説明

電鉄用電圧変動補償装置の制御装置

【課題】 インバータの直流電圧を一定に制御でき、M座及びT座の有効電力又は無効電力をより効果的に制御することのできる電鉄用電圧変動補償装置の制御装置を提供することにある。
【解決手段】 M座及びT座のき電線LM,LTの電圧変動を補償する電鉄用電圧変動補償装置1を制御する制御装置3において、M座及びT座の単相インバータ31,32に割り振られた有効電力出力指令値に、直流電圧一定制御24から出力された有効電力指令値をそれぞれ加算し、M座及びT座の容量リミッタ16,17により装置容量に応じて有効電力及び無効電力の出力指令値を制限し、協調リミッタ18によりM座とT座の有効電力出力指令値を協調させるための制限をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鉄用電圧変動補償装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電鉄用電圧変動補償装置(RPC: Railway Static Power Conditioner)の制御装置は、M座とT座のそれぞれの有効電力Pと無効電力Qを検出して、M座とT座の有効電力の平衡化をするための制御(以下、「有効電力平衡化制御」という。)やスコット結線変圧器出力の力率を1にするような無効電力補償の制御(以下、「無効電力力率1制御」という。)を行う。電鉄用電圧変動補償装置は、M座とT座のそれぞれの有効電力Pと無効電力Qを制御するために、M座側単相インバータ及びT座側単相インバータを備えている。これらの制御を行う電鉄用電圧変動補償装置の制御装置としては、例えば、次のように構成されている。
【0003】
制御装置は、有効電力平衡化制御を行うために、M座及びT座の有効電力をそれぞれ制御するためのM座側単相インバータの有効電力出力指令値及びT座側単相インバータの有効電力出力指令値を算出する。また、制御装置は、M座及びT座のそれぞれの無効電力補償をするために、M座及びT座の無効電力をそれぞれ制御するためのM座側単相インバータの無効電力出力指令値及びT座側単相インバータの無効電力出力指令値を算出する。制御装置は、M座P−Q制御リミッタ及びT座P−Q制御リミッタを備えている。M座P−Q制御リミッタは、M座側単相インバータの有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値が、M座装置としてP−Q制御に許容された容量を超える場合には、リミット処理をする。T座P−Q制御リミッタは、T座側単相インバータの有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値に対して、M座P−Q制御リミッタと同様の処理をする。
【0004】
一方、制御装置は、インバータ直流電圧を一定に制御(以下、「直流電圧一定制御」という。)するために、有効電力出力指令値を算出する。この有効電力出力指令値は、M座側単相インバータとT座側単相インバータとに振り分けられる。振り分けられた有効電力出力指令値は、上述のM座P−Q制御リミッタ及びT座P−Q制御リミッタから出力されたそれぞれのM座側単相インバータ及びT座側単相インバータのそれぞれの有効電力出力指令値に加算(減算)される。
【0005】
このようにして算出された有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値に基づいて、制御装置は、インバータ電流を制御する。
【非特許文献1】持永芳文、外3名,“東北新幹線延伸用RPC装置概要とフィールド試験結果について”,平成14年電気学会静止器研究会,2002,SA−02−63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような電鉄用電圧変動補償装置の制御装置では、次のような問題がある。
【0007】
まず、インバータの安定運転のためには、インバータ直流電圧の確保は必須である。そのため、直流電圧一定制御により算出された有効電力指令値は優先的に保持する必要がある。そこで、直流電圧一定制御による有効電力指令値は、装置容量で制限されないように、装置が出力可能な容量の中で、予め直流電圧一定制御用に十分な容量を割り振っておく必要がある。このため、有効電力平衡化制御やM座無効電力力率1制御に使える容量は、減少することになる。
【0008】
さらに、有効電力平衡化制御からの有効電力出力指令値が、M座P−Q制御リミッタとT座P−Q制御リミッタにより、M座とT座が個別にリミットされて異なる値に制限されると、その差の有効電力をインバータ直流回路が受電又は放電することになる。これは、インバータの直流電圧を大きく変動させ、安定運転を困難にする。そこで、M座P−Q制御リミッタ及びT座P−Q制御リミッタは、基本的に、有効電力出力指令値は制限せずに優先出力し、無効電力出力指令値のみを制限することになる。この結果、例えば力率1制御によるき電電圧低下抑止を主目的とする制御の場合には、無効電力のみ大きく制限され、き電電圧確保に必要な進みの無効電力不足となる可能性があるため問題となる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、インバータの直流電圧を一定に制御でき、M座及びT座の有効電力又は無効電力をより効果的に制御することのできる電鉄用電圧変動補償装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の観点に従った電鉄用電圧変動補償装置の制御装置は、電気鉄道の電力系統に設けられた電気鉄道用三相/二相変換変圧器のM座及びT座からそれぞれき電するM座側き電線及びT座側き電線の電圧変動を補償するためのM座インバータ及びT座インバータを備えた電鉄用電圧変動補償装置を制御する制御装置において、前記M座インバータの無効電力を制御するためのM座無効電力出力指令値を出力するM座無効電力制御手段と、前記T座インバータの無効電力を制御するためのT座無効電力出力指令値を出力するT座無効電力制御手段と、前記M座インバータの有効電力を制御するためのM座有効電力出力指令値を出力するM座有効電力制御手段と、前記T座インバータの有効電力を制御するためのT座有効電力出力指令値を出力するT座有効電力制御手段と、前記M座インバータ及び前記T座インバータの直流電圧を所定値に制御するための直流電圧指令値を出力する直流電圧制御手段と、前記M座有効電力制御手段から出力された前記M座有効電力出力指令値に、前記直流電圧制御手段から出力された前記直流電圧指令値を加算する第1の加算手段と、前記T座有効電力制御手段から出力された前記T座有効電力出力指令値に、前記直流電圧制御手段から出力された前記直流電圧指令値を加算する第2の加算手段と、前記第1の加算手段により加算された前記M座有効電力出力指令値及び前記M座無効電力制御手段から出力された前記M座無効電力出力指令値を、前記M座インバータの装置容量の許容範囲内に制限するM座容量制限手段と、前記第2の加算手段により加算された前記T座有効電力出力指令値及び前記T座無効電力制御手段から出力された前記T座無効電力出力指令値を、前記T座インバータの装置容量の許容範囲内に制限するT座容量制限手段と、前記M座容量制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値と前記T座容量制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値との和を、前記第1の加算手段により加算された前記M座有効電力出力指令値と前記第2の加算手段により加算された前記T座有効電力出力指令値との和と等しくなるように、前記M座容量制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値又は前記T座容量制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値を制限する協調制限手段と、前記M座容量制限手段により制限された前記M座無効電力出力指令値及び前記協調制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値に基づいて、前記M座インバータを制御するM座インバータ制御手段と、前記T座容量制限手段により制限された前記T座無効電力出力指令値及び前記協調制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値に基づいて、前記T座インバータを制御するT座インバータ制御手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インバータの直流電圧を一定に制御でき、M座及びT座の有効電力又は無効電力をより効果的に制御することのできる電鉄用電圧変動補償装置の制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置1の適用された構成を示す構成図である。なお、以降の図における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。以降の実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0014】
スコット結線変圧器TRは、電気鉄道用三相/二相変換変圧器である。スコット結線変圧器TRは、一次側から三相交流を受電し、二次側のM座及びT座からそれぞれ単相交流を出力する。スコット結線変圧器TRは、M座及びT座から出力された2つの単相交流により、それぞれM座側き電線LM及びT座側き電線LTにき電する。電気鉄道RWは、M座側き電線LM又はT座側き電線LTから電力の供給を受けて走行する。
【0015】
電鉄用電圧変動補償装置3は、M座側き電線LM及びT座側き電線LTの電圧を補償する装置である。電鉄用電圧変動補償装置3は、M座側単相インバータ31、T座側単相インバータ32、M座側単相インバータ用変圧器33及びT座側単相インバータ用変圧器34により構成されている。
【0016】
M座側単相インバータ31は、M座側き電線LMの有効電力及び無効電力を補償するための装置である。T座側単相インバータ32は、T座側き電線LTの有効電力及び無効電力を補償するための装置である。
【0017】
M座側単相インバータ用変圧器33は、M座側単相インバータ31からの出力電圧を変圧して、M座側き電線LMに供給する。T座側単相インバータ用変圧器34は、T座側単相インバータ32からの出力電圧を変圧して、T座側き電線LTに供給する。
【0018】
制御装置1は、電鉄用電圧変動補償装置3を制御する装置である。制御装置1は、M座無効電力力率1制御器21、T座無効電力力率1制御器23、有効電力平衡化制御器22、直流電圧一定制御器24、M座容量リミッタ16、T座容量リミッタ17、協調リミッタ18、M座電流制御器19、T座電流制御器20、極性器11,12、及び加算器14,15により構成されている。
【0019】
M座無効電力力率1制御器21は、スコット結線変圧器TRのM座き電側の無効電力がゼロになるようなM座単相インバータ31の無効電力出力指令値を出力する。換言すれば、M座無効電力力率1制御器21は、スコット結線変圧器TRのM座き電側の力率を1にするような無効電力補償の制御を行う。
【0020】
T座無効電力力率1制御器23は、スコット結線変圧器TRのT座き電側の無効電力がゼロになるようなT座単相インバータ32の無効電力出力指令値を出力する。換言すれば、T座無効電力力率1制御器23は、スコット結線変圧器TRのT座き電側の力率を1にするような無効電力補償の制御を行う。
【0021】
有効電力平衡化制御器22は、スコット結線変圧器TRのM座き電側の有効電力とT座き電側の有効電力とが等しくなるような有効電力融通量を出力する。この有効電力融通量に基づいて、M座単相インバータ31及びT座単相インバータ32は、M座とT座の有効電力を平衡化するように制御される。この有効電力融通量は、極性器11,12によって、互いに反対極性に変換される。
【0022】
極性器11は、有効電力平衡化制御器22から出力された有効電力融通量を、M座単相インバータ31の有効電力出力指令値に変換する。
【0023】
極性器12は、有効電力平衡化制御器22から出力された有効電力融通量を、T座単相インバータ32の有効電力出力指令値に変換する。
【0024】
直流電圧一定制御器24は、インバータ直流電圧を所定値に保つような有効電力指令値を算出する。
【0025】
加算器14は、極性器11から入力されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値に、直流電圧一定制御器24から入力された有効電力指令値を加算する。
【0026】
加算器15は、極性器12から入力されたT座単相インバータ32の有効電力出力指令値に、直流電圧一定制御器24から入力された有効電力指令値を加算する。
【0027】
M座容量リミッタ16は、M座単相インバータ31の装置容量に応じて、M座無効電力力率1制御器21から出力された無効電力出力指令値及び加算器14から出力されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値に、M座単相インバータ31の装置に適した制限をかける。
【0028】
T座容量リミッタ17は、T座単相インバータ32の装置容量に応じて、T座無効電力力率1制御器23から出力された無効電力出力指令値及び加算器15から出力されたT座単相インバータ32の有効電力出力指令値に、T座単相インバータ32の装置に適した制限をかける。
【0029】
協調リミッタ18は、直流電圧確保に必要な有効電力を保持させるために、協調をとるためのリミッタである。
【0030】
M座電流制御器19は、M座単相インバータの電流を制御するための制御部である。
【0031】
T座電流制御器20は、T座単相インバータの電流を制御するための制御部である。
【0032】
次に、制御装置1の動作について説明する。
【0033】
M座無効電力力率1制御器21から出力された無効電力出力指令値は、M座容量リミッタ16及び協調リミッタ18に入力される。T座無効電力力率1制御器23から出力された無効電力出力指令値は、T座容量リミッタ17及び協調リミッタ18に入力される。
【0034】
有効電力平衡化制御器22から出力された有効電力融通量は、極性器11,12にそれぞれ入力される。極性器11に入力された有効電力融通量は、M座単相インバータ31の有効電力出力指令値に変換される。極性器12に入力された有効電力融通量は、T座単相インバータ32の有効電力出力指令値に変換される。極性器11により変換されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値は、加算器14に入力される。極性器12により変換されたT座単相インバータ32の有効電力出力指令値は、加算器15に入力される。
【0035】
直流電圧一定制御器24から出力された有効電力指令値は、加算器14,15にそれぞれ入力される。加算器14は、M座単相インバータ31の有効電力出力指令値に、直流電圧一定制御器24から入力された有効電力指令値を加算する。加算器15は、T座単相インバータ32の有効電力出力指令値に、直流電圧一定制御器24から入力された有効電力指令値を加算する。加算器14から出力されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値は、M座容量リミッタ16に入力される。加算器15から出力されたT座単相インバータ32の有効電力出力指令値は、T座容量リミッタ17に入力される。
【0036】
ここで、極性器11の出力(M座単相インバータ31の有効電力出力指令値)と極性器12の出力(T座単相インバータ32の有効電力出力指令値)とは、反対極性で絶対値は同一である。また、直流電圧一定制御器24から加算器14,15にそれぞれ入力される有効電力出力指令値は、同一量である。従って、加算器14と加算器15の二つの出力は、同一量に対して、それぞれ反対極性で絶対値が同一である値を加算するため、絶対値(大きさ)が異なる。よって、加算器14の出力と加算器15の出力との和をとってもゼロにはならない。この加算器14と加算器15との和の値が、直流電圧一定に必要な有効電力の値になる。
【0037】
M座容量リミッタ16は、加算器14から入力されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値とM座無効電力力率1制御器21から入力された無効電力出力指令値とがM座単相インバータ31の装置容量を超えていれば、当該装置の主目的に一番整合した方法でリミットされる。ここで、主目的に一番整合した方法とは、出力したい有効電力P及び無効電力Qの値になるべく近い値にリミットすることである。
【0038】
T座容量リミッタ17は、加算器15から入力されたT座単相インバータ32の有効電力出力指令値とT座無効電力力率1制御器23から入力された無効電力出力指令値とがT座単相インバータ32の装置容量を超えていれば、当該装置の主目的に一番整合した方法でリミットされる。ここで、主目的に一番整合した方法とは、出力したい有効電力P及び無効電力Qの値になるべく近い値にリミットすることである。
【0039】
協調リミッタ18は、M座単相インバータ31の有効電力出力指令値とT座単相インバータ32の有効電力出力指令値との和が、M座容量リミッタ16及びT座容量リミッタ17による制限を受ける前と制限を受けた後で等しくない場合は、制限を受ける前と等しくなるように、M座単相インバータ31の有効電力出力指令値又はT座単相インバータ32の有効電力出力指令値に制限を加える処理を行う。
【0040】
本実施形態によれば、M座容量リミッタ16及びT座容量リミッタ17には、M座単相インバータ31及びT座単相インバータ32に適した制限方法を用いて、直流電圧を所定値に維持するための容量を予め差し引くことなく、直流電圧を一定に制御することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置1Aの適用された構成を示す構成図である。
【0042】
制御装置1Aは、図1に示す第1の実施形態に係る制御装置1において、M座容量リミッタ16、T座容量リミッタ17及び協調リミッタ18の代わりに、M座容量円リミッタ16A、T座容量円リミッタ17A及び協調リミッタ18Aを設けた点以外は、同様である。
【0043】
M座容量円リミッタ16Aは、加算器14からM座単相インバータ31の有効電力出力指令値が入力される。M座容量円リミッタ16Aは、M座無効電力力率1制御21からM座単相インバータ31の無効電力出力指令値が入力される。
【0044】
T座容量円リミッタ17Aは、加算器15からT座単相インバータ32の有効電力出力指令値が入力される。T座容量円リミッタ17Aは、T座無効電力力率1制御23からT座単相インバータ32の無効電力出力指令値が入力される。
【0045】
図4は、第2の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置1Aの動作を説明するため座標図である。図4において、横軸Pを有効電力指令値、縦軸Qを無効電力指令値の平面図で表している。図4中の円は、M座単相インバータ31及びT座単相インバータ32の出力可能な容量を表している。
【0046】
今、M座容量円リミッタ16Aへの入力であるM座単相インバータ31の有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値が点M1であるとする。このとき、T座容量円リミッタ17Aへの入力であるT座単相インバータ32の有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値が点T1であるとする。
【0047】
点M1は、円外にある。即ち、装置容量超過の状態である。そこで、M座容量円リミッタ16Aは、点M1に一番近い円周上の点M2にリミット処理をする。このリミット方式は、有効電力と無効電力とを均等(同じ重み付け)にリミットする方法である。この方法は、有効電力平衡化制御と無効電力力率1制御の両立性が高い。M座容量円リミッタ16Aによりリミット処理されたM座単相インバータ31の有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値(点M2)は、協調リミッタ18Aに入力される。
【0048】
一方、点T1は、円内にある。即ち、装置容量の許容範囲内の状態である。そのため、T座容量円リミッタ17Aは、点T1の状態を変動させずに、協調リミッタ18Aに出力する。
【0049】
点M1が点M2に制限されると、M座容量円リミッタ16A及びT座容量円リミッタ17Aへの入力段階でのM座単相インバータ31の有効電力出力指令値とT座単相インバータ32の有効電力出力指令値との和が保持されなくなる。そこで、協調リミッタ18Aは、この和を同じ値に維持するように、変化させる。具体的には、M座容量円リミッタ16Aによる点M1から点M2への移行によって変化した有効電力出力指令値分(P軸方向に変化した分)をT座側も点T1を点T2に移行させる。
【0050】
本実施形態によれば、M座容量円リミッタ16A及びT座容量リミッタ円17Aにより、M座及びT座のそれぞれの有効電力と無効電力を同じ重み付けでリミットでき、直流電圧を一定に制御することができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置1Bの適用された構成を示す構成図である。
【0052】
制御装置1Bは、図2に示す第2の実施形態に係る制御装置1Aにおいて、M座容量円リミッタ16A及びT座容量円リミッタ17Aの代わりに、M座容量リミッタ(Q優先)16B及びT座容量リミッタ(Q優先)17Bを設けた点以外は、同様である。
【0053】
M座容量リミッタ(Q優先)16Bは、加算器14からM座単相インバータ31の有効電力出力指令値が入力される。M座容量リミッタ(Q優先)16Bは、M座無効電力力率1制御21からM座単相インバータ31の無効電力出力指令値が入力される。M座容量リミッタ(Q優先)16Bは、無効電力の出力を優先し、有効電力を制限するように動作する。
【0054】
T座容量リミッタ(Q優先)17Bは、加算器15からT座単相インバータ32の有効電力出力指令値が入力される。T座容量リミッタ(Q優先)17Bは、T座無効電力力率1制御23からT座単相インバータ32の無効電力出力指令値が入力される。T座容量リミッタ(Q優先)17Bは、無効電力の出力を優先し、有効電力を制限するように動作する。
【0055】
図5は、第3の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置1Bの動作を説明するため座標図である。図5において、横軸Pを有効電力指令値、縦軸Qを無効電力指令値の平面図で表している。図5中の円は、M座単相インバータ31及びT座単相インバータ32の出力可能な容量を表している。
【0056】
今、M座容量リミッタ(Q優先)16Bへの入力であるM座単相インバータ31の有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値が点M1Aであるとする。このとき、T座容量リミッタ(Q優先)17Bへの入力であるT座単相インバータ32の有効電力出力指令値及び無効電力出力指令値が点T1Aであるとする。
【0057】
点M1Aは、円外にある。即ち、装置容量超過の状態である。そこで、M座容量リミッタ(Q優先)16Bは、無効電力の出力を優先し、有効電力の出力のみを制限するように動作する。具体的には、M座容量リミッタ(Q優先)16Bは、点M1Aを真横(P軸方向と平行)に移動させ、円周上の点M2Aにリミット処理する。このリミット方式は、き電電圧低下を抑止するために、有効電力平衡化よりも無効電力力率1制御の方が重要な場合に適した方法である。
【0058】
点M1Aが点M2Aに制限されると、M座容量リミッタ(Q優先)16B及びT座容量リミッタ(Q優先)17Bへの入力段階でのM座単相インバータ31の有効電力出力指令値とT座単相インバータ32の有効電力出力指令値との和が保持されなくなる。そこで、協調リミッタ18Aは、この和を同じ値に確保するように、点T1Aを点T2Aに移行する。具体的には、M座容量リミッタ(Q優先)16Bによる点M1Aから点M2Aへの移行によって変化した有効電力出力指令値分(P軸方向に変化した分)をT座側も変化させる。
【0059】
本実施形態によれば、M座容量リミッタ(Q優先)16B及びT座容量リミッタ(Q優先)17Bにより、無効電力出力を優先し、有効電力のみをリミットしながら、直流電圧を一定に制御することができる。
【0060】
なお、各実施形態では、電気鉄道用三相/二相変換変圧器を、代表してスコット結線変圧器として説明したが、変形ウッドブリッジ結線変圧器を用いても同様の構成で実現することができる。また、電気鉄道用三相/二相変換変圧器として採用する変圧器の結線方式によっては、M座及びT座の代わりに、A座及びB座と呼ばれるが、ここでは、総称してM座及びT座としている。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置の適用された構成を示す構成図。
【図2】第2の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置の適用された構成を示す構成図。
【図3】第3の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置の適用された構成を示す構成図。
【図4】第2の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置の動作を説明するため座標図。
【図5】第3の実施形態に係る電鉄用電圧変動補償装置の制御装置の動作を説明するため座標図。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B…電鉄用電圧変動補償装置の制御装置、3…電鉄用電圧変動補償装置、11,12…極性器、14,15…加算器、16…M座容量リミッタ、16A…M座容量円リミッタ、16B…M座容量リミッタ(Q優先)、17…T座容量リミッタ、17A…T座容量円リミッタ、17B…T座容量リミッタ(Q優先)、18,18A…協調リミッタ、19…M座電流制御、20…T座電流制御、21…M座無効電力力率1制御、22…有効電力平衡化制御、23…T座無効電力力率1制御、24…直流電圧一定制御、31…M座単相インバータ、32…T座単相インバータ、33…M座側単相インバータ用変圧器、34…T座側単相インバータ用変圧器、LM…M座側き電線、LT…T座側き電線、RW…電気鉄道、TR…電気鉄道用三相/二相変換変圧器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鉄道の電力系統に設けられた電気鉄道用三相/二相変換変圧器のM座及びT座からそれぞれき電するM座側き電線及びT座側き電線の電圧変動を補償するためのM座インバータ及びT座インバータを備えた電鉄用電圧変動補償装置を制御する制御装置において、
前記M座インバータの無効電力を制御するためのM座無効電力出力指令値を出力するM座無効電力制御手段と、
前記T座インバータの無効電力を制御するためのT座無効電力出力指令値を出力するT座無効電力制御手段と、
前記M座インバータの有効電力を制御するためのM座有効電力出力指令値を出力するM座有効電力制御手段と、
前記T座インバータの有効電力を制御するためのT座有効電力出力指令値を出力するT座有効電力制御手段と、
前記M座インバータ及び前記T座インバータの直流電圧を所定値に制御するための直流電圧指令値を出力する直流電圧制御手段と、
前記M座有効電力制御手段から出力された前記M座有効電力出力指令値に、前記直流電圧制御手段から出力された前記直流電圧指令値を加算する第1の加算手段と、
前記T座有効電力制御手段から出力された前記T座有効電力出力指令値に、前記直流電圧制御手段から出力された前記直流電圧指令値を加算する第2の加算手段と、
前記第1の加算手段により加算された前記M座有効電力出力指令値及び前記M座無効電力制御手段から出力された前記M座無効電力出力指令値を、前記M座インバータの装置容量の許容範囲内に制限するM座容量制限手段と、
前記第2の加算手段により加算された前記T座有効電力出力指令値及び前記T座無効電力制御手段から出力された前記T座無効電力出力指令値を、前記T座インバータの装置容量の許容範囲内に制限するT座容量制限手段と、
前記M座容量制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値と前記T座容量制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値との和を、前記第1の加算手段により加算された前記M座有効電力出力指令値と前記第2の加算手段により加算された前記T座有効電力出力指令値との和と等しくなるように、前記M座容量制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値又は前記T座容量制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値を制限する協調制限手段と、
前記M座容量制限手段により制限された前記M座無効電力出力指令値及び前記協調制限手段により制限された前記M座有効電力出力指令値に基づいて、前記M座インバータを制御するM座インバータ制御手段と、
前記T座容量制限手段により制限された前記T座無効電力出力指令値及び前記協調制限手段により制限された前記T座有効電力出力指令値に基づいて、前記T座インバータを制御するT座インバータ制御手段と
を備えたことを特徴とする電鉄用電圧変動補償装置の制御装置。
【請求項2】
前記M座容量制限手段は、前記M座有効電力出力指令値及び前記M座無効電力出力指令値を同じ重み付けにより制限し、
前記T座容量制限手段は、前記T座有効電力出力指令値及び前記T座無効電力出力指令値を同じ重み付けにより制限すること
を特徴とする請求項1に記載の電鉄用電圧変動補償装置の制御装置。
【請求項3】
前記M座容量制限手段は、前記M座無効電力出力指令値を制限せずに、前記M座有効電力出力指令値を制限し、
前記T座容量制限手段は、前記T座無効電力出力指令値を制限せずに、前記T座有効電力出力指令値を制限すること
を特徴とする請求項1に記載の電鉄用電圧変動補償装置の制御装置。
【請求項4】
前記M座無効電力制御手段は、前記M座側き電線の無効電力を零にするようにM座無効電力出力指令値を算出し、
前記T座無効電力制御手段は、前記T座側き電線の無効電力を零にするようにT座無効電力出力指令値を算出し、
前記M座有効電力制御手段及び前記T座有効電力制御手段は、前記M座側き電線の有効電力と前記T座側き電線の有効電力を平衡化するように、前記M座有効電力出力指令値及び前記T座有効電力出力指令値を算出すること
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電鉄用電圧変動補償装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−124823(P2009−124823A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294658(P2007−294658)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】