説明

高圧タンク

【課題】低温条件下で気体が漏出するのを簡易かつ安価に抑制することができる高圧タンクを提供すること。
【解決手段】高圧タンク10は、開口部13を有し高圧の気体が充填されるタンク本体11と、当該タンク本体11の外面を覆い、当該タンク本体11を補強する補強材12と、を備える。タンク本体11は、補強材12で覆われていない外側突出部15を開口部13と異なる位置に備えている。この外側突出部15をタンク本体11の外側から電熱ヒータ30によって加熱することでタンク本体11を加熱し、シール部材22のシール性が低下するのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の気体が充填される高圧タンクに関する。詳しくは、低温条件下で気体が漏出するのを簡易かつ安価に抑制することができる高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然ガスや水素等の高圧の気体を燃料として用いる車両は、この気体が充填された高圧タンクを搭載している。この高圧タンクには、気密性を保つために、Oリング等のゴム製のシール部材が取り付けられている。
【0003】
しかしながら、このシール部材は、ゴム製であるため、温度が極低温(例えば、−50℃)以下になると劣化し、シール性が低下してしまう。すると、高圧タンクから気体が漏出するおそれがある。
例えば、以上の高圧タンクを搭載した車両が寒冷地を走行すると、走行距離の増加に伴って当該高圧タンク内の気体が消費され、当該高圧タンク内の圧力が低下する。すると、高圧タンク内に残っている気体が膨張し、温度が極低温まで低下してしまう。
【0004】
この問題を解決するため、高圧タンクを加熱することによりシール部材の温度低下を抑制する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、水素を収容するタンク本体から燃料電池に至る水素の流通路に、水素を吸蔵することで発熱する水素吸蔵合金が収容された水素吸蔵合金収容容器を接続し、さらに、水素吸蔵合金収容容器とタンク本体とを、ヒートパイプによって熱的に接続する。
この手法によれば、極低温まで温度が低下すると、水素吸蔵合金が水素を吸蔵して発熱する。この熱は、ヒートパイプによってタンク本体に伝達され、タンク本体が暖められる。
【特許文献1】特開2006−220234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で提案された手法では、タンク本体を暖めるために、タンク本体に収容した水素を水素吸蔵合金収容容器に一旦供給する必要があり、装置構成が複雑となりコスト高となる、という課題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低温条件下で気体が漏出するのを簡易かつ安価に抑制することができる高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る高圧タンク(例えば、後述の高圧タンク10)は、開口部(例えば、後述の開口部13)を有し高圧の気体が充填されるタンク本体(例えば、後述のタンク本体11)と、当該タンク本体の外面を覆い、当該タンク本体を補強する補強材(例えば、後述の補強材12)と、を備えた高圧タンクであって、前記タンク本体は、前記補強材で覆われていない露出部(例えば、後述の外側突出部15)を前記開口部と異なる位置に備え、当該露出部を前記タンク本体の外側から加熱する加熱手段(例えば、後述の電熱ヒータ30)を備えたことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、開口部と異なる位置に設けられた露出部を加熱手段によって加熱したので、この露出部を介してタンク本体の全体を温めることができ、シール部材の温度が過度に低下するのを抑制できる。したがって、低温条件下であっても、シール部材が劣化してシール性が低下するのを抑制でき、タンク本体から気体が漏出するのを効果的に抑制できる。
【0010】
ところで、高圧タンクの開口部付近には複数の部材が配置されており、シール部材を加温するための機器を追加するスペースを確保するのは困難である。
開口部付近に配置される複数の部材とは、例えば、気体の充填時に逆流を防止する逆止弁、気体放出時に使用する電磁弁、調圧用のレギュレータ、気体の圧力を測定する圧力センサ、気体の温度を測定する温度センサ、気体を供給するための配管、気密性を保つための上記シール部材等である。
しかしながら、本発明によれば、開口部と異なる位置に設けられた露出部を加熱したので、加熱手段を設置するスペースを容易に確保できる。
【0011】
また、加熱手段により露出部を加熱したので、加熱手段がタンク本体内部の高圧気体と直接接触することがない。このため、加熱手段を高圧対応の構造とする必要がなく、部品点数を少なくできるので、装置全体を小型化、軽量化できる。
【0012】
また、低温条件下で加熱手段により露出部を適宜加熱することで、露出部を介してタンク本体が加熱されて、タンク本体内の気体も温められ、気体の温度変化の幅を小さくできる。
【0013】
ところで、例えば、タンク本体は、アルミニウム合金からなり、補強材は、エポキシ樹脂等の接着剤を付着したカーボンファイバー等の強化繊維をタンク本体に巻き付けて形成される。この場合、タンク本体と補強材の熱膨張係数が異なるので、高圧タンクが温度変化の大きい環境下に曝されると、大きな熱応力が発生し、高圧タンクの耐久性が低下するおそれがある。
しかしながら、本発明によれば、タンク本体を加熱手段によって適宜加熱し、従来のように開口部を直接加熱する場合に比べて、露出部から開口部に伝熱させることで、タンク本体全体の温度変化を小さくすることにより、タンク本体と補強材との熱膨張係数の相違から生じる熱応力を低減でき、高圧タンクの耐久性が低下するのを抑制できる。
【0014】
この場合、前記露出部は、前記タンク本体の製造時に外方に突出形成された外側突出部(例えば、後述の外側突出部15)であることが好ましい。
【0015】
タンク本体は、フローフォーミング加工や、スピニング加工等により製造されるが、この成形加工時には、タンク本体を保持するために、一部が突出した形状となる。本発明によれば、この成形加工時に形成される突出部分を外側突出部として利用したので、加熱手段を取り付けるための大幅な構造変更は不要であり、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0016】
また、上述したように外側突出部は開口部と異なる位置にあるため、開口部付近に設けられる部材に加熱手段を接触させることなく、タンク本体を加熱できる。
さらに、タンク本体を熱伝導性の良いアルミニウム合金で形成した場合、開口部と離れた外側突出部を加熱しても、タンク本体の熱伝導により開口部付近を温めることができる。
【0017】
また、外側突出部は、開口部と異なり、水素等の可燃性気体の流通経路ではないので、外側突出部を加熱することで、タンク本体を安全に加熱することができる。
【0018】
この場合、前記加熱手段(例えば、後述の電熱ヒータ30およびヒータ取付部材40)は、前記露出部に対して着脱可能に設けられることが好ましい。
【0019】
この発明によれば、加熱手段をタンク本体の露出部に対して着脱可能に設けたので、例えば、タンク本体および補強材の設置場所を移動する際に、加熱手段を一旦取り外し、タンク本体および補強材を移動した後に、加熱手段を取り付ける。これにより、重量物であるタンク本体および補強材の移動作業中に、不慮の接触等による加熱手段の破損や故障を回避できる。また、加熱手段を取り外せない場合に比べて、高圧タンクの設置レイアウトの自由度を向上できる。さらに、加熱手段が故障しても、この加熱手段を良品と容易に交換できる。
【0020】
この場合、前記高圧タンクは、前記開口部に設けられたシール部材の温度を測定または推定する温度測定手段(例えば、後述の温度センサ35および電子制御装置)を更に備え、前記温度測定手段によって測定または推定された温度が前記シール部材の機能を維持可能な判定温度(例えば、後述の判定温度TL)未満となった場合に前記加熱手段(例えば、後述の電熱ヒータ30)を稼働させることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、シール部材の機能を維持可能な温度を判定温度とし、温度測定手段により測定または推定された気体の温度がこの判定温度未満となった場合に、加熱手段を稼働する。これにより、必要な場合にのみタンク本体を加熱することができ、効率よく加熱できる。
また、上述のように、シール部材は、温度が極低温である所定温度(例えば、−50℃)以下になると劣化し、シール性が低下してしまう。そこで、判定温度を、この所定温度よりも適宜高い温度に設定することで、シール部材が劣化するのを効果的に抑制することができる。
【0022】
温度測定手段は、温度センサで露出部の温度を測定し、この測定した温度に基づいて、シール部材の温度を推定してもよい。また、温度センサでタンク本体の腹部や開口部の温度を測定し、この測定した温度に基づいて、シール部材の温度を推定してもよい。
【0023】
この場合、前記加熱手段は、電熱ヒータ(例えば、後述の電熱ヒータ30)であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、加熱手段として電熱ヒータを用いたので、従来技術のような水素吸蔵合金収容容器等の熱交換手段に比べて、小型化できる。
その結果、電熱ヒータをタンク本体に直接螺合させたり、あるいは、ねじ構造を有する他の部材を介して電熱ヒータをタンク本体に取り付けたりすることで、加熱手段をタンク本体に容易に着脱できる。
また、上述のように気体の温度が所定の判定温度未満の場合に電熱ヒータを稼働することとすれば、使用電力量が少なくて済むので、電熱ヒータの電源として、別途搭載した小型の外部電源や、車両に搭載されたバッテリを用いることができる。よって、部品点数を削減できるとともに、装置全体を小型化できる。なお、車両が燃料電池を搭載している場合には、電熱ヒータの電源として、この燃料電池を用いることもできる。
【0025】
この場合、前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、前記加熱手段(例えば、後述のヒートパイプ60)は、車両用パワープラント(例えば、後述のエキゾーストパイプ50)から排出された熱を利用して前記タンク本体を加熱することが好ましい。
【0026】
ここで、車両用パワープラントとしては、燃料電池や、天然ガスや水素などの高圧気体を燃料とするレシプロエンジンが挙げられる。
この発明によれば、高圧タンクを車両に搭載した。車両は、寒冷地などの温度条件の厳しい環境下で使用されるので、加熱手段による加熱が特に有効となる。
また、車両の走行距離が増加するに従って、タンク本体内の気体が減少し、タンク本体内の温度も低下するため、タンク本体を加熱して、シール部材のシール性の低下を抑制する必要がある。しかしながら、車両の出力が増加するに従って、車両用パワープラントで生じる廃熱が増加するので、この廃熱をタンク本体の加熱に利用することにより、複雑な制御を行うことなく、簡易な構成で加熱でき、コストを低減できる。
【0027】
前記高圧タンクは、燃料電池(例えば、後述の燃料電池70)を備えた車両に搭載されるものであり、前記加熱手段は、前記燃料電池の廃熱を利用して前記タンク本体を加熱することが好ましい。
【0028】
この発明によれば、燃料電池の廃熱を利用してタンク本体を加熱することにより、当該タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減できる。
【0029】
前記高圧タンクは、燃料電池(例えば、後述の燃料電池70)を備えた車両に搭載されるものであり、前記加熱手段は、前記燃料電池の冷却システムの熱交換器(例えば、後述の熱交換器80)から得られる熱を利用して前記タンク本体を加熱することが好ましい。
【0030】
この発明によれば、燃料電池の冷却システムから得られる廃熱を利用してタンク本体を加熱することにより、タンク本体の加熱にかかるエネルギコストを低減することができる。
【0031】
前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、前記加熱手段は、前記車両のバッテリの廃熱を利用して前記タンク本体を加熱することが好ましい。
【0032】
この発明によれば、バッテリの冷却システムから得られる廃熱を利用してタンク本体を加熱することにより、タンク本体の加熱にかかるエネルギコストを低減することができる。
【0033】
前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、前記加熱手段は、前記車両の空調システムの熱交換器から得られる熱を利用して前記タンク本体を加熱することが好ましい。
【0034】
この発明によれば、車両の空調システムの熱交換器から得られる熱を利用してタンク本体を加熱することにより、タンク本体の加熱にかかるエネルギコストを低減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、開口部と異なる位置に設けられた露出部を加熱手段によって加熱したので、この露出部を介してタンク本体の全体を温めることができ、開口部に設けられたシール部材の温度が過度に低下するのを抑制できる。したがって、低温条件下であっても、シール部材が劣化してシール性が低下するのを抑制でき、タンク本体から気体が漏出するのを効果的に抑制できる。また、開口部と異なる位置に設けられた露出部を加熱したので、加熱手段を設置するスペースを容易に確保できる。また、加熱手段により露出部を加熱したので、加熱手段がタンク本体内部の高圧気体と直接接触することがない。このため、加熱手段を高圧対応の構造とする必要がなく、部品点数を少なくできるので、装置全体を小型化、軽量化できる。また、低温条件下で加熱手段により露出部を適宜加熱することで、露出部を介してタンク本体が加熱されて、タンク本体内の気体も温められ、気体の温度変化の幅を小さくできる。また、タンク本体を加熱手段によって適宜加熱し、従来のように開口部を直接加熱する場合に比べて、露出部から開口部に伝熱させることで、タンク本体全体の温度変化を小さくすることにより、タンク本体と補強材との熱膨張係数の相違から生じる熱応力を低減でき、高圧タンクの耐久性が低下するのを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。図2は、高圧タンク10の電熱ヒータ30が取り付けられる部分の拡大断面図である。
【0037】
<高圧タンク全体の説明>
高圧タンク10は、燃料電池車両(図示せず)に搭載され、高圧の水素が充填される。高圧タンク10は、内部空間を有し口金部14が形成されたタンク本体11と、口金部14に取り付けられた蓋部材20と、このタンク本体11の外面を覆う補強材12と、を備えている。
【0038】
タンク本体11は、アルミニウム合金等からなり、高圧の水素ガスが充填される。なお、本実施形態では、タンク本体11を熱伝導性の良いアルミニウム合金で形成したが、これに限らず、樹脂で形成してもよい。
口金部14は、タンク本体11の一端側に設けられた円筒形状であり、タンク本体11の内部空間と外部とを連通する開口部13が形成されている。口金部14の内周面には、雌ねじ部14aが設けられている。
補強材12は、タンク本体11を補強するものであり、例えば、エポキシ樹脂等の接着剤を塗布したカーボンファイバー等の強化繊維をタンク本体11に巻き付けて形成される。
【0039】
蓋部材20は、頭部20aと、外周面に雄ねじ部20cが形成された首部20bと、を備える。この蓋部材20には、高圧の水素ガスが流通するガス配管25が貫通している。
この蓋部材20の雄ねじ部20cを口金部14の雌ねじ部14aに螺合することで、蓋部材20は口金部14に取り付けられる。
蓋部材20の頭部と口金部14の先端面との間には、Oリング等のゴム製のシール部材22が介装されている。このシール部材22を挟んで、蓋部材20を口金部14に取り付けることで、タンク本体11の内部空間が密閉される。
【0040】
<外側突出部の説明>
タンク本体11のうち口金部14と反対側の端部つまり開口部13と異なる位置には、露出部としての外側突出部15が外方に突出形成されている。この外側突出部15は、補強材12で覆われておらず、外部に露出している。なお、補強材12の巻き方を工夫して、外側突出部15を露出させてもよい。
タンク本体11はフローフォーミング加工やスピニング加工等により製造されるが、この成形加工時にタンク本体11の一部を保持する必要があるため、外側突出部15は、この保持する部分として形成される。
【0041】
外側突出部15の先端面には、雌ねじ部15cが形成された穴部15bが設けられ、この穴部15bには、ヒータ取付部材40が着脱可能に取り付けられている。外側突出部15は、外部に露出しているため、ヒータ取付部材40が取り付け易くなっている。
【0042】
ヒータ取付部材40は、6角ボルトであり、温度センサ35が内蔵された頭部40aと、雄ねじ部40cが形成された首部40bと、を備える。また、ヒータ取付部材40には、頭部40aから首部40bに延びるヒータ取付穴40dが形成されている。
このヒータ取付部材40の雄ねじ部40cを外側突出部15の雌ねじ部15cに螺合することで、ヒータ取付部材40は外側突出部15に取り付けられる。
なお、このヒータ取付部材40の素材としては、例えばアルミニウム合金等、熱伝導性の良好な素材が好ましい。
なお、後述の第2実施形態に示すように、ヒータ取付部材40を外側突出部15に直接螺合せず、別部材であるねじにより外側突出部15に取り付けてもよい。
【0043】
温度センサ35は、ヒータ取付部材40の温度を測定し、図示しない温度測定回路を介して電子制御装置に出力する。
電子制御装置は、温度センサ35から出力された温度に基づいて、シール部材22の温度を推定する。具体的には、予め実験により温度センサ35の測定温度とシール部材22の温度との相関データを記録しておき、このデータに基づいて、上記シール部材22の温度を推定する。
なお、本実施形態では、温度センサ35によりヒータ取付部材40の温度を測定したが、これに限らず、シール部材22の温度を直接測定してもよいし、口金部14の開口部13内の温度を測定してもよい。
【0044】
<電熱ヒータの説明>
高圧タンク10には、外側突出部15をタンク本体11の外側から加熱する加熱手段としての電熱ヒータ30が設けられている。
電熱ヒータ30は、内部にニクロム線等の発熱体を収容した棒状のヒータ31と、この棒状ヒータに配線33を介して電力を供給する電源32と、を備える。
この電熱ヒータ30のヒータ31は、ヒータ取付部材40のヒータ取付穴40dに挿入されている。
【0045】
電熱ヒータ30により、外側突出部15を高圧タンク10の外側から加熱することにより、図1中矢印Aで示すように熱が伝わって、高圧タンク10に収容された水素が加熱される。
【0046】
<加熱制御の説明>
次に、電子制御装置による電熱ヒータ30の制御について、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0047】
先ずステップS1では、温度センサ35によりヒータ取付部材40の温度を測定し、この測定温度をTとする。ここでは、測定温度Tとシール部材22の温度とは相関性があり、測定温度Tに基づいてシール部材22の温度を推定できるものとする。
【0048】
次にステップS2では、測定温度Tが正常値か否かを判断する。ここで、正常値とは、温度センサ35を含む温度測定システムの構成部材が正常に機能していると推定できる温度である。ステップS2での判定がYESの場合には、ステップS3に移る。
【0049】
一方、ステップS2での判定がNOの場合、温度センサ35を含む温度測定システムの構成部材に異常であるため、ステップS6に移り、電熱ヒータ30をOFFにする。その後、ステップS7に移り、運転者に異常を報知して、終了する。
【0050】
ステップS3では、測定温度Tが判定温度TL未満であるか否かを判定する。
シール部材22の機能を維持できなくなる程度に低い温度を限界温度とすると、判定温度TLは、この限界温度よりも高い温度に設定される。
ステップS3での判定がYESの場合には、電熱ヒータ30をONにし、外側突出部15を加熱して終了する。
【0051】
一方、ステップS3での判定がNOの場合には、低温化によるシール部材22の弾性劣化の虞はなく、電熱ヒータ30による加熱は不要であるので、電熱ヒータ30をOFFにし、終了する。
【0052】
図4は、測定温度Tの温度変化を示す図である。
例えば、シール部材22の機能を維持できなくなる限界温度を「−50℃」とし、この限界温度に基づいて、判定温度TLを「−37℃」とする。
【0053】
時刻0から時刻tまでの間、時間の経過に伴ってシール部材22の温度は低下する。
時刻tでは、測定温度Tが「−37℃」未満となるため、電熱ヒータ30をONにする。
【0054】
すると、時刻t以降、この電熱ヒータ30で加熱することにより、外側突出部15を介して高圧タンク10全体が温められるので、図4中実線に示すように、測定温度Tは緩やかに低下し、一定となり、上記限界温度「−50℃」を下回ることがない。
一方、電熱ヒータ30で加熱しない場合には、図4中破線に示すように、時刻t以降、測定温度Tは、時間経過とともに低下し、限界温度「−50℃」を下回り、シール部材22の劣化が進行するおそれが生じる。
【0055】
なお、本実施形態では、判定温度TLを設定し、測定温度Tがこの測定温度TL未満である場合に電熱ヒータ30をONしたが、これに限らず、時間の経過に伴う測定温度Tの低下率を監視し、この測定温度Tの低下率が大きい場合に電熱ヒータ30をONしてもよい。
【0056】
以上の高圧タンク10によれば、以下のような効果がある。
すなわち、開口部13と異なる位置に設けられた外側突出部15を電熱ヒータ30によって加熱したので、この外側突出部15を介してタンク本体11の全体を温めることができ、開口部13に設けられたシール部材22の温度が過度に低下するのを抑制できる。したがって、低温条件下であっても、シール部材22が劣化して、シール性が低下するのを抑制でき、タンク本体11から気体が漏出するのを効果的に抑制できる。
【0057】
開口部13と異なる位置に設けられた外側突出部15を加熱したので、電熱ヒータ30を設置するスペースを容易に確保できる。
また、電熱ヒータ30により外側突出部15を加熱したので、電熱ヒータ30がタンク本体11内部の高圧の気体と直接接触することがない。このため、電熱ヒータ30を高圧対応の構造とする必要がなく、部品点数を少なくできるので、装置全体を小型化、軽量化できる。
【0058】
また、低温条件下で電熱ヒータ30により外側突出部15を適宜加熱することで、外側突出部15を介してタンク本体11が加熱されて、タンク本体11内の気体も温められ、気体の温度変化の幅を小さくできる。
【0059】
また、タンク本体11を電熱ヒータ30によって適宜加熱し、タンク本体11および気体の温度変化を小さくすることにより、タンク本体11と補強材12との熱膨張係数の相違から生じる熱応力を低減でき、高圧タンク10の耐久性が低下するのを抑制できる。
【0060】
また、成形加工時に形成される突出部分を外側突出部15として利用したので、電熱ヒータ30を取り付けるための大幅な構造変更は不要であり、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0061】
また、上述したように外側突出部15は開口部13と異なる位置にあるため、開口部13付近に設けられる部材に電熱ヒータ30を接触させることなく、タンク本体11を加熱できる。
さらに、タンク本体11を熱伝導性の良いアルミニウム合金で形成したので、開口部13と離れた外側突出部15を加熱しても、タンク本体11の熱伝導により開口部13付近を温めることができる。
【0062】
また、外側突出部15は、開口部13と異なり、水素等の可燃性気体の流通経路ではないので、外側突出部15を加熱することで、タンク本体11を安全に加熱することができる。
【0063】
また、電熱ヒータ30をタンク本体11の外側突出部15に対して着脱可能に設けたので、例えば、タンク本体11および補強材12の設置場所を移動する際に、電熱ヒータ30を一旦取り外し、タンク本体11および補強材12を移動した後に、電熱ヒータ30を取り付ける。これにより、重量物であるタンク本体11および補強材12の移動作業中に、不慮の接触等による電熱ヒータ30の破損や故障を回避できる。また、電熱ヒータ30を取り外せない場合に比べて、高圧タンク10の設置レイアウトの自由度を向上できる。さらに、電熱ヒータ30が故障しても、この電熱ヒータ30を良品と容易に交換できる。
【0064】
また、シール部材22の機能を維持可能な温度を判定温度TLとし、温度センサ35に基づいて推定された気体の温度がこの判定温度TL未満となった場合に、電熱ヒータ30を稼働する。これにより、必要な場合にのみタンク本体11を加熱することができ、効率よく加熱できる。
また、上述のように、シール部材22は、温度が極低温である所定温度(例えば、−50℃)以下になると劣化し、シール性が低下してしまう。そこで、判定温度TLを、この所定温度よりも適宜高い温度に設定することで、シール部材22が劣化するのを効果的に抑制することができる。
【0065】
電熱ヒータ30を用いたので、従来技術のような水素吸蔵合金収容容器等の熱交換手段に比べて、小型化できる。その結果、電熱ヒータ30をタンク本体11に直接螺合させることで、電熱ヒータ30をタンク本体11に容易に着脱できる。
また、上述のように気体の温度が所定の判定温度TL未満の場合に電熱ヒータ30を稼働させたので、使用電力量が少なくて済み、電熱ヒータ30の電源として、別途搭載した小型の外部電源や、車両に搭載されたバッテリを用いることができる。よって、部品点数を削減できるとともに、装置全体を小型化できる。
【0066】
なお、上記第1実施形態においては、温度センサ35をヒータ取付部材40に設け、このヒータ取付部材40の温度に基づいてシール部材22の温度を推定したが、これに限定されない。
すなわち、図5に示すように、温度センサ35により高圧タンク10の補強材12の温度を測定し、この補強材12の温度に基づいてシール部材22の温度を推定してもよい。また、図6に示すように、温度センサ35を、口金部14の開口部13を挿通してタンク本体11内に設けておき、タンク本体11内の気体の温度を測定し、このタンク本体11内の気体の温度に基づいて、シール部材22の温度を推定してもよい。
【0067】
また、本発明に係る高圧タンクは、CNG車両などの燃料電池を搭載していない車両にも搭載できる。
【0068】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態に係る高圧タンク10の電熱ヒータが取り付けられる部分示す部分断面図である。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0069】
この第2実施形態は、ヒータ取付部材40をねじ42により外側突出部15に固定した点が、第1実施形態と異なる。
すなわち、ヒータ取付部材40には、ねじ42が挿通される貫通穴40eが設けられている。
外側突出部15の先端面15dには、穴部15bが設けられておらず、2つのねじ穴15eが設けられている。
ねじ42は、ヒータ取付部材40の貫通穴40eに挿通され、外側突出部15のねじ穴15eに螺合されている。これにより、ヒータ取付部材40は外側突出部15に着脱可能に固定されている。
【0070】
この第2実施形態に係る高圧タンク10によれば、ヒータ取付部材40を外側突出部15に対してねじ42によって着脱自在に構成したので、上記第1実施形態の場合と同様の効果を奏する。
【0071】
〔第3実施形態〕
図8は、本発明の第3実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。
この第3実施形態は、高圧タンク10が車両に搭載され、エキゾーストパイプ50から排出された熱を利用してタンク本体11を加熱している点が、第1実施形態と異なる。
【0072】
すなわち、車両のエキゾーストパイプ50には、接続部材62を介して、ヒートパイプ60が接続されている。このヒートパイプ60の先端側は、タンク本体11の外側突出部15に接続されている。
【0073】
この第3実施形態に係る高圧タンク10によれば、以下のような効果がある。
すなわち、車両は、寒冷地などの温度条件の厳しい環境下で使用されるので、エキゾーストパイプ50から排出された熱による加熱が特に有効となる。
【0074】
また、車両の走行距離が増加するに従って、タンク本体11内の気体が減少し、タンク本体11内の温度も低下するため、タンク本体11を加熱して、シール部材22のシール性の低下を抑制する必要がある。しかしながら、車両の走行距離が増加するに従って、エキゾーストパイプ50で生じる廃熱が増加するので、この廃熱をタンク本体11の加熱に利用することにより、複雑な制御を行うことなく、簡易な構成で加熱でき、コストを低減できる。
【0075】
なお、第3実施形態においては、車両用パワープラントの熱源として、エキゾーストパイプ50を挙げたが、これに限定されず、例えば、触媒を用いてもよい。
また、車両用パワープラントとしては、天然ガスや水素などの高圧ガスを燃料としたレシプロエンジンが挙げられる。
【0076】
〔第4実施形態〕
図9は、本発明の第4実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。
この第4実施形態に係る高圧タンク10は、燃料電池70を備えた車両に搭載され、燃料電池の冷却システムから得られる廃熱を利用してタンク本体11を加熱する点が、第1実施形態と異なる。
【0077】
すなわち、この燃料電池の冷却システムは、電気化学反応により発熱した燃料電池を冷却するためのものである。この燃料電池の冷却システムは、燃料電池70に冷媒を循環させる第1の配管71と、第1の配管71に設けられたラジエータ73と、ラジエータ73に送風する送風ファン74と、第1の配管71に冷媒を循環させるポンプ76と、第1の配管71に接続されて燃料電池70をバイパスする第2の配管72と、第2の配管72内を流通する冷媒と外側突出部15との間で熱交換する熱交換器80と、を備える。
また、第1の配管71には、第1のバルブ77が設けられ、第2の配管72には、第2のバルブ78が設けられる。
【0078】
この燃料電池の冷却システムによれば、第1のバルブ77および第2のバルブ78を適宜開閉することによって、燃料電池70から排出される熱が冷媒を介して熱交換器80に伝達され、この熱によって外側突出部15が加熱され、タンク本体11が加熱される。
【0079】
この第4実施形態に係る高圧タンク10によれば、燃料電池の冷却システムから得られる廃熱を利用してタンク本体11を加熱することにより、タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減できる。
【0080】
〔第5実施形態〕
図10は、本発明の第5実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。
この第5実施形態に係る高圧タンク10は、燃料電池70を備えた車両に搭載され、燃料電池70の廃熱を利用してタンク本体11を加熱する点が、第1実施形態と異なる。
【0081】
すなわち、燃料電池70には、接続部材62を介して、ヒートパイプ60が接続されている。このヒートパイプ60の先端側は、タンク本体11の外側突出部15に接続されている。
【0082】
この第5実施形態に係る高圧タンク10によれば、燃料電池70から得られる廃熱を利用してタンク本体11を加熱することにより、タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減できる。
【0083】
〔第6実施形態〕
図11は、本発明の第6実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。
この第6実施形態に係る高圧タンク10は、バッテリ63を備えた車両に搭載され、バッテリ63の廃熱を利用してタンク本体11を加熱する点が、第1実施形態と異なる。
【0084】
すなわち、バッテリ63には、接続部材62を介して、ヒートパイプ60が接続されている。このヒートパイプ60の先端側は、タンク本体11の外側突出部15に接続されている。
【0085】
この第6実施形態に係る高圧タンク10によれば、バッテリ63から得られる廃熱を利用してタンク本体11を加熱することにより、タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減できる。
【0086】
〔第7実施形態〕
図12は、本発明の第7実施形態に係る高圧タンク10を示す断面図である。
この第7実施形態に係る高圧タンク10は、空調システムを備えた車両に搭載され、空調システムの熱交換器90から得られる廃熱を利用してタンク本体11を加熱する点が、第1実施形態と異なる。
【0087】
すなわち、この空調システムは、車両内の空調を行うためのものである。この空調システムは、冷媒を循環させる配管91と、配管91に設けられたラジエータ92と、ラジエータ73に送風する送風ファン93と、配管91に冷媒を循環させるポンプ94と、配管91内を流通する冷媒と外側突出部15との間で熱交換する熱交換器90と、を備える。
また、配管91には、バルブ95が設けられる。
【0088】
この燃料電池の空調システムによれば、バルブ95を適宜開閉することによって、冷媒が配管91内を流通し、冷媒からの熱が熱交換器90に伝達され、この熱によって外側突出部15が加熱され、タンク本体11が加熱される。
【0089】
この第7実施形態に係る高圧タンク10によれば、空調システムから得られる熱を利用してタンク本体11を加熱することにより、タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減できる。
【0090】
また、熱源として、電装ユニット、モータ、空調用のコンプレッサ等からの廃熱を利用してもよい。これらの場合も、タンク本体11の加熱にかかるエネルギコストを低減することができる。
【0091】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高圧タンクを示す断面図ある。
【図2】電熱ヒータが取り付けられる部分を示す拡大断面図である。
【図3】電熱ヒータの制御方法を示すフローチャートである。
【図4】電熱ヒータの加熱による温度変化を示すグラフである。
【図5】本発明の第1の変形例に係る温度センサの配置を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の変形例に係る温度センサの配置を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る電熱ヒータの取り付け例を示す部分断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る高圧タンクを示す断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る高圧タンクを示す断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る高圧タンクを示す断面図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係る高圧タンクを示す断面図である。
【図12】本発明の第7実施形態に係る高圧タンクを示す断面図である。
【符号の説明】
【0093】
10 高圧タンク
11 タンク本体
12 補強材
13 開口部
15 外側突出部(露出部)
20 蓋部材
22 シール部材
30 電熱ヒータ(加熱手段)
35 温度センサ(温度測定手段)
50 エキゾーストパイプ(車両用パワープラント)
60 ヒートパイプ(加熱手段)
70 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し高圧の気体が充填されるタンク本体と、
当該タンク本体の外面を覆い、当該タンク本体を補強する補強材と、を備えた高圧タンクであって、
前記タンク本体は、前記補強材で覆われていない露出部を前記開口部と異なる位置に備え、
当該露出部を前記タンク本体の外側から加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記露出部は、前記タンク本体の製造時に外方に突出形成された外側突出部であることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記タンク本体の前記露出部に対して着脱可能に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の高圧タンク。
【請求項4】
前記開口部に設けられたシール部材の温度を測定または推定する温度測定手段を更に備え、
前記温度測定手段によって測定または推定された温度が前記シール部材の機能を維持可能な判定温度未満となった場合に前記加熱手段を稼働させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項5】
前記加熱手段は、電熱ヒータであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項6】
前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、
前記加熱手段は、車両用パワープラントから排出された熱を利用して前記タンク本体を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項7】
前記高圧タンクは、燃料電池を備えた車両に搭載されるものであり、
前記加熱手段は、前記燃料電池の廃熱を利用して前記タンク本体を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項8】
前記高圧タンクは、燃料電池を備えた車両に搭載されるものであり、
前記加熱手段は、前記燃料電池の冷却システムの熱交換器から得られる熱を利用して前記タンク本体を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項9】
前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、
前記加熱手段は、前記車両のバッテリの廃熱を利用して前記タンク本体を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。
【請求項10】
前記高圧タンクは、車両に搭載されるものであり、
前記加熱手段は、前記車両の空調システムの熱交換器から得られる熱を利用して前記タンク本体を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高圧タンク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−185923(P2009−185923A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27355(P2008−27355)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】