説明

高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置

【課題】ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法を提供する。
【解決手段】ライナ26とライナ26の外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、ライナ26の内部を負圧状態にしてライナ26の外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、その後、ライナ26の内部を正圧状態にして少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成する高圧タンクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車等には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガス等を貯蔵する高圧タンクが搭載される。高圧タンクとして、樹脂製または金属製タンク(ライナ:内容器)の外面に単位密度当りの強度が非常に高い炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)等を巻き付けて補強した高圧タンクが知られている。このような高圧タンクを製造する際、例えばフィラメントワインディング法のように炭素繊維等の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた状態で樹脂製タンクの外面に巻き付けて繊維層を形成した後、樹脂を硬化させて補強層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フィラメントワインディング法で高圧タンクを製造する場合、タンクの高い強度を確保するためには、炭素繊維等の繊維の張力を高くすることが好ましい。
【0004】
通常、ライナに繊維束を何層も巻き付けて繊維層を形成するが、特に内層部は高張力で巻き付けることが望まれ、内層部の繊維張力が低いと繊維層の空隙や繊維折れが発生して、タンク強度低下の原因となることがある。また、高い張力で繊維束を巻き付けて積層していくと、先に巻き付けた内層部の繊維の緩みが発生し、タンク強度低下が発生することがある。そのため、高圧タンクに要求される性能を充分に満足できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−019315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、ライナの内部を負圧状態にして前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、その後、前記ライナの内部を正圧状態にして前記少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成する高圧タンクの製造方法である。
【0008】
また、本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、ライナの内部を負圧状態から正圧状態まで調整することが可能な圧力調整手段を有する高圧タンクの製造装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ライナの外面に繊維を巻き付ける際にライナの内部を負圧状態にして少なくとも1層目の繊維を巻き付け、その後、ライナの内部を正圧状態にして少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成することにより、ライナへの繊維の巻き付けの際の特に内層部の繊維の緩みの発生を抑制することができる高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における高圧タンクの製造方法における高圧タンクの軸方向の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成の概略を図1に示す。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例の概略を図2に示す。
【0013】
図1に示すように、高圧タンクの製造装置1は、繊維巻き付け装置10を備える。繊維巻き付け装置10は、ライナ26を支持するための回転支持部12を有する。図2に示すように、この回転支持部12には、ライナの内部を負圧状態から正圧状態まで調整することが可能な圧力調整手段としての圧力調整機構14が設置されている。圧力調整機構14は、例えば真空ポンプ等の減圧手段に通じる負圧用配管18と、例えば空気等のガスを供給するガスボンベに通じる正圧用配管20と、負圧用配管18と正圧用配管20を切り替える切替手段としての切替バルブ16と、負圧用配管18および正圧用配管20に切替バルブ16を介して接続され、切替バルブ16と回転支持部12とに接続される圧力調整用配管22とを備える。
【0014】
本実施形態に係る高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置1の動作について説明する。
【0015】
図1,2に示すように、ライナ26は、繊維巻き付け装置10の回転支持部12に設置される。例えば、略円柱状のライナ26は図3に示すようなライナ26の軸を通したシャフト30によって、図2に示すように回転支持部12に支持される。回転支持部12によってライナ26が回転され、図1のボビン34から繰り出された繊維束32がライナ26の外面に巻き付けられる。繊維束32には、例えば、繊維巻き付け装置10の上流側で、エポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂溶液が含浸され、その後、図2に示すように繊維ガイド部38で角度調整されて、ライナ26に巻き付けられる。このとき、繊維束32を巻き付けながら、圧力調整機構14によりライナ26の内部を負圧状態から正圧状態まで調整する。こうして、ライナ26の外面に繊維束32が所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられ繊維層が形成される。
【0016】
ライナ26に繊維束32を巻き付ける前に、図1のように拡幅ローラ36等の拡幅手段を設けて、拡幅ローラ36等に繊維束32を押し付けて予め拡幅しておいてもよい。ここで、繊維束を拡幅するとは、例えば、繊維束を構成する繊維を拡げて繊維束を略扁平な状態にすることを意味する。
【0017】
本実施形態では、回転支持部12に、負圧用配管18と正圧用配管20とが切替バルブ16、圧力調整用配管22を介して接続されて、真空ポンプ等により負圧用配管18、圧力調整用配管22および回転支持部12を通じてライナ26の内部を負圧状態にしてライナ26の外面に少なくとも1層目の繊維束32を巻き付けて内層部を形成し、その後切替バルブ16を切り替えて、空気等のガスを正圧用配管20、圧力調整用配管22および回転支持部12を通じてライナ26内に供給して、ライナ26の内部を負圧状態から正圧状態にして、先に巻いて緩んだ繊維を巻き締める。その後、前記少なくとも1層目より後の層の中間層部から外層部の繊維束32を巻き付けて繊維層を形成する。
【0018】
このように、繊維束32の巻き始めは、ライナ26の内部を負圧状態にして、内層部の繊維を巻き終わった後、ライナ26の内部に内圧をかけて負圧状態から正圧状態にしてライナ26を膨張させ、緩んだ繊維を巻き締めることにより、内層部の繊維の緩みを防止することができる。内層部の繊維の緩みを防止することにより、高圧タンク24の強度および疲労強度が確保され、かつ、品質の安定した高圧タンク24を製造することができる。特に、繊維層の中間層部から外層部へ繊維束32を巻き付けていくと、先に巻いた内層部の繊維の緩みが発生しやすいので、内層部を巻き付けた後にライナ26の内部を負圧状態から正圧状態にすると効果が大きい。
【0019】
また、ライナ26に繊維束32を巻き付けて高圧タンク24を製造する際に、先に巻いた内層部の繊維の緩みを防止できるため、中間層部から外層部まで、繊維に張力を充分にかけて繊維束32を巻き付けることができ、高い強度の高圧タンク24を製造することができる。さらに、繊維間の密着性および接着性を向上することができるため、繊維層における空隙等の発生も防止することができる。よって、繊維の積層時の張力を上げ過ぎることなく、積層時の繊維間の緩みを防止することができるため、タンク強度および疲労強度が確保され、高性能の高圧タンク24を製造することができる。
【0020】
繊維束32の巻き付け工程後、高圧タンク24は、加熱炉等において熱処理される。高圧タンク24は、例えば130℃程度で、10〜15時間程度加熱される。この加熱により、熱硬化性樹脂等が含浸された繊維束32が熱硬化され、図3に示すような補強層28が形成される。その後、高圧タンク24は冷却される。このようにして、ライナ26の外面に補強層28が形成された高圧タンク24が製造される。
【0021】
高圧タンク24は、ライナ(内容器)26、補強層(外層)28を含んで構成されている。また、高圧タンク24は、ガス充填・放出口等を備えてもよい。
【0022】
ライナ26は、略円柱状等に形成されてなり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナ26の形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。ライナ26の厚みは、例えば、2mm〜4mmの範囲である。
【0023】
ライナ26は、樹脂材料、金属等を含んで構成される。ライナ26を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナの肉厚やライナを構成する材料の種類は、ライナ26に要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。これらのうち、強度や耐ガス透過性等の点からナイロン等のポリアミド樹脂が好ましい。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造方法は、特にライナ26が樹脂材料から構成される場合に効果をより発揮する。
【0024】
樹脂材料から構成されるライナ26は、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナ26が成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナ26が成形される。
【0025】
補強層28は、ライナ26の外側を覆うように設けられてライナ26を補強する層であり、例えば、繊維およびマトリックス樹脂を含んで構成される。補強層28を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0026】
また、補強層28を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、強度や接着性等の点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
補強層28は、例えば、繊維の繊維束にマトリックス樹脂溶液を含浸させた状態でライナ26の外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて形成することができる。
【0028】
補強層28の厚みは、巻き付ける繊維束32の層数等により調整することができ、例えば、20mm〜40mmの範囲である。
【0029】
繊維束32は、例えば、上記繊維が10,000〜40,000本程度束ねられたものである。
【0030】
圧力調整機構14は、ライナ26の内部を負圧状態から正圧状態まで調整することが可能なものであればよく、その構成は特に制限されない。
【0031】
本明細書において「負圧状態」とは、大気圧より低い圧力の状態であればよく特に制限はないが、例えば、真空状態のことをいう。また、「正圧状態」とは、大気圧より高い圧力の状態であればよく特に制限はないが、例えば、加圧状態のことをいう。
【0032】
ライナ26の内部を負圧状態にすることにより、ライナ26の外径を例えば、元の状態(ライナ26の内部が大気圧の状態)に対して92.5%〜95%程度の外径とすればよい。また、ライナ26の内部を正圧状態にすることにより、ライナ26の外径を例えば、元の状態(ライナ26の内部が大気圧の状態)に対して102.5%〜105%程度の外径とすればよい。
【0033】
例えば、ライナ26の内部を負圧状態にしてライナ26の外面に内層部(例えば、1層目から2層目)の繊維束32を巻き付け、その後切替バルブ16を切り替えて、ライナ26の内部を正圧状態にして先に巻いて緩んだ繊維を巻き締め、中間層部から外層部(例えば、3層目以降)の繊維束32を巻き付ければよい。また、ライナ26の内部を負圧状態にしてライナ26の外面に内層部(例えば、1層目から2層目)の繊維束32を巻き付け、その後切替バルブ16を切り替えて、ライナ26の内部を正圧状態にして先に巻いて緩んだ繊維を巻き締め、中間層部(例えば、3層目から10層目)の繊維束32を巻き付け、中間層部よりもやや圧力を下げた状態にして外層部(例えば、11層目以降)の繊維束32を巻き付けてもよい。
【0034】
通常、繊維束32の巻き付け方向は、ライナ26の回転軸に対して垂直方向、または斜め方向である。
【0035】
本実施形態に係る高圧タンク24は、例えば、移動体に搭載され、内部に高圧ガスを貯蔵する高圧タンクである。また、高圧タンク24は、据え置き型の高圧タンクであってもよい。
【0036】
ここで、移動体としては、二輪の車両、バスや乗用車等の四輪以上の自動車のほか、電車、船舶、航空機、ロボットなどが挙げられ、特に燃料電池車両である。高圧ガスとしては、水素ガスや圧縮天然ガスなどが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法により得られる繊維束は、樹脂溶液を含浸させて硬化した繊維強化プラスチック材(FRP材)等として、各種素材の強化材等に用いることができる。例えば、炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)として、高圧タンク、自動車用シャフト、航空機の胴体、部品等の補強材として用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 高圧タンクの製造装置、10 繊維巻き付け装置、12 回転支持部、14 圧力調整機構、16 切替バルブ、18 負圧用配管、20 正圧用配管、22 圧力調整用配管、24 高圧タンク、26 ライナ(内容器)、28 補強層(外層)、30 シャフト、32 繊維束、34 ボビン、36 拡幅ローラ、38 繊維ガイド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、
ライナの内部を負圧状態にして前記ライナの外面に少なくとも1層目の繊維を巻き付け、その後、前記ライナの内部を正圧状態にして前記少なくとも1層目より後の層の繊維を巻き付けて繊維層を形成することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けた繊維層を含んで構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、
ライナの内部を負圧状態から正圧状態まで調整することが可能な圧力調整手段を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−230467(P2011−230467A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104958(P2010−104958)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】