説明

1次元モデルを使用して電力分配ネットワークの電気的特性を決定するシステム及び方法

【課題】1次元モデルを使用して電力分配ネットワークの電気的特性を決定するシステム及び方法を提供する。
【解決手段】システムの1次元シミュレーションを使用して電力分配ネットワークの電気的特性を決定するシステム及び方法。集積回路の電力分配ネットワークの抵抗値を決定する方法を具備し、そして、該電力分配ネットワークの1次元モデルを定義することと、各シミュレーションが該所望のネットワーク特性についての結果を生成することを含む該1次元モデルの複数回のシミュレーションを実行すること、そして該複数のシミュレーションの結果を統合することとを含む。該1次元モデルは、該電力分配ネットワークの総合抵抗値が、係数と該ネットワークの各層に対する代表構成要素抵抗値との総和に等しい方程式を備える。該方程式は、確率分布へと統合されるネットワーク抵抗値の集合を生成するために構成要素抵抗値の複数の集合について解かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に集積回路の設計に係り、そしてより詳しくは、従来の3次元シミュレーションに代えてシステムの1次元シミュレーションを使用して電力分配ネットワークのようなシステムの電気的特性を決定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路は、多くの独立した電気的構成素子、例えば、トランジスタ、抵抗器、キャパシタ、ダイオード、その他、を含み、それらはより大きな構成素子、例えば、論理ゲート、メモリ・セル、センス増幅器、等、を形成するために配置されそして相互接続される。これらの構成素子は、さらに大きな構成要素、例えば、プロセッサ・コア、バス・コントローラ、及びその他、を形成し、それらはコンピュータ、セル電話機、PDA、等のようなデバイスを構築するために使用される。しかしながら、これらの電気的構成素子及びデバイスは、電源なしでは動作することができない。したがって、これらの構成素子及びデバイスを組み立てるときに、集積回路の外部にある電源からその集積回路のチップ上の構成素子のそれぞれに電力を供給することが可能な電力分配ネットワークを提供することが必要である。
【0003】
一般的に、集積回路中の電力分配ネットワークは、複数の金属層とその金属層を相互接続する複数のビアの層を含む。電力分配ネットワークは、しかも外部電源への接続のためのコンタクトを含み、同様に集積回路の構成素子へのコンタクトをも含む。従来、各金属層は、1つの方向に向けられているトレースを含み、そして連続する金属層のトレースは、異なる(垂直な)方向に向けられる。それゆえ、所定のコンタクトにおいて電力分配ネットワークに供給される電力は、1つの方向に延びる第1のトレースへのコンタクトに接続することにより、そして次に別の方向に延びる第2のトレースに第1のトレースを接続することによって基本的に任意の方向に伝達されることができる。
【0004】
集積回路の電力分配ネットワークが自分自身の生来の電気的特性を有するので、集積回路の構成素子に供給される電力に影響を及ぼす。例えば、電力分配ネットワークが抵抗を有するために、ある量の電力を浪費する、そして集積回路構成素子に供給される電圧は、外部電源とのコンタクトにおける電圧よりも幾分か低くなる。電力分配ネットワークがチップ上の集積回路構成素子に供給される電力に影響を及ぼすため、チップ上の構成素子が適正に動作することを確実にするために、チップ上の電力がどのように影響されるかを知ることは、重要である。
【0005】
これは、一般的に電力分配ネットワークの構成素子をモデル化し、そしてネットワークを経由する電力の伝達をシミュレーションすることによって実現される。上記のように、電力分配ネットワークは、金属とビアの複数の層からなる。これらの層は、3次元構造を形成し、そのため電力分配ネットワークは、従来は電気的構成素子(例えば、抵抗器)の3次元構造としモデル化されている。3次元モデルが構成されたあとで、その構造内の構成素子のそれぞれに対する期待値が、モデルの中に取り込まれることができ、そしてネットワークの性能(behavior)は、電力分配ネットワークの総合電気特性(例えば、電源と集積回路上の様々な場所との間のネットワークの抵抗)を計算することによってシミュレーションされる。
【0006】
電力分配ネットワークの構成素子のそれぞれが、可能な値の範囲を有することができるために、可能性のある構成素子の値の多くの異なる集合を使用してネットワークの性能をシミュレーションすることが望ましい。一般的に、各構成素子に対する値は、モンテ・カルロ法を使用して選択され、そこでは特定の値が重み付けされる確率は期待される分配値にしたがう。言い換えると、特定の構成素子に対して選択される値は、中央値からかけ離れることよりはむしろ中央値により近い可能性がある。3次元電力分配ネットワーク・モデルの複数の異なるシミュレーションの結果は、次に統合されて(例えば、平均されて)ネットワークの総合電気特性を決定する。
【0007】
電力分配ネットワークの電気的特性を決定するためのこの従来法が集積回路を設計する際に非常に有用である一方で、多くの欠点を有する。例えば、電力分配ネットワークの3次元モデル化が一般的に非常に複雑であるために、3次元モデルを使用してネットワークの性能をシミュレーションすることは、非常に多くの計算労力を必要とする。この方法が計算集中型であるために、同様に非常に多くの時間を必要とする。例えば、マルチ・コア・プロセッサに対する(構成要素値の1つの対応する集合を使用した)電力分配ネットワークの1つのシミュレーションは、10分を要することがある。もし1つのシミュレーションだけが必要である場合には、これは耐え難い負担となることはないが、各構成要素に対する値の範囲のために、多くの(例えば、1000の、又は10000でさえも)シミュレーションが実行される必要があり、そして対応する結果が電力分配ネットワークの性能の適度に正確な推定値に到達するために統合される。この数多くのシミュレーションの完了に要する時間は、明らかに非常に長い。
【0008】
それゆえ、はるかに大きな計算効率で、そしてはるかに短い時間で、従来方法と同等の精度で電力分配ネットワークの性能を決定するためのシステム及び方法を提供することが望まれている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に概要を示された問題のうちの1又はそれより多くは、本発明の様々な実施形態によって解決されることができる。大雑把に言って、本発明は、従来の3次元シミュレーションの代わりにシステムの1次元シミュレーションを使用して電力分配ネットワークのようなシステムの電気的特性を決定するためのシステム及び方法を含む。
【0010】
1つの実施形態は、集積回路の電力分配ネットワークの所望の特性、例えば、該ネットワークの総合抵抗値を決定する方法を具備する。本方法は、該電力分配ネットワークの1次元モデルを定義することと、該1次元モデルの複数回のシミュレーションを実行すること、ここにおいて、各シミュレーションは該所望のネットワーク特性についての結果を生成することを含み、そして該複数のシミュレーションの該複数の結果を統合することとを含む。
【0011】
1つの実施形態では、該1次元モデルを定義することは、該電力分配ネットワークの該所望の特性が該電力分配ネットワーク中の複数の層のそれぞれに対する該特性の線形関数である方程式を定義することを含む。例えば、該電力分配ネットワークの総合抵抗値は、該ネットワークの各層に対する係数と代表構成要素抵抗値との総和に等しく設定されることができる。該係数は、構成要素値を選択すること、該係数が未知である方程式の複数の事例(instance)を生成するために従来の3次元モデルを使用して該電力分配ネットワークをシミュレーションすること、そして次に、正確に又は回帰技術を使用することのいずれかで、これらの係数を解くことによって初めには決定されることができる。該1次元モデルの各シミュレーションでは、該電力分配ネットワークの各層に関する該値は、該それぞれの層構成要素について確率分布にしたがって擬似ランダム方式で選択されることができる。これらの分布は、各構成要素により影響される領域を決定すること、そして該影響される領域中の該複数の構成要素を平均することによって狭められることができる。該シミュレーションの結果は、該電力分配ネットワークの該所望の特性についての確率分布を生成するために統合されることができる。
【0012】
本発明の別の1つの実施形態は、コンピュータ・システムを具備することができ、そのシステムは上記のような方法を実行するために構成される。該コンピュータ・システムは、適切なタイプのデータ・プロセッサ及び該方法を実行するために該データ・プロセッサによって実行可能な命令を含んでいる記憶媒体を含むことができる。別の1つの実施形態は、複数の命令を含んでいる記憶媒体を備えることができる。
【0013】
多数のさらなる実施形態が、同様に可能である。
【0014】
本発明の様々な実施形態は、従来技術よりも数多くの利点を提供することができる。例えば、電力分配ネットワークの性能をシミュレーションするための1次元モデルの使用は、総合ネットワーク抵抗値の確率分布を生成するために、従来の3次元モデル化を使用するときに必要とされるものよりも実質的により少ない計算リソースと計算時間しか必要としないことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の別の目的及び利点は、次の詳細な説明を読むとそして添付した図面を参照すると明確になる。
【0016】
本発明が様々な変形及び代わりの形態を前提としているが、それらの具体的な実施形態は、図面及びそれに伴う詳細な説明に一例として示される。図面及び詳細な説明は、記述された特定の実施形態に限定するようには意図されていないことが理解されるはずである。本明細書は、その代わりに添付された特許請求の範囲により規定されるような本発明のスコープの範囲内になる全ての変形、等価なものそして代替物をカバーするように意図されている。
【0017】
本発明の1又は複数の実施形態が、以下に記述される。下記に説明されるこれらの実施形態及びいずれかの別の実施形態は、具体例であり、そして本発明を限定するのではなく例示的であるように意図されていることに注意すべきである。
【0018】
大雑把に言って、本発明は、電力分配ネットワークのようなシステムの電気的特性、例えば、抵抗を、計算に負荷のかかる従来の3次元モデルの代わりに1次元モデルを使用してシミュレーションすることにより効率的且つ正確に決定するためのシステム及び方法を含む。
【0019】
1つの実施形態では、電力分配ネットワークの抵抗を決定するための方法は、ネットワーク中の各層の抵抗によって直線的に変化する単純な方程式を使用する。3次元モデル化は、電力分配ネットワーク全体の抵抗に関する値を生成するために使用され、それらは次にその層の抵抗値が方程式中で掛け算される係数を決定するために使用される。これらの係数が決定された後で、方程式は、その層抵抗値に対して異なるポテンシャル値を使用して電力分配ネットワーク抵抗のシミュレーションのための1次元モデルとして機能する。
【0020】
この実施形態では、電力分配ネットワークは、ネットワークの複数の層(コンタクト、金属、ビア)のうちの1つを表す各抵抗器を用いて、直列接続抵抗器の集合として見られる。電力分配ネットワークの全抵抗値は、そのように複数の層のそれぞれの抵抗値の総和である。これは次式により表される:
network=Σ(A*R
ここで、Rnetworkは、そのネットワークの抵抗値であり、Rは、配線に対するシート抵抗又はビアに対するビア抵抗のようなネットワーク中の個々の層の抵抗値であり、そしてAは、抵抗値Rが掛け算される係数である。Rnetworkは、したがって、各層の抵抗値の関数である。係数Aは、Rにより表される各層の抵抗値を拡大、縮小して調整する。
【0021】
初期には、係数Aは未知である。これらの係数の値を決定するために、各層の抵抗値の様々な可能な値が、従来の3次元モデルに組み込まれ、それはその後、電力分配ネットワークの全抵抗を決定するためにシミュレーションされる。これは、抵抗値が既知である方程式を生成するが、係数値は、未知である。3次元モデルをシミュレーションする処理は、さらなる方程式を生成するために複数の層に対して異なる抵抗値を用いて繰り返され、その各々は既知の抵抗値と未知の係数値を有する。十分な数の(すなわち、未知の係数と同数の)これらの方程式が生成されると、それらの方程式は、その係数を解くために使用されることができる。係数の値は、電力分配ネットワークの全抵抗値が層抵抗値だけの関数になるように、次に元の方程式に代入される。
【0022】
方程式は、次に電力分配ネットワークの1次元モデルとして使用される。この1次元モデルは、複数の層のそれぞれに対して可能性のある抵抗値を使用して繰り返しのシミュレーションを実行するために使用される。1次元モデル(その方程式)は、3次元モデルが従来使用されている同じ方法で使用されるが、1次元モデルを使用する各シミュレーションは、3次元モデルを使用する対応するシミュレーションよりもはるかに少ない計算能力とはるかに短い時間しか必要としない。実際に、1次元モデルの使用は、計算の必要量及び時間の必要量を100分の1から1000分の1に削減することができる。効率の良い1次元モデルであるにも拘らず、このモデルを使用して生成される結果は、従来の3次元モデルを使用して生成される結果と精度において同等である。
【0023】
本発明の具体例の実施形態を詳細に説明する前に、モデル化されようとしている電力分配ネットワークの構造を精査することは、有用であろう。上記のように、電力分配ネットワークは、様々な層からなり、それらは外部電源から集積回路のチップ上の様々な構成素子に延びる相互接続するネットワークを形成する。図1を参照して、複数のこれらの層の透視図を与える図が示される。より詳しくは、図1は、ネットワーク中の複数の金属層のうちの2層を示す。第1の方向に向けられた一連のトレースからなる上側金属層110が認められる。下側金属層120は、同様に一連のトレースを有するが、そのトレースは、第1の方向に垂直な第2の方向に向けられている。層110と120との間は、ビアの層130であり、それは層110のトレースと層120のトレースとを接続する。異なる金属層中のトレースにより、電力は、集積回路の領域全面にわたる多くの異なる点に分配されることができる。
【0024】
図2を参照して、電力分配ネットワークの構造の断面図を例示する図が示される。この図に図示された電力分配ネットワークは、M1−M9として示される9層の異なる金属層を含む。(連続する金属層のトレースは、異なる方向に向けられているが、これらの層は、明確さにために一体として分解されない層として図示される。)金属層の間は、8層のビアがあり、V1−V8として示される。層M1のトレースは、層V1中のビアにより層M2のトレースに接続され、層M2のトレースは、層V2中のビアにより層M3のトレースに接続される、等である。コンタクトを形成する2層(CAとC4)がある。コンタクト層CAは、金属層M1のトレースを集積回路チップの表面の構成素子に接続する、一方でコンタクト層C4は、金属層M9のトレースを外部電源に接続する。
【0025】
図2に示された様々な層の間に幾つかの違いがあることが理解される。例えば、金属層は、複数の異なる厚さを有する。同様に、異なる層のビアは、異なる大きさと間隔を有する。層CA中のコンタクトは、しかも層C4中のコンタクトとは異なる大きさと間隔を有する。これらの違いは、設計考慮事項の多様性に由来する。例えば、金属層M9のトレースは、下層側の金属層のトレースよりもさらに大きな電流を搬送する必要があり得る、そのため、これらのトレースを下層側のトレースよりもさらに広くそしてさらに厚く作成する必要があり得る。同じことは、別の層のコンタクト及びビアについても真実であり得る。これらの相違の結果として、各層は、異なる電気的特性を有することがある。例えば、層C4中のコンタクトが層CA中のコンタクトよりも数が少なくそして大きいことがあるために、層C4中のコンタクトは、層CA中のコンタクトよりも大きな単位面積当りの抵抗値を有することがある。
【0026】
上記に示されたように、集積回路の複数の構成素子に供給される実際の電力の特性は、電力分配ネットワークの外部(C4)コンタクトにおいて電源によって印加される電力の特性と同じではない、その理由は、電力分配ネットワークそれ自身の電気的特性のためである。したがって、集積回路構成素子に印加される電力に影響を及ぼす電力分配ネットワークの特性を決定する必要がある。従来、これは電力分配ネットワークの3次元モデルを採用するシミュレーションの使用を通して実現されている。
【0027】
従来の方法を使用して、電力分配ネットワークは、SPICEのような設計ツールを使用して非常に精密にモデル化された。これらのツールは、ユーザが電力分配ネットワークの3次元構造を規定することを可能にする。ユーザは、次に、ネットワークの個々の構成要素に関係付けられるデータ(例えば、各コンタクト又はトレースの抵抗値)を入力することができ、構成要素レベルでネットワークの電気的特性を規定することができる。次に、総合特性、例えば、電力分配ネットワークの総抵抗値を決定するために、ユーザは、ネットワークの性能(behavior)をシミュレーションすることができる(すなわち、構成要素の特性に基づいて総合電気的特性を計算する)。3次元モデルの複雑性のために、電力分配ネットワークの性能のシミュレーションは、構成要素特性に関する値の1つの特定の集合を仮定して、非常に大きな計算リソースと計算時間を必要とする。1つのシミュレーションは、例えば、10分を要することがある。
【0028】
しかしながら、1つのシミュレーションは、電力分配ネットワークの総合的な性能を決定するために通常は十分ではない。上記のように、個々のシミュレーションは、ネットワーク内部の各構成要素に対して仮定される値の対応する集合に基づいている。製造の許容範囲及び様々なその他の要因のために、個々の構成要素の特性の実際の値は、“同一の”構成要素の間で変化することがある。より詳しくは、これらの特性の値は、通常その構成要素に関係付けられる個々の確率分布にしたがって変化する。これらの確率分布は、変化することがあるが、具体例の分布が、図3Aに示されている。
【0029】
図3Aを参照して、個々の構成要素の個々の特性に対して可能な値が図示された確率分布内のどこかになり得ることが理解される。この例では、それらの値は、平均値xの周りに密集する傾向がある。1つの構成要素がある特定の値を有する見込みは、xからの距離が増加するにつれてこの例では減少するが、その値は、その分布の中に含まれる値全体にわたり分散される。別の確率分布が可能であり、そしてその分布は、非対称であり得る又はそうでなければ図3Aに示されたものとは異なることがあり得る(図3B参照)。その理由は、現実には、個々の構成要素についての個々の特性の値が、対応する確率分布の範囲内で変化することがあり、電力分配ネットワークのシミュレーションの際に、ばらつきを考慮する必要があるためである。
【0030】
これは、モンテ・カルロ法を使用して複数のシミュレーションを実行することによって実現される。言い換えると、各シミュレーションについてのその個々の構成要素の特性値は、対応する確率分布にしたがってランダムな(又は擬似ランダムな)方法で選択される。そのように、図3Aに示された確率分布と同様の確率分布を有する構成要素は、xの周りに密集する確率が高い値を選択するであろう、そしてxから離れて広く分散される可能性は低いであろう。電力分配ネットワークの複数の構成要素のそれぞれが関心のある特性に関して類似のばらつきを有するために、異なる構成要素に関する値の多くの異なる組み合わせを考慮しようと試みるために非常に数多くのシミュレーションを実行する必要がある。上に述べたように、一般的に数千のシミュレーションを実行する必要がある。
【0031】
シミュレーションの結果は、一般的に統合され、ネットワークの個々の構成要素の分布に類似の電力分配ネットワークについての分布を生成する。言い換えると、シミュレーションの結果は、その電力分配ネットワークの特性である確率分布にしたがって変化する。この確率分布は、例えば、図3Aに示されたものと同様であり得て、そのため、結果の大部分が特定の値の近くにグループ分けされ、そしてシミュレーション結果がこの値から離れる見込みは、この値からの距離とともに減少する。
【0032】
電力分配ネットワークの総合特性を決定するための(例えば、そのネットワークの総合抵抗値についての確率分布を決定するための)従来法は、それゆえ図4に示されたようにまとめられることができる。従来法は、モデルの初期化で始まり(410)、シミュレーション・カウンタを0に設定することを含む。擬似ランダム値は、次に電力分配ネットワーク構成要素のそれぞれについて対応する確率分布にしたがって選択される(420)。構成要素の値が選択された後で、電力分配ネットワークのシミュレーションは、そのネットワークの3次元モデルを使用して実行される(430)。シミュレーションの結果は、次に記録され(440)、そしてシミュレーション・カウンタが増加される(450)。シミュレーション・カウンタは、次にシミュレーションの所望の数、N、と比較される(460)。もし、シミュレーション・カウンタがNよりも小さい場合には、所望の数のシミュレーションが、まだ実行されていない、そして処理は繰り返されて、そのネットワーク構成要素に対する擬似ランダム値の新たな集合の選択で始まる(420)。もし、シミュレーション・カウンタがNよりも大きい又はそれに等しい場合には、所望の数のシミュレーションは、既に実行されており、そのためシミュレーションの結果は、例えば、その結果についての確率分布を生成するために複数の結果を統合することによって最終的に決定される。
【0033】
本発明の実施形態では、3次元モデルに基づく繰り返しシミュレーションの大部分は、はるかに計算上効率的であり、そして時間浪費の少ない1次元モデルのシミュレーションによって置き換えられる。電力分配ネットワークの抵抗値をシミュレーションするための1次元モデルは、図5に示されるように、抵抗薄膜の積み重ねのようにネットワークを見ることに基づく。(ネットワークの1次元モデルは、別の電気的特性を計算するときには異なることがある。)上に説明したように、電力分配ネットワークは、複数の層の金属トレース、ビア及びコンタクトを含む。これらの層のそれぞれは、その積み重ね中の複数の抵抗薄膜のうちの1つとして見られる。(ネットワークがそこで外部電源に接続される)積み重ねの最上部から(ネットワークが集積回路のチップ上の構成素子にそこで接続される)積み重ねの最下部までの電力分配ネットワークの抵抗値は、したがって複数の薄膜の抵抗値の総和である。
【0034】
各層の抵抗値は、抵抗の代表値と対応する係数の積として表される。代表抵抗値は、例えば、ビア層を考えるときには複数のビアのうちの1つの抵抗値、金属層を考えるときには複数のトレースのうちの1つのシート抵抗値であり得る。代表抵抗値に対応する係数は、この抵抗を層の単位面積(例えば、1mm2)に対応するように効果的にスケーリングする。電力分配ネットワークの抵抗値は、したがって次の方程式によって表されることができる:
network=AC4*RC4+AM9*RM9+AV8*RV8+...+ACA*RCA
ここでRnetworkは、そのネットワークの抵抗値であり、R[layer]は、対応する層の抵抗値であり、そしてA[layer]は、その層抵抗値R[layer]に対応する係数である(層識別子、例えば、C4、M9、等は、ここでは“[layer]”に置き換えられる)。抵抗値は、あるいは次の方程式により表されることができる:
network=Σ(A*R
ここで、AとRは、層iに対応し、そして総計することは、全ての層にわたる。等価の直列接続抵抗器が、図5の右側に図示される。
【0035】
初期には、係数Aは、未知であり、そのためこの方程式は、(上記の形式のいずれにおいても)電力分配ネットワークの抵抗値を決定するために使用することができない。それゆえ、これらの係数を決定する必要があり、その結果、方程式は、3次元モデルに基づいた従来のシミュレーションの代わりに電力分配ネットワークの抵抗値をシミュレーションするために使用されることができる。これは、方程式の複数の事例(instance)の中に組み込まれることができる抵抗値を割り出すことによって、そして次に複数の係数について解くために方程式のこれらの事例を使用することによって実現される。これは下記により詳細に説明される。
【0036】
この処理の第1ステップは、方程式の中へと組み込む抵抗値を選択することである。各層の抵抗値は、各層を形成する構成要素(トレース、ビア、コンタクト)に対する製造データから決定されることが可能である。例えば、ビア層に関して、1つのビアの公称の抵抗値と単位面積当りのビアの数は、既知である。単位面積当りの抵抗値は、この情報から決定されることができる。単位面積当りの抵抗値は、次にRとして方程式に組み込まれることができる、ここで、iは対応する層の識別子である。これは、各層に対して繰り返されることができ、方程式の右辺の中へと組み込まれる対応する抵抗値を決定する。
【0037】
しかしながら、未知数として複数の係数、A、だけを残して、Rnetworkの値が方程式の左辺に組み込まれることを可能にするように、Rnetworkを決定することが未だ必要である。1つの実施形態では、Rnetworkは、通常通り決定される。すなわち、各層に対するRを決定するために使用される値は、3次元モデル中へと組み込まれ、それは次にRnetworkの値を生成するためにシミュレーションされる。この値は、次に方程式の中へと組み込まれ、全ての抵抗値が既知であり、そして全ての係数値が未知である方程式の1つの事例を生成する。
【0038】
ネットワークの抵抗値Rnetworkを生成するために、電力分配ネットワーク構成要素の複数の抵抗値を選択し、複数の層抵抗値Rを計算し、そして3次元電力分配ネットワークをシミュレーションするための処理は、その後、方程式の複数の事例を生成するために繰り返される。この処理の各繰り返しでは、抵抗値の異なる集合がネットワーク構成要素に対して選択され、その結果、方程式の各事例は、異なる抵抗値を有する。各繰り返しに対する抵抗値の集合は、通常のシミュレーション処理において使用されものと同じ方法で選択されることができる(すなわち、各ネットワーク構成要素の確率分布にしたがって値を“ランダムに”選択する)、しかしこれは必ずしも必要ではない。
【0039】
処理は、方程式中の未知の係数と同じ数の方程式の異なる事例を生成するために十分な回数を繰り返される。方程式は、次に周知の方法を使用して厳密に係数Aについて解くために使用されることができる。もし望まれるならば、方程式の異なる事例の数は、未知の係数の数よりも多く、そのケースでは、係数についての“最適(best-fit)”解が線形回帰を使用して決定されることができる。この目的のためのツールは、たやすく利用可能である(例えば、マイクロソフトExcelのLINEST関数)。係数が決められた後で、それらは方程式に組み込まれることができ、それは次に各層の抵抗値の関数として電力分配ネットワーク抵抗値を規定し、その抵抗値は、上の説明のように決定されることができる。
【0040】
方程式は、このようにして電力分配ネットワークの抵抗値のシミュレーションのための1次元モデルを提供する。この1次元モデルは、図4に関係して説明されたようにシミュレーションされる3次元モデルの代わりに使用されることができる。ネットワーク構成要素抵抗値の擬似ランダム選択は、同じ方法で進められることができ、そして同じ結果(ネットワーク抵抗値)が生成される。しかしながら、1次元モデルを使用するネットワークのシミュレーションが、3次元モデルを使用するシミュレーションと比較して数多くのシミュレーションのために必要である計算のリソースと時間の量を劇的に減少させるという理由で、1次元モデルの使用は、非常に効率的である。
【0041】
1次元モデルのシミュレーションを使用して電力分配ネットワーク抵抗値を決定する処理は、図6のフロー図にまとめられる。図6の方法は、モデルの初期化で始まる(605)。この実施形態では、初期化は、3次元シミュレーションのためのカウンタ(3D_sim_no)をリセットすることを含む。擬似ランダム値は、電力分配ネットワークの各構成要素に対して次に選択される(610)。これらの値は、下記にさらに詳細に論じられるように、複数の構成要素のそれぞれに関係付けられる確率分布にしたがって選択される。選択された構成要素の値を使用して、電力分配ネットワークの性能(例えば、ネットワークの抵抗値)は、3次元モデルを使用してシミュレーションされる(615)。このシミュレーションの結果は、記録され(620)、そしてシミュレーション・カウンタ(3D_sim_no)は増加される(625)。もしシミュレーション・カウンタが3次元シミュレーションの所望の数(M)よりも小さければ、新たな擬似ランダム値が複数の構成要素に対して選択され、そしてもう1つの3次元シミュレーションが実行される(610−615)。これは、所望の数の3次元シミュレーションが実行されるまで繰り返される。
【0042】
上記のように、3次元シミュレーションを実行する目的は、選択された構成要素の値に対応する電力分配ネットワークに対する総合的な結果を提供するためであり、そのため1次元モデル(各層に対する構成要素の値とともに線形に変化する方程式)は、各層に対応する方程式中の係数を決定するために解かれることができる(635)。それゆえ、3次元シミュレーションは、各係数に対して少なくとも1回実行される。追加の3次元シミュレーションが実行される場合には、その結果は、一般的な回帰技術を使用して複数の係数について解くために使用されることができる。1次元モデルに対する複数の係数が決定された後で、各層に対する構成要素の値を選択することによりそして総合電力分配ネットワーク値を解くことにより、そのモデルは、その電力分配ネットワークの所望の特性(例えば、抵抗値)を決定するために使用されることができる。
【0043】
複数の係数が1次元モデルに対して決定された後で、1次元シミュレーションが初期化される(640)。特に、1次元シミュレーションの回数に関するカウンタが0に設定される。擬似ランダムな構成要素の値は、電力分配ネットワーク内の複数の層のそれぞれに対して次に選択される(645)。1つの代表構成要素値が各層に対して選択される。1次元モデルは、次にシミュレーションされる、すなわち、方程式は、総合電力分配ネットワーク値を決定するために解かれる(650)。シミュレーションの結果は、3次元シミュレーション対するものと同様の方法で記録され(655)、そしてシミュレーション・カウンタ(1D_sim_no)は増加される(660)。シミュレーション・カウンタは、次に所望のシミュレーションの回数、N、と比較される。カウンタがNよりも小さい場合には、擬似ランダムに選択された代表構成要素値の新たな集合をそれぞれ用いて、さらなるシミュレーションが実行され、そしてその結果が記録される。カウンタがNよりも大きいかそれに等しい場合には、結果は、例えば、最終的な電力分配ネットワーク値の分布を生成するために個々の結果を統合することにより、最終的にまとめられる(670)。
【0044】
上記のように、電力分配ネットワークの様々な構成要素に対して選択される値は、関係する確率分布にしたがって擬似ランダム方式で選択される。これらの確率分布の例が、図3Aと図3Bに示される。図3Aは、電力分配ネットワーク中の金属層の抵抗値についての典型的な確率分布であり、一方で、図3Bは、そのネットワーク中のビア層の抵抗値についての典型的な確率分布である。各確率分布は、平均値、−3σ(−3シグマ)値及び+3σ(+3シグマ)値により特徴付けられる。これらの分布のうちの1つによって表される特定の構成要素の値は、その分布内の任意の値をとり得る。その構成要素が特定の値を有する確率は、確率分布曲線の高さに対応する。金属層中の構成要素についての分布(図3A参照)が平均値に関してほぼ対称であり、一方でビア層中の構成要素についての分布(図3B参照)がそうでないことが、理解される。
【0045】
モンテ・カルロ法が電力分配ネットワークをシミュレーションする際に使用されるとき、関係する確率分布にしたがって、1つの値がそのネットワーク中の各構成要素に対して選択される。それゆえ、同じ構成要素が、異なる値を有することがある。各構成要素に対してある値が一旦選択されると、電力分配ネットワークは、その選択された値を使用してモデル化される(すなわち、1次元モデルを表している方程式の値が計算される)。これは、電力分配ネットワークに対する対応する総合的な値を結果としてもたらす。この値が決定された後で、シミュレーション処理は、複数の構成要素のそれぞれに対して選択される新たな値を用いて繰り返されることができ、そして対応する結果が全体として電力分配ネットワークに対して生成される。最終的に、電力分配ネットワークをシミュレーションすることにより生成される値は、ネットワークそれ自身についての確率分布を形成するために統合されることができる。電力分配ネットワークそれ自身についての典型的な確率分布は、図7に示される。この例では、ネットワークについての確率分布は、対称的であり、そして平均値、同様に−2σ(−2シグマ)値と+2σ(+2シグマ)値により特徴付けられる。
【0046】
上に説明された電力分配ネットワークの1次元シミュレーションは、従来の3次元モデルと同等の精度を有する結果を生成する一方で、追加の特徴が、現在の1次元方法の精度をさらに向上させるために取り込まれることができる。1つのそのような特徴は、一緒に考慮される特定の層中の構成要素のグループについての確率分布が、複数の構成要素のうちの1つのものについての確率分布よりもさらに狭いという事実の認識に基づいている。
【0047】
図8Aと図8Bを参照して、電力分配ネットワークの特定の層内の複数の構成要素についての確率分布を示す一対のグラフが示される。図8Aに示された確率分布は、単一の構成要素に関する可能な値の分布に対応する。図8Bに示された確率分布は、複数の構成要素のグループに関する可能な平均値の分布に対応し、ここで構成要素のそれぞれは、図8Aに示されたものと同じ確率分布を個々に有する。
【0048】
図8Aの確率分布は、公称値及び分布の幅の指標によって特徴付けられることができる。この分布は、例えば、平均値xと標準偏差値σによって特徴付けられる正規分布であり得る。平均xは、ある構成要素が有することが可能な最も高い値であり、それより高い値又は低い値が可能である。標準偏差σは、その確率分布の幅及びその構成要素がxからある距離にある値を有する確率を規定する。
【0049】
図8Bの確率分布は、固有の平均と標準偏差によって同様に特徴付けられることができる。このケースでは、確率分布は、10個の構成要素の平均値に対応し、その構成要素は図8Aの確率分布によって特徴付けられる構成要素と同じである。複数の構成要素が同じであるという理由で、図8Bに示された確率分布の平均は、図8Aのそれと同じである。しかしながら、標準偏差は、より小さい(すなわち、確率分布はもっと狭い)、その理由は、構成要素のあるものは、xよりも大きな値を有し、ところが他のものは、xよりも小さな値を有するためである。10個の構成要素の平均値がxの周りで変化することがあるが、そのばらつきは、個々の構成要素のばらつきよりも小さいであろう。事実、図8Bの確率分布の標準偏差は、図8Aの確率分布の標準偏差よりも係数1/(N^(1/2))だけ小さい、ここで、Nは平均される構成要素の数(10)である。
【0050】
上に説明したように、電力分配ネットワークをシミュレーションすることの目的は、抵抗のような電力分配ネットワークの電気的特性を決定することである。外部電源と集積回路チップ上の特定の点との間の電力分配ネットワークの抵抗値は、そのネットワークの各層中の複数の構成要素に依存し、そのためその構成要素をシミュレーションするために使用する確率分布は、これらの構成要素の平均が個々の構成要素よりももっと狭い分布を有するという事実を考慮すべきである。
【0051】
もし電力分配ネットワークの特定の層中の複数の構成要素についての確率分布が、複数の構成要素の平均の代表値に狭められようとしている場合には、平均されるべき構成要素の数が、決定される必要がある。ある特定の構成要素は、遠く離れている点よりもその構成要素により近い点においてより大きな影響を有するという理由のため、平均されるべき構成要素の数は、その層内の全ての構成要素よりも少ないはずである。1つの実施形態では、有効半径の内部の構成要素が平均されるように、有効半径が規定される。1つの実施形態にしたがったこの有効半径の決定は、下記にさらに詳細に説明されるが、別の方法が平均されるべき構成要素の数を決定するために使用されることができる。
【0052】
図9を参照して、電力分配ネットワークの最上層中のC4コンタクトの構成を説明する図が示される。(これらのコンタクトは、電力分配ネットワークの抵抗に最も大きく寄与するものであるという理由で、この例において使用される。)この層内のコンタクトの全てが同じ抵抗値を有する場合には、電力分配ネットワークの抵抗値は、(他の層の構成要素が同様に一様であると仮定して)集積回路全体にわたり同じになる。しかしながら、もし複数のC4コンタクトのうちの1つがこれらのコンタクトに対する上記の3σである値を有する場合には、電力分配ネットワークの抵抗値は、このコンタクトの近くの集積回路上の点のところでさらに高くなることがあり、このコンタクトから遠く離れた集積回路上の点のところではより低くなることがある。
【0053】
図10を参照して、1つの実施形態において3σコンタクトからの距離の関数として電力分配ネットワークの抵抗の変化を説明する図が示される。C4層中の全てのコンタクトが同じ抵抗値を有するときに、その抵抗値から上へ増加する割合として抵抗値は示されている。電力分配ネットワークの抵抗値の増加は、その3σコンタクトに最も近い点のところで最大であり、そしてこのコンタクトからの距離が増加するにつれて低下する。3σコンタクトに最も近い点のところでは、電力分配ネットワークの抵抗値は、ほぼ17%増加する。この点から1ユニットの距離のところでは、その増加はほぼ9%に低下し、そして4ユニットの距離のところでは、その増加は約1%だけである。
【0054】
この実施形態では、C4コンタクトに対する有効半径は、その半径を超えると3σコンタクトに起因する抵抗増加がこのコンタクトに最も近い増加の約半分よりも小さくなる半径、すなわち、1ユニット距離、として選択される。有効半径を決定するために使用される個々の基準は、ある程度自由であり、そして3次元シミュレーション、経験的なデータ、帰納法、等を含む様々な要因に基づいて選択されることができる。一旦、有効半径が規定されると、有効半径の範囲内になるC4コンタクトの数は、これらのコンタクト(それは有効半径内のコンタクトの数の平方根だけ減少されたσ値を有する)の平均抵抗値の確率分布を決定するために使用される。この分布は、その後、上記の1次元シミュレーション(及び/又は3次元シミュレーション)において1つのC4コンタクトについての分布の代わりに使用されることができる。
【0055】
上記の例における有効半径の決定は、電力分配ネットワークの最上層−−C4コンタクト層−−に関して行われた。同じ方法は、電力分配ネットワークの複数の層のそれぞれの中の構成要素に対する有効半径を決定するために使用されることができる。しかしながら、有効半径を決定することの影響及び特定の層内の複数の構成要素についての結果としての狭められた確率分布は、層毎に異なる。C4層が一般的に電力分配ネットワークの抵抗に対して最大の寄与を与えるという理由で、C4層が、上記の例において使用された。それゆえ、この層内の複数の構成要素の値を平均することは、抵抗の寄与が小さくそして電力分配ネットワークの全抵抗への影響が小さい複数の層内の構成要素の値を平均することよりもはるかに重要である。それゆえ、ある実施形態が複数の層のうちの幾つかだけ(例えば、C4,M9,M8)の中の構成要素の確率分布を狭くするために上記の方法を使用することがあり、一方で、別の実施形態は、複数の層の全てに関してそのように行うことがある。
【0056】
電力分配ネットワークの複数の構成要素についての狭められた確率分布を決定するための上記の方法は、図11のフロー図によりまとめられる。この図に示されたように、評価されようとしている構成要素の集合が選択される(1110)。この選択は、例えば、どの構成要素が全体として表面の(cover)分配ネットワークに最も大きな影響を有するかの評価に基づくことができる。次に、複数の構成要素のうちの対応するものによって影響を受ける領域が、例えば、有効半径を定めることにより、決定される(1120)。一旦、この領域が決定されると、この領域の範囲内になる構成要素の数が決定される(1130)。この数は、次に、確率分布の標準偏差を縮小するために使用され、それによって分布を狭くする(1140)。これらのステップは、望まれるのであれば、電力分配ネットワークの別の層内の構成要素の確率分布を狭くするために繰り返されることができる(1145)。上に説明したように、狭められた確率分布は、その後電力分配ネットワークのシミュレーションの際に使用されることができる(1150)。
【0057】
本発明の代わりの実施形態が、上記に開示された特徴の複数の変形を含み得ることが、注目されるはずである。例えば、本開示は、電力分配ネットワークの総合抵抗を決定するために望まれている具体例の実施形態に焦点を当ててきたが、同じ方法は、別の電気的特性を決定するために使用されることができる。同様に、開示された方法は、電力分配ネットワーク以外のシステムの特性を決定するために使用されることができる。多くのそのような変形は、本発明の分野において当業者には明らかであろう。
【0058】
上に説明された方法が、コンピュータ・システムにおいて実行される可能性が最も高いことが予想される。本発明の複数の実施形態は、それゆえ、上記のような方法、そのような方法を実行するように構成されたコンピュータ・システム及びコンピュータ・システムにそのような方法を実行するようにさせるために構成された命令を含むソフトウェア・プログラムを含むことができる。そのコンピュータ・システムは、汎用プロセッサ、ディジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、ステート・マシン、又は別のデータ・プロセッサ若しくは説明された方法を実行するように構成された論理デバイスを含むことができる。そのコンピュータ・システムは、計算デバイスの組み合わせとして与えられることができ、例えば、DSPとマイクロプロセッサとの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサの組み合わせ、DSPコアとともに1又は複数のマイクロプロセッサの組み合わせ、若しくはいずれかの別のそのような構成の組み合わせであり得る。
【0059】
ソフトウェア・プログラムは、いずれかのコンピュータ読み取り可能な媒体、例えば、RAMメモリ、フラッシュ・メモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、EEPROMメモリ、レジスタ、ハード・ディスク、脱着可能なディスク、CD−ROM、又はこの技術において公知のいずれかの他の形式の記憶媒体の中に存在することができる。本発明の複数の方法のうちのいずれかを具体化するプログラム命令を含んでいる記憶媒体は、それ自身が本発明の代わりの実施形態である。記憶媒体は、プロセッサが記憶媒体から情報を読み出し、そしてそこに情報を書き込むことができるようにプロセッサに接続されることができる。記憶媒体は、あるいは、プロセッサに集積されることができる。
【0060】
情報及び信号が、様々な異なる技術及び技法のいずれかを使用して表わされることができることを、当業者は、理解するであろう。例えば、データ、命令、コマンド、情報、信号、ビット、シンボル、及び上記の記載全体を通して参照されることができるその他のものは、電圧、電流、電磁波、磁場又は磁気粒子、光場又は光粒子、若しくはこれらの任意の組み合わせによって表わされることができる。情報及び信号は、電線、金属トレース、ビア、光ファイバ、その他を含む任意の適切なトランスポート媒体を使用して開示されたシステムの複数の構成要素間を伝達されることができる。
【0061】
本明細書中に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的な論理ブロック、モジュール、回路、及びアルゴリズムのステップが、電子ハードウェア、コンピュータ・ソフトウェア(ファームウェアを含む)、又は両者の組み合わせとして与えられることができることを、当業者は、さらに認識するであろう。ハードウェアとソフトウェアとのこの互換性を明確に説明するために、様々な例示的な構成要素、ブロック、モジュール、回路、及びステップが、それらの機能性の面から一般的に上記に説明されてきている。そのような機能性が、ハードウェア又はソフトウェアとして与えられるかどうかは、個々のアプリケーション及びシステム全体に課せられた設計の制約に依存する。当業者は、述べられた機能性を各々の固有のアプリケーションに対して違ったやり方で実行することができるが、そのような実行の判断は、本発明のスコープからの逸脱を生じさせるように解釈されるべきではない。
【0062】
本発明によって提供されることができる利益及び利点は、特定の実施形態に関して上に記述されてきている。これらの利益及び利点、並びにそれらを引き出すことができる又はもっとはっきりとさせるいずれかの要件又は限定は、いずれかの請求項又は全ての特許請求の範囲の決定的な特徴、必要な特徴、又は本質的な特徴として解釈される必要はない。本明細書中に使用されるように、用語“具備する”、“具備している”又はそのいずれかの別の変形は、これらの用語に続く要件又は限定を非限定的に含むとして解釈されるように意図されていない。したがって、システム、方法、又は要件の集合を備えた他の実施形態は、それらの実施形態だけに限定されず、そして請求された実施形態に特に明示されていない又は固有の別の要件を含むことができる。
【0063】
開示された実施形態のこれまでの説明は、どのような当業者でも本発明を作成する又は使用することを可能にするために提供される。これらの実施形態への各種の変形は、当業者に容易に明白にされるであろう。そして、ここで規定された一般的な原理は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、その他の実施形態に適用されることができる。それゆえ、本発明は、本明細書中に示された実施形態に制限することを意図したものではなく、本明細書中で開示されそして添付された特許請求の範囲に詳述された原理及び新奇な機能と整合する最も広い範囲と一致すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、一般的な電力分配ネットワークの複数の金属層の透視図を例示する図である。
【図2】図2は、一般的な電力分配ネットワークの構造の断面図を例示する図である。
【図3A】図3Aは、電力分配ネットワークの複数の層内の構成要素の電気的特性の値に関する一般的な確率分布を例示する図である。
【図3B】図3Bは、電力分配ネットワークの複数の層内の構成要素の電気的特性の値に関する一般的な確率分布を例示する図である。
【図4】図4は、従来技術にしたがって電力分配ネットワークの総合特性(例えば、抵抗)を決定するための方法を例示するフロー図である。
【図5】図5は、1つの実施形態にしたがって各膜が対応する抵抗を有する薄膜の積み重ねとして電力分配ネットワークのモデル化を例示する図である。
【図6】図6は、1つの実施形態にしたがって電力分配ネットワークの総合特性(例えば、抵抗)を決定するための方法を例示するフロー図である。
【図7】図7は、1つの実施形態にしたがって1次元シミュレーションにより生成される結果に関する確率分布を例示する図である。
【図8A】図8Aは、電力分配ネットワークの層内の個々の構成要素の電気的特性の値に関する確率分布を例示する図である。
【図8B】図8Bは、電力分配ネットワークの層内の複数の平均化した構成要素の電気的特性の値に関する確率分布を例示する図である。
【図9】図9は、1つの実施形態において電力分配ネットワークの最上層中のC4コンタクトの構成を例示する図である。
【図10】図10は、1つの実施形態にしたがって平均に対して3σの値を有するC4コンタクトからの距離の関数として電力分配ネットワークの抵抗の変化を例示する図である。
【図11】図11は、1つの実施形態にしたがって電力分配ネットワークの複数の層中の複数の構成要素に関する狭められた確率分布を決定するための方法を例示するフロー図である。
【符号の説明】
【0065】
110…上側金属層,120…下側金属層,130…ビアの層,M1M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8,M9…金属層,V1,V2,V3,V4,V5,V6,V7,V8…ビア層,C4…コンタクト層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路の電力分配ネットワークの所望の特性を決定する方法であって、
該電力分配ネットワークの1次元モデルを定義することと、
該1次元モデルの複数回のシミュレーションを実行することと、ここにおいて、各シミュレーションにおいて、該電力分配ネットワークの該所望の特性についての結果を生成することをさらに備え、そして
該複数のシミュレーションの該複数の結果を統合することと
を具備することを特徴とする方法。
【請求項2】
該電力分配ネットワークの該1次元モデルを定義することは、該電力分配ネットワークの該所望の特性が該電力分配ネットワーク中の複数の層のそれぞれに対する該特性の線形関数である方程式を定義することを含むことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
該電力分配ネットワークの該所望の特性は、該電力分配ネットワークの抵抗を含み、そしてここにおいて、該関数は、複数の層抵抗値の総和を含み、各層抵抗値は、係数と代表構成要素抵抗値との積を含むことを特徴とする、請求項2の方法。
【請求項4】
該方程式を定義することは、該方程式の複数の事例(instance)を生成することと、ここにおいて各事例では該電力分配ネットワークの該抵抗と該層抵抗値とは既知である;そして該係数を決定するために該方程式の該複数の事例を解くことと、によって該係数を決定することを含むことを特徴とする、請求項3の方法。
【請求項5】
該方程式の各事例に対して、該電力分配ネットワークの該抵抗は、該電力分配ネットワークの3次元モデルのシミュレーションを実行することにより決定されることを特徴とする、請求項4の方法。
【請求項6】
該方程式の該事例の数は、該係数の数に等しく、そして該方程式の該複数の事例は、該係数のそれぞれに対する正確な値を決定するために解かれることを特徴とする、請求項4の方法。
【請求項7】
該方程式の該事例の数は、該係数の数よりも多く、そして該方程式の該複数の事例は、該係数のそれぞれに対する最適値を決定するために回帰技術を使用して解かれることを特徴とする、請求項4の方法。
【請求項8】
該1次元モデルの各シミュレーションを実行することは、擬似ランダムな方式で、該電力分配ネットワーク中の該複数の層のそれぞれについての該特性に対する値を選択することと、該電力分配ネットワークの該所望の特性に対する該方程式を解くことと、を含むことを特徴とする、請求項2の方法。
【請求項9】
該複数の層のそれぞれについての該特性に関する該値は、該複数の層に関係付けられる確率分布にしたがってモンテ・カルロ法を使用して選択されることを特徴とする、請求項8の方法。
【請求項10】
該層内の構成要素によって影響される有効領域を定めることと;該有効領域内の構成要素の数Nを計数することと;そして該層に関係付けられる該確率分布の標準偏差がNの平方根で割り算した該構成要素に関係付けられる該確率分布の標準偏差に等しいものを除き、該構成要素に関係付けられる確率分布として該層に関係付けられる該確率分布を定めることと、により該複数の層のうちの少なくとも1つに関係付けられる該確率分布を定めることをさらに含むことを特徴とする、請求項9の方法。
【請求項11】
該複数のシミュレーションの該結果を統合することは、該複数のシミュレーションの該結果に基づいて該電力分配ネットワークの該所望の特性についての確率分布を生成することを含むことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項12】
下記の方法を実行するようにコンピュータを動作させるために構成された命令を含んでいるコンピュータ読み取り可能な媒体を具備するソフトウェア・プログラム製品であって、該方法は、
電力分配ネットワークの1次元モデルを定義することと、
該1次元モデルの複数回のシミュレーションを実行することと、ここにおいて、各シミュレーションにおいて、該電力分配ネットワークの該所望の特性についての結果を生成することをさらに備え、そして
該複数のシミュレーションの該結果を統合することと
を具備することを特徴とする、ソフトウェア・プログラム製品。
【請求項13】
該電力分配ネットワークの該1次元モデルを定義することは、該電力分配ネットワークの該所望の特性が該電力分配ネットワーク中の複数の層のそれぞれに対する該特性の線形関数である方程式を定義することを含むことを特徴とする、請求項12のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項14】
該電力分配ネットワークの該所望の特性は、該電力分配ネットワークの抵抗を含み、そしてここにおいて、該関数は、複数の層抵抗値の総和を含み、各層抵抗値は、係数と代表構成要素抵抗値との積を含むことを特徴とする、請求項13のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項15】
該方程式を定義することは、該方程式の複数の事例を生成することと、ここにおいて各事例では該電力分配ネットワークの該抵抗と該層抵抗値とは既知である;そして該係数を決定するために該方程式の該複数の事例を解くことと、によって該係数を決定することを含むことを特徴とする、請求項14のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項16】
該方程式の各事例に対して、該電力分配ネットワークの該抵抗は、該電力分配ネットワークの3次元モデルのシミュレーションを実行することにより決定されることを特徴とする、請求項15のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項17】
該方程式の該事例の数は、該係数の数に等しく、そして該方程式の該複数の事例は、該係数のそれぞれに対する正確な値を決定するために解かれることを特徴とする、請求項15のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項18】
該方程式の該事例の数は、該係数の数よりも多く、そして該方程式の該複数の事例は、該係数のそれぞれに対する最適値を決定するために回帰技術を使用して解かれることを特徴とする、請求項15のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項19】
該1次元モデルの各シミュレーションを実行することは、擬似ランダムな方式で、該電力分配ネットワーク中の該複数の層のそれぞれについての該特性に対する値を選択することと、該電力分配ネットワークの該所望の特性に対する該方程式を解くことと、を含むことを特徴とする、請求項13のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項20】
該複数の層のそれぞれについての該特性に関する該値は、該複数の層に関係付けられた確率分布にしたがってモンテ・カルロ法を使用して選択されることを特徴とする、請求項19のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項21】
該層内の構成要素によって影響される有効領域を定めることと;該有効領域内の構成要素の数Nを計数することと;そして該層に関係付けられる該確率分布の標準偏差がNの平方根で割り算した該構成要素に関係付けられる該確率分布の標準偏差に等しいものを除き、該構成要素に関係付けられる確率分布として該層に関係付けられる該確率分布を定めることと、により該複数の層のうちの少なくとも1つに関係付けられる該確率分布を定めることをさらに含むことを特徴とする、請求項20のソフトウェア・プログラム製品。
【請求項22】
該複数のシミュレーションの該結果を統合することは、該複数のシミュレーションの該結果に基づいて該電力分配ネットワークの該所望の特性についての確率分布を生成することを含むことを特徴とする、請求項12のソフトウェア・プログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−226232(P2008−226232A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−15723(P2008−15723)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】