高周波回路、高周波部品およびそれらを用いた通信装置
【課題】 NF(雑音指数)が小さく、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量を得ながら、低消費電力の高周波回路を得る。
【解決手段】 増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する、誘導性の帯域通過フィルタである高周波回路。
【解決手段】 増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する、誘導性の帯域通過フィルタである高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の通信システムやGPS、ブルートゥースや無線LAN等の受信回路部に用いられる高周波回路、高周波部品およびそれらを用いた高周波部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信衛星や地上基地局からのマイクロ波帯、準マイクロ波帯等の電波を受信する場合の高周波回路部は、図20に示す様に受信信号を増幅器LNAで増幅した後、帯域通過フィルタBPFを通して通過帯域外の妨害波(受信信号以外の信号)を除去する様に構成されていた。受信信号は送信信号と比べて微弱であり、例えば通信衛星からの電波は−100dBm以下に過ぎない。この為、妨害波の強電界域では増幅器が飽和してしまい、受信信号が正しく増幅されない場合がある。また増幅器が飽和しないまでも、受信信号の抑圧レベルが大きく安定した受信が困難である場合があった。
【0003】
そこで妨害波の強電界域においても安定した受信が可能となるように、増幅器の前段にも帯域通過フィルタを接続し、増幅器に入力される妨害波を減衰することが行なわれる。
帯域通過フィルタを増幅器の前段に接続した場合は、妨害波の減衰量を確保できるものの、一般的に帯域外の減衰量が大きい帯域通過フィルタは、挿入損失も大きくなる傾向があるため、この場合挿入損失が大きくなり受信感度が悪化するという問題があった。
【0004】
そのような問題に対して本発明者は、特許文献1において、増幅器の前段に接続される第1の帯域通過フィルタとして、通過帯域における挿入損失が、増幅器の後段に接続される第2の帯域通過フィルタよりも小さいものを用い、前記第2の帯域通過フィルタは、通過帯域外の周波数における減衰量が前記第1の帯域通過フィルタの減衰量よりも大きいものを用いることで、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量の両方を得ることを提案している。
【0005】
【特許文献1】特開2010−147589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された高周波回路の場合には、挿入損失が小さい帯域通過フィルタでは、妨害波が十分に減衰されないまま増幅器に入力し、妨害波の強電界域において安定した受信が出来ないことが懸念された。また、増幅器の後段側に、相対的に挿入損失の大きな帯域通過フィルタを接続するため、所定の出力電力を得るには高いゲインとなる増幅器が必要であり、電力消費が増加するなどの問題もあった。
【0007】
そこで本発明は、NF(雑音指数)が小さく、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量を得ながら、増幅器の後段に接続される帯域通過フィルタとして挿入損失が小さい帯域通過フィルタを用いることが出来、もって低消費電力の高周波回路を得ることを第1の目的とする。
また、増幅器の前後に帯域通過フィルタを接続する高周波回路を構成する高周波部品を小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることを第2の目的とする。
更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信装置を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、増幅器と、前記増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、前記増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタとを備え、前記第1の帯域通過フィルタと前記第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタであることを特徴とする高周波回路である。
増幅器として低雑音増幅器を使用すれば、高周波回路の雑音指数を抑えることが出来るので好ましい。
【0009】
容量性の帯域通過フィルタは、通過帯域の近傍において通過帯域外の低周波側が高周波側よりも減衰量を大きくすることができる。この為、通過帯域における帯域通過フィルタの挿入損失特性は、低周波側が高周波側よりも損失が大きくなる傾向にあるが、通過帯域の低周波数側と高周波数側のそれぞれにおいて減衰極が設けられ、もって帯域外減衰量が大きな帯域通過フィルタと比べて、損失を小さく構成することが出来る。
誘導性の帯域通過フィルタは通過帯域の近傍において、通過帯域外の高周波側が低周波側よりも減衰量を大きくすることができる。この為、通過帯域における帯域通過フィルタの挿入損失特性は、高周波側が低周波側よりも損失が大きくなる傾向にあるが、容量性の帯域通過フィルタと同様に、帯域外減衰量が大きな帯域通過フィルタと比べて、損失を小さく構成することが出来る。
【0010】
この様な帯域通過フィルタを用いて構成された高周波回路は、大きな帯域外減衰量とともに、優れた受信感度が得られ、NFが小さく、消費電力が抑えられたものとなる。通過帯域近傍の低周波側に高電界の妨害波がある場合には、第1の帯域通過フィルタとして容量性の帯域通過フィルタを用い、第2の帯域通過フィルタとして誘導性の帯域通過フィルタを用いれば良い。また、通過帯域近傍の高周波側に高電界の妨害波がある場合には、第1の帯域通過フィルタとして誘導性の帯域通過フィルタを用い、第2の帯域通過フィルタとしって容量性の帯域通過フィルタを用いる。
【0011】
本発明においては、第1ポートと第2ポートを備える容量性の帯域通過フィルタを、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とで、インターデジタル結合の共振器電極を有する3段の共振器で構成するのが好ましい。
また第1ポートと第2ポートを備える誘導性の帯域通過フィルタを、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とでなる3段の共振器とし、前記第1共振器と前記第2共振器の共振器電極はインターデジタル結合し、前記第2共振器と前記第3共振器の共振器電極はコムライン結合する構成とするのが好ましい。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の高周波回路を基板に構成したことを特徴とする高周波部品である。
【0013】
本発明においては前記基板を多層セラミック基板とするのが好ましい。
多層セラミック基板の内部には、異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンを有し、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとが積層方向に重なり合わない様に配置され、かつ異なるグランド電極を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されるのが好ましい。
【0014】
第3の発明は、第1の発明の高周波回路を用いたことを特徴とする通信装置である。
【0015】
第4の発明は、第2の発明の高周波部品を用いたことを特徴とする通信装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、NF(雑音指数)が小さく、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量を得ながら、増幅器の後段に接続される帯域通過フィルタとして挿入損失が小さい帯域通過フィルタを用いることが出来、もって低消費電力の高周波回路を得ることができる。
また、増幅器の前後に帯域通過フィルタを接続する高周波回路を構成する高周波部品を小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることが出来る。
更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施態様に係る高周波回路の構成例を示す回路ブロック図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる帯域通過フィルタの減衰特性である。
【図3】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる帯域通過フィルタの等価回路である。
【図4】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる他の帯域通過フィルタの減衰特性である。
【図5】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる他の帯域通過フィルタの等価回路である。
【図6】本発明の一実施態様に係る高周波回路の構成例を示す等価回路図である。
【図7】本発明の一実施態様に係る高周波部品の構成例を示す外観斜視図である。
【図8】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成される無線通信装置の高周波回路部の構成例を示す回路ブロック図である。
【図9】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成される無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す回路ブロック図である。
【図10】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成された無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す外観斜視図と底面図である。
【図11】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成された無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す回路ブロック図である。
【図12】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図13】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図14】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図15】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図16】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる帯域通過フィルタの減衰量の周波数特性図である。
【図17】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる他の帯域通過フィルタの減衰量の周波数特性図である。
【図18】本発明の一実施態様に係る高周回路部品の減衰量の周波数特性図である。
【図19】本発明の一実施態様に係る高周回路部品のNFの周波数特性図である。
【図20】従来の高周波回路部の一例を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る高周波回路の回路構成を示すブロック図である。この高周波回路は、増幅器の前段に通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタを接続し、後段に通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタを接続したものである。既に述べたが、増幅器の前段と後段にどの様な帯域通過フィルタを接続するかは、妨害波が通過帯域近傍の低周波側あるいは高周波側に有るのかによって設定され得る。
【0019】
なお以下の説明を簡略なものとするため、通過周波数帯域fbを2.3GHz〜2.7GHz(無線通信仕様のWiBro;2.3GHz〜2.4GHz、WiMAX;2.495GHz〜2.690GHzを含む周波数帯)とし、高電界の妨害波を、GSM1800(1.71GHz〜1.88GHz)、GSM1900(1.85GHz〜1.99GHz)などの携帯電話の通信システムとして、妨害波が通過帯域近傍の低周波側に有る場合について説明するが、それに限定されることは無い。なお、WiBro、WiMAX、GSMは商標あるいは登録商標である。
【0020】
図2は、容量性の帯域通過フィルタとして構成された第1の帯域通過フィルタの減衰周波数特性図である。通過周波数帯域の低周波側の2.05GHz付近に、共振による減衰極Aを有し、妨害波の周波数帯域を含む周波数で−25dB以下の減衰を得て、妨害波による信号が増幅器へ入力するのを抑制する。
【0021】
図3は、第1の帯域通過フィルタの構成例を示す等価回路図である。第1の帯域通過フィルタは、端子(第1ポート)Pa1と、端子(第2ポート)Pa2と、第1〜第3共振器と、コンデンサCa4とを備えている。
各共振器はインダクタとキャパシタで構成され、第1ポートPa1に接続する第1共振器は、インダクタLa1とキャパシタCa1とを有し、第2共振器は、インダクタLa2とキャパシタCa2とを有し、第2ポートPa2接続する第3共振器は、インダクタLa3とキャパシタCa3とを有している。第2共振器は、第1共振器と第3共振器との段間に配置され、それぞれインダクタが近接して配置されて誘導性結合している。図中、誘導性結合については曲線Mを付して表している。
【0022】
各共振器のインダクタを構成する共振器電極において、隣り合う共振器電極の短絡側が異なる方向となる様に配置されている。この様な配置によって共振器電極はインターデジタル結合しており、短絡側を同じ方向に配置するコムライン構造よりも、共振器電極間での結合が強まる。前記結合は誘導性結合と静電結合を含み、通過周波数帯域付近の周波数において、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合よりも開放側で生じる静電結合が強くなり、第1の帯域通過フィルタの通過周波数帯域における結合は容量性が支配的となり、通過周波数帯域の低周波側には、結合に基づく減衰極が形成される。減衰極Aの共振周波数は、誘導性結合Mと静電結合とキャパシタCa4とにより決定される。
【0023】
図4は、誘導性の帯域通過フィルタとして構成された第2の帯域通過フィルタの減衰周波数特性図である。通過周波数帯域の高周波側の3.02GHz付近に、共振による減衰極Bを有し、WiMAXの他の周波数帯である3.3GHz〜3.8GHzの周波数帯域を含む周波数で−25dB以下の減衰を得て、不要な信号が増幅器へ入力するのを抑制する。
【0024】
図5は、第2の帯域通過フィルタの構成例を示す等価回路図である。第2の帯域通過フィルタは、端子(第1ポート)Pb1と、端子(第2ポート)Pb2と、第1〜第3共振器と、コンデンサCb4とを備えている。
各共振器はインダクタとキャパシタで構成され、第1ポートPb1に接続する第1共振器は、インダクタLb1キャパシタCb1とを有し、第2共振器は、インダクタLb2とキャパシタCb2とを有し、第2ポートPb2に接続する第3共振器は、インダクタLb3キャパシタCb3とを有している。
第2共振器は、第1共振器と第3共振器との段間に配置され、それぞれインダクタが近接して配置されて誘導性結合している。図中、第1の帯域通過フィルタの場合と同様に、誘導性結合については曲線Mを付して表している。
【0025】
各共振器のインダクタを構成する共振器電極において、第1共振器の共振器電極と第2共振器の共振器電極とが、その共振器電極の短絡側が異なる方向となる様に配置されている。また、第2共振器の共振器電極と第3共振器の共振器電極とは、その共振器電極の短絡側が同じ方向となる様に配置されている。この様な配置によって、第1共振器と第2共振器の共振器電極がインターデジタル結合し、第2共振器と第3共振器の共振器電極がコムライン結合する。
この様な構成によって、通過周波数帯域付近の周波数において、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合を開放側で生じる静電結合よりも強くすることで、第2の帯域通過フィルタの通過周波数帯域における結合は誘導性が支配的となり、通過周波数帯域の高周波側には、結合に基づく減衰極が形成される。減衰極Bの共振周波数は、誘導性結合Mと静電結合とキャパシタCb4とにより決定される。なお、第2共振器を挟む他の共振器の回路構成が非対称であるものの、入出力ポートを入れ替えても電気的特性は同じであり、他の回路との接続方向は限定されない。
【0026】
この様な第1の帯域通過フィルタと第2の帯域通過フィルタを用いた高周波回路の構成例を、図6のブロック図に示す。入力ポートPr1と増幅器10との間には、第1の帯域通過フィルタ50aが接続され、出力ポートPr2と増幅器10との間には、第2の帯域通過フィルタ50bが接続される。第1の帯域通過フィルタ50aの構成は、図3で示した容量性の帯域通過フィルタと同じであり、第2の帯域通過フィルタ50bは、図5で示した誘導性の帯域通過フィルタと同じであり、その説明を省略する。
図中、増幅器と帯域通過フィルタ50a、50bとの間に接続されたインダクタ215は、整合回路を構成する。整合回路の構成によっては、当然にキャパシタを用いる場合もある。また、増幅器への電源経路や、そこに配置されるチョークコイル等は図示はぜずに、省略している。
【0027】
この様な構成の高周波回路では、通過周波数帯域の挿入損失の増加を抑えながら、通過周波数帯域以外の信号を減衰することが出来る。このため、受信感度が向上し、NFが小さく、低消費電力となる。
【0028】
本発明の高周波回路は、絶縁体層と導体パターンとを含む積層体と、その表面に搭載された増幅器用半導体素子やチップ部品とで構成された高周波部品とするのが好ましい。
絶縁体層としては、誘電体セラミックス、樹脂、樹脂とセラミックとの複合材を用いることが可能である。積層体化は公知の工法を用いて行なわれ、例えば誘電体セラミックスを用いる場合にはLTCC(低温同時焼成セラミック)技術や、HTCC(高温同時焼成セラミック)技術により、樹脂等ではビルドアップ技術による。
【0029】
LTCC技術であれば、積層体は、例えば絶縁体層として、1000℃以下の低温で焼結可能なセラミック誘電体からなり、AgやCu等の導電ペーストを印刷して所定の導体パターンを形成した厚さ10〜200μmの複数のセラミックグリーンシートを用い、これを積層し、一体的に焼結することにより形成され、多層セラミック基板として構成される。
低温で焼結可能なセラミック誘電体としては、例えばAl,Si及びSrを主成分として、Ti,Bi,Cu,Mn,Na,K等を副成分とするセラミックス、Al,Mg,Si及びGdを含むセラミックス、Al,Si,Zr及びMgを含むセラミックスが挙げられる。
【0030】
図7は高周波部品の構成例を示す外観斜視図である。積層体100は、増幅器用半導体素子10やチップ部品210を実装する上面と、端子電極等(図示せず)が形成された下面を有する。積層体100の上面側の内層には、異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンが構成されるのが好ましい。そして、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと、第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとが積層方向に重なり合わない様に配置され、かつ異なるグランド電極を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されるのが好ましい。
【0031】
この様な高周波回路や高周波部品は、無線通信装置の高周波回路部に用いられる。図8及び図9は高周波回路部の構成例を示す回路ブロックである。
図8の高周波回路ブロックでは、高周波回路1の入力ポートPr1に高周波スイッチ回路40が接続される。図中、高周波スイッチ回路40としてSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチを示すがこれに限定されない。SPnT(nは3以上の自然数)スイッチや、DP3T(Double Pole Three Throw)スイッチなどの多極多投のスイッチを用いる場合もある。
【0032】
高周波回路部において、高周波スイッチ回路40のポートPu1側のポートPo1にはアンテナが接続される。高周波回路1は高周波スイッチ回路40ポートPu2に接続される。高周波スイッチ回路40のポートPu3には送信回路や他の受信回路が接続される。
高周波回路部が受信動作する場合に、高周波スイッチ回路40を通じて、アンテナに入射する妨害波を含む信号が高周波回路1の入力ポートPr1に現れて高周波回路1に入力する。高周波回路1を通過して出力ポートPr2に現れる信号は、通過周波数帯域外の信号が減衰され、通過周波数帯域内の信号が正しく増幅されたものとなる。出力ポートPr2側には、ベースバンド部からの信号を送信信号へ変換し、受信信号をベースバンド部で処理できる周波数へと変換するRFIC(Radio−Frequency Integrated Circuit)が接続される。RFICに入力する信号は、通過周波数帯域外の信号が十分に減衰されたものであるので、RFICが誤動作するのを防ぐことが出来る。また、高周波回路1の挿入損失が小さいので、増幅に必要な電力消費を抑えることが出来、特には無線通信装置の動作電力をバッテリーで供給する場合には、バッテリー消費を抑えることが出来る。
高周波スイッチ回路40に換えて、分波回路を用いることも可能である。
【0033】
高周波回路1と並列にフィルタ回路90を接続した高周波回路部を図9に示す。フィルタ回路90は、高周波回路1の第1の帯域通過フィルタ50aとは、通過帯域が異なるフィルタであって、帯域通過フィルタ、高域通過フィルタ、低域通過フィルタのいずれかとするのが好ましい。この様な構成によれば、高周波スイッチ回路40を用いる事無く、信号を分波することが出来る。
【実施例】
【0034】
図10は本発明の一実施例に係る高周波部品の斜視図である。この高周波部品は、WiMAX用の無線通信装置の高周波回路部に用いられるものであり、複数のフィルタとバランを備えるとともに、高周波増幅器、ローノイズアンプ、高周波スイッチを多層セラミック基板に実装して一体化したものである。
【0035】
図11は高周波部品の回路構成を示すブロック図である。DP3Tの高周波スイッチ回路40により第1の受信経路と第1のアンテナとの接続/切断、第2の受信経路と第2のアンテナとの接続/切断を行なうとともに、送信信号の経路と、第1のアンテナ及び第2のアンテナとの間の接続/切断を切替え、送信タイバーシチが可能な構成としている。
【0036】
高周波スイッチ回路40のポートPu2aと接続する受信信号の第1の経路には、第1の帯域通過フィルタ50aと、低雑音増幅器10と、第2の帯域通過フィルタ50bとでなる高周波回路1と、バラン60を備える。ポートPu2bと接続する受信信号の第2の経路には、第1の帯域通過フィルタ55aと、低雑音増幅器15と、第2の帯域通過フィルタ55bとでなる高周波回路1と、バラン65を備える。ポートPu3と接続する送信信号の経路には、低域通過フィルタ80と、高周波増幅器20と、バラン70が設けられている。ポートPu1aはポートANT1を介して第1のアンテナと接続し、ポートPu1bはポートANT2を介して第2のアンテナと接続する。
【0037】
高周波スイッチ回路40、高周波増幅器20、低雑音増幅器10、15を構成するそれぞれの半導体素子や、DCカットコンデンサや整合回路など一部の回路素子等のチップ部品が、多層セラミック基板100上に実装され、ボンディングワイヤBW等の接続手段で適宜接続された後、樹脂200で封止されている。
【0038】
高周波部品の底面には複数の端子電極が形成されている。下面中央の領域にはビアホールを通じて内層のグランド電極と繋がるグランド電極GND設けられ、安定したグランド電位を与えるとともに、回路基板との接続強度を向上している。
各端子電極は、グランド電極GNDの周囲であって各側面側に形成されており、第1側面側にはグランド端子G、第1のアンテナ端子ANT1、第2のアンテナ端子ANT2、電源端子V、非接続端子NCが形成されている。第1側面と隣り合う図下側の第2側面側には、電源端子V、非接続端子NCが形成され、第2側面と対向する図上側の第3側面側には電源端子Vが形成されている。第1側面とグランド電極GNDを介して対向する第4側面側には、バラン60の出力平衡端子RX1−,RX1+、バラン65の出力平衡端子RX2−,RX2+、バラン70の入力平衡端子TX1−,TX1+、グランド端子G、電源端子Vが形成されている。各端子電極に付与した符号の一部は図11に示した回路ブロック図のポートと対応する。
図11に示されない符号として非接続端子NCと電源端子Vがある。非接続端子NCとは、多層セラミック基板内の回路との接続を有さない浮き端子である。また電源端子Vには、高周波スイッチ回路、高周波増幅器、低雑音増幅器を動作させる為に電圧が与えられるが、図においては区別せずに示している。
【0039】
図12〜図15は多層セラミック基板の一部についての内部構造を示す分解斜視図である。以下これらの図を用いて高周波部品の構造例を詳細に説明する。図示したのは受信信号の第1の経路に当たる部分であって、第1の帯域通過フィルタ50aの回路構成は図3で示したものと同じであり、第2の帯域通過フィルタ50bの回路構成は図5で示したものと同じである。また、それらの電気的特性の特徴もまた同様のであるので、その説明を省く。
【0040】
図12〜図15においてS1〜S11は、チップ部品等が実装される上面から1層目から複数層の誘電体層の上面を示す。
なお図中、各層に形成された回路素子用の電極パターン間の電気的接続や、放熱に利用するためのビアホールを黒く示している。第1及び第2の帯域通過フィルタを構成する電極パターンに付した符号は等価回路と対応する。複数の層に亘って形成され接続されたビアホールには同じ符号を付している。また、各層の厚みは図面には反映されて無く、説明に必要としない層についもて一部省略している。
【0041】
層S1の上面には、半導体素子やリアクタンス素子などのチップ部品が実装される実装電極やワイボンディングの為の電極が形成されている。端子Pd1には低雑音増幅器10用の半導体素子が実装され、端子Pd2には高周波スイッチ回路40用の半導体素子が実装され、端子Pd3には高周波増幅器20用の半導体素子が実装される。
低雑音増幅器10用の半導体素子のポートPu2a(図示せず)はボンディングワイヤによって、電極パターンlp1の一端側と接続され、他端側に形成されたSh1と、更にその下層側に形成されたビアホールSh1を介して層S9に形成されたキャパシタ用の電極パターンCinと接続する。電極パターンCinは、層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCa1と層S10に形成されたキャパシタ用の電極パターンCa1と対応して、信号経路に直列に接続した結合キャパシタを形成する。この結合キャパシタは、高周波スイッチ回路からのDC電流を遮断するために用いられる。
【0042】
電極パターンCa1と電極パターンCa1とは、ビアホールSh2を介して接続されるとともに、層S7と層S11に形成されたグランド電極GNDと対向してキャパシタCa1を形成する。各グランド電極GNDは、省略されている部分も含めて、略全面に形成されている。
【0043】
層S8の電極パターンCa1は、ビアホールSh3を介して層S9のキャパシタ用電極Ca4と接続される。キャパシタ用電極Ca4は、後述する層S8、S10に形成されたキャパシタ用電極Ca3と対向してキャパシタCa4を構成する。
更に上層のビアホールSh4を介して、層S5、S6に形成され多層セラミック基板の一辺に沿って伸びる帯状の共振器電極La1の一端側に接続する。共振器電極La1の他端側は、ビアホールSh5とその下層側のビアホールSh5を介して層S7のグランド電極GNDと接続する。更に上層側のビアホールSh5を介して、層S2のグランド電極GNDとも接続する。各共振器電極La1は並列接続されてインダクタLa1を形成し、キャパシタCa1とで第1共振器を構成する。共振器電極を並列接続することで抵抗を減じて共振器の性能を向上させることが出来る。
【0044】
インダクタLa1の共振器電極La1と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極La2が形成される。共振器電極La2の一端は、ビアホールSh4と隣り合うビアホールSh6と、その上下に繋がるビアホールSh6を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極La2の他端側はビアホールSh7を介して、キャパシタ用電極Ca2(層S8)、Ca2(層S10)と接続する。各キャパシタ用電極Ca2は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCa2を形成する。
共振器電極La2で形成されたインダクタLa2とキャパシタCa2とで、第2共振器を構成する。
【0045】
インダクタLa2の共振器電極と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極La3が形成される。共振器電極La3の一端は、ビアホールSh6と隣り合うビアホールSh8と、その下層側に繋がるビアホールSh8を介して、キャパシタ用電極Ca3(層S8)と接続する。キャパシタ用電極Ca3はビアホールSh9を介してキャパシタ用電極Ca3(層S10)と接続する。各キャパシタ用電極Ca3は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCa3を形成する。また、キャパシタ用電極Ca3は、その上層のビアホールSh11を介して、層S1の上面に形成された端子Pd4と接続する。
共振器電極La3の他端側はビアホールSh10と、その下に繋がるビアホールSh10を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極La3で形成されたインダクタLa3とキャパシタCa3とで、第3共振器を構成する。
【0046】
隣り合う共振器電極の短絡側が逆方向となる様に配置される構成によって、第2共振器の共振用電極La2は、第1共振器の共振用電極La1と、第3共振器の共振用電極La3とにインターデジタル結合する。
隣り合う共振用電極の間隔によって誘導性結合を調整することが出来る。また静電結合は共振用電極の開放端側の間隔によって調整することが出来る。
本実施例においては、第1共振器の共振用電極La1と、第3共振器の共振用電極La3の開放端側は、それぞれ層S8、S10に形成されたキャパシタ電極Ca1、Ca3と接続する。キャパシタ電極Ca1とCa3とが層S8上で近接して配置され、キャパシタ電極Ca1とCa3とが層S10上で近接して配置されて結合を強めている。
この様な構成によって、第1の帯域通過フィルタ50aは、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合よりも開放側で生じる静電結合が強くなり、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタとなる。
本実施例においては各共振器の共振器電極は略平行の関係に配置されるが、結合の調整やインピーダンスの調整のために平行としない場合もある。例えば開放端側の静電結合を強めようとすれば、開放端側の共振器電極間隔を狭く、短絡側を広く構成したり、共振器電極の幅を部分的に異ならせて調整したりすることも可能である。
【0047】
層S1の端子Pd4に入力側の整合回路を構成するインダクタが接続される。そして、ボンディングワイヤを介して、端子Pd1に搭載された低雑音増幅器10の入力ポートと接続される。低雑音増幅器10の出力ポートは、ボンディングワイヤと入力側の整合回路を構成するインダクタを介して端子Pd5と接続される。
【0048】
端子Pd5に形成されたビアホールSh12は、その下層側に形成されたビアホールSh13を介して層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb1と接続する。電極パターンCb1はビアホールSh14を通じて、層S9に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb4と層S10に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb1と接続する。キャパシタ用の電極パターンCb4は、後述する層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb3と対向して、キャパシタCb4を構成する。ここで、第1の帯域通過フィルタのキャパシタCa4に対して、第2の帯域通過フィルタのキャパシタCb4の容量値が、相対的に小さくなる様に構成される。
層S8に形成された電極パターンCb1は、層S7、S9に形成されたグランド電極GNDと対向し、層S10に形成された電極パターンCb1は、層S9、S11に形成されたグランド電極GNDと対向してキャパシタCb1を形成する。
【0049】
層S8に形成された電極パターンCb1と重なる上層に、ビアホールSh15が形成され、層S5、S6に形成され多層セラミック基板の一辺に沿って伸びる帯状の共振器電極Lb1の一端側に接続する。共振器電極Lb1の他端側は、ビアホールSh16とその下層側のビアホールSh16を介して、層S7、S9のキャパシタ用の電極パターンGNDと接続する。更に上層側のビアホールSh16を介して、層S2のグランド電極GNDとも接続する。共振器電極Lb1は並列接続されてインダクタLb1を形成し、キャパシタCb1とで第1共振器を構成する。
【0050】
インダクタLb1の共振器電極Lb1と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極Lb2が形成される。共振器電極Lb2の一端は、ビアホールSh16と隣り合うビアホールSh18と、その下に繋がるビアホールSh18を介して、層S8のキャパシタ用の電極パターンCb2と接続する。電極パターンCb2はビアホールSh22を介して、層S10のキャパシタ用の電極パターンCb2と接続する。層S8に形成された電極パターンCb2は層S7、S9のグランド電極GNDと、層S10に形成された電極パターンCb2は層S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCb2を構成する。
共振器電極Lb2の他端側はビアホールSh17を介して、キャパシタ層S2、S7のグランド電極と接続する。
共振器電極Lb2で形成されたインダクタLb2とキャパシタCb2とで、第2共振器を構成する。
【0051】
インダクタLb2の各共振器電極Lb2と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極Lb3が形成される。共振器電極Lb3の一端は、ビアホールSh18と隣り合うビアホールSh20と、その下層側に繋がるビアホールSh20を介して、キャパシタ用電極Cb3(層S8)と接続する。キャパシタ用電極Cb3はビアホールSh23を介してキャパシタ用電極Cb3(層S10)と接続する。
各キャパシタ用電極Cb3は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCb3を形成する。また、キャパシタ用電極Cb3は、その上層のビアホールSh21を介して、層S3の上面に形成されたバラン60用の電極パターンBa1と接続する。なお、電極パターンBa1、Bb1、Bb2はバラン60用の電極パターンである。
共振器電極Lb3の他端側はビアホールSh19を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極Lb3で形成されたインダクタLb3とキャパシタCb3とで、第3共振器を構成する。
【0052】
第2の帯域通過フィルタ50bは、第1共振器と、第2及び第3共振器とが、短絡方向において逆方向となる様に配置される構成となっている。なお第2及び第3共振器とは短絡方向が同方向となる構成である。
第1共振器の各共振用電極Lb1は、第2共振器の各共振用電極Lb2とインターデジタル結合し、第2共振器の各共振用電極Lb2は第3共振器の各共振用電極Lb3とコムライン結合する。
隣り合う共振用電極の間隔によって誘導性結合を調整することが出来る。また静電結合は共振用電極の開放端側の間隔によって調整することが出来る。本実施例においては各共振器の共振器電極は略平行の関係に配置されるが、各共振器電極の幅を異ならせ、その幅は第1共振器の共振器電極、第3共振器の共振器電極、第2共振器の共振器電極の順に広い。また、共振器電極間の間隔を第2共振器の共振器電極と第1共振器の共振器電極との間隔を、第2共振器の共振器電極と第3共振器の共振器電極との間隔よりも狭めている。
【0053】
本実施例においては、第1共振器の共振用電極Lb1と、第3共振器の共振用電極Lb3の開放端側は、それぞれ層S8、S10に形成されたキャパシタ電極Cb1、Cb3と接続する。キャパシタ電極Cb1とCb3とは層S8上で近接して配置されるが、キャパシタ電極Cb1とCb3とは層S10上で離間して配置されており、第1の帯域通過フィルタ50aよりも、共振器電極の開放端側の静電結合を弱めている。また、第1〜第2共振器の共振器電極の結合をインターデジタル結合とコムライン結合の両方を利用する構成によって、第2の帯域通過フィルタ50bは、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合が開放側で生じる静電結合よりも強くなり、通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタとなる。
【0054】
多層セラミック基板には複数のグランド電極GNDが形成され、異なる層に形成されたグランド電極GNDの間は、複数のビアホールで接続されている。グランド電極GNDを繋ぐビアホールの一部は、縦列配置されたビアホールでなるビアホール群Shとして構成される。本実施例ではビアホール群Shを層S2〜S10に形成する。ビアホール群Shは層S2〜S10を縦貫するものや、グランド電極GNDが形成された層で位置を変えるものがある。各層に形成されるビアホール群Shを、それぞれ層S3、S8、S10に破線で囲んで示した。なお符号SBとしたビアホール群は送信信号の経路に配置された高周波増幅器のためのサーマルビアで有る。このサーマルビア群SBもまた複数のグランド電極GNDを繋ぐものであるので、ビアホール群Shと同様の機能を発揮する。
【0055】
ビアホール群Shは、各層に設けられた第1の帯域通過フィルタ、第2.の帯域通過フィルタ、バランを構成する電極パターンを異なる領域α、β、γ(層S3に例示)に分離する。また、少なくとも一対のグランド電極GNDに挟まれた層では、各回路の電極パターンが積層方向に重ならずに配置される。この様な構成によって、異なる回路間で電磁気的な結合を減じている。他の回路との干渉が減じられるので、第1の帯域通過フィルタ、第2の帯域通過フィルタは、その機能を減ずる事無く発揮することが出来る。
【0056】
得られた高周波部品の電気的特性をネットワークアナライザやノイズソールを用いて評価を行った。
図16はアンテナポートANT1とローノイズアンプ10の間に接続された帯域通過フィルタ50aの特性である。図17はローノイズアンプ10とバラン回路60の間に接続された帯域通過フィルタ50bの特性である。帯域通過フィルタ50aは通過帯域の低域側に減衰極があり、帯域通過フィルタ50bでは通過帯域の高域側の減衰極を設けている。
帯域通過フィルタ50aは1GHz付近で60dB、2GHz付近で40dB程度の大きな減衰量を持つため、アンテナから入力されるGSM信号やWCDMA信号といった不要信号を大きく減衰させることができ、これら不要信号によるローノイズアンプの飽和を防ぐことが可能となる。
帯域通過フィルタ50bは3.3GHz付近で25dB、4.6GHzで35dB程度の大きな減衰量をもつため、ローノイズアンプ10を通過した信号は、これらにより3.3GHz帯の不要信号や、通過帯の2倍高調波信号を大きく減衰させることができ、RFICの誤動作を防ぐことができる。
【0057】
図18は、図11で示された回路ブロックを有する高周波部品において、図16と図17の信号特性を持つ帯域通過フィルタを接続した場合のアンテナポートANT1と受信ポートRX1−、RX1+間における信号特性である。通過帯域では12dBのゲインを確保し、かつ不要帯域では40dB以上の大きな減衰量を確保している。
また図19にはこの回路の雑音指数を示す。ゲインと減衰量を確保しつつ、雑音指数は3.5dB程度でありこの回路で構成された高周波部品を用いることにより、消費電力を抑えつつ高品質な通信をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、通過帯域外での高減衰量を得ながら、NFが小さく、低消費電力の高周波回路を得ることができる。さらに高周波回路を積層型の高周波部品として構成することで小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることできる。更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信機器を提供することが出来る。
【符号の説明】
【0059】
1 高周波回路
10 低雑音増幅器
40 高周波スイッチ回路
50a 第1の帯域通過フィルタ
50b 第2の帯域通過フィルタ
60 バラン
90 フィルタ回路
100 多層セラミック基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の通信システムやGPS、ブルートゥースや無線LAN等の受信回路部に用いられる高周波回路、高周波部品およびそれらを用いた高周波部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信衛星や地上基地局からのマイクロ波帯、準マイクロ波帯等の電波を受信する場合の高周波回路部は、図20に示す様に受信信号を増幅器LNAで増幅した後、帯域通過フィルタBPFを通して通過帯域外の妨害波(受信信号以外の信号)を除去する様に構成されていた。受信信号は送信信号と比べて微弱であり、例えば通信衛星からの電波は−100dBm以下に過ぎない。この為、妨害波の強電界域では増幅器が飽和してしまい、受信信号が正しく増幅されない場合がある。また増幅器が飽和しないまでも、受信信号の抑圧レベルが大きく安定した受信が困難である場合があった。
【0003】
そこで妨害波の強電界域においても安定した受信が可能となるように、増幅器の前段にも帯域通過フィルタを接続し、増幅器に入力される妨害波を減衰することが行なわれる。
帯域通過フィルタを増幅器の前段に接続した場合は、妨害波の減衰量を確保できるものの、一般的に帯域外の減衰量が大きい帯域通過フィルタは、挿入損失も大きくなる傾向があるため、この場合挿入損失が大きくなり受信感度が悪化するという問題があった。
【0004】
そのような問題に対して本発明者は、特許文献1において、増幅器の前段に接続される第1の帯域通過フィルタとして、通過帯域における挿入損失が、増幅器の後段に接続される第2の帯域通過フィルタよりも小さいものを用い、前記第2の帯域通過フィルタは、通過帯域外の周波数における減衰量が前記第1の帯域通過フィルタの減衰量よりも大きいものを用いることで、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量の両方を得ることを提案している。
【0005】
【特許文献1】特開2010−147589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された高周波回路の場合には、挿入損失が小さい帯域通過フィルタでは、妨害波が十分に減衰されないまま増幅器に入力し、妨害波の強電界域において安定した受信が出来ないことが懸念された。また、増幅器の後段側に、相対的に挿入損失の大きな帯域通過フィルタを接続するため、所定の出力電力を得るには高いゲインとなる増幅器が必要であり、電力消費が増加するなどの問題もあった。
【0007】
そこで本発明は、NF(雑音指数)が小さく、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量を得ながら、増幅器の後段に接続される帯域通過フィルタとして挿入損失が小さい帯域通過フィルタを用いることが出来、もって低消費電力の高周波回路を得ることを第1の目的とする。
また、増幅器の前後に帯域通過フィルタを接続する高周波回路を構成する高周波部品を小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることを第2の目的とする。
更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信装置を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、増幅器と、前記増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、前記増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタとを備え、前記第1の帯域通過フィルタと前記第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタであることを特徴とする高周波回路である。
増幅器として低雑音増幅器を使用すれば、高周波回路の雑音指数を抑えることが出来るので好ましい。
【0009】
容量性の帯域通過フィルタは、通過帯域の近傍において通過帯域外の低周波側が高周波側よりも減衰量を大きくすることができる。この為、通過帯域における帯域通過フィルタの挿入損失特性は、低周波側が高周波側よりも損失が大きくなる傾向にあるが、通過帯域の低周波数側と高周波数側のそれぞれにおいて減衰極が設けられ、もって帯域外減衰量が大きな帯域通過フィルタと比べて、損失を小さく構成することが出来る。
誘導性の帯域通過フィルタは通過帯域の近傍において、通過帯域外の高周波側が低周波側よりも減衰量を大きくすることができる。この為、通過帯域における帯域通過フィルタの挿入損失特性は、高周波側が低周波側よりも損失が大きくなる傾向にあるが、容量性の帯域通過フィルタと同様に、帯域外減衰量が大きな帯域通過フィルタと比べて、損失を小さく構成することが出来る。
【0010】
この様な帯域通過フィルタを用いて構成された高周波回路は、大きな帯域外減衰量とともに、優れた受信感度が得られ、NFが小さく、消費電力が抑えられたものとなる。通過帯域近傍の低周波側に高電界の妨害波がある場合には、第1の帯域通過フィルタとして容量性の帯域通過フィルタを用い、第2の帯域通過フィルタとして誘導性の帯域通過フィルタを用いれば良い。また、通過帯域近傍の高周波側に高電界の妨害波がある場合には、第1の帯域通過フィルタとして誘導性の帯域通過フィルタを用い、第2の帯域通過フィルタとしって容量性の帯域通過フィルタを用いる。
【0011】
本発明においては、第1ポートと第2ポートを備える容量性の帯域通過フィルタを、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とで、インターデジタル結合の共振器電極を有する3段の共振器で構成するのが好ましい。
また第1ポートと第2ポートを備える誘導性の帯域通過フィルタを、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とでなる3段の共振器とし、前記第1共振器と前記第2共振器の共振器電極はインターデジタル結合し、前記第2共振器と前記第3共振器の共振器電極はコムライン結合する構成とするのが好ましい。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の高周波回路を基板に構成したことを特徴とする高周波部品である。
【0013】
本発明においては前記基板を多層セラミック基板とするのが好ましい。
多層セラミック基板の内部には、異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンを有し、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとが積層方向に重なり合わない様に配置され、かつ異なるグランド電極を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されるのが好ましい。
【0014】
第3の発明は、第1の発明の高周波回路を用いたことを特徴とする通信装置である。
【0015】
第4の発明は、第2の発明の高周波部品を用いたことを特徴とする通信装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、NF(雑音指数)が小さく、受信感度の向上と、通過帯域外での高減衰量を得ながら、増幅器の後段に接続される帯域通過フィルタとして挿入損失が小さい帯域通過フィルタを用いることが出来、もって低消費電力の高周波回路を得ることができる。
また、増幅器の前後に帯域通過フィルタを接続する高周波回路を構成する高周波部品を小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることが出来る。
更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施態様に係る高周波回路の構成例を示す回路ブロック図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる帯域通過フィルタの減衰特性である。
【図3】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる帯域通過フィルタの等価回路である。
【図4】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる他の帯域通過フィルタの減衰特性である。
【図5】本発明の一実施態様に係る高周波回路に用いる他の帯域通過フィルタの等価回路である。
【図6】本発明の一実施態様に係る高周波回路の構成例を示す等価回路図である。
【図7】本発明の一実施態様に係る高周波部品の構成例を示す外観斜視図である。
【図8】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成される無線通信装置の高周波回路部の構成例を示す回路ブロック図である。
【図9】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成される無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す回路ブロック図である。
【図10】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成された無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す外観斜視図と底面図である。
【図11】本発明の一実施態様に係る高周波回路を用いて構成された無線通信装置の高周波回路部の他の構成例を示す回路ブロック図である。
【図12】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図13】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図14】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図15】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる多層セラミック基板の内部構造を示す分解斜視図である。
【図16】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる帯域通過フィルタの減衰量の周波数特性図である。
【図17】本発明の一実施態様に係る高周回路部品に用いる他の帯域通過フィルタの減衰量の周波数特性図である。
【図18】本発明の一実施態様に係る高周回路部品の減衰量の周波数特性図である。
【図19】本発明の一実施態様に係る高周回路部品のNFの周波数特性図である。
【図20】従来の高周波回路部の一例を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る高周波回路の回路構成を示すブロック図である。この高周波回路は、増幅器の前段に通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタを接続し、後段に通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタを接続したものである。既に述べたが、増幅器の前段と後段にどの様な帯域通過フィルタを接続するかは、妨害波が通過帯域近傍の低周波側あるいは高周波側に有るのかによって設定され得る。
【0019】
なお以下の説明を簡略なものとするため、通過周波数帯域fbを2.3GHz〜2.7GHz(無線通信仕様のWiBro;2.3GHz〜2.4GHz、WiMAX;2.495GHz〜2.690GHzを含む周波数帯)とし、高電界の妨害波を、GSM1800(1.71GHz〜1.88GHz)、GSM1900(1.85GHz〜1.99GHz)などの携帯電話の通信システムとして、妨害波が通過帯域近傍の低周波側に有る場合について説明するが、それに限定されることは無い。なお、WiBro、WiMAX、GSMは商標あるいは登録商標である。
【0020】
図2は、容量性の帯域通過フィルタとして構成された第1の帯域通過フィルタの減衰周波数特性図である。通過周波数帯域の低周波側の2.05GHz付近に、共振による減衰極Aを有し、妨害波の周波数帯域を含む周波数で−25dB以下の減衰を得て、妨害波による信号が増幅器へ入力するのを抑制する。
【0021】
図3は、第1の帯域通過フィルタの構成例を示す等価回路図である。第1の帯域通過フィルタは、端子(第1ポート)Pa1と、端子(第2ポート)Pa2と、第1〜第3共振器と、コンデンサCa4とを備えている。
各共振器はインダクタとキャパシタで構成され、第1ポートPa1に接続する第1共振器は、インダクタLa1とキャパシタCa1とを有し、第2共振器は、インダクタLa2とキャパシタCa2とを有し、第2ポートPa2接続する第3共振器は、インダクタLa3とキャパシタCa3とを有している。第2共振器は、第1共振器と第3共振器との段間に配置され、それぞれインダクタが近接して配置されて誘導性結合している。図中、誘導性結合については曲線Mを付して表している。
【0022】
各共振器のインダクタを構成する共振器電極において、隣り合う共振器電極の短絡側が異なる方向となる様に配置されている。この様な配置によって共振器電極はインターデジタル結合しており、短絡側を同じ方向に配置するコムライン構造よりも、共振器電極間での結合が強まる。前記結合は誘導性結合と静電結合を含み、通過周波数帯域付近の周波数において、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合よりも開放側で生じる静電結合が強くなり、第1の帯域通過フィルタの通過周波数帯域における結合は容量性が支配的となり、通過周波数帯域の低周波側には、結合に基づく減衰極が形成される。減衰極Aの共振周波数は、誘導性結合Mと静電結合とキャパシタCa4とにより決定される。
【0023】
図4は、誘導性の帯域通過フィルタとして構成された第2の帯域通過フィルタの減衰周波数特性図である。通過周波数帯域の高周波側の3.02GHz付近に、共振による減衰極Bを有し、WiMAXの他の周波数帯である3.3GHz〜3.8GHzの周波数帯域を含む周波数で−25dB以下の減衰を得て、不要な信号が増幅器へ入力するのを抑制する。
【0024】
図5は、第2の帯域通過フィルタの構成例を示す等価回路図である。第2の帯域通過フィルタは、端子(第1ポート)Pb1と、端子(第2ポート)Pb2と、第1〜第3共振器と、コンデンサCb4とを備えている。
各共振器はインダクタとキャパシタで構成され、第1ポートPb1に接続する第1共振器は、インダクタLb1キャパシタCb1とを有し、第2共振器は、インダクタLb2とキャパシタCb2とを有し、第2ポートPb2に接続する第3共振器は、インダクタLb3キャパシタCb3とを有している。
第2共振器は、第1共振器と第3共振器との段間に配置され、それぞれインダクタが近接して配置されて誘導性結合している。図中、第1の帯域通過フィルタの場合と同様に、誘導性結合については曲線Mを付して表している。
【0025】
各共振器のインダクタを構成する共振器電極において、第1共振器の共振器電極と第2共振器の共振器電極とが、その共振器電極の短絡側が異なる方向となる様に配置されている。また、第2共振器の共振器電極と第3共振器の共振器電極とは、その共振器電極の短絡側が同じ方向となる様に配置されている。この様な配置によって、第1共振器と第2共振器の共振器電極がインターデジタル結合し、第2共振器と第3共振器の共振器電極がコムライン結合する。
この様な構成によって、通過周波数帯域付近の周波数において、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合を開放側で生じる静電結合よりも強くすることで、第2の帯域通過フィルタの通過周波数帯域における結合は誘導性が支配的となり、通過周波数帯域の高周波側には、結合に基づく減衰極が形成される。減衰極Bの共振周波数は、誘導性結合Mと静電結合とキャパシタCb4とにより決定される。なお、第2共振器を挟む他の共振器の回路構成が非対称であるものの、入出力ポートを入れ替えても電気的特性は同じであり、他の回路との接続方向は限定されない。
【0026】
この様な第1の帯域通過フィルタと第2の帯域通過フィルタを用いた高周波回路の構成例を、図6のブロック図に示す。入力ポートPr1と増幅器10との間には、第1の帯域通過フィルタ50aが接続され、出力ポートPr2と増幅器10との間には、第2の帯域通過フィルタ50bが接続される。第1の帯域通過フィルタ50aの構成は、図3で示した容量性の帯域通過フィルタと同じであり、第2の帯域通過フィルタ50bは、図5で示した誘導性の帯域通過フィルタと同じであり、その説明を省略する。
図中、増幅器と帯域通過フィルタ50a、50bとの間に接続されたインダクタ215は、整合回路を構成する。整合回路の構成によっては、当然にキャパシタを用いる場合もある。また、増幅器への電源経路や、そこに配置されるチョークコイル等は図示はぜずに、省略している。
【0027】
この様な構成の高周波回路では、通過周波数帯域の挿入損失の増加を抑えながら、通過周波数帯域以外の信号を減衰することが出来る。このため、受信感度が向上し、NFが小さく、低消費電力となる。
【0028】
本発明の高周波回路は、絶縁体層と導体パターンとを含む積層体と、その表面に搭載された増幅器用半導体素子やチップ部品とで構成された高周波部品とするのが好ましい。
絶縁体層としては、誘電体セラミックス、樹脂、樹脂とセラミックとの複合材を用いることが可能である。積層体化は公知の工法を用いて行なわれ、例えば誘電体セラミックスを用いる場合にはLTCC(低温同時焼成セラミック)技術や、HTCC(高温同時焼成セラミック)技術により、樹脂等ではビルドアップ技術による。
【0029】
LTCC技術であれば、積層体は、例えば絶縁体層として、1000℃以下の低温で焼結可能なセラミック誘電体からなり、AgやCu等の導電ペーストを印刷して所定の導体パターンを形成した厚さ10〜200μmの複数のセラミックグリーンシートを用い、これを積層し、一体的に焼結することにより形成され、多層セラミック基板として構成される。
低温で焼結可能なセラミック誘電体としては、例えばAl,Si及びSrを主成分として、Ti,Bi,Cu,Mn,Na,K等を副成分とするセラミックス、Al,Mg,Si及びGdを含むセラミックス、Al,Si,Zr及びMgを含むセラミックスが挙げられる。
【0030】
図7は高周波部品の構成例を示す外観斜視図である。積層体100は、増幅器用半導体素子10やチップ部品210を実装する上面と、端子電極等(図示せず)が形成された下面を有する。積層体100の上面側の内層には、異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンが構成されるのが好ましい。そして、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと、第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとが積層方向に重なり合わない様に配置され、かつ異なるグランド電極を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されるのが好ましい。
【0031】
この様な高周波回路や高周波部品は、無線通信装置の高周波回路部に用いられる。図8及び図9は高周波回路部の構成例を示す回路ブロックである。
図8の高周波回路ブロックでは、高周波回路1の入力ポートPr1に高周波スイッチ回路40が接続される。図中、高周波スイッチ回路40としてSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチを示すがこれに限定されない。SPnT(nは3以上の自然数)スイッチや、DP3T(Double Pole Three Throw)スイッチなどの多極多投のスイッチを用いる場合もある。
【0032】
高周波回路部において、高周波スイッチ回路40のポートPu1側のポートPo1にはアンテナが接続される。高周波回路1は高周波スイッチ回路40ポートPu2に接続される。高周波スイッチ回路40のポートPu3には送信回路や他の受信回路が接続される。
高周波回路部が受信動作する場合に、高周波スイッチ回路40を通じて、アンテナに入射する妨害波を含む信号が高周波回路1の入力ポートPr1に現れて高周波回路1に入力する。高周波回路1を通過して出力ポートPr2に現れる信号は、通過周波数帯域外の信号が減衰され、通過周波数帯域内の信号が正しく増幅されたものとなる。出力ポートPr2側には、ベースバンド部からの信号を送信信号へ変換し、受信信号をベースバンド部で処理できる周波数へと変換するRFIC(Radio−Frequency Integrated Circuit)が接続される。RFICに入力する信号は、通過周波数帯域外の信号が十分に減衰されたものであるので、RFICが誤動作するのを防ぐことが出来る。また、高周波回路1の挿入損失が小さいので、増幅に必要な電力消費を抑えることが出来、特には無線通信装置の動作電力をバッテリーで供給する場合には、バッテリー消費を抑えることが出来る。
高周波スイッチ回路40に換えて、分波回路を用いることも可能である。
【0033】
高周波回路1と並列にフィルタ回路90を接続した高周波回路部を図9に示す。フィルタ回路90は、高周波回路1の第1の帯域通過フィルタ50aとは、通過帯域が異なるフィルタであって、帯域通過フィルタ、高域通過フィルタ、低域通過フィルタのいずれかとするのが好ましい。この様な構成によれば、高周波スイッチ回路40を用いる事無く、信号を分波することが出来る。
【実施例】
【0034】
図10は本発明の一実施例に係る高周波部品の斜視図である。この高周波部品は、WiMAX用の無線通信装置の高周波回路部に用いられるものであり、複数のフィルタとバランを備えるとともに、高周波増幅器、ローノイズアンプ、高周波スイッチを多層セラミック基板に実装して一体化したものである。
【0035】
図11は高周波部品の回路構成を示すブロック図である。DP3Tの高周波スイッチ回路40により第1の受信経路と第1のアンテナとの接続/切断、第2の受信経路と第2のアンテナとの接続/切断を行なうとともに、送信信号の経路と、第1のアンテナ及び第2のアンテナとの間の接続/切断を切替え、送信タイバーシチが可能な構成としている。
【0036】
高周波スイッチ回路40のポートPu2aと接続する受信信号の第1の経路には、第1の帯域通過フィルタ50aと、低雑音増幅器10と、第2の帯域通過フィルタ50bとでなる高周波回路1と、バラン60を備える。ポートPu2bと接続する受信信号の第2の経路には、第1の帯域通過フィルタ55aと、低雑音増幅器15と、第2の帯域通過フィルタ55bとでなる高周波回路1と、バラン65を備える。ポートPu3と接続する送信信号の経路には、低域通過フィルタ80と、高周波増幅器20と、バラン70が設けられている。ポートPu1aはポートANT1を介して第1のアンテナと接続し、ポートPu1bはポートANT2を介して第2のアンテナと接続する。
【0037】
高周波スイッチ回路40、高周波増幅器20、低雑音増幅器10、15を構成するそれぞれの半導体素子や、DCカットコンデンサや整合回路など一部の回路素子等のチップ部品が、多層セラミック基板100上に実装され、ボンディングワイヤBW等の接続手段で適宜接続された後、樹脂200で封止されている。
【0038】
高周波部品の底面には複数の端子電極が形成されている。下面中央の領域にはビアホールを通じて内層のグランド電極と繋がるグランド電極GND設けられ、安定したグランド電位を与えるとともに、回路基板との接続強度を向上している。
各端子電極は、グランド電極GNDの周囲であって各側面側に形成されており、第1側面側にはグランド端子G、第1のアンテナ端子ANT1、第2のアンテナ端子ANT2、電源端子V、非接続端子NCが形成されている。第1側面と隣り合う図下側の第2側面側には、電源端子V、非接続端子NCが形成され、第2側面と対向する図上側の第3側面側には電源端子Vが形成されている。第1側面とグランド電極GNDを介して対向する第4側面側には、バラン60の出力平衡端子RX1−,RX1+、バラン65の出力平衡端子RX2−,RX2+、バラン70の入力平衡端子TX1−,TX1+、グランド端子G、電源端子Vが形成されている。各端子電極に付与した符号の一部は図11に示した回路ブロック図のポートと対応する。
図11に示されない符号として非接続端子NCと電源端子Vがある。非接続端子NCとは、多層セラミック基板内の回路との接続を有さない浮き端子である。また電源端子Vには、高周波スイッチ回路、高周波増幅器、低雑音増幅器を動作させる為に電圧が与えられるが、図においては区別せずに示している。
【0039】
図12〜図15は多層セラミック基板の一部についての内部構造を示す分解斜視図である。以下これらの図を用いて高周波部品の構造例を詳細に説明する。図示したのは受信信号の第1の経路に当たる部分であって、第1の帯域通過フィルタ50aの回路構成は図3で示したものと同じであり、第2の帯域通過フィルタ50bの回路構成は図5で示したものと同じである。また、それらの電気的特性の特徴もまた同様のであるので、その説明を省く。
【0040】
図12〜図15においてS1〜S11は、チップ部品等が実装される上面から1層目から複数層の誘電体層の上面を示す。
なお図中、各層に形成された回路素子用の電極パターン間の電気的接続や、放熱に利用するためのビアホールを黒く示している。第1及び第2の帯域通過フィルタを構成する電極パターンに付した符号は等価回路と対応する。複数の層に亘って形成され接続されたビアホールには同じ符号を付している。また、各層の厚みは図面には反映されて無く、説明に必要としない層についもて一部省略している。
【0041】
層S1の上面には、半導体素子やリアクタンス素子などのチップ部品が実装される実装電極やワイボンディングの為の電極が形成されている。端子Pd1には低雑音増幅器10用の半導体素子が実装され、端子Pd2には高周波スイッチ回路40用の半導体素子が実装され、端子Pd3には高周波増幅器20用の半導体素子が実装される。
低雑音増幅器10用の半導体素子のポートPu2a(図示せず)はボンディングワイヤによって、電極パターンlp1の一端側と接続され、他端側に形成されたSh1と、更にその下層側に形成されたビアホールSh1を介して層S9に形成されたキャパシタ用の電極パターンCinと接続する。電極パターンCinは、層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCa1と層S10に形成されたキャパシタ用の電極パターンCa1と対応して、信号経路に直列に接続した結合キャパシタを形成する。この結合キャパシタは、高周波スイッチ回路からのDC電流を遮断するために用いられる。
【0042】
電極パターンCa1と電極パターンCa1とは、ビアホールSh2を介して接続されるとともに、層S7と層S11に形成されたグランド電極GNDと対向してキャパシタCa1を形成する。各グランド電極GNDは、省略されている部分も含めて、略全面に形成されている。
【0043】
層S8の電極パターンCa1は、ビアホールSh3を介して層S9のキャパシタ用電極Ca4と接続される。キャパシタ用電極Ca4は、後述する層S8、S10に形成されたキャパシタ用電極Ca3と対向してキャパシタCa4を構成する。
更に上層のビアホールSh4を介して、層S5、S6に形成され多層セラミック基板の一辺に沿って伸びる帯状の共振器電極La1の一端側に接続する。共振器電極La1の他端側は、ビアホールSh5とその下層側のビアホールSh5を介して層S7のグランド電極GNDと接続する。更に上層側のビアホールSh5を介して、層S2のグランド電極GNDとも接続する。各共振器電極La1は並列接続されてインダクタLa1を形成し、キャパシタCa1とで第1共振器を構成する。共振器電極を並列接続することで抵抗を減じて共振器の性能を向上させることが出来る。
【0044】
インダクタLa1の共振器電極La1と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極La2が形成される。共振器電極La2の一端は、ビアホールSh4と隣り合うビアホールSh6と、その上下に繋がるビアホールSh6を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極La2の他端側はビアホールSh7を介して、キャパシタ用電極Ca2(層S8)、Ca2(層S10)と接続する。各キャパシタ用電極Ca2は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCa2を形成する。
共振器電極La2で形成されたインダクタLa2とキャパシタCa2とで、第2共振器を構成する。
【0045】
インダクタLa2の共振器電極と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極La3が形成される。共振器電極La3の一端は、ビアホールSh6と隣り合うビアホールSh8と、その下層側に繋がるビアホールSh8を介して、キャパシタ用電極Ca3(層S8)と接続する。キャパシタ用電極Ca3はビアホールSh9を介してキャパシタ用電極Ca3(層S10)と接続する。各キャパシタ用電極Ca3は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCa3を形成する。また、キャパシタ用電極Ca3は、その上層のビアホールSh11を介して、層S1の上面に形成された端子Pd4と接続する。
共振器電極La3の他端側はビアホールSh10と、その下に繋がるビアホールSh10を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極La3で形成されたインダクタLa3とキャパシタCa3とで、第3共振器を構成する。
【0046】
隣り合う共振器電極の短絡側が逆方向となる様に配置される構成によって、第2共振器の共振用電極La2は、第1共振器の共振用電極La1と、第3共振器の共振用電極La3とにインターデジタル結合する。
隣り合う共振用電極の間隔によって誘導性結合を調整することが出来る。また静電結合は共振用電極の開放端側の間隔によって調整することが出来る。
本実施例においては、第1共振器の共振用電極La1と、第3共振器の共振用電極La3の開放端側は、それぞれ層S8、S10に形成されたキャパシタ電極Ca1、Ca3と接続する。キャパシタ電極Ca1とCa3とが層S8上で近接して配置され、キャパシタ電極Ca1とCa3とが層S10上で近接して配置されて結合を強めている。
この様な構成によって、第1の帯域通過フィルタ50aは、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合よりも開放側で生じる静電結合が強くなり、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタとなる。
本実施例においては各共振器の共振器電極は略平行の関係に配置されるが、結合の調整やインピーダンスの調整のために平行としない場合もある。例えば開放端側の静電結合を強めようとすれば、開放端側の共振器電極間隔を狭く、短絡側を広く構成したり、共振器電極の幅を部分的に異ならせて調整したりすることも可能である。
【0047】
層S1の端子Pd4に入力側の整合回路を構成するインダクタが接続される。そして、ボンディングワイヤを介して、端子Pd1に搭載された低雑音増幅器10の入力ポートと接続される。低雑音増幅器10の出力ポートは、ボンディングワイヤと入力側の整合回路を構成するインダクタを介して端子Pd5と接続される。
【0048】
端子Pd5に形成されたビアホールSh12は、その下層側に形成されたビアホールSh13を介して層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb1と接続する。電極パターンCb1はビアホールSh14を通じて、層S9に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb4と層S10に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb1と接続する。キャパシタ用の電極パターンCb4は、後述する層S8に形成されたキャパシタ用の電極パターンCb3と対向して、キャパシタCb4を構成する。ここで、第1の帯域通過フィルタのキャパシタCa4に対して、第2の帯域通過フィルタのキャパシタCb4の容量値が、相対的に小さくなる様に構成される。
層S8に形成された電極パターンCb1は、層S7、S9に形成されたグランド電極GNDと対向し、層S10に形成された電極パターンCb1は、層S9、S11に形成されたグランド電極GNDと対向してキャパシタCb1を形成する。
【0049】
層S8に形成された電極パターンCb1と重なる上層に、ビアホールSh15が形成され、層S5、S6に形成され多層セラミック基板の一辺に沿って伸びる帯状の共振器電極Lb1の一端側に接続する。共振器電極Lb1の他端側は、ビアホールSh16とその下層側のビアホールSh16を介して、層S7、S9のキャパシタ用の電極パターンGNDと接続する。更に上層側のビアホールSh16を介して、層S2のグランド電極GNDとも接続する。共振器電極Lb1は並列接続されてインダクタLb1を形成し、キャパシタCb1とで第1共振器を構成する。
【0050】
インダクタLb1の共振器電極Lb1と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極Lb2が形成される。共振器電極Lb2の一端は、ビアホールSh16と隣り合うビアホールSh18と、その下に繋がるビアホールSh18を介して、層S8のキャパシタ用の電極パターンCb2と接続する。電極パターンCb2はビアホールSh22を介して、層S10のキャパシタ用の電極パターンCb2と接続する。層S8に形成された電極パターンCb2は層S7、S9のグランド電極GNDと、層S10に形成された電極パターンCb2は層S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCb2を構成する。
共振器電極Lb2の他端側はビアホールSh17を介して、キャパシタ層S2、S7のグランド電極と接続する。
共振器電極Lb2で形成されたインダクタLb2とキャパシタCb2とで、第2共振器を構成する。
【0051】
インダクタLb2の各共振器電極Lb2と同じ層上に、それぞれと隣り合って並んで位置する共振器電極Lb3が形成される。共振器電極Lb3の一端は、ビアホールSh18と隣り合うビアホールSh20と、その下層側に繋がるビアホールSh20を介して、キャパシタ用電極Cb3(層S8)と接続する。キャパシタ用電極Cb3はビアホールSh23を介してキャパシタ用電極Cb3(層S10)と接続する。
各キャパシタ用電極Cb3は、層S7、S9、S11のグランド電極GNDと対向して、キャパシタCb3を形成する。また、キャパシタ用電極Cb3は、その上層のビアホールSh21を介して、層S3の上面に形成されたバラン60用の電極パターンBa1と接続する。なお、電極パターンBa1、Bb1、Bb2はバラン60用の電極パターンである。
共振器電極Lb3の他端側はビアホールSh19を介して、層S2及び層S7のグランド電極GNDと接続する。
共振器電極Lb3で形成されたインダクタLb3とキャパシタCb3とで、第3共振器を構成する。
【0052】
第2の帯域通過フィルタ50bは、第1共振器と、第2及び第3共振器とが、短絡方向において逆方向となる様に配置される構成となっている。なお第2及び第3共振器とは短絡方向が同方向となる構成である。
第1共振器の各共振用電極Lb1は、第2共振器の各共振用電極Lb2とインターデジタル結合し、第2共振器の各共振用電極Lb2は第3共振器の各共振用電極Lb3とコムライン結合する。
隣り合う共振用電極の間隔によって誘導性結合を調整することが出来る。また静電結合は共振用電極の開放端側の間隔によって調整することが出来る。本実施例においては各共振器の共振器電極は略平行の関係に配置されるが、各共振器電極の幅を異ならせ、その幅は第1共振器の共振器電極、第3共振器の共振器電極、第2共振器の共振器電極の順に広い。また、共振器電極間の間隔を第2共振器の共振器電極と第1共振器の共振器電極との間隔を、第2共振器の共振器電極と第3共振器の共振器電極との間隔よりも狭めている。
【0053】
本実施例においては、第1共振器の共振用電極Lb1と、第3共振器の共振用電極Lb3の開放端側は、それぞれ層S8、S10に形成されたキャパシタ電極Cb1、Cb3と接続する。キャパシタ電極Cb1とCb3とは層S8上で近接して配置されるが、キャパシタ電極Cb1とCb3とは層S10上で離間して配置されており、第1の帯域通過フィルタ50aよりも、共振器電極の開放端側の静電結合を弱めている。また、第1〜第2共振器の共振器電極の結合をインターデジタル結合とコムライン結合の両方を利用する構成によって、第2の帯域通過フィルタ50bは、共振器電極の短絡側で生じる誘導性結合が開放側で生じる静電結合よりも強くなり、通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタとなる。
【0054】
多層セラミック基板には複数のグランド電極GNDが形成され、異なる層に形成されたグランド電極GNDの間は、複数のビアホールで接続されている。グランド電極GNDを繋ぐビアホールの一部は、縦列配置されたビアホールでなるビアホール群Shとして構成される。本実施例ではビアホール群Shを層S2〜S10に形成する。ビアホール群Shは層S2〜S10を縦貫するものや、グランド電極GNDが形成された層で位置を変えるものがある。各層に形成されるビアホール群Shを、それぞれ層S3、S8、S10に破線で囲んで示した。なお符号SBとしたビアホール群は送信信号の経路に配置された高周波増幅器のためのサーマルビアで有る。このサーマルビア群SBもまた複数のグランド電極GNDを繋ぐものであるので、ビアホール群Shと同様の機能を発揮する。
【0055】
ビアホール群Shは、各層に設けられた第1の帯域通過フィルタ、第2.の帯域通過フィルタ、バランを構成する電極パターンを異なる領域α、β、γ(層S3に例示)に分離する。また、少なくとも一対のグランド電極GNDに挟まれた層では、各回路の電極パターンが積層方向に重ならずに配置される。この様な構成によって、異なる回路間で電磁気的な結合を減じている。他の回路との干渉が減じられるので、第1の帯域通過フィルタ、第2の帯域通過フィルタは、その機能を減ずる事無く発揮することが出来る。
【0056】
得られた高周波部品の電気的特性をネットワークアナライザやノイズソールを用いて評価を行った。
図16はアンテナポートANT1とローノイズアンプ10の間に接続された帯域通過フィルタ50aの特性である。図17はローノイズアンプ10とバラン回路60の間に接続された帯域通過フィルタ50bの特性である。帯域通過フィルタ50aは通過帯域の低域側に減衰極があり、帯域通過フィルタ50bでは通過帯域の高域側の減衰極を設けている。
帯域通過フィルタ50aは1GHz付近で60dB、2GHz付近で40dB程度の大きな減衰量を持つため、アンテナから入力されるGSM信号やWCDMA信号といった不要信号を大きく減衰させることができ、これら不要信号によるローノイズアンプの飽和を防ぐことが可能となる。
帯域通過フィルタ50bは3.3GHz付近で25dB、4.6GHzで35dB程度の大きな減衰量をもつため、ローノイズアンプ10を通過した信号は、これらにより3.3GHz帯の不要信号や、通過帯の2倍高調波信号を大きく減衰させることができ、RFICの誤動作を防ぐことができる。
【0057】
図18は、図11で示された回路ブロックを有する高周波部品において、図16と図17の信号特性を持つ帯域通過フィルタを接続した場合のアンテナポートANT1と受信ポートRX1−、RX1+間における信号特性である。通過帯域では12dBのゲインを確保し、かつ不要帯域では40dB以上の大きな減衰量を確保している。
また図19にはこの回路の雑音指数を示す。ゲインと減衰量を確保しつつ、雑音指数は3.5dB程度でありこの回路で構成された高周波部品を用いることにより、消費電力を抑えつつ高品質な通信をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、通過帯域外での高減衰量を得ながら、NFが小さく、低消費電力の高周波回路を得ることができる。さらに高周波回路を積層型の高周波部品として構成することで小型化するとともに、その構成に起因する電気的特性の劣化を抑制できるようにすることできる。更に、前記高周波回路や前記高周波部品を用いて、電気的特性に優れ、低消費電力化が可能であり、小型の通信機器を提供することが出来る。
【符号の説明】
【0059】
1 高周波回路
10 低雑音増幅器
40 高周波スイッチ回路
50a 第1の帯域通過フィルタ
50b 第2の帯域通過フィルタ
60 バラン
90 フィルタ回路
100 多層セラミック基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器と、前記増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、前記増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタとを備え、
前記第1の帯域通過フィルタと前記第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタであることを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
前記容量性の帯域通過フィルタは第1ポートと第2ポートを有し、前記第1ポート側の第1共振器と、前記第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とで、インターデジタル結合の共振器電極を有する3段の共振器で構成され、
前記誘導性の帯域通過フィルタは第1ポートと第2ポートを有し、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第3共振器とで3段の共振器で構成され、前記第4共振器と前記第5共振器の共振器電極はインターデジタル結合し、前記第2共振器と前記第3共振器の共振器電極はコムライン結合することを特徴とする請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高周波回路を基板に構成したことを特徴とする高周波部品。
【請求項4】
前記基板が多層セラミック基板であって、その内部の異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンが配置され、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとは積層方向に重なり合わず、かつ前記グランド電極の間を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されたことを特徴とする請求項3に記載の高周波部品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の高周波回路を用いたことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の高周波部品を用いたことを特徴とする通信装置。
【請求項1】
増幅器と、前記増幅器の入力段に接続された第1の帯域通過フィルタと、前記増幅器の出力段に接続された第2の帯域通過フィルタとを備え、
前記第1の帯域通過フィルタと前記第2の帯域通過フィルタのどちらか一方が、通過帯域の低周波数側に共振点を有する容量性の帯域通過フィルタであり、他方が通過帯域の高周波数側に共振点を有する誘導性の帯域通過フィルタであることを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
前記容量性の帯域通過フィルタは第1ポートと第2ポートを有し、前記第1ポート側の第1共振器と、前記第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第2共振器とで、インターデジタル結合の共振器電極を有する3段の共振器で構成され、
前記誘導性の帯域通過フィルタは第1ポートと第2ポートを有し、第1ポート側の第1共振器と、第2ポート側の第3共振器と、それらの段間に配置された第3共振器とで3段の共振器で構成され、前記第4共振器と前記第5共振器の共振器電極はインターデジタル結合し、前記第2共振器と前記第3共振器の共振器電極はコムライン結合することを特徴とする請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高周波回路を基板に構成したことを特徴とする高周波部品。
【請求項4】
前記基板が多層セラミック基板であって、その内部の異なる層に形成された複数のグランド電極と、前記グランド電極に挟まれた領域に、前記第1の帯域通過フィルタ及び前記第2の帯域通過フィルタを構成する共振器電極とコンデンサ電極のための電極パターンが配置され、第1の帯域通過フィルタを構成する第1電極パターンと第2の帯域通過フィルタを構成する第2電極パターンとは積層方向に重なり合わず、かつ前記グランド電極の間を繋ぐ複数のビアホール群を介して異なる平面領域に形成されたことを特徴とする請求項3に記載の高周波部品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の高周波回路を用いたことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の高周波部品を用いたことを特徴とする通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−205207(P2012−205207A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69903(P2011−69903)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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