説明

高周波回路基板

【課題】誘電特性等の液晶ポリエステルの特性を十分維持しつつ、はんだ耐熱性に優れた絶縁層(LCP基板)を有する高周波回路基板を提供する。
【解決手段】無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)と、溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステル(B)とからなる絶縁層を備えることを特徴とする高周波回路基板の提供。前記液晶ポリエステル(B)はフェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する構造単位を有するものであると好ましく、前記シート(A)はガラスクロスが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワーク機器等の情報伝送装置においては、その高速信号化の要求が高くなっている。このような信号の高速化には、該情報伝送装置に使用される高周波回路基板に関し、信号伝播速度の向上、高周波域での低伝送を実現することが必要である。このため、低誘電率及び低誘電損失の高周波回路基板の開発が検討されている。
【0003】
このような低誘電率及び低誘電損失という特性の向上には、高周波回路基板にある絶縁層の誘電特性を改良することが重要である。従来、かかる高周波回路用基板の絶縁層を構成する樹脂材料には、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂が適用されてきたが、これらの樹脂は吸湿性が高く、高周波域で誘電率が変化し易いという問題を有していた。そこで、低吸水性で、高周波域での誘電特性に優れた液晶ポリエステルを用い、該液晶ポリエステルからなるフィルムを複数枚重ねて形成された絶縁層(LCP基板)を備えた高周波回路基板が、上述の問題を解消できるものとして特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−269616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で開示されているLCP基板は、例えば、はんだリフロー等の加熱処理を実施すると、該LCP基板表面に膨れ状の外観異常が発生することがあり、高周波回路基板製造の障害になる場合があった。
かかる状況下、本発明の目的は誘電特性、低吸水性等の液晶ポリエステルの特性を十分維持しつつ、このようなはんだリフローに対する耐久性(はんだ耐熱性)に優れたLCP基板を絶縁層として有する高周波回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の<1>を提供するものである。
<1>無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)と、溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステル(B)とからなる絶縁層を備える高周波回路基板
【0007】
さらに本発明は、前記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>〜<7>を提供する。
<2>前記液晶ポリエステル(B)が、以下の式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位とを有し、全構造単位の合計に対して式(1)で表される構造単位が30.0〜45.0モル%、式(2)で表される構造単位が27.5〜35.0モル%、式(3)で表される構造単位が27.5〜35.0モル%からなるものである、<1>の高周波回路基板;
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
<3>前記式(3)で表される構造単位のX及びYのうち、少なくとも一方がNHである、<2>の高周波回路基板;
<4>前記液晶ポリエステル(B)が、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜45.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が27.5〜35.0モル%、テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が27.5〜35.0モル%からなる、<1>の高周波回路基板;
<5>前記絶縁層の総重量に対する前記液晶ポリエステル(B)の付着量が、25〜75重量%の範囲である、<1>〜<4>の何れかに記載の高周波回路基板;
<6>前記絶縁層が、厚み10〜200μmの無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)に、前記液晶ポリエステル(B)及び溶剤を含む溶液組成物を含浸せしめて形成されたものである、<1>〜<5>の何れかに記載の高周波回路基板;
<7>前記シートがガラスクロスである、<1>〜<6>の何れかに記載の高周波回路基板;
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘電特性、低吸水性等の液晶ポリエステルの特性を十分維持しつつ、はんだ耐熱性に優れた絶縁層(LCP基板)を有する高周波回路基板を提供できる。当該高周波回路基板は、高速信号化に優れた情報伝送装置を実現できるため、産業上の価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高周波回路基板は、その絶縁層が、無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)と、溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステル(B)とからなることを特徴とする。
以下、かかる絶縁層を形成する液晶ポリエステル、無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート、これらを用いる絶縁層(LCP基板)の製造方法、及び当該絶縁層を備えた高周波回路基板に関し、順次説明する。
【0010】
<液晶ポリエステル(B)>
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)とは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を備えたポリエステルである。
本発明に使用する液晶ポリエステルとしては、下記式(1)で表される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という)と、下記式(2)で表される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という)と、下記式(3)で表される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という)とを有し、全構造単位の合計に対して、式(1)構造単位が30.0〜45.0モル%、式(2)構造単位が27.5〜35.0モル%、式(3)構造単位が27.5〜35.0モル%からなるものが好ましい。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
【0011】
式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸等を挙げることができる。
【0012】
式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、該芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0013】
式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族ジアミンに由来する構造単位である。該芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等を挙げることができる。
また、該フェノール性水酸基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、3−アミノフェノール等を挙げることができ、該芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン等を挙げることができる。
【0014】
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)は溶剤可溶性であり、かかる溶剤可溶性とは、温度50℃において、1重量%以上の濃度で溶剤に溶解することを意味する。この場合の溶剤とは、後述する溶液組成物の調製に用いる好適な溶剤の何れか1種であり、詳細は後述する。
このような溶剤可溶性を有する液晶ポリエステル(B)としては、前記式(3)構造単位として、フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する構造単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)構造単位として、X及びYの少なくとも一方がNHである構造単位(下記式(3’)で表される構造単位、以下、「式(3’)構造単位」という)を含むと、後述する好適な溶剤(非プロトン性極性溶剤)に対する溶剤可溶性が優れる傾向があるため好ましい。特に、実質的に全ての式(3)構造単位が式(3’)構造単位であることが好ましい。また、この式(3’)構造単位は液晶ポリエステルの溶剤溶解性を十分良好にすることに加え、液晶ポリエステル(B)が、より低吸水性となる点でも有利である。
(3’)−X−Ar3−NH−
(式中、Ar3及びXは前記式(3)と同義である。)
式(3)構造単位は全構造単位の合計に対して、30.0〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましく、こうすることにより、溶剤可溶性は一層良好になる。このように式(3’)構造単位を、式(3)構造単位として有する液晶ポリエステルは、溶剤に対する溶解性、低吸水性という点に加え、該溶液組成物を用いて絶縁層の製造がより容易になるという利点も有している。前記式(3’)構造単位の中でも、液晶ポリエステル(B)の溶剤溶解性に加え、この構造単位を誘導する化合物の入手性や経済性も合わせて考慮すると、4−アミノフェノールが好ましく、該4−アミノフェノールに由来する式(3’)構造単位が特に好ましい。
【0015】
式(1)構造単位は全構造単位の合計に対して、30.0〜45.0モル%の範囲で含むと好ましく、35.0〜40.0モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶剤に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も合わせて考慮すると、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸及び/又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好適である。
【0016】
式(2)構造単位は全構造単位の合計に対して、27.5〜35.0モル%の範囲で含むと好ましく、30.0〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶剤に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も合わせて考慮すると、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種であると好ましい。
【0017】
また、液晶ポリエステル(B)がより高度の液晶性を発現する点では、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル分率は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1.0〜1.0/0.9の範囲が好適である。
【0018】
次に液晶ポリエステル(B)の製造方法について簡単に説明する。
該液晶ポリエステル(B)は、種々公知の方法により製造可能である。式(1)構造単位、式(2)構造単位及び式(3)構造単位からなる好適な液晶ポリエステル(B)を製造する場合、これら構造単位を誘導する化合物(モノマー)を、エステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後、重合させて液晶ポリエステル(B)を製造する方法が、操作が簡便であるため好ましい。
【0019】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について、例を挙げて説明する。
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のような、カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、酸塩化物、酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや、当該カルボキシル基が、エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のような、フェノール性水酸基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
また、芳香族ジアミンのように、アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、液晶ポリエステル(B)をより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンといったフェノール性水酸基及び/又はアミノ基を有するモノマーとを、脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後、該アシル化物のアシル基と、カルボキシ基を有するモノマーのカルボキシ基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ、液晶ポリエステル(B)を製造する方法が特に好ましい。
このような製造方法は、例えば、特開2002−220444号公報又は特開2002−146003号公報に記載されており、これら公報に記載された製造方法に準じて、液晶ポリエステル(B)を製造することができる。
【0021】
アシル化においては、フェノール性水酸基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の添加量が1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、1.05〜1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1.0倍当量未満では、重合時にアシル化物やその他のモノマーが昇華して反応系が閉塞し易い傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0022】
アシル化は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
アシル化に使用される脂肪酸無水物は、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸又はこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、特に好ましくは、無水酢酸である。
【0023】
アシル化に続く重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
また、重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0024】
アシル化及び/又は重合の際には、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0025】
なお、アシル化や重合は触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
ただし、金属を含む触媒は液晶ポリエステルに残存した場合、かかる液晶ポリエステルを用いて絶縁層を形成したとき、該絶縁層の電気特性(誘電率等)の悪化を招くおそれがあるため、前記の触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒(窒素原子を2個以上含む複素環状化合物)が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
該触媒は、通常モノマーの投入時に一緒に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合には、アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0026】
このような重合で得られた液晶ポリエステル(B)は、その流動開始温度が250℃以上であれば、そのまま本発明に用いることができるが、液晶性等の特性の更なる向上のためには、より高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた、比較的低分子量の液晶ポリエステルを取り出し、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にする。続いて、粉砕後の液晶ポリエステルを、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で加熱処理するという操作により固相重合は実施できる。該固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステル(B)を得るといった観点から、該固相重合の好適条件を詳述すると、反応温度として210℃を越えることが好ましく、より一層好ましくは220℃〜350℃の範囲である。反応時間は1〜10時間から選択されることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)は、その流動開始温度が250℃以上であることが必要である。かかる流動開始温度は高ければ高いほど、はんだ耐熱性がより良好になる傾向がある。また、該流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステル(B)を用いてなる絶縁層に配線パターンを形成させて、高周波回路基板を製造する際、この配線パターン(導体層)と絶縁層との間に、より高度の密着性が得られるという利点もある。なお、ここでいう流動開始温度とは、フローテスターによる溶融粘度の評価において、9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお、この流動開始温度とは、液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(小出直之編,「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」,95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行)。
【0028】
このように液晶ポリエステル(B)の流動開始温度は高いほど好ましいが、かかる流動開始温度は、該液晶ポリエステル(B)の溶剤可溶性を著しく損なわない範囲とすることが必要であり、かかる点から、該流動開始温度は300℃以下であることが好ましい。流動開始温度が300℃以下であれば、液晶ポリエステルの溶剤に対する溶解性が十分良好になることに加え、後述する溶液組成物を得たとき、その粘度が著しく大にならないので、該溶液組成物の取扱性が良好となる傾向がある。これらの観点を勘案して、流動開始温度が260℃以上290℃以下の液晶ポリエステルがさらに好ましい。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには、前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
【0029】
<溶液組成物>
本発明の高周波回路基板の絶縁層を得るには、液晶ポリエステル(B)及び溶剤を含む溶液組成物、特に、溶剤に液晶ポリエステル(B)を溶解せしめた溶液組成物を用いることが好ましい。
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)として、上述の好適な液晶ポリエステル、特に前記式(3’)構造単位を含む液晶ポリエステル(B)を用いた場合、該液晶ポリエステル(B)はハロゲン原子を含まない非プロトン性溶剤に対して十分な溶解性を発現する。
ここでハロゲン原子を含まない非プロトン性溶剤とは、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;γ―ブチロラクトン等のラクトン系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶剤;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶剤、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶剤が挙げられる。なお、上述の液晶ポリエステルの溶剤可溶性とは、これらから選ばれる少なくとも1つの非プロトン性溶剤に可溶であることを指すものである。
【0030】
液晶ポリエステル(B)の溶剤可溶性をより一層良好にして、溶液組成物が得られやすい点では、例示した溶剤の中でも、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶剤を用いることが好ましい。具体的にいえば、アミド系溶剤、ラクトン系溶剤が好ましく、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)を用いることがより好ましい。更には、前記溶剤が、1気圧における沸点が180℃以下の揮発性の高い溶剤であると、前記シートに該溶液組成物を含浸させた後、除去しやすいという利点もある。この観点からは、DMF、DMAcが特に好ましい。また、このようなアミド系溶剤の使用は、絶縁層の製造時に、厚みムラ等が生じ難くなるため、該絶縁層上に導体層が形成し易いという利点もある。
【0031】
前記溶液組成物に、前記のような非プロトン性溶剤を用いた場合、該非プロトン性溶剤100重量部に対して、液晶ポリエステル(B)を20〜50重量部、好ましくは22〜40重量部溶解させると好ましい。該溶液組成物に対する液晶ポリエステル(B)含有量がこのような範囲であると、絶縁層を製造する際に、前記シートに該溶液組成物を含浸させる効率が一層良好になり、含浸後に溶剤を乾燥除去する際に、絶縁層に厚みムラ等が生じるといった不都合も起こり難い傾向がある。
また、前記溶液組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体に代表されるエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂等、液晶ポリエステル以外の樹脂を一種又は二種以上を添加してもよい。ただし、このような他の樹脂を用いる場合においても、これら他の樹脂も該溶液組成物に使用した溶剤に可溶であることが好ましい。
【0032】
さらに、該溶液組成物には、寸法安定性、熱伝導性の改善等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲であれば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が、一種又は二種以上添加されていてもよい。ただし、このような添加剤等の使用も、得られる絶縁層の誘電特性を著しく悪化させないようにして、その種類及び使用量を選択することが必要である。
また、該溶液組成物は必要に応じて溶液中に含まれる微細な異物を、フィルター等を用いたろ過処理により除去してもよい。
さらに、該溶液組成物は必要に応じ、脱泡処理を行ってもよい。
【0033】
<無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート>
本発明に用いるシート(A)は、通気性のあるペーパー、織物、不織布シート等であって無機繊維及び/又は炭素繊維からなるものである。ここで、無機繊維としては、ガラスに代表されるセラミック繊維であり、ガラス繊維、アルミナ系繊維、ケイ素含有セラミック系繊維等が挙げられる。これらの中でも、入手性が良好であることから、主としてガラス繊維からなるシート、すなわちガラスクロスがシート(A)としての使用には好ましい。
【0034】
前記ガラスクロスとしては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維、低誘電ガラス繊維からなるものが好ましい。また、ガラスクロスを構成する繊維として、その一部にガラス以外のセラミックからなるセラミック繊維又は炭素繊維を混入していてもよい。また、ガラスクロスを構成する繊維は、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていてもよい。
これらの繊維からなるガラスクロスを製造する方法としては、ガラスクロスを形成する繊維を水中に分散し、必要に応じてアクリル樹脂等の糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法を挙げることができる。
【0035】
繊維の織り方としては、平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等が利用できる。織り密度としては、10〜100本/25mmであり、ガラスクロスの単位面積当たりの質量としては10〜300g/m2のものが好ましく使用される。前記ガラスクロスの厚みとしては、通常、10〜200μm程度であり、10〜180μmのものがさらに好ましく使用される。
【0036】
また、市場から容易に入手できるガラスクロスを用いることも可能である。このようなガラスクロスとしては、電子部品の絶縁含浸基材として種々のものが市販されており、旭シュエーベル(株)、日東紡績(株)、有沢製作所(株)等から入手することができる。なお、市販のガラスクロスにおいて、好適な厚みのものは、IPC呼称で1035、1078、2116、7628のものが挙げられる。
【0037】
<高周波回路基板の絶縁層の製造方法>
本発明の高周波回路基板の絶縁層は、例示したような液晶ポリエステル(B)と前記シート(A)(好ましくはガラスクロス)とから形成された樹脂含浸基材を用いて製造されたものであると好ましく、液晶ポリエステル(B)を含む溶液組成物を、該シートに含浸させた後、溶剤を乾燥除去させることで得られる樹脂含浸基材が特に好ましい。溶剤除去後の樹脂含浸基材に対する液晶ポリエステル付着量としては、得られた樹脂含浸基材の重量を基にして、25〜75重量%であることが好ましく、30〜70重量%であることがより好ましい。また、高周波回路基板の絶縁層は適度な厚みを有し、且つ電気特性の異方性を有しないことが必要であり、前記特許文献1の絶縁層では、押出成形で得られる液晶ポリエステルフィルムを複数枚用い、それらを重ねて熱プレスすることで、電気特性の異方性を低下させ、適度な厚みの接合フィルムを形成している。しかしながら、この方法では、各々配向方向が異なっているような液晶ポリエステルフィルム同士を重ねることになるので、その重なり部分にボイド(気泡)が形成されてしまうことがある。このようなボイドが発生した接合フィルムは、はんだリフロー等で加熱処理されると、当該ボイドが膨張して、膨れ状の外観異常(欠陥)が生じることになる。本発明の高周波回路基板の絶縁層は、前記シート(A)を使用することで適度な厚みのものを形成することが可能であり、前記シートに、液晶ポリエステルを溶解せしめた溶液組成物を含浸させることで、当該シート中に、十分液晶ポリエステルが充填される。したがって、この樹脂含浸基材を形成する際、はんだ耐熱性に不利となるボイドの発生等が十分防止されているので、はんだリフロー等においても膨れ状の欠陥が発生しないと推定される。
【0038】
ここでは、前記シート(A)として好適なガラスクロスを用いた場合の高周波回路基板の製造方法を説明する。
ガラスクロスに前記溶液組成物を含浸させるには、典型的には該溶液組成物を仕込んだ浸漬槽を準備し、この浸漬層に該ガラスクロスを浸漬することで実施することができる。ここで、用いた溶液組成物の液晶ポリエステル(B)含有量、浸漬槽に浸漬する時間、溶液組成物が含浸されたガラスクロスを引き上げる速度を、適宜最適化すれば、上述の好適な液晶ポリエステル付着量は容易に制御することができる。
【0039】
このようにして、溶液組成物を含浸させたガラスクロスは、溶剤を除去することで樹脂含浸基材を製造することができる。溶剤を除去する方法は特に限定されないが、操作が簡便である点で、溶剤の蒸発により行うことが好ましく、加熱、減圧、通風又はこれらを組み合わせた方法が用いられる。また、樹脂含浸基材の製造には、溶剤を除去した後、さらに加熱処理を行ってもよい。このような加熱処理によると、溶剤除去後の樹脂含浸基材に含まれる液晶ポリエステル(B)をさらに高分子量化することができる。この加熱処理に係る処理条件としては、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、240〜330℃で、1〜30時間加熱処理するといった方法を挙げることができる。なお、より良好な耐熱性を有する高周波回路基板を得るといった観点からは、該加熱処理の処理条件としては、その加熱温度が250℃を越えるようにすることが好ましく、より一層好ましくは加熱温度が260〜320℃の範囲である。該加熱処理の処理時間は1〜10時間から選択されることが、生産性の点で好ましい。
【0040】
次に、得られた樹脂含浸基材を絶縁層として用い、かかる絶縁層の少なくとも一方の面に、好ましくは両面に、銅を含む導体層を積層させて、高周波回路基板は製造できる。
該導体層を積層させる方法としては、該絶縁層に銅を含む金属箔を積層させる方法、銅又は銅合金からなる微粒子(銅微粒子)を絶縁層上にコートして導体層を形成させる方法等が挙げられる。
かかる導体層としては、銅又は銅合金からなるものが使用可能であるが、銅箔を用いて高周波回路基板を製造することが、操作が簡便である点で好ましい。銅箔は優れた導電性を発現するものであり、経済性の点でも優れたものといえる。
【0041】
銅箔の積層方法としては、例えば接着剤を用いて銅箔と絶縁層とを接着する方法、銅箔と絶縁層とを熱プレスにより熱融着させる方法が挙げられる。
接着剤を使用する場合、該接着剤としては、市販のエポキシ樹脂系接着剤やアクリル樹脂系接着剤等が使用可能であるが、このような接着剤の使用は、かかる接着剤の耐熱性不足によってはんだ耐熱性の低下を招くこともあるので、熱プレスにより銅箔と樹脂含浸基材とを接着する方法が特に好ましい。
熱プレスする場合の処理条件としては、使用する絶縁層の寸法、形状又は使用する銅箔の厚み、種類により適宜最適化できるが、真空下で熱プレスすることが特に好ましい。なお、該熱プレスにおける処理条件は、得られる高周波回路基板が良好な表面平滑性を発現するようにして、処理温度や処理圧力を決定することが好ましい。この処理温度は、該熱プレスに使用する絶縁層を製造する際に使用した加熱処理の温度条件を基点とすることができる。具体的には、絶縁層を製造する際に使用した加熱処理に係る温度条件の最高温度をTmax[℃]としたとき、このTmaxを越える温度で熱プレスすることが好ましく、Tmax+5[℃]以上の温度で熱プレスすることがより好ましい。該熱プレスに係る温度の上限は、用いる絶縁層に含有される液晶ポリエステル(B)の分解温度を下回るように選択されるが、好ましくは該分解温度を30℃以上下回るようにすることが好ましい。なお、ここでいう分解温度は、用いる液晶ポリエステル(B)を熱重量減少分析等の公知の手段に供して求められるものである。また、該熱プレスの処理時間は1〜30時間、プレス圧力は1〜30MPaから選択される。
また、このような銅箔と絶縁層との熱プレスによる熱融着において、該絶縁層としては、上述の樹脂含浸基材を複数枚重ねて使用してもよい。この場合においても、液晶ポリエステル(B)を用いてなる樹脂含浸基材同士の重なり部分にボイド等は発生しない。この理由に関しては必ずしも明らかではなく、本発明者等の検討に基づく独自の知見である。
【0042】
以下、導体層の積層に係る銅微粒子のコート方法に関し、簡単に説明しておく。
該コート方法としては、めっき法、スクリーン印刷法、スパッタリング法等が利用できる。これらの中でもコート法としてはめっき法が好ましく、具体的には無電解めっきや電解めっきを用いることが好ましい。
また、このようなめっき法で得られた導体層の特性をさらに向上させるためにも、めっき後の導体層を加熱処理することが好ましく、かかる加熱処理の温度条件に関しても、前記熱プレスの温度条件として記した条件と同等のものが採用される。
【0043】
<配線パターンの製造方法>
かくして得られた高周波回路基板にある導体層に、所定の配線パターンを形成する。配線パターンを形成するには、そのマスキングとして、市販のエッチングレジストやドライフィルムを用いることができる。そして、マスキングされた導体層とマスキングされていない導体層において、後者の導体層をウェット法(薬剤処理)というエッチング加工によって除去する。エッチング加工に用いる薬剤としては、例えば塩化第二鉄水溶液が挙げられる。
次いで、マスキングされた導体層からエッチングレジストやドライフィルムをアセトンや水酸化ナトリウム水溶液で除去する。このようにして導体層に所定の配線パターンを形成することができる。
【0044】
本発明によれば、上述のようなエッチング加工を施した後の高周波回路基板を、例えば加熱処理等を行ったとしても、この高周波回路基板の表面には膨れ状の欠陥が発生することはない。この理由に関しても、本発明の高周波回路基板は、ボイドの発生が十分防止された絶縁層を備えているためと推定される。もし、ボイドを有するような絶縁層を備えた高周波回路基板では、はんだリフロー等で加熱処理を受けると、ボイドにある気体(ガス)が膨張して表面まで浮上し、膨れ状の欠陥が生じることになる。また、該エッチング加工に使用した薬剤がボイドまで浸透し、このボイドで滞留すると、加熱処理による膨れ状の欠陥の発生が顕著になる。本発明の高周波回路基板の絶縁層は、このように膨れ状の欠陥発生に不利となるボイドが十分防止されているので、かかる効果を発現することができる。
【0045】
かくして配線パターンを形成させたものも、本発明の高周波回路基板に含まれる概念である。また、このようにして得られる配線パターンを形成させた高周波回路基板を、複数枚重ねたものも、本発明の高周波回路基板に含まれる概念である。この場合においても、高周波回路基板同士の重なり部分にもボイド等の発生を良好に防止することができる。
さらに、本発明の高周波回路基板には、該高周波回路基板にある導電層を保護する目的でカバーフィルムなどの樹脂フィルムを積層してもよい。
また、スルーホールを形成させてもよい。この方法としては、ドリルによる加工法や、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー等のレーザーによる加工法を採用することができる。なお、スルーホール形成時の発熱で、穴内に付着した液晶ポリエステルの切削クズは、汎用の市販薬剤を用いて、化学的に除去することが好ましい。
【0046】
本発明の高周波回路基板に係る絶縁層は、液晶ポリエステル(B)が有しているGHz帯以上の高周波域においても誘電率の周波数依存性が小さいという優れた誘電特性を十分維持しつつ、極めてはんだ耐熱性に優れたものである。したがって、かかる絶縁層を備えた高周波回路基板は情報伝送装置における使用、特に情報伝送装置を構成するプリント配線板等の使用に極めて有用である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
[高周波回路基板の製造]
(1)芳香族液晶ポリエステルの調製
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、ポリエステル粉末を得た。得られたポリエステル粉末を島津製作所フローテスターCFT−500により評価したところ、その流動開始温度は235℃であった。該ポリエステル粉末を、窒素雰囲気において223℃で3時間加熱するといった固相重合を行い、液晶ポリエステル(B)を粉末状で得た。この液晶ポリエステル(B)の流動開始温度は270℃であった。
【0049】
(2)芳香族液晶ポリエステル溶液の調製
前記(1)で得られた液晶ポリエステル(B)2200gを、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)7800gに加え、100℃で2時間加熱して溶液組成物を得た。この溶液組成物の溶液粘度は23℃で320cPであった。なお、この溶融粘度は、B型粘度計(東機産業製、「TVL−20型」、ローターNo.21(回転数:5rpm))を用いて、測定温度23℃で測定したものである。
【0050】
(3)樹脂含浸基材の製造
ガラスクロス(有沢製作所製;厚み96μm IPC名称2116)に、前記(2)で得られた溶液組成物を含浸させ、さらに熱風式乾燥機(設定温度160℃)を用いて、溶剤を蒸発させることで樹脂含浸基材を得た。得られた樹脂含浸基材において、ガラスクロスに対する液晶ポリエステル付着量は約35重量%であり、厚みは100μm(基材の幅方向の厚み分布)、厚みのバラツキは3%であった。
【0051】
(4)高周波回路基板の製造
前記(4)で得られた樹脂含浸基材を、窒素雰囲気下、熱風式乾燥機(設定温度:290℃)を用い、3時間加熱処理を行った。加熱処理後の樹脂含浸基材を2枚重ね、さらにその両面に銅箔(3EC‐VLP三井金属社製(18μm))を積層させた。得られた積層体を高温真空プレス機(北川精機製 KVHC−PRESS 300mm)により、340℃、20分、5MPaの条件にて、熱プレスし銅箔と樹脂含浸基材とを熱融着させることで、高周波回路基板を得た。
【0052】
[高周波回路基板の評価]
(5)誘電率の評価
前記(4)で得られた高周波回路基板の両面に積層された銅箔を、塩化第二鉄水溶液(木田株式会社製 40°ボーメ)を用いて除去した。銅箔除去後に残存した樹脂含浸基材を、ファブリペロー法によって誘電率を測定した。なお、この誘電率測定時の測定周波数は、30GHz、50GHz、70GHz及びび90GHzの4水準である。結果を表1に示す。
表に示すように周波数依存性が少なく、小さい値を示していることからGHz帯以上の高周波域で高周波回路基板を提供することが可能となる。
【0053】
(6)はんだ耐熱性の評価
前記(4)で得られた高周波回路基板に対し、(4)と同様にして銅箔を除去した。その後、JIS C6481に基づき50mm角の試験片を作製した。作製した試験片を121℃、2atm、100%RH下の雰囲気に設定した炉内で1時間保管した。その後、288℃のはんだ浴に10秒浸漬し、表面外観の検査を行い変色や銅箔部の膨れや剥がれがなことを目視で確認した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1で使用したガラスクロスを、ガラスクロス(有沢製作所製;厚み45μm IPC名称1078)に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行い、高周波回路基板を製造した。樹脂含浸基材における液晶ポリエステル付着量は約55重量%であり、厚みは55μm(基材の幅方向の厚み分布)、厚みバラツキは3%であった。そして、実施例1と同様にして、得られた高周波回路基板の絶縁層の誘電率、はんだ耐熱性を評価した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
液晶ポリエステル(B)とガラスクロス(シート(A))とからなる絶縁層は、たとえ銅箔を加工するため、塩化第二鉄水溶液を用いて処理したとしても、誘電率の周波数依存性が小さく、はんだ耐熱性に優れたものであり、高周波回路基板として極めて優れていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)と、溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステル(B)とからなる絶縁層を備えることを特徴とする高周波回路基板。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル(B)が、以下の式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位とを有し、全構造単位の合計に対して式(1)で表される構造単位が30.0〜45.0モル%、式(2)で表される構造単位が27.5〜35.0モル%、式(3)で表される構造単位が27.5〜35.0モル%からなるものであることを特徴とする請求項1記載の高周波回路基板。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
【請求項3】
前記式(3)で表される構造単位のX及びYのうち、少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項2記載の高周波回路基板。
【請求項4】
前記液晶ポリエステル(B)が、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜45.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が27.5〜35.0モル%、テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が27.5〜35.0モル%からなることを特徴とする請求項1記載の高周波回路基板。
【請求項5】
前記絶縁層の総重量に対する前記液晶ポリエステル(B)の付着量が、25〜75重量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高周波回路基板。
【請求項6】
前記絶縁層が、厚み10〜200μmの無機繊維及び/又は炭素繊維からなるシート(A)に、前記液晶ポリエステル(B)及び溶剤を含む溶液組成物を含浸せしめて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高周波回路基板。
【請求項7】
前記シートがガラスクロスであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の高周波回路基板。

【公開番号】特開2010−103339(P2010−103339A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274080(P2008−274080)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】