説明

駆動力配分装置および車両制御装置

【課題】2つの駆動源と相互に接続した2つの差動装置とを用い、各駆動源の駆動力を個別に回転駆動することで一対の被駆動対象物間で駆動力を移動できるようにする。
【解決手段】電磁クラッチCLにより第1ギヤ列18aを作動状態とし、回転方向が逆向きとなるよう各電動モータM1,M2を個別に回転駆動することで、左右の後輪間で駆動トルクを移動させ、各電動モータM1,M2の最大駆動力以上の駆動トルクを発生させる。電磁クラッチCLにより第2ギヤ列18bを作動状態とし、回転方向が同一の向きとなるよう各電動モータM1,M2を個別に回転駆動することで、左右の後輪間で駆動トルクを移動させ、各電動モータM1,M2による最大駆動力以上の駆動トルクを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置および車両の左右側の各車輪への駆動力を挙動変化に応じて配分する車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車等の車両においては、運転者によるアクセルスイッチの操作により、車両に搭載したバッテリ(電源)から駆動源としての電動モータに電流を供給し、これにより被駆動対象物としての各車輪を回転駆動して任意の速度で走行するものが知られている。
【0003】
このような電気自動車の中には、車両の前後の少なくともいずれか一方の左右側または4輪全てに、所謂、ホイールモータを独立に設けたものがあり、このホイールモータを備える電気自動車においては、ホイールモータの回転数(駆動力)をコントローラによりそれぞれ個別に制御できるようになっている。
【0004】
したがって、各ホイールモータを個別に制御することで車両の高い運動性能を確保することができるようになる。例えば、車両の旋回時に生じる左右輪(内外輪)の速度差を制御して車両のスムーズな旋回走行を可能にしたり、内外輪で駆動力を任意に制御することでアンダーステアやオーバーステア等の車両の挙動変化を抑制したりすることもできる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05−338446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようなホイールモータを有する電気自動車においては、車両の旋回走行時や加速時における挙動変化に対して、以下のような問題が生じ得る。
【0006】
例えば、車両が左旋回した場合には、車両の荷重が内輪側(左車輪)から外輪側(右車輪)へ移動し、また、車両が急発進した場合には、車両の荷重が前輪側から後輪側へ移動することになる。したがって、車輪の接地荷重が減少した側の車輪(左車輪や前輪)においては、ホイールモータの駆動力が、例えば30%であるにも関わらず空転(スリップ)してしまい、ホイールモータの残りの駆動力(70%)を有効に使うことができない状態となる。一方、車輪の接地荷重が増加した側の車輪(右車輪や後輪)においては、ホイールモータの駆動力を最大にしたとしても余裕がある状態、つまり、ホイールモータの能力以上(100%以上)の駆動力を車輪に加えたとしても空転しない状態となる。
【0007】
このように、各車輪の接地荷重が変化するような車両の挙動状態において、上述の従来技術においては、接地荷重が減少した側の車輪に対応するホイールモータの駆動力を有効に使うことができず、また、接地荷重が増加した側の車輪に対応するホイールモータの駆動力が足りなくなるといったことが生じ得る。
【0008】
本発明の目的は、2つの駆動源と相互に接続した2つの差動装置とを用い、各駆動源の駆動力を個別に回転駆動することで一対の被駆動対象物間で駆動力を移動できるようにした駆動力配分装置および車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の駆動力配分装置は、駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第2差動装置と、前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第1出力要素と、前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第2出力要素と、前記第1出力要素に設けられる第1および第2出力ギヤと、前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、前記第2出力要素に設けられる第3出力ギヤと、前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記第2出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の駆動力配分装置は、前記第1回転要素を太陽歯車,前記第2回転要素を遊星キャリア,前記第3回転要素を外輪歯車により形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の駆動力配分装置は、駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、前記第1出力軸に接続される第1太陽歯車,前記第1太陽歯車の外周を転動する第1遊星歯車,前記第1遊星歯車を回動自在に支持する第1キャリアおよび前記第1遊星歯車の外周に配置される外輪歯車を有する第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第2太陽歯車,前記第2太陽歯車の外周を転動する第2遊星歯車,前記第2遊星歯車と前記第1遊星歯車とを回動自在に支持する第2キャリア,前記第2遊星歯車の外周に配置される前記第1遊星歯車および前記外輪歯車を有する第2差動装置と、前記第1キャリアに設けられる第1および第2出力ギヤと、前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、前記外輪歯車に設けられる第3出力ギヤと、前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記外輪歯車の回転を前記各被駆動対象物のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の駆動力配分装置は、駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第2差動装置と、前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第1出力要素と、前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第2出力要素と、前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素と前記第2差動装置の第2回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第1動力伝達切替手段と、前記第2出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第2回転要素と前記第2差動装置の第3回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第2動力伝達切替手段と、前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1ブレーキ手段と、前記第2出力要素に設けられ、前記第2差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2ブレーキ手段と、前記第1出力要素と前記各被駆動対象物のいずれか一方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第1減速ギヤ列と、前記第2出力要素と前記各被駆動対象物のいずれか他方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第2減速ギヤ列とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の駆動力配分装置は、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を非接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を規制状態とし、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を非規制状態とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の車両制御装置は、車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第2差動装置と、前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第1出力要素と、前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第2出力要素と、前記第1出力要素に設けられる第1および第2出力ギヤと、前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、前記第2出力要素に設けられる第3出力ギヤと、前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記第2出力要素の回転を前記各車輪のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列と、前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の車両制御装置は、前記第1回転要素を太陽歯車,前記第2回転要素を遊星キャリア,前記第3回転要素を外輪歯車により形成することを特徴とする。
【0016】
本発明の車両制御装置は、車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、前記第1出力軸に接続される第1太陽歯車,前記第1太陽歯車の外周を転動する第1遊星歯車,前記第1遊星歯車を回動自在に支持する第1キャリアおよび前記第1遊星歯車の外周に配置される外輪歯車を有する第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第2太陽歯車,前記第2太陽歯車の外周を転動する第2遊星歯車,前記第2遊星歯車と前記第1遊星歯車とを回動自在に支持する第2キャリア,前記第2遊星歯車の外周に配置される前記第1遊星歯車および前記外輪歯車を有する第2差動装置と、前記第1キャリアに設けられる第1および第2出力ギヤと、前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、前記外輪歯車に設けられる第3出力ギヤと、前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記外輪歯車の回転を前記各車輪のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列と、前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の車両制御装置は、車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第2差動装置と、前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第1出力要素と、前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第2出力要素と、前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素と前記第2差動装置の第2回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第1動力伝達切替手段と、前記第2出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第2回転要素と前記第2差動装置の第3回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第2動力伝達切替手段と、前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1ブレーキ手段と、前記第2出力要素に設けられ、前記第2差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2ブレーキ手段と、前記第1出力要素と前記各車輪のいずれか一方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第1減速ギヤ列と、前記第2出力要素と前記各車輪のいずれか他方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第2減速ギヤ列と、前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の車両制御装置は、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を非接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を規制状態とし、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を非規制状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の駆動力配分装置によれば、動力伝達切替手段により第1ギヤ列を作動状態とし、回転方向が逆向きとなるよう各駆動源を個別に回転駆動することにより、各被駆動対象物間で駆動力を移動させることができるとともに、各駆動源単体の最大駆動力以上の駆動力(駆動力a)を発生させることができる。また、動力伝達切替手段により第2ギヤ列を作動状態とし、回転方向が同一の向きとなるよう各駆動源を個別に回転駆動することにより、各被駆動対象物間で駆動力を移動させることができるとともに、各駆動源単体による最大駆動力以上の駆動力(駆動力b)を発生させることができる(駆動力a>駆動力b)。これにより、例えば自動車等の車両に本発明を適用した場合には、低速走行では高い駆動力を得ることができるとともに、高速走行では各駆動源の回転数を抑え、エネルギ損失を最小にすることができ、ひいては駆動源の小型化も実現できる。
【0020】
本発明の駆動力配分装置によれば、第1回転要素を太陽歯車,第2回転要素を遊星キャリア,第3回転要素を外輪歯車により形成するので、各被駆動対象物への駆動力を遊星歯車機構により伝達することができる。したがって、駆動力の伝達経路が歯車の噛み合いにより形成されるので、エネルギ損失を抑えることができるとともに大きな駆動力を伝達することができる。
【0021】
本発明の駆動力配分装置によれば、第1差動装置と第2差動装置とを、相互に共通する歯車を有するラビニヨ式の遊星歯車機構により構成することができ、したがって、第1差動装置と第2差動装置との軸方向寸法を短縮化することが可能となる。
【0022】
本発明の駆動力配分装置によれば、第1出力要素に、第1差動装置の第3回転要素と第2差動装置の第2回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第1動力伝達切替手段と、第1差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1ブレーキ手段とを設け、第2出力要素に、第1差動装置の第2回転要素と第2差動装置の第3回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第2動力伝達切替手段と、第2差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2ブレーキ手段とを設けるので、各被駆動対象物間で駆動力配分状態と非駆動力配分状態とに切り替えることが可能となる。
【0023】
この場合、各動力伝達切替手段により各回転要素を非接続状態としたときに各ブレーキ手段を規制状態とすることで、各被駆動対象物を独立して駆動し得る非駆動力配分状態とすることができ、差動装置を単に減速機構として機能させることができる。また、各動力伝達切替手段により各回転要素を接続状態としたときに各ブレーキ手段を非規制状態とすることで、各被駆動対象物間で駆動力を配分し得る駆動力配分状態とすることができる。つまりは、例えば自動車等の車両に本発明を適用した場合には、低速では大きな駆動力を発生させることができ、高速では駆動源の回転数を抑えることができる。
【0024】
本発明の車両制御装置によれば、上記各構成において被駆動対象物を車輪とするとともに駆動源を電動モータとし、挙動変化検出手段の検出結果に基づいてコントローラが各電動モータの目標トルクを算出して各電動モータを回転制御するようにしたので、車両の挙動変化に応じて各車輪間で駆動力を移動させ、接地荷重が小さい方の車輪の駆動力を接地荷重が大きい方の車輪に配分することができ、エネルギの無駄な消費を低減することができるとともに車両の挙動変化を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1実施の形態について、図1〜図10を用いて説明する。
【0026】
図1は第1実施の形態に係る車両制御装置を説明する説明図を、図2は図1の駆動力配分装置を示すスケルトン図を、図3は図2の第1ギヤ列の作動状態を示す作動説明図を、図4(a),(b),(c)は図3の状態における各差動装置の入出力特性線図を、図5は図2の第2ギヤ列の作動状態を示す作動説明図を、図6(a),(b),(c)は図5の状態における各差動装置の入出力特性線図をそれぞれ表している。
【0027】
図1に示すように、車両10には、ステアリング(図示せず)により操舵される左右側一対の前輪FL,FRと、駆動輪となる左右側一対の後輪RL,RRとが、図示しない懸架装置を介して装着されている。
【0028】
車両10は、後輪駆動方式を採用する電気自動車であり、車両10の車体11には、駆動力配分装置12,コントローラ13,コントローラ13に電気的に接続される各種センサ14a〜14eが設けられている。ここで、本発明における車両制御装置は、駆動力配分装置12,コントローラ13および各種センサ14a〜14eにより構成されている。
【0029】
駆動力配分装置12は、車両10の左右側(図中上下側)で相互に対向配置される第1および第2駆動源としての第1および第2電動モータM1,M2と、各電動モータM1,M2と同軸上に配置されて相互に接続される一対の第1および第2差動装置20,30(図中二点鎖線)とから構成されている。第1および第2差動装置20,30には、被駆動対象物としての一対の後輪RL,RRに接続される各リアドライブシャフト15L,15Rを回転駆動するための一対の減速ギヤ列16L,16Rがそれぞれ接続されている。
【0030】
コントローラ13は、第1および第2電動モータM1,M2のそれぞれに電気的に接続されており、図示しない車載バッテリ(電源)を介して第1および第2電動モータM1,M2に所定の大きさの駆動電流を個別に供給するようになっている。これにより、第1および第2電動モータM1,M2は、それぞれ任意の回転速度で回転駆動可能となっている。
【0031】
図2に示すように、第1および第2電動モータM1,M2には、各電動モータM1,M2の回転に伴い回転する第1および第2出力軸17a,17bが設けられており、これらの第1および第2出力軸17a,17bは、各電動モータM1,M2に対して同軸上に設けられる第1および第2差動装置20,30に、それぞれ接続されている。
【0032】
第1および第2差動装置20,30は、それぞれ遊星歯車機構を採用している。各差動装置20,30は、第1回転要素としてのサンギヤ(太陽歯車)S1,S2と、第2回転要素としてのキャリア(遊星キャリア)C1,C2と、キャリアC1,C2にそれぞれ回転自在に支持される複数(例えば3つ)のプラネタリギヤ(遊星歯車)P1,P2と、第3回転要素としてのリングギヤ(外輪歯車)R1,R2と、第1および第2出力要素としての第1および第2回転軸O1,O2とから構成されている。
【0033】
第1差動装置20のサンギヤS1には第1出力軸17aが接続されている。第1差動装置20のプラネタリギヤP1は、サンギヤS1に噛み合ってその周囲を転動するようになっており、プラネタリギヤP1を支持するキャリアC1は、サンギヤS1と同軸上で相対回転可能となっている。キャリアC1は、第2差動装置30のリングギヤR2に接続されており、キャリアC1とリングギヤR2とは一体回転するようになっている。一体化されたキャリアC1およびリングギヤR2は第1回転軸O1を形成しており、第1回転軸O1はサンギヤS1の回転に伴い所定速度で回転するようになっている。
【0034】
第2差動装置30のサンギヤS2には第2出力軸17bが接続されている。第2差動装置30のプラネタリギヤP2は、サンギヤS2に噛み合ってその周囲を転動するようになっており、プラネタリギヤP2を支持するキャリアC2は、サンギヤS2と同軸上で相対回転可能となっている。キャリアC2は、第1差動装置20のリングギヤR1に接続されており、キャリアC2とリングギヤR1とは一体回転するようになっている。一体化されたキャリアC2およびリングギヤR1は第2回転軸O2を形成しており、第2回転軸O2はサンギヤS2の回転に伴い所定速度で回転するようになっている。
【0035】
第1回転軸O1とリアドライブシャフト15Lとの間には、減速ギヤ列16Lが設けられ、減速ギヤ列16Lは、第1ギヤ列18aおよび第2ギヤ列18b(図中二点鎖線)を有している。第1回転軸O1には、第1ギヤ列18aを構成する第1平歯車(第1出力ギヤ)19aと、第2ギヤ列18bを構成する第2平歯車(第2出力ギヤ)19bとがそれぞれ一体回転可能に設けられている。
【0036】
第1平歯車19aには第1逆転ギヤ20aが噛み合わされており、第1逆転ギヤ20aは、正転する第1平歯車19aの回転を逆転させるようになっている。第1逆転ギヤ20aには第1正転ギヤ21aが噛み合わされており、第1正転ギヤ21aは、逆転する第1逆転ギヤ20aの回転を正転させるようになっている。第1ギヤ列18aは、第1平歯車19a,第1逆転ギヤ20aおよび第1正転ギヤ21aにより構成されており、第1ギヤ列18aは、第1回転軸O1の回転を、電磁クラッチCLのクラッチギヤ22を介してリアドライブシャフト15Lの第1駆動ギヤ23aに伝達するようになっている。
【0037】
第2平歯車19bには第2逆転ギヤ20bが噛み合わされており、第2逆転ギヤ20bは、正転する第2平歯車19bの回転を逆転させるようになっている。第2ギヤ列18bは、第2平歯車19bおよび第2逆転ギヤ20bにより構成されており、第2ギヤ列18bは、第1回転軸O1の回転を、電磁クラッチCLのクラッチギヤ22を介してリアドライブシャフト15Lの第1駆動ギヤ23aに伝達するようになっている。このように、第1ギヤ列18aと第2ギヤ列18bとでは、歯車の数を、前者が3つ、後者が2つとなるようそれぞれ異ならせている。
【0038】
第1ギヤ列18aを構成する第1正転ギヤ21aと、第2ギヤ列18bを構成する第2逆転ギヤ20bとの間には、電磁クラッチ(動力伝達切替手段)CLが設けられている。電磁クラッチCLは、図1に示すようにコントローラ13に電気的に接続されており、電磁クラッチCLは、コントローラ13からの駆動電流に応じて図示しない比例ソレノイド(電磁駆動装置)を駆動することで図2中矢印に示す方向(図中左右方向)に作動するようになっている。
【0039】
電磁クラッチCLは、コントローラ13により図中右側へ作動(第1作動状態)させた場合には、第1正転ギヤ21aの摩擦部材A1と電磁クラッチCLの摩擦部材A2とが連結され、第2逆転ギヤ20bの摩擦部材B1と電磁クラッチCLの摩擦部材B2とが離間するようになっている。これにより、第1ギヤ列18aが作動する一方で第2ギヤ列18bが非作動状態となり、第1回転軸O1の回転が第1ギヤ列18aを介してリアドライブシャフト15Lに伝達されるようになる。
【0040】
上記とは逆に、コントローラ13により電磁クラッチCLを図中左側へ作動(第2作動状態)させた場合には、第2逆転ギヤ20bの摩擦部材B1と電磁クラッチCLの摩擦部材B2とが連結され、第1正転ギヤ21aの摩擦部材A1と電磁クラッチCLの摩擦部材A2とが離間する。これにより、第2ギヤ列18bが作動する一方で第1ギヤ列18aが非作動状態となり、第1回転軸O1の回転が第2ギヤ列18bを介してリアドライブシャフト15Lに伝達されるようになる。
【0041】
第2回転軸O2とリアドライブシャフト15Rとの間には、減速ギヤ列16Rが設けられ、減速ギヤ列16Rは、第3ギヤ列18cを有している。第2回転軸O2には、第3ギヤ列18cを構成する第3平歯車(第3出力ギヤ)19cが一体回転可能に設けられている。第3平歯車19cには第3逆転ギヤ20cが噛み合わされており、第3逆転ギヤ20cは、正転する第3平歯車19cの回転を逆転させるようになっている。第3ギヤ列18cは、第3平歯車19c,第3逆転ギヤ20cにより構成されており、第2回転軸O2の回転を、第3逆転ギヤ20cの伝達ギヤ24を介してリアドライブシャフト15Rの第2駆動ギヤ23bに伝達するようになっている。
【0042】
次に、電磁クラッチCLを作動させて第1ギヤ列18aが作動状態にある場合の第1および第2差動装置20,30の入出力特性について、図3および図4を用いて説明する。図4に示す入出力特性線図(駆動力線図)の縦軸および横軸は、それぞれ回転数および各歯車のギヤ比を表しており、図中白抜矢印は駆動トルク(駆動力)を表している。
【0043】
図3に示すように、コントローラ13により電磁クラッチCLを図中矢印方向(図中右方向)に移動させて第1作動状態とすると、第1ギヤ列18aが作動状態となる。この状態のもとで、コントローラ13により第1電動モータM1を逆方向に、また、第2電動モータM2を正方向にそれぞれ所定速度で回転駆動する。すると、第1電動モータM1の逆回転に伴い第1差動装置20を介して第1回転軸O1が矢印L(1)方向に回転し、また、第2電動モータM2の正回転に伴い第2差動装置30を介して第2回転軸O2が矢印R(1)方向に回転する。
【0044】
第1回転軸O1が矢印L(1)方向に回転すると、第1逆転ギヤ20aが矢印L(2)方向に回転(正転)される。これに伴い、第1逆転ギヤ20aに噛み合う第1正転ギヤ21aが矢印L(3)方向に回転(逆転)し、第1正転ギヤ21aと一体回転するクラッチギヤ22が回転する。そして、クラッチギヤ22に噛み合う第1駆動ギヤ23aが矢印L(4)方向に回転(正転)して、リアドライブシャフト15Lを介して後輪RLが正転、つまり、図1に示す車両10を前進させる方向に回転する。なお、当該状態においては、第2ギヤ列18bは図中二点鎖線で示すように電磁クラッチCLの開放により空転状態となっている。
【0045】
第2回転軸O2が矢印R(1)方向に回転すると、第3逆転ギヤ20cが矢印R(2)方向に回転(逆転)され、これに伴い第3逆転ギヤ20cと一体回転する伝達ギヤ24が回転する。そして、伝達ギヤ24に噛み合う第2駆動ギヤ23bが矢印R(3)方向に回転(正転)して、リアドライブシャフト15Rを介して後輪RRが正転、つまり、図1に示す車両10を前進させる方向に回転する。
【0046】
図4(a)は第1電動モータM1単体の入出力特性線図を示しており、第1電動モータM1が負の駆動トルクTm1(逆回転)をサンギヤS1を介して出力した場合、第1回転軸O1、つまり、キャリアC1とリングギヤR2との接続体には、負の駆動トルク(1+λ1)×Tm1が発生する。一方、第2回転軸O2、つまり、リングギヤR1とキャリアC2との接続体には、正の駆動トルクλ1×Tm1が発生する。ここで、ギヤ比λ1はZr1/Zs1により求められ、Zr1はリングギヤR1のギヤ歯数を、Zs1はサンギヤS1のギヤ歯数をそれぞれ表している。なお、図中符号N1は第1回転軸O1の回転数(逆回転)である。
【0047】
図4(b)は第2電動モータM2単体の入出力特性線図を示しており、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2(正回転,Tm1=Tm2)をサンギヤS2を介して出力した場合、第2回転軸O2、つまり、キャリアC2とリングギヤR1との接続体には、正の駆動トルク(1+λ2)×Tm2が発生する。一方、第1回転軸O1、つまり、リングギヤR2とキャリアC1との接続体には、負の駆動トルクλ2×Tm2が発生する。ここで、ギヤ比λ2はZr2/Zs2により求められ、Zr2はリングギヤR2のギヤ歯数を、Zs2はサンギヤS2のギヤ歯数をそれぞれ表している。なお、図中符号N2は第2回転軸O2の回転数(正回転)である。
【0048】
図4(c)は、図4(a)および図4(b)を合成した入出力特性線図を表しており、第1電動モータM1の入出力特性線図と第2電動モータM2の入出力特性線図とは屈曲しない一の直線により表される。
【0049】
ここで、図2における各ギヤのギヤ比、19a:21a,19b:20b,19c:21c,22:23a及び23a:23bは何れも1:1の関係である。
【0050】
第1電動モータM1が負の駆動トルクTm1を、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2をそれぞれ出力した場合、第1回転軸O1には負の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+λ2×Tm2が発生し、第2回転軸O2には正の差分駆動トルク(1+λ2)×Tm2+λ1×Tm1が発生する。
【0051】
その後、第1ギヤ列18aの第1逆転ギヤ20aによって、図中二点鎖線に示すように、負の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+λ2×Tm2が逆回転(負)から正回転(正)に方向変換されて、正の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+λ2×Tm2となる。これにより、リアドライブシャフト15Lからは(1+λ1)×Tm1+λ2×Tm2の駆動トルクToLが出力され、リアドライブシャフト15Rからは(1+λ2)×Tm2+λ1×Tm1の駆動トルクToRが出力される。
【0052】
このように、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、それぞれ任意に負の方向および正の方向に調整することで、各差動装置20,30により関連付けられた各電動モータM1,M2の入出力特性線図の傾斜を大きくすることができる。これにより、後輪RL,RR間で大きな駆動トルクを移動させることが可能となり、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを大きな値に調整することができる。
【0053】
ここで、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRは、下記式(1),(2)により表され、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、それぞれ各差動装置20,30によって合成される。コントローラ13は、下記式(1),(2)に基づいて各電動モータM1,M2を逆方向,正方向にそれぞれ回転駆動する。
ToL=(1+λ1)×Tm1+λ2×Tm2・・・(1)
ToR=(1+λ2)×Tm2+λ1×Tm1・・・(2)
【0054】
次に、電磁クラッチCLを作動させて第2ギヤ列18bが作動状態にある場合の第1および第2差動装置20,30の入出力特性について、図5および図6を用いて説明する。
【0055】
図5に示すように、コントローラ13により電磁クラッチCLを図中矢印方向(図中左方向)に移動させて第2作動状態とすると、第2ギヤ列18bが作動状態となる。この状態のもとで、コントローラ13により各電動モータM1,M2を正方向にそれぞれ所定速度で回転駆動する。すると、各電動モータM1,M2の正回転に伴い、第1差動装置20を介して第1回転軸O1が矢印L(1)方向に、また、第2差動装置30を介して第2回転軸O2が矢印R(1)方向に回転する。
【0056】
第1回転軸O1が矢印L(1)方向に回転すると、第2逆転ギヤ20bが矢印L(2)方向に回転(逆転)される。これに伴い、第2逆転ギヤ20bと一体回転するクラッチギヤ22が回転する。そして、クラッチギヤ22に噛み合う第1駆動ギヤ23aが矢印L(3)方向に回転(正転)して、リアドライブシャフト15Lを介して後輪RLが正転、つまり、図1に示す車両10を前進させる方向に回転する。なお、当該状態においては、第1ギヤ列18aは図中二点鎖線で示すように電磁クラッチCLの開放により空転状態となっている。
【0057】
第2回転軸O2が矢印R(1)方向に回転すると、上記と同様に第2駆動ギヤ23bが矢印R(3)方向に回転(正転)して、リアドライブシャフト15Rを介して後輪RRが正転、つまり、図1に示す車両10を前進させる方向に回転する。
【0058】
図6(a)は第1電動モータM1単体の入出力特性線図を示しており、第1電動モータM1が正の駆動トルクTm1(正回転)をサンギヤS1を介して出力した場合、第1回転軸O1、つまり、キャリアC1とリングギヤR2との接続体には、正の駆動トルク(1+λ1)×Tm1が発生する。一方、第2回転軸O2、つまり、リングギヤR1とキャリアC2との接続体には、負の駆動トルクλ1×Tm1が発生する。
【0059】
図6(b)は第2電動モータM2単体の入出力特性線図を示しており、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2(正回転,Tm1>Tm2)をサンギヤS2を介して出力した場合、第2回転軸O2、つまり、キャリアC2とリングギヤR1との接続体には、正の駆動トルク(1+λ2)×Tm2が発生する。一方、第1回転軸O1、つまり、リングギヤR2とキャリアC1との接続体には、負の駆動トルクλ2×Tm2が発生する。
【0060】
図6(c)は、図6(a)および図6(b)を合成した入出力特性線図を表しており、第1電動モータM1の入出力特性線図と第2電動モータM2の入出力特性線図とは屈曲しない一の直線により表される。
【0061】
第1電動モータM1が正の駆動トルクTm1を、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2をそれぞれ出力した場合、第1回転軸O1には正の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1−λ2×Tm2が発生し、第2回転軸O2には正の差分駆動トルク(1+λ2)×Tm2−λ1×Tm1が発生する。
【0062】
これにより、リアドライブシャフト15Lからは(1+λ1)×Tm1−λ2×Tm2の駆動トルクToLが出力され、リアドライブシャフト15Rからは(1+λ2)×Tm2−λ1×Tm1の駆動トルクToRが出力される。
【0063】
このように、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、それぞれ任意に正の方向に調整することで、後輪RL,RR間で駆動トルクを移動させることが可能となり、各回転軸O1,O2の駆動トルク、つまり、各リアドライブシャフト15L,15Rにそれぞれ接続される後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを調整することができる。
【0064】
ここで、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRは、下記式(3),(4)により表され、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、それぞれ各差動装置20,30によって合成される。コントローラ13は、下記式(3),(4)に基づいて各電動モータM1,M2を正方向にそれぞれ回転駆動する。
ToL=(1+λ1)×Tm1−λ2×Tm2・・・(3)
ToR=(1+λ2)×Tm2−λ1×Tm1・・・(4)
【0065】
なお、第2ギヤ列18bを作動させる場合には、各電動モータM1,M2を正方向にそれぞれ回転駆動するようにしており、第1ギヤ列18aを作動させて各電動モータM1,M2を逆方向,正方向にそれぞれ回転駆動した場合に出力し得る駆動トルクToL,ToRに比して、第2ギヤ列18bを作動させた場合に出力し得る駆動トルクToL,ToRの方が小さくなる。
【0066】
したがって、例えば、後輪RL,RRのそれぞれに大きな駆動トルクを必要とする車両10の加速時(低速走行時)等に第1ギヤ列18aを作動させ、それほど大きな駆動トルクを必要としない車両10の挙動変化時(高速走行時)等に第2ギヤ列18bを作動させることで、車両10のスムーズな加速性能と安定した走行性能を両立させることが可能となる。
【0067】
次に、コントローラ13による各電動モータM1,M2および電磁クラッチCLの制御内容について説明する。図7は本発明に係るコントローラの構造を示すブロック図を、図8は車両の左旋回時における挙動変化を説明する説明図を、図9(a),(b),(c)は車両の異なる挙動変化時における入出力特性線図を、図10は電磁クラッチの切り替えタイミングを説明するタイミングチャートをそれぞれ表している。
【0068】
図7に示すように、コントローラ13の入力側には、車両10の車速状態や旋回時におけるオーバーステア,アンダーステア等の車両の挙動変化を検出する各種センサ(挙動変化検出手段)14a〜14eが電気的に接続されている。なお、図7に示すアクセルセンサ14a,操舵角センサ14b,横加速度センサ14c,ヨーレイトセンサ14dおよび車輪速センサ14eは、図1に示す符号14a〜14eにそれぞれ対応している。また、車輪速センサ14eは、図1および図7においては1つのみを示しているが、前後輪のそれぞれに対応して合計4つ設けられている。
【0069】
コントローラ13は、車体絶対速度算出部13a,ドライバ要求駆動トルク算出部13b,目標ヨーレイト算出部13c,目標車輪速度算出部13dおよびモータトルク算出部13eを備えており、コントローラ13の出力側には、各電動モータM1,M2および電磁クラッチCLが電気的に接続されている。なお、図中破線で示す電磁ブレーキBRは、後述する第3実施の形態において追加される構成部材を示している。
【0070】
車体絶対速度算出部13aには、図8に示す車体11の向心力αを検出する横加速度センサ14cの検出信号、および図8に示す各車輪速度VfR,VfL,VrR,VrLを検出する各車輪速センサ14eの検出信号が入力されるようになっている。車体絶対速度算出部13aは、これらの各信号を用いて所定の演算処理を実行することにより、図8に示す車体11の路面に対する絶対速度Vbを算出するようになっている。
【0071】
ドライバ要求駆動トルク算出部13bには、運転者(ドライバ)により操作されるアクセルセンサ14aの検出信号、および車体絶対速度算出部13aからの絶対速度Vbが入力されるようになっている。ドライバ要求駆動トルク算出部13bは、これらの各信号を用いて所定の演算処理を実行することにより、車両10が運転者の要求する速度に達するのに必要な各電動モータM1,M2の駆動トルクを算出するようになっている。
【0072】
目標ヨーレイト算出部13cには、図8に示す運転者のステアリング操作による前輪FR,FLの角度δを検出する操舵角センサ14bの検出信号、および車体絶対速度算出部13aからの絶対速度Vbが入力されるようになっている。目標ヨーレイト算出部13cは、これらの各信号を用いて所定の演算処理を実行することにより、図8に示す車体滑り角βを最小値に抑えるための目標ヨーレイトを算出するようになっている。
【0073】
目標車輪速度算出部13dには、図8に示す車体11のヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサ14dの検出信号、および車体絶対速度算出部13aからの絶対速度Vbが入力されるようになっている。目標車輪速度算出部13dは、これらの各信号を用いて所定の演算処理を実行することにより、車両10の挙動変化を最小限に抑えるための後輪RR,RLの目標車輪速度を算出するようになっている。
【0074】
目標ヨーレイト算出部13cにより算出した目標ヨーレイト信号と、ヨーレイトセンサ14dにより検出された実ヨーレイト信号とは、第1加え合わせ点13fにおいて差分ヨーレイト信号とされる。また、目標車輪速度算出部13dにより算出した目標車輪速度信号と、各車輪速センサ14eにより検出された実車輪速度信号とは、第2加え合わせ点13gにおいて差分車輪速度信号とされる。
【0075】
モータトルク算出部13eには、ドライバ要求駆動トルク算出部13bからの駆動トルク信号、第1加え合わせ点13fからの差分ヨーレイト信号および第2加え合わせ点13gからの差分車輪速度信号が入力されるようになっている。
【0076】
モータトルク算出部13eでは、まず、入力された各信号を用いて車両10の挙動変化を抑制するために必要な後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを個別に算出し、その後、駆動トルクToL,ToRを発揮し得る各電動モータM1,M2の駆動トルク(目標トルク)Tm1,Tm2を、上記式(1)〜(4)を用いて算出する。そして、モータトルク算出部13eは、図示しない車載バッテリを介して駆動トルクTm1,Tm2が出力されるよう各電動モータM1,M2をそれぞれ制御する。
【0077】
モータトルク算出部13eは、さらに、各車輪速センサ14eから得られる車両10の車速に基づいて電磁クラッチCLを切り替えるようになっている。つまり、車両10の低速時(例:50km/h以下)においては、第1ギヤ列18a(図2参照)を作動させるよう電磁クラッチCLを切り替え、車両10の高速時(例:50km/h以上)においては、第2ギヤ列18b(図2参照)を作動させるよう電磁クラッチCLを切り替える。そして、車両10の低速時においては、上記式(1)および(2)に基づき駆動トルクTm1,Tm2が出力されるよう各電動モータM1,M2をそれぞれ制御し、車両10の高速時においては、上記式(3)および(4)に基づき駆動トルクTm1,Tm2が出力されるよう各電動モータM1,M2をそれぞれ制御する。
【0078】
車両10が低速時に加速した場合や高速時に挙動変化した場合等、車両10の異なる挙動変化に対して、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、図9(a),(b),(c)に示すように制御される。
【0079】
図9(a)は、車両10の前輪FL,FRの角度δが「0」であり、加速状態にある場合の入出力特性線図を示している。この場合、図10の時間t0〜t1に示すように、コントローラ13は電磁クラッチCLを第1ギヤ列18a、つまり、低速側(L)に切り替えて、第1電動モータM1を逆方向に第2電動モータM2を正方向に回転させる。後輪RL,RRの回転数(各回転軸O1,O2の回転数)はそれぞれ同じ値(N1=N2)となり、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、それぞれ同じ値(Tm1=Tm2)に制御される。これにより、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRもそれぞれ同じ値(ToL=ToR)となる。したがって、時間t0〜t1の間では、後輪RL,RRの駆動トルクを増大して、車両10の直進性を確保しつつスムーズな加速性能を得ることができる。
【0080】
時間t1では車両10の車速が50km/hに到達したことを検出して、コントローラ13は、電磁クラッチCLを一旦ニュートラル(N)に切り替える(図2参照)とともに、第1電動モータM1を正方向への回転に切り替える。その後、時間t2において、第1電動モータM1の回転数が第2電動モータM2の回転数と略等しくなったことを検出して、コントローラ13は、電磁クラッチCLを第2ギヤ列18b、つまり、高速側(H)に切り替える。
【0081】
時間t2以降においては、コントローラ13は、図9(b)および図9(c)に示すような駆動力配分制御を行う。
【0082】
図9(b)は、アンダーステアやオーバーステア等の挙動変化を伴わずに車両10が右旋回し、車両10の後輪RLの回転数N1が後輪RRの回転数N2よりも大きくなった場合(N1>N2)の入出力特性線図を示している。このとき、旋回外輪(後輪RL)の接地荷重が大きくなって後輪RLのグリップに余裕がある状態となり、一方、旋回内輪(後輪RR)の接地荷重が小さくなって後輪RRはスリップし易い状態となる。したがって、コントローラ13により、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、「Tm1>Tm2」となるように制御することで、接地荷重が小さな後輪RRに配分される駆動トルクToRのうちの一部を、接地荷重が大きな後輪RLに移動させることができ、車両10の旋回走行性能を向上させることができる。
【0083】
図9(c)は、右旋回時において車両10がオーバーステア傾向にある場合の入出力特性線図を示している。この場合、コントローラ13により各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、「Tm1<Tm2」となるように制御することで、旋回外輪(後輪RL)に配分される駆動トルクToLのうちの一部を、旋回内輪(後輪RR)に移動させることができる。したがって、オーバーステア傾向にある車両10の進行方向を、旋回半径外側に向けることができ、車両10がオーバーステア状態になることを抑制することができる。
【0084】
以上のように構成した第1実施の形態に係る駆動力配分装置12によれば、電磁クラッチCLにより第1ギヤ列18aを作動状態とし、回転方向が逆向きとなるよう各電動モータM1,M2を個別に回転駆動することで、後輪RL,RR間で駆動トルクを移動させることができ、各電動モータM1,M2の最大駆動力以上の駆動トルクを発生させることができる。また、電磁クラッチCLにより第2ギヤ列18bを作動状態とし、回転方向が同一の向きとなるよう各電動モータM1,M2を個別に回転駆動することで、後輪RL,RR間で駆動トルクを移動させることができ、各電動モータM1,M2による最大駆動力以上の駆動トルクを発生させることができる。
【0085】
また、第1実施の形態に係る駆動力配分装置12によれば、各差動装置20,30を、各サンギヤS1,S2,各キャリアC1,C2および各リングギヤR1,R2を有する遊星歯車機構により形成したので、駆動トルクの伝達経路を歯車の噛み合いにより形成することができ、エネルギ損失を抑えることができるとともに大きな駆動トルクを伝達することが可能となる。
【0086】
さらに、第1実施の形態に係る車両制御装置によれば、コントローラ13が各種センサ14a〜14eの検出信号に基づいて、各電動モータM1,M2および電磁クラッチCLを制御するので、車両10の車速状態や挙動変化に応じて後輪RL,RRに最適な駆動トルクを発生させることができ、各電動モータM1,M2のエネルギを有効に活用して無駄なエネルギの消費を低減しつつ、車両10の加速性能や挙動変化抑制性能等を向上させることができる。
【0087】
次に、本発明の第2実施の形態について、図11〜図14を用いて説明する。
【0088】
図11は第2実施の形態に係る駆動力配分装置を示すスケルトン図を、図12(a),(b)は図11の第1差動装置および第2差動装置を説明するスケルトン図を、図13(a),(b),(c)は図11の第1ギヤ列を作動状態とした場合の各差動装置の入出力特性線図を、図14(a),(b),(c)は図11の第2ギヤ列を作動状態とした場合の各差動装置の入出力特性線図をそれぞれ表している。なお、上述した第1実施の形態と同様の部分には同一の符号を付し、第1実施の形態と異なる部分について説明する。
【0089】
図11に示す駆動力配分装置40は、上述した第1実施の形態に比して、同じ構成の各差動装置20,30(図2参照)を接続したものに代えて、所謂、ラビニヨ式差動装置41を単体で用いる点が異なっている。図11に示すように、ラビニヨ式差動装置41は、第1差動装置42と第2差動装置43とを備えており、各電動モータM1,M2の出力軸17a,17bからの2つの入力に対して各回転軸O1,O2への2つの出力を得ることが可能となっている。
【0090】
第1電動モータM1の出力軸17aは第1太陽歯車としてのサンギヤS1に接続されており、このサンギヤS1の周囲には第1遊星歯車としてのロングピニオンLPが転動自在に設けられている。ロングピニオンLPは、第1キャリアとしてのキャリアC1に回動自在に支持されており、このキャリアC1には、第1回転軸O1が接続されている。ロングピニオンLPの外周には外輪歯車としてのリングギヤRが設けられており、このリングギヤRには第2回転軸O2が接続されている。
【0091】
ここで、第1差動装置42は、所謂、シングルピニオン形遊星歯車機構を採用しており、サンギヤS1,ロングピニオンLP,キャリアC1およびリングギヤRにより構成されている。この第1差動装置42をラビニヨ式差動装置41本体から分離して表すと図12(a)のようになる。
【0092】
第2電動モータM2の出力軸17bは第2太陽歯車としてのサンギヤS2に接続されており、このサンギヤS2の周囲には第2遊星歯車としてのショートピニオンSPが転動自在に設けられている。また、ショートピニオンSPの外周には、第1差動装置42と共通のロングピニオンLPが転動自在に設けられている。ショートピニオンSPは、第2キャリアとしてのキャリアC2に支持されており、このキャリアC2は、キャリアC1に一体的に設けられるとともにショートピニオンSPとロングピニオンLPとを相互に支持するようになっている。
【0093】
ここで、第2差動装置43は、所謂、ダブルピニオン形遊星歯車機構を採用しており、サンギヤS2,ショートピニオンSP,ロングピニオンLP,キャリアC1,キャリアC2およびリングギヤRにより構成されている。この第2差動装置43をラビニヨ式差動装置41本体から分離して表すと図12(b)のようになる。
【0094】
このように構成されるラビニヨ式差動装置41の入出力特性を具体的に示すと、図13(第1ギヤ列18a作動状態)および図14(第2ギヤ列18b作動状態)のようになる。
【0095】
図13(a)に示すように、第1電動モータM1が、負の駆動トルクTm1(逆回転)をサンギヤS1を介して出力した場合、第1回転軸O1に接続されるキャリアC1には、負の駆動トルク(1+λ1)×Tm1が発生する。一方、第2回転軸O2に接続されるリングギヤRには、正の駆動トルクλ1×Tm1が発生する。ここで、ギヤ比λ1はZr/Zs1により求められ、ZrはリングギヤRのギヤ歯数を、Zs1はサンギヤS1のギヤ歯数をそれぞれ表している。
【0096】
図13(b)に示すように、第2電動モータM2が、正の駆動トルクTm2(正回転,Tm2=Tm1)をサンギヤS2を介して出力した場合、第2回転軸O2に接続されるリングギヤRには、正の駆動トルクλ2×Tm2が発生する。一方、第1回転軸O1に接続されるキャリアC1には、負の駆動トルク(λ2−1)×Tm2が発生する。ここで、ギヤ比λ2はZr/Zs2により求められ、ZrはリングギヤRのギヤ歯数を、Zs2はサンギヤS2のギヤ歯数をそれぞれ表している。
【0097】
第1電動モータM1が負の駆動トルクTm1を、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2をそれぞれ出力した場合、図13(c)に示すように、第1回転軸O1には負の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+(λ2−1)×Tm2が発生し、第2回転軸O2には正の差分駆動トルクλ1×Tm1+λ2×Tm2が発生する。
【0098】
その後、第1ギヤ列18aの第1逆転ギヤ20aによって、図中二点鎖線に示すように、負の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+(λ2−1)×Tm2が逆回転(負)から正回転(正)に方向変換されて、正の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1+(λ2−1)×Tm2となる。これにより、リアドライブシャフト15Lからは(1+λ1)×Tm1+(λ2−1)×Tm2の駆動トルクToLが出力され、リアドライブシャフト15Rからはλ1×Tm1+λ2×Tm2の駆動トルクToRが出力される。
【0099】
このように、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、それぞれ任意に負の方向および正の方向に調整することで、ラビニヨ式差動装置41により関連付けられた各電動モータM1,M2の入出力特性線図の傾斜を大きくすることができる。これにより、後輪RL,RR間で大きな駆動トルクを移動させることが可能となり、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを大きな値に調整することができる。
【0100】
ここで、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRは、下記式(5),(6)により表され、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、それぞれラビニヨ式差動装置41によって合成される。コントローラ13は、下記式(5),(6)に基づいて各電動モータM1,M2を逆方向,正方向にそれぞれ回転駆動する。
ToL=(1+λ1)×Tm1+(λ2−1)×Tm2・・・(5)
ToR=λ1×Tm1+λ2×Tm2・・・(6)
【0101】
図14(a)に示すように、第1電動モータM1が、正の駆動トルクTm1(正回転)をサンギヤS1を介して出力した場合、第1回転軸O1に接続されるキャリアC1には、正の駆動トルク(1+λ1)×Tm1が発生する。一方、第2回転軸O2に接続されるリングギヤRには、負の駆動トルクλ1×Tm1が発生する。
【0102】
図14(b)に示すように、第2電動モータM2が、正の駆動トルクTm2(正回転,Tm1>Tm2)をサンギヤS2を介して出力した場合、第2回転軸O2に接続されるリングギヤRには、正の駆動トルクλ2×Tm2が発生する。一方、第1回転軸O1に接続されるキャリアC1には、負の駆動トルク(λ2−1)×Tm2が発生する。
【0103】
第1電動モータM1が正の駆動トルクTm1を、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2をそれぞれ出力した場合、図14(c)に示すように、第1回転軸O1には正の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1−(λ2−1)×Tm2が発生し、第2回転軸O2には正の差分駆動トルクλ2×Tm2−λ1×Tm1が発生する。これにより、リアドライブシャフト15Lからは(1+λ1)×Tm1−(λ2−1)×Tm2の駆動トルクToLが出力され、リアドライブシャフト15Rからはλ2×Tm2−λ1×Tm1の駆動トルクToRが出力される。
【0104】
このように、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、それぞれ任意に正の方向に調整することで、後輪RL,RR間で駆動トルクを移動させることが可能となり、各回転軸O1,O2の駆動トルク、つまり、各リアドライブシャフト15L,15Rにそれぞれ接続される後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを調整することができる。
【0105】
ここで、後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRは、下記式(7),(8)により表され、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2は、それぞれラビニヨ式差動装置41によって合成される。コントローラ13は、下記式(7),(8)に基づいて各電動モータM1,M2を正方向にそれぞれ回転駆動する。
ToL=(1+λ1)×Tm1−(λ2−1)×Tm2・・・(7)
ToR=λ2×Tm2−λ1×Tm1・・・(8)
【0106】
以上のように構成した第2実施の形態に係る駆動力配分装置40においても、上述した第1実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。これに加え、第2実施の形態によれば、駆動力配分装置40を構成する第1および第2差動装置42,43を、共通のリングギヤRおよびキャリアC1を有するラビニヨ式差動装置41としたので、差動装置を構成する部品の簡素化が図れるとともに、差動装置の軸方向寸法を短縮化することができ、車両10へのレイアウト性を向上させることが可能となる。
【0107】
次に、本発明の第3実施の形態について、図15〜図18を用いて説明する。
【0108】
図15は第3実施の形態に係る駆動力配分装置を示すスケルトン図を、図16は電磁ブレーキを規制状態に電磁クラッチを開放状態にした場合のスケルトン図を、図17は図16の状態における各差動装置の入出力特性線図を、図18は電磁ブレーキを非規制状態に電磁クラッチを接続状態にした場合のスケルトン図をそれぞれ表している。なお、上述した第1実施の形態と同様の部分には同一の符号を付し、第1実施の形態と異なる部分について説明する。
【0109】
図15に示す駆動力配分装置50は、上述した第1実施の形態に比して、同じ構成の各差動装置20,30(図2参照)を、第1および第2電磁クラッチCL1,CL2を介して接続し、各電磁クラッチCL1,CL2をコントローラ13により断続可能とした点、および、各差動装置20,30を構成する各リングギヤR1,R2の回転を、コントローラ13により規制状態または非規制状態とする第1および第2電磁ブレーキBR1,BR2を追加した点が異なっている。
【0110】
第1差動装置20のリングギヤR1には、第1電磁クラッチ(第1動力伝達切替手段)CL1の第1クラッチ軸51aに一体回転可能に設けられた第1クラッチギヤ52aが噛み合わされている。第1クラッチ軸51aには、第1伝達ギヤ53aが相対回転可能に設けられており、第1伝達ギヤ53aは、第1電磁クラッチCL1を移動させて第1伝達ギヤ53aの摩擦部材D1と第1クラッチ軸51aの摩擦部材D2とを連結した際に、第1クラッチギヤ52aとともに回転するようになっている。
【0111】
第1クラッチ軸51aには、第1電磁ブレーキBR1が設けられており、第1電磁ブレーキBR1は、第1クラッチ軸51aと一体回転する第1ディスクDS1と、図示しない比例ソレノイドにより第1ディスクDS1に対して相互に近接または離間する一対のパッド(図示せず)とから構成されている。第1電磁ブレーキBR1を規制状態とすることにより第1クラッチ軸51aの回転、つまり、リングギヤR1の回転が規制され、第1電磁ブレーキBR1を非規制状態とすることにより第1クラッチ軸51a(リングギヤR1)の回転が許容されるようになっている。
【0112】
第1伝達ギヤ53aには、第2差動装置30のキャリアC2に一体回転可能に設けられた第1キャリアギヤ54aが噛み合わされており、第1キャリアギヤ54aには、第1大径ギヤ55aが噛み合わされている。第1大径ギヤ55aには、第1大径ギヤ55aよりも小径の第1小径ギヤ56aが一体回転可能に設けられており、第1小径ギヤ56aは第2駆動ギヤ23bに噛み合わされている。ここで、第1大径ギヤ55a,第1小径ギヤ56aおよび第2駆動ギヤ23bにより、本発明における第1減速ギヤ列を構成している。
【0113】
なお、リングギヤR1とキャリアC2とを接続して形成される本発明に係る第1出力要素は、上記のように複数のギヤ52a,53aおよび54aの噛み合いにより構成され、リングギヤR1とキャリアC2とは、複数のギヤ52a,53aおよび54aを介して動力伝達可能に接続されることになる。また、第1電磁クラッチCL1は、リングギヤR1とキャリアC2との間、つまり、本発明に係る第1出力要素に設けられ、第1電磁クラッチCL1を図中黒塗り矢印方向に移動することにより、リングギヤR1とキャリアC2とを接続状態または非接続状態に切り替えられるようになっている。
【0114】
第2差動装置20のリングギヤR2には、第2電磁クラッチ(第2動力伝達切替手段)CL2の第2クラッチ軸51bに一体回転可能に設けられた第2クラッチギヤ52bが噛み合わされている。第2クラッチ軸51bには、第2伝達ギヤ53bが相対回転可能に設けられており、第2伝達ギヤ53bは、第2電磁クラッチCL2を移動させて第2伝達ギヤ53bの摩擦部材E1と第2クラッチ軸51bの摩擦部材E2とを連結した際に、第2クラッチギヤ52bとともに回転するようになっている。
【0115】
第2クラッチ軸51bには、第2電磁ブレーキBR2が設けられており、第2電磁ブレーキBR2は、第2クラッチ軸51bと一体回転する第2ディスクDS2と、図示しない比例ソレノイドにより第2ディスクDS2に対して相互に近接または離間する一対のパッド(図示せず)とから構成されている。第2電磁ブレーキBR2を規制状態とすることにより第2クラッチ軸51bの回転、つまり、リングギヤR2の回転が規制され、第2電磁ブレーキBR2を非規制状態とすることにより第2クラッチ軸51b(リングギヤR2)の回転が許容されるようになっている。
【0116】
第2伝達ギヤ53bには、第1差動装置20のキャリアC1に一体回転可能に設けられた第2キャリアギヤ54bが噛み合わされており、第2キャリアギヤ54bには、第2大径ギヤ55bが噛み合わされている。第2大径ギヤ55bには、第2大径ギヤ55bよりも小径の第2小径ギヤ56bが一体回転可能に設けられており、第2小径ギヤ56bは第1駆動ギヤ23aに噛み合わされている。ここで、第2大径ギヤ55b,第2小径ギヤ56bおよび第1駆動ギヤ23aにより、本発明における第2減速ギヤ列を構成している。
【0117】
なお、リングギヤR2とキャリアC1とを接続して形成される本発明に係る第2出力要素は、上記のように複数のギヤ52b,53bおよび54bの噛み合いにより構成され、リングギヤR2とキャリアC1とは、複数のギヤ52b,53bおよび54bを介して動力伝達可能に接続されることになる。また、第2電磁クラッチCL2は、リングギヤR2とキャリアC1との間、つまり、本発明に係る第2出力要素に設けられ、第2電磁クラッチCL2を図中網掛け矢印方向に移動することにより、リングギヤR2とキャリアC1とを接続状態または非接続状態に切り替えられるようになっている。
【0118】
次に、以上のように構成した駆動力配分装置50の動作について、図面を用いて説明する。
【0119】
車両10が低速時(例:50km/h以下)においては、図16に示すように、コントローラ13は、まず、各電磁クラッチCL1,CL2を図中矢印に示すように開放状態(非接続状態)に制御するとともに、各電磁ブレーキBR1,BR2を図中矢印に示すように規制状態に制御する。
【0120】
その後、コントローラ13により各電動モータM1,M2を目標トルクで正方向にそれぞれ回転駆動すると、各リングギヤR1,R2の回転が規制された状態で、各キャリアギヤ54b,54aがそれぞれ矢印L(1),R(1)方向(同一方向)に回転する。このとき、各伝達ギヤ53b,53aは、各クラッチ軸51b,51aに対して空転した状態となっている。
【0121】
各キャリアギヤ54b,54aの回転に伴い、各大径ギヤ55b,55aおよび各小径ギヤ56b,56aがそれぞれ矢印L(2),R(2)方向(同一方向)に回転する。これに伴い、各駆動ギヤ23a,23bを介して各リアドライブシャフト15L,15Rに接続された後輪RL,RR(図1参照)が、それぞれ矢印L(3),R(3)方向(同一方向)に回転する。
【0122】
このように、駆動力配分装置50では、車両10の低速時において、各差動装置20,30を関連付けせずに、第1電動モータM1は後輪RLを第2電動モータM2は後輪RRをそれぞれ独立して回転駆動するようにしている。したがって、駆動力配分装置50は、上述した第1および第2実施の形態に比して必要とされる駆動トルクが小さくて済むような場合に適用して有効となる。
【0123】
この場合の各差動装置20,30の入出力特性は図17のようになる。なお、図中白丸印は、各電磁ブレーキBR1,BR2により各リングギヤR1,R2が固定された状態を示しており、この固定点は各電動モータM1,M2の回転駆動に関わらず回転数は「0」で不変である(N1=0,N2=0)。
【0124】
第1電動モータM1が正の駆動トルクTm1を、第2電動モータM2が正の駆動トルクTm2をそれぞれ出力した場合、キャリアC1には正の差分駆動トルク(1+λ1)×Tm1が発生し、キャリアC2には正の差分駆動トルク(1+λ2)×Tm2が発生する。これにより、リアドライブシャフト15Lからは(1+λ1)×Tm1の駆動トルクToLが出力され、リアドライブシャフト15Rからは(1+λ2)×Tm2の駆動トルクToRが出力される。
【0125】
このように、各電動モータM1,M2の駆動トルクTm1,Tm2を、それぞれ任意に正の方向に調整することで、各キャリアC1,C2の駆動トルク、つまり、各リアドライブシャフト15L,15Rにそれぞれ接続される後輪RL,RRの駆動トルクToL,ToRを、各電動モータM1,M2の出力特性の範囲内で独立して調整することができる。
【0126】
車両10が高速時(例:50km/h以上)においては、図18に示すように、コントローラ13は、まず、各電磁クラッチCL1,CL2を図中矢印に示すように接続状態に制御するとともに、各電磁ブレーキBR1,BR2を図中矢印に示すように非規制状態に制御する。すると、各リングギヤR1,R2が回転可能となり、また、各リングギヤR1,R2と各キャリアC2,C1とが、上述した第1実施の形態と同様にそれぞれ動力伝達可能に接続される。
【0127】
その後、コントローラ13により各電動モータM1,M2を目標トルクで正方向にそれぞれ回転駆動すると、各差動装置20,30により各キャリアギヤ54b,54a間で駆動トルクが移動される。そして、各キャリアギヤ54b,54aは、それぞれ矢印L(1),R(1)方向に、各大径ギヤ55b,55aおよび各小径ギヤ56b,56aは、それぞれ矢印L(2),R(2)方向に、各駆動ギヤ23a,23bを介して各リアドライブシャフト15L,15Rに接続された後輪RL,RR(図1参照)は、それぞれ矢印L(3),R(3)方向に回転される。
【0128】
このように、駆動力配分装置50は、車両10の高速時においては各差動装置20,30を関連付けし、この状態で各電動モータM1,M2を回転駆動するようにしている。したがって、車両10の高速時においては、上述した第1および第2実施の形態と同様に、後輪RL,RR間で駆動トルクの移動を行うことが可能となる。
【0129】
この場合の各差動装置20,30の入出力特性は、上述した第1実施の形態における入出力特性と同様である(図6参照)。
【0130】
以上のように構成した第3実施の形態に係る駆動力配分装置50によれば、第1差動装置20のリングギヤR1と第2差動装置30のキャリアC2とを接続状態または非接続状態に切り替える第1電磁クラッチCL1と、第1差動装置20のリングギヤR1の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1電磁ブレーキBR1と、第1差動装置20のキャリアC1と第2差動装置30のリングギヤR2とを接続状態または非接続状態に切り替える第2電磁クラッチCL2と、第2差動装置30のリングギヤR2の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2電磁ブレーキBR2とを設けたので、後輪RL,RR間で駆動トルク配分状態と非駆動トルク配分状態とに切り替えることができ、駆動トルク配分状態に切り替えることで、上述した第1実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
【0131】
また、第3実施の形態に係る駆動力配分装置50によれば、各電磁クラッチCL1,CL2を非接続状態とし、各電磁ブレーキBR1,BR2を規制状態とすることで、後輪RL,RRを独立して駆動し得る非駆動トルク配分状態とすることができ、各電磁クラッチCL1,CL2を接続状態とし、各電磁ブレーキBR1,BR2を非規制状態とすることで、後輪RL,RR間で駆動トルクを配分し得る駆動トルク配分状態とすることができる。したがって、4つの駆動対象物(2つの電磁クラッチと2つの電磁ブレーキ)をそれぞれ個別に制御する必要が無いので、コントローラ13への負荷が小さくて済む。
【0132】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態においては、一対の被駆動対象物として車両の左右側で対となる後輪RL,RRとしたものを示したが、本発明はこれに限らず、車両の左右側で対となる前輪FL,RLとしても良い。つまり、前輪駆動方式を採用する電気自動車にも適用することが可能である。
【0133】
また、上記各実施の形態においては、動力伝達切替手段およびブレーキ手段として、それぞれ比例ソレノイドにより駆動される電磁クラッチCLおよび電磁ブレーキBRとしたものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、油圧アクチュエータや空圧アクチュエータ等の駆動装置により、動力伝達切替手段およびブレーキ手段を構成することもできる。
【0134】
さらに、上記各実施の形態においては、駆動力配分装置を電気自動車に用いたものを示したが、本発明はこれに限らず、2つの駆動源と2つの被駆動対象物とを備えたものに適用することができ、例えば、駆動源として油圧アクチュエータや空圧アクチュエータ等を用い、被駆動対象物として一対の腕や一対の脚を用いるロボット等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】第1実施の形態に係る車両制御装置を説明する説明図である。
【図2】図1の駆動力配分装置を示すスケルトン図である。
【図3】図2の第1ギヤ列の作動状態を示す作動説明図である。
【図4】(a),(b),(c)は、図3の状態における各差動装置の入出力特性線図である。
【図5】図2の第2ギヤ列の作動状態を示す作動説明図である。
【図6】(a),(b),(c)は、図5の状態における各差動装置の入出力特性線図である。
【図7】本発明に係るコントローラの構造を示すブロック図である。
【図8】車両の左旋回時における挙動変化を説明する説明図である。
【図9】(a),(b),(c)は、車両の異なる挙動変化時における入出力特性線図である。
【図10】電磁クラッチの切り替えタイミングを説明するタイミングチャートである。
【図11】第2実施の形態に係る駆動力配分装置を示すスケルトン図である。
【図12】(a),(b)は、図11の第1差動装置および第2差動装置を説明するスケルトン図である。
【図13】(a),(b),(c)は、図11の第1ギヤ列を作動状態とした場合の各差動装置の入出力特性線図である。
【図14】(a),(b),(c)は、図11の第2ギヤ列を作動状態とした場合の各差動装置の入出力特性線図である。
【図15】第3実施の形態に係る駆動力配分装置を示すスケルトン図である。
【図16】電磁ブレーキを規制状態に電磁クラッチを開放状態にした場合のスケルトン図である。
【図17】図16の状態における各差動装置の入出力特性線図である。
【図18】電磁ブレーキを非規制状態に電磁クラッチを接続状態にした場合のスケルトン図である。
【符号の説明】
【0136】
10 車両
11 車体
12 駆動力配分装置
13 コントローラ
14a アクセルセンサ(挙動変化検出手段)
14b 操舵角センサ(挙動変化検出手段)
14c 横加速度センサ(挙動変化検出手段)
14d ヨーレイトセンサ(挙動変化検出手段)
14e 車輪速センサ(挙動変化検出手段)
17a 第1出力軸
17b 第2出力軸
18a 第1ギヤ列
18b 第2ギヤ列
18c 第3ギヤ列
19a 第1平歯車(第1出力ギヤ)
19b 第2平歯車(第2出力ギヤ)
19c 第3平歯車(第3出力ギヤ)
20 第1差動装置
20a 第1逆転ギヤ
20b 第2逆転ギヤ
20c 第3逆転ギヤ
21a 第1正転ギヤ
30 第2差動装置
40 駆動力配分装置
41 ラビニヨ式差動装置
42 第1差動装置
43 第2差動装置
50 駆動力配分装置
M1 第1電動モータ(第1駆動源)
M2 第2電動モータ(第2駆動源)
RL,RR 後輪(被駆動対象物,車輪)
S1 サンギヤ(第1回転要素,太陽歯車,第1太陽歯車)
S2 サンギヤ(第1回転要素,太陽歯車,第2太陽歯車)
C1 キャリア(第2回転要素,遊星キャリア,第1キャリア)
C2 キャリア(第2回転要素,遊星キャリア,第2キャリア)
R1 リングギヤ(第3回転要素,外輪歯車)
R2 リングギヤ(第3回転要素,外輪歯車)
O1 第1回転軸(第1出力要素)
O2 第2回転軸(第2出力要素)
CL 電磁クラッチ(動力伝達切替手段)
CL1 第1電磁クラッチ(第1動力伝達切替手段)
CL2 第2電磁クラッチ(第2動力伝達切替手段)
R リングギヤ(外輪歯車)
LP ロングピニオン(第1遊星歯車)
SP ショートピニオン(第2遊星歯車)
BR1 第1電磁ブレーキ(第1ブレーキ手段)
BR2 第2電磁ブレーキ(第2ブレーキ手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、
前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第2差動装置と、
前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第1出力要素と、
前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第2出力要素と、
前記第1出力要素に設けられる第1および第2出力ギヤと、
前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、
前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、
前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、
前記第2出力要素に設けられる第3出力ギヤと、
前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記第2出力要素の回転を前記各被駆動対象物のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列とを備えることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動力配分装置において、前記第1回転要素を太陽歯車,前記第2回転要素を遊星キャリア,前記第3回転要素を外輪歯車により形成することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項3】
駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、
前記第1出力軸に接続される第1太陽歯車,前記第1太陽歯車の外周を転動する第1遊星歯車,前記第1遊星歯車を回動自在に支持する第1キャリアおよび前記第1遊星歯車の外周に配置される外輪歯車を有する第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第2太陽歯車,前記第2太陽歯車の外周を転動する第2遊星歯車,前記第2遊星歯車と前記第1遊星歯車とを回動自在に支持する第2キャリア,前記第2遊星歯車の外周に配置される前記第1遊星歯車および前記外輪歯車を有する第2差動装置と、
前記第1キャリアに設けられる第1および第2出力ギヤと、
前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、
前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各被駆動対象物のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、
前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、
前記外輪歯車に設けられる第3出力ギヤと、
前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記外輪歯車の回転を前記各被駆動対象物のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列とを備えることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項4】
駆動源からの駆動力を一対の被駆動対象物に配分する駆動力配分装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2駆動源と、
前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により構成される第2差動装置と、
前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第1出力要素と、
前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第2出力要素と、
前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素と前記第2差動装置の第2回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第1動力伝達切替手段と、
前記第2出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第2回転要素と前記第2差動装置の第3回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第2動力伝達切替手段と、
前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1ブレーキ手段と、
前記第2出力要素に設けられ、前記第2差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2ブレーキ手段と、
前記第1出力要素と前記各被駆動対象物のいずれか一方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第1減速ギヤ列と、
前記第2出力要素と前記各被駆動対象物のいずれか他方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第2減速ギヤ列とを備えることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項5】
請求項4記載の駆動力配分装置において、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を非接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を規制状態とし、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を非規制状態とすることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項6】
車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、
前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第2差動装置と、
前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第1出力要素と、
前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第2出力要素と、
前記第1出力要素に設けられる第1および第2出力ギヤと、
前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、
前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1出力要素の回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、
前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、
前記第2出力要素に設けられる第3出力ギヤと、
前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記第2出力要素の回転を前記各車輪のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列と、
前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、
前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の車両制御装置において、前記第1回転要素を太陽歯車,前記第2回転要素を遊星キャリア,前記第3回転要素を外輪歯車により形成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、
前記第1出力軸に接続される第1太陽歯車,前記第1太陽歯車の外周を転動する第1遊星歯車,前記第1遊星歯車を回動自在に支持する第1キャリアおよび前記第1遊星歯車の外周に配置される外輪歯車を有する第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第2太陽歯車,前記第2太陽歯車の外周を転動する第2遊星歯車,前記第2遊星歯車と前記第1遊星歯車とを回動自在に支持する第2キャリア,前記第2遊星歯車の外周に配置される前記第1遊星歯車および前記外輪歯車を有する第2差動装置と、
前記第1キャリアに設けられる第1および第2出力ギヤと、
前記第1出力ギヤ,前記第1出力ギヤの回転を逆転させる第1逆転ギヤおよび前記第1逆転ギヤの回転を正転させる第1正転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第1ギヤ列と、
前記第2出力ギヤおよび前記第2出力ギヤの回転を逆転させる第2逆転ギヤを有し、前記第1キャリアの回転を前記各車輪のいずれか一方に伝達する第2ギヤ列と、
前記第1ギヤ列と前記第2ギヤ列との間に設けられ、前記各ギヤ列のうちのいずれか一方を作動状態に切り替える動力伝達切替手段と、
前記外輪歯車に設けられる第3出力ギヤと、
前記第3出力ギヤおよび前記第3出力ギヤの回転を逆転させる第3逆転ギヤを有し、前記外輪歯車の回転を前記各車輪のいずれか他方に伝達する第3ギヤ列と、
前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、
前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置であって、
個別に回転駆動可能に設けられ、第1および第2出力軸をそれぞれ有する第1および第2電動モータと、
前記第1出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第1差動装置と、
前記第2出力軸に接続される第1回転要素および他の第2,第3回転要素により形成される第2差動装置と、
前記第1差動装置の第3回転要素を前記第2差動装置の第2回転要素に接続して形成される第1出力要素と、
前記第1差動装置の第2回転要素を前記第2差動装置の第3回転要素に接続して形成される第2出力要素と、
前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素と前記第2差動装置の第2回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第1動力伝達切替手段と、
前記第2出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第2回転要素と前記第2差動装置の第3回転要素とを接続状態または非接続状態に切り替える第2動力伝達切替手段と、
前記第1出力要素に設けられ、前記第1差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第1ブレーキ手段と、
前記第2出力要素に設けられ、前記第2差動装置の第3回転要素の回転を規制状態または非規制状態に切り替える第2ブレーキ手段と、
前記第1出力要素と前記各車輪のいずれか一方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第1減速ギヤ列と、
前記第2出力要素と前記各車輪のいずれか他方との間に設けられ、複数のギヤよりなる第2減速ギヤ列と、
前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、
前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項10】
請求項9記載の車両制御装置において、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を非接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を規制状態とし、前記各動力伝達切替手段により前記各回転要素を接続状態としたときに前記各ブレーキ手段を非規制状態とすることを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−144757(P2009−144757A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320425(P2007−320425)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】