説明

電解銅箔、プリント配線板および多層プリント配線板

【課題】高電流を流すことが必要とされるプリント配線板、例えば自動車用途のプリント配線板や、LED搭載配線板に適した35μm以上の厚い銅箔を提供する。
【解決手段】素地山を有する粗面と光沢面をもつ電解銅箔であり、素地山高さがRzで2.5μm以上である電解銅箔の粗面素地山上に粗化処理を施さないことを特徴とする電解銅箔である。
上記電解銅箔の少なくとも粗面素地山面に化学処理又は/及び電気化学処理を施して樹脂基板との密着性を高める。
上記化学処理又は/及び電気化学処理は金属被膜、金属酸化物被膜、有機化合物被膜、無機化合物被膜を施す処理である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解銅箔とそれを用いたプリント配線板、多層プリント配線板に関し、更に詳しくは、放熱性や大電流通電が要求されるプリント配線板、多層プリント配線板の導体回路形成に適した電解銅箔及びそれを用いたプリント配線板、多層プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、次のようにして製造されている。
まず、ガラスエポキシ樹脂やポリイミド樹脂などから成る電気絶縁性の基板の表面に、導体回路形成用の銅箔を置いたのち、加熱・加圧して銅張積層板を製造する。
ついで、その銅張積層板に、スルーホールの穿設、スルーホールめっきを順次行ったのち、該銅張り積層板表面の銅箔にエッチング処理を行い、所望する線幅と所望する線間ピッチを備えた導体回路を形成し、最後に、ソルダーレジストの形成やその他の仕上げ処理が行われる。
【0003】
このときに用いる銅箔は、樹脂基板に熱圧着される側の表面が粗化面とされており、この粗化面で該樹脂基板に対するアンカー効果を発揮させ、もって該樹脂基板と銅箔との接着強度を高めてプリント配線板としての信頼性を確保している。
【0004】
通常販売されている銅箔は、9μm位から400μm位の厚さのものがある。
最近のノートパソコン、携帯電話に代表される小型電子機器には、薄い銅箔が使用されているケースが多い。こうした電子機器は、近年さらなる小型化、薄型化がすすんでおり、そこに使用さている電解銅箔は、厚み9μm、12μm、18μmといった比較的薄い銅箔である。
【0005】
これに対し、自動車用途のプリント配線板や、LEDが搭載されたパワー素子用途のプリント配線板では、大電流を通電する必要や、高効率熱伝導(放熱)の必要性から、35μm〜400μm程度の厚い銅箔が使用されている。
これは、仮にプリント配線板の導体回路の幅が1mmであるとしたとき、18μ以下の薄い銅箔では大電流が流せず、放熱性も悪いことから、厚銅箔が必要とされるためである。
【0006】
このような厚さの厚銅箔としては、電解銅箔及び圧延銅箔が使用されている。
しかし、電解銅箔と圧延銅箔では、使用される厚さの範囲がやや異なる。電解銅箔の場合は35μm〜210μm位までであり、圧延銅箔の場合は200μmから400μmのものが使用される頻度が多い。
【0007】
電解銅箔は、めっき技術を基本にして製造を行う。これは、図1に示すような回転するチタン製のドラム2の下に、白金族の酸化物を被覆したチタン製電極1を配置し、チタン製の回転ドラム2を陰極(カソード)とし、白金族の酸化物を被覆したチタン製電極1を陽極(アノード)とし、カソードとアノードの間に硫酸銅水溶液の電解液3を流し、さらに、カソード−アノード間に電流を流す。
そうすると、回転するチタン製のドラムの表面に銅がめっきされる。このめっきされた銅を連続して引き剥がし、巻き取ると電解銅箔の未処理銅箔4になる。
【0008】
未処理銅箔4の電解液3と接していた面を粗面と呼び、回転ドラム2に接していた面を光沢面と呼ぶ。粗面は凹凸のある面をしており、通常その凹凸のことを素地山と呼んでいる。
【0009】
圧延銅箔の場合は、当初ケークと呼ばれる直方体の銅の鋳塊を製造する。この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を行い徐々に薄肉化して圧延銅箔を製造する。
【0010】
電解銅箔は35μm〜210μm位のものが使用される頻度が多く、圧延銅箔は200μmから400μmのものが使用される頻度が多い理由は、上記の製造方法に由来している。
圧延銅箔は、厚いほど圧延の回数が少なく、製造コストの点で有利になるが、電解法で厚銅箔を製造する場合には、長時間の電解を行うことが必要で製造コストが高くなるからである。
【0011】
ところで、プリント配線板に必要とされる重要な特性の1つに、樹脂基板と銅箔との接着力が高いことがある。これは、導体された後、樹脂基板から導体回路が剥離しないようにするためである。
【0012】
そのためには、図2に示すように電解液5、6を充填した電解槽に未処理銅箔4を通し、銅箔の片面又は両面に、銅の微細粒子を電気めっきによって析出・付着させて当該銅箔の表面に粒子付着面を形成する処理、いわゆる粗化処理を施すことが一般に行われている(非特許文献1を参照)。なお、図中7は表面処理装置のアノード、8は粗化処理後の銅箔である。通常このあと各種めっき処理、クロメート処理、シランカップリング剤処理等が施される。この銅箔のことを表面処理銅箔と言い、銅張積層板、プリント配線板に使われているのはこの形態の銅箔である。
【0013】
このような粗化処理が施されている銅箔は、樹脂基板と重ね合わせて加熱、加圧して積層したときに、微細粒子が樹脂基板に喰い込んだ状態になるので、アンカー効果により銅箔と樹脂基板の接着力は大きくなる。この粗化処理は電解銅箔、圧延銅箔のいずれの場合にも施されている。
【0014】
【非特許文献1】プリント回路技術便覧第2版 社団法人 プリント回路学会編 1987年初版1刷発行 p314〜330
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記した粗化処理において、銅箔表面に付着している微細粒子が大きくなると、一般に、アンカー効果が大きくなり、銅箔と樹脂基板間の接着強度(引き剥がし強さ)(以後引き剥がし強さと記す。)も大きくなる。
しかし一方では、微細粒子は樹脂基板の樹脂に埋め込まれ、導体回路をエッチングする場合には、特に樹脂に埋め込まれた微細粒子はエッチングされにくい傾向がある。この現象を通常「根残り」と呼んでいる。
【0016】
「根残り」という現象は、9μm〜18μmの比較的薄い銅箔を使い、例えばピッチがライン/スペース=30μm/30μmや20μm/20μmといったファインパターンを形成する際に、エッチングした時にパターン間に銅残として残り、パターン間の短絡に結びつくことが知られている。
【0017】
これは厚い銅箔を用いる場合も同様である。35μm以上の厚い銅箔を用いて、例えばライン/スペース=1mm/1mmといった導体回路を形成する際に、「根残り」をなくすためにはエッチング時間を長くしなければならない。そうすると、導体回路の側壁の部分がエッチングされて導体回路幅が細ってしまう。
【0018】
通常これをエッチングファクター(EF)という指標で表す。エッチングファクターとは、以下の式で表される。
EF=2H/(B−T)
H:導体回路の銅箔厚さ
B:導体回路のボトム幅
T:導体回路のトップ幅
この数値が小さいほど、導体回路の側壁の部分がエッチングされて導体回路幅が細ってしまうことを示す。すなわち、エッチングファクターが小さくなることは、導体回路のボトム幅に比較してトップ幅がより細くなることを示す。
【0019】
仮に導体回路のボトムのライン/スペースが1mm/1mmになるようにエッチングしても、導体回路の側壁部分がエッチングされ、トップのライン幅が1mmより大幅に小さくなる場合には、エッチングファクターは小さくなる。
同様にボトムのライン/スペースが1mm/1mmになるようにエッチングを行い、導体回路の側壁部分がそれほどエッチングされない場合には、トップのライン幅は1mmに近くなり、エッチングファクターは大きくなる。
【0020】
エッチングファクターが小さい場合には、導体回路の断面積が小さくなるので、大電流を流すと導体回路の温度上昇が大きくなってしまう。
これに対してエッチングファクターが大きい場合には、導体回路の断面積が大きくなり、大電流を流しても導体回路の温度上昇が抑制できる。
【0021】
仮に、35μmの銅箔を用い、ボトムのライン/スペースが1mm/1mmになるようにエッチングを行った導体回路において、導体回路の温度上昇を60℃に納めようとした場合、エッチングファクターが小さい場合に比較して、エッチングファクターが大きい場合の方が大電流を流すことが可能である。
【0022】
すなわち、35μm以上の厚さの銅箔を使用し、大電流を流すプリント配線板においても、エッチングファクターが大きいことは、銅箔に要求される特性として非常に重要な特性である。
【0023】
本発明は、特に35μm以上の厚さの銅箔で大きなエッチングファクターと、大きな引き剥がし強さの確保を両立させた新規な銅箔の提供を目的とする。
【0024】
また、本発明は、上記銅箔を用いることにより、大電流通電が可能で、また放熱性も良好なプリント配線板、及び該プリント配線板を複数枚積層した多層プリント配線板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電解銅箔は、高さがRzで2.5μm以上である素地山を有する粗面と光沢面をもつ電解銅箔であり、少なくとも前記素地山を有する粗面に化学処理又は/及び電気化学処理が施されていることを特徴とする。
【0026】
本発明に係るプリント配線板は、前記電解銅箔の前記素地山を有する粗面を絶縁基板に積層して銅張積層板とし、該銅張積層板の前記銅箔に導体回路を形成してなることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る多層プリント配線板は、前記電解銅箔の粗面を絶縁基板に積層して銅張積層板とし、該銅張積層板の前記銅箔に導体回路を形成してなるプリント配線板を複数枚積層してなることを特徴とする。
なお、RzとはJISB0601−1994に示す十点平均粗さである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、特に35μm以上の厚さの銅箔で大きなエッチングファクターと、大きな引き剥がし強さの確保を両立させた電解銅箔を提供することができる。
【0029】
また、本発明は、上記銅箔を用いることにより、大電流通電が可能で、また放熱性も良好なプリント配線板、及び該プリント配線板を複数枚積層した多層プリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の電解銅箔は、電解銅箔表面に粗化処理を施していない、すなわち、粗化粒子が施されていないことを特徴としている。
従来の銅箔表面に粗化粒子が付着している銅箔をエッチングして導体回路を作成する場合、粗化粒子は「根残り」の原因になる。「根残り」を防ぐため粗化粒子を完全に溶解しようとすると、導体回路の側壁部分が溶解し、導体回路のボトム幅に比べ、トップ幅が大幅に細ってしまう。すなわち、エッチングファクターは小さくなり、この導体回路に電流を流した場合、温度上昇をある温度以下に抑えようとすると低い電流しか流すことができない。
【0031】
これに対して本発明の電解銅箔は、電解銅箔の表面に粗化粒子が施されていないため、エッチング時に「根残り」が発生せず、導体回路のボトム幅に比べ、トップ幅が大幅に細ってしまうようなことがない。すなわち、エッチングファクターは大きく、導体回路の断面積が大きいため上記の粗化粒子が付着している銅箔に比べ、高い電流を流しても、温度上昇をある温度以下に抑えることが可能である。
【0032】
しかし、一方で銅箔表面に粗化粒子が付着していないことは、樹脂基板と接着した場合、引き剥がし強さが弱いという問題点が出てくる。
【0033】
引き剥がし強さについては、樹脂基板との接着面である銅箔粗面側の素地山のピーク高さが重要な因子となる。
本発明は素地山の高さと樹脂基板に対する引き剥がし強度との関係を追求し、素地山の高さがRzで2.5μm以上になると引き剥がし強さ(ピール)がでるようになること、すなわち、素地山が2.5μm以上になると樹脂基板に対するいわゆる「アンカー効果」が寄与するようになること、さらに、素地山面に化学処理又は/及び電気化学処理を施すことで、樹脂基板との化学結合を高め、さらにピールがでることを突き止め、本発明を完成したのである。
【0034】
大電流を流す基板には通常エポキシ系の樹脂基板が使われている場合が多い。エポキシ系の樹脂基板との密着性を高めるために素地山面に化学処理又は/及び電気化学処理を施して形成する皮膜として金属被膜、金属酸化物被膜、有機化合物被膜、無機化合物被膜が効果的である。
【0035】
前記金属被膜としては、亜鉛、亜鉛合金めっき、コバルト、コバルト合金めっき、ニッケル、ニッケル合金めっき及びこの組み合わせが効果的である。
前記金属酸化物皮膜としては、銅酸化物皮膜が効果的である。
前記無機化合物被膜としては、クロメート処理皮膜が効果的である。
有機化合物被膜処理としては、カップリング剤処理による皮膜が効果的である。
【0036】
金属被膜としての亜鉛、亜鉛合金めっき、コバルト、コバルト合金めっき、ニッケル、ニッケル合金めっきの場合、表面付着量は、亜鉛量、コバルト量、ニッケル量にして0.05〜50mg/dmが効果的である。
これは、0.05mg/dm を下回ると銅箔の耐蝕性、樹脂基板との密着性、耐熱性を向上する効果がなくなるからである。また、50mg/dm を越えても耐蝕性、樹脂基板との密着性、耐熱性等に対する効果は一定になってしまい、それ以上の効果が期待できないためである。
【0037】
無機化合物被膜としてのクロメート付着量はクロム量にして0.01〜1.0mg/dmが効果的である。クロム量にして0.01mg/dmを下回ると樹脂基板との引き剥がし強さを向上する効果がなく、1.0mg/dmを越えて付着させることは、クロム金属なら可能であるが、クロメート被膜(クロム水和酸化物)の状態で付着させることは困難である。
なお、亜鉛、亜鉛合金めっき、コバルト、コバルト合金めっき、ニッケル、ニッケル合金めっきにクロメート処理を組み合わせることはさらに効果的である。これは、銅箔上に直接クロメート処理する場合に比べ、置換反応が起こるためか、クロメート処理の付着量を多くすることができ、樹脂基板との引き剥がし強さが大きくなるためである。
【0038】
有機化合物被膜処理としてはシランカップリング剤、チタネート系,ジルコネート系などのカップリング剤による処理を上げることができる。
シランカップリング剤としては、ビニル系シラン、エポキシ系シラン、スチリル系シラン、メタクリロキシ系シラン、アクリロキシ系シラン、アミノ系シラン、ウレイド系シラン、クロロプロピル系シラン、メルカプト系シラン、スルフィド系シラン、イソシアネート系シランなどをあげることができる。これらのシランカップリング剤は通常0.001〜5%の水溶液にし、これを銅箔の表面に塗布したのちそのまま加熱乾燥して皮膜とすることができる。
【0039】
また、シランカップリング剤の付着量も樹脂基板の密着性に影響する。Si量で表すと、0.001〜0.06mg/dm位が効果的である。0.001mg/dmを下回ると効果が出ず、0.06mg/dmを上回る量を付着させることは、通常の溶液を塗布するやりかたでは困難なためである。
なお、これらのカップリング処理は前記亜鉛、亜鉛合金めっき、コバルト、コバルト合金めっき、ニッケル、ニッケル合金めっき、クロメート処理等と併用するとさらに効果的である。
【0040】
本発明による銅箔を使用したプリント配線板は、絶縁基板と導体回路との接着力が大きく、かつ「根残り」がなく、エッチングファクターが大きく、導体回路は大電流通電が可能で、かつ放熱性も優れているので、例えば自動車用途のプリント配線板や、LED搭載配線板として有効である。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
<実施例1>
図1に示す回転するドラム状のカソード(チタン製)2と、陰極に対して同心円状のアノード(DSA製)1を配置した装置に下記電解液組成1の電解液3を通し、両極間に電流を流して箔厚35μmの未処理銅箔4を製造した。この未処理銅箔の粗面の素地山高さを測定したところRz=5.5μmであった。
【0042】
電解液組成1および製箔条件:
電解浴: Cu 70〜130g/l
SO 80〜140g/l
低分子量膠(分子量=3,000) 0.5〜15ppm
塩化物イオン 5〜50ppm
電流密度: 10〜100A/dm2
浴温: 40〜60℃
この後、未処理銅箔の粗面素地山上に、通常密着性向上のために行う図2に示す粗化処理は実施せず、亜鉛めっき処理で Zn=0.5mg/dmの皮膜で被覆し、さらにクロメート処理で Cr=0.06mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランでシランカップリング処理を施し Si=0.002mg/dmの皮膜で被覆した。
【0043】
<実施例2>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理箔を製造した。この後、未処理銅箔上に、亜鉛めっき処理で Zn=0.5mg/dmの皮膜で被覆し、さらにクロメート処理で Cr=0.9mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランでシランカップリング処理を施し Si=0.05mg/dmの皮膜で被覆した。
【0044】
<実施例3>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理箔を製造した。この後、未処理銅箔上にCu/Zn=7/3の銅−亜鉛合金めっきで3.0mg/dmの皮膜を施し、クロメート処理で Cr=0.9mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランによるカップリング処理により Si=0.05mg/dmの皮膜で被覆した。
【0045】
<実施例4>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理箔を製造した。この後、未処理銅箔上にCo/Mo=5/3のコバルト−モリブデン合金めっきを施し、クロメート処理で Cr=0.9mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランによるカップリング処理で Si=0.05mg/dmの皮膜で被覆した。
【0046】
<実施例5>
図1に示す回転するドラム状のカソード(チタン製)2と、陰極に対して同心円状のアノード(DSA製)1を配置した装置に下記電解液組成2の電解液3を通し、両極間に電流を流して箔厚35μmの未処理銅箔4を製造した。この未処理銅箔の粗面の素地山高さを測定したところRz=2.6μmであった。
【0047】
電解液組成2および製箔条件:
電解浴: Cu 70〜130g/l
SO 80〜140g/l
チオ尿素 0.05〜2ppm
低分子量膠(分子量=3,000) 0.03〜4ppm
アラビアゴム 0.08〜12ppm
塩化物イオン 5〜50ppm
電流密度: 10〜100A/dm2
浴温: 40〜60℃
この後、未処理銅箔の粗面素地山上に、通常密着性向上のために行う図2に示す粗化処理は実施せず、亜鉛めっきで Zn=0.5mg/dmの皮膜で被覆し、さらにクロメート処理で Cr=0.6mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランでシランカップリング処理を施し Si=0.03mg/dmの皮膜で被覆した。
【0048】
<比較例1>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理銅箔を製造した。この後、該未処理銅箔の粗面素地山上に、下記の条件により図2に示す粗化処理を施し、微細な突起群からなる銅の焼けめっき層を電析させた。
さらに銅の焼けめっき層上に下記条件により平滑めっきを施し、微細な突起群を銅の薄層で覆った。
これらの処理により、未処理銅箔上に微細な銅の瘤が形成された。得られた銅箔の表面粗さを測定したところRz=8.6μmであった。
こののち、亜鉛めっきで Zn=0.5mg/dmの皮膜で被覆し、さらにクロメート処理で Cr=0.6mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランでシランカップリング処理を施し Si=0.002mg/dmの皮膜で被覆した。
【0049】
焼けめっき処理条件:
電解浴: Cu 20〜35g/l
SO 110〜160g/L
As 100〜400ppm
浴温: 20〜40℃
電流密度: 10〜50A/dm2
処理時間:2〜15秒
【0050】
平滑めっき処理条件:
電解浴: Cu 50〜80g/l
SO 90〜130g/L
浴温: 40〜60℃
電流密度: 10〜30A/dm2
処理時間:2〜15秒
【0051】
<比較例2>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理銅箔を製造した。この後、該未処理銅箔の粗面上に、比較例1と同様にして未処理銅箔上に微細な銅の瘤を形成させた。
こののち、未処理銅箔上にCu/Zn=7/3の銅−亜鉛合金めっきで3.0mg/dmの皮膜を施し、クロメート処理で Cr=0.06mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシランで Si=0.002mg/dmの皮膜で被覆した。
【0052】
<比較例3>
実施例1と同様にして、箔厚35μmの未処理銅箔を製造した。この後、該未処理銅箔の粗面上に、比較例1と同様にして未処理銅箔上に微細な銅の瘤を形成させた。
この後、未処理銅箔上にCo/Mo=5/3のコバルト−モリブデン合金めっきを施し、クロメート処理で Cr=0.06mg/dmの皮膜で被覆した後、エポキシシラン Si=0.002mg/dmの皮膜で被覆した。
【0053】
<比較例4>
図1に示す回転するドラム状のカソード(チタン製)2と、陰極に対して同心円状のアノード(DSA製)1を配置した装置に下記電解液組成2の電解液3を通し、両極間に電流を流して箔厚35μmの未処理銅箔4を製造した。この未処理銅箔の素地山を有する粗面の高さを測定したところRz=2.1μmであった。
【0054】
電解液組成3および製箔条件:
電解浴: Cu 70〜130g/l
SO 80〜140g/l
HS(CHSONa 0.5〜10ppm
低分子量膠(分子量=3,000) 0.5〜10ppm
塩化物イオン 10〜60ppm
電流密度: 10〜100A/dm2
浴温: 40〜60℃
この後、未処理銅箔の粗面素地山上に、通常密着性向上のために行う図2に示す粗化処理は実施せず、亜鉛めっき皮膜 Zn=0.5mg/dm、クロメート処理皮膜 Cr=0.3mg/dmを被覆した後、エポキシシラン皮膜 Si=0.01mg/dmを被覆した。
【0055】
実施例1〜5、比較例1〜4で作成した35μm電解銅箔をガラスエポキシ基板(FR−4)に積層し、ライン/スペース=1mm/1mmの回路をエッチングにより形成した。いずれの場合もスペースに銅残がない状態までエッチングを行った。
この時のボトム幅とトップ幅を測定し、エッチングファクターを算出した結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜4に示すように本発明による銅箔は、樹脂基板と十分な密着強度を持ち、なおかつ比較例1〜3とは異なり、銅箔表面に微細な銅粒子が付着していないため、導体回路をエッチングした時、側壁の部分がエッチングされる時間が短く、エッチングファクターが大きくなっている。
これに反し、比較例1〜3の従来銅箔を使用した場合、銅箔表面に微細な銅粒子が付着しているので、アンカー効果により樹脂基板との密着強度は強いが、一方でエッチングしたとき樹脂に埋め込まれた微細な銅粒子の溶解に時間がかかり、エッチング時間が長くなってしまうため、回路の側壁の部分がエッチングされ、エッチングファクターが小さくなってしまっている。
また、実施例5と比較例4とで比較して示すように、未処理銅箔の粗面の素地山高さがRzで2.5μm以上ないと、樹脂基板との密着強度が低下してしまい、通常、実用的な密着強度は1kN/m以上と言われている実用的な密着強度を得ることができない。
【0058】
表1から明らかなように、実施例に示す電解銅箔は、粗化処理を施していないため、エッチング時に根残りがなく、回路の細りが少ない。従って高電流を流した場合でもプリント配線板の温度上昇を少なくすることができ、自動車用途のプリント配線板や、LED搭載配線板に使用する銅箔として最適な性能を有している。
【0059】
本発明は、上述したように、特に35μm以上の厚さの銅箔で大きなエッチングファクターと、大きな引き剥がし強さの確保を両立させた電解銅箔を提供することができる、優れた効果を有するものである。
また、本発明は、大きなエッチングファクターと、大きな引き剥がし強さの確保を両立させた本発明電解銅箔を用いることにより、大電流通電が可能で、また放熱性も良好なプリント配線板、及び該プリント配線板を複数枚積層した多層プリント配線板を提供することができる、優れた効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】電解製箔装置の構造を示す説明図である。
【図2】表面処理装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 チタン製電極(電解製箔装置のアノード)
2 回転ドラム(電解製箔装置のカソード)
3 電解製箔装置の電解液
4 未処理銅箔
5 表面粗化処理装置の電解液
6 表面粗化処理装置の電解液
7 表面粗化処理装置のアノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さがRzで2.5μm以上である素地山を有する粗面と光沢面をもつ電解銅箔であり、少なくとも前記素地山を有する粗面に化学処理又は/及び電気化学処理が施されていることを特徴とする電解銅箔。
【請求項2】
前記化学処理又は/及び電気化学処理で前記素地山を有する粗面に施される処理膜が金属被膜、金属酸化物被膜、有機化合物被膜、無機化合物被膜であることを特徴とする請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解銅箔の厚さが35μm以上である電解銅箔。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電解銅箔の前記素地山を有する粗面を絶縁基板に積層して銅張積層板とし、該銅張積層板の前記銅箔に導体回路を形成してなることを特徴とするプリント配線板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電解銅箔の粗面を絶縁基板に積層して銅張積層板とし、該銅張積層板の前記銅箔に導体回路を形成してなるプリント配線板を複数枚積層してなることを特徴とする多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−146258(P2007−146258A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345116(P2005−345116)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(591056710)古河サーキットフォイル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】