説明

高周波発振形近接センサ

【課題】金属製の外装に収容しても検出対象物(鉄およびアルミ)に対して実用的な検出距離を有する近接センサを提供する。
【解決手段】検出用コイル10とコンデンサ6と非線形増幅器12とを含む発振回路5を有し、導電性を有する検出対象物7の近接に伴って生じる検出用コイル10のQ値の変化によって検出対象物7の有無または/および距離を検出する近接センサ4において、比透磁率が実質的に1であり、かつ、20℃での体積抵抗率が45×10-8(Ω・m)以上の金属からなるステンレスカバー1が検出用コイル10と検出対象物7との間に配置されており、検出対象物7が検出用コイル10に近接したときに、検出対象物7が強磁性体の場合には検出対象物7が無いときよりもQ値が減少し、検出対象物7が非磁性体の場合には検出対象物7が無いときよりもQ値が増加するように発振回路5の発振周波数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波発振形近接センサに関する。
【背景技術】
【0002】
検出対象物の有無(接近)を非接触で検出する近接センサとして、検出用コイルとコンデンサとを含んで構成される電気的な発振回路(以下では発振回路ともいう)を備えるものが知られている。一般に、光学的な近接センサと区別するために、高周波発振形近接スイッチまたは高周波発振形近接センサと呼ばれる。この種の高周波発振形近接センサ(以下、単に近接センサという)においては、検出用コイルに導電性を有する検出対象物(例えば金属)が接近すると、電磁誘導作用によりこの検出用コイルのQ値(Quality factorともいう。Q値が高いほど損失が小さい)が変化する。近接センサは、この変化に伴って発振回路の発振周波数や振幅が変化することを利用して検出対象物の存在または接近を検出する。
【0003】
ここで、Q値とは検出用コイルの自己インダクタンスをLとし、内部抵抗をRとし、この検出用コイルと共振用のコンデンサとにより形成されるLC発振回路における共振角周波数をωとしたとき、近似的に「Q=ωL/R」として与えられるものである。
【0004】
このような原理の近接センサでは、Q値をより大きく変化させる検出対象物であればあるほど検出距離を長くとることができる。例えば、鉄は、検出用コイルに接近するのに伴って渦電流損が発生し易い。このため、鉄側に発生した渦電流損によって検出用コイルの内部抵抗Rも大きくなり、Q値を大きく低下させる。よって、鉄が検出対象物であると検出距離を長くとることができる。例えば、M18(直径18mmの円筒形)と呼ばれる大きさの近接センサを用いて鉄を検出する場合には、その検出距離を7〜8mmとすることができる。これに対し、渦電流損が発生し難いアルミニウム(以下、単にアルミという)では、同じ直径18mmの近接センサを用いても検出距離は3mmほどである。
【0005】
図10は、検出対象物が磁性体(代表的には鉄)の場合と非磁性体(代表的にはアルミ)の場合とで検出対象物の位置の変化に伴う検出用コイルにおけるQ値の変化を示す図である。図10は、横軸に接近距離をとり、縦軸にQ値をとる。図10における実線の四角のプロットは鉄の場合であり、破線の菱形のプロットはアルミの場合である。また、発振回路の発振周波数は10KHzとしている。図10からわかるように、検出対象物が鉄の場合には、接近距離が7mmよりも短くなったときに、Q値の低下が見られるのに対し、検出対象物がアルミの場合には、接近距離が3mmよりも短くなったところでないと、Q値の低下は見られない。すなわち、鉄の場合は、検出距離は7mmで、アルミの場合は、検出距離は3mmとなる。このように、検出対象物として、鉄よりもアルミの検出距離が短いという問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献1には、磁性体および非磁性体の検出対象物のいずれに対しても同じ感度を有する、いわゆるオール・メタル形の近接センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−29415
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
劣悪な環境下で使用される近接センサには機械的または化学的な耐久性が要求されるため、機械的強度および耐食性に優れた非磁性金属(例えばオーステナイト系ステンレス鋼)からなる外装が必要とされる。しかしながら、一般的な高周波発振形近接センサにオーステナイト系ステンレス鋼の外装を用いると、その最大検出距離は、検出対象物が鉄であっても5mm程度に低下し、検出対象物がアルミだと実用にならない程にまで低下してしまう。また、特許文献1に開示されたオール・メタル形の近接センサを上記金属製の外装に収容すると(すなわち検出用コイルと検出対象物との間に上記金属が存在すると)、その最大検出距離は、実用にならない程にまで低下してしまう。
【0009】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、上記金属製の外装に収容しても検出対象物としての鉄およびアルミに対して実用的な検出距離を有する近接センサを提供することを目的とする。
【0010】
なお、本明細書では、説明をわかりやすくするために、検出対象物の材質として鉄とアルミを代表例に用いて説明を行うが、電気的あるいは磁気的な性質が鉄(強磁性・導電性)やアルミ(非磁性・導電性)に類似した物質であれば、それらの類似物質にも本発明の近接センサを適用することができる。よって、本明細書の説明内容により本発明の適用対象が鉄およびアルミに限定されるものではない。例えば、強磁性かつ導電性を有する物質としてはニッケル、コバルト、これらを含む合金、これらの金属粉末を合成樹脂中に分散させた複合材料等が挙げられる。また、非磁性かつ導電性を有する物質としては金、銀、銅などの非磁性金属、これらを含む合金、これらの金属粉末を合成樹脂中に分散させた複合材料等が挙げられる。これらの検出対象物は全て本発明の適用対象である。なお、本明細書では、強磁性体以外を非磁性体と呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高周波発振形近接センサは、少なくともコイルとコンデンサ(キャパシタともいう)と増幅器とを含む発振回路を有し、導電性を有する検出対象物の近接に伴って生じるコイルのQ値の変化によって検出対象物の有無または/および距離を検出する高周波発振型近接センサにおいて、比透磁率は実質的に1であり、かつ、20℃での体積抵抗率が45×10-8(Ω・m)以上の金属からなる部材がコイルと検出対象物の間に配置されており、検出対象物がコイルに近接したときに、検出対象物が強磁性体の場合には検出対象物が無いときよりもQ値が減少し、検出対象物が非磁性体の場合には検出対象物が無いときよりもQ値が増加するように発振回路の発振周波数が設定されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、上述した部材は、非磁性のステンレス鋼製であることを特徴とする。
【0013】
さらに、増幅器は入力電圧の絶対値の増加に伴い出力の増幅利得が減少する非線形の入出力電圧特性を有し、発振回路に上記Q値の変化に応じて発振振幅を変化させる軟発振特性を付与することを特徴とする。
【0014】
さらに、コイルの一端を共通接続して縒り合わせた2本のコイル導体からなり、その一方を発振回路を構成する発振回路用コイルとするとともに、他方を銅抵抗補償用コイルとした2糸コイルと、2糸コイルのインダクタンスとその誘導性の内部抵抗との直列回路と、この直列回路の一端にそれぞれ接続される発振回路用コイル及び銅抵抗補償用コイルの各銅抵抗として示される2糸コイルの等価回路における各銅抵抗と直列回路との接続点を仮想接地する銅抵抗補償回路とを具備したことを特徴とする。
【0015】
さらに、発振回路の発振振幅に応じた振幅信号を出力する振幅検出手段(例えば、バッファおよび平滑化コンデンサ)と、振幅信号と予め設定された閾値とを比較してその結果を出力する比較手段(例えば、ウィンドウ・コンパレータ)と、を備えることを特徴とする。
【0016】
さらに、比較手段は検出対象物が無いときの振幅信号よりも高い値に設定された第一の閾値と検出対象物が無いときの振幅信号よりも低い値に設定された第2の閾値とを有することを特徴とする。
【0017】
さらに、比較手段は、ウインドウ・コンパレータによって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上述したような金属製の外装に収容しても検出対象物としての強磁性体および非磁性体に対して実用的な検出距離を有する近接センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る近接センサの内部構成の概念図である。
【図2】図1に示す近接センサのセンサ本体にステンレスカバーを装着する様子を示す図である。
【図3】図1に示す近接センサのセンサ本体にステンレスカバーを装着した状態を示す図である。
【図4】図1に示す近接センサの外観図である。
【図5】図1に示す近接センサにおける検出対象物の接近距離とQ値との関係を示す図である。
【図6】図1に示す近接センサにおいて基準点と検出対象物との間の距離を5mmに設定したときのQ比と発振周波数との関係を示す図である。
【図7】図1に示す近接センサの発振回路の要部概略構成図である。
【図8】図1、図7に示す非線形増幅器の非線形の入出力特性を示す図である。
【図9】図1に示す近接センサにおけるコイルの等価回路を示す図である。
【図10】従来の近接センサを用いたときの検出対象物が鉄の場合とアルミの場合とで検出用コイルにおけるQ値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態における近接センサ4を図1から図7を参照して説明する。図1は、近接センサ4の内部構成の概念図である。図2および図3は、近接センサ4の主要構成部となる非磁性体からなるカバー(以下、ステンレスカバーあるいは単にカバーということもある)1と近接センサ本体2との関係を示す図である。このカバー1は、その物理的な特性として、比透磁率が実質的に1であり、かつ、20℃において45×10-8(Ω・m)以上の体積抵抗率を有することが望ましい。この条件を満たす材質であれば本発明に適用することが可能であるが、機械的強度や入手・加工の容易性を考慮すると、オーステナイト系ステンレス鋼が最も実用に適している。図2は、センサ本体2にステンレスカバー1を装着する様子を示す図である。図3は、センサ本体2にステンレスカバー1を装着した状態を示す図である。図4は、近接センサ4の外観図である。図5は、検出対象物7の接近距離とQ値との関係を示す図であり、横軸に接近距離をとり、縦軸にQ値をとる。なお、図5は発振回路(共振回路)5の発振周波数が20KHzの場合の例で、実線の四角は鉄を示し、破線の菱形はアルミを示す。
【0021】
本発明の実施の形態に係る近接センサ4は、図1に示すように、コイル10とコンデンサ6とを含んで構成される発振回路5を備えている。そして、近接センサ4は、導電性を有する検出対象物7の存在または接近によるコイル10のQ値の変化に基づいて検出対象物7の存在または接近を検出する。磁気的な特性を最適化するために、コイル10は軟磁性フェライトなどの高透磁率材料からなるコア(図示せず)に収容されることが多い。また、使用目的によっては、近接センサ4は、検出対象物7と近接センサ4上の基準点Pとの間の距離を検出する。ここで、基準点Pとは、例えば、図1や図4に示すように、ステンレスカバー1の検出対象物と向き合う面上の点である。
【0022】
ここで、この近接センサ4は、図2〜図4に示すように、センサ本体2(コイル10を含むボビン、発振回路5および検出部8等の電気回路を形成するプリント配線基板など)の筐体としてステンレス製部材であるステンレスカバー1を有するので、筐体の少なくとも検出対象物7が接近してくる部分にステンレス製部材であるステンレスカバー1が配置されることになる。このステンレスカバー1と検出用コイル10との間の距離m(図1参照)は、コイル10のQ値が、ステンレスカバー1が無い場合と比較して低下する距離に設定される。このコイルのQ値の低下はステンレスカバー1に生じる電磁誘導の影響によるものである。この距離mは、通常、数ミリメートル以下となるように設定される。ステンレスカバー1の外周には雄ネジが形成されており、これに適合した雌ネジを有する取付ナット3で取付対象物に取り付けられる。また、これはオプション(選択可能な構成要素)になるが、後述のように近接センサ4が軟発振特性を有する場合には、図1に示すように、コイル10を含んで構成される発振回路5の発振振幅を観察するためにウィンドウ・コンパレータ9を備える。このウィンドウ・コンパレータ9は複数の閾値を持ち、これらの閾値と入力値(具体的には発振回路5の発振振幅を表す電圧値)との大小関係を判定して、それぞれ出力する機能を有する。
【0023】
上述した近接センサ4は、ステンレスカバー1の作用によりコイル10のQ値が低いものとなる。このようにコイル10のQ値を低くした状態において、アルミである検出対象物7がコイル10に接近すると、コイル10の磁束の配列が変化し、結果的にステンレスカバー1による損失が減少して図5に示すようにQ値が上昇する。このような現象は、発明者による度重なる実験によって確認されている。なお、鉄である検出対象物7がコイル10に接近するとQ値が下がることは従来と同様である。発振回路5の発振振幅はQ値に応じた電圧として観測される。
【0024】
ただし、発振回路5の発振周波数には、上記の判定に適さない周波数領域も存在する。図6は、外径18mmの円柱状の近接センサにおいて、基準点Pと検出対象物7との間の距離を5mmに設定したときのQ比と発振回路5の発振周波数との関係を示す図である。図6は、横軸に発振回路5の発振周波数をとり、縦軸にQ比をとる。なお、Q比とは、検出対象物7を近接センサ4に接近させたときのQ値をQinとし、検出対象物がないときのQ値をQoutとしたときの両者の比であり、Q比=Qin/Qoutとして表した値である。Q比は、「%」の単位で示している。
【0025】
図6によれば、例えば発振周波数が10kHzのとき、アルミ製の検出対象物7が基準点Pから5mmの位置に存在するにもかかわらずQ比は100%となり(すなわち検出対象物7が無いときのQ値と同じとなり)、アルミ製の検出対象物7を検出できない。アルミ検出として好まれるのはQ比が「100」から離れた領域であり、図6からは15kHz〜40kHzで、さらに好ましいのは20kHz〜35kHzと言える。一方、鉄製の検出対象物7の検出に好ましいのはQ比が100%を下回る5kHz〜35kHzであり、さらに好ましいのは7kHz〜20kHzである。したがって、図6の例において、アルミ製の検出対象物7および鉄製の検出対象物7の両方を検出するためには、発振回路5の共振周波数を20kHz近傍に設定することが好ましい。当然ながら、発振回路5の共振周波数は、発振回路5を構成するコイル、コンデンサおよび抵抗の各電気的特性値(L、C)を調節することで任意に設定できる。
【0026】
図6に示すように、Q比の状態は、検出対象物7がアルミである場合と鉄である場合とでは変化の傾向が逆になることがわかる。このことは、図5からも推測できるがQ比の状態を観測することにより一層明らかである。また、図5によれば、横軸の接近距離が8mmよりも短くなったところから鉄とアルミとで変化の傾向に差が現れていることがわかる。
【0027】
ところで、通常のLCR型発振回路は、Q値のわずかな変化に応じて発振が生起または停止するという、いわゆる硬発振特性を有している。すなわち、実質的に発振および停止のいずれかの状態しか採り得ない。そのため、上述のように一つの近接センサでアルミ製の検出対象物7および鉄製の検出対象物7の両方を検出できるように構成しても、アルミ検出専用の設定(通常は停止しておりアルミが接近すると発振を開始する)か、鉄専用の設定(通常は発振しており鉄が接近すると発振が停止する)か、のいずれかにしか用いることができない。そこで、ひとつの近接センサにおいてアルミおよび鉄の両用の設定を可能にしたいという新たな課題が生じる。この課題を解決するために、発振回路5に発振振幅が徐々に変化する特性(いわゆる軟発振特性)を付与する必要がある。
【0028】
検出対象物7の検出用コイル10への接近距離に応じて発振振幅がアナログ的に変化する軟発振回路を構成した場合、発振振幅の変化は図5のQ値に似た曲線を描くので、図5のグラフの縦軸である「Q値」を「発振振幅」と読み代えて考える。すなわち、コイルのQ値の増減に伴って発振回路5の発振振幅も増減する。
【0029】
従って、検出対象物7のコイル10への接近距離に応じて発振振幅がアナログ的に変化する軟発振を用い、そのQ値の変化の傾向を調べることにより、鉄であってもアルミであってもひとつの近接センサ4により検出可能となる。さらに軟発振を用いた場合には、発振振幅の遷移の方向を調べることにより、検出された検出対象物7が鉄であるかアルミであるかを判別することもできる。具体的には、発振回路5の振幅信号を前述のウィンドウ・コンパレータ9へ入力して二つの閾値と比較し、入力電圧が上側の閾値を上回った場合にアルミ製の検出対象物7が接近したものと判定する。また、入力電圧が下側の閾値を下回った場合に鉄製の検出対象物7が接近したものと判定する。入力電圧が二つの閾値の間にあるときは、いずれの検出対象物7も接近していないものと判定する。
【0030】
ところで、このような高周波発振型近接センサには、一般的にその検出特性が安定であることのみならず、その検出距離を十分に長く設定し得ること等が要求される。特開2003―298403に開示された構成によれば、検出用コイルの銅抵抗成分を仮想的に短絡して検出用コイルのQ値およびQ比を改善し、検出感度の向上を図ることができると共に、銅抵抗に起因する温度依存性を除去することができる。また、反転増幅器を用いた簡単な構成で銅抵抗を仮想的に短絡することができる。そこで、このような構成を適用して、検出距離のいっそうの長距離化を図ることが可能である。
【0031】
このような原理に基づき鉄であってもアルミであっても検出可能な近接センサ4の発振回路5の具体的な実施の形態を図7〜図9を参照して説明する。図7は、この実施の形態に係る近接センサ4の発振回路5の要部概略構成図である。この近接センサ4の発振回路5は、例えば一端(図9のT1)を共通に接続した2本の高周波リッツ線を互いに縒り合わせた2糸コイル(10−1、10−2)を樹脂製のボビンに巻装し、このボビンにフェライトコアを挿入して形成されたコイル10を備えたものである。そのコイル10は、並列に接続されたコンデンサ15との間でLC並列共振器を形成している。すなわち、コンデンサ15の一端は共通端子T1に接続され、他端は後述の反転増幅器13の非反転入力端子と共に接地されている。このような2糸で形成されたコイル10のうち銅抵抗補償用コイル10−2の他端(図9のT3)は反転増幅器13の反転入力端子に接続され、発振回路用コイル10−1の他端(図9のT2)は反転増幅器13の出力端子に接続されて銅抵抗補償回路を形成している。すなわち、反転増幅器13は、銅抵抗補償用コイル10−2 の他端に生じる電圧を反転増幅し、その出力を発振回路用コイル10−1の他端に負帰還することで、2糸コイル10の銅抵抗を打ち消すように作用する。
【0032】
このような銅抵抗補償回路は、基本的には図9(A) に示すように2糸で構成されたコイル10のインダクタンスL(=L1=L2)とその誘導性の内部抵抗Riとの直列回路およびこの直列回路の一端T1にそれぞれ接続される発振回路用コイル10−1および銅抵抗補償用コイル10−2の各銅抵抗をRcuとした場合に、図9(B)に示す等価回路として表すことができる。銅抵抗補償回路は、この等価回路における各銅抵抗Rcuと直列回路との接続点Dを仮想接地する役割を担う。そして接続点Dの仮想接地により銅抵抗Rcuの存在自体を打ち消すことで、発振回路5における銅抵抗Rcuに起因する検出特性の不安定化を防止するものである。
【0033】
なお、コイル10を形成する導線の材質として専ら銅が使用されることから、その電気的性質を「銅抵抗」と称するが、導線の材質として他の金属材料を用いた場合も原理上の差異は無いので、本発明の技術的思想に含まれることは言うまでもない。
【0034】
また、非線形増幅器12は、コイル10に接続されてコイル10を発振駆動する発振回路を構成する。例えば、図8に示すように、その入力電圧Vinの絶対値が増すと、それに応じて増幅利得が減少する非線形の出力Voutを示すものとなっている。このような非線形増幅器の回路構成は公知なので詳述しない(例えば特開2002−374155を参照のこと)。図8では入力Vin1およびVin2を境界値として増幅利得が変化するが、境界値の数をさらに増して入出力特性を曲線に近いものとしても良い。非線形増幅器12は、さらに、コイル10のQ値の変化に応じてコイル10に生起される発振振幅を変化させる役割を担う。この非線形増幅器12は、基本的にはコイル10に生起された電圧を入力して増幅し、その増幅出力電圧を抵抗器14を介して電流変換してコイル10に出力することで、入力電圧に応じて電流を吐き出すという負性抵抗のような働きを呈する。この働きにより、非線形増幅器12は、コイル10を発振駆動する。発振振幅が大きくなると増幅利得が減少することから、コイルのQ値の変化に対する発振振幅の急激な変化が抑制され、いわゆる軟発振特性を得ることができる。
【0035】
なお、本発明の実施の形態においては、発振回路用コイル10−1のQ値を低下させるためにステンレスカバー1を用いた。これは発振回路用コイル10−1における磁束の配列の変化が必須要件である。よって、単に発振回路5の諸元の設定によってQ値が低い状態を作り出しても上述した原理は成立しない。
【0036】
また、センサ本体2を保護する目的で、既にステンレスカバー1が被覆された近接センサが実用化されている。これにより、既存のステンレスカバーを備えた近接センサを本実施の形態の近接センサ4に改造することは容易である。
【0037】
また、発振回路用コイル10−1のQ値を低下させることができれば、カバーは必ずしもステンレス製でなくてよい。よって、近接センサ4のカバーをステンレス製のカバーに限定するものではない。ただし、比透磁率が実質的に1であり、かつ、20℃の体積抵抗率が45×10-8(Ω・m)以上の金属を用いる必要がある。
【0038】
以上の実施の形態では、銅抵抗補償回路付きのコイル10を用いる例を説明した。これにより、所望する検出距離(7〜8mm)を鉄とアルミの両者に対して確保することができる。しかしながら、鉄およびアルミの双方を検出可能な近接センサを実現する上で、銅抵抗補償回路は必須ではない。このため、本発明の適用範囲を銅抵抗補償回路付きのコイル10を有する近接センサに限定するものではない。
【0039】
なお、図5に示したデータは、発振回路5における発振周波数を20kHzとした場合のデータである。このように、発振回路5の発振周波数は、20kHzという比較的低い周波数である。このような状況下では、検出対象物7のコイル10への接近に伴い変化する交流性の抵抗よりも銅抵抗の方が支配的となる。このため、銅抵抗補償回路の有効性は高い。
【0040】
以上、本発明の実施の形態およびその変形例を説明したが、本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、様々に変更できる。例えば、比誘電率が実質的に1であり、20℃での体積抵抗率が45×10-8(Ω・m)以上のものとして、ステンレスを示したが、ステンレスの場合は、ほとんどのものがこの値を満足する。例えば、SUS410はこの値を満足する(62×10-8(Ω・m))。また、SUS303も満足する。ステンレス以外には、マンガン、ニクロム、チタンがこの値を満足する。20℃での体積抵抗率が20×10-8(Ω・m)未満であると、検出用コイル10−1に近づけてもQ値の低下は僅かであり、上述した現象を利用するには困難を伴う。好ましいのは45×10-8(Ω・m)以上であり、さらに好ましいのはSUS303(20℃での値が72×10-8(Ω・m))の値以上である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、コイルのQ値の変化によって検出対象物の有無または/および距離を検出する全ての近接センサに利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…ステンレスカバー(部材)、2…センサ本体、3…取付ナット、4…近接センサ、5…発振回路、6…コンデンサ、7…検出対象物、8…検出部、9…ウィンドウ・コンパレータ(共振周波数の変化を検出する手段)、10…コイル、10−1…発振回路用コイル、10−2…銅抵抗補償用コイル、11…バッファ、12…非線形増幅器、13…反転増幅器、14…抵抗器、15…コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコイルとコンデンサと増幅器とを含む発振回路を有し、導電性を有する検出対象物の近接に伴って生じる上記コイルのQ値の変化によって上記検出対象物の有無または/および距離を検出する高周波発振形近接センサにおいて、
比透磁率が実質的に1であり、かつ、20℃での体積抵抗率が45×10-8(Ω・m)以上の金属からなる部材が上記コイルと上記検出対象物との間に配置されており、
上記検出対象物が上記コイルに近接したときに、上記検出対象物が強磁性体の場合には上記検出対象物が無いときよりも上記Q値が減少し、上記検出対象物が非磁性体の場合には上記検出対象物が無いときよりも上記Q値が増加するように上記発振回路の発振周波数が設定されている、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項2】
請求項1記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記部材は、非磁性のステンレス鋼製である、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記増幅器は入力電圧の絶対値の増加に伴い出力の増幅利得が減少する非線形の入出力電圧特性を有し、前記発振回路に前記Q値の変化に応じて発振振幅を変化させる軟発振特性を付与する、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記コイルの一端を共通接続して縒り合わせた2本のコイル導体からなり、その一方を前記発振回路を構成する発振回路用コイルとすると共に、他方を銅抵抗補償用コイルとした2糸コイルと、
上記2糸コイルのインダクタンスとその誘導性の内部抵抗との直列回路と、この直列回路の一端にそれぞれ接続される上記発振回路用コイルおよび上記銅抵抗補償用コイルの各銅抵抗として示される上記2糸コイルの等価回路における前記各銅抵抗と上記直列回路との接続点を仮想接地する銅抵抗補償回路とを具備する、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記発振回路の発振振幅に応じた振幅信号を出力する振幅検出手段と、
上記振幅信号と予め設定された閾値とを比較してその結果を出力する比較手段と、
を備える、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項6】
請求項5記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記比較手段は、前記検出対象物が無いときの振幅信号よりも高い値に設定された第1の閾値と前記検出対象物が無いときの振幅信号よりも低い値に設定された第2の閾値とを有する、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。
【請求項7】
請求項6記載の高周波発振形近接センサにおいて、
前記比較手段は、ウィンドウ・コンパレータによって構成されている、
ことを特徴とする高周波発振形近接センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−164472(P2010−164472A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7740(P2009−7740)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】