説明

静電容量トランスデューサの製造方法

【課題】感度の高い静電容量トランスデューサの製造方法を提供する。
【解決手段】一連の可動フィンガおよび一連の固定フィンガのうちの一方の位置を画定するために、基体上の層に第1エッチングマスクを適用する。一連の可動フィンガ、一連の固定フィンガ、本体及びばねを画定するために、第2エッチングマスクを適用する。本体は一連の可動フィンガ及びばねに接続され、一連の可動フィンガは一連の固定フィンガと相互に入り込む。第2エッチングマスクを使用して、層および第1エッチングマスクをエッチングする。第1エッチングマスクを使用して、一連の可動フィンガと一連の固定フィンガとのうちの一方が、一連の可動フィンガと一連の固定フィンガのもう一方より短くなるように、エッチングされた層をエッチングする。力が本体に加わったときに、本体が基体に対して平行に動くように、本体、ばね及び一連の可動フィンガをエッチングを用いて分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許文献は、小型静電容量トランスデューサなどのモノリシック静電容量トランスデューサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型微小マイクロホンは、種々の用途において大変な好評を得ている。このような微小マイクロホンは、サブミリメートルサイズ、大量生産による低コスト、より低い電力消費量、より高い感度および信頼性のため、例えば、補聴器、携帯電話、PDA、ラップトップコンピュータ、MP3、デジタルカメラその他の用途において、従来のエレクトレットコンデンサ・マイクロホン(ECM)に取って代わる次世代製品として広く認識されている。すべての微小マイクロホンの中でも、静電容量コンデンサ型マイクロホンは、より小さいサイズおよびより高感度その他のために、圧電式またはマグネット式微小マイクロホンなどの他の技術方式に勝る多くの利点を有する。
【0003】
微小コンデンサマイクロホンは通常、音圧検知素子(一般的に可変キャパシタ)とプリアンプIC回路から成る。平行平板キャパシタを有するコンデンサマイクロホンの1つの先行技術の例が特許文献1に開示されている。先行技術によるコンデンサマイクロホンは、平行平板可変キャパシタの構造および検知動作のため、以下に述べるいくつかまたはすべての欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0093170(Zhe他)、発明の名称「バックプレートなしのシリコンマイクロホン(Backplateless silicon microphone)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第一に、ダイヤフラム上の残留膜応力は、マイクロホンの感度を低下させる。柔軟なダイヤフラムは通常、誘電材料と導電材料の薄膜から作られているので、膜形成後にも残留応力が存在するため、この残留応力を制御および低減することは非常に困難である。ダイヤフラム上の応力はマイクロホンの感度に直接影響する。圧縮残留応力により、不良の、座屈したダイヤフラムが生じる。引張り応力は、マイクロホンの感度を極度に低下させるかまたは、最悪の場合にはダイヤフラムを完全に破壊する。
【0006】
第二に、可撓性ダイヤフラムと剛性のバックプレートとの間の吸着により、微細加工中に欠陥デバイスを生じるか、または操作中に誤動作を生じる可能性がある。柔軟なダイヤフラムとバックプレートとの間の隙間が約数ミクロンである場合、体積に対する表面積の比が増加し、それに応じて吸着を引き起こす表面力が増加するため、ダイヤフラムはより大きな確率で固定されたバックプレートに付着するであろう。吸着は犠牲層エッチングの湿式工程中に吊り下げられた柔軟なダイヤフラムの十分な分離を妨げ、固定されたバックプレートへの永続的な付着を生じる可能性がある。操作中に、マイクロホンが湿った環境に曝される場合、水蒸気が凝結し、ダイヤフラムおよびバックプレート面上に水の膜を形成する可能性がある。2つの表面間の隙間が操作中に低減すると、1つの表面の水の膜は反対の表面に接触し、2つの表面は密着するであろう。
【0007】
第三に、「スクイーズ膜」空気制動は、高周波応答に影響を及ぼし、マイクロホン構造に圧力変化を生成することにより、マイクロホン出力にノイズを生じる原因となる。サブミリメートルサイズの静電容量コンデンサマイクロホンについては、緩衝増幅器の入力を効果的に駆動できる範囲内に静電容量値を維持するために、空隙を数ミクロンまで狭める必要がある。しかし、空隙が狭まるに伴い、「スクイーズ膜」制動効果は、ダイヤフラムとバックプレート間に封入された空気の粘性流のために急速に増加する。「スクイーズ膜」空気制動はまた、マイクロホンの感度に影響を及ぼす。
【0008】
第四に、ダイヤフラムの「引き込み」効果はDCバイアス電圧を低減し、したがって、マイクロホンの感度を低下させる。ダイヤフラムとバックプレート間のDCバイアス電圧が高くなると、感度がより高くなる。DCバイアス電圧が高くなると、ダイヤフラムとバックプレート間により大きな静電引力が発生する。しかし、いくつかの先行技術の例では、ダイヤフラムとバックプレート間の隙間は数ミクロンまで狭められており、また、一定の音圧レベルの下で若干の撓みを持たせるために、ダイヤフラムの機械的コンプライアンスはかなり低く維持されている。より大きな静電引力は、ダイヤフラムの機械的復元力に打ち勝って、柔軟なダイヤフラムを小さい隙間を越えて吸引し、バックプレートに接触させる可能性がある。この現象は「引き込み」効果と称される。
【0009】
第五に、周囲のフレームにより完全に拘束されるサブミリメートルサイズのダイヤフラムは、マイクロホンの感度を低下させる。ダイヤフラムのコンプライアンスは、所定のダイヤフラム材料のサイズおよび厚さが低減するに伴い、急激に減少する傾向がある。音圧に対するダイヤフラムの機械的コンプライアンス/剛性は、ダイヤフラムのサイズの4乗で大きさが変化する。
【0010】
第六に、平行平板型静電容量コンデンサマイクロホンの小さい空隙および柔軟なダイヤフラムは、高い音圧レベルが可撓性ダイヤフラムを駆動して、小さい空隙を越えてバックプレートに接触させるため、大きなダイナミックレンジを提供することができない。
第七に、可撓性ダイヤフラムと剛性の固定されたバックプレート間の寄生容量はマイクロホンの性能を劣化させる。ダイヤフラムとバックプレート間の静電容量は2つの部分を有する。第1部分は音響信号によって変動し、マイクロホンにとって好ましい。第2部分は、音響信号によって変化しない寄生容量である。寄生容量は性能を劣化させるので、最小化する必要がある。しかし、寄生容量は先行技術における平行平板型シリコンマイクロホンの構成に関係している。
【0011】
最後に重要なこととして、平行平板型静電容量コンデンサマイクロホンは、製造するのがかなり複雑であり、高コストになる。現時点では、先行技術では、マイクロホンの大量生産のための経済的な製造方法を提供することが不可能である。先行技術において開示されている検知素子のいくつかの製造方法は、標準的なIC CMOS製造工程と互換性がなく、より大きなハイブリッドパッケージおよびより高い製造コストをもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
静電容量トランスデューサは第1面と第2面を有する基体を含む。基体の第1面は第1平面を画定する。基体は、内側周辺縁を備える空洞を有する。空洞は第1面と第2面との間に広がる。外側周辺縁を有する本体が設けられる。本体は第1面に対して平行であり、空洞を少なくとも部分的に閉鎖している。本体は弾力性のあるヒンジにより基体に接続されており、力を加えると、本体が第1面と垂直に移動する。第1の一連の櫛形フィンガは基体に取り付けられる。第1の一連の櫛形フィンガは第1電気接続体に接続される。第2の一連の櫛形フィンガは本体に取り付けられ、本体の外側周辺縁を越えて延びる。第2の一連の櫛形フィンガは、第1接続体から分離されている第2電気接続体に接続される。第1の一連の櫛形フィンガおよび第2の一連の櫛形フィンガは、本体が移動すると、第1の一連の櫛形フィンガおよび第2の一連の櫛形フィンガが相対間隔を維持するように、相互に入り込む。第1の一連の櫛形フィンガおよび第2の一連の櫛形フィンガは静電容量を生成する。静電容量は、第1の一連の櫛形駆動フィンガと第2の一連の櫛形駆動フィンガとの相対位置に関係する。
【0013】
これらおよび他の特徴は、添付図面を参照してなされる、以下の説明からより明らかになるであろう。図面は単に例示のためであり、限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態によるマイクロホンの断面斜視図である。
【図2】第1の実施形態によるトランスデューサのSOIウェハの構造を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態による、上面および底面上に酸化層を堆積後のSOIウェハの断面図である。
【図4】裏面の空洞の異方性シリコンエッチングおよびウェハの裏面からの酸化物エッチング後のSOIウェハの断面図である。
【図5】第1の実施形態によるウェハの前面における酸化物のパターン形成およびエッチング後のSOIウェハの斜視図である。
【図6a】フォトレジスト層のパターン形成後の図5におけるSOIウェハの斜視図である。
【図6b】図6aに示された櫛形フィンガおよびヒンジの部分Cの拡大斜視図である。
【図7a】酸化物層の反応性イオンエッチング(RIE)後の図6におけるトランスデューサの斜視図である。
【図7b】図7aに示された櫛形フィンガおよびヒンジの部分Dの拡大斜視図である。
【図8】シリコンの第1の深い反応性イオンエッチング(DRIE)後の図7におけるトランスデューサの斜視図である。
【図9a】フォトレジストの除去後の図8におけるトランスデューサの斜視図である。
【図9b】図9aに示された櫛形フィンガおよびヒンジの部分Eの拡大斜視図である。
【図10a】シリコンの第2の深い反応性イオンエッチング(DRIE)後の図9におけるトランスデューサの斜視図である。
【図10b】図10aに示された櫛形フィンガおよびヒンジの部分Fの拡大斜視図である。
【図11】ダイヤフラムおよび可動フィンガを解放するために、前面上の酸化物を除去し、埋められた酸化物層を部分的にエッチングした後の、図10のトランスデューサの斜視図である。
【図12】第2の実施形態によるマイクロホンの断面の斜視図である。
【図13】図1および図12に示されたマイクロホンの平面図である。
【図14】第3の実施形態による、より大きな裏面の空洞およびより高さの高い櫛形フィンガを備えるマイクロスピーカの断面の斜視図である。
【図15】第4の実施形態による、より大きな裏面の空洞およびより高さの高い櫛形フィンガを備えるマイクロスピーカの断面の斜視図である。
【図16】第5の実施形態による、より大きな裏面の空洞およびより高さの高い櫛形フィンガを備えるマイクロスピーカの断面の斜視図である。
【図17】第6の実施形態による、トランスデューサのN型基体の断面の斜視図である。
【図18】第6の実施形態によるP++注入/拡散またはPドーピングによるシリコン層のエピタキシャル成長後のN型基体の断面の斜視図である。
【図19】第6の実施形態による背面の空洞の異方性シリコンエッチング後の図18に示された基体の断面の斜視図である。
【図20】本明細書に開示された自己整合プロセスを用いたシリコンの深い反応性イオンエッチング(DRIE)処理後の図19におけるトランスデューサの断面の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明されるデバイスは、先行技術において開示された平行平板コンデンサ型シリコンマイクロホンの欠点を克服する、より高感度、より大きなダイナミック測定レンジを備える、サブミリメートルサイズの微小静電容量コンデンサである。マイクロホンの検知素子構造は、残留応力効果、吸着、「スクイーズ膜」空気制動および「引き込み」を低減または解消する。この種のトランスデューサは、補聴器、携帯電話、PDA、ラップトップコンピュータ、MP3プレイヤ、デジタルカメラおよび他の用途に用いられる、マイクロホンおよびマイクロスピーカにおいて使用される。これはまた、加速度計、圧力センサ、ポンプのアクチュエータ、光スイッチおよび光干渉計として使用されてもよい。以下に説明される設計および製作方法はまた、小型低電圧静電駆動マイクロスピーカ、加速度計その他に対して使用される。1つの実施形態では、検知および動作構造体の製造方法は、モノリシック集積小型シリコン静電容量トランスデューサを形成する、標準的なIC COMSプロセスと互換性がある。
【0016】
検知または作動を可能にする垂直櫛形駆動構造は、先行技術の例における平行平板型の静電容量検知および作動において、ダイヤフラム上の薄膜応力、「引き込み」効果および「スクイーズ膜」空気制動を解消する。デバイスの作用静電容量は、インターデジタル垂直櫛形フィンガにより得られる。垂直櫛形フィンガ構造は、微細加工上の難題および性能の犠牲を伴う、バックプレートの必要性をなくする。ここでの説明は、より高い感度、より広いダイナミックレンジを備えるサブミリメートルサイズのシリコン静電容量マイクロホンと、低電力消費および低駆動電圧の小型静電駆動マイクロスピーカと、更には小型静電容量加速度計等との両方に対する、設計および微細加工方法を提供する。
【0017】
同じ構造設計の原理は、マイクロホンまたは加速度計その他に対して適用できる検知モード、またはマイクロスピーカその他に対して適用できる作動モードのいずれにも使用できる。
【0018】
検知モード
図1、図11および図12は、例えばマイクロホンまたは加速度計として有用である、検知のために用いられるデバイス構造、設計の適切な例を示している。この実施形態では、デバイスはSOI(Silicon on Inslator:絶縁物の上のシリコン)基体を使用して形成される。静電容量トランスデューサは、基体上に付着された導電性バルクシリコンから作られ、これはまた、以下においてはキャリアウェハ12と称される。ダイヤフラム32は、長方形ダイヤフラム32のコーナー部に接続される、4つのヒンジ29a、29b、29cおよび29dにより支持される。ダイヤフラム32は力が加わると運動する物体であり、蛇行形状のシリコンヒンジ29a、29b、29cおよび29dのそれぞれによって、基体上に取り付けられる固定アンカー37a、37b、37cおよび37dに接続される。アンカー37a、37b、37cおよび37dは、酸化物などの、誘電材料層11上に位置している。検知素子は、第1の一連の固定櫛形フィンガ35および下側の第2の一連の可動櫛形フィンガ36を含む、垂直櫛形駆動構造で構成されている。
【0019】
可動櫛形フィンガ36のすべては、ダイヤフラム32の外側縁部上に形成される。櫛形フィンガ35および36は、図示されるように、ダイヤフラム32のすべての側面上に配置される必要はないことは理解されるであろう。例えば、フィンガは、ダイヤフラム32の2つの平行縁部上に配置されてもよい。固定櫛形フィンガ構造35は、ダイヤフラム32の周りに形成され、アンカー38a、38b、38cおよび38dにより誘電材料11上に固定される。ダイヤフラム32、ヒンジ29a、29b、29cおよび29d、アンカー37a、37b、37c、37d、38a、38b、38cおよび38d、垂直櫛形フィンガ35および36、ならびに電気相互接続構造体39a、39bおよび39cは、同一の導電性材料の層から作られている。この導電性材料は、例えば、SOI構造におけるベースの基体12からシリコン層10を分離する、誘電材料11の層の上面に存在する、導電性単結晶シリコン10である。
【0020】
電気相互接続構造体39a、39bおよび39cは、ダイヤフラム32の周りに存在する4つの固定櫛形フィンガ構造35のすべてに電気的に接続される。一方、可動櫛形フィンガ構造36はダイヤフラム32により電気的に接続される。したがって、任意のアンカー37a、37b、37cおよび37dは、電気接続点として使用でき、任意のアンカー38a、38b、38cおよび38dは、ハイブリッドパッケージがトランスデューサに対して要求される場合、集積オンチップIC回路に対してまたはワイヤボンディング・パッドに対して、別の電気接続点として使用できる。
【0021】
図1で明らかなように、ダイヤフラム32の外側周辺縁は、空洞40の内側周辺縁に一部重なる。マイクロホンとして使用される場合、ダイヤフラム32とキャリアウェハ12とのこの重なり部分は、可動フィンガ36を備えるダイヤグラム32とキャリアウェハ12との間に長い空気流路33を形成して、ダイヤフラム32周りの漏れを低減するために必要とされる。これによりかなり高い流体抵抗を生成し、トランスデューサの低周波応答を向上させる。漏れを低減する別の方法は、可動フィンガ36を備えるダイヤグラム32とキャリアウェハ12と間の隙間を低減するために、ポリマー(図示せず)などの軽量材料を用いて、空洞40側のダイヤフラム32をコーティングすることである。これは、例えば、スパッタリングまたは他の堆積手法により実行されてもよい。堆積中、材料はまた、空洞の側面上に堆積されてもよい。しかし、これは、また隙間を低減するため、望ましくないことではない。
【0022】
静電容量は櫛形フィンガの数と共に増加する。サブミリメートルサイズのダイヤフラムについては、十分な数の可動櫛形フィンガ36を形成することにより、先行技術の平行平板構造により実現される静電容量と同等のピコファラッドの作用静電容量を得ることが可能である。ダイヤフラム32は音圧などの圧力波、または加速/減速を受けると、ダイヤフラム32はピストン運動で上下に動く。ばね29a、29b、29cおよび29dの蛇行形状は、全体にほぼ直線運動を生成するのに役立つ。ダイヤフラム32の運動は、可動櫛形フィンガ36と固定櫛形フィンガ35との間の静電容量の変化を監視することにより検出できる。加えて、可動櫛形フィンガ36と固定キャリアウェハ12との間の静電容量の変化が測定されてもよく、この測定方法は、例えば、静電容量の変化の差を測定することによりセンサの感度を増加させることができる。さらに、垂直櫛形フィンガ構造および柔軟なヒンジが使用されるため、静電容量の変化は、小さい櫛形フィンガのフリンジ効果によって、音圧34または加速/減速に対してより敏感になり、結果的にトランスデューサの感度がより高くなる。柔軟なヒンジは、先行技術においてダイヤフラムが放物線状の変形をする代わりに、ダイヤフラム32がピストン運動を維持するのを助ける。
【0023】
ダイヤフラム32上のエッチング穴20a、20b、20cおよび20dは、より優れた高周波応答を得るためにダイヤフラム32の質量を低減するためのものである。トランスデューサは、トランスデューサのダイヤフラム32がキャリアウェハ12の空洞40上に吊り下げられた状態で支持されているため、バックプレートを必要としない。気圧の開放はこのマイクロホンでは必要ではない。
【0024】
作動モード
図14、図15および図16には、例えばマイクロスピーカに対して、作動モードで使用されるように設計されているデバイスを示す。上記に説明された実施形態と同じ参照符号が使用されている。シリコン製の静電容量トランスデューサ(マイクロスピーカ)は4つのヒンジ29a、29b、29cおよび29dにより支持されるダイヤフラム32を備える。ダイヤフラム32は、蛇行形状のシリコンヒンジ29a、29b、29cおよび29dにより固定アンカーに接続される、バルク導電性シリコンから作られる。4つのヒンジは、誘電材料11上に位置する、アンカー37a、37b、37cおよび37dに接続される。作動素子は、垂直櫛形駆動構造であり、複数の可動櫛形フィンガ36および複数の固定櫛形フィンガ35を含む。可動櫛形フィンガ36は、ダイヤフラム32の外側縁上に形成される。固定櫛形フィンガ35はダイヤフラム32周りに形成され、アンカー38a、38b、38cおよび38dにより誘電材料11上に固定される。
【0025】
ダイヤフラム32と、ヒンジ29a、29b、29cおよび29dと、アンカー37a、37b、37c、37d、38a、38b、38cおよび38dと、垂直櫛形フィンガ35および36と、電気相互接続構造体39a、39bおよび39cとは、誘電材料11の上面にある導電性シリコン10の層と同一の層から作られる。電気相互接続構造体39a、39bおよび39cは、ダイヤフラム32の周りの4つの固定櫛形フィンガ構造35のすべてを電気的に接続する。アンカー37および38は、集積オンチップIC回路のための、或いはトランスデューサにハイブリッドパッケージが必要な場合は結合パッドのための、電気接続点として使用される。サブミリメートルサイズまたはミリメートルサイズのダイヤフラムについては、十分な数の可動櫛形フィンガ36をダイヤフラムの縁部に形成することにより、先行技術の平行平板構造により実現される静電容量と同等の、ピコファラッドの作用静電容量を得ることが可能である。
【0026】
アンカー37と38の間に作動電圧が加えられると、固定櫛形フィンガ35と可動フィンガ36との間に高電界が形成される。結果として生じる静電力がダイヤフラム32を駆動して、音圧波を生成する。弾力性のあるヒンジ29a、29b、29cおよび29dは、多くの先行技術のデバイスで共通である、放物線状の変形の代わりにダイヤフラム32のピストン運動を維持する。ダイヤフラム32上のエッチング穴20a、20b、20cおよび20dは、より優れた高周波応答を得るためにダイヤフラム32の質量を低減するためのものである。トランスデューサは、トランスデューサのダイヤフラム32がキャリアウェハ12の空洞40上に吊り下げられた状態で支持されているため、バックプレートを有していない。
【0027】
上記の作動モードの実施形態と、その前に説明した検知モードの実施形態とを比較することにより、いくつかの差を示すことができる。作動モードの実施形態では、外側周辺縁は、ダイヤフラム32が空洞12を単に部分的に覆うように、空洞12の内側周辺縁内に存在する。加えて、固定櫛形フィンガ35は、その前に説明した実施形態の場合より高さが高い。これらの差は、以下により詳細に説明されるように、作動モードにおける性能を向上させることを意図している。
【0028】
製造
図2から図11は検知または作動デバイスのどちらかを製造するために使用される、主プロセスの工程を示している。
【0029】
静電容量トランスデューサを製造するための一般的な工程は、第1に、一連の可動フィンガおよび一連の固定フィンガのうちの一方の位置を画定するために、基体上に付着される層上に第1エッチングマスクを適用することを含む。本体およびばねの位置はまた、第1マスクにより画定される。次に、第2エッチングマスクは、一連の可動フィンガ、一連の固定フィンガ、本体およびバネの位置を決めるために適用され、本体は一連の可動フィンガおよびばねに接続され、一連の可動フィンガは一連の固定フィンガに相互に入り込む。第2エッチングマスクはつぎに、層および第1エッチングマスクをエッチングするために使用される。第2エッチングマスクは除去され、層は次に、一連の可動フィンガおよび一連の固定フィンガのうちの一方が、一連の可動フィンガおよび一連の固定フィンガのうちの他方より短くなるように、第1エッチングマスクを使用してエッチングされる。本体、ばねおよび一連の可動フィンガは、本体へ力を加えると、本体が基体と平行に動くように、エッチングを用いて切り離される。様々な実施形態を実現するためのこのプロセスにおける変形例は、以下の説明から明らかにされるであろう。
【0030】
図2はトランスデューサに用いるウェハを示している。このようなウェハを作るためのプロセスはここに説明されていない。層10は、好ましくは単結晶バルクシリコンまたは低応力のポリシリコンなどの導電性材料の層である。層11は、酸化物または窒化物などの誘電材料の層である。キャリアウェハ12の材料は、通常のシリコンまたはガラスである。基体はまた、任意のSOI(絶縁物の上のシリコン)ベンダから購入することができる。様々な材料を使用できるが、SOI構造のウェハは第1の実施形態のプロセスを説明するために使用される。
【0031】
図3は、ウェハの上面および底面上に酸化物13および16の層を成長させた後のSOIウェハを示している。熱酸化プロセスは酸化物を成長させるために使用される。図4は、KOH(水酸化カリウム)またはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)内でのシリコン異方性エッチングと、その後にSOIウエハの上面を保護して行なわれた緩衝HF(フッ化水素酸)溶液内での酸化物エッチングの後の基板を示す。空洞14は酸化物層11に形成され、空洞40はキャリアシリコンウェハ12に形成される。空洞40はまた、シリコンの深い反応性イオンエッチング(DRIE)などの任意の他の異方性エッチング方法を用いてエッチングされる。
【0032】
垂直櫛形駆動構造を形成するための重要な処理は、固定フィンガ35と可動フィンガ36の完全な位置合わせを保証することである。両方のフィンガが位置合わせされていないと、1つの可動フィンガとこれに隣接する2つの固定フィンガとの間の空隙またはその逆の空隙(1つの固定フィンガとこれに隣接する2つの可動フィンガとの間の空隙)が等しくなり、この結果、フィンの右側および左側において異なる静電力が作用して、可動フィンガ36の横方向の運動を発生させる。この望ましくない横方向の運動は、櫛形駆動構造の動作不良を引き起こす。
【0033】
製造工程は、垂直櫛形駆動構造を微細加工するためにセルフアライメントプロセスを適用する。図5は、SOIウェハの上面における酸化物層のパターン形成を示している。酸化物のパターン形成は、通常のリソグラフィおよびRIE(反応性イオンエッチング)などの酸化物エッチングプロセスを用いて実行される。可動フィンガ上に酸化物22のパターンが形成される。領域17a、17b、17c、17d、18a、18b、18cおよび18dには、アンカー37および38のためのパターンが形成される。領域21a、21bおよび21cには、電気相互接続構造体39のためのパターンが形成される。領域201a、201b、201cおよび201dには、ダイヤフラム32上にシリコンの穴20を形成するために、酸化物が存在しない。
【0034】
図6aは、フォトレジストパターン形成後の図5に示したSOIウェハを示している。このリソグラフィ工程は、可動フィンガおよびヒンジの形状を画定し、図5に示した酸化物パターンを再画定する。プロセス中の予想される大きな整列の許容差に対応するために、図5の酸化物パターンの幾何寸法は、望ましいデバイスの形状寸法より大きい。図6aに示した櫛形フィンガ25および27ならびにヒンジ26の部分Cの拡大斜視図が図6bに示されている。可動櫛形フィンガ36、固定櫛形フィンガ35、ダイヤフラム32、ならびにヒンジ29a、29b、29cおよび29dの最終形状は、それぞれ、フォトレジスト25、27、23および26により適切に画定される。酸化物層13の余分の酸化物24は、この後の酸化物RIEプロセスにより除去される。図7は、酸化物RIEエッチングプロセス後の図6におけるSOIウェハを示している。図7aに示した櫛形フィンガ25および27ならびにヒンジ26の部分Dの拡大斜視図は、図7bに示されている。
【0035】
パターン形成されたフォトレジスト層は、第1シリコンDRIEエッチングに対するエッチングマスク材料として使用される。酸化物層11は第1シリコンDRIEに対するエッチング停止層として使用される。図8は第1シリコンDRIE後の基体を示している。
フォトレジストは第1シリコンDRIEエッチング後に除去される。図9bは、図9aに示される櫛形フィンガ28および30ならびにヒンジ29aの部分Eの拡大斜視図である。ヒンジ29aおよび固定櫛形フィンガ28は上面に酸化物を有していないが、可動フィンガ30およびダイヤフラム32は上面に、後続の第2シリコンDRIEエッチングのための酸化物を有する。第2シリコンDRIEエッチングにより、下側の固定櫛形フィンガ、弾力性のあるヒンジ29a、29b、29cおよび29dならびに穴20が形成される。図10bは、図10aに示した櫛形フィンガ28および30、ならびにヒンジ29aの部分Fの拡大斜視図を示している。
【0036】
緩衝HFによるエッチング後は、ダイヤフラム32、ヒンジ29a、29b、29cおよび29dならびに可動櫛形フィンガ36は、酸化物層11を除去された形である。完成したトランスデューサは図11および図1に示される。ここに説明された微細加工プロセスは、標準的なIC COMSプロセスと一体化するためのプロセスを含まない。しかし、当業者にとってこのような一体化を達成することは極めて容易である。図12は櫛形フィンガの構成が異なる、第2の実施形態によるマイクロホンの断面斜視図を示している。図1および図11では、可動フィンガ35は固定フィンガ36より高さが高いのに対して、図12では、可動フィンガ35と固定フィンガ36とはオフセット(offset)されている。一連のフィンガをもう一方の一連のフィンガより高さを高くしても、または高位置に配置してもよい。オフセットされたフィンガは製造するのはより困難であるが、より大きな効果的な運動範囲を有し、または作動モードにおいてより消費電力が少ない。
【0037】
図13を参照すると、櫛形フィンガ35と36の間の空隙41と、ヒンジ29a、29b、29cおよび29dと櫛形フィンガ36との間の空隙42とをそれぞれ約2μmとすることにより、トランスデューサの低周波応答に対して十分な抵抗を提供する。現在の微細加工技術を用いて空隙41および42に対して2μmが達成可能であれば、ダイヤフラム32とキャリアウェハ12間に示される長い空気流路33は不要になる。
【0038】
デバイスがマイクロスピーカとして使用されることを意図している場合、作動中にダイヤフラム32のより大きな並進により、小型のシリコンマイクロスピーカからより高い音波の圧力レベルを生成することが好ましい。そのため、図14に示されるようにより厚いシリコン層10を使用して、固定フィンガ35と可動フィンガ36との高さの差がより大きくなるようにしなければならない。このようにすると、固定フィンガ35と可動フィンガ36間の、より大きな静電力および対応するより大きな作動並進運動が期待される。より大きなシリコンの空洞40はまたキャリアウェハ12に形成され、そのため、ダイヤフラム32は、機械的な妨害なく、より大きな上下の並進運動を得る。小型のマイクロスピーカの実施形態は図14に示されている。
【0039】
シリコン製のマイクロスピーカの利点の1つは、静電駆動のため、電力消費がより少ないことである。加えて、同一のヒンジの設計では、固定櫛形フィンガと可動櫛形フィンガとがオフセットされるように、固定櫛形フィンガと可動櫛形フィンガと間の重なり領域を低減することにより、シリコン製マイクロスピーカに対する駆動電圧を更に下げることができる。この理由は、固定櫛形フィンガと可動櫛形フィンガ35および36との間の重なり領域における電界が、ダイヤフラム32の構造的な動きを妨げるからである。固定櫛形フィンガ35と可動櫛形フィンガ36との間の重なり領域を低減するための1つの方法は、設計されたSOIウェハの製造中に、固定櫛形フィンガ35の下側部分をエッチングで取り除くことである。例えば、デバイス層は、キャリアシリコンウェハに接合される前に事前にエッチングされてもよい。図15および図16は、固定櫛形フィンガ35または可動フィンガ36のどちらかの下側部分がエッチングで取り除かれている実施形態を示している。
【0040】
別の代替の実施形態は図20に示されており、この実施形態は、N型基体と複数のP型構造とで構成されている。図17の通常のN型シリコンウェハ18はトランスデューサの出発材料である。P++シリコン49の層は、図18に示されるように、エピタキシャル成長またはドーピング/拡散または注入/拡散のいずれかによりN型シリコン48の上面に形成される。P++シリコン49はトランスデューサを形成するために使用される。図19を参照すると、KOHまたはTMAHのどちらか一方でのシリコン異方性エッチングによってダイヤフラム50を形成するために、P++シリコン49をシリコンエッチング停止層として使用している。このシリコン異方性エッチングは、N型基体18をエッチングするが、P++シリコン49をエッチングしない。
【0041】
図20に示される実施形態は、図3〜図11を参照して上記に説明されたセルフアライメントプロセス方法を使用して形成される。固定櫛形フィンガ35は、N型層とP型層の間で形成されるPN接合により、可動櫛形フィンガ36およびダイヤグラム32から電気的に絶縁される。この実施形態に基づいて作られるトランスデューサは、ウェハのコストを低減し、IC CMOSプロセスとの統合に対する適応性を増す。
【0042】
本特許文献において、用語の「備える(comprising)」は、非限定的な意味において使用され、この用語に続く項目が含まれるが、特別に言及されていない項目が除外されないことを意味する。不定冠詞「a」による要素の参照は、文脈が1つおよびただ1つの要素が存在することを明確に要求しない限り、1つ以上の要素が存在する可能性を排除しない。
【0043】
特許請求の範囲において定義される精神および範囲から逸脱することなく説明した実施形態に対して変更が可能であることは、当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0044】
12 基体
29a、29b、29c、29d ヒンジ
32 ダイヤフラム
35 固定櫛形フィンガ
36 可動櫛形フィンガ
40 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の可動フィンガおよび一連の固定フィンガのうちの一方の位置を画定するために、層上に第1エッチングマスクを適用する工程であって、前記層は基体上に設けられる工程と、
前記一連の可動フィンガ、前記一連の固定フィンガ、本体およびばねを画定するために、第2エッチングマスクを適用する工程であって、前記本体は前記一連の可動フィンガおよび前記ばねに接続され、前記一連の可動フィンガは前記一連の固定フィンガと相互に入り込む、工程と、
前記第2エッチングマスクを使用して前記層および前記第1エッチングマスクをエッチングする工程と、
前記第2エッチングマスクを除去する工程と、
前記一連の可動フィンガと前記一連の固定フィンガとのうちの一方が、前記一連の可動フィンガと前記一連の固定フィンガのもう一方より短くなるように、前記エッチングされた第1エッチングマスクを使用して前記層をエッチングする工程と、
力が前記本体に加わったときに、前記本体が前記基体に対して平行に動くように、前記本体、前記ばねおよび前記一連の可動フィンガをエッチングを用いて分離する工程と、
を備える静電容量トランスデューサの製造方法。
【請求項2】
エッチングは深い反応性イオンエッチング(DRIE)を含む、請求項1に記載の静電容量トランスデューサの製造方法。
【請求項3】
前記層はシリコンウェハであって、前記シリコンウェハは、融着、陽極接合およびエポキシ樹脂接着のうちの1つを使用して前記基体に接合される、請求項1又は2に記載の静電容量トランスデューサの製造方法。
【請求項4】
前記層は、p型材料の層であって、前記基体はn型材料からなり、前記層はドーピング、注入および堆積のうちの1つによって前記基体に設けられる、請求項1〜3のいずれかに記載の静電容量トランスデューサの製造方法。
【請求項5】
前記本体および前記ばねの前記位置は前記第1エッチングマスクにより画定される、請求項1〜4のいずれかに記載の静電容量トランスデューサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−81185(P2013−81185A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246705(P2012−246705)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2010−549201(P2010−549201)の分割
【原出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(509180153)
【Fターム(参考)】