高周波回路基板
【課題】高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路などの高周波伝送線路の通過損失が低減され、かつ生産性にすぐれた高周波回路基板を得る。さらには、このマイクロストリップ線路を用いた、低雑音増幅器が低雑音化され、送信用増幅器が高飽和出力化され、電圧可変発振器を低位相雑音化する。
【解決手段】絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備える。
【解決手段】絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波領域で使用する低損失な高周波回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波などの高周波領域で使用される伝送線路はテフロン(登録商標)やガラスエポキシなどの絶縁体で構成された平面基板上に形成され、製造しやすいマイクロストリップ線路が用いられる。マイクロストリップ線路の表面導体には主として銅が使用されるが、銅は酸化、腐食して電気を通さなくなりやすいため銅の表面を保護する必要がある。
【0003】
銅の表面保護としては、錫めっき、金、銀めっきを施す方法があるが、錫めっきは錫が細長い髭状に成長するウィスカーの問題があり、金および銀めっきは銅の拡散による劣化が問題となる。
【0004】
また、銅の表面保護として基板を、溶融したはんだの中に浸漬した後、空気を吹きつけて銅以外の部分に付いた余分なはんだを飛ばすというはんだコートが用いられるが、基板を高温のはんだにくぐらせることによる基板の熱変形が問題となる。昨今は欧州連合(EU)による電気・電子機器における特定有害物質の使用制限の施行などの規制により、鉛を使わない電気・電子回路が必要となりつつあるが、錫、銀、銅を含む無鉛はんだは有鉛はんだよりも融点が高いため、無鉛はんだコートは基板の熱変形がさらに発生しやすくなる。
【0005】
このため、特許文献1に示すように無鉛の高周波回路基板の銅の表面保護には、ニッケルめっきを施した後に金めっきを施す方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-318611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金めっきの厚みは約0.1μmと薄く、電流は主にニッケルめっきを流れることになる。高周波では表皮効果により電流は導体の表面へ集中するが、ニッケルは錫、銅等に比べて表皮深さが浅いため電流が流れる部分が薄いため抵抗が増加し、通過損失が増加してしまう。
【0008】
このため、特許文献1に示す構成のマイクロストリップ線路基板を用いた通信装置において、送信系の増幅器は出力後のマイクロストリップ線路の通過損失の増加により、飽和出力電力が低下してしまう。また、受信系の低雑音増幅器は入力部のマイクロストリップ線路の通過損失の増加により雑音指数が劣化してしまう。さらに、マイクロストリップ線路を共振器とする電圧制御発振器においては、マイクロストリップ線路の通過損失の増加により振動増大係数が低下し、位相雑音が劣化してしまう。
【0009】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路などの高周波伝送線路の通過損失が低減され、かつ生産性にすぐれた高周波回路基板を得ることを目的とする。さらには、このマイクロストリップ線路を用いた、増幅器を低雑音化、高飽和出力化し、電圧可変発振器を低位相雑音化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る高周波回路基板は、絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施することにより、マイクロストリップ線路の通過損失が低減され、また増幅器が低雑音化、高飽和出力化され、電圧可変発振器が低位相雑音化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板の斜視図である。
【図2】従来例のマイクロストリップ線路の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図である。
【図5】従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図である。
【図6】通信装置の構成例である。
【図7】この発明の実施の形態2における高周波回路基板の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3における高周波回路基板の構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4における電圧制御発振器回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板の斜視図である。図1において、1は無鉛はんだ、2は金めっき、3はニッケルめっき、4は銅素地および銅めっきが施された導体パターン、5はテフロン(登録商標)やガラスエポキシなどの絶縁体、6は裏面グランドパターンである。
【0014】
図2は、従来例のマイクロストリップ線路の断面図である。図2において、図1と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。図2において、7は高周波電流の伝送域である。
【0015】
図3は、この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路の断面図である。図3において、図1および図2と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
高周波信号は高周波回路基板の表面に形成されたマイクロストリップ線路の表面導体を高周波電流として伝送し、この高周波電流が表面導体を流れるとき、表面導体の断面において、高周波電流の電流密度は表面導体の表面で大きく、表面から離れると小さくなる現象がある。この現象を表皮効果と呼ぶ。電流が表面の電流の1/e(約0.37)倍となる表面導体の断面方向の深さを表皮深さと呼び、表皮深さは√(1/(πσμf))メートルで表される。ここでσは導体の導電率、μは導体の透磁率、fは高周波信号の信号周波数を表す。
【0017】
ニッケルは金、銀、銅等に比べて透磁率が高いため、表皮深さが浅く、高周波電流が流れる表面導体の断面積が狭くなるので、高周波信号の通過損失が大きい。ニッケルめっき3、金めっき2の上に√(1/(πσμf))メートル以上の厚さの無鉛はんだ1を塗布することで、高周波電流はニッケルめっき3に流れず、表皮効果による高周波電流が流れる断面積が広い無鉛はんだ1を高周波電流が流れ、高周波信号の通過損失が低減される。
【0018】
例えば、高周波信号を12GHzの信号周波数としたときにおいて、表皮効果による金の表皮深さは0.72μmである。銅パターンの表面にめっきで形成された金めっき2の厚みL2は約0.1μm、ニッケルめっき3の厚みL3は約5μmであり、再上層の金めっき2の厚みは金の表皮深さに対して不足しているので、図2に示すように、ほとんどの電流はニッケルめっき3を流れることになる。しなしながら、ニッケルの表皮深さは0.05μmと浅いため、高周波電流が流れる断面積が狭いので、高周波信号の通過損失が大きくなる。
【0019】
錫:96.5%/銀:3%/銅:0.5%を標準組成とする無鉛はんだ1の表皮深さは1.53μmであり、1.53μm以上の厚さL1の無鉛はんだ1を金めっき2の表面に塗布することで、図3に示すように高周波電流は電流が流れる断面積がニッケルめっき3より広い無鉛はんだ1を流れるため、高周波信号の通過損失が低減される。
【0020】
無鉛はんだ1の形成方法について説明する。図4は、この発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図である。無鉛はんだ1の塗布は、はんだ印刷工程(S1)とリフロー工程(S2)で実施される。
【0021】
はんだ印刷工程(S1)において、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4のはんだを塗布したい部分に穴を開けたはんだ印刷マスクを基板上に載置し、この印刷マスクの上からペースト状の無鉛はんだ1を塗ることにより穴の開いた部分の導体パターン4に無鉛はんだ1を印刷する工程である。リフロー工程(S2)において、はんだ印刷工程(S1)において無鉛はんだ1が印刷された高周波回路基板が炉内温度が245℃のリフロー炉内を搬送され、印刷された無鉛はんだ1を溶融させて、無鉛はんだ1を導体パターン4に密着させる。
【0022】
溶融した無鉛はんだの浸漬させるはんだコートでは、250℃の温度で溶融した無鉛はんだに8秒間高周波基板を浸漬させる必要があるが、リフロー工程による無鉛はんだ塗布方法においては、はんだコートより5℃低い245℃の温度で無鉛はんだを溶融させるため、高周波基板の熱変形がはんだコートによる方法に比べて、緩和される。また、リフロー工程においては、高周波回路基板を金属製の固定治具に固定してリフロー炉内を搬送できるため、高周波回路基板の変形を抑止することができる。
【0023】
リフロー工程は、図5に示すように、表面実装部品の端子実装部に無鉛はんだを塗布して、表面実装部品を基板に実装する工程であるため、表面実装部品の実装と同時にマイクロストリップ線路に無鉛はんだが塗布されることにより、生産性を損なわずに無鉛はんだの塗布が実施される効果がある。
【0024】
この発明の実施の形態1では、マイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板について説明したが、コプレーナ線路を用いても良い。
【0025】
実施の形態2.
図6は、通信装置の構成例である。9は通信用アンテナ、10は送受信信号分配/合成器、11は送信用増幅器、12は受信用低雑音増幅器、13は帯域通過フィルタ、14はミキサ、15は電圧制御発信器、16は位相比較器である。
【0026】
この発明の実施の形態2は、送受信信号分配/合成器10と、受信用低雑音増幅器12との間のマイクロストリップ線路にこの発明の実施の形態1に示す処理を施すものである。図7は、この発明の実施の形態2における高周波回路基板の構成図である。17はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いた、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12とを接続する受信用低雑音増幅器の入力部である。
【0027】
この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法について説明する。送受信信号分配/合成器10と、受信用低雑音増幅器12は表面実装部品である。図5は従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図である。
【0028】
図5において、はんだ印刷工程(S11)は、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4に送受信信号分配/合成器10や受信用低雑音増幅器12などの表面実装部品を実装したい部分に穴を開けたはんだ印刷マスクを基板上に載置し、この印刷マスクの上からペースト状の無鉛はんだ1を塗ることにより穴の開いた部分の導体パターン4に無鉛はんだ1を印刷する工程である。
【0029】
部品装着工程(S20)において、塗布された無鉛はんだ1の所定の位置に表面実装部品の端子が載置されるように、表面実装部品を装着する。
【0030】
リフロー工程(S30)において、部品装着工程(S20)において表面実装部品が装着されたプリント配線基板が炉内温度が245℃のリフロー炉内を搬送され、印刷された無鉛はんだ1を溶融させて、表面実装部品の端子を導体パターン4に密着させる。
【0031】
図4で示すこの発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図および図5で示すプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図において、はんだ印刷工程(S11)とはんだ印刷工程(S1)とは基板上に載置した印刷マスク上からペースト状の無鉛はんだを塗布する作業であり、リフロー工程(S30)とリフロー工程(S3)とは印刷された無鉛はんだをリフロー炉内で溶融させる作業であり、それぞれ共に同じ作業である。
【0032】
したがって、はんだ印刷工程(S10)で基板上に載置する印刷マスクに、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4のはんだを塗布したい部分にも穴を開けておくことにより、高周波電子部品の導体パターン4への無鉛はんだ付けと導体パターン4の所定の表面への無鉛はんだ1の塗布が同時に実施されるため、従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程でこの発明の実施の形態2の高周波回路基板が製造され、生産性を損なわない効果がある。
【0033】
すなわち、印刷マスクおいて、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12とが実装される部分および送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けておくことにより、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12の無鉛はんだ付けおよび無鉛はんだが塗布された入力部17が同時に形成される。
【0034】
受信用低雑音増幅器12の入力部17にこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、通過損失が低減され、通信装置の雑音指数が低減される。
【0035】
実施の形態3.
図8は、この発明の実施の形態3における高周波回路基板の構成図である。図8において、図6および図7と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。21はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いた送信用増幅器11と送受信信号分配/合成紀器10とを接続する送信用増幅器の出力部である。
【0036】
この発明の実施の形態3における高周波回路基板の製造方法については、この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法と同じである。なお、印刷マスクは送受信信号分配/合成器10と送信用増幅器11とが実装される部分および送信用増幅器11と送受信信号分配/合成器10との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けている。
【0037】
送信用増幅器11の出力部21に実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、通過損失が低減され、通信装置の飽和出力電力が増加される。
【0038】
実施の形態4.
図9は、実施の形態4における電圧制御発振器回路の構成図である。図9において、図6と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。22はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路で形成された共振器、23は電圧制御発振器の能動素子、24は同調素子、25は共振器22と能動素子23とを接続するこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路で形成された伝送線路である。
【0039】
この発明の実施の形態4における高周波回路基板の製造方法については、この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法と同じである。なお、印刷マスクは能動素子23と同調素子24とが実装される部分および共振器22の導体パターン4の全面と共振器22と能動素子23との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けている。
【0040】
電圧制御発振器23の共振器22の損失が大きいと、系から散逸する電力が大きくなり振動増大係数が低下、位相雑音が劣化してしまうが、電圧制御発振器23の共振器22に実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、共振器22の通過損失が低減し、位相雑音が低下される。
【符号の説明】
【0041】
1 無鉛はんだ 2 金めっき 3 ニッケルめっき
4 導体パターン 5 絶縁体
6 裏面グランドパターン 7 高周波電流が流れる範囲
9 通信用アンテナ 10 送受信信号分配/合成器
11 送信用増幅器 12 受信用低雑音増幅器 13 帯域通過フィルタ
14 ミキサ 15 電圧制御発信器 16 位相比較器
17 入力部
21 出力部
22 共振器
23 能動素子 24 同調素子 25 伝送線路
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波領域で使用する低損失な高周波回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波などの高周波領域で使用される伝送線路はテフロン(登録商標)やガラスエポキシなどの絶縁体で構成された平面基板上に形成され、製造しやすいマイクロストリップ線路が用いられる。マイクロストリップ線路の表面導体には主として銅が使用されるが、銅は酸化、腐食して電気を通さなくなりやすいため銅の表面を保護する必要がある。
【0003】
銅の表面保護としては、錫めっき、金、銀めっきを施す方法があるが、錫めっきは錫が細長い髭状に成長するウィスカーの問題があり、金および銀めっきは銅の拡散による劣化が問題となる。
【0004】
また、銅の表面保護として基板を、溶融したはんだの中に浸漬した後、空気を吹きつけて銅以外の部分に付いた余分なはんだを飛ばすというはんだコートが用いられるが、基板を高温のはんだにくぐらせることによる基板の熱変形が問題となる。昨今は欧州連合(EU)による電気・電子機器における特定有害物質の使用制限の施行などの規制により、鉛を使わない電気・電子回路が必要となりつつあるが、錫、銀、銅を含む無鉛はんだは有鉛はんだよりも融点が高いため、無鉛はんだコートは基板の熱変形がさらに発生しやすくなる。
【0005】
このため、特許文献1に示すように無鉛の高周波回路基板の銅の表面保護には、ニッケルめっきを施した後に金めっきを施す方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-318611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金めっきの厚みは約0.1μmと薄く、電流は主にニッケルめっきを流れることになる。高周波では表皮効果により電流は導体の表面へ集中するが、ニッケルは錫、銅等に比べて表皮深さが浅いため電流が流れる部分が薄いため抵抗が増加し、通過損失が増加してしまう。
【0008】
このため、特許文献1に示す構成のマイクロストリップ線路基板を用いた通信装置において、送信系の増幅器は出力後のマイクロストリップ線路の通過損失の増加により、飽和出力電力が低下してしまう。また、受信系の低雑音増幅器は入力部のマイクロストリップ線路の通過損失の増加により雑音指数が劣化してしまう。さらに、マイクロストリップ線路を共振器とする電圧制御発振器においては、マイクロストリップ線路の通過損失の増加により振動増大係数が低下し、位相雑音が劣化してしまう。
【0009】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路などの高周波伝送線路の通過損失が低減され、かつ生産性にすぐれた高周波回路基板を得ることを目的とする。さらには、このマイクロストリップ線路を用いた、増幅器を低雑音化、高飽和出力化し、電圧可変発振器を低位相雑音化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る高周波回路基板は、絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施することにより、マイクロストリップ線路の通過損失が低減され、また増幅器が低雑音化、高飽和出力化され、電圧可変発振器が低位相雑音化される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板の斜視図である。
【図2】従来例のマイクロストリップ線路の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図である。
【図5】従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図である。
【図6】通信装置の構成例である。
【図7】この発明の実施の形態2における高周波回路基板の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3における高周波回路基板の構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4における電圧制御発振器回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板の斜視図である。図1において、1は無鉛はんだ、2は金めっき、3はニッケルめっき、4は銅素地および銅めっきが施された導体パターン、5はテフロン(登録商標)やガラスエポキシなどの絶縁体、6は裏面グランドパターンである。
【0014】
図2は、従来例のマイクロストリップ線路の断面図である。図2において、図1と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。図2において、7は高周波電流の伝送域である。
【0015】
図3は、この発明の実施の形態1におけるマイクロストリップ線路の断面図である。図3において、図1および図2と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
高周波信号は高周波回路基板の表面に形成されたマイクロストリップ線路の表面導体を高周波電流として伝送し、この高周波電流が表面導体を流れるとき、表面導体の断面において、高周波電流の電流密度は表面導体の表面で大きく、表面から離れると小さくなる現象がある。この現象を表皮効果と呼ぶ。電流が表面の電流の1/e(約0.37)倍となる表面導体の断面方向の深さを表皮深さと呼び、表皮深さは√(1/(πσμf))メートルで表される。ここでσは導体の導電率、μは導体の透磁率、fは高周波信号の信号周波数を表す。
【0017】
ニッケルは金、銀、銅等に比べて透磁率が高いため、表皮深さが浅く、高周波電流が流れる表面導体の断面積が狭くなるので、高周波信号の通過損失が大きい。ニッケルめっき3、金めっき2の上に√(1/(πσμf))メートル以上の厚さの無鉛はんだ1を塗布することで、高周波電流はニッケルめっき3に流れず、表皮効果による高周波電流が流れる断面積が広い無鉛はんだ1を高周波電流が流れ、高周波信号の通過損失が低減される。
【0018】
例えば、高周波信号を12GHzの信号周波数としたときにおいて、表皮効果による金の表皮深さは0.72μmである。銅パターンの表面にめっきで形成された金めっき2の厚みL2は約0.1μm、ニッケルめっき3の厚みL3は約5μmであり、再上層の金めっき2の厚みは金の表皮深さに対して不足しているので、図2に示すように、ほとんどの電流はニッケルめっき3を流れることになる。しなしながら、ニッケルの表皮深さは0.05μmと浅いため、高周波電流が流れる断面積が狭いので、高周波信号の通過損失が大きくなる。
【0019】
錫:96.5%/銀:3%/銅:0.5%を標準組成とする無鉛はんだ1の表皮深さは1.53μmであり、1.53μm以上の厚さL1の無鉛はんだ1を金めっき2の表面に塗布することで、図3に示すように高周波電流は電流が流れる断面積がニッケルめっき3より広い無鉛はんだ1を流れるため、高周波信号の通過損失が低減される。
【0020】
無鉛はんだ1の形成方法について説明する。図4は、この発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図である。無鉛はんだ1の塗布は、はんだ印刷工程(S1)とリフロー工程(S2)で実施される。
【0021】
はんだ印刷工程(S1)において、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4のはんだを塗布したい部分に穴を開けたはんだ印刷マスクを基板上に載置し、この印刷マスクの上からペースト状の無鉛はんだ1を塗ることにより穴の開いた部分の導体パターン4に無鉛はんだ1を印刷する工程である。リフロー工程(S2)において、はんだ印刷工程(S1)において無鉛はんだ1が印刷された高周波回路基板が炉内温度が245℃のリフロー炉内を搬送され、印刷された無鉛はんだ1を溶融させて、無鉛はんだ1を導体パターン4に密着させる。
【0022】
溶融した無鉛はんだの浸漬させるはんだコートでは、250℃の温度で溶融した無鉛はんだに8秒間高周波基板を浸漬させる必要があるが、リフロー工程による無鉛はんだ塗布方法においては、はんだコートより5℃低い245℃の温度で無鉛はんだを溶融させるため、高周波基板の熱変形がはんだコートによる方法に比べて、緩和される。また、リフロー工程においては、高周波回路基板を金属製の固定治具に固定してリフロー炉内を搬送できるため、高周波回路基板の変形を抑止することができる。
【0023】
リフロー工程は、図5に示すように、表面実装部品の端子実装部に無鉛はんだを塗布して、表面実装部品を基板に実装する工程であるため、表面実装部品の実装と同時にマイクロストリップ線路に無鉛はんだが塗布されることにより、生産性を損なわずに無鉛はんだの塗布が実施される効果がある。
【0024】
この発明の実施の形態1では、マイクロストリップ線路を用いた高周波回路基板について説明したが、コプレーナ線路を用いても良い。
【0025】
実施の形態2.
図6は、通信装置の構成例である。9は通信用アンテナ、10は送受信信号分配/合成器、11は送信用増幅器、12は受信用低雑音増幅器、13は帯域通過フィルタ、14はミキサ、15は電圧制御発信器、16は位相比較器である。
【0026】
この発明の実施の形態2は、送受信信号分配/合成器10と、受信用低雑音増幅器12との間のマイクロストリップ線路にこの発明の実施の形態1に示す処理を施すものである。図7は、この発明の実施の形態2における高周波回路基板の構成図である。17はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いた、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12とを接続する受信用低雑音増幅器の入力部である。
【0027】
この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法について説明する。送受信信号分配/合成器10と、受信用低雑音増幅器12は表面実装部品である。図5は従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図である。
【0028】
図5において、はんだ印刷工程(S11)は、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4に送受信信号分配/合成器10や受信用低雑音増幅器12などの表面実装部品を実装したい部分に穴を開けたはんだ印刷マスクを基板上に載置し、この印刷マスクの上からペースト状の無鉛はんだ1を塗ることにより穴の開いた部分の導体パターン4に無鉛はんだ1を印刷する工程である。
【0029】
部品装着工程(S20)において、塗布された無鉛はんだ1の所定の位置に表面実装部品の端子が載置されるように、表面実装部品を装着する。
【0030】
リフロー工程(S30)において、部品装着工程(S20)において表面実装部品が装着されたプリント配線基板が炉内温度が245℃のリフロー炉内を搬送され、印刷された無鉛はんだ1を溶融させて、表面実装部品の端子を導体パターン4に密着させる。
【0031】
図4で示すこの発明の実施の形態1における高周波回路基板の無鉛はんだの塗布工程図および図5で示すプリント配線基板の製造工程・部品実装工程図において、はんだ印刷工程(S11)とはんだ印刷工程(S1)とは基板上に載置した印刷マスク上からペースト状の無鉛はんだを塗布する作業であり、リフロー工程(S30)とリフロー工程(S3)とは印刷された無鉛はんだをリフロー炉内で溶融させる作業であり、それぞれ共に同じ作業である。
【0032】
したがって、はんだ印刷工程(S10)で基板上に載置する印刷マスクに、ニッケルめっき3および金メッキ2が施された導体パターン4のはんだを塗布したい部分にも穴を開けておくことにより、高周波電子部品の導体パターン4への無鉛はんだ付けと導体パターン4の所定の表面への無鉛はんだ1の塗布が同時に実施されるため、従来のプリント配線基板の製造工程・部品実装工程でこの発明の実施の形態2の高周波回路基板が製造され、生産性を損なわない効果がある。
【0033】
すなわち、印刷マスクおいて、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12とが実装される部分および送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けておくことにより、送受信信号分配/合成器10と受信用低雑音増幅器12の無鉛はんだ付けおよび無鉛はんだが塗布された入力部17が同時に形成される。
【0034】
受信用低雑音増幅器12の入力部17にこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、通過損失が低減され、通信装置の雑音指数が低減される。
【0035】
実施の形態3.
図8は、この発明の実施の形態3における高周波回路基板の構成図である。図8において、図6および図7と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。21はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いた送信用増幅器11と送受信信号分配/合成紀器10とを接続する送信用増幅器の出力部である。
【0036】
この発明の実施の形態3における高周波回路基板の製造方法については、この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法と同じである。なお、印刷マスクは送受信信号分配/合成器10と送信用増幅器11とが実装される部分および送信用増幅器11と送受信信号分配/合成器10との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けている。
【0037】
送信用増幅器11の出力部21に実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、通過損失が低減され、通信装置の飽和出力電力が増加される。
【0038】
実施の形態4.
図9は、実施の形態4における電圧制御発振器回路の構成図である。図9において、図6と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。22はこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路で形成された共振器、23は電圧制御発振器の能動素子、24は同調素子、25は共振器22と能動素子23とを接続するこの発明の実施の形態1に示すマイクロストリップ線路で形成された伝送線路である。
【0039】
この発明の実施の形態4における高周波回路基板の製造方法については、この発明の実施の形態2の高周波回路基板の製造方法と同じである。なお、印刷マスクは能動素子23と同調素子24とが実装される部分および共振器22の導体パターン4の全面と共振器22と能動素子23との間の導体パターン4の全面の部分に穴を開けている。
【0040】
電圧制御発振器23の共振器22の損失が大きいと、系から散逸する電力が大きくなり振動増大係数が低下、位相雑音が劣化してしまうが、電圧制御発振器23の共振器22に実施の形態1に示すマイクロストリップ線路を用いることにより、共振器22の通過損失が低減し、位相雑音が低下される。
【符号の説明】
【0041】
1 無鉛はんだ 2 金めっき 3 ニッケルめっき
4 導体パターン 5 絶縁体
6 裏面グランドパターン 7 高周波電流が流れる範囲
9 通信用アンテナ 10 送受信信号分配/合成器
11 送信用増幅器 12 受信用低雑音増幅器 13 帯域通過フィルタ
14 ミキサ 15 電圧制御発信器 16 位相比較器
17 入力部
21 出力部
22 共振器
23 能動素子 24 同調素子 25 伝送線路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えた高周波回路基板。
【請求項2】
絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面に電気的接続手段で端子が接続された高周波電子部品と、この高周波電子部品の端子が接続された前記伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えた高周波回路基板。
【請求項3】
前記はんだは、組成が錫:96.5%/銀:3%/銅:0.5%の無鉛はんだで形成されている請求項1または請求項2に記載の高周波回路基板。
【請求項1】
絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えた高周波回路基板。
【請求項2】
絶縁体基板の表面に金属導体で形成された伝送線路と、この伝送線路の表面に電気的接続手段で端子が接続された高周波電子部品と、この高周波電子部品の端子が接続された前記伝送線路の表面にリフローはんだで形成されたはんだ層とを備えた高周波回路基板。
【請求項3】
前記はんだは、組成が錫:96.5%/銀:3%/銅:0.5%の無鉛はんだで形成されている請求項1または請求項2に記載の高周波回路基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−114696(P2012−114696A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262327(P2010−262327)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(394025094)三菱電機特機システム株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(394025094)三菱電機特機システム株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
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