説明

電荷蓄積型メモリ

【課題】 メモリセルの微細化を図った電荷蓄積型メモリを提供する。
【解決手段】 第1の障壁層2と電荷蓄積層3と第2の障壁層4を酸化アルミニウムで構成し、且つ電荷蓄積層3を1〜9原子層の範囲内の厚みとし、且つ前記電荷蓄積層3にはアルミニウム原子を化学量論的に過剰に存在させ、メモリセルのサイズが10nm角のときその電荷蓄積層3にアルミニウム原子の局在準位を50個超えるように持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIS型半導体装置において、ゲート絶縁膜中に電子を蓄積することによりメモリ機能を持たせた電荷蓄積型メモリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている電荷蓄積型メモリの動作について説明する。この種のメモリとしては、浮遊ゲート電極に電子を蓄積するEEPROM(フラッシュメモリ)が良く知られている(例えば、非特許文献1参照)。この浮遊ゲート電極型フラッシュメモリは、例えば、図6に示すように、p型シリコン基板101上に、8nm厚のSiO2からなるトンネル障壁層102、100nm厚のn型ポリシリコンからなる浮遊ゲート103、15nm厚のSiO2からなるブロック障壁層104、およびゲート電極105を順次積層した構造である。ソースおよびドレインは省略した。ここでは、浮遊ゲート103に蓄えた電子がトンネル障壁層102を介して抜け出さないようにするために、そのトンネル障壁層102を8nm厚程度より薄くすることができず、そのため書き込み、消去の低電圧化や微細化に限界があった。
【0003】
この浮遊ゲート電極型フラッシュメモリの欠点を改善する次世代のメモリとして、窒化シリコン(Si34)を電荷蓄積層として用いるSONOS(Semiconductor-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor)メモリ(例えば、非特許文献1参照)が注目を集めている。このSONOSメモリは、電荷蓄積の方法として、空間的に局在したトラップ準位を用い
るために、トラップメモリとも呼ばれている。このトラップメモリは、例えば図7に示すように、p型シリコン基板111上に、4.5nm厚のSiO2からなるトンネル障壁層112、4.5nm厚のSi34からなるトラップ層(電荷蓄積層)113、10nm厚のSiO2からなるブロック障壁層114、およびn型ポリシリコンゲート電極115を順次積層した構造である。ソースおよびドレインは省略した。このトラップメモリのトラップ層(電荷蓄積層)113としては、Si34の他に酸化アルミニウム(Al23)を用いる構造についても、メモリとして極めて良好なデータ保持特性を持つという最近の研究報告がある(例えば、非特許文献2)。
【0004】
さて、浮遊ゲート電極型フラッシュメモリもトラップメモリ(SONOS)も、電荷蓄積層に電子を注入することによりトランジスタのしきい値電圧を変化させ、これにより電流が流れるか流れないかでメモリの”1”,”0”を判定するものである。
【0005】
図8は、トラップメモリにおいて、p型シリコン基板111に20Vを印加し、n型ポリシリコンゲート電極115を0Vに設定し、ソース116とドレイン117をオープンにして、トラップ層(電荷蓄積層)113からp型シリコン基板111へ電子を引き出すことにより、しきい値電圧を負(“1”)に設定する時の電子の運動の様子を示している。この動作をメモリの消去と呼んでいる。
【0006】
一方、図9は、p型シリコン基板111とソース116とドレイン117を0Vに設定し、n型ポリシリコンゲート電極115に20Vを印加して、p型シリコン基板111からトラップ層(電荷蓄積層)113に電子を注入することにより、しきい値電圧を正(“0”)に設定する時の電子の運動の様子を示している。この動作をメモリの書き込みと呼んでいる。
【0007】
図10は、電子を注入することにより設定した浮遊ゲート電極型フラッシュメモリ又はトラップメモリ(SONOS)のメモリセルのしきい値分布を示している。ワード線(ゲート電極)の電圧が0Vの時に“1”の状態であればメモリセルに電流が流れ、“0”の状態であれば、電流が流れない。電流が流れるか流れないかにより、“1”と“0”の状態を区別している。したがって、1個のメモリセルは1ビットのデータを記憶することができる。
【0008】
さて、図7に示したようなSi34のトラップ層(電荷蓄積層)を用いるトラップメモリの場合には、局在準位に電子を蓄積させている。通常のトラップメモリの場合に、最近接の局在準位の相互間距離は、5nm程度であることが知られている。この場合は10年程度のデータ保持特性が得られている。
【0009】
次に、発明者はECRスパッタにより作製した酸化アルミニウムをトラップ層(電荷蓄積層)とするメモリを作成したので、これについて詳しく説明する。ECRスパッタにより酸化アルミニウム層を堆積する場合、堆積時の酸素流量を4sccmから6.6sccmの範囲に設定すると、局在順位の極めて少ない良質な化学量論的組成(Al23)の層を形成でき、さらにその酸素流量を2sccm程度に低下すると化学量論的組成よりもAlが過剰の組成Al2+X3(X>0)となり、これを電荷蓄積層としたメモリが実現できた(特願2003−422127、特願2004−032849)。
【0010】
今回、作製したトラップメモリの全体構造を図11に示す。P型シリコン基板121の上面に、第1の障壁層122として5.5sccmの酸素流量によりAl23を4.5nm厚成長し、次に酸素流量を減らし2.5sccmの酸素流量によりAl過剰のトラップ層(電荷蓄積層)123を4.5nm厚成長し、次に第2の障壁層124として5.5sccmの酸素流量により、Al23を15nm厚成長した。ゲート電極125は、Alを蒸着する事により形成している。
【0011】
図12Aに、図11の構造のダイオードのC−V特性を示す。メモリセルの大きさは200μm角である。この場合、トラップ層(電荷蓄積層)123には、局在準位が数多く生成されて、C−V特性において、電荷蓄積効果によるヒステリシスが生じている。±5Vの最大バイアス電圧時のC−V曲線のヒステリシスのウィンドウ幅は、約1.6Vである。参考のために、図12Bに電荷蓄積層を通常のAl23とした膜のC−V特性を示す。ヒステリシスが生じないことがわかる。
【0012】
次に、図13にトラップ層(電荷蓄積層)123を生成する際の酸素流量が2.5sccmと4sccmおよび5.5sccmの場合について、印加電圧とヒステリシスのウィンドウ幅との関係を示す。2.5sccmでは2個のサンプルについて行った。明らかに、酸素流量が小さい2.5sccmのメモリの方が小さい印加電圧で、大きなヒステリシスのウィンドウ幅が得られることが分かった。
【0013】
次に、データ保持特性について示す。前記の図11のダイオードにおいて、ゲート電極125に印加する電圧を0Vとした時に、容量値の大きい状態をA、容量値の小さい状態をBとする(図12)。図14は、状態AのとBの容量値の時間変化を示したものである。状態Aは2時間経過後も殆ど値が変化しない。次に、状態をBとして容量値の変化を調べると、同様に2時間経過後も殆ど値が変化しない。この結果から、10年(3×108秒)後にも十分大きなマージンがとれることが予想される。
【0014】
この様に、第1の障壁層122に欠陥の少ない高品質Al23膜を用いた為、良好な電荷保持特性が得られた。また、電荷蓄積層123として、酸素流量を減らし、Al過剰としたAl2+X3膜を用いることにより、局在準位の数が増え、メモリとして極めて良好な動作をすることが明らかとなった。
【0015】
以上は、ECRスパッタ法を用いた作製方法について詳しく述べたが、本構造は、ECRスパッタ法で堆積した膜に限らず、障壁層の要求条件を満たす高品質のAl23膜と、電荷蓄積層を形成する為のAlを過剰としたAl2+X3膜(X>0)があれば良い。
【0016】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス、2005年1月17日号、98頁
【非特許文献2】T.Sugizaki et al.,"Novel Multi-bit SONOS Type Flash Memory Using a High-k Charge Trapping Layer",2003 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,Page 27-28.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、現在の最先端のメモリセルのサイズは90nm角であるが、今後、メモリセルのサイズが一層微細化されてメモリが大容量化され、トラップメモリにおいては、20nm角程度のメモリセルも実現されると考えられる。このとき、20nm角程度のメモリセルにおいて、少なくとも何個の局在準位を電荷蓄積層に配置すれば良いかという問題は、明確にされていなかった。
【0018】
本発明の目的は、20nm角程度かそれより小さいメモリセルにおいて電荷蓄積層に必要な局在準位の数を明らかにし、メモリセルの微細化を実現可能とした電荷蓄積型メモリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる発明の電荷蓄積型メモリは、半導体基板と、該半導体基板の上面に積層した第1の障壁層と、該第1の障壁層の上面に積層した電荷蓄積層と、該電荷蓄積層の上面に積層し前記第1の障壁層より厚い第2の障壁層と、該第2の障壁層の上面に積層したゲート電極とを有し、前記電荷蓄積層における電子の蓄積の有無によりしきい値電圧を変化させる電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1の障壁層と前記電荷蓄積層と前記第2の障壁層を同一組成の絶縁物で構成し、且つ前記電荷蓄積層を1〜9原子層の範囲内の厚みとし、且つ前記電荷蓄積層は、前記絶縁物を構成する元素の1つである金属原子又は半導体原子が化学量論的に過剰に存在し、メモリセルのサイズが10×knm(k≦2)角で、εrを前記絶縁物の比誘電率、d2を前記第2の障壁層の厚みとするとき、前記電荷蓄積層に、前記金属原子又は前記半導体原子の局在準位を、

を満足するn個程度を超えるよう持たせたことを特徴とする。
【0020】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1および第2の障壁層として酸化アルミニウムを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にAl原子を過剰に有する酸化アルミニウムを用いたことを特徴とする。
【0021】
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1および第2の障壁層として酸化ハフニウムを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子を過剰に有する酸化ハフニウムを用いたことを特徴とする。
【0022】
請求項4にかかる発明は、請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1および第2の障壁層としてHfAlOを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子又はAl原子を過剰に有するHfAlOを用いたことを特徴とする。
【0023】
請求項5にかかる発明は、請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1および第2の障壁層としてHfSiONを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子又はSiを過剰に有するHfSiONを用いたことを特徴とする。
【0024】
請求項6にかかる発明は、請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1および第2の障壁層として窒化シリコンを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にSi原子を過剰に有する窒化シリコンを用いたことを特徴とする。
【0025】
請求項7にかかる発明は、請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1の障壁層を酸化シリコンと前記第1の障壁層の積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記酸化シリコン、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする。
【0026】
請求項8にかかる発明は、請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第2の障壁層を前記第2の障壁層と酸化シリコンの積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記酸化シリコン、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする。
【0027】
請求項9にかかる発明は、請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記第1の障壁層を第1の酸化シリコンと前記第1の障壁層の積層構造に置きかえると共に、前記第2の障壁層を前記第2の障壁層と第2の酸化シリコンの積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記第1の酸化シリコン、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記第2の酸化シリコン、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする。
【0028】
請求項10にかかる発明は、請求項7、8又は9に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、前記酸化シリコンを、SiONに置き換えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、微細化を進めた20nm角程度かそれより小さいメモリセルにおいて、統計的揺らぎの影響を無くして、メモリ動作が可能な電荷蓄積型メモリが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の電荷蓄積型メモリでは、半導体基板上面の第1の障壁層とその上面の電荷蓄積層とその上面の第2の障壁層を、それぞれ同一組成の絶縁物、例えば酸化アルミニウム、酸化ハフニウムあるいは窒化シリコンで構成し、その内の特に電荷蓄積層の部分を、その絶縁物を構成する元素の1つである金属原子Al、Hf又は半導体原子Siを過剰に供給して化学量論的に過剰な金属原子Al、Hfあるいは半導体原子Siが存在する構造とすることにより、その金属原子Al、Hfあるいは半導体原子Siの局在準位を持たせ、この局在準位に電子が蓄積されるようにし、さらにその局在準位の数を統計的揺らぎを考慮して必要個数だけ内包させることにより、メモリセルの微細化を実現する。以下、詳しく説明する。
【実施例1】
【0031】
図1は本発明の実施例1の電荷蓄積型メモリの構造を示す図である。1はp型シリコン基板、2はp型シリコン基板1の電子走行領域上面に積層されたAl23からなる第1の障壁層、3は第1の障壁層2の上面に積層された化学量論的にAl過剰のAl2+X3(X>0)からなる電荷蓄積層、4は電荷蓄積層3の上面に積層されたAl23からなる第2の障壁層、5はポリシリコンからなるゲート電極である。電荷蓄積層3は1原子層程度の厚み(0.3nm厚)であり、その上面の第2の障壁層4は電子の流れをブロックする必要性から、第1の障壁層2の厚さ(7nm厚)よりも厚くなっているが、厚くしすぎると書き込み電圧や消去電圧が大きくなるという問題点が生じることから、20nm角程度より小さいメモリセルサイズにおいては、10nm厚程度が適当と考えられる。
【0032】
図2に図1の電荷蓄積型メモリのバンド構造を示す。電荷蓄積層3には局在準位間隔1.43nmで、平均値50個程度の局在準位を持つ(図3)。では、なぜ50個程度かという点について以下に説明する。
【0033】
7nm厚の第1の障壁層2、1原子層(0.3nm厚)の電荷蓄積層3、10nm厚の第2の障壁層4の構造を考えるとき、電荷蓄積層3に電子を注入した時と電荷蓄積層から電子を取り去った時におけるしきい値電圧変化量ΔVTは、一般に、次式で書き表される(参考:S.M.Sze,"Physics of Semiconductor Devices" 2nd Edition,Page 498,John Wiley & Sons,Inc, 1981)。

ここで、Qは単位面積あたりのメモリセルへの注入電荷量、d2は第2の障壁層4の厚み、ε2は第2の障壁層4の誘電率である。d2=10nm、ε2=10×8.9×10-14F/cmである。また、10nm角のメモリセルを考え、電子注入量を10個と仮定すると、Q=10×1.6×10-19C/(10nm)2となる。よって、ΔVT=1.8Vが得られる。このしきい値電圧変化量ΔVTは妥当な値であるから、必要な注入電子量は10個程度であることが判る。
【0034】
さて、通常のAl23の局在準位間隔は、そのAl23がFowler-Nordheim(F−N)トンネル特性を持つことから、Si34と同様に、5nm間隔以上と考えられる。いま、電荷蓄積層3として5nm間隔の局在準位を持つAl23を用いると、メモリセルのサイズが10nm角の場合では、その電荷蓄積層3には4個の局在準位しか存在しない(図15)。よって、上の議論からこのAl23の膜では電荷蓄積型メモリを実現できないことがわかる。
【0035】
次に、電荷蓄積層3として、化学量論的にいくらかAl過剰としたAl2+X3の膜(X>0)を用いて、局在準位間隔の距離を2nmとした膜を考える(図16)。この場合、電荷蓄積層3には、平均的に、

の局在準位が存在する。このとき、標準偏差σは、

の関係(文献:T.Mizuno,J.Okamura and A.Toriumi,"Experimental Study of Threshold Voltage Fluctuation Due to Statistical Variation of Channel Dopant Number in MOSFET,s",IEEE Tansactions on electron devices,vol.41,no.11,Nov.1994)から、σ=5となる。3σ=15となり、このときnの値は25±15=10〜40個の範囲内に99.73%の確率で収まるが、0.135%の確率で9個以下となりうる。この場合は、十分な電荷を蓄積することが出来ないという問題が生じる。
【0036】
そこで、本実施例1では、図3に示したように、局在準位間隔の距離が1.43nmの化学量論的にAl過剰のAl2+X3膜(X>0)の電荷蓄積層3を考える。このとき、電荷蓄積層3には、

の局在準位が存在する。標準偏差σは式(3)の関係より、σ≒7となる。この場合、5σ=35となり、このときのnの値は、50±35=15〜85個の範囲に99.99994%の確率で収まる。そして、3×10-5%の確率で15個以下となりうる。しかしながら、3×10-5%の確率は、非常に小さく殆ど無視してよい。このように、式(4)のように平均局在準位が存在すれば、統計的揺らぎを殆ど無視することができ、10個以上の局在準位を確実に持つことが可能なことがわかる。
【0037】
この3×10-5%という値は、(272,190)符号を用いた誤り訂正により、10-30より小さく訂正後のビット誤りを小さくできる。一方、0.135%という値では、10-15程度の訂正後のビット誤り率にとどまり、1Tbitのメモリが1000個あった場合(1015bit)に、誤りが1回起こることがあり、不十分であることがわかる(参考:江藤良純、金子敏信 監修、「誤り訂正符号とその応用」、オーム社、1996年、240頁)。
【0038】
このように、本発明は言い換えると、統計揺らぎの影響を無くす為に、平均局在準位の数を統計的考察から十分余裕を持って設計する必要性を示し、その具体的局在準位の数値を示すものである。
【0039】
以上では、電荷蓄積層3の厚みは、簡単の為に1原子層程度としてきたが、これに限定する必要は無く、M原子層(1≦M≦9)の厚みの電荷蓄積層としてもよい。M原子層とした場合には、1原子層あたりの局在準位を50/M個となるように設定すればよい。
【実施例2】
【0040】
図4Aは本発明の実施例2の電荷蓄積型メモリの構造を示す図である。局在準位を持つ化学量論的によりAl過剰のAl2+X3からなる電荷蓄積層3の厚みが1原子層程度あり、その電荷蓄積層3の両面には、Al23からなる7nm厚の第1の障壁層2、Al23からなる10nm厚の第2の障壁層4を配置している。そして、電荷蓄積層3には局在準位間距離1nmで100個程度以上の平均局在準位を持つ。この例では、実施例1の電荷蓄積型メモリの2倍の数の平均局在準位を持つので、高速な書き込み、消去が実現できると考えられる。
【0041】
ここで、10×knm(k≦2)角のメモリセルについて、揺らぎを考慮した局在準位の個数を何個以上とすべきかについて考察にする。必要な局在準位の最低個数は、10nm角メモリセルの議論から、10k2以上である。局在準位の設計値をn個とすると、5σの揺らぎがあった場合に、局在準位の数nは

程度である。したがって、nは

の関係式を満たす必要があることがわかる。
【0042】
20nm角のメモリセルにおいては、k=2として式(5)を解くと、n=87が得られる。同様に、10nm角、5nm角のメモリセルにおいては、それぞれn=43、n=30が得られる。これらの値のように局在準位の個数を設計するならば、統計的に5σの揺らぎがあった場合でも、しきい値電圧変動量ΔVT=1.8Vを十分に確保することができる。図4Bは20nm角のメモリセルにおいて、n=100とした変形例、図4Cは5nm厚角のメモリセルにおいて、n=36とした変形例である。
【0043】
以上説明した実施例1、2では、電荷蓄積層3と第1および第2の障壁層2、4を同一組成の材料で構成するので、製造時に電荷蓄積層3と第1および第2の障壁層2、4を別の材料に切り替える必要がなくなり、きめ細かい薄膜の制御を行うことができ、かつ製造コストの低減を行うことが可能となる。
【0044】
以上では、材料として酸化アルミニウムを用いた例について説明したが、窒化シリコン(Si34)などの絶縁物を用いても良い事は言うまでも無い。比誘電率εr=10の酸化アルミニウムにおいて10k2の局在準位が必要なことから、一般に、比誘電率εrの絶縁物を用いた場合には、式(1)より、εr×k2の局在準位が必要なことがわかる。よって、式(5)は、

に一般化できることがわかる。なお、局在準位の数が大きくなり、局在準位に局在している電子同士の波動関数が重なり合って、エネルギーバンドが形成されても良い(参考:西沢潤一編、御子柴宜宣夫著、「半導体の物理」、308−312頁、培風館、1991年発行)。
【0045】
以上では、第2の障壁層4の厚みとして、10nmとして議論をしてきたが、これに限定はされない。第1の障壁層2の厚みよりも常に第2の障壁層4を厚くするという条件を保てばよい。第2の障壁層4の厚みはd2であるから、式(1)より、d2とQはΔVT一定の条件では反比例の関係にあるから、必要な局在準位の数は、10εr2/d2と表される。よって、式(6)はさらに、

と一般化できることがわかる。ここで、d2の単位は[nm]である。d2=12nmの場合では、10εr2/d2=10/12・εr2となる。
【0046】
本発明では、例えば、実施例2では電荷蓄積層3に100個の電子があるので、高電圧(例えば30V)を印加して、C−V測定を行うと、ヒステリシスのウィンドウ幅が1.8×10=18Vとなることが予想される。このように、ヒステリシスのウィンドウ幅の大きさから局在準位の数nを評価できるので、当該の電荷蓄積型メモリが本発明を用いているか否かを検証可能である。
【実施例3】
【0047】
本発明の実施例3として、第1の障壁層2の一部の積層部あるいは第2の障壁層4の一部の積層部を酸化シリコン(SiO2)からなる障壁層に置き換えてもよい。しきい値電圧の書き込み時と消去時の変化分は、例えば、第2の障壁層4が、Al23の障壁層とSiO2の障壁層の2層構造になった場合のしきい値電圧変化量ΔVTは、キャパシタの直列接続の関係式より、次式で書ける。

ここで、ε2はAl23の障壁層の誘電率、ε3はSiO2の障壁層の誘電率、d2はAl23障壁層の厚み、d3はSiO2の障壁層の厚みである。d2+d3=10nmという条件を保つとすると、SiO2の障壁層のε3の比誘電率は4であるから、しきい値電圧変化量ΔVTの値は、SiO2を用いた場合に必ず大きくなるので、本発明の議論はそのまま用いることができる。なお、第1の障壁層2を複層としても式(1)よりしきい値電圧変化量ΔVTの値は全く変化しないことがわかる。
【0048】
以上のことより、実施例3の具体的な電荷蓄積型メモリの構造を示す。まず、図5Aは、図1のAl23からなる7nm厚の第1の障壁層2をAl23からなる5nm厚の障壁層2AとSiO2からなる2nm厚の障壁層2Bに置き換え、SiO2からなる障壁層2Bをp型シリコン基板1の電子走行領域の上面に積層した構造である。また、図5Bは、図1のAl23からなる10nm厚の第2の障壁層4をAl23からなる4nm厚の障壁層4AとSiO2からなる6nm厚の障壁層4Bに置き換え、SiO2からなる障壁層4Bをゲート電極5の下面に積層した構造である。さらに、図5Cは図5Aの構造と図5Bの構造を組み合わせた構造である。
【実施例4】
【0049】
なお、第1および第2の障壁層2,4として酸化ハフニウムを用いることができ、この場合は電荷蓄積層3として化学量論的にHf原子を過剰に有する酸化ハフニウムを用いる。また、第1および第2の障壁層2,4としてHfAlOを用いることもでき、この場合は電荷蓄積層3として化学量論的にHf原子又はAl原子を過剰に有するHfAlOを用いる。また、第1および第2の障壁層2,4としてHfSiONを用いることもでき、この場合は電荷蓄積層3として化学量論的にHf原子又はSi原子を過剰に有するHfSiONを用いることができる。また、第1の障壁層2の一部の積層部あるいは第2の障壁層4の一部の積層部としては、酸化シリコンの他にSiONを使用することもできる。さらに、上記実施例では基板1をSi基板として説明したが、これに限定される必要はなく、Ge基板、SiGe混晶基板、その他の基板でもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1の電荷蓄積型メモリの構造を示す断面図である。
【図2】実施例1の電荷蓄積型メモリのバンド構造の説明図である。
【図3】実施例1の電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【図4A】実施例2の電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【図4B】実施例2の変形例の電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【図4C】実施例2の別の変形例の電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【図5A】実施例3の電荷蓄積型メモリの構造を示す断面図である。
【図5B】実施例3の変形例の電荷蓄積型メモリの構造を示す断面図である。
【図5C】実施例3の別の変形例の電荷蓄積型メモリの構造を示す断面図である。
【図6】従来のEEPROMの構造を示す断面図である。
【図7】従来のトラップメモリの構造を示す断面図である。
【図8】図7のトラップメモリの消去の説明図である。
【図9】図7のトラップメモリの書込みの説明図である。
【図10】2値のメモリセルのしきい値の電圧分布特性図である。
【図11】ERCスパッタ装置により製造したトラップメモリの構造を示す断面図である。
【図12A】図11の構造のダイオードのC−V特性図である。
【図12B】電荷蓄積層を通常のAl23としたダイオードのC−V特性図である。
【図13】図11の構造のダイオードの印加電圧−ヒステリシスのウインドウ幅の特性図である。
【図14】図11の構造のダイオードの容量値の時間変化特性図である。
【図15】メモリサイズが10nm角で局在準位間隔が5nmの電荷蓄積層をもつ電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【図16】メモリサイズが10nm角で局在準位間隔が2nmの電荷蓄積層をもつ電荷蓄積型メモリのモデルの説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1:p型シリコン基板
2:第1の障壁層、2A:Al23の障壁層、2B:SiO2の障壁層
3:電荷蓄積層
4:第2の障壁層、4A:Al23の障壁層、4B:SiO2の障壁層
5:ゲート電極
101:p型シリコン基板
102:トンネル障壁層
103:浮遊ゲート
104:ブロック障壁層
105:ゲート電極
111:p型シリコン基板
112:トンネル障壁層
113:トラップ層(電荷蓄積層)
114:ブロック障壁層
115:ゲート電極
121:p型シリコン基板
122:第1の障壁層
123:電荷蓄積層
124:第2の障壁層
125:ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、該半導体基板の上面に積層した第1の障壁層と、該第1の障壁層の上面に積層した電荷蓄積層と、該電荷蓄積層の上面に積層し前記第1の障壁層より厚い第2の障壁層と、該第2の障壁層の上面に積層したゲート電極とを有し、前記電荷蓄積層における電子の蓄積の有無によりしきい値電圧を変化させる電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1の障壁層と前記電荷蓄積層と前記第2の障壁層を同一組成の絶縁物で構成し、且つ前記電荷蓄積層を1〜9原子層の範囲内の厚みとし、且つ前記電荷蓄積層は前記絶縁物を構成する元素の1つである金属原子又は半導体原子が化学量論的に過剰に存在し、
メモリセルのサイズが10×knm(k≦2)角で、εrを前記絶縁物の比誘電率、d2を前記第2の障壁層の厚みとするとき、前記電荷蓄積層に、前記金属原子又は前記半導体原子の局在準位を、

を満足するn個程度を超えるよう持たせたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項2】
請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1および第2の障壁層として酸化アルミニウムを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にAl原子を過剰に有する酸化アルミニウムを用いたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項3】
請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1および第2の障壁層として酸化ハフニウムを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子を過剰に有する酸化ハフニウムを用いたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項4】
請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1および第2の障壁層としてHfAlOを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子又はAl原子を過剰に有するHfAlOを用いたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項5】
請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1および第2の障壁層としてHfSiONを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にHf原子又はSiを過剰に有するHfSiONを用いたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項6】
請求項1に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1および第2の障壁層として窒化シリコンを用い、前記電荷蓄積層として化学量論的にSi原子を過剰に有する窒化シリコンを用いたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1の障壁層を酸化シリコンと前記第1の障壁層の積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記酸化シリコン、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第2の障壁層を前記第2の障壁層と酸化シリコンの積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記酸化シリコン、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、又は6に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記第1の障壁層を第1の酸化シリコンと前記第1の障壁層の積層構造に置きかえると共に、前記第2の障壁層を前記第2の障壁層と第2の酸化シリコンの積層構造に置きかえ、メモリセル構造を電子走行領域、前記第1の酸化シリコン、前記第1の障壁層、前記電荷蓄積層、前記第2の障壁層、前記第2の酸化シリコン、前記ゲート電極を順次積層した構造としたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。
【請求項10】
請求項7、8又は9に記載の電荷蓄積型メモリにおいて、
前記酸化シリコンを、SiONに置き換えたことを特徴とする電荷蓄積型メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−324351(P2006−324351A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144505(P2005−144505)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】