説明

非導通金属光沢メッキ、非導通金属光沢メッキ付電子機器用ケース、及び非導通金属光沢メッキ形成方法

【目的】樹脂加工板や樹脂加工ケースの静電破壊対策として有効な非導通金属光沢メッキ及び非導通金属光沢メッキ形成方法を提供する。
【構成】非導通金属光沢メッキは、成膜対象の基板表面に塗布乾燥して形成された第一の樹脂塗膜層と、真空中でスズ又はスズとインジウムを含む合金を加熱して前記基板上の前記第一の樹脂塗膜層の上に真空蒸着してなる極薄膜の金属光沢を有する非導通金属蒸着膜と、前記非導通金属蒸着膜の上に塗布乾燥して形成された第二の樹脂塗膜層と、を有する構成であり、前記非導通金属蒸着膜は前記第一の樹脂塗膜層の上に前記スズ又はスズとインジウムの合金のグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜が止められているので金属光沢を有しながらも非導通となって静電気が表面を通電せず、且つ電磁シールド作用を有しない特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電子機器用ケース等の樹脂加工板の表面に形成される金属光沢メッキの形成技術に関し、特に、静電気がケース表面に形成されたメッキ層を通電することによって生じるケース内等に収納された電子回路への悪影響を防止する金属光沢メッキ処理の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子回路が高密度に収納された電子機器用ケース(筺体)には、一般に、樹脂加工ケースの表面に対して、下地として紫外線樹脂コート(UVアンダーコートと称する。)が形成れ、その表面にクロムメッキ(Cr)等の導電性の金属蒸着膜が成膜され、さらにその表面に保護膜として透明樹脂コート(トップコートと称する)が形成されてなる美しい金属光沢を有するメッキ処理が施された樹脂ケースが多く用いられている。
【0003】
また、例えば、パチンコ遊技機の遊技盤上のデコレーション部材には、主に樹脂加工板の成形部材が多く用いられ、その用途に応じてキャラクター等の形状を模したもの、後方からの光源によりランプカバーとして使用するレンズ形状のもの等種々存在するが、その殆どが装飾効果を向上させるために前述と同様のクロムメッキ等の金属光沢を有するメッキ処理が施されている。
【0004】
ところで、上記電子機器等の樹脂加工ケースや樹脂加工板における金属光沢のメッキ処理に関して、ケース内の電子回路に対する静電気破壊対策を念頭にした金属蒸着膜に関する公知の特許文献は発見されず、強いて挙げれば、下記[特許文献1]に静電気の影響による薄膜トランジスタの絶縁破壊や性能低下を防止する技術が開示されているに留まる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−181516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯電話を典型とする携帯電子機器では、人体に蓄積された静電気が携帯電子機器のケースに触れた途端に放電して、電流がクロムメッキやアルミメッキ等のメッキ処理された機器の樹脂加工ケースの金属蒸着膜(導体)を通電して機器内部に達し、内部に収納されている電子回路基板上の高密度実装された電子回路の制御に影響を与えたり、最悪の場合は電子回路を破壊する恐れがあることが指摘されている。
【0007】
図9及びそれを拡大した図10は携帯電話の樹脂加工ケースのクロムメッキされた表面に静電気が放電した後の状態を示す写真を複写した図である。本図より静電気がケース表面をクロムメッキを破壊しつつ四方八方に通電していることが判る。
【0008】
以下、従来製法に基づく上記クロムメッキやスズメッキ等の金属蒸着膜の構造を微視的に考察する。
【0009】
図11は従来技術による樹脂加工ケースの基板1の表面のアンダーコート(第一の樹脂塗膜層2)上に形成された従来のスズの真空蒸着による金属蒸着膜11の成膜状態を微視的に説明するための模式図であり、図12は従来技術のイオンプレーティング法によるスズの金属蒸着膜12の成膜状態を微視的に説明するための模式図である。また、図2の(b)は導通膜とした真空蒸着による金属蒸着膜11(スズ)の表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図であり、(c)はイオンプレーティングによるスズの金属蒸着膜12の表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図である。
【0010】
図11及び図2の(b)の金属蒸着膜11においては、真空蒸着法によって樹脂加工ケース(基板1)の表面のアンダーコート(第一の樹脂塗膜層2)上にスズSnのグレイン8(金属粒)が成長しつつ積層して各々が積み重なり、金属膜として連続してつながる状態(図11の左右方向に導通する状態)までに成膜されている。
【0011】
また、図12及び図2の(c)のスズの金属蒸着膜12においては、イオンプレーティング法の高周波プラズマの印加によってスズの小さなグレイン9が密集して成膜しているために小さなグレイン9同士の接触面積が大きくなって同じく導通状態にある。
【0012】
以上のように従来の携帯電話を典型とする携帯電子機器の樹脂加工ケース(基板1)の表面の金属メッキ処理によって形成されたアルミ、クロム、スズ等の金属蒸着膜は通常は導電性を有しており、ケースとの密着性を高めるために多くはイオンプレーティング法を適用して0.1μm以上の厚さに形成されているのが一般である。而して、上述の静電気の放電に起因する電子回路への悪影響の問題が浮上してくるのである。
【0013】
また、携帯電話等の樹脂加工ケースの表面に施されたクロムメッキ等の金属光沢メッキは上記のように導電性を有するために、電気的シールド作用、磁気的シールド作用を少なからず有しており、電波の送受信や内部に収納された電子回路の動作に悪影響を与える可能性がある。
【0014】
一方、例えば、前述のパチンコ遊技機では、遊技盤上を動き回るパチンコ玉(鋼球)が帯電して前記金属メッキ処理された樹脂加工板のデコレーション部材に接触して静電気が放電すると、その電荷が金属メッキされた表面を通電してノイズが前記デコレーション部材の背面側に置かれた電子制御回路に入り込み、パチンコ遊技機の制御に悪影響を及ぼす恐れのあることが報告されている。
【0015】
以上のような静電気のもたらす問題点に関して、静電気対策を念頭にした上記[特許文献1]の発明は、導電性の薄膜に関するものであり、薄膜トランジスタの基板の表面に静電気が帯電しないように導電性膜でアースするという思想に基づくものであって、本願の対象とする樹脂加工ケース等の金属メッキ処理とは全く異なる別分野の技術であり、金属光沢メッキ付樹脂加工板や金属光沢メッキ付樹脂加工ケースの静電気対策として有益な資料は得られない。
【0016】
そこで、本発明は、各種電気・電子機器の樹脂加工ケース等として金属光沢を有しながら内部或いは背面側に置かれた電子回路に対する静電気の悪影響を防止し、また、電磁シールド作用のない非導通の金属光沢メッキを成膜する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、
(1) 成膜対象の基板表面に塗布乾燥して形成された第一の樹脂塗膜層と、真空中でスズ又はスズとインジウムを含む合金を加熱して前記基板上の前記第一の樹脂塗膜層の上に真空蒸着してなる金属光沢を有する非導通金属蒸着膜と、前記非導通金属蒸着膜の上に塗布乾燥して形成された第二の樹脂塗膜層と、を有することを特徴とする非導通金属光沢メッキを提供する。
(2) また、樹脂を成形加工して成る電子機器用ケースであって、その表面又は表面と内面に第一の樹脂塗膜層が形成され、前記第一の樹脂塗膜層の上にスズ又はスズとインジウムを含む合金を真空蒸着してなる金属光沢を有する非導通金属蒸着膜が成膜され、前記非導通金属蒸着膜の上に第二の樹脂塗膜層が形成されてなる非導通金属光沢メッキを有することを特徴とする非導通金属光沢メッキ付電子機器用ケースを提供する。
(3) さらに、樹脂加工板の表面又は表面と裏面に対して、第一の樹脂塗膜層を塗布乾燥して形成し、真空蒸着炉中でスズ又はスズとインジウムを含む合金のペレットを加熱して前記樹脂加工板に形成された前記第一の樹脂塗膜層の上に前記スズ又はスズとインジウムの合金を真空蒸着させ、そのグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜を止めることにより、金属光沢を有するとともに非導通の非導通金属蒸着膜を形成し、さらに、前記非導通金属蒸着膜の上に第二の樹脂塗膜層を塗布乾燥することを特徴とする非導通金属光沢メッキ形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る非導通金属光沢メッキ、非導通金属光沢メッキ付電子機器用ケースでは、上記のように樹脂加工板等の基板表面に形成された第一の樹脂塗膜層(アンダーコート)上に成膜された金属蒸着膜が非導通であるために、静電気が電子機器用ケースをはじめとする樹脂加工板上の表面の金属蒸着膜層に放電しても、その影響が発生した箇所だけに留まって、気中放電してしまうために、電荷が樹脂ケース内や樹脂加工板の金属メッキ面の裏面側に置かれた電子回路等に入り込まず、静電気の放電に起因する電子制御回路等の制御、故障、破壊等の現象を防止できる。
【0019】
また、上記非導通金属光沢メッキは、電気的シールド作用や磁気的シールド作用を持たず、磁場や電場、電磁波に対して何ら影響を与えないので、携帯電話等の樹脂ケースに金属光沢を得るために成膜しても、電波の送受信が悪くなるといった電磁シールド作用に起因する不具合が回避される。
【0020】
また、本発明に係る非導通金属光沢メッキ形成方法では、上記のように樹脂加工板の表面又は表面と裏面に対して、そのアンダーコート上に真空蒸着によってスズ又はスズとインジウムの合金のグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜を止める処理を行っているので、薄膜でありながら外観上は美しい金属光沢を有するとともに非導通の金属蒸着膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る非導通金属光沢メッキ、非導通金属光沢メッキ付電子機器用ケース及び非導通金属光沢メッキ形成方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお、本発明に係る非導通金属光沢メッキのメッキ処理プロセス及びそのサンプルを以降はMDプロセス、MDとも略称する。
【0022】
図1は本発明に係る非導通金属光沢メッキの非導通金属蒸着膜の成膜状態を微視的に説明するための模式図である。図2の(a)は本発明に係る非導通金属光沢メッキ(スズメッキ)の表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図であり、図3の(a)〜(d)は静電破壊試験による携帯電話の各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの表面の静電気放電後の写真を複写した図である。図4は各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの電気シールド特性を示す図であり、図5は各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの磁気シールド特性を示す図である。図6は本発明に係る非導通金属光沢メッキ形成方法における真空蒸着炉中の治具の構成を表す正面図であり、図7はその蒸着自公転治具を真上から見た図であり、図8は蒸着回転治具とワーク(メッキ対象の携帯電話の樹脂加工ケース)を取り付けた状態を表す図である。
【0023】
図1及び図2の(a)において、本発明の非導通金属光沢メッキ10は、成膜対象の基板1の表面に塗布乾燥して形成された第一の樹脂塗膜層2(例えば、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂或いはウレタン樹脂などの塗膜層)と、真空中でスズ(Sn)又はスズ(Sn)とインジウム(In)を含む合金を加熱して前記基板1上の前記第一の樹脂塗膜層2の上に真空蒸着してなる厚さt=0.01μm〜0.05μmの金属光沢を有する非導通金属蒸着膜3と、前記非導通金属蒸着膜3の上に塗布乾燥して形成された第二の樹脂塗膜層4(第一の樹脂塗膜層2と同様に、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂或いはウレタン樹脂などの塗膜層)と、を有する特徴的な3層構造となっている。
【0024】
即ち、従来の携帯電話等の電子機器の樹脂加工ケースに施された金属光沢メッキでは、そのアンダーコート上に成膜された金属蒸着膜の厚さが概ね0.1μm程度或いはそれ以上であり、図11や図12に示されるように、グレイン8、9が連続してつながっているので導電性を有して静電気を通電するのに対し、前記非導通金属蒸着膜3は図1の模式図のように、真空蒸着法によってスズ又はスズとインジウムの合金のグレイン3が対象となる基板上に、各々が縦に積み重なり、徐々に横にも拡がって金属膜として横方向に互いに連続してつながる前に非導通の状態で成膜を止めることによって形成されている。
【0025】
而して、各々基板1の第一の樹脂塗膜層2に対して積層されたグレイン5は横方向には互いに連続して接続しておらず島状態になっていて、微視的に見れば図2の(a)のように斑な状態にある。この非導通状態の金属蒸着膜は、従来の前記金属蒸着膜11、12よりも薄いものの、外観的には十分に実用的な金属光沢面が得られるのである。なお、前記第二の樹脂塗膜層4(トップコート)が透明保護膜としてこの非導通金属蒸着膜3の金属光沢面を保護している。
【0026】
ここに、上記非導通金属蒸着膜3の膜厚t=0.01μm〜0.05μmの範囲は本発明者が鋭意研究によって得られたものであり、スズ又はスズとインジウムの合金を素材とする金属蒸着膜が真空蒸着法によって実用的な美しい金属光沢面を有しつつ非導通蒸着膜となるための好ましい条件である。
【0027】
即ち、本発明者の試験によれば、スズの蒸着膜の形成は、膜厚tが薄いと非導通で外観として色味が青っぽく、膜厚が厚くなるにつれて黒っぽい外観から白っぽい外観となって導通し、さらに厚くなると光沢がなくなって白く曇ってしまうのであり、スズの金属蒸着膜3の膜厚tが0.01μm〜0.05μmの範囲であれば、非導通でありながらやや黒味を帯びた好ましい金属光沢が得られることが判明した。
【0028】
なお、本発明が蒸着金属としてスズ或いはスズとインジウムの合金を用いるのは、主としてスズが金属光沢として光の反射が高く、安価であり製造コストに見合うこと及び低温で溶融する点で膜厚のコントロールが比較的容易に行えることに拠る。なお、高純度のインジウムは銀白色でやわらかく、融点が156.6℃と低い易融合金として本非導通金属蒸着膜3のスズとの合金に適合的である。このスズとインジウムの合金の組成(重量割合)は任意であり、1:1でも、1:99でも非導通金属蒸着膜3の成膜は可能であり、製造コストの面と要求される金属光沢の色味との兼ね合いで適宜決定されるべきである。
【0029】
上記非導通金属蒸着膜3の膜厚に関して、下記[表1]と[表2]に本MDプロセスのサンプルMD−TP1〜MD−TP6の6個と、比較対象として従来の一般的なアルミ蒸着膜のサンプルAl−TP1〜Al−TP6の6個の触針式表面形状測定装置(アンビオス社製XP−2型)を用いた各金属蒸着膜の膜厚測定結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

表1より、本発明の非導通金属蒸着膜3の膜厚tの適正値がt=0.01μm〜0.05μmの範囲内であることが判る。
【0032】
また、本発明者の試験によれば、蒸着は真空蒸着法で行われるのが好ましく、蒸着膜形成に一般的に用いられている高周波をかけてプラズマを発生させた中で膜形成が行われる金属膜の密着性に優れるといわれるイオンプレーティングの手段によると、図に示されるように金属(スズ)のグレインが小さくなって密集しているためにグレインの接触面積が多く、電気抵抗が比較的小さくなるので、本MDプロセスには不適である。
【0033】
次に、成膜された金属蒸着膜の非導通/導通に関して、以下の[表3]、[表4]、[表5]にそれぞれ本発明の非導通金属光沢メッキのサンプル2個及び参考比較対象としてのポリカーボネイト(絶縁体)の表面抵抗の測定結果(ヒューレットパッカード社製抵抗測定器4329A使用)と、従来のスズの蒸着膜のサンプル2個と、アルミ蒸着膜のサンプル3個の表面抵抗の測定結果(共和理研社製抵抗測定器K−705RS使用)を示す。なお、表中の「トップ無し」とは第二の樹脂塗膜層(トップコート)が成膜されていない状態をいう。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

上記測定結果より、従来金属メッキとして用いられてきたアルミ及びスズの一般的な金属蒸着膜では、数Ω単位の抵抗値だったのに対し、本MDプロセス(トップ無し)のサンプルの抵抗値は1014Ω、ポリカーボネイト素材は>1018Ωという結果であった。なお、参考比較対象のポリカーボネイトの抵抗値は測定器の限界値であり真の抵抗値ではない。
【0037】
上記結果から、スズ、アルミ等の従来の一般的な金属蒸着膜は導体膜であり、本MDプロセスの金属蒸着膜は非導通膜といってよいことが判る。
【0038】
次に、静電破壊試験を本MDプロセスのサンプルとクロムスパッタ膜とアルミ蒸着膜のサンプルについて行ったところ、図3の(a)〜(d)の各放電箇所の拡大写真の複写図に示されるように、(a)クロムスパッタ膜(導通膜)では、気中放電(30kV)でクロム層を破壊しつつ表面をスパークして電荷が走っており、樹脂加工ケースの合わせ目から電荷が侵入し、内部の電子回路を破壊する可能性がある。また、(b)アルミ蒸着膜(導通膜)では気中放電せずに、接触放電(30kV)してアルミ蒸着膜を通してアースに落ちており、ケース、カバーの合わせ目から電荷が侵入して内部の電子回路を破壊する可能性がより高いと考えられる。本発明のスズの非導通蒸着膜では、(c)接触放電(30kV)では接触部分のスズが残り、その周りが少し破壊しているが広がりは小さく、(d)気中放電(30kV)では静電気が当たった箇所だけスズの蒸着膜が破壊されているが他の領域には影響ない。
【0039】
以上から、本MDプロセスの前記非導通金属蒸着膜3では、静電気のスパークが当たった箇所のメッキ部分だけ破壊するが、中の電子回路には影響を与えないことが確認された。
【0040】
即ち、本発明では真空蒸着法によってスズ又はスズとインジウムの合金のグレイン(金属粒)が成膜対象となる基板1上に形成された第一の樹脂塗膜層2(アンダーコート)上に、図1のように各々が積み重なり、金属膜として連続してつながる前に成膜を止めることによって製作されており、結果として、静電気が基板1上に放電しても、その影響が放電した箇所近辺だけに留まり、気中放電してしまうために、樹脂加工ケース等の樹脂成形部材の反対面側にある電子回路等に電荷が入り込まず、静電気に起因する電子回路等の制御、故障、破壊といった悪影響が防止されるのである。
【0041】
次に、本発明に係る上記非導通金属蒸着膜3と比較参照の他の蒸着膜等の各電磁波シールド特性を調べると、図4、図5のような測定結果のグラフが得られた。
【0042】
ここに電界シールドとは静電気を遮ることと考えてよい。図4のグラフ中のアルミ2mmは厚さ2mmのアルミ板の測定値であるが、真のシールド性能ではなく測定器の測定限界なので、この線に近いほどシールド効果が高いことになり、0dBに近いほどシールド効果が少ないことになる。
【0043】
然るに、図4から明らかなように、本発明に係る非導通膜と絶縁体のポリカーボネイトは0dBに重なっていて電界のシールド効果はなく、スズの導通膜とアルミ一般蒸着膜は、アルミ2mmほどではないがそこそこの電界シールド効果を得ていることが判る。
【0044】
また、図5の磁界のシールド特性(電流が流れる際に発生する磁界(磁力線)を遮る作用)についての測定結果のグラフから明らかなように電界のシールド特性とほぼ同様の関係であることが判る。
【0045】
以上から、本発明に係るスズ又はスズとインジウムを含む合金を真空蒸着してなる金属光沢を有する非導通金属蒸着膜3には、電界、磁界のシールド作用が殆どなく、この特徴によって携帯電話等の電波を送受信する電子通信機器の樹脂加工ケース(筺体)や電子回路の至近距離に使用する部材に金属調の外観が求められる場合に何ら電子回路に影響を与えないで済むという利点があることが判る。
【0046】
なお、上述の実施の形態は携帯電話の樹脂加工ケースを成膜対象の基板1としているが、勿論、前述のパチンコ遊技機の樹脂加工板からなるデコレーション部材の表面も成膜対象とできることは言うまでもない。さらに、この成膜対象の基板1は樹脂加工板以外の素材であってもよい。例えば、金属基板に絶縁膜として第一の樹脂塗膜層2をアンダーコートとして厚塗りし、その上に前記非導通蒸着膜3を成膜してもよいし、成膜対象がセラミック基板であってもよい。
【0047】
次に、本発明に係る上記携帯電話の樹脂加工ケースを典型とする樹脂加工板等の基板1への前記非導通金属光沢メッキ10の形成方法は、先ず、樹脂加工板1の表面又は表面と裏面に対して、第一の樹脂塗膜層2をスプレー等で塗布して熱風乾燥して形成し、真空蒸着炉中でスズ又はスズとインジウムを含む合金のペレットをフィラメントで加熱して前記樹脂加工板1に形成された前記第一の樹脂塗膜層2の上に金属光沢を有するとともに前記スズ又はスズとインジウムの合金のグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜を止める用に蒸着温度、蒸着時間、前記ペレットとワーク(成膜対象の樹脂加工板1)との距離を適宜設定して膜厚tをコントロールすることにより非導通状態の非導通金属蒸着膜3を真空蒸着させ、さらに、前記非導通金属蒸着膜3の上に保護膜として第二の樹脂塗膜層4(トップコート)をスプレー等で塗布し乾燥して形成することを特徴とする。
【0048】
本発明者の試験では、図6の側面図、図7の平面図に示されるような形状の蒸着自公転治具20に立てた電極棒21に取り付けた複数のるつぼ形タングステンフィラメント22にペレットのスズ線(約0.3g)を入れ、その周りに垂設した9本の蒸着治具23に対象のワークを図8の取付図に示されるようにワークWを取付治具24(8個付け治具)に取り付けて自公転させながら8×10−5Torr程度に真空中で余熱の後180秒程度蒸着を行うことにより、非導通金属蒸着膜3がワークWの表面に形成することができる。
【0049】
なお、スズ又はスズとインジウムの合金のペレットの量、ワークWとペレットの距離、フィラメントの形状、加熱条件等は個々の真空蒸着炉の特性に依存するので、予めの試験・調整が必要である。一般的には、通常の金属光沢メッキに要する条件よりも薄い膜厚となるように緩やかな蒸着の成膜条件になるように調整を行うことが望ましい。
【0050】
以上、詳述したように、本発明はスズやインジウムが沸溶解温度が低いことや金属光の反射が高いという性質に着目するとともに、極薄膜で微視的に見て島状積層が持続しやすいという性質を見出すことにより、非導通膜でありながら優れた金属光沢(メタル感)が得られて、静電気を拡散させにくい性質を併せ持つ非導通金属蒸着膜を持つ非導通金属光沢メッキを実現したのである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る非導通金属光沢メッキの非導通金属蒸着膜の成膜状態を微視的に説明するための模式図である。
【図2】(a)は本発明に係る非導通金属光沢メッキ(スズメッキ)の表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図であり、(b)は膜厚を厚くして導通膜とした従来の金属光沢メッキ(スズメッキ)の表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図であり、(c)は従来のイオンプレーティングによるスズメッキの表面を原子間力顕微鏡によって表面観察した写真の複写図である。
【図3】(a)〜(d)は静電破壊試験による携帯電話の各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの表面の静電気放電後の写真を複写した図である。
【図4】各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの電気シールド特性を示す図である。
【図5】各種金属光沢メッキ処理された樹脂加工ケースの磁気シールド特性を示す図である。
【図6】本発明に係る非導通金属光沢メッキ形成方法における真空蒸着炉中の治具の構成を表す正面図である。
【図7】真空蒸着炉中の蒸着自公転治具を真上から見た図である。
【図8】蒸着回転治具とワーク(メッキ対象の携帯電話の樹脂加工ケース)を取り付けた状態を表す図である。
【図9】携帯電話の樹脂加工ケースのクロムメッキされた表面に静電気が放電した後の状態を示す写真を複写した図である。
【図10】携帯電話の樹脂加工ケースのクロムメッキされた表面に静電気が放電した後の状態を示す拡大写真を複写した図である。
【図11】従来の真空蒸着による金属蒸着膜の成膜状態を微視的に説明するための模式図である。
【図12】従来のイオンプレーティングによる金属蒸着膜の成膜状態を微視的に説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 第一の樹脂塗膜層
3 非導通金属蒸着膜
4 第二の樹脂塗膜層
5、8、9 グレイン
10 非導通金属光沢メッキ
11 従来のスズの真空蒸着による金属蒸着膜
12 従来のイオンプレーティング法によるスズの金属蒸着膜
20 蒸着自公転治具
21 電極棒
22 るつぼ形タングステンフィラメント
23 蒸着治具
24 取付治具(8個付け治具)
t 厚さ
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象の基板表面に塗布乾燥して形成された第一の樹脂塗膜層と、真空中でスズ又はスズとインジウムを含む合金を加熱して前記基板上の前記第一の樹脂塗膜層の上に真空蒸着してなる金属光沢を有する非導通金属蒸着膜と、前記非導通金属蒸着膜の上に塗布乾燥して形成された第二の樹脂塗膜層と、を有することを特徴とする非導通金属光沢メッキ。
【請求項2】
樹脂を成形加工して成る電子機器用ケースであって、その表面又は表面と内面に第一の樹脂塗膜層が形成され、前記第一の樹脂塗膜層の上にスズ又はスズとインジウムを含む合金を真空蒸着してなる金属光沢を有する非導通金属蒸着膜が成膜され、前記非導通金属蒸着膜の上に第二の樹脂塗膜層が形成されてなる非導通金属光沢メッキを有することを特徴とする非導通金属光沢メッキ付電子機器用ケース。
【請求項3】
樹脂加工板の表面又は表面と裏面に対して、第一の樹脂塗膜層を塗布乾燥して形成し、真空蒸着炉中でスズ又はスズとインジウムを含む合金のペレットを加熱して前記樹脂加工板に形成された前記第一の樹脂塗膜層の上に前記スズ又はスズとインジウムの合金を真空蒸着させ、そのグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜を止めることにより、金属光沢を有するとともに非導通の非導通金属蒸着膜を形成し、さらに、前記非導通金属蒸着膜の上に第二の樹脂塗膜層を塗布乾燥することを特徴とする非導通金属光沢メッキ形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−281726(P2006−281726A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108443(P2005−108443)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(301051493)株式会社萬年 (1)
【出願人】(503222673)ダイナテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】