径10μm程度の孔(キャビティ)の内部に林立するように形成されている。このようなカーボンナノチューブを形成する方法としては、たとえば、化学的気相成長(CVD)法を用いて直接キャビティ内に成長する技術がある。このカーボンナノチューブは、長さが数μmで直径が10nm程度と非常に細い形状を有しているので、電場のある空間に置かれるとその先端に電界集中が発生し、低い電圧でも電子放出が可能となる。
【0003】
従来の電界電子放出装置においては、基板上にストライプ状に形成されたカソード電極の上に絶縁膜が形成されており、絶縁膜上にゲート電極が形成されている。ゲート電極および絶縁膜には、カソード電極に達する孔が開口されており、孔の底部のカソード電極上にカーボンナノチューブが林立するように形成されている。そして、ゲート電極とカソード電極との間に電圧を印加することにより、カソード電極上に形成されているカーボンナノチューブの先端に電界集中が発生し、その先端から電子が放出される。なお、従来の電界電子放出装置の構成は、たとえば特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
カーボンナノチューブは、CVD法で所望の長さに調整しながら成長可能であるが、直径が10nm前後と非常に細いため、必ずしも真っ直ぐには成長しない。電界電子放出装置のように孔内にカーボンナノチューブを形成する場合には、カーボンナノチューブは、その先端の位置がある程度外側に拡がった状態で成長する。このため、先端が絶縁膜の上面を超える長さのカーボンナノチューブを成長させると、カーボンナノチューブがゲート電極に接触し、カソード電極とゲート電極との間がショートする。すなわち、従来の電界電子放出装置には、カソード・アノード間の絶縁耐圧が低いという問題があった。カソード・アノード間の絶縁耐圧が低いという問題は、電子放出源としてカーボンナノチューブ以外の物質、たとえばカーボンナノワイヤ、シリコンワイヤ、チタンワイヤ、金ワイヤなどを用いた場合にも共通して起こり得る問題であった。
【0005】
この問題を解決する方法として、ゲート電極の下の絶縁膜を厚くして、カーボンナノチューブの先端がこの絶縁膜の上面より低い位置にあるようにする第1の方法が考えられる。また、ゲート電極の孔の内周面がカーボンナノチューブから離れるように、孔の開口径を大きくする第2の方法が考えられる。さらに、カーボンナノチューブの長さを短くし、先端がゲート電極の下の絶縁膜の上面より低い位置にあるようにする第3の方法が考えられる。なお、第3の方法として、水素ガスプラズマを利用してカーボンナノチューブを蝕刻して大幅に短く整形する技術がたとえば非特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−270085号公報
【特許文献2】特開2003−7197号公報
【特許文献3】特開2003−234062号公報
【非特許文献1】S.Kang et al., "Low Temperature Carbon Nanotubes for Triode-Type Field-Emitter Array", Society for Information Display 03 Digest, No.18.3, pp. 802-805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特性の良好な電界電子放出装置を得るためには、電子の放出に必要となる電圧が低いことが望ましい。そのためには、カーボンナノチューブとゲート電極との距離を極力近づけるように工夫することが必要である。カーボンナノチューブとゲート電極との距離は、たとえば100nm程度にすることが好ましい。しかしながら、上記第1の方法〜第3の方法では、いずれもカーボンナノチューブとゲート電極との間の距離が大きくなる。具体的には、カーボンナノチューブとゲート電極との間の距離は数μm程度となる。このように、カーボンナノチューブとゲート電極との間の距離が大きくなると、動作に必要なゲート電圧がたとえば40Vから100Vへと高くなり、電子放出効率が低下するという問題が生じる。また、特に第3の方法では、カーボンナノチューブの長さを短くしているので、カーボンナノチューブの先端への電界集中の効果が小さくなり、電子放出特性の低下を招くという問題もあった。
【0007】
また、従来の電界電子放出装置では、複数の電子放出源の各々とゲート電極との距離が均一でないため、キャビティ毎の電子放出特性が揃っておらず、発光均一性が低いという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、カソード・アノード間の絶縁耐圧が高く、かつ電子放出効率が高く、かつ発光均一性の高い電界電子放出装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電界電子放出装置は、カソード電極と、カソード電極上に形成され、第1の孔を有する第1絶縁膜と、第1絶縁膜上に形成され、第1の孔に連通する第2の孔を有するゲート電極と、第1の孔の底部に形成され、かつカソード電極と電気的に接続された電子放出源と、第2の孔の内壁面に沿って形成された第2絶縁膜とを備えている。
【0010】
本発明の電界電子放出装置の製造方法は、カソード電極を形成する工程と、カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、第1絶縁膜に第1の孔を形成し、ゲート電極に第2の孔を形成する工程と、第2の孔の内壁面に沿って第2絶縁膜を形成する工程と、カソード電極と電気的に接続された電子放出源を第1の孔の底部に形成する工程とを備えている。
【0011】
なお、本明細書において「絶縁膜」とは、膜の表面と裏面とに電極を付け、10MV/cmの電界を膜に加えたときに漏れる電流の密度が10-14A/cm2以上10-4A/cm2以下である膜を意味している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電界電子放出装置およびその製造方法によれば、第2絶縁膜によってゲート電極と電子放出源とが電気的に絶縁されるので、両者がショートしにくくなる。これにより、カソード・アノード間の絶縁耐圧を高くすることができる。また、電子放出源とゲート電極との間の距離を小さくすることができるので、低いゲート電圧で電子を放出させることができる。これにより、電子放出効率を高くすることができる。さらに、電子放出源とゲート電極との距離が第2絶縁膜の膜厚程度の大きさとなるので、電子放出源とゲート電極との距離が均一になり、キャビティ毎の電子放出特性を揃えることができる。これにより、発光均一性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の構成を示す斜視図である。図1に示すように、基板10上には複数のカソード電極11a〜11dの各々が形成されている。また、基板10上には絶縁膜2を介して複数のゲート電極3a,3bの各々が形成されている。複数のゲート電極3a,3bの各々は列方向(図1中縦方向)に延びており、複数のカソード電極11a〜11dの各々は行方向(図1中横方向)に延びている。複数のゲート電極3a,3bの各々と複数のカソード電極11a〜11dの各々とは交差するように配置されている。複数のゲート電極3a,3bの各々と複数のカソード電極11a〜11dの各々との各交差部近傍にドットが形成されている。本実施の形態では、1つのドットが3個のゲートホール(孔)6で形成されている。3個の孔6の各々は行方向に並んでいる。列方向に延びたゲート電極3a,3bのうちいずれかに電圧を印加して、行方向に延びたカソード電極11a〜11dのうちいずれかに電圧を印加することにより、電圧を印加した電極同士が交差する位置に形成されたドットを選択することができる。なお、図1では1つのドットが3個のゲートホールで形成されている場合について示したが、このような場合に限定されるものではなく、1つのドットは、通常3個〜約5000個のゲートホールで形成されている。本願発明者らは1つのドットが約200個のゲートホールで形成されている場合を特に想定している。
【0015】
図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図2に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、第1絶縁膜としての絶縁膜2と、ゲート電極3aと、電子放出源としてのカーボンナノチューブ7と、第2絶縁膜としての絶縁膜8と、触媒層5とを備えている。基板10上にはカソード電極11bが形成されており、カソード電極11bを覆うように基板10上には絶縁膜2が形成されており、絶縁膜2上にはゲート電極3aが形成されている。絶縁膜2は第1の孔としての孔6aを有しており、ゲート電極3aは第2の孔としての孔6bを有している。孔6aはカソード電極11bにまで達しており、孔6bは孔6aに連通している。孔6aと孔6bとにより孔6が構成されている。孔6の底部におけるカソード電極11b上には触媒層5が形成されており、触媒層5を挟んでカーボンナノチューブ7が林立して形成されている。カーボンナノチューブ7は触媒層5を介してカソード電極11bと電気的に接続されている。さらに、孔6bの内壁面に沿って絶縁膜8が形成されている。絶縁膜8はゲート電極3aの上面にまで延びるように形成されている。
【0016】
電界電子放出装置1では、カソード電極11bとゲート電極3aとの間に大きな正電圧が印加される(ゲート電極3a側に正の電位を与える)と、カーボンナノチューブ7の表面に強い電場がかかり、トンネル効果によりカーボンナノチューブ7の先端から電子が放出される。
【0017】
基板10は、たとえば40インチ角型であり、厚さ2.8mmの白板ガラス基板よりなっている。また、白板ガラス基板の他に、高歪点ガラス、石英、シリコン、アルミナ、セラミクスなどよりなっていてもよい。
【0018】
カソード電極11bはモリブデンよりなっている。また、モリブデンの他に、たとえばアルミニウム、クロム、チタン、タングステン、チタンシリサイド、チタンナイトライド、金、銀、およびアルミ基合金などよりなっていてもよい。さらに、導電性のシリコンや酸化物透明電極であるインジウム錫酸化物(ITO)などよりなっていてもよい。
【0019】
絶縁膜2は、たとえばシリコン酸化膜よりなっている。また、シリコン酸化膜の他に、たとえばシリコン窒化膜、耐熱性絶縁樹脂などよりなっていてもよい。
【0020】
ゲート電極3aはアルミニウムよりなっている。また、アルミニウムの他に、たとえばクロム、チタン、モリブデン、タングステン、チタンシリサイド、チタンナイトライド、およびアルミ基合金などよりなっていてもよい。
【0021】
絶縁膜8はアルミニウムの酸化物よりなっており、具体的にはベーマイト(含水アルミ酸化物、AlO(OH))よりなっている。また、ベーマイトの他に、たとえばカソード電極11bまたはゲート電極3aを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物などよりなっていてもよい。
【0022】
触媒層5は、たとえばFe−Ni合金よりなっており、少なくともFe、Ni、およびCoなどを含む合金が触媒層5として好適である。
【0023】
電子放出源として形成されたカーボンナノチューブ7は、その長さの平均がたとえば2μmになるように調整されている。カーボンナノチューブ7の長さの平均は、0.3μm以上10μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ7の長さの平均を0.3μm以上とすることにより、高い電子放出特性を得ることができる。また、カーボンナノチューブ7の長さの平均を10μm以下とすることにより、比較的短時間でカーボンナノチューブを成長させることができる。なお、カーボンナノチューブ7がCVD法で成長される場合には、全体として極度な密集状態ではなく、ある程度離散的になっており、かつ垂直方向に起立する傾向をもって成長される。
【0024】
次に、本実施の形態における電界電子放出装置の製造方法を、図3〜図6を用いて説明する。
【0025】
始めに、図3を参照して、基板10を洗浄し、スパッタリング装置内に配置する。そして、スパッタリング法を用いてカソード電極11bとなる膜を基板10上に形成する。次に、フォトリソグラフィなどの方法を用いてこの膜をパターニングし、たとえば数100μm幅のライン状のカソード電極11bを形成する。カソード電極11bの厚さはたとえば10nm〜1μmであり、好ましくは100〜400nmである。なお、カソード電極11bとなる膜は、スパッタリング法の他に、たとえばCVD法、真空蒸着法、メッキ法、または印刷法などの方法を用いて形成してもよい。
【0026】
なお、ここで挙げたフォトリソグラフィとは、半導体製造技術において、光や電子線等を利用して平面基板にパターンを転写する写真製版のことを意味する。この工程では、レジストの塗布、露光、エッチングおよびレジストの除去等の様々な工程を含んでいるが、一般的な工程であるため、ここでは一つの工程に含めて説明する。
【0027】
次に、たとえばプラズマCVD法を用いて、カソード電極11bを覆うように基板10上に絶縁膜2を形成する。絶縁膜2の厚さは、たとえば50nm〜10μmであり、耐熱性、構造安定性、および絶縁耐性などの観点から300nm〜2μmであることが好ましい。なお、図示していないが、カソード電極11bと絶縁膜2との密着性を向上するなどの目的で、絶縁膜2を形成する前に、チタンやシリコンを含んだ密着促進剤をカソード電極11bの上面に塗付したり、スパッタ蒸着したりしてもよい。
【0028】
続いて、たとえばスパッタリング法を用いて、ゲート電極3aとなる膜を絶縁膜2上に形成する。そして、フォトリソグラフィなどの方法を用いてこの膜をパターニングし、たとえば数100μm幅のライン状のゲート電極3aを形成する。ゲート電極3aの厚さはたとえば10nm〜1μmであり、好ましくは100〜500nmである。なお、ゲート電極3aとなる膜は、スパッタリング法の他に、たとえばCVD法、真空蒸着法、メッキ法、または印刷法などの方法を用いて形成してもよい。
【0029】
次に、図4を参照して、フォトリソグラフィなどの方法を用いてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングすることにより、ゲート電極3aに孔6bを形成し、絶縁膜2に孔6aを形成する。孔6a,6bは、たとえば円柱または角柱の立体形状を有しており、直径5〜10μmの円や多角形の平面形状を有している。
【0030】
次に、図5を参照して、孔6の底部に露出しているカソード電極11b上の所定の領域に触媒層5を形成する。具体的には、カーボンナノチューブを成長させる領域以外のカソード電極11bをレジストで被覆し、たとえば蒸着法を用いて厚さ数nmの触媒層5となる膜を孔6の底部全面に形成し、その後レジストを除去する。これにより、余分な触媒層5となる膜がリフトオフされ、カーボンナノチューブを成長させる領域にのみ触媒層5が形成される。あるいは、孔6a,6bを形成する際に用いたレジストをそのまま流用してもよい。
【0031】
次に、図6を参照して、孔6bの内壁面に沿って、かつゲート電極3aの上面に延びるように、絶縁膜8を形成する。本実施の形態では、たとえば75℃以上85℃以下の温度の純水に基板10を2分以上10分以下の時間浸漬することで、ゲート電極3aを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜8がゲート電極3aを起点として孔6bの内壁面に沿ってゲート電極3aの上面へ延びるように成長する。純水の温度を75℃以上とすることにより、ベーマイトの成長を促進することができ、純水の温度を85℃以下とすることでアルミニウムを均一に酸化することができる。絶縁膜8の厚さdは、10nm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは20〜500nmである。絶縁膜8の厚さdは、浸漬する水溶液の温度、水質(酸性度)、および処理時間によって適度に調整することが可能である。なお、本実施の形態において、カソード電極11bはモリブデンよりなっているので、純水中に浸漬してもカソード電極11bに化学反応は起こらない。
【0032】
次に、図2を参照して、たとえばCVD法を用いて、カーボンナノチューブ7を触媒層5上に形成する。カーボンナノチューブ7は、触媒層5が形成された領域に選択的に成長する。カーボンナノチューブを形成する際のCVDの原料としては、アセチレン、エチレン、またはメタンなどの炭化水素ガスや、エタノール、メタノール、またはテトラヒドロフラン(C4H8O:THF)などの有機化合物が用いられる。また、カーボンナノチューブ7は、基板10の温度350℃〜700℃、圧力10〜100000Paの条件でCVD法を用いて形成される。好ましくは、基板10の温度400℃〜600℃、圧力100Pa〜10000Paの条件でCVD法を用いて形成される。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1が完成する。
【0033】
本実施の形態の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、カソード電極11b上に形成され、孔6aを有する絶縁膜2と、絶縁膜2上に形成され、孔6aに連通する孔6bを有するゲート電極3aと、孔6の底部に形成され、かつカソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7と、孔6bの内壁面に沿って形成された絶縁膜8とを備えている。
【0034】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法は、カソード電極11bを形成する工程と、カソード電極11b上に絶縁膜2を形成する工程と、絶縁膜2上にゲート電極3aを形成する工程と、絶縁膜2に孔6aを形成し、ゲート電極3aに孔6bを形成する工程と、孔6bの内壁面に沿って絶縁膜8を形成する工程と、カソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7を孔6の底部に形成する工程とを備えている。
【0035】
本実施の形態の電界電子放出装置1およびその製造方法によれば、絶縁膜8によってゲート電極3aとカーボンナノチューブ7とが電気的に絶縁されるので、両者がショートしにくくなる。これにより、カソード・アノード間の絶縁耐圧を高くすることができる。また、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの間の距離を小さくすることができるので、低いゲート電圧で電子を放出させることができる。これにより、電子放出効率を高くすることができる。
【0036】
さらに、カーボンナノチューブ7のうち長さの長いものについては、緩やかに曲がっていたりして先端あるいは途中の部分が孔6bの内壁面に接触するようなものが含まれている。このようなものをカーボンナノチューブ7aとして図2に示す。このようなカーボンナノチューブ7aがあったとしても、絶縁膜8があるために、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの間の距離は、常に絶縁膜8の厚さd程度の大きさとなる。したがって、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの距離が均一になり、キャビティ毎の電子放出特性を揃えることができる。これにより、発光均一性を向上することができる。
【0037】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、絶縁膜8はゲート電極3aの上面にまで延びている。
【0038】
カーボンナノチューブ7のうち長さの長いものについては、その先端が孔6内から飛び出し、ゲート電極3aの上面に接触するようなものが含まれている。このようなものをカーボンナノチューブ7bとして図2に示す。このようなカーボンナノチューブ7bがあったとしても、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの絶縁を保つことができる。
【0039】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、絶縁膜8はゲート電極3aを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である。
【0040】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、絶縁膜8を形成する工程は、ゲート電極3aを酸化する工程を含んでいる。
【0041】
これにより、ゲート電極3aを酸化することで絶縁膜8を形成することができるので、絶縁膜8を容易に形成することができる。
【0042】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、ゲート電極3aはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜8はベーマイトを含んでいる。
【0043】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、ゲート電極3aはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜8を形成する工程は、ゲート電極3aに水溶液を塗布する工程を含んでいる。
【0044】
これにより、ゲート電極3aに水溶液を塗布することによって絶縁膜8を形成できるので、絶縁膜8を容易に形成することができる。
【0045】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、カーボンナノチューブ7は触媒層5を挟んでカソード電極11b上に形成されている。
【0046】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、カーボンナノチューブ7を形成する工程は、カソード電極11b上に触媒層5を形成する工程と、触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する工程とを含んでいる。
【0047】
これにより、電子放出源がカーボンナノチューブ7である場合に、カーボンナノチューブ7の生成を促進することができる。また、たとえばカソード電極が酸化されることによって絶縁膜が形成される場合には、触媒層が形成されている部分のカソード電極は酸化されないので、カソード電極と電子放出源との電気的な接続を確保することができる。
【0048】
本実施の形態の電界電子放出装置1およびその製造方法において、電子放出源はカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブのアスペクト比は非常に大きく、カーボンナノチューブの先端は尖鋭であるので、カーボンナノチューブの表面に強い電場を集中させ易い。このため、カーボンナノチューブは電子放出源として好適である。
【0049】
なお、本実施の形態においては、ゲート電極3aを酸化することによって絶縁膜8を形成する場合について示したが、このような形成方法の他、たとえば酸素雰囲気でのプラズマ酸化、ラジカル酸化、などのプラズマを用いる酸化法や、50〜400℃程度の温度でオゾンや亜酸化窒素などの酸化剤雰囲気に晒すことによる熱酸化法や、水蒸気に晒す水蒸気酸化法などによって絶縁膜8を形成してもよい。また、温水中でのベーマイト処理において、純水以外に、硫酸や硼酸アンモニウムなどを混ぜる化成処理を用いてもよい。さらに、少なくとも孔6bの内壁面にそって絶縁膜が形成されればよい。
【0050】
また、本実施の形態においては、孔6aと孔6bとを同一マスクで形成する場合について示したが、孔6aと孔6bとを別々のマスクで形成してもよい。つまり、孔6aの径と孔6bの径とは互いに異なっていてもよい。また、孔6aと孔6bとを同一マスクで形成する場合であっても、孔6aと孔6bとのエッチング速度の差が大きければ、孔6aの径と孔6bの径とは互いに異なる。通常は絶縁膜2のエッチング速度の方がゲート電極3aのエッチング速度よりも速いので、孔6aの径の方が孔6bの径よりも大きくなりやすい。
【0051】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の構成を示す断面図である。図7に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、第2絶縁膜としての絶縁膜18がゲート電極3aに開口された孔6bの内壁面に沿って形成されている。絶縁膜18は孔6bの内壁面から下方に向かって孔6aの内壁面にまで延びており、カソード電極11bに達している。また、絶縁膜18は孔6bの内壁面から上方に向かって延びており、ゲート電極3aの上面にまで延びている。絶縁膜18付近のカソード電極11bの表面には凹部12が形成されている。カソード電極11bはアルミニウムと、1質量%のSiCuとよりなるアルミニウム合金よりなっている。ゲート電極3aはモリブデンよりなっている。
【0052】
なお、これ以外の電界電子放出装置1aの構成は、図1および図2に示す実施の形態1における電界電子放出装置1の構成とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
続いて、本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法について説明する。
【0054】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法は、まず図3〜図5に示す実施の形態1の製造工程と同様の製造工程を経る。次に、図8を参照して、孔6bおよび孔6aの内壁面に沿って、かつゲート電極3aの上面に延びるように、絶縁膜18を形成する。
【0055】
本実施の形態では、たとえば75℃以上85℃以下の温度の純水に基板10を3分間浸漬することで、カソード電極11bを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜18がカソード電極11bを起点として孔6の内壁面に沿って上方へ延びるように成長し、ゲート電極3aの上面にまで達する。なお、絶縁膜18の形成の際、ベーマイトの生成に用いられたアルミニウムの分だけカソード電極11bが削られるので、カソード電極11bの上面に凹部12が形成される。なお、本実施の形態において、ゲート電極3aはモリブデンよりなっているので、純水中に浸漬してもゲート電極3aに化学反応は起こらない。
【0056】
ここで、カソード電極11bがアルミニウムを含んでいる場合には、カソード電極11bの上面にもベーマイトからなる絶縁膜が形成されるおそれがある。カソード電極11bの上面に絶縁膜が形成されると、カーボンナノチューブ7とカソード電極11bとの電気的接続を確保し難くなる。そこで、カソード電極11b上にたとえばチタンシリサイドなどを形成しておくと、その部分には絶縁膜が形成されない。また触媒層5を形成した場合、その領域にはベーマイトが形成されない。したがって、カーボンナノチューブ7を形成する領域以外の領域のみに選択的に絶縁膜18の形成が可能である。
【0057】
その後、実施の形態1と同様の方法によって触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1aが完成する。
【0058】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、絶縁膜18は孔6aの内壁面にまで延びている。これにより、孔6の内壁面全体を覆うように絶縁膜18を形成することができる。
【0059】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、絶縁膜18はカソード電極11bを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である。
【0060】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法において、絶縁膜18を形成する工程は、カソード電極11bを酸化する工程を含んでいる。
【0061】
これにより、カソード電極11bを酸化することで絶縁膜18を形成することができるので、絶縁膜18を容易に形成することができる。
【0062】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、カソード電極11bはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜18はベーマイトを含んでいる。
【0063】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法において、カソード電極11bはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜18を形成する工程は、カソード電極11bに水溶液を塗布する工程を含んでいる。
【0064】
これにより、カソード電極11bに水溶液を塗布することによって絶縁膜18を形成できるので、絶縁膜18を容易に形成することができる。
【0065】
(実施の形態3)
図2を参照して、本実施の形態においては、絶縁膜8の形成方法および膜の微細構造が実施の形態1の場合と異なっている。本実施の形態では、温度75℃以上85℃以下の純水に基板10を5秒以上2分以下浸漬することで、ゲート電極3aを酸化する。つまり、実施の形態1の場合よりも基板10を浸漬する時間が短い。その結果、組織が緻密ではない花弁状のベーマイトよりなる絶縁膜8が形成される。
【0066】
図9は、本発明の実施の形態3において形成される絶縁膜の形状を模式的に示す斜視図である。図9を参照して、絶縁膜8は、平均粒径10nm以上100nm以下の微細な薄片状の粒子よりなっており、これらの粒子が折り重なっている。
【0067】
本実施の形態の電界電子放出装置によれば、絶縁膜8が緻密でない組織よりなっていることから、絶縁膜8とカーボンナノチューブ7との接触面積を極めて小さくすることができる。これにより、カーボンナノチューブ7から絶縁膜8へ電流が流れにくくなり、何らかの不良によりショートが起こっても絶縁膜8内に漏れ電流が生じにくくなる。また、たとえば550℃程度の高温で熱処理が行なわれて、カソード電極11bやゲート電極3aに熱膨張が生じても、絶縁膜8を構成する粒子同士の隙間でこれらの熱膨張を吸収することができる。したがって、熱処理の際にクラックなどの不良が生じにくくなる。以上により、電界電子放出装置の特性を向上することができる。
【0068】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における電界電子放出装置1bの構成を示す断面図である。図10に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1bにおいて、第2絶縁膜としての絶縁膜28がゲート電極3aに開口された孔6bの内壁面に沿って形成されている。絶縁膜28は孔6bの内壁面から下方に向かって孔6aの内壁面にまで延びており、カソード電極11bに達している。また、絶縁膜28はゲート電極3bよりも上方へ突出している。カーボンナノチューブ7は絶縁膜28で囲まれた領域内に形成されている。カソード電極11bおよびゲート電極3aは、共にアルミニウムと、1質量%のSiCuとよりなるアルミニウム合金よりなっている。
【0069】
なお、これ以外の電界電子放出装置1bの構成は、図1および図2に示す実施の形態1における電界電子放出装置1の構成とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
続いて、本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法について、図11および図12を用いて説明する。
【0071】
本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法は、まず図3に示す実施の形態1の製造工程と同様の製造工程を経る。次に、図11を参照して、ゲート電極3a上に所定形状のレジスト15を形成する。そして、レジスト15をマスクとしてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングすることにより、ゲート電極3aに孔6bを形成し、絶縁膜2に孔6aを形成する。
【0072】
次に、図12を参照して、レジスト15を残した状態で、カソード電極11b上に触媒層5を形成する。次に、基板10を純水に浸漬することで、カソード電極11bおよびゲート電極3aを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜28がカソード電極11bを起点として孔6aの内壁面に沿って上方へ延びるように成長する。また、絶縁膜28は、ゲート電極3aを起点として孔6bの内壁面から上方に向かってレジスト15に開口された孔15aの内壁面にまで延びるように成長する。絶縁膜28の高さhは、絶縁膜28の形成条件にもよるが、約4μm程度である。
【0073】
次に、図10を参照して、レジスト15を除去する。これにより、ゲート電極3aから突出した円筒形状の絶縁膜28が形成される。その後、実施の形態1と同様の方法で触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1bが完成する。
【0074】
本実施の形態の電界電子放出装置1bにおいて、絶縁膜28はゲート電極3aよりも上方へ突出している。
【0075】
本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法において、孔6aおよび孔6bを形成する工程は、ゲート電極3a上にレジスト15を形成する工程と、レジスト15をマスクとしてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングする工程とを含んでおり、レジスト15が形成された状態で絶縁膜28を形成する。
【0076】
本実施の形態の電界電子放出装置1bおよびその製造方法によれば、ゲート電極3aよりも上方へ突出した絶縁膜28の部分によってカーボンナノチューブ7の先端が孔6の内側の方向に向けられるので、カーボンナノチューブ7の先端が孔6内から飛び出しにくくなる。これにより、カーボンナノチューブ7がゲート電極3aの上面に接触することを抑止することができる。
【0077】
本発明に用いられる電子放出源としてはカーボンナノチューブが好適であるが、カーボンナノチューブの他、たとえばカーボンナノワイヤ、シリコンワイヤ、チタンワイヤ、金ワイヤなどが電子放出源であってもよい。
【0078】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の製造工程を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3において形成される絶縁膜の顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置1bの構成を示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1,1a,1b 電界電子放出装置、2,8,18,28 絶縁膜、3a,3b ゲート電極、5 触媒層、6,6a,6b,15a 孔、7,7a,7b カーボンナノチューブ、10 基板、11a〜11d カソード電極、12 凹部,15 レジスト。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界電子放出装置およびその製造方法に関し、より特定的には、フィールドエミッションディスプレイなどに用いられる電界電子放出装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界電子放出装置の電子放出源としてカーボンナノチューブなどの物質が盛んに研究されている。電界電子放出装置において、カーボンナノチューブは、電子源の基本構造である直径10μm程度の孔(キャビティ)の内部に林立するように形成されている。このようなカーボンナノチューブを形成する方法としては、たとえば、化学的気相成長(CVD)法を用いて直接キャビティ内に成長する技術がある。このカーボンナノチューブは、長さが数μmで直径が10nm程度と非常に細い形状を有しているので、電場のある空間に置かれるとその先端に電界集中が発生し、低い電圧でも電子放出が可能となる。
【0003】
従来の電界電子放出装置においては、基板上にストライプ状に形成されたカソード電極の上に絶縁膜が形成されており、絶縁膜上にゲート電極が形成されている。ゲート電極および絶縁膜には、カソード電極に達する孔が開口されており、孔の底部のカソード電極上にカーボンナノチューブが林立するように形成されている。そして、ゲート電極とカソード電極との間に電圧を印加することにより、カソード電極上に形成されているカーボンナノチューブの先端に電界集中が発生し、その先端から電子が放出される。なお、従来の電界電子放出装置の構成は、たとえば特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
カーボンナノチューブは、CVD法で所望の長さに調整しながら成長可能であるが、直径が10nm前後と非常に細いため、必ずしも真っ直ぐには成長しない。電界電子放出装置のように孔内にカーボンナノチューブを形成する場合には、カーボンナノチューブは、その先端の位置がある程度外側に拡がった状態で成長する。このため、先端が絶縁膜の上面を超える長さのカーボンナノチューブを成長させると、カーボンナノチューブがゲート電極に接触し、カソード電極とゲート電極との間がショートする。すなわち、従来の電界電子放出装置には、カソード・アノード間の絶縁耐圧が低いという問題があった。カソード・アノード間の絶縁耐圧が低いという問題は、電子放出源としてカーボンナノチューブ以外の物質、たとえばカーボンナノワイヤ、シリコンワイヤ、チタンワイヤ、金ワイヤなどを用いた場合にも共通して起こり得る問題であった。
【0005】
この問題を解決する方法として、ゲート電極の下の絶縁膜を厚くして、カーボンナノチューブの先端がこの絶縁膜の上面より低い位置にあるようにする第1の方法が考えられる。また、ゲート電極の孔の内周面がカーボンナノチューブから離れるように、孔の開口径を大きくする第2の方法が考えられる。さらに、カーボンナノチューブの長さを短くし、先端がゲート電極の下の絶縁膜の上面より低い位置にあるようにする第3の方法が考えられる。なお、第3の方法として、水素ガスプラズマを利用してカーボンナノチューブを蝕刻して大幅に短く整形する技術がたとえば非特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−270085号公報
【特許文献2】特開2003−7197号公報
【特許文献3】特開2003−234062号公報
【非特許文献1】S.Kang et al., "Low Temperature Carbon Nanotubes for Triode-Type Field-Emitter Array", Society for Information Display 03 Digest, No.18.3, pp. 802-805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特性の良好な電界電子放出装置を得るためには、電子の放出に必要となる電圧が低いことが望ましい。そのためには、カーボンナノチューブとゲート電極との距離を極力近づけるように工夫することが必要である。カーボンナノチューブとゲート電極との距離は、たとえば100nm程度にすることが好ましい。しかしながら、上記第1の方法〜第3の方法では、いずれもカーボンナノチューブとゲート電極との間の距離が大きくなる。具体的には、カーボンナノチューブとゲート電極との間の距離は数μm程度となる。このように、カーボンナノチューブとゲート電極との間の距離が大きくなると、動作に必要なゲート電圧がたとえば40Vから100Vへと高くなり、電子放出効率が低下するという問題が生じる。また、特に第3の方法では、カーボンナノチューブの長さを短くしているので、カーボンナノチューブの先端への電界集中の効果が小さくなり、電子放出特性の低下を招くという問題もあった。
【0007】
また、従来の電界電子放出装置では、複数の電子放出源の各々とゲート電極との距離が均一でないため、キャビティ毎の電子放出特性が揃っておらず、発光均一性が低いという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、カソード・アノード間の絶縁耐圧が高く、かつ電子放出効率が高く、かつ発光均一性の高い電界電子放出装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電界電子放出装置は、カソード電極と、カソード電極上に形成され、第1の孔を有する第1絶縁膜と、第1絶縁膜上に形成され、第1の孔に連通する第2の孔を有するゲート電極と、第1の孔の底部に形成され、かつカソード電極と電気的に接続された電子放出源と、第2の孔の内壁面に沿って形成された第2絶縁膜とを備えている。
【0010】
本発明の電界電子放出装置の製造方法は、カソード電極を形成する工程と、カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、第1絶縁膜に第1の孔を形成し、ゲート電極に第2の孔を形成する工程と、第2の孔の内壁面に沿って第2絶縁膜を形成する工程と、カソード電極と電気的に接続された電子放出源を第1の孔の底部に形成する工程とを備えている。
【0011】
なお、本明細書において「絶縁膜」とは、膜の表面と裏面とに電極を付け、10MV/cmの電界を膜に加えたときに漏れる電流の密度が10-14A/cm2以上10-4A/cm2以下である膜を意味している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電界電子放出装置およびその製造方法によれば、第2絶縁膜によってゲート電極と電子放出源とが電気的に絶縁されるので、両者がショートしにくくなる。これにより、カソード・アノード間の絶縁耐圧を高くすることができる。また、電子放出源とゲート電極との間の距離を小さくすることができるので、低いゲート電圧で電子を放出させることができる。これにより、電子放出効率を高くすることができる。さらに、電子放出源とゲート電極との距離が第2絶縁膜の膜厚程度の大きさとなるので、電子放出源とゲート電極との距離が均一になり、キャビティ毎の電子放出特性を揃えることができる。これにより、発光均一性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の構成を示す斜視図である。図1に示すように、基板10上には複数のカソード電極11a〜11dの各々が形成されている。また、基板10上には絶縁膜2を介して複数のゲート電極3a,3bの各々が形成されている。複数のゲート電極3a,3bの各々は列方向(図1中縦方向)に延びており、複数のカソード電極11a〜11dの各々は行方向(図1中横方向)に延びている。複数のゲート電極3a,3bの各々と複数のカソード電極11a〜11dの各々とは交差するように配置されている。複数のゲート電極3a,3bの各々と複数のカソード電極11a〜11dの各々との各交差部近傍にドットが形成されている。本実施の形態では、1つのドットが3個のゲートホール(孔)6で形成されている。3個の孔6の各々は行方向に並んでいる。列方向に延びたゲート電極3a,3bのうちいずれかに電圧を印加して、行方向に延びたカソード電極11a〜11dのうちいずれかに電圧を印加することにより、電圧を印加した電極同士が交差する位置に形成されたドットを選択することができる。なお、図1では1つのドットが3個のゲートホールで形成されている場合について示したが、このような場合に限定されるものではなく、1つのドットは、通常3個〜約5000個のゲートホールで形成されている。本願発明者らは1つのドットが約200個のゲートホールで形成されている場合を特に想定している。
【0015】
図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図2に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、第1絶縁膜としての絶縁膜2と、ゲート電極3aと、電子放出源としてのカーボンナノチューブ7と、第2絶縁膜としての絶縁膜8と、触媒層5とを備えている。基板10上にはカソード電極11bが形成されており、カソード電極11bを覆うように基板10上には絶縁膜2が形成されており、絶縁膜2上にはゲート電極3aが形成されている。絶縁膜2は第1の孔としての孔6aを有しており、ゲート電極3aは第2の孔としての孔6bを有している。孔6aはカソード電極11bにまで達しており、孔6bは孔6aに連通している。孔6aと孔6bとにより孔6が構成されている。孔6の底部におけるカソード電極11b上には触媒層5が形成されており、触媒層5を挟んでカーボンナノチューブ7が林立して形成されている。カーボンナノチューブ7は触媒層5を介してカソード電極11bと電気的に接続されている。さらに、孔6bの内壁面に沿って絶縁膜8が形成されている。絶縁膜8はゲート電極3aの上面にまで延びるように形成されている。
【0016】
電界電子放出装置1では、カソード電極11bとゲート電極3aとの間に大きな正電圧が印加される(ゲート電極3a側に正の電位を与える)と、カーボンナノチューブ7の表面に強い電場がかかり、トンネル効果によりカーボンナノチューブ7の先端から電子が放出される。
【0017】
基板10は、たとえば40インチ角型であり、厚さ2.8mmの白板ガラス基板よりなっている。また、白板ガラス基板の他に、高歪点ガラス、石英、シリコン、アルミナ、セラミクスなどよりなっていてもよい。
【0018】
カソード電極11bはモリブデンよりなっている。また、モリブデンの他に、たとえばアルミニウム、クロム、チタン、タングステン、チタンシリサイド、チタンナイトライド、金、銀、およびアルミ基合金などよりなっていてもよい。さらに、導電性のシリコンや酸化物透明電極であるインジウム錫酸化物(ITO)などよりなっていてもよい。
【0019】
絶縁膜2は、たとえばシリコン酸化膜よりなっている。また、シリコン酸化膜の他に、たとえばシリコン窒化膜、耐熱性絶縁樹脂などよりなっていてもよい。
【0020】
ゲート電極3aはアルミニウムよりなっている。また、アルミニウムの他に、たとえばクロム、チタン、モリブデン、タングステン、チタンシリサイド、チタンナイトライド、およびアルミ基合金などよりなっていてもよい。
【0021】
絶縁膜8はアルミニウムの酸化物よりなっており、具体的にはベーマイト(含水アルミ酸化物、AlO(OH))よりなっている。また、ベーマイトの他に、たとえばカソード電極11bまたはゲート電極3aを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物などよりなっていてもよい。
【0022】
触媒層5は、たとえばFe−Ni合金よりなっており、少なくともFe、Ni、およびCoなどを含む合金が触媒層5として好適である。
【0023】
電子放出源として形成されたカーボンナノチューブ7は、その長さの平均がたとえば2μmになるように調整されている。カーボンナノチューブ7の長さの平均は、0.3μm以上10μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ7の長さの平均を0.3μm以上とすることにより、高い電子放出特性を得ることができる。また、カーボンナノチューブ7の長さの平均を10μm以下とすることにより、比較的短時間でカーボンナノチューブを成長させることができる。なお、カーボンナノチューブ7がCVD法で成長される場合には、全体として極度な密集状態ではなく、ある程度離散的になっており、かつ垂直方向に起立する傾向をもって成長される。
【0024】
次に、本実施の形態における電界電子放出装置の製造方法を、図3〜図6を用いて説明する。
【0025】
始めに、図3を参照して、基板10を洗浄し、スパッタリング装置内に配置する。そして、スパッタリング法を用いてカソード電極11bとなる膜を基板10上に形成する。次に、フォトリソグラフィなどの方法を用いてこの膜をパターニングし、たとえば数100μm幅のライン状のカソード電極11bを形成する。カソード電極11bの厚さはたとえば10nm〜1μmであり、好ましくは100〜400nmである。なお、カソード電極11bとなる膜は、スパッタリング法の他に、たとえばCVD法、真空蒸着法、メッキ法、または印刷法などの方法を用いて形成してもよい。
【0026】
なお、ここで挙げたフォトリソグラフィとは、半導体製造技術において、光や電子線等を利用して平面基板にパターンを転写する写真製版のことを意味する。この工程では、レジストの塗布、露光、エッチングおよびレジストの除去等の様々な工程を含んでいるが、一般的な工程であるため、ここでは一つの工程に含めて説明する。
【0027】
次に、たとえばプラズマCVD法を用いて、カソード電極11bを覆うように基板10上に絶縁膜2を形成する。絶縁膜2の厚さは、たとえば50nm〜10μmであり、耐熱性、構造安定性、および絶縁耐性などの観点から300nm〜2μmであることが好ましい。なお、図示していないが、カソード電極11bと絶縁膜2との密着性を向上するなどの目的で、絶縁膜2を形成する前に、チタンやシリコンを含んだ密着促進剤をカソード電極11bの上面に塗付したり、スパッタ蒸着したりしてもよい。
【0028】
続いて、たとえばスパッタリング法を用いて、ゲート電極3aとなる膜を絶縁膜2上に形成する。そして、フォトリソグラフィなどの方法を用いてこの膜をパターニングし、たとえば数100μm幅のライン状のゲート電極3aを形成する。ゲート電極3aの厚さはたとえば10nm〜1μmであり、好ましくは100〜500nmである。なお、ゲート電極3aとなる膜は、スパッタリング法の他に、たとえばCVD法、真空蒸着法、メッキ法、または印刷法などの方法を用いて形成してもよい。
【0029】
次に、図4を参照して、フォトリソグラフィなどの方法を用いてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングすることにより、ゲート電極3aに孔6bを形成し、絶縁膜2に孔6aを形成する。孔6a,6bは、たとえば円柱または角柱の立体形状を有しており、直径5〜10μmの円や多角形の平面形状を有している。
【0030】
次に、図5を参照して、孔6の底部に露出しているカソード電極11b上の所定の領域に触媒層5を形成する。具体的には、カーボンナノチューブを成長させる領域以外のカソード電極11bをレジストで被覆し、たとえば蒸着法を用いて厚さ数nmの触媒層5となる膜を孔6の底部全面に形成し、その後レジストを除去する。これにより、余分な触媒層5となる膜がリフトオフされ、カーボンナノチューブを成長させる領域にのみ触媒層5が形成される。あるいは、孔6a,6bを形成する際に用いたレジストをそのまま流用してもよい。
【0031】
次に、図6を参照して、孔6bの内壁面に沿って、かつゲート電極3aの上面に延びるように、絶縁膜8を形成する。本実施の形態では、たとえば75℃以上85℃以下の温度の純水に基板10を2分以上10分以下の時間浸漬することで、ゲート電極3aを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜8がゲート電極3aを起点として孔6bの内壁面に沿ってゲート電極3aの上面へ延びるように成長する。純水の温度を75℃以上とすることにより、ベーマイトの成長を促進することができ、純水の温度を85℃以下とすることでアルミニウムを均一に酸化することができる。絶縁膜8の厚さdは、10nm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは20〜500nmである。絶縁膜8の厚さdは、浸漬する水溶液の温度、水質(酸性度)、および処理時間によって適度に調整することが可能である。なお、本実施の形態において、カソード電極11bはモリブデンよりなっているので、純水中に浸漬してもカソード電極11bに化学反応は起こらない。
【0032】
次に、図2を参照して、たとえばCVD法を用いて、カーボンナノチューブ7を触媒層5上に形成する。カーボンナノチューブ7は、触媒層5が形成された領域に選択的に成長する。カーボンナノチューブを形成する際のCVDの原料としては、アセチレン、エチレン、またはメタンなどの炭化水素ガスや、エタノール、メタノール、またはテトラヒドロフラン(C4H8O:THF)などの有機化合物が用いられる。また、カーボンナノチューブ7は、基板10の温度350℃〜700℃、圧力10〜100000Paの条件でCVD法を用いて形成される。好ましくは、基板10の温度400℃〜600℃、圧力100Pa〜10000Paの条件でCVD法を用いて形成される。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1が完成する。
【0033】
本実施の形態の電界電子放出装置1は、カソード電極11bと、カソード電極11b上に形成され、孔6aを有する絶縁膜2と、絶縁膜2上に形成され、孔6aに連通する孔6bを有するゲート電極3aと、孔6の底部に形成され、かつカソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7と、孔6bの内壁面に沿って形成された絶縁膜8とを備えている。
【0034】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法は、カソード電極11bを形成する工程と、カソード電極11b上に絶縁膜2を形成する工程と、絶縁膜2上にゲート電極3aを形成する工程と、絶縁膜2に孔6aを形成し、ゲート電極3aに孔6bを形成する工程と、孔6bの内壁面に沿って絶縁膜8を形成する工程と、カソード電極11bと電気的に接続されたカーボンナノチューブ7を孔6の底部に形成する工程とを備えている。
【0035】
本実施の形態の電界電子放出装置1およびその製造方法によれば、絶縁膜8によってゲート電極3aとカーボンナノチューブ7とが電気的に絶縁されるので、両者がショートしにくくなる。これにより、カソード・アノード間の絶縁耐圧を高くすることができる。また、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの間の距離を小さくすることができるので、低いゲート電圧で電子を放出させることができる。これにより、電子放出効率を高くすることができる。
【0036】
さらに、カーボンナノチューブ7のうち長さの長いものについては、緩やかに曲がっていたりして先端あるいは途中の部分が孔6bの内壁面に接触するようなものが含まれている。このようなものをカーボンナノチューブ7aとして図2に示す。このようなカーボンナノチューブ7aがあったとしても、絶縁膜8があるために、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの間の距離は、常に絶縁膜8の厚さd程度の大きさとなる。したがって、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの距離が均一になり、キャビティ毎の電子放出特性を揃えることができる。これにより、発光均一性を向上することができる。
【0037】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、絶縁膜8はゲート電極3aの上面にまで延びている。
【0038】
カーボンナノチューブ7のうち長さの長いものについては、その先端が孔6内から飛び出し、ゲート電極3aの上面に接触するようなものが含まれている。このようなものをカーボンナノチューブ7bとして図2に示す。このようなカーボンナノチューブ7bがあったとしても、カーボンナノチューブ7とゲート電極3aとの絶縁を保つことができる。
【0039】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、絶縁膜8はゲート電極3aを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である。
【0040】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、絶縁膜8を形成する工程は、ゲート電極3aを酸化する工程を含んでいる。
【0041】
これにより、ゲート電極3aを酸化することで絶縁膜8を形成することができるので、絶縁膜8を容易に形成することができる。
【0042】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、ゲート電極3aはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜8はベーマイトを含んでいる。
【0043】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、ゲート電極3aはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜8を形成する工程は、ゲート電極3aに水溶液を塗布する工程を含んでいる。
【0044】
これにより、ゲート電極3aに水溶液を塗布することによって絶縁膜8を形成できるので、絶縁膜8を容易に形成することができる。
【0045】
本実施の形態の電界電子放出装置1において、カーボンナノチューブ7は触媒層5を挟んでカソード電極11b上に形成されている。
【0046】
本実施の形態の電界電子放出装置1の製造方法において、カーボンナノチューブ7を形成する工程は、カソード電極11b上に触媒層5を形成する工程と、触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する工程とを含んでいる。
【0047】
これにより、電子放出源がカーボンナノチューブ7である場合に、カーボンナノチューブ7の生成を促進することができる。また、たとえばカソード電極が酸化されることによって絶縁膜が形成される場合には、触媒層が形成されている部分のカソード電極は酸化されないので、カソード電極と電子放出源との電気的な接続を確保することができる。
【0048】
本実施の形態の電界電子放出装置1およびその製造方法において、電子放出源はカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブのアスペクト比は非常に大きく、カーボンナノチューブの先端は尖鋭であるので、カーボンナノチューブの表面に強い電場を集中させ易い。このため、カーボンナノチューブは電子放出源として好適である。
【0049】
なお、本実施の形態においては、ゲート電極3aを酸化することによって絶縁膜8を形成する場合について示したが、このような形成方法の他、たとえば酸素雰囲気でのプラズマ酸化、ラジカル酸化、などのプラズマを用いる酸化法や、50〜400℃程度の温度でオゾンや亜酸化窒素などの酸化剤雰囲気に晒すことによる熱酸化法や、水蒸気に晒す水蒸気酸化法などによって絶縁膜8を形成してもよい。また、温水中でのベーマイト処理において、純水以外に、硫酸や硼酸アンモニウムなどを混ぜる化成処理を用いてもよい。さらに、少なくとも孔6bの内壁面にそって絶縁膜が形成されればよい。
【0050】
また、本実施の形態においては、孔6aと孔6bとを同一マスクで形成する場合について示したが、孔6aと孔6bとを別々のマスクで形成してもよい。つまり、孔6aの径と孔6bの径とは互いに異なっていてもよい。また、孔6aと孔6bとを同一マスクで形成する場合であっても、孔6aと孔6bとのエッチング速度の差が大きければ、孔6aの径と孔6bの径とは互いに異なる。通常は絶縁膜2のエッチング速度の方がゲート電極3aのエッチング速度よりも速いので、孔6aの径の方が孔6bの径よりも大きくなりやすい。
【0051】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の構成を示す断面図である。図7に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、第2絶縁膜としての絶縁膜18がゲート電極3aに開口された孔6bの内壁面に沿って形成されている。絶縁膜18は孔6bの内壁面から下方に向かって孔6aの内壁面にまで延びており、カソード電極11bに達している。また、絶縁膜18は孔6bの内壁面から上方に向かって延びており、ゲート電極3aの上面にまで延びている。絶縁膜18付近のカソード電極11bの表面には凹部12が形成されている。カソード電極11bはアルミニウムと、1質量%のSiCuとよりなるアルミニウム合金よりなっている。ゲート電極3aはモリブデンよりなっている。
【0052】
なお、これ以外の電界電子放出装置1aの構成は、図1および図2に示す実施の形態1における電界電子放出装置1の構成とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
続いて、本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法について説明する。
【0054】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法は、まず図3〜図5に示す実施の形態1の製造工程と同様の製造工程を経る。次に、図8を参照して、孔6bおよび孔6aの内壁面に沿って、かつゲート電極3aの上面に延びるように、絶縁膜18を形成する。
【0055】
本実施の形態では、たとえば75℃以上85℃以下の温度の純水に基板10を3分間浸漬することで、カソード電極11bを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜18がカソード電極11bを起点として孔6の内壁面に沿って上方へ延びるように成長し、ゲート電極3aの上面にまで達する。なお、絶縁膜18の形成の際、ベーマイトの生成に用いられたアルミニウムの分だけカソード電極11bが削られるので、カソード電極11bの上面に凹部12が形成される。なお、本実施の形態において、ゲート電極3aはモリブデンよりなっているので、純水中に浸漬してもゲート電極3aに化学反応は起こらない。
【0056】
ここで、カソード電極11bがアルミニウムを含んでいる場合には、カソード電極11bの上面にもベーマイトからなる絶縁膜が形成されるおそれがある。カソード電極11bの上面に絶縁膜が形成されると、カーボンナノチューブ7とカソード電極11bとの電気的接続を確保し難くなる。そこで、カソード電極11b上にたとえばチタンシリサイドなどを形成しておくと、その部分には絶縁膜が形成されない。また触媒層5を形成した場合、その領域にはベーマイトが形成されない。したがって、カーボンナノチューブ7を形成する領域以外の領域のみに選択的に絶縁膜18の形成が可能である。
【0057】
その後、実施の形態1と同様の方法によって触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1aが完成する。
【0058】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、絶縁膜18は孔6aの内壁面にまで延びている。これにより、孔6の内壁面全体を覆うように絶縁膜18を形成することができる。
【0059】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、絶縁膜18はカソード電極11bを構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である。
【0060】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法において、絶縁膜18を形成する工程は、カソード電極11bを酸化する工程を含んでいる。
【0061】
これにより、カソード電極11bを酸化することで絶縁膜18を形成することができるので、絶縁膜18を容易に形成することができる。
【0062】
本実施の形態の電界電子放出装置1aにおいて、カソード電極11bはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜18はベーマイトを含んでいる。
【0063】
本実施の形態の電界電子放出装置1aの製造方法において、カソード電極11bはアルミニウムを含んでおり、絶縁膜18を形成する工程は、カソード電極11bに水溶液を塗布する工程を含んでいる。
【0064】
これにより、カソード電極11bに水溶液を塗布することによって絶縁膜18を形成できるので、絶縁膜18を容易に形成することができる。
【0065】
(実施の形態3)
図2を参照して、本実施の形態においては、絶縁膜8の形成方法および膜の微細構造が実施の形態1の場合と異なっている。本実施の形態では、温度75℃以上85℃以下の純水に基板10を5秒以上2分以下浸漬することで、ゲート電極3aを酸化する。つまり、実施の形態1の場合よりも基板10を浸漬する時間が短い。その結果、組織が緻密ではない花弁状のベーマイトよりなる絶縁膜8が形成される。
【0066】
図9は、本発明の実施の形態3において形成される絶縁膜の形状を模式的に示す斜視図である。図9を参照して、絶縁膜8は、平均粒径10nm以上100nm以下の微細な薄片状の粒子よりなっており、これらの粒子が折り重なっている。
【0067】
本実施の形態の電界電子放出装置によれば、絶縁膜8が緻密でない組織よりなっていることから、絶縁膜8とカーボンナノチューブ7との接触面積を極めて小さくすることができる。これにより、カーボンナノチューブ7から絶縁膜8へ電流が流れにくくなり、何らかの不良によりショートが起こっても絶縁膜8内に漏れ電流が生じにくくなる。また、たとえば550℃程度の高温で熱処理が行なわれて、カソード電極11bやゲート電極3aに熱膨張が生じても、絶縁膜8を構成する粒子同士の隙間でこれらの熱膨張を吸収することができる。したがって、熱処理の際にクラックなどの不良が生じにくくなる。以上により、電界電子放出装置の特性を向上することができる。
【0068】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における電界電子放出装置1bの構成を示す断面図である。図10に示すように、本実施の形態の電界電子放出装置1bにおいて、第2絶縁膜としての絶縁膜28がゲート電極3aに開口された孔6bの内壁面に沿って形成されている。絶縁膜28は孔6bの内壁面から下方に向かって孔6aの内壁面にまで延びており、カソード電極11bに達している。また、絶縁膜28はゲート電極3bよりも上方へ突出している。カーボンナノチューブ7は絶縁膜28で囲まれた領域内に形成されている。カソード電極11bおよびゲート電極3aは、共にアルミニウムと、1質量%のSiCuとよりなるアルミニウム合金よりなっている。
【0069】
なお、これ以外の電界電子放出装置1bの構成は、図1および図2に示す実施の形態1における電界電子放出装置1の構成とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
続いて、本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法について、図11および図12を用いて説明する。
【0071】
本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法は、まず図3に示す実施の形態1の製造工程と同様の製造工程を経る。次に、図11を参照して、ゲート電極3a上に所定形状のレジスト15を形成する。そして、レジスト15をマスクとしてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングすることにより、ゲート電極3aに孔6bを形成し、絶縁膜2に孔6aを形成する。
【0072】
次に、図12を参照して、レジスト15を残した状態で、カソード電極11b上に触媒層5を形成する。次に、基板10を純水に浸漬することで、カソード電極11bおよびゲート電極3aを酸化する。これによって、ベーマイトよりなる絶縁膜28がカソード電極11bを起点として孔6aの内壁面に沿って上方へ延びるように成長する。また、絶縁膜28は、ゲート電極3aを起点として孔6bの内壁面から上方に向かってレジスト15に開口された孔15aの内壁面にまで延びるように成長する。絶縁膜28の高さhは、絶縁膜28の形成条件にもよるが、約4μm程度である。
【0073】
次に、図10を参照して、レジスト15を除去する。これにより、ゲート電極3aから突出した円筒形状の絶縁膜28が形成される。その後、実施の形態1と同様の方法で触媒層5上にカーボンナノチューブ7を形成する。以上の工程により、本実施の形態の電界電子放出装置1bが完成する。
【0074】
本実施の形態の電界電子放出装置1bにおいて、絶縁膜28はゲート電極3aよりも上方へ突出している。
【0075】
本実施の形態の電界電子放出装置1bの製造方法において、孔6aおよび孔6bを形成する工程は、ゲート電極3a上にレジスト15を形成する工程と、レジスト15をマスクとしてゲート電極3aおよび絶縁膜2をエッチングする工程とを含んでおり、レジスト15が形成された状態で絶縁膜28を形成する。
【0076】
本実施の形態の電界電子放出装置1bおよびその製造方法によれば、ゲート電極3aよりも上方へ突出した絶縁膜28の部分によってカーボンナノチューブ7の先端が孔6の内側の方向に向けられるので、カーボンナノチューブ7の先端が孔6内から飛び出しにくくなる。これにより、カーボンナノチューブ7がゲート電極3aの上面に接触することを抑止することができる。
【0077】
本発明に用いられる電子放出源としてはカーボンナノチューブが好適であるが、カーボンナノチューブの他、たとえばカーボンナノワイヤ、シリコンワイヤ、チタンワイヤ、金ワイヤなどが電子放出源であってもよい。
【0078】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における電界電子放出装置の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における電界電子放出装置の製造工程を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3において形成される絶縁膜の顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置1bの構成を示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態4における電界電子放出装置の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1,1a,1b 電界電子放出装置、2,8,18,28 絶縁膜、3a,3b ゲート電極、5 触媒層、6,6a,6b,15a 孔、7,7a,7b カーボンナノチューブ、10 基板、11a〜11d カソード電極、12 凹部,15 レジスト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極と、
前記カソード電極上に形成され、第1の孔を有する第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成され、前記第1の孔に連通する第2の孔を有するゲート電極と、
前記第1の孔の底部に形成され、かつ前記カソード電極と電気的に接続された電子放出源と、
前記第2の孔の内壁面に沿って形成された第2絶縁膜とを備える、電界電子放出装置。
【請求項2】
前記第2絶縁膜は前記ゲート電極の上面にまで延びている、請求項1に記載の電界電子放出装置。
【請求項3】
前記第2絶縁膜は前記第1の孔の内壁面にまで延びている、請求項1または2に記載の電界電子放出装置。
【請求項4】
前記第2絶縁膜は平均粒径10nm以上100nm以下の粒子よりなる、請求項1〜3のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項5】
前記第2絶縁膜は前記ゲート電極よりも上方へ突出している、請求項1〜4のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項6】
前記第2絶縁膜は前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方を構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である、請求項1〜5のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項7】
前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方はアルミニウムを含み、前記第2絶縁膜はベーマイトを含む、請求項6に記載の電界電子放出装置。
【請求項8】
前記電子放出源は触媒層を挟んで前記カソード電極上に形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項9】
前記電子放出源はカーボンナノチューブである、請求項1〜8のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項10】
カソード電極を形成する工程と、
前記カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記第1絶縁膜に第1の孔を形成する工程と、
前記ゲート電極に第2の孔を形成する工程と、
前記第2の孔の内壁面に沿って第2絶縁膜を形成する工程と、
前記カソード電極と電気的に接続された電子放出源を前記第1の孔の底部に形成する工程とを備える、電界電子放出装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2絶縁膜を形成する工程は、前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方を酸化する工程を含む、請求項10に記載の電界電子放出装置の製造方法。
【請求項1】
カソード電極と、
前記カソード電極上に形成され、第1の孔を有する第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成され、前記第1の孔に連通する第2の孔を有するゲート電極と、
前記第1の孔の底部に形成され、かつ前記カソード電極と電気的に接続された電子放出源と、
前記第2の孔の内壁面に沿って形成された第2絶縁膜とを備える、電界電子放出装置。
【請求項2】
前記第2絶縁膜は前記ゲート電極の上面にまで延びている、請求項1に記載の電界電子放出装置。
【請求項3】
前記第2絶縁膜は前記第1の孔の内壁面にまで延びている、請求項1または2に記載の電界電子放出装置。
【請求項4】
前記第2絶縁膜は平均粒径10nm以上100nm以下の粒子よりなる、請求項1〜3のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項5】
前記第2絶縁膜は前記ゲート電極よりも上方へ突出している、請求項1〜4のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項6】
前記第2絶縁膜は前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方を構成する材料の酸化物あるいは含水酸化物である、請求項1〜5のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項7】
前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方はアルミニウムを含み、前記第2絶縁膜はベーマイトを含む、請求項6に記載の電界電子放出装置。
【請求項8】
前記電子放出源は触媒層を挟んで前記カソード電極上に形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項9】
前記電子放出源はカーボンナノチューブである、請求項1〜8のいずれかに記載の電界電子放出装置。
【請求項10】
カソード電極を形成する工程と、
前記カソード電極上に第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第1絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記第1絶縁膜に第1の孔を形成する工程と、
前記ゲート電極に第2の孔を形成する工程と、
前記第2の孔の内壁面に沿って第2絶縁膜を形成する工程と、
前記カソード電極と電気的に接続された電子放出源を前記第1の孔の底部に形成する工程とを備える、電界電子放出装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2絶縁膜を形成する工程は、前記カソード電極または前記ゲート電極のうち少なくともいずれか一方を酸化する工程を含む、請求項10に記載の電界電子放出装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−107932(P2006−107932A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293251(P2004−293251)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「地球温暖化防止新技術プログラム カーボンナノチューブFEDプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「地球温暖化防止新技術プログラム カーボンナノチューブFEDプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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