説明

高周波スイッチモジュール

【課題】小型で電気的特性に優れた高周波スイッチモジュールを提供する。
【解決手段】電極パターンを有する複数の誘電体層により構成された積層体に設けられ、通過帯域の異なる複数の送受信系の送信回路と受信回路とを切り替える高周波スイッチモジュールであって、前記積層体の底面の周縁部にアンテナと接続する端子電極、前記送信回路と接続する端子電極、及び前記受信回路と接続する端子電極が形成され、前記積層体の底面の中央部及び周縁部に複数のグランド電極GNDが形成され、前記グランド電極GNDは前記積層体の最下層のほぼ全面に形成された第1のグランド電極とビアホールを介して接続されている高周波スイッチモジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波帯等の高周波帯域で用いる高周波スイッチモジュールに関し、特に高周波スイッチとフィルタ等の他の高周波部品とを複合化した高周波スイッチモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今携帯電話機等の移動体通信機器の発展は目覚しいものがある。移動体通信機器に用いられる高周波部品として、アンテナと送信回路との接続、及びアンテナと受信回路との接続を切換えるための高周波スイッチがある。
【0003】
例えば特開平2-108301号に開示された高周波スイッチは、例えばEGSM900(Extended Global System for Mobile Communications),GSM1800, PCS(Personal Communications Service)等の一つの送受信系を取り扱うもので、送信回路とアンテナとの間に配置されたスイッチング素子(ダイオード)と、アンテナと受信回路との間に配置されたλ/4位相線路とを有する。λ/4位相線路の受信回路側はダイオードを介して接地されているので、高周波スイッチは、各ダイオードに流れるバイアス電流により信号経路を切換えるλ/4型スイッチ回路として動作する。
【0004】
図38は、このような高周波スイッチを具備するシングルバンド携帯電話機用RF回路の一例を示すブロック図である。高周波スイッチを具備する携帯電話機等の移動体通信機器は、アンテナANTに接続する高周波スイッチ回路SWと、送信回路TXから来る送信信号に含まれる高調波成分がアンテナANTから放射されるのを防ぐととにも、アンテナANTから来る受信信号の一部が送信回路TXへ流入するのを防ぐために、送信回路TXと高周波スイッチ回路SWとの間に設けられたローパスフィルタf1等のフィルタ回路と、送信回路TXから来る送信信号の一部が受信回路RXに回りこまないようにするとともに、アンテナANTから来る受信信号に含まれる高調波成分を取り除くために、アンテナANTと受信回路RXとの間に設けられたバンドパスフィルタf2等のフィルタ回路、特に弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)とを具備する。
【0005】
このようなシングルバンド携帯電話機に加えて、携帯電話機の急激な普及にともない、一台の携帯端末機で複数の通信方式を利用可能にしたデュアルバンド携帯電話機やトリプルバンド携帯電話機等のマルチバンド携帯電話機も開発された。シングルバンド携帯電話機が一つの送受信系のみを取り扱うのに対し、デュアルバンド携帯電話機は2つの送受信系を取り扱い、トリプルバンド携帯電話機は3つの送受信系を取り扱う。マルチバンド携帯電話機のRF回路ブロックの一例を図36に示す。この例はデュアルバンド携帯電話機のRF回路ブロックであり、一つのアンテナを送受信共用として双方向の通信が可能なように、複数のフィルタからなる分波器DPと、アンテナANTと送信回路TX又は受信回路RXとの接続を切り換える高周波スイッチ回路SW1,SW2とを有する。
【0006】
EGSM900等の携帯電話機は、雑音指数を下げて受信感度を上げるために、RF回路に2本の信号線を有する平衡型の高周波部品(例えば受信経路RXに配置された低雑音増幅器LNA及びその後段のミキサーMIX等)を具備する。
【0007】
低雑音増幅器LNAが平衡入力型である場合、図37に示すように、低雑音増幅器LNAに接続されたSAWフィルタは従来から信号端子が1本の不平衡型、即ち不平衡−不平衡型のフィルタ構成であったため、LNAとの接続には平衡−不平衡変換回路が必要である。
【0008】
また高周波スイッチやSAWフィルタ等のデバイスは通常特性インピーダンスが50Ωとなるように設計されているが、低雑音増幅器LNAの入力インピーダンスは50Ω〜300Ω程度である。そのため多くの場合各高周波部品の特性インピーダンスが異なり、インピーダンス変換回路が必要となる。平衡−不平衡変換回路及びインピーダンス変換回路の両方の機能を具備する回路素子として平衡−不平衡変換トランス(Balun)が知られているが、Balunを用いても必然的に部品点数が増えてしまう。また平衡−不平衡変換トランスとSAWフィルタとの接続にもインピーダンスマッチングを考慮しなくてはならず、マッチングのためにコンデンサ、インダンクタ等の付属部品が必要となる。このため携帯電話機のサイズが大きくなるとともに、コストが増大するという問題がある。
【0009】
高周波部品の小型・軽量化の手段として、高周波スイッチ回路やフィルタ回路等を構成するコンデンサ、インダクタ等の素子の一部をLTCC(Low Temperature Co-Fireable Ceramics)技術により積層体(多層基板)に内蔵させ、もって複数の回路機能を有する複合部品とすることが行われている。
【0010】
例えば特開平6-197040号は、低温焼結誘電体セラミックシートからなる積層体内に伝送線路及びコンデンサを一体化的に内蔵した高周波スイッチを開示している。また特開平10-32521号は、多層基板にRF段間フィルタ(SAWフィルタ)を一体的に搭載することにより小型・軽量化した高周波スイッチを開示している。さらに特開平11-225089号は、二つ以上の送受信系を取り扱うように分波器及び高周波スイッチを、低温焼結誘電体セラミック材料からなる積層体に一体化したマルチバンド携帯電話機用高周波スイッチを開示している。このような高周波スイッチと他の高周波部品とを複合化した部品を高周波スイッチモジュールと呼ぶ。
【0011】
高周波スイッチモジュールにおいて、LTCC技術によりコンデンサ、インダクタ等の回路素子の一部を積層体に内蔵させ、複数の回路機能を複合化することはできるが、実用に供し得る程度の電気的特性を得ることは実際容易ではなかった。例えば積層体内に高周波スイッチと、その受信系に接続されたSAWフィルタとを一体化する場合、高周波スイッチとSAWフィルタとのインピーダンスマッチングを十分に考慮し、接続点での反射損失が少なくなるように接続しなければ、高周波スイッチからSAWフィルタの出力端に至る受信経路における不整合による受信信号の損失を低減できない。しかし高周波スイッチとSAWフィルタとを複合化すると、送信回路からアンテナへの送信経路において送信信号の損失が増加し、所望の電気的特性が得られない。その上、高周波スイッチモジュールを構成する高周波回路の一部を平衡化する試みは今まで全くなされていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、小型で電気的特性に優れた高周波スイッチモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様による高周波スイッチモジュールは、電極パターンを有する複数の誘電体層により構成された積層体に設けられ、通過帯域の異なる複数の送受信系の送信回路と受信回路とを切り替える高周波スイッチモジュールであって、前記積層体の底面の周縁部にアンテナと接続する端子電極、前記送信回路と接続する端子電極、及び前記受信回路と接続する端子電極が形成され、
前記積層体の底面の中央部及び周縁部に複数のグランド電極が形成され、前記グランド電極は前記積層体の最下層のほぼ全面に形成された第1のグランド電極とビアホールを介して接続されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は高周波スイッチモジュールの回路の一例を示し、図2は図1の高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す。この高周波スイッチモジュールでは、位相補正回路LD4は高周波スイッチSWとSAWフィルタf2との間に配置されており、これらの部品は複合化されている。
【0015】
高周波スイッチSWとSAWフィルタとの複合化について検討した結果、単に高周波スイッチSWとその受信回路側に接続されたSAWフィルタとの接続点におけるインピーダンスマッチングを考慮するだけでは、送信回路から来る送信信号の損失が増加することがあることが判明した。そのため、GSM1800用の高周波スイッチとSAWフィルタとを位相補正回路を介さずに複合化した高周波スイッチモジュールを例にとって、送信回路TX−アンテナANT間の挿入損失特性を検討した。その結果、図8に示すように、GSM1800の送信周波数近傍の1.7 GHzにディップ(DIP)と呼ばれる減衰が発生し、このため送信周波数帯域での挿入損失がSAWフィルタを接続しない場合の約2倍程度まで劣化していることが分かった。
【0016】
ディップ(DIP)の発生原因について検討した結果、高周波スイッチとSAWフィルタとを複合化することにより、送信信号の一部が受信回路側へ吸収され、ディップ(DIP)と呼ばれる減衰が発生し、送信信号の挿入損失が増大することが分かった。
【0017】
図2に示す高周波スイッチモジュールにおいて、送信経路と受信経路との接続点IP1から送信時における受信回路側のインピーダンスZIP1を、図7に示す等価回路で回路シミュレータを用いて評価したところ、高周波スイッチの受信回路側を見たインピーダンス特性を示すスミスチャートは送信周波数帯において回転する軌跡を描くことが分かった。このようにインピーダンス特性の回転軌跡上に送信周波数が存在すると、反射損失が小さくなるので、接続点IP1から受信回路RX側を見た時のインピーダンスは特性インピーダンスに近い。換言すれば、送信回路TXと受信回路RXとの間のアイソレーションが十分に得られず、挿入損失にディップ(DIP)が発生し、送信回路からアンテナへの挿入損失特性が劣化する。
【0018】
さらに検討の結果、このような現象がスイッチ回路を構成するスイッチング素子(ダイオード又は電界効果型トランジスタ)の接続用ワイヤ等に起因する寄生インダクタンスにより大きく影響されることが分かった。例えば、ダイオードの動作時の等価回路は、図7にDD2と示すように、インダクタとコンデンサと抵抗からなり、グランドとの間に直列に接続されたインダクタは寄生インダクタンスを構成する。
【0019】
寄生インダクタンスを高周波回路解析ツールを使った回路シミュレータ(アジレント・テクノロジーズ社のAdvanced Design System)により等価的に増減させて、その影響を確認したところ、寄生インダクタンスを減少させればインピーダンスの回転軌跡は小さな円を描き、これに伴い反射特性も改善されることが分かった。しかしながら、実際の寄生インダクタはスイッチング素子の構造により決まるものであり、回路シミュレータのようにインダクタンスを自由に減少させるのは実際困難である。なおここで用いた回路シミュレータは、高周波スイッチや弾性表面波フィルタ等の構成素子について、予め特性データの実測値を得て、この特性データを基にシミュレートすることにより、実際に試料を作成した結果に近い評価を得るものである。
【0020】
そこで、本発明者等はディップ(DIP)が発生する周波数を、送信周波数から十分に離間させた周波数に移動させれば挿入損失特性が劣化しないことに着目し、そのためには高周波スイッチとSAWフィルタとの間に、位相を移動させる位相補正回路を接続すればよいことを発見した。
【0021】
本発明の好ましい実施態様では、高周波スイッチは、送信回路とアンテナとの間に配置された第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子の送信回路側を接地する第1の伝送線路又はインダクタと、前記アンテナと前記受信回路との間に配置された第2の伝送線路と、前記第2の伝送線路の受信回路側を接地する第2のスイッチング素子とを具備し、前記第2の伝送線路に前記位相補正回路が直列接続している。位相補正回路は伝送線路又はコンデンサからなり、電極パターンを有する複数の誘電体層からなる積層体の前記電極パターンにより構成しても良いし、チップインダクタ又はチップコンデンサとして積層体上に実装しても良い。
【0022】
本発明の高周波スイッチモジュールは、携帯電話機のRF回路を平衡化するように、SAWフィルタとして不平衡入力−平衡出力型のSAWフィルタを有するのが好ましい。SAWフィルタがインピーダンス変換回路として機能するように異なる入力インピーダンス及び出力インピーダンスを有すると、LNA等の他の高周波部品との接続において、別途インピーダンス変換回路を用いなくても良く、電気的特性の向上やRF回路の小型化が実現でき好ましい。弾性表面波フィルタの平衡出力端の近傍に、平衡出力端に並列にインダクタを接続すれば、後述する理由により平衡出力端から来る差動信号のリップル(Ripple)が小さくなるので好ましい。
【0023】
本発明の別の実施態様による高周波スイッチモジュールは、送受信系の送信回路と受信回路とを切り替える高周波スイッチ回路と、前記高周波スイッチ回路の受信系に接続され、平衡型回路と不平衡型回路とを接続する平衡−不平衡変換回路とを具備し、前記高周波スイッチ回路は第1のスイッチング素子と第1の伝送線路と第1のコンデンサを主要素子とし、前記第1の伝送線路と第1のコンデンサの少なくとも一部が、電極パターンを有する誘電体層からなる積層体の前記電極パターンにより構成され、前記平衡−不平衡変換回路は不平衡入力−平衡出力の弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)として積層体上に実装されている。弾性表面波フィルタに異なる入力インピーダンス及び出力インピーダンスを持たせ、インピーダンス変換回路として機能させてもよい。
【0024】
携帯電話機のRF回路部の複合化、小型化及び高性能化に取り組む過程で、平衡出力型のSAWフィルタを用いるとともに、それを平衡入力型LNAと接続することにより、平衡−不平衡変換トランスを用いることなくRF回路を構成できることを着想した。SAWフィルタは、圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って複数のIDT(Inter-digital Transducer)電極を近接させて配置するとともに、それらの両側に反射器を配設したものである。SAWフィルタとしては信号端子が1本の不平衡型、即ち不平衡−不平衡となるフィルタ構成が一般的であるが、最近電極指の交差幅や配列及び結合を工夫して、異なる入力インピーダンス及び出力インピーダンスを有し、平衡−不平衡変換機能を有するSAWフィルタが実用化された。このようなSAWフィルタを高周波スイッチを構成する積層体上に実装すると、SAWフィルタと高周波スイッチを両者のインピーダンスマッチングを考慮しながら複合化できるので、それぞれの電気的性能を損なうことがない。また平衡−不平衡変換機能を具備するSAWフィルタに平衡入力型回路素子を接続する場合、SAWフィルタをLNA等の回路素子の入力インピーダンス及び出力インピーダンスに合わせて選択し、平衡−不平衡変換回路として機能させれば、電気的特性の向上やRF回路の小型化が実現でき好ましい。
【0025】
SAWフィルタが低雑音増幅器LNAに接続される場合に、低雑音増幅器LNAへの入力信号の振幅平衡度及び位相平衡度が良好でないと、低雑音増幅器は外来ノイズの影響を受けやすくなり、発振等の不具合が生じるので、振幅平衡度を±1 dB以内とし、位相平衡度を180±10 deg.以内とするのが好ましい。なお振幅平衡度は平衡端子間の高周波電力差であり、位相平衡度はその位相差を示す。
【0026】
SAWフィルタは上記平衡度特性を有するが、これを回路基板に実装し接続線路を引き回して低雑音増幅器と接続する場合、3〜5 mm程度の接続線路が必要であり、これによる寄生インダクタや寄生容量が生じる。またSAWフィルタもワイヤボンディングのためのリード線やモールド樹脂のために寄生インダクタや寄生容量を有する。このため、平衡出力信号に受信周波数帯域内でリップル(Ripple)が発生し、通過帯域での挿入損失特性の劣化し、所望の振幅平衡度及び位相平衡度が得られなくなる。しかしSAWフィルタを積層体上に実装して高周波スイッチと複合化すれば、両者のインピーダンスマッチングが容易となるとともに、SAWフィルタの平衡出力端と高周波スイッチモジュールを実装する回路基板間とを積層体内に形成された伝送線路で接続できる。そのため、伝送線路の線路長等を適宜設定することにより、平衡出力端から来る差動出力信号の位相平衡度及び振幅平衡度を所望の範囲に調整することができる。さらにSAWフィルタの平衡出力端の近傍でそれに並列にインダクタを配置すれば、寄生容量や寄生インダクタのような寄生インピーダンスによる受信周波数帯域内でのリップル(Ripple)の発生を抑制することができ好ましい。
【0027】
SAWフィルタとその平衡出力端に並列に配置されたインダクタとは積層体内に形成した接続線路により接続されている。接続線路は、他の伝送線路等と同様に電極パターンにより形成されるが、等価回路において実質的にインダクタンス等の回路機能を有さない線路である。SAWフィルタの平衡出力端に並列に配置されたインダクタはチップインダクタであり、積層体上に実装しても良いし、コイル状又はミアンダ状又はスパイラル状の伝送線路で積層体内に形成しても良い。
【0028】
種々検討の結果、並列に配置されたインダクタのリップル抑制効果を発揮させるには、インダクタを平衡出力端子のごく近傍に配置して寄生インピーダンスを小さくし、SAWフィルタとそれに並列なインダクタとを絶縁基板上の接続線路により接続するのが好ましいことが分かった。例えば図35に示すように、平衡出力型SAWフィルタfe2,fg2とインダクタLG,LDを一つの積層体に直近に配置することにより、SAWフィルタfe2,fg2とインダクタLG,LDとを接続する線路パターンの長さを短くすることができ、SAWフィルタfe2,fg2の出力端とそれらに並列配置したインダクタLG,LDとの間の寄生インピーダンス成分を小さくすることができる。
【0029】
インダクタ及び弾性表面波フィルタは積層体内に形成した接続線路により接続されている。インダクタをチップインダクタとして積層体上に実装しても良いし、コイル状又はミアンダ状又はスパイラル状になした伝送線路で積層体内に形成しても良い。
【0030】
本発明の別の実施態様による高周波スイッチモジュールは、送受信系の送信回路と受信回路を切り替える高周波スイッチ回路と、前記高周波スイッチ回路の受信系に接続されたSAWフィルタと、前記SAWフィルタに接続された平衡−不平衡変換回路とを具備し、前記高周波スイッチ回路はスイッチング素子と、第1の伝送線路と、第1のコンデンサとを主要素子とし、前記第1の伝送線路と第1のコンデンサの少なくとも一部は積層体の電極パターンにより構成され、前記平衡−不平衡変換回路は平衡−不平衡変換トランス(Balun)であって、第2の伝送線路を主要素子とし、前記第2の伝送線路は前記電極パターンにより構成する。
【0031】
SAWフィルタはインピーダンス変換回路として用いるが、必要なインピーダンスが得られない場合には、SAWフィルタを不平衡入力―不平衡出力とし、平衡−不平衡変換回路及びインピーダンス変換回路として平衡−不平衡変換トランス(Balun)を用いるのが好ましい。平衡−不平衡変換トランス(Balun)は、高周波スイッチ及びSAWフィルタとともに積層体に一体的に構成されるが、限られた積層体内に平衡−不平衡変換トランスの伝送線路を内蔵する場合、必要な伝送線路の長さを確保できず、所望の巻数比が得られない場合や平衡側の伝送線路を対称に構成することが困難な場合もある。このような場合、必要な入出力インピーダンス、位相平衡度(Phase Balance)及び振幅平衡度(Amplitude Balance)が得られないが、入力側の伝送線路とグランドとの間にコンデンサを配置したり、平衡出力端間にコンデンサを配置したりして、これらを適宜調整すれば良い。
【0032】
このようなコンデンサは積層体に電極パターンとして内蔵しても良いし、積層体上にチップコンデンサとして搭載しても良い。また平衡−不平衡変換トランス(Balun)のグランドは、高周波スイッチ等の他の回路部品と共通化するのが好ましい。特に平衡側のグランドを他の回路部品のグランドと共通化すると、共通のグランドから見たときの位相が0度となる。
【0033】
本発明の好ましい実施態様では、積層体は対向する主面と前記主面に連なる側面とを有する板状であり、弾性表面波フィルタはベアチップとして少なくとも一方の主面にフェースダウン実装する。伝送線路にはストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナライン等を用いるのが好ましい。
【0034】
図1は高周波スイッチモジュールの回路の一例を示し、図2はその等価回路の一例を示す。この高周波スイッチモジュールは、高周波スイッチSWとSAWフィルタf2との間に位相補正回路LD4を有し、これらの部品は複合化されている。
【0035】
図8は、高周波スイッチとSAWフィルタとを位相補正回路を介さずに接続した比較例の高周波スイッチモジュールの一例の電気的特性を示す。図8(a) に示すように、挿入損失特性において、GSM1800の送信周波数近傍の1.7 GHzにディップ(DIP)が発生し、このため送信周波数帯域で挿入損失が劣化しているのが分かる。
【0036】
このような挿入損失特性の劣化を防止するために、伝送線路、インダクタ及びコンデンサの少なくとも一つにより構成される位相補正回路を、高周波スイッチと弾性表面波フィルタとの間に直列に接続する。各種の位相補正回路を接続したときの電気的特性を図9〜図14に示す。また表1に挿入損失特性と位相特性をあわせて示す。

【表1】

表1(続き)

【0037】
図9及び図10は、位相補正回路として幅が0.14mmで長さLがそれぞれ1 mm及び2 mmの伝送線路を設けた場合の高周波スイッチモジュールの電気的特性を示す。図9(c) 及び図10(c) に示すように、位相補正回路が長くなるほどインピーダンスの回転軌跡が小さくなるのが分かる。また図9(b) 及び図10(b) は接続点IP1から受信回路RX側を見た時の反射特性(Return Loss)を示す。位相補正回路を設けると位相は僅かに進むとともに小さな反射損失を示す周波数は低周波数側へ移動し、その絶対値も減少する。
【0038】
図11及び図12は位相補正回路として集中定数インダクタ(インダクタンスLがそれぞれ0.5 nH及び1 nHのチップインダクタ)を設けた場合の高周波スイッチモジュールの電気的特性を示す。図11(c) 及び図12(c) に示すように、インダクタンスが大きくなるほどインピーダンスの回転軌跡が小さくなるのが分かる。また図11(b) 及び図12(b) は、接続点IP1から受信回路RX側を見た時の反射特性(Return Loss)を示す。位相補正回路を設けると位相は僅かに進むとともに大きな反射損を示す周波数は低周波数側へ移動し、その絶対値も減少する。
【0039】
図13及び図14は位相補正回路として容量値Cがそれぞれ5 pF及び15 pFのチップコンデンサを設けた場合の電気的特性を示す。図13(b) 及び図14(b) に示すように、チップコンデンサの容量値が小さいほど位相は僅かながら遅れるとともに、大きな反射特性を示す周波数は高周波数側へ移動する。
図9(d) 〜図14(d) は、上記高周波スイッチモジュールにおけるアンテナから受信回路への挿入損失特性を示す。高周波スイッチとSAWフィルタ間に位相補正回路を設けても、アンテナから受信回路への挿入損失特性は劣化しないことが分かった。
【0040】
図3〜図6は本発明の一実施態様による高周波スイッチモジュールを詳細に示す。この高周波スイッチモジュールは、単一の多元接続方式で2つの異なる通信方式を扱うものであり、第1の送受信系はEGSM900(送信周波数880〜915 MHz、受信周波数925〜960 MHz)、第2の送受信系はGSM1800(送信周波数1710〜1785 MHz、受信周波数1805〜1880 MHz)である。図3は、2つの送受信系を取り扱うデュアルバンド用携帯電話機用のRF回路に本発明の高周波スイッチモジュールを用いた場合の回路ブロックである。この高周波スイッチモジュールは、ANTに接続された端子から低周波側の第1の送受信系(例えばEGSM900)と、高周波側の第2の送受信系(例えばEGSM900のほぼ2倍の周波数帯であるGSM1800)とを分波するために、ローパスフィルタとハイパスフィルタとから構成された分波器(DP)を有する。
【0041】
分波器(DP)のローパスフィルタ側の後段には、第1の送受信系(EGSM900)の送信回路(EGSM900 TX)と分波器とを接続する経路と、第1の送受信系の受信回路(EGSM900 RX)と分波器とを接続する経路とを切り換える第1の高周波スイッチSW1を有する。また分波器のハイパスフィルタ側の後段には、第2の送受信系の受信回路(GSM1800 RX)と分波器とを接続する経路と、第2の送受信系の送信回路(GSM1800 TX)と分波器とを接続する経路とを切り換える第2の高周波スイッチSW2を有する。それぞれの高周波スイッチSW1、SW2と送信回路との間にはローパスフィルタfe1,fg1が配置されており、高周波スイッチと受信回路との間にはSAWフィルタfe2,fg2が配置されており、第1の高周波スイッチSW1とSAWフィルタfe2との間には位相補正回路LG4が配置されており、第2の高周波スイッチSW2とSAWフィルタfg2との間には位相補正回路LD4が配置されている。
【0042】
図4は、上記デュアルバンド携帯電話機に用いる高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す。図4の破線の外側のコンデンサCは外付け部品として回路基板上等に配置されるが、この外付け部品を後述する積層体内に形成しても、積層体上に搭載しても良い。
【0043】
アンテナANTに接続された分波器DPは、2つの直列共振回路を有し、伝送線路LF2とコンデンサCF1で一つのノッチ回路を構成し、伝送線路LF3とコンデンサCF3でもう一つのノッチ回路を構成している。一方のノッチ回路はアンテナANTの後段にローパスフィルタとして機能する伝送線路LF1と接続しており、伝送線路LF1の後段で、伝送線路LF1の一端とグランドとの間に配置される。
【0044】
もう一方のノッチ回路は、アンテナANTの後段にハイパスフィルタとして機能するコンデンサCF2と接続し、コンデンサCF2の後段で、コンデンサCF2の一端とグランドとの間に配置される。ハイパスフィルタ特性を向上するために、コンデンサCF2と直列にコンデンサCF4が接続している。コンデンサCF4は、第2の高周波スイッチSW2のDCカット用コンデンサとしても機能する。この構成により、分波器DPにおいて所望の周波数帯で広帯域な挿入損失特性を示し、不要な周波数帯で急峻な減衰特性を発現でき、分波特性に優れた分波器が得られる。
【0045】
第1の高周波スイッチSW1は送信回路EGSM900 TXと受信回路EGSM900 RXとを切り換える。高周波スイッチSW1は、2つのダイオードDG1、DG2と、2つの伝送線路LG2、LG3とを主構成とし、ダイオードDG1のアノードはアンテナANTに接続し、カソードは送信回路EGSM900 TXが接続している。またダイオードDG1のカソードに接地された伝送線路LG2が接続している。アンテナANTと受信回路EGSM900 RXとの間に伝送線路LG3が接続されている。伝送線路LG3の受信側にダイオードDG2のカソードが接続されており、ダイオードDG2のアノードとグランドとの間にコンデンサCG4が接続されており、それらの間にダイオード制御用の電圧端子VC1が抵抗Rを介して配置されている。
【0046】
送信系(送信回路EGSM900 TX側)では、第1の高周波スイッチSW1のダイオードDG1と伝送線路LG2との間に、伝送線路LG1及びコンデンサCG1、CG2、CG3からなるローパスフィルタfe1が挿入されている。ローパスフィルタfe1は送信EGSM900 TXと伝送線路LG2との間に配置してもよい。ダイオードDG2のカソード側には位相補正回路LG4を介してSAWフィルタfe2が接続している。第1の高周波スイッチSW1と分波器DPの伝送線路LF1との間にはDCカット用コンデンサC1が配置されている。
【0047】
第2の高周波スイッチSW2は送信回路GSM1800 TXと受信回路GSM1800 RXとを切り換えるものであり、2つのダイオードDD1、DD2と2つの伝送線路LD2、LD3とを主構成とする。ダイオードDD1のアノードはアンテナANT側に接続し、カソードは送信回路GSM1800 TX側に接続している。またダイオードDD1のカソードに接地された伝送線路LD2が接続している。アンテナANTと受信回路GSM1800 RXとの間に伝送線路LD3が接続され、その受信側にダイオードDD2のカソードが接続され、ダイオードDD2のアノードとグランドとの間にコンデンサCD4が接続され、それらの間に抵抗Rを介してダイオード制御用の電圧端子VC2が配置されている。
【0048】
送信系(送信回路GSM1800 TX側)において、高周波スイッチSWのダイオードDD1と伝送線路LD2との間に、伝送線路LD1とコンデンサCD1、CD2、CD3とからなるローパスフィルタfg1が挿入されている。ローパスフィルタfg1は送信回路TXと伝送線路LD2との間に配置してもよい。ダイオードDD2のカソード側にはSAWフィルタfg2が位相補正回路LD4を介して接続されている。
【0049】
この高周波スイッチモジュールの動作ロジックは表2に示す通りである。例えば、この高周波スイッチモジュールでGSM1800の送信信号をアンテナANTに送る場合、第2の高周波スイッチSW2を切り替えるための電圧コントロール回路VC2から正の電圧を与えることにより、ダイオードDD1及びDD2をON状態とする。ON状態になったダイオードDD2は低インピーダンスを有するため、伝送線路LD3が高周波的に接地され、また位相補正回路LD4を構成する伝送線路により共通端IP1から受信回路GSM1800 RX側を見た送信周波数でのインピーダンスが高くなり、受信回路GSM1800 RX側には高周波信号(送信信号)は現れない。またダイオードDD1はON状態になり、低インピーダンスとなるので、送信回路GSM1800 TXから来る高周波信号は分波器DPを通過し、アンテナANTからGSM1800 TXの送信信号として放射される。

【表2】

【0050】
本実施態様においては、SAWフィルタfe2、fg2は不平衡出力型であるが、携帯電話機の受信回路において、SAWフィルタの後段に平衡信号入力の低雑音増幅器LNAを配置する場合、SAWフィルタを平衡出力のSAWフィルタとしても良い。また電気的特性の改善のためSAWフィルタの平衡出力間にインダクタを並列に配置するのが好ましく、そのインダクタを積層体上にチップインダクタとして搭載したり、積層体内に他の伝送線路と同様に配置しても良い。
【0051】
図4に示す等価回路を有する高周波スイッチモジュールの内部構造の一例を図5に示す。また図6はSAWフィルタ及びダイオードを実装した高周波スイッチモジュールを示す。この高周波スイッチモジュールは、分波器DP、ローパスフィルタfe1,fg1、及び高周波スイッチSW1,SW2を構成する伝送線路を積層体内に有し、ダイオード、チップコンデンサ、SAWフィルタfe2,fg2、及びチップ抵抗をその積層体上に搭載して、全体としてワンチップ化している。
【0052】
高周波スイッチモジュールの積層体は、低温焼成が可能なセラミック誘電体のグリーンシート上にAgを主体とする導電ペーストを印刷して、所望の電極パターンを形成し、電極パターンを有する複数のグリーンシートを適宜一体的に積層し、焼結することにより形成する。
【0053】
低温焼成が可能なセラミック誘電体材料としては、例えばAl2O3を主成分とし、SiO2、SrO、CaO、PbO、Na2O及びK2Oの少なくとも1種を副成分として含む低温焼結誘電体セラミック組成物、Al2O3を主成分とし、MgO、SiO2及びGdOの少なくとも1種を副成分として含む低温焼結誘電体セラミック組成物等の誘電体材料や、Bi2O3、Y2O3、CaCO3、Fe2O3、In2O3及びV2O5の少なくとも1種を含む磁性セラミック材料がある。これらのセラミック誘電体材料の出発原料をボールミルにより湿式混合し、得られたスラリーを乾燥した後、700℃〜850℃の温度で仮焼し、粉砕乾燥してセラミック粉末を形成する。このセラミック粉末に有機バインダー、可塑剤及び有機溶剤をボールミルにより混合し、脱泡機で粘度を調整した後、ドクターブレード、パイプドクター等公知のシート成形方法により、30〜250 mmのセラミックグリーンシートを形成する。
【0054】
各グリーンシートに伝送線路やコンデンサ、接続線路を構成する電極パターンをCuやAg等の導電性ペーストにより印刷し、電極パターン間を接続するビアホールを形成する。得られた電極パターン付きグリーンシートを重ね合わせ、80℃の温度及び12 MPaの圧力で熱圧着して積層体とする。積層体を所定の大きさ及び形状にダイシングソー、鋼刃等で切断し、900℃〜1000℃で2〜8時間焼結する。このようにして、例えば6.7 mm×5.0 mm×0.6 mmのサイズの積層体を得る。
【0055】
積層体の内部構造を以下積層順に従って説明する。まず最下層のグリーンシート14の裏面には、グランド電極と端子電極が形成されている。グリーンシート14の表面には、グランド電極がほぼ全面に形成され、電極パターン間を適宜接続するように直径0.05〜0.2 mmのビアホール(図中黒丸で表示)が形成されている。これらのビアホールにはAgやCu等の導体が充填されている。
【0056】
グリーンシート13には、分波器及びローパスフィルタを構成するとともに接地されたコンデンサが形成されており、グリーンシート12及び11にはグランド電極GND及びローパスフィルタLPFを構成するコンデンサが形成されている。グリーンシート6〜10には、高周波スイッチ、分波器及びローパスフィルタを構成する伝送線路と、位相補正回路としての伝送線路LD4が形成されている。
【0057】
グリーンシート3〜5にはグランド電極と、分波器のコンデンサ及び高周波スイッチのグランドに接続されたコンデンサが形成されている。
【0058】
グリーンシート2には、最上部のグリーンシート1に形成された搭載素子接続用のランドとの配線パターンとともに、位相補正回路を構成する伝送線路LD4が形成されている。伝送線路LD4は、積層体に搭載されたSAWフィルタfg2と接続している。
【0059】
積層体の上面には、搭載素子接続用のランドとともに金属ケースを接続するためのランドが形成されている。積層体の上面には4つのダイオード、2つのSAWフィルタ、チップ抵抗及びチップコンデンサが搭載されており、Niクラッド材からなる金属ケースを被せた後、半田付けして、本発明の高周波スイッチモジュールが得られる。前記チップコンデンサのうちLG4を位相補正回路としている。なお図6では部品搭載の状態がわかるように、金属ケースは図示されていない。
【0060】
上記実施態様においては、SAWフィルタとして、素子を金属ケースに封止した単体デバイス、いわゆる管封止パッケージ型SAWフィルタを用いているが、積層体の少なくとも一面にSAWフィルタを構成するベアチップをボンディング実装しても良く、積層体の一部に凹部(Cavity)を形成して、この凹部にSAWフィルタを配置してもよい。SAWフィルタを裸状態で実装する場合には、金属ケースで封止するとともに、必要に応じてアルゴンガスや窒素ガスでSAWフィルタの周囲を不活性雰囲気とすればよい。
【0061】
このようにして作成した高周波スイッチモジュールのGSM1800 TX−アンテナANT間の挿入損失特性を評価した。また比較例として、伝送線路LD4を形成せずに、単にビアホールで高周波スイッチとSAWフィルタとを接続した高周波スイッチモジュールを作製した。図15(a) は本発明の高周波スイッチモジュールのGSM1800 TX−アンテナANT間の挿入損失特性を示し、図15(b) は従来の高周波スイッチモジュールのGSM1800 TX−アンテナANT間の挿入損失特性を示す。
【0062】
本発明によれば、挿入損失特性におけるディップの位置をGSM1800送信周波数から十分に離間した低周波側に移動させることができる。また従来の高周波スイッチモジュールに比べ、約0.8 dBだけ損失を改善することができた。また受信の挿入損失は、従来のものと比べて同等の受信信号帯域で最大3.2 dBの結果を得た。
【0063】
上記実施態様においては、GSM1800側の第2の高周波スイッチSW2とSAWフィルタfg2間に位相補正回路LD4が配置されているが、EGSM900側の第1の高周波スイッチSW1とSAWフィルタfe2間に位相補正回路LD4を適宜配置してもよく、位相補正回路LD4としてチップインダクタを用いても同様の結果が得られる。また位相補正回路LD4としてコンデンサを用いる場合では、前記ディップを高周波側へ移動させることができるので、この場合も同様に送信信号の挿入損失特性を効果的に改善することができる。
【0064】
図16に示す回路を有し、単一の多元接続方式で2つの異なる通信方式を扱う高周波スイッチモジュールを、第1の送受信系をEGSM900(送信周波数880〜915 MHz、受信周波数925〜960 MHz)、第2の送受信系をGSM1800(送信周波数1710〜1785 MHz、受信周波数1805〜1880 MHz)として、以下詳細に説明する。
【0065】
この高周波スイッチモジュールは、分波器DPと、この分波器DPから来る受信信号の受信回路への信号経路と送信回路から来る送信信号の分波器DPへの信号経路を切換える2つの高周波スイッチSW1,SW2と、ローパスフィルタfe1,fg1と、RF段間フィルタとして不平衡入力−平衡出力型で平衡−不平衡変換回路の機能を具備するSAWフィルタfe2,fg2を具備する。分波器DP、複数の高周波スイッチSW1,SW2及びSAWフィルタfe2,fg2は、複数の誘電体層からなる積層体内に一体的に内蔵されており、積層体の外表面には受信回路EGSM900 RX,GSM1800 RXと接続する平衡端子が設けられている。図17は、図16に示す回路を有する高周波スイッチモジュールの等価回路の一例である。
【0066】
分波器DPは複数のフィルタ回路からなり、伝送線路及びコンデンサで構成されている。分波器DPは、EGSM900の送受信信号を通過させるがGSM1800の送受信信号を減衰させる第1のフィルタ回路と、GSM1800の送受信信号を通過させるがEGSM900の送受信信号を減衰させる第2のフィルタ回路とを具備する。
【0067】
この高周波スイッチモジュールでは、第1のフィルタ回路は伝送線路LF1及びコンデンサCF1が並列接続され、グランドとの間にコンデンサCF3が接続されたローパスフィルタである。第2のフィルタ回路は伝送線路LF2及びコンデンサCF2が並列接続され、グランドとの間に伝送線路LF3が配置され、伝送線路LF2及びコンデンサCF2にコンデンサCF4が直列に接続されたハイパスフィルタである。このような構成により、第1の送受信系であるEGSM900と第2の送受信系であるGSM1800の受信信号を分波することができ、第1の送受信系EGSM900の送信信号はアンテナANTへ導かれ、第2の送受信系GSM1800の送信信号も第2の送受信系GSM1800の送受信回路へ実質的に回り込むことなくアンテナANTへ導かれ、第1の送受信系EGSM900の送受信回路へ実質的に回り込むことがない。本発明において、分波器DPは上記構成の他に、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタを前記のように機能するように適宜組み合わせても良い。この高周波スイッチモジュールでは、伝送線路LF3により、アンテナから来る静電気(Electrostatic discharge)をグランドへ逃がすことができ、ダイオードやSAWフィルタの静電破壊を防止している。
【0068】
分波器DPの伝送線路LF1,LF2、LF3及びコンデンサCF1、CF2、CF3、CF4は積層体に内蔵されているが、その一部をチップインダクタやチップコンデンサで構成して、積層体の外表面に実装してもよい。
【0069】
スイッチ回路SW1,SW2は、分波器DPを構成する第1及び第2のフィルタ回路の後段に配置されている。送信回路EGSM900 TXと受信回路EGSM900 RXとを切り替える第1の高周波スイッチSW1と、送信回路GSM1800 TXと受信回路GSM1800 RXとを切り替える第2の高周波スイッチSW2は、それぞれダイオードと伝送線路を主構成とする。
【0070】
送信回路EGSM900 TXと受信回路EGSM900 RXとを切り換えるための第1の高周波スイッチSW1は、2つのダイオードDG1、DG2及び2つの伝送線路LG1、LG2を主構成とする。ダイオードDG1はEGSM900の送受信信号の入出力端IP2とEGSM900 TXとの間に配置され、ダイオードDG1のアノードは入出力端IP2に接続し、ダイオードDG1のカソードとグランドとの間に伝送線路LG1が接続されている。入出力端IP2とEGSM900 RXとの間に伝送線路LG2が接続し、伝送線路LG2の一端(EGSM900 RX側)にダイオードDG2のカソードが接続し、ダイオードDG2のアノードとグランドとの間にコンデンサCG6が接続し、前記アノードとコントロール回路VC1との間に抵抗RGが接続している。
【0071】
伝送線路LG1及びLG2はそれぞれの共振周波数がEGSM900の送信信号の周波数帯域内となる線路長を有する。第1のフィルタ回路とEGSM900 TXとの間に挿入されるローパスフィルタfe1は、伝送線路とコンデンサにより構成されている。図17の等価回路においては、伝送線路LG3及びコンデンサCG3、CG4、CG7により構成されたπ型のローパスフィルタはダイオードDG1と伝送線路LG1との間に配置されている。ローパスフィルタfe1は高周波スイッチSW1を構成する素子間に複合的に構成されているが、高周波スイッチSW1の後段又は前段にローパスフィルタfe1を配置しても良い。伝送線路LG3及びコンデンサCG3、CG4、CG7は複数の誘電体層からなる積層体に内蔵されている。
【0072】
高周波スイッチSW1の2つのダイオードDG1、DG2は、積層体の外表面に搭載されている。伝送線路LG1、LG2及びコンデンサCG1、CG2、CG6は複数の誘電体層からなる積層体に内蔵されている。コントロール端子VC1と接続する抵抗RGは積層体に内蔵しても、積層体上に印刷しても、あるいはチップ抵抗として積層体上に搭載しても良い。
【0073】
伝送線路LG1及びコンデンサCG1、CG2、CG6はチップインダクタ及びチップコンデンサとして積層体の外表面に搭載しても良く、またコンデンサCG2は高周波スイッチモジュールを搭載する回路基板にチップコンデンサとして配置しても良い。
【0074】
GSM1800の受信回路GSM1800 RXと送信回路GSM1800 TXを切り換えるための第2の高周波スイッチSW2は、2つのダイオードDP1、DP2及び2つの伝送線路LP1、LP2を主構成とする。ダイオードDP1はGSM1800の送受信信号の入出力端IP1とGSM1800 TXとの間に配置され、ダイオードDP1のアノードは入出力端IP1に接続し、ダイオードDP1のカソードとグランドとの間に伝送線路LP1が接続されている。入出力端IP1とRX2との間には伝送線路LP2が接続し、そのRX2側の伝送線路LP2の一端にカソードが接続されたダイオードDP2が配置し、そのアノードとグランドとの間にコンデンサCP6が接続し、前記アノードとコントロール回路VC2との間に抵抗RPが接続している。
【0075】
伝送線路LP1及び伝送線路LP2はそれぞれの共振周波数がGSM1800の送信信号の周波数帯域内となるような線路長を有する。第2のフィルタ回路とGSM1800 TXとの間に配置されたローパスフィルタfg1は、伝送線路及びコンデンサにより構成されている。図17に示す等価回路図では、伝送線路LP3及びコンデンサCP3、CP4、CP7により構成されたπ型のローパスフィルタは、ダイオードDP1と伝送線路LP1との間に配置されている。ローパスフィルタfg1はスイッチ回路3を構成する素子間に複合的に構成されているが、高周波スイッチSW2の後段又は前段にローパスフィルタfg1を配置されても良い。伝送線路LP3及びコンデンサCP3、CP4、CP7は複数の誘電体層からなる積層体に内蔵されている。
【0076】
高周波スイッチSW2の2つのダイオードDP1、DP2は、積層体の外表面に搭載されている。伝送線路LP1、LP2及びコンデンサCP2、CP6は複数の誘電体層からなる積層体に内蔵されている。コントロール端子VC2と接続する抵抗RPは積層体に内蔵しても、積層体上に印刷しても、あるいはチップ抵抗として積層体上に搭載しても良い。
【0077】
伝送線路LP1及びコンデンサCP2、CP6はチップインダクタやチップコンデンサとして積層体の外表面に搭載しても良いし、またコンデンサCP2は高周波スイッチモジュールが搭載される回路基板にチップコンデンサとして配置しても良い。
【0078】
高周波スイッチ回路SW1,SW2の後段に配置されたSAWフィルタfe2,fg2は、EGSM900の受信信号、GSM1800の受信信号以外の不要な周波数成分、高調波を除去する機能を有し、積層体上に配置されている。SAWフィルタfe2,fg2として、弾性表面波素子をセラミックパッケージに封止した面実装型SAWフィルタを用いても、積層体に凹部(Cavity)を設けて弾性表面波素子を裸状態でボンディング実装しても良い。SAWフィルタfe2,fg2は、不平衡入力・平衡出力型のSAWフィルタであり、このような平衡−不平衡変換機能を具備するSAWフィルタをLNA等の入力インピーダンスや出力インピーダンスに合わせて選択し、平衡−不平衡変換回路として機能させたので、EGSM900とGSM1800の受信信号の平衡出力端子を具備した6750サイズの小型かつ高性能の高周波スイッチモジュールを構成することができる。
【0079】
本発明の高周波スイッチモジュールにおいてEGSM900方式の送信信号を送信する場合、電圧端子VC1に正の制御電圧を印加し、電圧端子VC2に0 Vの制御電圧を印加する。電圧端子VC1から印加された正の電圧は、コンデンサCG1、CG2、CG3、CG4、CG6、CG7及びSAWフィルタfe2により直流分がカットされ、ダイオードDG1及びダイオードDG2をON状態にする。SAWフィルタfe2はその電極構造により直流を流さない。ダイオードDG1がON状態になると、送信回路EGSM900 TXと分波器DPとの間のインピーダンスが低くなる。一方、ON状態になったダイオードDG2及びコンデンサCG6により、伝送線路LG2が高周波的に接地されることにより共振し、入出力端IP2から受信回路EGSM900 RX側を見た場合のインピーダンスが非常に大きくなる。その結果、EGSM900方式の送信信号は受信回路EGSM900 RXに漏洩することなく分波器DPへ伝送され、アンテナANTから送信される。またダイオードDP1及びDP2は電圧端子VC2から印加された0 Vの電圧によりOFF状態になる。OFF状態になったダイオードDP1はインピーダンスが高いので、送信回路GSM1800 TXから来る漏洩信号は遮断され、アンテナANTから送信されない。
【0080】
EGSM900の受信信号を受信する場合、電圧端子VC1及びVC2に0 Vの電圧を印加する。その結果、ダイオードDG1及びDG2はOFF状態になる。またダイオードDP1及びダイオードDP2もOFF状態になる。ダイオードDG1がOFF状態になることにより、送信回路EGSM900 TXと分波器DPの間はインピーダンスが高くなり接続されない。またOFF状態になったダイオードDG2により、伝送線路LG2、SAWフィルタfe2及び平衡−不平衡変換トランスを介して、分波器と受信回路EGSM900 RXとは接続され、受信信号が平衡出力される。
【0081】
GSM1800方式の送信信号を送信する場合、電圧端子VC1に0 Vの電圧を印加し、電圧端子VC2に正の電圧を印加する。電圧端子VC2から印加された正の電圧は、コンデンサCP2、CP3、CP4、CP6、CP7及びSAWフィルタfg2により直流分がカットされ、ダイオードDP1及びDP2はON状態になる。SAWフィルタはその電極構造により直流を流さない。ダイオードDP1がON状態になると、送信回路GSM1800 TXと分波器DPとの間のインピーダンスが低くなる。一方、ON状態になったダイオードDP2及びコンデンサCP6により、伝送線路LP2が高周波的に接地されることにより共振し、入出力端IP1から受信回路GSM1800 RX側を見た場合のインピーダンスは非常に大きくなる。その結果、GSM1800方式の送信信号は受信回路GSM1800 RXに漏洩することなく分波器へ伝送され、アンテナから送信される。またダイオードDG1及びDG2は電圧端子VC1から印加された0 Vの電圧によりOFF状態になる。OFF状態になったダイオードDG1はインピーダンスが高いので、送信回路EGSM900 TXから来る漏洩信号は遮断され、アンテナANTから送信されない。
【0082】
GSM1800方式の受信信号を受信する場合、電圧端子VC1及びVC2に0 Vの電圧が印加され、ダイオードDP1及びDP2はOFF状態になる。またダイオードDG1及びDG2もOFF状態になる。ダイオードDP1がOFF状態になると、送信回路GSM1800 TXと分波器DPとの間はインピーダンスが高くなり接続されない。またOFF状態になったダイオードDP2により、伝送線路LP2、SAWフィルタfg2、及び平衡−不平衡変換トランスを介して、分波器DPと受信回路GSM1800 RXとは接続され、受信信号が平衡出力される。
【0083】
この高周波スイッチモジュールにおいて平衡出力される受信信号は振幅平衡度が±1 dB以内であり、位相平衡度が180±10 deg.以内である。
【0084】
前記のように、回路素子を少なく構成しようとすれば、平衡−不平衡変換回路としてSAWフィルタを用いるのが好ましいが、フィルタとして必要な比帯域幅や挿入損失等の電気的特性や、平衡−不平衡変換回路として必要な位相平衡度及び振幅平衡度を確保しながら、所望の入出力インピーダンスを得るように構成することが容易でない場合がある。このような場合、平衡−不平衡変換回路として平衡−不平衡変換トランスを用い、これを高周波スイッチモジュールに複合化するのが好ましい。
【0085】
図18は本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示し、図19はその等価回路を示す。平衡−不平衡変換機能及びインピーダンス変換機能を有する平衡−不平衡変換トランスBAL1,BAL2を不平衡−不平衡型のSAWフィルタfe2,fg2の後段に配置する。平衡−不平衡変換トランスBAL1は伝送線路LG4、LG5、LG6により構成され、平衡−不平衡変換トランスBAL2は伝送線路LP4、LP5、LP6により構成されている。これらの伝送線路は複数の誘電体層からなる積層体に内蔵されている。
【0086】
図20はこのような高周波スイッチモジュールの平面図であり、図21はその斜視図であり、図22はその積層体の内部構造を示す。この高周波スイッチモジュールでは、分波器DPを構成する第1及び第2のフィルタ回路、ローパスフィルタfe1,fg1、高周波スイッチSW1,SW2の伝送線路、平衡−不平衡変換トランスBAL1,BAL2の伝送線路は積層体内でストリップラインとして構成されており、ダイオードと、SAWフィルタと、高容量値のコンデンサ及び抵抗はチップコンデンサ及びチップ抵抗として積層体上に搭載されている。その結果、ワンチップ化した6750サイズの高周波スイッチモジュールが構成される。
【0087】
この積層体の内部構造を図22により説明する。この積層体は、低温焼成が可能なセラミック誘電体材料からなり、厚さが30〜200 mmのグリーンシート上にAgを主体とする導電ペーストを印刷し、所望の電極パターンを形成し、適宜積層し、一体焼成することにより構成される。ライン電極の幅は100〜400 mmである。電極パターンは、グランド電極GND及び伝送線路を構成するライン電極、コンデンサを構成するコンデンサ電極、回路素子間を電気的に接続する接続線路(回路素子間を接続するための電極)を構成する。積層体に配置された電極パターンは、スルーホール電極(図中黒丸で示す)及び前記接続電極を介して適宜接続され、第1及び第2のスイッチ回路SW1,SW2用の伝送線路やコンデンサ、分波器の伝送線路やコンデンサ、平衡−不平衡変換トランスの伝送線路やコンデンサを形成している。SAWフィルタのグランド端子は、積層体内に形成されたグランド電極とスルーホールや外部電極等の接続手段により電気的に接続し、平衡−不平衡変換トランスはスイッチ回路及び分波器とグランド電極を共有している。
【0088】
また平衡−不平衡変換トランスの入力側にグランドと接続するコンデンサCG8,CP8及び平衡端子間にコンデンサCG5、CP5が配置されている。限られた面積の積層体内に平衡−不平衡変換トランスの伝送線路を内蔵する場合、必要な長さの伝送線路を形成できず、所望の巻数比が得られない場合や、平衡側の伝送線路LG5,LG6及び伝送線路LP5,LP6を対称にすることが困難な場合がある。このような場合には、必要な入出力インピーダンス、位相平衡度及び振幅平衡度が得られないため、それらの調整のためコンデンサを付加する。コンデンサは積層体に内蔵しても良いし、積層体上にチップコンデンサとして搭載しても良い。平衡−不平衡変換トランスのグランドは他の回路部品と共通化している。
【0089】
この高周波スイッチモジュールでは、積層体上にダイオードDG1、DG2、DP1、DP2、チップコンデンサCG1、CG2、CP2、チップ抵抗RG、RP、及び面実装型SAWフィルタfe2,fg2を搭載する。平衡−不平衡変換回路として、平衡−不平衡変換トランスを積層体に他の回路と一体化すると、各送受信系において、優れた挿入損失特性、アイソレーション特性が得られるとともに、平衡入力型の高周波部品(LNA)と接続するための平衡出力端子を具備する小型かつ高性能の高周波スイッチモジュールを得ることができる。この場合も、平衡出力される受信信号は、振幅平衡度が±1 dB以内であり、位相平衡度が180±10 deg.以内である。
【0090】
平衡−不平衡変換トランスは図19に示すトリファイラー型以外にも種々の構成があり、図23(a) 及び(b) に平衡−不平衡変換トランスの等価回路の他の態様を示す。
【0091】
例えば図19において、EGSM900 TXモードで電圧端子VC1に正の電圧が与えられた場合、GSM1800の送受信系に接続する高周波スイッチSW2のダイオードDP1、DP2は無バイアス状態である。ここで何らかの原因で高周波スイッチSW2に回り込んだEGSM900 TXの送信信号がダイオードDP1に到達すると、ダイオードDP1が不安定な電位状態のため非線形動作をして、高調波を発生するおそれがある。図24に示す高周波スイッチモジュールはかかる高調波の発生を完全に防止するものである。具体的には、図24に示す構成の高周波スイッチSW1,SW2では、抵抗Rにより発生した電圧はこれと逆極性のダイオードDP1に印可され、ダイオードDP1は逆バイアスされて安定な電位状態になり、高調波の発生を防止する。
【0092】
この高周波スイッチモジュールの回路を図25に示す。この高周波スイッチモジュールは、単一の多元接続方式で3つの異なる通信方式を扱うもので、第1の送受信系(例えばEGSM900 送信周波数880〜915 MHz、受信周波数925〜960 MHz)の送信回路と受信回路を切り替える第1の高周波スイッチSW1と、第2及び第3の送受信系の送信回路と、第2の送受信系(GSM1800 送信周波数1710〜1785 MHz、受信周波数1805〜1880MHz)の受信回路と、第3の送受信系(PCS 送信周波数1850〜1910 MHz、受信周波数1930〜1990 MHz)の受信回路とを切り替える第2の高周波スイッチSW2を具備する。第2の送受信系の送信回路と第3の送受信系の送信回路は共通化されており、高周波スイッチSW2とSAWフィルタf2との間に位相補正回路LD4が配置されている。SAWフィルタf2は不平衡入力−平衡出力型であり、その平衡出力端にインダクタが配置されている。なお高周波スイッチSW1,SW2は、本発明者等が先に提案したもの(WO 00/55983)と同じで良いので、説明を省略する。
【0093】
図26は図25に示す高周波スイッチモジュールの等価回路を示し、図27は高周波スイッチモジュールの外観を示し、図28はその積層体の内部構造図を示す。SAWフィルタfg2は、伝送線路により構成された位相補正回路LD4を介して高周波スイッチと接続している。SAWフィルタfe2,fg2の平衡出力端間にはそれぞれインダクタLG,LDが並列に接続されている。
【0094】
インダクタLG,LDのインダクタンスは、使用される周波数に応じて適宜選定されるが、例えばGSM1800では10〜30 nH程度、800 MHz帯のEGSM900では30〜60 nH程度が推奨される。この高周波スイッチモジュールでは、インダクタLG,LDをチップインダクタとして積層体上に搭載しているので、チップインダクタを交換すればインダクタンスを微調整できる。インダクタを積層体にミアンダ状、コイル状、スパイラル状等の伝送線路パターンで形成してもよく、また積層体上に前記パターンの少なくとも一部を形成すれば、トリミングによりインダクタンスを微調整でき、インダクタを実装する面積を低減でき、高周波スイッチモジュールを更に小型化できるので好ましい。
【0095】
SAWフィルタfe2,fg2は管封止のSAWフィルタであるが、一つのパッケージに複数の送受信系、例えばEGSM900用、GSM1800用の2つのフィルタを有する複合型のSAWフィルタとすると、2つの単体型のSAWフィルタを用いる場合よりも、積層体における実装面積を30%程度削減できる。
【0096】
SAWフィルタを構成する弾性表面波素子をBGA(Ball Grid Array)のベアチップやLGA(Land Grid Array)のベアチップとし、積層体に形成した凹部(Cavity)に配置し、積層体の伝送線路等とバンプ接続すれば、管封止型のSAWフィルタでのワイヤボンディング用のリード線やモールド樹脂のために寄生のインダクタンスやコンデンサ成分を極めて小さくでき、またフェースダウン実装すれば、積層体の主面を平坦にすることができ、マウンター等による取り扱いが容易となる。その封止は封止金属で気密封止する方法や、封止樹脂による方法がある。
【0097】
この高周波スイッチモジュールによれば図29〜図33の周波数特性図に示すように、SAWフィルタの帯域内リップルを2.0 dB以下に構成することができ、受信信号の品質劣化を防止することができる。またSAWフィルタの平衡出力端と高周波スイッチモジュールの実装基板との接続用の外部端子との間に配置される伝送線路LG4、LG5、LP4、LP5の線路長を適宜調整することにより、平衡出力される受信信号の振幅平衡度は±1 dB以内となり、位相平衡度は180±10 deg.以内となり、6750サイズの小型の高周波スイッチモジュールが得られる。
【0098】
本発明を上記実施態様により具体的に説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、必要に応じて図34に示すような高周波スイッチモジュールや、位相器とSAWフィルタを組み合わせたSAW分波器を具備する高周波スイッチモジュールにも適応できる。またPA(電力増幅器)、LNA(低雑音増幅器)、ミキサ及びアイソレータの少なくとも1つを追加しても良い。このように本発明は、その思想の範囲内で様々な構成の高周波スイッチ回路に適用可能であると理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の高周波スイッチモジュールは、高周波スイッチとSAWフィルタ等の他の高周波部品とが複合一体化されており、小型でありながら電気的特性に優れており、シングルバンド携帯電話機、マルチバンド携帯電話機等の携帯通信機に利用できる。また平衡―不平衡変換回路(又は平衡−不平衡変換回路及びインピーダンス変換回路)を具備すると、携帯電話機等の携帯通信機のRF回路部において、インピーダンスマッチングするためのコンデンサ、インダンクタ等の付属部品を減じることができ、回路の小型化及び回路配置の融通性の向上が得られる。その結果、高周波スイッチモジュールを用いた携帯通信機を更に小型・軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図2】図1に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施態様による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図4】図3に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す図である。
【図5】図4の高周波スイッチモジュールを構成する積層体の各層の電極パターンの一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施態様による高周波スイッチモジュールを示す斜視図である。
【図7】送信時において接続点IP1側から受信回路RXを見た時の等価回路を示す図である。
【図8(a)】高周波スイッチとSAWフィルタを直結したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図8(b)】高周波スイッチとSAWフィルタを直結したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図8(c)】高周波スイッチとSAWフィルタを直結したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図8(d)】高周波スイッチとSAWフィルタを直結したときのアンテナANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図9(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図9(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図9(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図9(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図10(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図10(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図10(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図10(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとを伝送線路を介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図11(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図11(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図11(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図11(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図12(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図12(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図12(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図12(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとをインダクタを介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図13(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図13(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図13(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図13(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図14(a)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのGSM1800 TXからANTへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図14(b)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときの接続点IP1から見た反射特性を示すグラフである。
【図14(c)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図14(d)】高周波スイッチとSAWフィルタとをコンデンサを介して接続したときのANTからGSM1800 RXへの挿入損失特性を示すグラフである。
【図15(a)】本発明の高周波スイッチモジュールのGSM1800 TXとアンテナANTとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図15(b)】従来の高周波スイッチモジュールのGSM1800 TXとアンテナANTとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図16】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図17】図16に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す図である。
【図18】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図19】図18に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示す図である。
【図20】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールを示す平面図である。
【図21】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールを示す斜視図である。
【図22】図19の等価回路を有する高周波スイッチモジュールを構成する積層体の各層の電極パターンを示す図である。
【図23(a)】高周波スイッチモジュールに用いる平衡−不平衡トランスの他の例の等価回路を示す図である。
【図23(b)】高周波スイッチモジュールに用いる平衡−不平衡トランスのさらに他の例の等価回路を示す図である。
【図24】図16に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の他の例を示す図である。
【図25】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図26】図25に示す高周波スイッチモジュールの等価回路の一例を示すブロック図である。
【図27】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールを示す斜視図である。
【図28】図26に示す等価回路を有する高周波スイッチモジュールを構成する積層体の各層の電極パターンを示す図である。
【図29(a)】図25の高周波スイッチモジュールのEGSM900 TXとアンテナANTとの間の減衰特性を示すグラフである。
【図29(b)】図25の高周波スイッチモジュールのEGSM900 TXとアンテナANTとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図30(a)】図25の高周波スイッチモジュールのGSM1800/PCS TXとアンテナANTとの間の減衰特性を示すグラフである。
【図30(b)】図25の高周波スイッチモジュールのGSM1800/PCS TXとアンテナANTとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図31(a)】図25の高周波スイッチモジュールのアンテナANTとEGSM900 RXとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図31(b)】図25の高周波スイッチモジュールのアンテナANTとGSM1800 RXとの間の挿入損失特性を示すグラフである。
【図32(a)】図25の高周波スイッチモジュールのEGSM900 RXの振幅平衡度と周波数との関係を示すグラフである。
【図32(b)】図25の高周波スイッチモジュールのEGSM900 RXの位相平衡度と周波数との関係を示すグラフである。
【図33(a)】図25の高周波スイッチモジュールのGSM1800 RXの振幅平衡度と周波数との関係を示すグラフである。
【図33(b)】図25の高周波スイッチモジュールのGSM1800 RXの位相平衡度と周波数との関係を示すグラフである。
【図34】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールの回路を示すブロック図である。
【図35】本発明の参考例による高周波スイッチモジュールを示す平面図である。
【図36】マルチバンド携帯電話機のRF回路の一例を示すブロック図である。
【図37】低雑音増幅器LNAが平衡入力型であるRF回路の一例を示すブロック図である。
【図38】シングルバンド携帯電話機のRF回路の一例を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極パターンを有する複数の誘電体層により構成された積層体に設けられ、通過帯域の異なる複数の送受信系の送信回路と受信回路とを切り替える高周波スイッチモジュールであって、
前記積層体の底面の周縁部にアンテナと接続する端子電極、前記送信回路と接続する端子電極、及び前記受信回路と接続する端子電極が形成され、
前記積層体の底面の中央部及び周縁部に複数のグランド電極が形成され、
前記グランド電極は前記積層体の最下層のほぼ全面に形成された第1のグランド電極とビアホールを介して接続されていることを特徴とする高周波スイッチモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波スイッチモジュールにおいて、
前記端子電極は、前記第1のグランド電極と積層方向に重ならない部分に形成された複数のビアホールを介して、前記電極パターンと接続され、
前記グランド電極と前記第1のグランド電極とが複数のビアホールを介して接続されていることを特徴とする高周波スイッチモジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高周波スイッチモジュールにおいて、
アンテナに接続され、複数の送受信系を分波する分波器と、
前記分波器に接続され、各送受信系の送信回路と受信回路とをそれぞれ切り替える複数の高周波スイッチとを具備し、
各高周波スイッチと各送信回路との間に、送信信号に含まれる高調波成分を除去するローパスフィルタが設けられ、
前記最下層の上の層の前記第1のグランド電極と積層方向に重なる部分に、前記分波器及びローパスフィルタの接地コンデンサ用のコンデンサ電極が形成され、
その上の層に第2のグランド電極が形成され、
前記第1及び第2のグランド電極がビアホールを介して接続されていることを特徴とする高周波スイッチモジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の高周波スイッチモジュールにおいて、
前記高周波スイッチは複数のスイッチ素子を有し、
前記高周波スイッチと前記受信回路との間に、弾性表面波フィルタが設けられ、
前記スイッチ素子及び前記弾性表面波フィルタは前記積層体の上面に実装されていることを特徴とする高周波スイッチモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図8(d)】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図9(c)】
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【図9(d)】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図10(c)】
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【図10(d)】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図11(c)】
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【図11(d)】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図12(c)】
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【図12(d)】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図13(c)】
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【図13(d)】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【図14(c)】
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【図14(d)】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23(a)】
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【図23(b)】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29(a)】
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【図29(b)】
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【図30(a)】
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【図30(b)】
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【図31(a)】
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【図31(b)】
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【図32(a)】
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【図32(b)】
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【図33(a)】
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【図33(b)】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2009−89427(P2009−89427A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310268(P2008−310268)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【分割の表示】特願2007−38664(P2007−38664)の分割
【原出願日】平成13年11月1日(2001.11.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】