音響センサ
【課題】振動電極板が対向電極板に固着して振動電極板の振動が妨げられる現象を効果的に軽減することのできる音響センサを提供する。
【解決手段】音圧に感応する振動電極板24が対向電極板25に対向し、静電容量型の音響センサを構成する。対向電極板25には、振動を通過させるための音響孔31が開口し、また振動電極板24と対向する面には複数の突起36が突設している。振動電極板24の柔軟性の高い領域に対向する対向電極板25の対向領域における隣接する突起36どうしの間隔は、振動電極板24の柔軟性の低い領域に対向する対向電極板25の対向領域における隣接する突起36どうしの間隔よりも小さい。
【解決手段】音圧に感応する振動電極板24が対向電極板25に対向し、静電容量型の音響センサを構成する。対向電極板25には、振動を通過させるための音響孔31が開口し、また振動電極板24と対向する面には複数の突起36が突設している。振動電極板24の柔軟性の高い領域に対向する対向電極板25の対向領域における隣接する突起36どうしの間隔は、振動電極板24の柔軟性の低い領域に対向する対向電極板25の対向領域における隣接する突起36どうしの間隔よりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響センサに関し、特に気体や液体中を伝搬する音圧すなわち音響振動を検出するための音響センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響センサとしては、特開2006−157863号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
この音響センサは、振動電極板(可動電極)と対向電極板(固定電極)とが微小ギャップ(空隙)を隔てて対向した構造となっている。この振動電極板は、膜厚1μm程度の薄膜によって形成されているので、音圧を受けるとその振動に感応して微小振動する。そして、振動電極板が振動すると振動電極板と対向電極板とのギャップ距離が変化するので、そのときの振動電極板と対向電極板の間の静電容量の変化を検出することにより音響振動が検出される。
【0004】
また、この音響センサは、マイクロマシニング(半導体微細加工)技術を利用して製造されており、高感度でありながらも平面視で一辺が数mm程度の微小な寸法を有している。
【0005】
しかしながら、このような音響センサでは、その製造工程や使用中において、図1に示すように、振動電極板12が対向電極板13に固着することがある(以下、振動電極板の一部又はほぼ全体が対向電極板に固着してギャップがなくなった状態、あるいはその現象をスティックと呼ぶ。)。こうして振動電極板12が対向電極板13にスティックすると、振動電極板12の振動が妨げられるので、音響センサ11によって音響振動を検出することができなくなる。
【0006】
図2(a)及び図2(b)は、音響センサ11にスティックが発生する原因を説明するための概略図であって、図1のX部に相当する部分を拡大して示したものである。音響センサ11は、マイクロマシニング技術を利用して製造されるので、例えばエッチング後の洗浄工程において振動電極板12と対向電極板13との間に水分14が浸入する。また、音響センサ11の使用中においても、振動電極板12と対向電極板13との間に湿気が溜まったり、音響センサ11が水に濡れたりする場合がある。
【0007】
一方、音響センサ11は微小な寸法を有しているため、振動電極板12と対向電極板13の間のギャップ距離は数μmしかない。しかも、音響センサ11の感度を高くするために、振動電極板12の膜厚は1μm程度に薄くなっており、振動電極板12のバネ性は弱くなっている。
【0008】
そのため、このような音響センサ11では、たとえば以下に説明するように2段階の過程を経てスティックが起きることがある。第1段階においては、図2(a)に示したように、振動電極板12と対向電極板13との間に水分14が浸入したとき、その水分による毛細管力P1ないし表面張力によって振動電極板12が対向電極板13に引き付けられる。
【0009】
そして、第2段階においては、振動電極板12と対向電極板13の間の水分14が蒸発した後、振動電極板12が対向電極板13にくっついて、その状態が保持される。水分14が蒸発した後も振動電極板12を対向電極板13に固着させて保持する力P2としては、振動電極板12表面と対向電極板13表面との間に働く分子間力、表面間力、静電気力などがある。その結果、振動電極板12は対向電極板13にくっついた状態に保持され、音響センサ11が機能しなくなる。
【0010】
なお、ここでは浸入した水分の毛細管力によって第1段階で振動電極板12が対向電極板13にくっつく場合を説明したが、水分以外の液体による場合もあり、また、大きな音圧が振動電極板に加わって振動電極板が対向電極板にくっつく場合もある。また、振動電極板が静電気を帯びて対向電極板にくっつくことで、第1段階の過程が起きる場合もある。ただし、以下においては、水分が原因となって振動電極板が対向電極板にくっつくものとして説明する。
【0011】
上記のようなスティックを軽減する方法としては、振動電極板12の弾性復元力Qを大きくし、弾性復元力Qが第1段階における水分14の毛細管力P1や第2段階における保持力P2に打ち勝って振動電極板12が元の状態に復帰するようにすればよい。振動電極板12の弾性復元力Qを大きくするには、振動電極板12の膜厚を厚くしてバネ性を高くすればよい。しかし、振動電極板12の弾性復元力Qを大きくすると、振動電極板12が振動しにくくなるので、音響センサ11の感度が悪くなるという不具合がある。
【0012】
あるいは、第1段階において毛細管力P1が振動電極板12の弾性復元力Qより小さくなるようにしてもスティックを軽減できる。毛細管力P1は振動電極板12と対向電極板13とのギャップ距離が小さいほど強くなるので、毛細管力P1を小さくするには、ギャップ距離を大きくすればよい。しかし、振動電極板12と対向電極板13の間のギャップ距離を大きくすると、音響センサ11の厚みが大きくなり、音響センサ11の微小化が妨げられることになる。また、音響センサ11の感度も低下する。
【0013】
かかる状況に鑑みて、特許文献1に開示されている音響センサでは、図3に示すように、対向電極板13の振動電極板12と対向する面に多数の突起15を設けることにより、振動電極板12と対向電極板13とのスティックを軽減している。この突起は、一般的に対向電極板全体に等間隔に配置されている。振動電極板12と対向電極板13との間の保持力P2は、両電極板12、13の接触面積と相関があることが知られており、その接触面積が小さいと保持力P2も小さくなる。従って、対向電極板13に突起15を設け、突起15をできるだけ細くすれば、振動電極板12と対向電極板13(突起15)との接触面積が小さくなり、保持力P2も弱くなるので、振動電極板12のスティックが起こりにくくなる。
【0014】
なお、非特許文献2には、マイクロ構造物では質量に対する表面積の割合が大きくなるため、部材表面間に働く表面間力が重要な役割を担うようになり、特にダイアフラムを有する微小素子では表面間力によってダイアフラムと対向基板とが付着したまま動作しなくなる場合があることが記載されている。また、非特許文献2には、カンチレバーに突起(ストッパ)を設けることによってカンチレバーの固着を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−157863号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】土屋 茂樹、外5名、“マイクロ構造における表面間力の測定と表面間力の低減”計測自動制御学会論文集、日本、計測自動制御学会、1994年発行、第30巻、第2号、第136頁〜第142頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、音響センサにおいて、振動電極板に設けた突起どうしの間隔を種々変化させて実験を繰り返した結果、突起を設けることによって振動電極板のスティックが起きないようにしようとすれば、突起どうしの間隔が適当な値となるように調整しなければならないということが分かった。
【0018】
図4(a)〜図4(c)はそれぞれ、突起15どうしの間隔が大きすぎる場合と、適切な場合と、小さすぎる場合とにおける振動電極板12の様子を模式的に表した図である。図4(b)は突起15どうしの間隔dが適切な場合を表している。この場合には、水分で振動電極板12が対向電極板13にくっついたとしても、図4(b)に2点鎖線で示すように、突起15と振動電極板12との接触面積が小さいため、水分が蒸発したときの保持力P2は振動電極板12の弾性復元力Qよりも小さくなる。よって、図4(b)に実線で示すように、振動電極板12は自己の弾性復元力Qによって元の状態に戻る。
【0019】
これに対し、図4(a)のように、突起15どうしの間隔dが適切な間隔よりも小さ場合には、突起15が細くて先端の面積が小さくても突起15の先端面の微小化には限度があるので、突起51全体としては先端面の面積の合計値は大きなものとなる。そのため、この場合には、振動電極板12がほぼ全体あるいは広い領域にわたって突起15の先端面にくっつき、振動電極板12が突起15にスティックする。なお、図4(a)のように振動電極板12が多数の突起15の先端面にくっついている状態を全体スティックと呼ぶ。
【0020】
また、図4(c)のように、突起15どうしの間隔dが適切な間隔よりも大きい場合には、振動電極板12が突起15に当接しても、隣接する突起15間に振動電極板12の一部が落ち込んで対向電極板13に接触する。こうして振動電極板12が対向電極板13にくっついた状態では、接触箇所は1箇所であっても接触面積は突起15の先端面積に比較してかなり大きくなるので、振動電極板12が対向電極板13に固着することになる。なお、図4(c)のように振動電極板12の一部が突起15間で対向電極板13にくっついている状態を局所スティックと呼ぶ。
【0021】
全体スティックと局所スティックとを比較すると、一般的には、局所スティックよりも全体スティックが起こりやすい。したがって、設計段階で突起の間隔を決める場合には、局所スティックのおそれがあっても突起の間隔は広くしておきたい。しかし、静電容量型の音響センサでは、振動電極板と対向電極板とが数μm程度の微小ギャップを介して対向しているので、振動電極板に音圧を超えるような小さな力が加わるだけで振動電極板が対向電極板に接触する。また、振動電極板は音圧で変形するほどバネ性が弱くて軟らかいので、対向電極板にくっついたときに復元力が弱い。そのため、突起の間隔が広くなった場合には、局所スティックが起きやすい構造となる。
【0022】
その結果、従来の音響センサでは、突起どうしの間隔が大きすぎても、小さすぎてもスティックが発生しやすくなり、適切な間隔となるように突起を設けることが難しかった。また、振動電極板のバネ性、突起の先端面積、液体の毛細管力、表面間力などの値を想定して適切な間隔で突起を設けてあっても、振動電極板のバネ性等の値のばらつきがあると、いずれかのスティックが発生する恐れがあった。
【0023】
なお、振動電極板に突起を設けると剛性が高くなって振動電極板が音圧で振動しにくくなるので、突起は対向電極板に設けることが多い。突起を振動電極板に設けた場合には、全体スティックは振動電極板の多数の突起が対向電極板のほぼ全体にくっついた状態であり、局所スティックは振動電極板の突起が対向電極板に当接し、振動電極板の当該突起間の部分が変形して対向電極板にくっついた状態である。
【0024】
また、突起を振動電極板又は対向電極板のほぼ全体に均等な間隔で設けた場合には、突起の密度をそれほど大きくする必要のない領域にまで数多くの突起を設けることになるので、突起の総数が大きくなる。突起が増加すると、振動電極板が対向電極板側へ近づくときに振動電極板と対向電極板との間の空気が外へ排出されにくくなり、また振動電極板が対向電極板側から遠ざかるときに振動電極板と対向電極板との間に空気が流れこみにくくなる。その結果、振動電極板が振動する際の空気抵抗が大きくなり、エアダンピングにより振動電極板の振動が抑制され、音響センサの周波数特性(特に高周波側での特性)が悪くなる。
【0025】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、振動電極板が対向電極板に固着して振動電極板の振動が妨げられる現象を効果的に軽減することのできる音響センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明にかかる音響センサは、基板に固定され、かつ、音圧に感応する振動電極板と、基板に固定され、かつ、前記振動電極板と空隙を介して対向した対向電極板とを有する音響センサにおいて、前記振動電極板又は前記対向電極板の前記空隙側の面に複数の突起を設け、前記振動電極板又は前記対向電極板における突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させ、前記振動電極板又は前記対向電極板のうち前記突起を設けた側の電極板において、前記振動電極板の柔軟性の高い領域又は前記柔軟性の高い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔が、前記振動電極板の柔軟性の低い領域又は前記柔軟性の低い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴としている。
【0027】
本発明にかかる音響センサにあっては、前記振動電極板又は前記対向電極板の空隙側の面に複数の突起を設けているので、振動電極板が変形して対向電極板に接触する際には、突起を挟んで振動電極板と対向電極板が接触することになる。その結果、振動電極板と対向電極板との実質的な接触面積を小さくでき、振動電極板のスティックを軽減できる。
【0028】
しかも、本発明の音響センサにあっては、突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させているので、隣接する突起どうしの間で振動電極板が対向電極板に固着する局所スティックや、振動電極板又は対向電極板が広い領域にわたって多数の突起に固着する全体スティックを軽減することができる。
【0029】
また、隣接する突起どうしの間隔を振動電極板又は対向電極板の全体で一定にし、かつ、隣接する突起どうしの間隔を適切な値に調整する方法では、振動電極板のバネ性がばらついたり、振動電極板と対向電極板の間に浸入した水分の毛細管力が異なったりすると、局所スティックや全体スティックが起こる恐れがある。これに対し、本発明の音響センサでは、突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させることによって振動電極板のスティックを軽減しているので、振動電極板のバネ性がばらついたり、振動電極板と対向電極板の間に浸入した水分の毛細管力が異なったりしても、局所スティックや全体スティックが起こりにくくなる。従って、隣接する突起どうしの間隔の設計値の許容範囲が広くなり、音響センサの特性が安定すると共に音響センサの設計及び製造が容易になる。
【0030】
局所スティックは、振動電極板の柔軟性の高い領域で起きやすいので、本発明の音響センサでは、当該領域で隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができ、また振動電極板の柔軟性の低い領域で隣接する突起どうしの間隔を大きくすることにより、局所スティックを抑制しながら全体スティックを軽減することができる。また、本発明の音響センサでは、振動電極板の柔軟性が高い領域だけで突起どうしの間隔が小さくなるので、全体としては突起の数を少なくすることができる。突起の数が少なくなると、振動電極板と対向電極板との間における空気の流れが阻害されにくくなるのでエアダンピングが低減され、音響センサの周波数特性(特に、高周波側での特性)が平坦になり、周波数帯域が広くなる。
【0031】
また、本発明にかかる音響センサのある実施態様では、前記振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って前記基板に固定し、前記可動部分の中央部、もしくは前記対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、前記可動部分の外周部分、もしくは前記対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。
【0032】
振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って基板に固定した音響センサ(上記実施態様)では、振動電極板の中央部で局所スティックが起きやすいので、振動電極板の中央部、もしくは対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができる。また、前記可動部分の外周部分、もしくは対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する突起どうしの間隔を比較的大きくすることにより、局所スティックを抑制しながら全体スティックを軽減することができる。
【0033】
本発明にかかる音響センサの別な実施態様では、前記振動電極板の前記可動部分が円板状に形成されており、前記可動部分の半径をRとするとき、前記振動電極板の中央、もしくは前記対向電極板の当該中央に対向する位置を中心とする半径R/8以上R/2以下の領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、当該領域よりも外側の領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。振動電極板の中心から半径rが(1/2)R以上の領域では、振動電極板の弾性的な撓みの対称性が崩れているので、これよりも外側でも突起どうしの間隔を短くすると全体スティックを起こす恐れがある。また、中心から半径rが(1/8)Rよりも外側の領域でも振動電極板の弾性的な撓みの対称性が保たれているので、中心から半径rが(1/8)Rよりも内側でしか突起どうしの間隔を短くしなければ、そのすぐ外側で局所スティックを生じるおそれがあるからである。
【0034】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様では、前記振動電極板の前記可動部分の外周部を前記基板に複数箇所で部分的に固定され、前記振動電極板の固定部位どうし、もしくは前記対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、その他の突起形成領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。
【0035】
本発明に係る音響センサのさらに別な実施態様では、振動電極板の固定部位どうし、もしくは対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域で局所スティックが起きやすいので、この領域で隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができる。また、局所スティックの起きにくい他の突起形成領域では隣接する突起どうしの間隔を大きくすることにより、振動電極板の全体スティックを軽減することができる。
【0036】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様では、前記突起が、複数の同心円又は大きさの異なる複数の多角形に沿って配列されている。振動電極板の撓みの分布は、同心円状や同心状の多角形となることが多いので、突起を同心円や多角形に沿って配列することによって均等に、かつ効率よく振動電極板のスティックを回避することができる。
【0037】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様は、前記対向電極板が音圧を通過させるための音響孔を複数有し、前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央部に配置されている。かかる実施態様によれば、音響孔と突起とをできるだけ離すことができるので、音響孔や突起を作製し易くなる。
【0038】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様は、前記対向電極板が音圧を通過させるための音響孔を複数有し、前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央から外れた位置に配置されている。かかる実施態様によれば、突起が音響孔に近い位置に設けられることになるので、振動電極板と対向電極板との間に浸入した水分が突起の位置に残りにくくなる。よって、水分の毛細管力によって振動電極板が対向電極板にくっつきにくくなり、振動電極板のスティックが軽減される。
【0039】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、従来の音響センサにおいて、振動電極板が対向電極板にスティックした様子を示す概略断面図である。
【図2】図2(a)及び図2(b)は、従来の音響センサにおいてスティックが発生する原因を説明する図である。
【図3】図3は、スティック防止用の突起を設けた対向電極板と振動電極板を示す概略断面図である。
【図4】図4(a)は、突起どうしの間隔が短すぎる場合を表した図、図4(b)は突起どうしの間隔が適切な場合を表した図、図4(c)は突起どうしの間隔が長すぎる場合を表した図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態による音響センサを示す斜視図である。
【図6】図6は、第1の実施形態による音響センサの分解斜視図である。
【図7】図7は、図5のY−Y線に沿った断面図である。
【図8】図8は、振動電極板に垂直な方向から見たときの、振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図9】図9は、四隅の固定部をシリコン基板に固定された振動電極板の柔軟性の度合いの分布を表した図である。
【図10】図10は、第1の実施形態の音響センサの作用を説明図であって、振動電極板の対角方向における垂直な断面を表している。
【図11】図11は、比較説明のための振動電極板と対向電極板を示す図であって、振動電極板の対角方向における垂直な断面を表している。
【図12】図12(a)は、振動電極板の中央部で局所スティックを起こした状態を示す概略断面図、図12(b)は、振動電極板の端で局所スティックを起こした状態を示す概略断面図である。
【図13】図13は、音響センサにおける振動電極板の中央での突起の間隔の決め方と、振動電極板の中央部以外の領域での突起の間隔の決め方とを説明する図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施形態による音響センサに用いられる振動電極板の形状と、当該振動電極板に垂直な方向から見たときの、振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図15】図15は、外周部をシリコン基板に固定された円板状の振動電極板の柔軟性の分布を表した図である。
【図16】図16は、第2の実施形態における、振動電極板と音響孔及び突起との別な位置関係を表した図である。
【図17】図17は、第2の実施形態における、振動電極板と音響孔及び突起とのさらに別な位置関係を表した図である。
【図18】図18は、振動電極板に垂直な方向から見たときの、第3の実施形態による振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図19】図19は、第3の実施形態における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図20】図20は、第3の実施形態の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図21】図21は、第1、第2の実施形態における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図22】図22は、第1、第2の実施形態の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図23】図23は、第3の実施形態の変形例における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図24】図24は、第3の実施形態の変形例の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図25】図25は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【図26】図26は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【図27】図27は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。特に、以下に記載する数値は、各部材の寸法などの大まかな数値を表すものであって、本発明の音響センサはこれらの数値に限定されるものではない。
【0042】
(実施形態1)
以下、図5〜図13を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。まず、図5は第1の実施形態による音響センサ21を示す斜視図であり、図6はその分解斜視図である。また、図7は図5のY−Y線に沿った断面図である。
【0043】
この音響センサ21は静電容量型のセンサであり、シリコン基板22の上面に絶縁被膜23を介して振動電極板24を設け、その上に微小ギャップ(空隙)を介して対向電極板25を設けたものである。
【0044】
シリコン基板22には、角柱状の貫通孔26もしくは角錐台状の凹部が設けられている。図では角柱状の貫通孔26を示している。シリコン基板22のサイズは、平面視で1〜1.5mm角(これよりも小さくすることも可能である。)であり、シリコン基板22の厚みが400〜500μm程度である。シリコン基板22の上面には酸化膜等からなる絶縁被膜23が形成されている。
【0045】
振動電極板24は、膜厚が1μm程度のポリシリコン薄膜によって形成されている。振動電極板24はほぼ矩形状の薄膜であって、その四隅部分には対角方向外側に向けて固定部27が延出している。振動電極板24は、貫通孔26又は凹部の上面開口を覆うようにしてシリコン基板22の上面に配置され、各固定部27を絶縁被膜23の上に固定されている。振動電極板24のうち貫通孔26又は凹部の上方で宙空に支持された部分(この実施形態では、固定部27以外の部分)はダイアフラム28(可動部分)となっており、音圧に感応して振動する。
【0046】
対向電極板25は、窒化膜からなる絶縁性支持層29の上面に金属製薄膜からなる固定電極30を設けたものである。対向電極板25は、振動電極板24の上に配置され、ダイアフラム28と対向する領域の外側においては、酸化膜等からなる絶縁被膜33を介してシリコン基板22の上面に固定されている。対向電極板25は、ダイアフラム28と対向する領域においては3μm程度の微小ギャップをあけてダイアフラム28を覆っている。固定電極30及び支持層29には、上面から下面に貫通するようにして、音圧(振動)を通過させるための音響孔(アコースティックホール)31が複数穿孔されている。対向電極板25の端部には、固定電極30に導通した電極パッド32を備えている。なお、振動電極板24は、音圧に共鳴して振動するものであるから、1μm程度の薄膜となっているが、対向電極板25は音圧によって励振されない電極であるので、その厚みは例えば2μm以上というように厚くなっている。
【0047】
対向電極板25の振動電極板24と対向する領域には、振動電極板24が対向電極板25に密着するのを防ぐために、複数個の突起36が突設されている。この突起36はできるだけ細くて先端面積が小さいことが望ましく、直径10μm以下が好ましい。しかし、突起36を細くするには、製造上の限界もあるので、突出長さ1μm程度、直径4μm程度の突起36を設けることが望ましい。
【0048】
また、支持層29にあけられた開口34からは固定部27から延長された延出部27aが露出するようになっており、支持層29の端部上面に設けられた電極パッド35は、開口34を通して延出部27aに導通している。よって、振動電極板24と対向電極板25とは電気的に絶縁されており、振動電極板24と固定電極30によってキャパシタを構成している。
【0049】
しかして、第1の実施形態の音響センサ21にあっては、上面側から音響振動(空気の疎密波)が入射すると、この音響振動は対向電極板25の音響孔31を通過してダイアフラム28に達し、ダイアフラム28を振動させる。ダイアフラム28が振動すると、ダイアフラム28と対向電極板25との間の距離が変化するので、それによってダイアフラム28と固定電極30の間の静電容量が変化する。よって、電極パッド32、35間に直流電圧を印加しておき、この静電容量の変化を電気的な信号として取り出すようにすれば、音の振動を電気的な信号に変換して検出することができる。
【0050】
なお、上記音響センサ21は、マイクロマシニング(半導体微細加工)技術を用いて製造されるが、その製造方法は公知の技術であるので説明を省略する。
【0051】
つぎに、対向電極板25に設けた突起36の配置について説明する。図8は振動電極板24に垂直な方向から見たときの、振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図であって、音響孔31は白丸で表し、突起36は黒丸で表す。音響孔31は全体にわたって等間隔で格子状に配置されている。
【0052】
これに対し、突起36は、順次中央部から外側へと同心状に並んだ類似した形状の多角形(図8では、破線で示す八角形)に沿って配列されており、しかも、各突起36は4つの音響孔31で囲まれた領域の中央に配置されている。
【0053】
また、突起36どうしの間隔は、ダイアフラム28の1点鎖線で囲んだ中央部aと各辺の中央部bに対向する領域で比較的短くなっており、それ以外の領域では比較的長くなっている。例えば、図8に示す例では、ダイアフラム28の一辺の長さLは800μmとなり、突起36どうしの間隔は、ダイアフラム28の中央部a及び各辺の中央部bと対向する領域では50μm、それ以外の領域cでは100μmとなっている。
【0054】
図9は4箇所の固定部27をシリコン基板22に固定された矩形状の振動電極板24において、ダイアフラム28の全体に均一な圧力が加わったときの撓みの大きさを区分的に表した図であって、ハッチングのドット密度が大きいほど撓みが大きく、ドット密度が小さいほど撓みが小さいことを表している。図9から分かるように、振動電極板24は、その中心から外側に向かうに従って柔軟性が低くなって撓みが小さくなっており、その中央部aと各辺の中央部bで周囲よりも撓みが大きくなっている。
【0055】
従って、この音響センサ21では、図10に模式的に示すように、振動電極板24が柔軟で撓みの大きな中央部aや各辺の中央部bに対向する領域で、突起36どうしの間隔が小さくなっており、振動電極板24が比較的剛性が高くて撓みの小さな領域cに対向する領域では、突起36どうしの間隔が大きくなっている。その結果、従来技術において説明した局所スティックや全体スティックを低減させることができる。この理由を以下に説明する。
【0056】
従来例において説明したように、振動電極板の柔軟な部分(中央部)では、振動電極板が突起間に落ち込んで対向電極板に接触する局所スティックを起こしやすい。これに対し、この音響センサ21ではダイアフラム28の中央部aやその辺の中央部bに対向する領域で突起36どうしの間隔を小さくしているので、局所スティックを起こしにくくなる。また、突起どうしの間隔が全体で均一である場合には、突起どうしの間隔が小さいと、振動電極板が突起のほぼ全体にくっついて全体スティックを起こしやすい。これに対し、この音響センサ21では、局所スティックを起こしやすい領域以外では突起36どうしの間隔を大きくしているので、突起36の数(すなわち、突起36の端面の合計面積)を少なくでき、全体スティックを低減できる。よって、局所スティックと全体スティックを効果的に低減することができる。
【0057】
詳しく言うと、振動電極板24の中央部aや各辺の中央部bに対向する領域おける突起36どうしの間隔は、突起36のもっとも軟らかい部分で局所スティックが起きる限界の値D3よりも小さくなっている。しかし、中央部a、bに対向する領域における突起36の間隔が小さすぎると、図11に示すように、中央部a、bの全体で振動電極板24が突起36にスティックする。よって、振動電極板24の中央部aや各辺の中央部bに対向する領域における突起36どうしの間隔は、中央部a又はbで振動電極板24が局所スティックする限界の値D3よりも小さく、かつ、振動電極板24が中央部a又はbに対向する領域で突起36の全体にくっつく限界の値D1よりも大きくなければならない。
【0058】
また、振動電極板24の中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36どうしの間隔は、振動電極板24が全体スティックを起こす限界の値D2よりも大きくなっている。しかし、中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36の間隔が大きすぎると、図12(b)に示すように、中央部a、b以外の領域cで振動電極板24が突起36間に落ち込んで局所スティックを起こす。よって、振動電極板24の中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36どうしの間隔は、振動電極板24が全体スティックを起こす限界の値D2よりも大きく、かつ、振動電極板24が中央部a、b以外の領域cに対向する領域で振動電極板24が局所スティックを起こす限界の値D4よりも小さくなければならない。
【0059】
ここで、図12(a)のように振動電極板24の中央部a、bが局所スティックを起こす限界の値D3と、図12(b)のように中央部a、b以外の領域が局所スティックを起こす限界の値D4とを比較する。図9に表わしたように、中央部a、bは振動電極板24が柔らかくて変形しやすい箇所であるから、図12(a)のような中央部a、bでの局所スティックよりも図12(b)のような領域cでの局所スティックの方が起こりにくい。よって、一般に、中央部a又はbで振動電極板24が局所スティックするときの突起36どうしの間隔の限界値D3よりも、中央部a、b以外の領域cで振動電極板24が局所スティックするときの36どうしの間隔の限界値D4の方が大きな値となる。
【0060】
また、振動電極板24が、中央部a、bに対向する領域の突起36全体だけにくっつくときの突起36どうしの間隔の限界値D1は、突起36全体に全体スティックするときの突起36どうしの間隔の限界値D2よりも小さくなる。
【0061】
よって、4つの限界値の大小は、D1<D2<D3<D4となり、音響センサ21における突起36どうしの間隔の分布は図13に示すようになる。
【0062】
従来の音響センサのように突起どうしの間隔を均一にする場合には、突起どうしの間隔がD2よりも大きく、かつ、D3よりも小さな適切な間隔となるように調整しなければならなかった。その調整範囲は狭いために音響センサの製造も難しかった。これに対し、第1の実施形態の音響センサ21の場合には、振動電極板24の中央部a、bに対向する領域では、突起36どうしの距離をD1よりも大きく、かつ、D3よりも小さくすればよい。また、中央部a、b以外の領域cに対向する領域では、突起36どうしの距離をD2よりも大きく、かつ、D4よりも小さくすればよい。よって、中央部a、b及び領域cのいずれでも、その許容範囲が広くなる。
【0063】
従って、第1の実施形態の音響センサ21によれば、振動電極板24のスティックを容易に軽減することができ、音響センサ21の製作も容易になる。また、この音響センサ21では、振動電極板24のバネ性がばらついたり、浸入した水分の毛細管力が異なっていたり、表面間力がばらついたりしていても局所スティックや全体スティックを抑制でき、音響センサ21の信頼性が向上する。
【0064】
また、振動電極板24の撓みの分布は同心円状や同心状の多角形となることが多いため、前記のように突起36を同心状の多角形に沿って配列すれば(図8参照)、振動電極板24のスティックを均等に、かつ効率的に回避することができる。
【0065】
さらに、この音響センサ21によれば、突起の間隔を均一にする場合に比べて、突起36の数を少なくすることができる。よって、振動電極板24と対向電極板25との間の微小ギャップにおける空気の流れが突起36によって妨げられにくくなり、振動電極板24のエアダンピングが軽減される。その結果、音響センサ21の周波数特性(特に、高周波側での特性)が平坦となり、周波数帯域が広くなる。
【0066】
(実施形態2)
つぎに、図14〜図17により実施形態2による音響センサを説明する。第2の実施形態による音響センサの構造は、第1の実施形態による音響センサ21の構造とほぼ同じであるので、全体の構造及び説明は省略する。
【0067】
第2の実施形態の音響センサが第1の音響センサと異なる主な点は、振動電極板24の形状と突起36の配置であるので、これらの相違点について説明する。
【0068】
図14は、振動電極板24に垂直な方向から見たときの、第2の実施形態による振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図である。振動電極板24は円板状をしており、シリコン基板22には振動電極板24の形状に合わせて、円柱状の貫通孔もしくは円錐台状の凹部が設けられている。振動電極板24はシリコン基板22の貫通孔又は凹部の上面開口を覆うように配置され、固定部27により実質的に外周部全体をシリコン基板22に固定されている。
【0069】
振動電極板24に対向した対向電極板25には、一定の間隔で音響孔31を三角形状又は六角形状に配置している。また、対向電極板25の振動電極板24と対向する面には、音響孔31で囲まれた領域のほぼ中央に突起36が複数突出している。突起36は、振動電極板24の外周縁と同心状となった円形の中心部aでは突起36どうしの間隔が比較的小さくなっており、中心部aの外側の領域cでは突起36どうしの間隔が比較的大きくなっている。
【0070】
ここで、突起36どうしの間隔が小さくなった円形領域aの半径rは、振動電極板24の半径をRとすれば、
(1/8)R≦r≦(1/2)R
としている。図15は、円形状の振動電極板24において、ダイアフラム28の全体に均一な圧力が加わったときの撓みの大きさを区分的に表した図である。図15から分かるように、振動電極板24は、その中心から外側に向かうに従って柔軟性が低くなって撓みが小さくなっており、その中央部aで撓みが最も大きくなっている。中心から半径rが(1/2)R以上の領域では、ダイアフラム28の弾性的な撓みの対称性が崩れているので、局所スティックは起こりにくく、これよりも外側でも突起36どうしの間隔を小さくすると全体スティックを起こす恐れがある。また、中心から半径rが(1/8)Rよりも外側の領域でもダイアフラム28の弾性的な撓みの対称性が保たれているので、中心から半径rが(1/8)Rよりも内側でしか突起36どうしの間隔を小さくしなければ、そのすぐ外側で局所スティックを生じるおそれがある。よって、突起36どうしの間隔を小さくしておく領域は、
(1/8)R≦r≦(1/2)R
のような半径rの円内の領域aとするのが望ましい。
【0071】
第2の実施形態の音響センサでは、例えば、振動電極板24の膜厚が1μm、対向電極板25の厚みが2μm、振動電極板24と対向電極板25の間の微小ギャップが3μmで、突起36の高さが1μmとなっている。突起36は直径が10μm以下でできるだけ細い方が好ましいが、製造工程上の限度などもあるので、直径4μm程度とするのが好ましい。また、振動電極板24の半径Rを500μmとすれば、円形の中心部aの内側では、突起36どうしの間隔を50μmとし、その外の領域cでは、突起36どうしの間隔を100μmとしている。
【0072】
第2の実施形態では、振動電極板24が円形状をしているので、第1の実施形態の中心部bに相当する領域はないが、中心部aで突起36どうしの間隔を小さくし、その外の領域cでは突起36どうしの間隔を大きくすることで、第1の実施形態と同様な作用効果を奏することができる。すなわち、第2の実施形態でも、局所スティックと全体スティックとをより低減することができ、音響センサの信頼性を向上させることができる。しかも、振動電極板24の柔軟性の高い領域では突起36どうしの間隔を小さくし、振動電極板24の柔軟性の低い領域では突起36どうしの間隔を大きくすることにより、各領域での突起36どうしの間隔の適切な範囲を広くすることができ(図13参照)、音響センサの設計や製造を容易にできる。さらに、振動電極板24のバネ性にばらつきがあったり、浸入した液体の毛細管力が異なったりしても局所スティックや全体スティックが起きにくく、より一層音響センサの信頼性を向上させることができる。また、突起36の数を少なくできるので、振動電極板24のエアダンピングを軽減でき、音響センサ21の周波数特性(特に、高周波側での特性)を平坦にして、周波数帯域を広くできる。
【0073】
なお、突起36の配置の仕方としては、図16に示すように、振動電極板24と同心円状となった円に沿って配置してもよい。あるいは、図17に示すように、隙間なく並べた正三角形の頂点に配置してもよい。振動電極板24の撓みの分布は同心円状や多角形となることが多いため、突起36を同心円状や正三角形状に配列すれば、振動電極板24のスティックを均等に、かつ効率的に回避することができる。
【0074】
(第3の実施形態)
図18は、振動電極板24に垂直な方向から見たときの、第3の実施形態による振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図である。また、図19は、第3の実施形態における対向電極板25の一部を拡大して示す図である。この実施形態では、突起36を音響孔31に近接させて、あるいは音響孔31に接するように設けている。
【0075】
第1、第2の実施形態では、図21に示すように、音響孔31に囲まれた領域の中央に突起36を設けている。そのため、突起36はいずれの音響孔31からも遠い位置にある。よって、振動電極板24と対向電極板25の間の微小ギャップに浸入した水分37が音響孔31から蒸発して出ていくとき、図22に示すように、水分37は突起36の位置に最後まで残る。突起36の位置では対向電極板25と振動電極板24とのギャップ間距離が一番短くなっているから、ここに水分37が残っていると、振動電極板24と対向電極板25の間で最後まで大きな毛細管力が働き、振動電極板24が対向電極板25から離れにくくなる。
【0076】
これに対し、図18、図19のように突起36が音響孔31に囲まれた領域の中央から外れ、音響孔31の近くに位置していると、微小ギャップに浸入した水分37が音響孔31から蒸発して出ていくとき、図20に示すように、水分37は突起36の位置で最も早く蒸発する。よって、水分37が最後に乾燥する場所には突起36がなく、振動電極板24と対向電極板25の間に働く毛細管力が早期に小さくなり、振動電極板24が対向電極板25から離れ易くなる。
【0077】
また、図23及び図24は第3の実施形態の変形例であって、突起36が音響孔31の位置と重なり合うようにしている。突起36の位置と音響孔31の位置とが重なり合っていると、突起36を形成した後で音響孔31を対向電極板25に設けるようにすると、音響孔31をエッチングにより開口すると同時に突起36の一部もエッチングされて削られる。よって、突起36の端面の面積を、突起36の加工限度よりもさらに小さくすることができ、局所スティックや全体スティックを軽減する効果がより高くなる。
【0078】
(その他の形態)
図25は本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。第1〜第3の実施形態では、対向電極板25に突起36を設けたが、この実施形態では、振動電極板24に突起36を設けている。このような実施形態によれば、振動電極板24の中央部が撓んで突起36間の部分が対向電極板25にくっつく局所スティックや、突起36のほぼ全体が対向電極板25にくっつく全体スティックを防止することができる。
【0079】
また、第1〜第3の実施形態では、シリコン基板22の上に振動電極板24を設け、その上方を対向電極板25で覆ったが、図26、図27に示すように、シリコン基板22の上に対向電極板25を設け、その上方に振動電極板24を設けてもよい。なお、図26では、対向電極板25に突起36を設けており、図27では、振動電極板24に突起36を設けている。
【符号の説明】
【0080】
21 音響センサ
22 シリコン基板
23 絶縁被膜
24 振動電極板
25 対向電極板
26 貫通孔
27 固定部
28 ダイアフラム
31 音響孔
36 突起
37 水分
【技術分野】
【0001】
本発明は音響センサに関し、特に気体や液体中を伝搬する音圧すなわち音響振動を検出するための音響センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響センサとしては、特開2006−157863号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
この音響センサは、振動電極板(可動電極)と対向電極板(固定電極)とが微小ギャップ(空隙)を隔てて対向した構造となっている。この振動電極板は、膜厚1μm程度の薄膜によって形成されているので、音圧を受けるとその振動に感応して微小振動する。そして、振動電極板が振動すると振動電極板と対向電極板とのギャップ距離が変化するので、そのときの振動電極板と対向電極板の間の静電容量の変化を検出することにより音響振動が検出される。
【0004】
また、この音響センサは、マイクロマシニング(半導体微細加工)技術を利用して製造されており、高感度でありながらも平面視で一辺が数mm程度の微小な寸法を有している。
【0005】
しかしながら、このような音響センサでは、その製造工程や使用中において、図1に示すように、振動電極板12が対向電極板13に固着することがある(以下、振動電極板の一部又はほぼ全体が対向電極板に固着してギャップがなくなった状態、あるいはその現象をスティックと呼ぶ。)。こうして振動電極板12が対向電極板13にスティックすると、振動電極板12の振動が妨げられるので、音響センサ11によって音響振動を検出することができなくなる。
【0006】
図2(a)及び図2(b)は、音響センサ11にスティックが発生する原因を説明するための概略図であって、図1のX部に相当する部分を拡大して示したものである。音響センサ11は、マイクロマシニング技術を利用して製造されるので、例えばエッチング後の洗浄工程において振動電極板12と対向電極板13との間に水分14が浸入する。また、音響センサ11の使用中においても、振動電極板12と対向電極板13との間に湿気が溜まったり、音響センサ11が水に濡れたりする場合がある。
【0007】
一方、音響センサ11は微小な寸法を有しているため、振動電極板12と対向電極板13の間のギャップ距離は数μmしかない。しかも、音響センサ11の感度を高くするために、振動電極板12の膜厚は1μm程度に薄くなっており、振動電極板12のバネ性は弱くなっている。
【0008】
そのため、このような音響センサ11では、たとえば以下に説明するように2段階の過程を経てスティックが起きることがある。第1段階においては、図2(a)に示したように、振動電極板12と対向電極板13との間に水分14が浸入したとき、その水分による毛細管力P1ないし表面張力によって振動電極板12が対向電極板13に引き付けられる。
【0009】
そして、第2段階においては、振動電極板12と対向電極板13の間の水分14が蒸発した後、振動電極板12が対向電極板13にくっついて、その状態が保持される。水分14が蒸発した後も振動電極板12を対向電極板13に固着させて保持する力P2としては、振動電極板12表面と対向電極板13表面との間に働く分子間力、表面間力、静電気力などがある。その結果、振動電極板12は対向電極板13にくっついた状態に保持され、音響センサ11が機能しなくなる。
【0010】
なお、ここでは浸入した水分の毛細管力によって第1段階で振動電極板12が対向電極板13にくっつく場合を説明したが、水分以外の液体による場合もあり、また、大きな音圧が振動電極板に加わって振動電極板が対向電極板にくっつく場合もある。また、振動電極板が静電気を帯びて対向電極板にくっつくことで、第1段階の過程が起きる場合もある。ただし、以下においては、水分が原因となって振動電極板が対向電極板にくっつくものとして説明する。
【0011】
上記のようなスティックを軽減する方法としては、振動電極板12の弾性復元力Qを大きくし、弾性復元力Qが第1段階における水分14の毛細管力P1や第2段階における保持力P2に打ち勝って振動電極板12が元の状態に復帰するようにすればよい。振動電極板12の弾性復元力Qを大きくするには、振動電極板12の膜厚を厚くしてバネ性を高くすればよい。しかし、振動電極板12の弾性復元力Qを大きくすると、振動電極板12が振動しにくくなるので、音響センサ11の感度が悪くなるという不具合がある。
【0012】
あるいは、第1段階において毛細管力P1が振動電極板12の弾性復元力Qより小さくなるようにしてもスティックを軽減できる。毛細管力P1は振動電極板12と対向電極板13とのギャップ距離が小さいほど強くなるので、毛細管力P1を小さくするには、ギャップ距離を大きくすればよい。しかし、振動電極板12と対向電極板13の間のギャップ距離を大きくすると、音響センサ11の厚みが大きくなり、音響センサ11の微小化が妨げられることになる。また、音響センサ11の感度も低下する。
【0013】
かかる状況に鑑みて、特許文献1に開示されている音響センサでは、図3に示すように、対向電極板13の振動電極板12と対向する面に多数の突起15を設けることにより、振動電極板12と対向電極板13とのスティックを軽減している。この突起は、一般的に対向電極板全体に等間隔に配置されている。振動電極板12と対向電極板13との間の保持力P2は、両電極板12、13の接触面積と相関があることが知られており、その接触面積が小さいと保持力P2も小さくなる。従って、対向電極板13に突起15を設け、突起15をできるだけ細くすれば、振動電極板12と対向電極板13(突起15)との接触面積が小さくなり、保持力P2も弱くなるので、振動電極板12のスティックが起こりにくくなる。
【0014】
なお、非特許文献2には、マイクロ構造物では質量に対する表面積の割合が大きくなるため、部材表面間に働く表面間力が重要な役割を担うようになり、特にダイアフラムを有する微小素子では表面間力によってダイアフラムと対向基板とが付着したまま動作しなくなる場合があることが記載されている。また、非特許文献2には、カンチレバーに突起(ストッパ)を設けることによってカンチレバーの固着を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−157863号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】土屋 茂樹、外5名、“マイクロ構造における表面間力の測定と表面間力の低減”計測自動制御学会論文集、日本、計測自動制御学会、1994年発行、第30巻、第2号、第136頁〜第142頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、音響センサにおいて、振動電極板に設けた突起どうしの間隔を種々変化させて実験を繰り返した結果、突起を設けることによって振動電極板のスティックが起きないようにしようとすれば、突起どうしの間隔が適当な値となるように調整しなければならないということが分かった。
【0018】
図4(a)〜図4(c)はそれぞれ、突起15どうしの間隔が大きすぎる場合と、適切な場合と、小さすぎる場合とにおける振動電極板12の様子を模式的に表した図である。図4(b)は突起15どうしの間隔dが適切な場合を表している。この場合には、水分で振動電極板12が対向電極板13にくっついたとしても、図4(b)に2点鎖線で示すように、突起15と振動電極板12との接触面積が小さいため、水分が蒸発したときの保持力P2は振動電極板12の弾性復元力Qよりも小さくなる。よって、図4(b)に実線で示すように、振動電極板12は自己の弾性復元力Qによって元の状態に戻る。
【0019】
これに対し、図4(a)のように、突起15どうしの間隔dが適切な間隔よりも小さ場合には、突起15が細くて先端の面積が小さくても突起15の先端面の微小化には限度があるので、突起51全体としては先端面の面積の合計値は大きなものとなる。そのため、この場合には、振動電極板12がほぼ全体あるいは広い領域にわたって突起15の先端面にくっつき、振動電極板12が突起15にスティックする。なお、図4(a)のように振動電極板12が多数の突起15の先端面にくっついている状態を全体スティックと呼ぶ。
【0020】
また、図4(c)のように、突起15どうしの間隔dが適切な間隔よりも大きい場合には、振動電極板12が突起15に当接しても、隣接する突起15間に振動電極板12の一部が落ち込んで対向電極板13に接触する。こうして振動電極板12が対向電極板13にくっついた状態では、接触箇所は1箇所であっても接触面積は突起15の先端面積に比較してかなり大きくなるので、振動電極板12が対向電極板13に固着することになる。なお、図4(c)のように振動電極板12の一部が突起15間で対向電極板13にくっついている状態を局所スティックと呼ぶ。
【0021】
全体スティックと局所スティックとを比較すると、一般的には、局所スティックよりも全体スティックが起こりやすい。したがって、設計段階で突起の間隔を決める場合には、局所スティックのおそれがあっても突起の間隔は広くしておきたい。しかし、静電容量型の音響センサでは、振動電極板と対向電極板とが数μm程度の微小ギャップを介して対向しているので、振動電極板に音圧を超えるような小さな力が加わるだけで振動電極板が対向電極板に接触する。また、振動電極板は音圧で変形するほどバネ性が弱くて軟らかいので、対向電極板にくっついたときに復元力が弱い。そのため、突起の間隔が広くなった場合には、局所スティックが起きやすい構造となる。
【0022】
その結果、従来の音響センサでは、突起どうしの間隔が大きすぎても、小さすぎてもスティックが発生しやすくなり、適切な間隔となるように突起を設けることが難しかった。また、振動電極板のバネ性、突起の先端面積、液体の毛細管力、表面間力などの値を想定して適切な間隔で突起を設けてあっても、振動電極板のバネ性等の値のばらつきがあると、いずれかのスティックが発生する恐れがあった。
【0023】
なお、振動電極板に突起を設けると剛性が高くなって振動電極板が音圧で振動しにくくなるので、突起は対向電極板に設けることが多い。突起を振動電極板に設けた場合には、全体スティックは振動電極板の多数の突起が対向電極板のほぼ全体にくっついた状態であり、局所スティックは振動電極板の突起が対向電極板に当接し、振動電極板の当該突起間の部分が変形して対向電極板にくっついた状態である。
【0024】
また、突起を振動電極板又は対向電極板のほぼ全体に均等な間隔で設けた場合には、突起の密度をそれほど大きくする必要のない領域にまで数多くの突起を設けることになるので、突起の総数が大きくなる。突起が増加すると、振動電極板が対向電極板側へ近づくときに振動電極板と対向電極板との間の空気が外へ排出されにくくなり、また振動電極板が対向電極板側から遠ざかるときに振動電極板と対向電極板との間に空気が流れこみにくくなる。その結果、振動電極板が振動する際の空気抵抗が大きくなり、エアダンピングにより振動電極板の振動が抑制され、音響センサの周波数特性(特に高周波側での特性)が悪くなる。
【0025】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、振動電極板が対向電極板に固着して振動電極板の振動が妨げられる現象を効果的に軽減することのできる音響センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明にかかる音響センサは、基板に固定され、かつ、音圧に感応する振動電極板と、基板に固定され、かつ、前記振動電極板と空隙を介して対向した対向電極板とを有する音響センサにおいて、前記振動電極板又は前記対向電極板の前記空隙側の面に複数の突起を設け、前記振動電極板又は前記対向電極板における突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させ、前記振動電極板又は前記対向電極板のうち前記突起を設けた側の電極板において、前記振動電極板の柔軟性の高い領域又は前記柔軟性の高い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔が、前記振動電極板の柔軟性の低い領域又は前記柔軟性の低い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴としている。
【0027】
本発明にかかる音響センサにあっては、前記振動電極板又は前記対向電極板の空隙側の面に複数の突起を設けているので、振動電極板が変形して対向電極板に接触する際には、突起を挟んで振動電極板と対向電極板が接触することになる。その結果、振動電極板と対向電極板との実質的な接触面積を小さくでき、振動電極板のスティックを軽減できる。
【0028】
しかも、本発明の音響センサにあっては、突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させているので、隣接する突起どうしの間で振動電極板が対向電極板に固着する局所スティックや、振動電極板又は対向電極板が広い領域にわたって多数の突起に固着する全体スティックを軽減することができる。
【0029】
また、隣接する突起どうしの間隔を振動電極板又は対向電極板の全体で一定にし、かつ、隣接する突起どうしの間隔を適切な値に調整する方法では、振動電極板のバネ性がばらついたり、振動電極板と対向電極板の間に浸入した水分の毛細管力が異なったりすると、局所スティックや全体スティックが起こる恐れがある。これに対し、本発明の音響センサでは、突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させることによって振動電極板のスティックを軽減しているので、振動電極板のバネ性がばらついたり、振動電極板と対向電極板の間に浸入した水分の毛細管力が異なったりしても、局所スティックや全体スティックが起こりにくくなる。従って、隣接する突起どうしの間隔の設計値の許容範囲が広くなり、音響センサの特性が安定すると共に音響センサの設計及び製造が容易になる。
【0030】
局所スティックは、振動電極板の柔軟性の高い領域で起きやすいので、本発明の音響センサでは、当該領域で隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができ、また振動電極板の柔軟性の低い領域で隣接する突起どうしの間隔を大きくすることにより、局所スティックを抑制しながら全体スティックを軽減することができる。また、本発明の音響センサでは、振動電極板の柔軟性が高い領域だけで突起どうしの間隔が小さくなるので、全体としては突起の数を少なくすることができる。突起の数が少なくなると、振動電極板と対向電極板との間における空気の流れが阻害されにくくなるのでエアダンピングが低減され、音響センサの周波数特性(特に、高周波側での特性)が平坦になり、周波数帯域が広くなる。
【0031】
また、本発明にかかる音響センサのある実施態様では、前記振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って前記基板に固定し、前記可動部分の中央部、もしくは前記対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、前記可動部分の外周部分、もしくは前記対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。
【0032】
振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って基板に固定した音響センサ(上記実施態様)では、振動電極板の中央部で局所スティックが起きやすいので、振動電極板の中央部、もしくは対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができる。また、前記可動部分の外周部分、もしくは対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する突起どうしの間隔を比較的大きくすることにより、局所スティックを抑制しながら全体スティックを軽減することができる。
【0033】
本発明にかかる音響センサの別な実施態様では、前記振動電極板の前記可動部分が円板状に形成されており、前記可動部分の半径をRとするとき、前記振動電極板の中央、もしくは前記対向電極板の当該中央に対向する位置を中心とする半径R/8以上R/2以下の領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、当該領域よりも外側の領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。振動電極板の中心から半径rが(1/2)R以上の領域では、振動電極板の弾性的な撓みの対称性が崩れているので、これよりも外側でも突起どうしの間隔を短くすると全体スティックを起こす恐れがある。また、中心から半径rが(1/8)Rよりも外側の領域でも振動電極板の弾性的な撓みの対称性が保たれているので、中心から半径rが(1/8)Rよりも内側でしか突起どうしの間隔を短くしなければ、そのすぐ外側で局所スティックを生じるおそれがあるからである。
【0034】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様では、前記振動電極板の前記可動部分の外周部を前記基板に複数箇所で部分的に固定され、前記振動電極板の固定部位どうし、もしくは前記対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、その他の突起形成領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さくなっている。
【0035】
本発明に係る音響センサのさらに別な実施態様では、振動電極板の固定部位どうし、もしくは対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域で局所スティックが起きやすいので、この領域で隣接する突起どうしの間隔を比較的小さくすることで局所スティックを軽減することができる。また、局所スティックの起きにくい他の突起形成領域では隣接する突起どうしの間隔を大きくすることにより、振動電極板の全体スティックを軽減することができる。
【0036】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様では、前記突起が、複数の同心円又は大きさの異なる複数の多角形に沿って配列されている。振動電極板の撓みの分布は、同心円状や同心状の多角形となることが多いので、突起を同心円や多角形に沿って配列することによって均等に、かつ効率よく振動電極板のスティックを回避することができる。
【0037】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様は、前記対向電極板が音圧を通過させるための音響孔を複数有し、前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央部に配置されている。かかる実施態様によれば、音響孔と突起とをできるだけ離すことができるので、音響孔や突起を作製し易くなる。
【0038】
本発明にかかる音響センサのさらに別な実施態様は、前記対向電極板が音圧を通過させるための音響孔を複数有し、前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央から外れた位置に配置されている。かかる実施態様によれば、突起が音響孔に近い位置に設けられることになるので、振動電極板と対向電極板との間に浸入した水分が突起の位置に残りにくくなる。よって、水分の毛細管力によって振動電極板が対向電極板にくっつきにくくなり、振動電極板のスティックが軽減される。
【0039】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、従来の音響センサにおいて、振動電極板が対向電極板にスティックした様子を示す概略断面図である。
【図2】図2(a)及び図2(b)は、従来の音響センサにおいてスティックが発生する原因を説明する図である。
【図3】図3は、スティック防止用の突起を設けた対向電極板と振動電極板を示す概略断面図である。
【図4】図4(a)は、突起どうしの間隔が短すぎる場合を表した図、図4(b)は突起どうしの間隔が適切な場合を表した図、図4(c)は突起どうしの間隔が長すぎる場合を表した図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態による音響センサを示す斜視図である。
【図6】図6は、第1の実施形態による音響センサの分解斜視図である。
【図7】図7は、図5のY−Y線に沿った断面図である。
【図8】図8は、振動電極板に垂直な方向から見たときの、振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図9】図9は、四隅の固定部をシリコン基板に固定された振動電極板の柔軟性の度合いの分布を表した図である。
【図10】図10は、第1の実施形態の音響センサの作用を説明図であって、振動電極板の対角方向における垂直な断面を表している。
【図11】図11は、比較説明のための振動電極板と対向電極板を示す図であって、振動電極板の対角方向における垂直な断面を表している。
【図12】図12(a)は、振動電極板の中央部で局所スティックを起こした状態を示す概略断面図、図12(b)は、振動電極板の端で局所スティックを起こした状態を示す概略断面図である。
【図13】図13は、音響センサにおける振動電極板の中央での突起の間隔の決め方と、振動電極板の中央部以外の領域での突起の間隔の決め方とを説明する図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施形態による音響センサに用いられる振動電極板の形状と、当該振動電極板に垂直な方向から見たときの、振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図15】図15は、外周部をシリコン基板に固定された円板状の振動電極板の柔軟性の分布を表した図である。
【図16】図16は、第2の実施形態における、振動電極板と音響孔及び突起との別な位置関係を表した図である。
【図17】図17は、第2の実施形態における、振動電極板と音響孔及び突起とのさらに別な位置関係を表した図である。
【図18】図18は、振動電極板に垂直な方向から見たときの、第3の実施形態による振動電極板と音響孔及び突起との位置関係を表した図である。
【図19】図19は、第3の実施形態における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図20】図20は、第3の実施形態の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図21】図21は、第1、第2の実施形態における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図22】図22は、第1、第2の実施形態の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図23】図23は、第3の実施形態の変形例における対向電極板の一部を拡大して示す図である。
【図24】図24は、第3の実施形態の変形例の音響センサにおいて、微小ギャップに浸入した水分が一部蒸発した状態を示す部分拡大断面図である。
【図25】図25は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【図26】図26は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【図27】図27は、本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。特に、以下に記載する数値は、各部材の寸法などの大まかな数値を表すものであって、本発明の音響センサはこれらの数値に限定されるものではない。
【0042】
(実施形態1)
以下、図5〜図13を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。まず、図5は第1の実施形態による音響センサ21を示す斜視図であり、図6はその分解斜視図である。また、図7は図5のY−Y線に沿った断面図である。
【0043】
この音響センサ21は静電容量型のセンサであり、シリコン基板22の上面に絶縁被膜23を介して振動電極板24を設け、その上に微小ギャップ(空隙)を介して対向電極板25を設けたものである。
【0044】
シリコン基板22には、角柱状の貫通孔26もしくは角錐台状の凹部が設けられている。図では角柱状の貫通孔26を示している。シリコン基板22のサイズは、平面視で1〜1.5mm角(これよりも小さくすることも可能である。)であり、シリコン基板22の厚みが400〜500μm程度である。シリコン基板22の上面には酸化膜等からなる絶縁被膜23が形成されている。
【0045】
振動電極板24は、膜厚が1μm程度のポリシリコン薄膜によって形成されている。振動電極板24はほぼ矩形状の薄膜であって、その四隅部分には対角方向外側に向けて固定部27が延出している。振動電極板24は、貫通孔26又は凹部の上面開口を覆うようにしてシリコン基板22の上面に配置され、各固定部27を絶縁被膜23の上に固定されている。振動電極板24のうち貫通孔26又は凹部の上方で宙空に支持された部分(この実施形態では、固定部27以外の部分)はダイアフラム28(可動部分)となっており、音圧に感応して振動する。
【0046】
対向電極板25は、窒化膜からなる絶縁性支持層29の上面に金属製薄膜からなる固定電極30を設けたものである。対向電極板25は、振動電極板24の上に配置され、ダイアフラム28と対向する領域の外側においては、酸化膜等からなる絶縁被膜33を介してシリコン基板22の上面に固定されている。対向電極板25は、ダイアフラム28と対向する領域においては3μm程度の微小ギャップをあけてダイアフラム28を覆っている。固定電極30及び支持層29には、上面から下面に貫通するようにして、音圧(振動)を通過させるための音響孔(アコースティックホール)31が複数穿孔されている。対向電極板25の端部には、固定電極30に導通した電極パッド32を備えている。なお、振動電極板24は、音圧に共鳴して振動するものであるから、1μm程度の薄膜となっているが、対向電極板25は音圧によって励振されない電極であるので、その厚みは例えば2μm以上というように厚くなっている。
【0047】
対向電極板25の振動電極板24と対向する領域には、振動電極板24が対向電極板25に密着するのを防ぐために、複数個の突起36が突設されている。この突起36はできるだけ細くて先端面積が小さいことが望ましく、直径10μm以下が好ましい。しかし、突起36を細くするには、製造上の限界もあるので、突出長さ1μm程度、直径4μm程度の突起36を設けることが望ましい。
【0048】
また、支持層29にあけられた開口34からは固定部27から延長された延出部27aが露出するようになっており、支持層29の端部上面に設けられた電極パッド35は、開口34を通して延出部27aに導通している。よって、振動電極板24と対向電極板25とは電気的に絶縁されており、振動電極板24と固定電極30によってキャパシタを構成している。
【0049】
しかして、第1の実施形態の音響センサ21にあっては、上面側から音響振動(空気の疎密波)が入射すると、この音響振動は対向電極板25の音響孔31を通過してダイアフラム28に達し、ダイアフラム28を振動させる。ダイアフラム28が振動すると、ダイアフラム28と対向電極板25との間の距離が変化するので、それによってダイアフラム28と固定電極30の間の静電容量が変化する。よって、電極パッド32、35間に直流電圧を印加しておき、この静電容量の変化を電気的な信号として取り出すようにすれば、音の振動を電気的な信号に変換して検出することができる。
【0050】
なお、上記音響センサ21は、マイクロマシニング(半導体微細加工)技術を用いて製造されるが、その製造方法は公知の技術であるので説明を省略する。
【0051】
つぎに、対向電極板25に設けた突起36の配置について説明する。図8は振動電極板24に垂直な方向から見たときの、振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図であって、音響孔31は白丸で表し、突起36は黒丸で表す。音響孔31は全体にわたって等間隔で格子状に配置されている。
【0052】
これに対し、突起36は、順次中央部から外側へと同心状に並んだ類似した形状の多角形(図8では、破線で示す八角形)に沿って配列されており、しかも、各突起36は4つの音響孔31で囲まれた領域の中央に配置されている。
【0053】
また、突起36どうしの間隔は、ダイアフラム28の1点鎖線で囲んだ中央部aと各辺の中央部bに対向する領域で比較的短くなっており、それ以外の領域では比較的長くなっている。例えば、図8に示す例では、ダイアフラム28の一辺の長さLは800μmとなり、突起36どうしの間隔は、ダイアフラム28の中央部a及び各辺の中央部bと対向する領域では50μm、それ以外の領域cでは100μmとなっている。
【0054】
図9は4箇所の固定部27をシリコン基板22に固定された矩形状の振動電極板24において、ダイアフラム28の全体に均一な圧力が加わったときの撓みの大きさを区分的に表した図であって、ハッチングのドット密度が大きいほど撓みが大きく、ドット密度が小さいほど撓みが小さいことを表している。図9から分かるように、振動電極板24は、その中心から外側に向かうに従って柔軟性が低くなって撓みが小さくなっており、その中央部aと各辺の中央部bで周囲よりも撓みが大きくなっている。
【0055】
従って、この音響センサ21では、図10に模式的に示すように、振動電極板24が柔軟で撓みの大きな中央部aや各辺の中央部bに対向する領域で、突起36どうしの間隔が小さくなっており、振動電極板24が比較的剛性が高くて撓みの小さな領域cに対向する領域では、突起36どうしの間隔が大きくなっている。その結果、従来技術において説明した局所スティックや全体スティックを低減させることができる。この理由を以下に説明する。
【0056】
従来例において説明したように、振動電極板の柔軟な部分(中央部)では、振動電極板が突起間に落ち込んで対向電極板に接触する局所スティックを起こしやすい。これに対し、この音響センサ21ではダイアフラム28の中央部aやその辺の中央部bに対向する領域で突起36どうしの間隔を小さくしているので、局所スティックを起こしにくくなる。また、突起どうしの間隔が全体で均一である場合には、突起どうしの間隔が小さいと、振動電極板が突起のほぼ全体にくっついて全体スティックを起こしやすい。これに対し、この音響センサ21では、局所スティックを起こしやすい領域以外では突起36どうしの間隔を大きくしているので、突起36の数(すなわち、突起36の端面の合計面積)を少なくでき、全体スティックを低減できる。よって、局所スティックと全体スティックを効果的に低減することができる。
【0057】
詳しく言うと、振動電極板24の中央部aや各辺の中央部bに対向する領域おける突起36どうしの間隔は、突起36のもっとも軟らかい部分で局所スティックが起きる限界の値D3よりも小さくなっている。しかし、中央部a、bに対向する領域における突起36の間隔が小さすぎると、図11に示すように、中央部a、bの全体で振動電極板24が突起36にスティックする。よって、振動電極板24の中央部aや各辺の中央部bに対向する領域における突起36どうしの間隔は、中央部a又はbで振動電極板24が局所スティックする限界の値D3よりも小さく、かつ、振動電極板24が中央部a又はbに対向する領域で突起36の全体にくっつく限界の値D1よりも大きくなければならない。
【0058】
また、振動電極板24の中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36どうしの間隔は、振動電極板24が全体スティックを起こす限界の値D2よりも大きくなっている。しかし、中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36の間隔が大きすぎると、図12(b)に示すように、中央部a、b以外の領域cで振動電極板24が突起36間に落ち込んで局所スティックを起こす。よって、振動電極板24の中央部a、b以外の領域cに対向する領域における突起36どうしの間隔は、振動電極板24が全体スティックを起こす限界の値D2よりも大きく、かつ、振動電極板24が中央部a、b以外の領域cに対向する領域で振動電極板24が局所スティックを起こす限界の値D4よりも小さくなければならない。
【0059】
ここで、図12(a)のように振動電極板24の中央部a、bが局所スティックを起こす限界の値D3と、図12(b)のように中央部a、b以外の領域が局所スティックを起こす限界の値D4とを比較する。図9に表わしたように、中央部a、bは振動電極板24が柔らかくて変形しやすい箇所であるから、図12(a)のような中央部a、bでの局所スティックよりも図12(b)のような領域cでの局所スティックの方が起こりにくい。よって、一般に、中央部a又はbで振動電極板24が局所スティックするときの突起36どうしの間隔の限界値D3よりも、中央部a、b以外の領域cで振動電極板24が局所スティックするときの36どうしの間隔の限界値D4の方が大きな値となる。
【0060】
また、振動電極板24が、中央部a、bに対向する領域の突起36全体だけにくっつくときの突起36どうしの間隔の限界値D1は、突起36全体に全体スティックするときの突起36どうしの間隔の限界値D2よりも小さくなる。
【0061】
よって、4つの限界値の大小は、D1<D2<D3<D4となり、音響センサ21における突起36どうしの間隔の分布は図13に示すようになる。
【0062】
従来の音響センサのように突起どうしの間隔を均一にする場合には、突起どうしの間隔がD2よりも大きく、かつ、D3よりも小さな適切な間隔となるように調整しなければならなかった。その調整範囲は狭いために音響センサの製造も難しかった。これに対し、第1の実施形態の音響センサ21の場合には、振動電極板24の中央部a、bに対向する領域では、突起36どうしの距離をD1よりも大きく、かつ、D3よりも小さくすればよい。また、中央部a、b以外の領域cに対向する領域では、突起36どうしの距離をD2よりも大きく、かつ、D4よりも小さくすればよい。よって、中央部a、b及び領域cのいずれでも、その許容範囲が広くなる。
【0063】
従って、第1の実施形態の音響センサ21によれば、振動電極板24のスティックを容易に軽減することができ、音響センサ21の製作も容易になる。また、この音響センサ21では、振動電極板24のバネ性がばらついたり、浸入した水分の毛細管力が異なっていたり、表面間力がばらついたりしていても局所スティックや全体スティックを抑制でき、音響センサ21の信頼性が向上する。
【0064】
また、振動電極板24の撓みの分布は同心円状や同心状の多角形となることが多いため、前記のように突起36を同心状の多角形に沿って配列すれば(図8参照)、振動電極板24のスティックを均等に、かつ効率的に回避することができる。
【0065】
さらに、この音響センサ21によれば、突起の間隔を均一にする場合に比べて、突起36の数を少なくすることができる。よって、振動電極板24と対向電極板25との間の微小ギャップにおける空気の流れが突起36によって妨げられにくくなり、振動電極板24のエアダンピングが軽減される。その結果、音響センサ21の周波数特性(特に、高周波側での特性)が平坦となり、周波数帯域が広くなる。
【0066】
(実施形態2)
つぎに、図14〜図17により実施形態2による音響センサを説明する。第2の実施形態による音響センサの構造は、第1の実施形態による音響センサ21の構造とほぼ同じであるので、全体の構造及び説明は省略する。
【0067】
第2の実施形態の音響センサが第1の音響センサと異なる主な点は、振動電極板24の形状と突起36の配置であるので、これらの相違点について説明する。
【0068】
図14は、振動電極板24に垂直な方向から見たときの、第2の実施形態による振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図である。振動電極板24は円板状をしており、シリコン基板22には振動電極板24の形状に合わせて、円柱状の貫通孔もしくは円錐台状の凹部が設けられている。振動電極板24はシリコン基板22の貫通孔又は凹部の上面開口を覆うように配置され、固定部27により実質的に外周部全体をシリコン基板22に固定されている。
【0069】
振動電極板24に対向した対向電極板25には、一定の間隔で音響孔31を三角形状又は六角形状に配置している。また、対向電極板25の振動電極板24と対向する面には、音響孔31で囲まれた領域のほぼ中央に突起36が複数突出している。突起36は、振動電極板24の外周縁と同心状となった円形の中心部aでは突起36どうしの間隔が比較的小さくなっており、中心部aの外側の領域cでは突起36どうしの間隔が比較的大きくなっている。
【0070】
ここで、突起36どうしの間隔が小さくなった円形領域aの半径rは、振動電極板24の半径をRとすれば、
(1/8)R≦r≦(1/2)R
としている。図15は、円形状の振動電極板24において、ダイアフラム28の全体に均一な圧力が加わったときの撓みの大きさを区分的に表した図である。図15から分かるように、振動電極板24は、その中心から外側に向かうに従って柔軟性が低くなって撓みが小さくなっており、その中央部aで撓みが最も大きくなっている。中心から半径rが(1/2)R以上の領域では、ダイアフラム28の弾性的な撓みの対称性が崩れているので、局所スティックは起こりにくく、これよりも外側でも突起36どうしの間隔を小さくすると全体スティックを起こす恐れがある。また、中心から半径rが(1/8)Rよりも外側の領域でもダイアフラム28の弾性的な撓みの対称性が保たれているので、中心から半径rが(1/8)Rよりも内側でしか突起36どうしの間隔を小さくしなければ、そのすぐ外側で局所スティックを生じるおそれがある。よって、突起36どうしの間隔を小さくしておく領域は、
(1/8)R≦r≦(1/2)R
のような半径rの円内の領域aとするのが望ましい。
【0071】
第2の実施形態の音響センサでは、例えば、振動電極板24の膜厚が1μm、対向電極板25の厚みが2μm、振動電極板24と対向電極板25の間の微小ギャップが3μmで、突起36の高さが1μmとなっている。突起36は直径が10μm以下でできるだけ細い方が好ましいが、製造工程上の限度などもあるので、直径4μm程度とするのが好ましい。また、振動電極板24の半径Rを500μmとすれば、円形の中心部aの内側では、突起36どうしの間隔を50μmとし、その外の領域cでは、突起36どうしの間隔を100μmとしている。
【0072】
第2の実施形態では、振動電極板24が円形状をしているので、第1の実施形態の中心部bに相当する領域はないが、中心部aで突起36どうしの間隔を小さくし、その外の領域cでは突起36どうしの間隔を大きくすることで、第1の実施形態と同様な作用効果を奏することができる。すなわち、第2の実施形態でも、局所スティックと全体スティックとをより低減することができ、音響センサの信頼性を向上させることができる。しかも、振動電極板24の柔軟性の高い領域では突起36どうしの間隔を小さくし、振動電極板24の柔軟性の低い領域では突起36どうしの間隔を大きくすることにより、各領域での突起36どうしの間隔の適切な範囲を広くすることができ(図13参照)、音響センサの設計や製造を容易にできる。さらに、振動電極板24のバネ性にばらつきがあったり、浸入した液体の毛細管力が異なったりしても局所スティックや全体スティックが起きにくく、より一層音響センサの信頼性を向上させることができる。また、突起36の数を少なくできるので、振動電極板24のエアダンピングを軽減でき、音響センサ21の周波数特性(特に、高周波側での特性)を平坦にして、周波数帯域を広くできる。
【0073】
なお、突起36の配置の仕方としては、図16に示すように、振動電極板24と同心円状となった円に沿って配置してもよい。あるいは、図17に示すように、隙間なく並べた正三角形の頂点に配置してもよい。振動電極板24の撓みの分布は同心円状や多角形となることが多いため、突起36を同心円状や正三角形状に配列すれば、振動電極板24のスティックを均等に、かつ効率的に回避することができる。
【0074】
(第3の実施形態)
図18は、振動電極板24に垂直な方向から見たときの、第3の実施形態による振動電極板24と音響孔31及び突起36との位置関係を表した図である。また、図19は、第3の実施形態における対向電極板25の一部を拡大して示す図である。この実施形態では、突起36を音響孔31に近接させて、あるいは音響孔31に接するように設けている。
【0075】
第1、第2の実施形態では、図21に示すように、音響孔31に囲まれた領域の中央に突起36を設けている。そのため、突起36はいずれの音響孔31からも遠い位置にある。よって、振動電極板24と対向電極板25の間の微小ギャップに浸入した水分37が音響孔31から蒸発して出ていくとき、図22に示すように、水分37は突起36の位置に最後まで残る。突起36の位置では対向電極板25と振動電極板24とのギャップ間距離が一番短くなっているから、ここに水分37が残っていると、振動電極板24と対向電極板25の間で最後まで大きな毛細管力が働き、振動電極板24が対向電極板25から離れにくくなる。
【0076】
これに対し、図18、図19のように突起36が音響孔31に囲まれた領域の中央から外れ、音響孔31の近くに位置していると、微小ギャップに浸入した水分37が音響孔31から蒸発して出ていくとき、図20に示すように、水分37は突起36の位置で最も早く蒸発する。よって、水分37が最後に乾燥する場所には突起36がなく、振動電極板24と対向電極板25の間に働く毛細管力が早期に小さくなり、振動電極板24が対向電極板25から離れ易くなる。
【0077】
また、図23及び図24は第3の実施形態の変形例であって、突起36が音響孔31の位置と重なり合うようにしている。突起36の位置と音響孔31の位置とが重なり合っていると、突起36を形成した後で音響孔31を対向電極板25に設けるようにすると、音響孔31をエッチングにより開口すると同時に突起36の一部もエッチングされて削られる。よって、突起36の端面の面積を、突起36の加工限度よりもさらに小さくすることができ、局所スティックや全体スティックを軽減する効果がより高くなる。
【0078】
(その他の形態)
図25は本発明の音響センサのさらに別な実施形態を示す概略断面図である。第1〜第3の実施形態では、対向電極板25に突起36を設けたが、この実施形態では、振動電極板24に突起36を設けている。このような実施形態によれば、振動電極板24の中央部が撓んで突起36間の部分が対向電極板25にくっつく局所スティックや、突起36のほぼ全体が対向電極板25にくっつく全体スティックを防止することができる。
【0079】
また、第1〜第3の実施形態では、シリコン基板22の上に振動電極板24を設け、その上方を対向電極板25で覆ったが、図26、図27に示すように、シリコン基板22の上に対向電極板25を設け、その上方に振動電極板24を設けてもよい。なお、図26では、対向電極板25に突起36を設けており、図27では、振動電極板24に突起36を設けている。
【符号の説明】
【0080】
21 音響センサ
22 シリコン基板
23 絶縁被膜
24 振動電極板
25 対向電極板
26 貫通孔
27 固定部
28 ダイアフラム
31 音響孔
36 突起
37 水分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に固定され、かつ、音圧に感応する振動電極板と、
基板に固定され、かつ、前記振動電極板と空隙を介して対向した対向電極板と、
を有する音響センサにおいて、
前記振動電極板又は前記対向電極板の前記空隙側の面に複数の突起を設け、
前記振動電極板又は前記対向電極板における突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させ、
前記振動電極板又は前記対向電極板のうち前記突起を設けた側の電極板において、前記振動電極板の柔軟性の高い領域又は前記柔軟性の高い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔が、前記振動電極板の柔軟性の低い領域又は前記柔軟性の低い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする音響センサ。
【請求項2】
前記振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って前記基板に固定し、
前記可動部分の中央部、もしくは前記対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、前記可動部分の外周部分、もしくは前記対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項3】
前記振動電極板の前記可動部分は円板状に形成されており、
前記可動部分の半径をRとするとき、前記振動電極板の中央、もしくは前記対向電極板の当該中央に対向する位置を中心とする半径R/8以上R/2以下の領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、当該領域よりも外側の領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項4】
前記振動電極板の前記可動部分の外周部を前記基板に複数箇所で部分的に固定し、
前記振動電極板の固定部位どうし、もしくは前記対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、その他の突起形成領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項5】
前記突起は、複数の同心円又は複数の多角形に沿って配列されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項6】
前記対向電極板は音圧を通過させるための音響孔を複数有し、
前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央部に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項7】
前記対向電極板は音圧を通過させるための音響孔を複数有し、
前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央から外れた位置に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項1】
基板に固定され、かつ、音圧に感応する振動電極板と、
基板に固定され、かつ、前記振動電極板と空隙を介して対向した対向電極板と、
を有する音響センサにおいて、
前記振動電極板又は前記対向電極板の前記空隙側の面に複数の突起を設け、
前記振動電極板又は前記対向電極板における突起形成領域に応じて隣接する突起どうしの間隔を変化させ、
前記振動電極板又は前記対向電極板のうち前記突起を設けた側の電極板において、前記振動電極板の柔軟性の高い領域又は前記柔軟性の高い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔が、前記振動電極板の柔軟性の低い領域又は前記柔軟性の低い領域に対向する前記対向電極板の対向領域における隣接する突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする音響センサ。
【請求項2】
前記振動電極板をその可動部分の外周縁に沿って前記基板に固定し、
前記可動部分の中央部、もしくは前記対向電極板の当該中央部に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、前記可動部分の外周部分、もしくは前記対向電極板の当該外周部分に対向する領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項3】
前記振動電極板の前記可動部分は円板状に形成されており、
前記可動部分の半径をRとするとき、前記振動電極板の中央、もしくは前記対向電極板の当該中央に対向する位置を中心とする半径R/8以上R/2以下の領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、当該領域よりも外側の領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項4】
前記振動電極板の前記可動部分の外周部を前記基板に複数箇所で部分的に固定し、
前記振動電極板の固定部位どうし、もしくは前記対向電極板の当該固定部位に対向する部位どうしの中間に位置する領域における隣接する前記突起どうしの間隔が、その他の突起形成領域における隣接する前記突起どうしの間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項5】
前記突起は、複数の同心円又は複数の多角形に沿って配列されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項6】
前記対向電極板は音圧を通過させるための音響孔を複数有し、
前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央部に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項7】
前記対向電極板は音圧を通過させるための音響孔を複数有し、
前記突起はそれぞれ、前記音響孔で囲まれた領域の中央から外れた位置に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−135041(P2012−135041A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−59466(P2012−59466)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【分割の表示】特願2007−148433(P2007−148433)の分割
【原出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【分割の表示】特願2007−148433(P2007−148433)の分割
【原出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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