説明

高周波電源装置

【課題】 所望の進行波電力が出力できる領域を広げるために、直流電源電圧Vdcを小さくすると、増幅素子が自己発振してしまうことがあり、高周波増幅部23の制御が不安定な状態になってしまう。
【解決手段】 高周波電力出力部20に直流電力を供給する直流電力出力部10を、出力電圧設定部11、直流電源制御部12、直流電源部13、直流検出部14、反射係数演算部15、損失演算部16、目標最低損失設定部17、および電圧補正部18によって構成する。目標最低損失設定部17は、反射係数と最低損失との対応関係が記憶されているとともに、反射係数演算部15によって演算された反射係数に対応する最低損失を目標最低損失Tlossとする。そして、電圧補正部18では、損失演算部16で演算された損失Plossが、目標最低損失Tlossを下回った場合に、出力電圧設定部11で設定された出力電圧設定値Vsetを大きくする補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマエッチング、プラズマCVDを行うプラズマ処理装置等の負荷に電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波電源装置としては、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。
図6は、特許文献1に記載された従来技術の高周波電源装置6の構成図である。この高周波電源装置6は、直流電力出力部50および高周波電力出力部20によって構成されている。
【0003】
まず、高周波電力出力部20について説明する。
高周波電力出力部20は、出力電力設定部21、高周波出力制御部22、高周波増幅部23、ローパスフィルタ24、方向性結合器25、進行波変換部26および反射波変換部27によって構成されている。
【0004】
高周波増幅部23は、図示しない発振器、増幅素子等を有し、直流電力出力部50から出力される直流電力Pdcを用いて発振器から出力される高周波信号を増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する高周波電力(進行波電力)を出力するものである。なお、一般にこの種の高周波電源装置では、数百kHz以上の周波数(例えば、13MHz,40MHz等の周波数)を有する高周波電力を出力している。
また、高周波増幅部23は、後述する高周波出力制御部22によって出力が制御される。高周波増幅部23において増幅された高周波電力は、主に高調波を除去するためのローパスフィルタ24、方向性結合器25を介して図略の負荷5に供給される。なお、高周波増幅部23の増幅素子としては、例えば、FETやトランジスタ等が用いられる。
また、ローパスフィルタ24の代わりにバンドパスフィルタを用いることがある。また、ローパスフィルタ24を省略することが可能な場合もある。
【0005】
ここで、高周波増幅部23の回路構成を説明する。
図7は、高周波増幅部23の一例であるFETを用いたプッシュプル方式の増幅回路構成及び高周波増幅部23とローパスフィルタ24、方向性結合器25等との接続関係を示す図である。なお、出力電力設定部21、高周波出力制御部22等は、ここでは省略している。
【0006】
図7に示した高周波増幅部23は、いわゆるプッシュプル回路として構成され、2次巻線側が一方巻線T12a及び他方巻線T12bで分巻された第1トランスT1と、例えばFET(電界効果トランジスタ)からなる第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2と、1次巻線側が一方巻線T21a及び他方巻線T22bで分巻された第2トランスT2と、抵抗R1〜R4、コンデンサC1,C2、及び直流電圧源Vbからなる駆動電圧供給回路とを有している。なお、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2は、FETに代えてバイポーラトランジスタ等によって構成されていてもよい。
【0007】
プッシュプル回路については公知であるため、その動作を簡単に説明する。
第1トランスT1の1次巻線T11側に発振器から出力される発振信号Vin(交流電圧)が入力されると、第1トランスT1の2次巻線側では、一方巻線T12a及び他方巻線T12bにおいて互いに逆相の電圧が生じる。これらの電圧により、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2は、半周期ごとに交互にオン、オフし、これらオン、オフ動作が繰り返される。
【0008】
第2トランスT2の1次巻線側の一方巻線T21aと他方巻線T21bとの間には、後述する直流電源部53で生成される直流電源電圧Vdcが供給されるため、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2の出力電圧Vds1(ドレイン、ソース間電圧)は、この直流電源電圧Vdcをその振幅波形の中心とした電圧として第2トランスT2の1次巻線側に誘起する。
【0009】
第2トランスT2の2次巻線側には、高周波電力に相当する交流電力が誘起する。この高周波電力は、ローパスフィルタ24、方向性結合器25を介して負荷5に供給される。この際、ローパスフィルタ24によって、高調波が除去されて、波形歪が改善される。
【0010】
図8は、複数の増幅回路を用いて高周波増幅部23を構成する一例である。
図7では、一組の増幅回路により高周波増幅部23を構成するとしたが、図8に示すように、高周波増幅部23を複数の増幅回路により構成する場合もある。
【0011】
この例では、図示しない直流電源部53の直流電源電圧Vdcを電源電圧として動作する複数の増幅回路23a1〜23a4と、図示しない発振器から与えられる高周波信号Vinを増幅回路23a1〜23a4に分配して入力するパワー分配器23bと、高周波増幅部23a1〜23a4の出力を合成して負荷5に与えるパワー合成器23cとにより高周波増幅部23が構成されている。
【0012】
なお、この図8では、ローパスフィルタ24および方向性結合器25の図示を省略している。また、パワー合成器23cにインダクタやコンデンサを用いる回路の場合は、パワー合成器23cに高調波を減衰する機能を持たせることが可能であるので、高周波増幅部23の中にフィルタ部の機能を持たすことができる。
【0013】
図6に戻り説明を続ける。
方向性結合器25は、高周波増幅部23と負荷との間に挿入されて、高周波増幅部23から出力される進行波電力の情報を含む進行波側信号及び負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波側信号を出力するものである。
【0014】
進行波変換部26は、進行波側信号を進行波電力の電力値を示す進行波電力信号Pfに変換して出力する。すなわち、方向性結合器25によって検出した進行波を、進行波電力に対応する進行波電力信号Pfに変換して出力するものである。
【0015】
反射波変換部27は、反射波側信号を反射波電力の電力値を示す反射波電力信号Prに変換して出力する。すなわち、方向性結合器25によって検出した反射波を、反射波電力に対応する反射波電力信号Prに変換して出力するものである。
【0016】
高周波出力制御部22は、進行波電力信号Pfが示す電力値が、出力電力設定部21によって予め設定された出力電力設定値Psetと等しくなるように、高周波増幅部の出力を制御する。これにより、高周波増幅部から出力される進行波電力が一定になるように制御される。なお、出力電力設定値Psetは、外部の装置から入力してもよいし、変更も可能である。
また、高周波出力制御部22は、検出した反射波のレベルに応じて高周波増幅部23の出力電力を抑制する制御(反射保護制御)を行う。
【0017】
次に、直流電力出力部50について説明する。
直流電力出力部50は、出力電圧設定部51、直流電源制御部52、直流電源部53および直流検出部54によって構成されている。
【0018】
直流電源部53は、出力電圧値が可変可能であり、その出力電圧値を可変することによって出力電力値を調整できるものである。直流電源部53の出力電力Pdc(直流電力Pdc)は、直流検出部54を介して高周波増幅部23に供給される。
【0019】
直流検出部54は、直流電源部53の出力電圧値(直流電源電圧Vdcの電圧値)を検出し、検出した出力電圧値に対応する直流電圧信号Vdc(便宜上、直流電源電圧Vdcと同一符号を用いる)を出力する。
【0020】
出力電圧設定部51は、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形を歪ませることなく、且つ出力電圧波形の振幅が最大となるように、予め定められた特性グラフ又は特性関数等に基づいて、出力電力設定部21において設定された出力電力設定値Psetに対応する直流電源部53の出力電圧Vdcの設定値Vset(以下、出力電圧設定値Vsetという)を設定する。すなわち、出力電力設定値Psetによって出力電圧設定値Vsetが定まる。
【0021】
直流電源制御部52は、直流電圧信号Vdcに対応する電圧値が、出力電圧設定部51から出力される出力電圧設定値Vsetと等しくなるように直流電源部53の出力を制御する。すなわち、直流検出部54で検出した出力電圧値が出力電圧設定値Vsetと等しくなるように直流電源部53を制御する。
【0022】
上記構成によれば、負荷に供給する進行波電力が出力電力設定値Psetと等しくなるように制御されつつ、高周波増幅部23から出力される高周波電力の電圧成分の波形に波形歪が生じない範囲で、高周波増幅部23における損失を低減させて直流電力から高周波電力への変換効率を高めることができる。
【0023】
なお、損失Plossは式(1)または式(2)のようにして求めることができる(通常は、式(1)を使用することが多い)。なお、式(1)または式(2)において、「Pdc」は直流電源部53から出力された直流電力値、「Pf」は進行波電力の電力値、「Pr」は反射波電力の電力値を示す。これらは、便宜上、上述した信号名等と同一符号を用いている。
Ploss=Pdc−(Pf−Pr) ・・・・・(1)
Ploss=Pdc−Pf ・・・・・(2)
【0024】
上記技術内容を図9を参照して説明する。
図9は、従来技術の高周波電源装置6を使用したときの直流電源電圧Vdcおよび増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1を示す図であって、同図(a)は、高周波増幅部23から出力される高周波電力値が小レベルの場合、同図(b)は、高周波増幅部23から出力される高周波電力値が中レベルの場合、同図(c)は、高周波増幅部23から出力される高周波電力値が大レベルの場合の一例を示したものである。なお、図9では増幅素子の出力電圧Vds1の正の半波波形を直流電源電圧Vdcのラインから負側に折り返し、その折り返し波形が破線で示されている。
【0025】
この図9に示すように、従来技術では、高周波増幅部23から出力される高周波電力値の大きさに合わせて、増幅素子の出力電圧Vds1の振幅を変化させるとともに、直流電源電圧Vdcの大きさを増幅素子の出力電圧Vds1の振幅の略0.5倍とすることで、増幅素子の出力電圧Vds1の最小値が略0Vになるようにしている。そのために、Vds1に波形歪を生じさせることなく、且つ増幅素子の出力電圧Vds1の振幅を最大にすることができる。
また、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子の出力は、通常、増幅素子の後段にあるトランスを介して出力されるため、高周波増幅部23の出力電圧としては、直流電源電圧Vdcの成分がなくなって、0Vを中心とした波形歪のない交流波形となる。
【0026】
なお、図中のハッチング部分は損失の度合いを示しており、この部分が小さい程、増幅部での損失電力が少なく変換効率が高いことを示す。図9は、直流電源電圧Vdcの波形図であるために、図中のハッチング部分が損失電力を直接示すものではないが、ハッチング部分が多いほど、損失電力が多いことを示す。すなわち、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形に波形歪が生じない範囲では、直流電源電圧Vdcの大きさを増幅素子の出力電圧Vds1の振幅の略0.5倍とした場合に、変換効率が最も高くなる。また、直流電源電圧Vdcの大きさが小さいほど、損失電力が少なくなっていく。
【0027】
【特許文献1】特開2001−197749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
図10は、出力電圧設定値Vsetが一定の場合における、反射係数と損失との関係の一例を示す図である。図11は、出力電圧設定値Vsetが一定の場合における、反射係数と出力できる進行波電力の最大値との関係の一例を示す図である。なお、図10、図11とも、定格の最大値が3000Wの高周波電源装置を用い、進行波電力の出力電力設定値Psetを3000Wにした場合のものである。
【0029】
また、図10、図11とも、円の中心点が、反射係数の絶対値|Γ|=「0」であり、円の外周部分が、反射係数の絶対値|Γ|=「1」となっている。そして、円の中心点から0.1間隔で円状に補助線が描かれている。また、反射係数の位相は、円の中心点から右方向に伸びる線上を0度として、図示するように、0〜180度、0〜−180度で表される。そして、30度間隔で補助線が描かれている。
また、図10に示す等高線は、損失の大きさを示すものであり、等高線上の数値は、電力値(単位:W)である。図11に示す等高線は、出力できる進行波電力の最大値を示すものであり、等高線上の数値は、電力値(単位:W)である。すなわち、図10、図11は、負荷インピーダンスを反射係数の絶対値と位相とで表した図に、損失及び進行波電力の最大値の関係を図示したものである。
【0030】
この図10、図11から分かるように、従来技術の高周波電源装置6では、出力電圧設定値Vsetが一定の場合、反射係数によって損失が異なる。そのため、反射係数によって出力できる最大電力が異なる。
【0031】
この理由を説明する。
反射波が発生すると、伝送線路上で進行波と反射波が合成されて定在波が発生する。このとき、反射波が大きく、定在波のレベルの高い状態で高周波増幅部23に印加されると、高周波増幅部23内の増幅素子(例えば、FET、トランジスタ)の最大定格(電力、電圧、電流のいずれか)を超えて、増幅素子が破損する恐れがある。
そのため、高周波増幅部23内の増幅素子を保護するために、反射波が発生した場合には、高周波出力制御部22において、反射波のレベルに応じた出力制御を高速で行い、進行波と反射波との合成値を低減させて、結果的に、増幅素子の最大定格を超えないように制御している。すなわち、反射波のレベルに応じて、高周波増幅部23の出力電力を抑制する「反射保護制御」を行っている。
【0032】
そのために、出力電力(進行波電力)が大きくなるに従い、また、反射波が大きくなるに従い進行波と反射波との合成値が大きくなるが、仮に同じ出力電力(進行波電力)であれば、反射係数の絶対値が大きくなるほど、反射保護制御によって進行波電力を抑制する度合いが強くなる。
【0033】
また、図10に示すように、反射係数の絶対値が同じであっても、位相によって損失が異なるということは、たとえ反射係数の絶対値が同じであっても、位相によって反射波電力が異なるということである。すなわち、反射保護制御の関係上、反射係数によって出力できる進行波電力の最大値が異なることになる。
【0034】
さて、近年ではより広い領域において、所望の進行波電力を出力できる能力が要望されている。例えば、これまでは、反射係数の絶対値が0.3以下の領域で所望の進行波電力を出力できればよいとされていたが、近年では、反射係数の絶対値が0.4以下の領域で所望の進行波電力を出力できる能力が要望されている。
【0035】
ところが、従来技術の高周波電源装置6では、上述したように、予め定められた特性グラフ又は特性関数等に基づいて、出力電力設定部21において設定された出力電力設定値Psetに対応する出力電圧設定値Vsetを設定している。そのため、たとえ反射係数が異なっても、出力電力設定値Psetが同じであれば、出力電圧設定値Vsetは同じである。すなわち、図10、図11に示した関係になり、反射係数によって出力できる進行波電力の最大値が異なってしまう。このような状態において、所望の進行波電力を出力させたい場合、定格よりも小さい出力であれば、当然ながら、広い領域(例えば、反射係数の絶対値が0.4以下)においても、所望の進行波電力を出力できる。
【0036】
しかしながら、高周波電源装置6の定格の最大値、または定格の最大値付近の進行波電力を出力しようとすると、図11のようになり、同じ反射係数の絶対値であっても、所望の進行波電力が出力できる領域と、所望の進行波電力が出力できず、電力が不足している領域が生じる。したがって、電力が不足している領域において、出力できる進行波電力を増大させる必要がある。
【0037】
そこで、直流電源電圧Vdcを小さくしていき、損失電力を少なくさせることによって、出力できる進行波電力を増大させることが考えられる。この理由は、図9の部分で説明から分かるように、直流電源電圧Vdcが小さいほど、損失電力が少なくなっていくからである。
【0038】
そのためには、出力電圧設定部51における出力電圧設定値Vsetの設定値を、従来よりも小さくするように設定方法を変更すればよい。なお、従来であれば、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形を歪ませないように、出力電圧設定値Vsetを設定していたが、出力電圧設定値Vsetの設定値を小さくするように設定方法を変更すると、出力電圧Vds1の波形が歪んでしまうという問題が生じる。しかし、高周波増幅部23の後段に設けられたローパスフィルタ24によって波形が改善されるため、出力電圧Vds1の波形の歪みの度合いが小さければ、ほとんどの場合において、この点は問題とはならない。
【0039】
ところが、出力電圧設定値Vsetを小さくした場合には、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子が自己発振することがある。なお、増幅素子が自己発振しているか否かは、例えば、方向性結合器25から出力される進行波側信号を、スペクトラムアナライザで測定することにより判定できる。
【0040】
また、このような自己発振が生じると、それが原因となって、高周波増幅部23の制御が不安定な状態になってしまう。このような領域は、例えば、図11の「A」部分である。なお、「A」部分では、「A」部分の周りよりも出力できる進行波電力の最大値が高くなっているが、これは自己発振の影響で正常な検出ができていないからであり、実際に「A」部分の周りよりも出力できる進行波電力の最大値が高くなっていることを示しているわけではない。
【0041】
また、図11の「A」部分のように、所望の進行波電力を出力させたい領域内に増幅素子が自己発振する領域がある場合は、目的の障害となる。すなわち、高周波増幅部23の制御が不安定な状態になってしまうことが原因となって、所望の進行波電力を出力できる領域を広げることができないことがある。また、高周波増幅部23の制御が不安定な状態になってしまうこと自体が問題である。
【0042】
したがって、所望の進行波電力を出力できる領域を広げるためには、出力電圧設定値Vsetを調整するだけでなく、増幅素子が自己発振しないようにする必要がある。
【0043】
ところで、従来の高周波電源装置でも、定格の大きな高周波電源装置を用いれば、当然ながら、より広い領域(例えば、反射係数の絶対値が0.4以内)において、所望の進行波電力を出力できる。また、定格の大きな高周波電源装置を用いれば、増幅素子が自己発振するほど損失を低減させる必要がないので、より広い領域(例えば、反射係数の絶対値が0.4以内)において、所望の進行波電力を出力できる。
【0044】
しかしながら、定格の大きな高周波電源装置を用いれば、大型化およびコストの増大を招く。これらの問題は、非常に重要であるため、実質上、単に定格の大きな高周波電源装置にするということはできない。
【0045】
本発明は、上記事情のもとで考え出されたものであって、大型化およびコストの増大を招くことなく、従来よりも広い領域において所望の進行波電力を出力できること、さらに、増幅素子が自己発振する領域を生じさせない高周波電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0046】
第1の発明によって提供される高周波電源装置は、
直流電力を出力する直流電力出力部と、
前記直流電力出力部から出力される直流電力を用いて高周波信号を増幅し、進行波電力として出力する高周波増幅部と、
前記高周波増幅部と負荷との間に挿入されて、前記高周波増幅部から出力される進行波電力の情報を含む進行波側信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波側信号を出力する方向性結合器と、
前記進行波側信号を前記進行波電力の電力値を示す進行波電力信号に変換して出力する進行波変換部と、
前記反射波側信号を前記反射波電力の電力値を示す反射波電力信号に変換して出力する反射波変換部と、
前記進行波電力信号が示す電力値が、予め設定された出力電力設定値と等しくなるように、前記高周波増幅部の出力を制御する高周波出力制御部と、
を備え、
前記直流電力出力部が、
出力電圧値が可変可能であり、その出力電圧値を可変することによって出力電力値を調整できる直流電源部と、
前記直流電源部の出力電力値および出力電圧値を検出し、検出した出力電力値に対応する直流電力信号および出力電圧値に対応した直流電圧信号を出力する直流検出部と、
予め定めた関係に基づいて設定される前記直流電源部の出力電圧設定値を出力する出力電圧設定部と、
前記進行波側信号および前記反射波側信号に基づいて、反射係数の絶対値及び位相のうち、少なくとも位相を演算する反射係数演算部と、
前記直流電力信号、前記進行波電力信号および前記反射波電力信号のうち、少なくとも前記直流電力信号と前記進行波電力信号とを用いて前記高周波増幅部における損失を演算する損失演算部と、
反射係数と最低損失との対応関係が記憶されているとともに、前記反射係数演算部によって演算された反射係数に対応する最低損失を目標最低損失として設定する目標最低損失設定部と、
前記損失演算部で演算された損失が、前記目標最低損失を下回った場合に、その差異に応じて前記出力電圧設定部から出力された出力電圧設定値を大きくする補正を行う電圧補正部と、
前記直流検出部で検出した出力電圧値が、前記出力電圧設定値と等しくなるように、前記直流電源部の出力電圧値を制御する直流電源制御部と、
によって構成されていることを特徴としている。
【0047】
第2の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係が、所望の反射係数の絶対値内の領域において、反射係数の絶対値及び位相のうち、少なくとも位相で表される領域に対応する最低損失を記憶したものであることを特徴としている。
【0048】
第3の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数の領域が、反射係数の位相で表される領域であり、全領域が反射係数の位相によって複数に分割されていることを特徴としている。
【0049】
第4の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数の領域が、反射係数の絶対値及び位相で表される領域であり、全領域が反射係数の絶対値及び位相によって複数に分割されていることを特徴としている。
【0050】
第5の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標電圧設定部に記憶されている反射係数に対応する最低損失が、所望の反射係数の絶対値内の領域において、前記高周波増幅部の一部を構成する増幅素子が異常発振しないように予め設定されたものであることを特徴としている。
【0051】
第6の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標電圧設定部に記憶されている反射係数に対応する最低損失が、所望の反射係数の絶対値内の領域において、前記複数に分割された領域のそれぞれに対して、その領域内であれば、前記高周波増幅部の一部を構成する増幅素子が異常発振しない損失であることを特徴としている。
【0052】
第7の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係が、テーブル形式で記憶されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、負荷に供給する進行波電力が出力電力設定値と等しくなるように制御するとともに、損失を監視することによって、所望の進行波電力を出力させたい領域内において、増幅素子が自己発振しないようにすることが可能となる。そのため、従来よりも出力電圧設定値を小さくしても、高周波増幅部の制御が安定するので、所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となる。ただし、全体的には、所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となるが、一部の反射係数の場合には、上述したように、増幅素子が自己発振しないように、出力電圧設定値を大きくする補正を行う都合上、所望の進行波電力が出力できないことも考えられる。しかし、たとえ、そのような事態になった場合でも、従来よりも所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の詳細を図面を参照して説明する。
【0055】
図1は、本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。この高周波電力供給システムは、半導体ウエハや液晶基板等の被加工物に対して高周波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。この高周波電力供給システムは、高周波電源装置1、伝送線路2、インピーダンス整合器3、負荷接続部4及び負荷5で構成されている。なお、インピーダンス整合器3を用いない構成にしてもよい。
【0056】
高周波電源装置1は、発振器から出力される高周波信号を増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する高周波電力(進行波電力)を出力して負荷5に供給するための装置である。なお、高周波電源装置1から出力された高周波電力は、同軸ケーブルからなる伝送線路2及びインピーダンス整合器3及び遮蔽された銅板からなる負荷接続部4を介して負荷5に供給される。なお、一般にこの種の高周波電源装置では、数百kHz以上の周波数(例えば、13MHz,40MHz等の周波数)を有する高周波電力を出力している。
【0057】
インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1と負荷5とのインピーダンスを整合させるものである。より具体的には、例えば高周波電源装置1の出力端から高周波電源装置1側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が例えば50Ωに設計され、高周波電源装置1が、特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、インピーダンス整合器3は、当該インピーダンス整合器3の入力端から負荷5側を見たインピーダンスを50Ωに変換させるものである。
【0058】
負荷5は、加工部を備え、その加工部の内部に搬入したウエハ、液晶基板等の被加工物を加工(エッチング、CVD等)するための装置である。この負荷5は、被加工物を加工するために、加工部にプラズマ放電用ガスを導入し、そのプラズマ放電用ガスに高周波電源装置6から供給された高周波電力(電圧)を印加することによって、上記のプラズマ放電用ガスを放電させて非プラズマ状態からプラズマ状態にしている。そして、プラズマを利用して被加工物を加工している。
【0059】
図2は、本発明の高周波電源装置1の構成を示す図である。高周波電源装置1は、図2に示すように、直流電力出力部10および高周波電力出力部20によって構成されている。
【0060】
まず、高周波電力出力部20について説明する。
高周波電力出力部20は、出力電力設定部21、高周波出力制御部22、高周波増幅部23、ローパスフィルタ24、方向性結合器25、進行波変換部26および反射波変換部27によって構成されている。この高周波電力出力部20は、図6に示した構成と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
次に、直流電力出力部10について説明する。
直流電力出力部10は、出力電圧設定部11、直流電源制御部12、直流電源部13、直流検出部14、反射係数演算部15、損失演算部16、目標最低損失設定部17、および電圧補正部18によって構成されている。
【0062】
直流電源部13は、出力電圧値が可変可能であり、その出力電圧値を可変することによって出力電力値を調整できるものである。直流電源部13の出力電力Pdc(直流電力Pdc)は、直流検出部14を介して高周波増幅部23に供給される。
【0063】
直流検出部14は、直流電源部13の出力電力値を検出し、検出した出力電力値に対応する直流電力信号Pdc(便宜上、直流電力Pdcと同一符号を用いる)を出力する。なお、直流検出部14は、直流電源部13の出力電圧値(直流電源電圧Vdcの電圧値)を検出する電圧検出部14aと、直流電源部13の出力電流値(直流電源電流Idcの電流値)を検出する電流検出部14bとを備え、両者の出力に基づいて直流電力Pdcを演算(Pdc=Vdc×Idc)できるようになっている。
また、直流検出部14は、直流電源部13の出力電圧値に対応した直流電圧信号Vdc(便宜上、直流電源電圧Vdcと同一符号を用いる)を出力する。
もちろん、直流電源部13の出力電流値に対応した直流電流検出信号を出力させることも可能である。
【0064】
出力電圧設定部11は、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形を歪ませることなく、且つ出力電圧波形の振幅が最大となるように、予め定められた特性グラフ又は特性関数等に基づいて、出力電力設定部21において設定された出力電力設定値Psetに対応する直流電源部53の出力電圧Vdcの設定値Vset(以下、出力電圧設定値Vsetという)を設定する。すなわち、出力電力設定値Psetによって出力電圧設定値Vsetが定まる。
なお、上記に限定されるものではなく、出力電力設定値Psetではない別の変数との間で予め定めた関係に基づいて出力電圧設定値Vsetを定めてもよい。また、出力電圧設定値Vsetを一定値にすることも可能である。すなわち、出力電圧設定部11は、出力電圧設定値Vsetを一定値にすることも含めて、予め定めた関係に基づいて出力電圧設定値Vsetを設定し、設定した出力電圧設定値Vsetを出力する。
【0065】
直流電源制御部12は、直流電圧信号Vdcに対応する電圧値が、出力電圧設定部11から出力される出力電圧設定値Vsetと等しくなるように直流電源部13の出力を制御する。すなわち、直流検出部14で検出した出力電圧値が出力電圧設定値Vsetと等しくなるように直流電源部13を制御する。
【0066】
反射係数演算部15は、方向性結合器25から出力される進行波側信号および反射波側信号に基づいて、反射係数の絶対値及び位相のうち、少なくとも位相を演算する。
【0067】
損失演算部16は、直流電力信号Pdc、進行波電力信号Pfおよび反射波電力信号Prを用いて高周波増幅部23における損失Plossを演算し、演算した損失Plossに対応する損失演算信号Ploss(便宜上、損失Plossと同一符号を用いる)を出力する。なお、損失Plossは、上述した式(1)または式(2)のようにして求めることができる(通常は、式(1)を使用することが多い)。
【0068】
目標最低損失設定部17は、反射係数と最低損失との対応関係が記憶されているとともに、反射係数演算部15によって演算された反射係数に対応する最低損失を目標最低損失として設定し、この目標最低損失Tlossに対応する目標最低損失信号Tloss(便宜上、目標最低損失Tlossと同一符号を用いる)を出力する。
前述したように、損失電力を少なくさせるために、出力電圧設定値Vsetを小さくすると、高周波増幅部23の一部を構成する増幅素子が自己発振することがある。そのために、増幅素子が自己発振しないような最低損失を設定しておくのが目標最低損失設定部17である。なお、この最低損失は、反射係数によって異なるので、反射係数と最低損失との対応関係が必要になる。
【0069】
電圧補正部18は、損失演算部16によって演算された損失Plossが、目標最低損失設定部17によって設定された目標最低損失Tlossを下回っている場合に、損失Plossと目標最低損失Tlossとの差異に応じて、出力電圧設定部11から出力されて直流電源制御部12に入力される出力電圧設定値Vsetを大きくする補正を行う。そして、直流電源制御部12は、補正された出力電圧設定値Vsetを用いて、直流電源部13を制御する。なお、損失演算部16によって演算された損失Plossが、目標最低損失設定部17によって設定された目標最低損失Tloss以上であれば、電圧補正部18による補正は行われず、出力電圧設定部11から出力された出力電圧設定値Vsetは、そのまま直流電源制御部12に入力される。
【0070】
上記構成によれば、負荷に供給する進行波電力が出力電力設定値Psetと等しくなるように制御するとともに、損失を監視することによって、所望の進行波電力を出力させたい領域内において、増幅素子が自己発振しないようにすることが可能となる。そのため、従来よりも出力電圧設定値Vsetを小さくしても、高周波増幅部23の制御が安定するので、所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となる。ただし、全体的には、所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となるが、一部の反射係数の場合には、上述したように、増幅素子が自己発振しないように、出力電圧設定値Vsetを大きくする補正を行う都合上、所望の進行波電力が出力できないことも考えられる。しかし、たとえ、そのような事態になった場合でも、従来よりも所望の進行波電力を出力できる領域を広げることが可能となる。
【0071】
なお、上述した説明から分かるように、出力電圧設定値Vsetを大きくすることによって、直流電源部13の出力電圧Vdcを上げれば、増幅素子の自己発振を防止することができる。しかし、上記の実施形態では、単に直流電源部13の出力電圧Vdcを上げるのではなく、基準となる出力電圧設定値Vsetはそのままにし、増幅素子が自己発振すると考えられる損失になった場合にのみ、出力電圧設定値Vsetを補正するところに特徴がある。また、図10、図11の関係を参照すると、概略的には、損失の少ない領域において自己発振が生じやすいと考えられる。そのため、自己発振するか否かの判定基準として、損失を用いることは有用であると考えらえる。
【0072】
次に、上述した目標最低損失設定部17について詳述する。
図3は、目標最低損失設定部17に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係の一例を示す図である。この図3において、同図(a)は、反射係数の領域を、反射係数の位相で表した図であり、同図(b)は、同図(a)に示された領域に対応した最低損失を記憶したテーブルを示す。
また、図3(a)は、円の中心点が、反射係数の絶対値|Γ|=「0」であり、円の外周部分が、反射係数の絶対値|Γ|=「1」となっている。そして、円の中心点から右方向に伸びる線上を0度として、図示するように、反射係数の位相が、0〜180度、0〜−180度で表される。そして、30度間隔で領域を定める補助線が描かれている
【0073】
なお、この図3では、反射係数の位相のみによって領域を設定している。これは、図10、図11から分かるように、概略的には、位相の違いによって特性が異なることを利用しようとしているからである。また、反射係数の位相のみによって領域を設定しているので、最低損失を設定する作業工数が少なくて済む。
【0074】
図4は、目標最低損失設定部17に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係の他の一例を示す図である。この図4において、同図(a)は、反射係数の領域を、反射係数の絶対値と位相とで表した図であり、同図(b)は、同図(a)に示された領域に対応した電圧値を記憶したテーブルを示す。
また、図4(a)は、円の中心点が、反射係数の絶対値|Γ|=「0」であり、円の外周部分が、反射係数の絶対値|Γ|=「1」となっている。そして、円の中心点から0.4までの領域において0.2間隔で円状に領域を定める補助線が描かれている。また、反射係数の位相は、円の中心点から右方向に伸びる線上を0度として、図示するように、0〜180度、0〜−180度で表される。そして、30度間隔で領域を定める補助線が描かれている。
【0075】
なお、図4(b)に示した領域以外、すなわち、所望の進行波電力を出力させたい領域でない領域(例えば、反射係数の絶対値が0.4超)の最低損失は、例えば、同じ位相で、所望の進行波電力を出力させたい領域の外側付近と同じ最低損失を採用すればよい。例えば、反射係数の絶対値が0.6で、位相が40度の場合は、反射係数の絶対値が0.4で、位相が40度の場合と同じ最低損失を採用すればよい。
【0076】
なお、図3、図4に示した反射係数と最低損失との対応関係に限定されるものではなく、他の反射係数と最低損失との対応関係を設定することも可能である。例えば、図3、図4では、位相を30度間隔にして領域を設定する例を示したが、10度間隔にしてもよい。このように、領域を細分化させることによって、制御の精度は向上するが、その分、最低損失を設定する作業工数が増加するので、実情に合わせて領域を設定すればよい。
【0077】
また、図3に示した例では、位相が、「−180度超〜−150度以下」及び「−150度超〜−120度以下」の場合の最低損失を「1000W」とし、他は「0W」としている。この理由は、図11の「A」部分のように、特定部分において増幅素子が自己発振するような場合は、その特定部分を含む領域に対してのみ最低損失を設定すれば目的を達成できるからである。すなわち、「0W」とすると、損失演算部16によって演算された損失Plossが、目標最低損失設定部17によって設定された目標最低損失Tlossを下回ることがないため、電圧補正部18による補正が行われることがないが、実質上、問題ないからである。しかし、これに限定されるものではない。例えば、図11の例で説明すると、「A」部分だけでなく、他の部分でも増幅素子が自己発振するような場合は、その部分を含む領域に適した最低損失を適宜設定すればよい。
【0078】
図4に示した例でも同様であるが、図3の場合と異なり、反射係数の領域を、反射係数の絶対値と位相とで表しているので、それぞれの領域に対して、最低損失を設定している。なお、図4に示した例では、反射係数の絶対値の違いによって、最低損失を変えているが、必ずしもこのようになるのではなく、同じ最低損失に設定した方がよい場合もある。すなわち、その領域に適した最低損失を適宜設定すればよい。
【0079】
次に、反射係数と最低損失との対応関係を定める方法について説明する。
図5は、反射係数と最低損失との対応関係を定める場合の高周波電源装置1aの構成を示す図である。まず、この図5に示す高周波電源装置1aと図2に示した高周波電源装置1との違いを説明する。
【0080】
(1)高周波電源装置1aは、実際の負荷ではなく、任意のインピーダンスに設定できるダミーロード7に接続されている。
(2)方向性結合器25の進行波側に、方向性結合器25から出力される進行波側信号の周波数特性を測定できるスペクトラムアナライザ(スペアナ)8が接続されている。
(3)任意の電圧値を直流電源制御部12に入力できるようになっている。また、直流電源制御部12は、直流電圧信号Vdcに対応する電圧値が、入力された電圧値に等しくなるように、直流電源部13の出力を制御するように機能する。
(4)反射係数演算部15の出力をモニタ31で表示でき、損失演算部16の出力をモニタ32で表示でき、進行波変換部26の出力Pfをモニタ33で表示できるようになっている。
【0081】
なお、実際には、出力電圧設定部11、目標最低損失設定部17、および電圧補正部18も高周波電源装置1aに含まれているが、図面を簡略化するために、図示を省略している。
【0082】
上記のように構成した上で、以下のような手順で反射係数と最低損失との対応関係を定める。
【0083】
ステップ1:図3、図4に示したような複数に分割された領域のうちの1つが示す反射係数になるように、ダミーロード7のインピーダンスを調整する。ただし、所望の反射係数の領域内(例えば、反射係数の絶対値が0.4以下)において、所望の高周波電力(進行波電力)を出力することを目的としているので、ここでは、所望の反射係数の絶対値内にする必要がある。
【0084】
ステップ2:高周波増幅部から所望の進行波電力を出力させる。なお、このステップは、上記ステップ1で行なってもよい。また、直流電源制御部12に入力する目標電圧値の初期値は、予め定めておく。
【0085】
ステップ3:反射係数演算部15の出力をモニタ31で確認し、反射係数演算部15で演算された反射係数が、設定しようとする反射係数の領域内に入っていない場合は、ステップ1に戻り、ダミーロード7のインピーダンスを調整し直す。そして、設定しようとする反射係数になれば、ステップ4に進む。
【0086】
ステップ4:損失演算部16の出力をモニタ32で確認するとともに、進行波変換部26の出力Pfをモニタ33で確認する。また、スペクトラムアナライザ8で周波数特性を確認する。なお、スペクトラムアナライザ8で確認できる周波数特性によって、増幅素子が自己発振しているか否かを判定することができる。
このとき、直流電源制御部12に入力する電圧値を調整(下げる、又は上げる)し、増幅素子が自己発振しない最低の電圧値のときの損失を最低損失とする。
なお、「最低の電圧値」とは、厳密に最低の電圧値を意味するものではない。実際には、直流電源制御部12に入力する電圧値の調整は、段階的に行うことが多いので、実際の最低の電圧値よりも大きくなる方向に誤差を含むものである。
また、進行波変換部26の出力Pf、すなわち高周波増幅部23から出力される進行波電力の大きさは、参考としてモニタ33で確認することができる。
【0087】
ステップ5:ステップ1〜ステップ4を繰り返して、複数に分割された領域の全てについて、最低損失を求める。これにより、図3、図4に示したような反射係数と損失値との対応関係を定めることができる。
【0088】
なお、上記ステップ3において、ダミーロード7のインピーダンスを調整することにより設定する反射係数は、複数に分割されたそれぞれの領域(ただし、所望の進行波電力を出力させたい領域内)で、反射係数の絶対値の大きい側の境界付近に合わせるのが好ましい。例えば、図3のように、反射係数の領域を、反射係数の位相のみによって設定している場合は、所望の進行波電力を出力させたい領域の境界付近(例えば、反射係数の絶対値が0.4付近)に合わせるのが好ましい。また、図4のように、反射係数の領域を、反射係数の絶対値と位相とで設定している場合は、それぞれの領域における反射係数の絶対値の大きい側の境界付近に合わせるのが好ましい。この理由は、上述したように、最低損失を適切に設定する必要性が高い領域が、所望の進行波電力を出力させたい領域の外側付近(反射係数の絶対値の大きい側)であるからである。
【0089】
また、図5に示す高周波電源装置1aの構成は一例であり、他の構成で反射係数と損失との対応関係を定めてもよい。例えば、直流電力出力部10の代わりに、直流電力を出力できる装置(例えば、DC−DCコンバータ)を用いればよい。
【0090】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、高周波増幅部23を構成する回路としてプッシュプル回路を用いたが、フルブリッジ方式の増幅回路やハーフブリッジ方式の増幅回路にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の高周波電源装置1の構成を示す図である。
【図3】図3は、目標最低損失設定部17に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係の一例を示す図である。
【図4】図4は、目標最低損失設定部17に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係の他の一例を示す図である。
【図5】図5は、反射係数と最低損失との対応関係を定める場合の高周波電源装置1aの構成を示す図である。
【図6】図6は、特許文献1に記載された従来技術の高周波電源装置6の構成図である。
【図7】図7は、高周波増幅部23の一例であるFETを用いたプッシュプル方式の増幅回路構成及び高周波増幅部23とローパスフィルタ24、方向性結合器25等との接続関係を示す図である。
【図8】図8は、複数の増幅回路を用いて高周波増幅部23を構成する一例である。
【図9】図9は、従来技術の高周波電源装置6を使用したときの直流電源電圧Vdcおよび増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1を示す図である。
【図10】図10は、出力電圧設定値Vsetが一定の場合における、反射係数と損失との関係の一例を示す図である。
【図11】図11は、出力電圧設定値Vsetが一定の場合における、反射係数と出力できる進行波電力の最大値との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 高周波電源装置
2 伝送線路
3 インピーダンス整合器
4 負荷接続部
5 負荷
10 直流電力出力部
11 出力電圧設定部
12 直流電源制御部
13 直流電源部
14 直流検出部
15 反射係数演算部
16 損失演算部
17 目標最低損失設定部
18 電圧補正部
20 高周波電力出力部
21 出力電力設定部
22 高周波出力制御部
23 高周波増幅部
24 ローパスフィルタ
25 方向性結合器
26 進行波変換部
27 反射波変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を出力する直流電力出力部と、
前記直流電力出力部から出力される直流電力を用いて高周波信号を増幅し、進行波電力として出力する高周波増幅部と、
前記高周波増幅部と負荷との間に挿入されて、前記高周波増幅部から出力される進行波電力の情報を含む進行波側信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波側信号を出力する方向性結合器と、
前記進行波側信号を前記進行波電力の電力値を示す進行波電力信号に変換して出力する進行波変換部と、
前記反射波側信号を前記反射波電力の電力値を示す反射波電力信号に変換して出力する反射波変換部と、
前記進行波電力信号が示す電力値が、予め設定された出力電力設定値と等しくなるように、前記高周波増幅部の出力を制御する高周波出力制御部と、
を備え、
前記直流電力出力部が、
出力電圧値が可変可能であり、その出力電圧値を可変することによって出力電力値を調整できる直流電源部と、
前記直流電源部の出力電力値および出力電圧値を検出し、検出した出力電力値に対応する直流電力信号および出力電圧値に対応した直流電圧信号を出力する直流検出部と、
予め定めた関係に基づいて設定される前記直流電源部の出力電圧設定値を出力する出力電圧設定部と、
前記進行波側信号および前記反射波側信号に基づいて、反射係数の絶対値及び位相のうち、少なくとも位相を演算する反射係数演算部と、
前記直流電力信号、前記進行波電力信号および前記反射波電力信号のうち、少なくとも前記直流電力信号と前記進行波電力信号とを用いて前記高周波増幅部における損失を演算する損失演算部と、
反射係数と最低損失との対応関係が記憶されているとともに、前記反射係数演算部によって演算された反射係数に対応する最低損失を目標最低損失として設定する目標最低損失設定部と、
前記損失演算部で演算された損失が、前記目標最低損失を下回った場合に、その差異に応じて前記出力電圧設定部から出力された出力電圧設定値を大きくする補正を行う電圧補正部と、
前記直流検出部で検出した出力電圧値が、前記出力電圧設定値と等しくなるように、前記直流電源部の出力電圧値を制御する直流電源制御部と、
によって構成されていることを特徴とする高周波電源装置。
【請求項2】
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係は、所望の反射係数の絶対値内の領域において、反射係数の絶対値及び位相のうち、少なくとも位相で表される領域に対応する最低損失を記憶したものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数の領域は、反射係数の位相で表される領域であり、全領域が反射係数の位相によって複数に分割されていることを特徴とする請求項2に記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数の領域は、反射係数の絶対値及び位相で表される領域であり、全領域が反射係数の絶対値及び位相によって複数に分割されていることを特徴とする請求項2に記載の高周波電源装置。
【請求項5】
前記目標電圧設定部に記憶されている反射係数に対応する最低損失は、所望の反射係数の絶対値内の領域において、前記高周波増幅部の一部を構成する増幅素子が異常発振しないように予め設定されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項6】
前記目標電圧設定部に記憶されている反射係数に対応する最低損失は、所望の反射係数の絶対値内の領域において、前記複数に分割された領域のそれぞれに対して、その領域内であれば、前記高周波増幅部の一部を構成する増幅素子が異常発振しない損失であることを特徴とする請求項3または4に記載の高周波電源装置。
【請求項7】
前記目標最低損失設定部に記憶されている反射係数と最低損失との対応関係が、テーブル形式で記憶されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高周波電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−290678(P2009−290678A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142565(P2008−142565)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】