説明

AGEs生成阻害剤

【課題】 AGEs生成またはケトアミン生成に関連する各種疾患の治療及び予防に有用なAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を提供する。
【解決手段】 AGEs生成またはケトアミン生成の阻害活性を有するキナ酸誘導体を含む剤を調製する。AGEs生成またはケトアミン生成の阻害活性を有するキナ酸誘導体を含む、糖尿病合併症処置剤またはアンチエイジング剤の調製、あるいはキナ酸誘導体を含む飲食品の調製も可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後期糖化最終生成物 (Advanced Glycation Endproducts;以下AGEsと略す)形成の阻害剤、およびこれら阻害剤を含む組成物に関する。さらには、このような阻害剤を含む組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年糖尿病患者数は増加の一途を辿り、平成14年の厚生労働省調査で、糖尿病予備軍を含め、糖尿病の危険性があるのは約1,620万人にのぼり、国民の1割近くが糖尿病患者、若しくは予備軍という結果が出ている程である。さらに、この数値は調査時点から約250万人増加している。
【0003】
糖尿病のような高血糖状態で細胞内グルコース代謝物の濃度が上昇すると、生体内タンパク質との非酵素的糖化反応によりシッフ塩基の生成を経てアマドリ転位物が生成する。アマドリ転位物は活性酸素によって酸化されて糖化反応後期生成物であるAGEs化する。この反応はグリケーション(glycation)、あるいは発見者の名前に由来してメイラード反応ともよばれており、食品の加工、貯蔵する際に起こる褐変反応として広く研究されてきたが、ここ十数年間の研究によって、生体内でもメイラード反応が起こっていることが分かってきた。
【0004】
生体内メイラード反応は、酵素的・可逆的に進行する特定タンパク質のリン酸化やアセチル化とは根本的に異なり、非酵素的に、なおかつ不可逆的に進行し、さらにタンパク質の種類よりも時間、すなわち加齢に依存して進行することが特徴としてあげられる。当初、生体におけるメイラード反応は主としてグルコースとタンパク質との長期的な反応によって進行すると考えられていたが、本反応の進行過程や糖の代謝経路、さらには炎症反応などから産生するグリオキサール、メチルグリオキサール(MG)、3−デオキシグルコソン、グリコールアルデヒド(GA)といった反応性の高いアルデヒド類からも短期間に生体タンパク質がAGEs化する経路も明らかとなってきた。
【0005】
このようにして生成したAGEsはAGEs受容体に結合し、受容体シグナルを介して活性酸素を産生し、糖尿病性合併症発症の引き金となることが知られている。
【0006】
例えば、糖尿病性神経症はミエリンタンパク質の糖化が原因であると考えられており、糖尿病性白内障は、眼球水晶体のクリスタリンの糖化に伴うクリスタリンの重合、不溶化、蛍光発生及び着色によって起こることが認められている。またアテローム性動脈硬化、腎臓の機能低下をもたらす腎糸球体基底膜の肥厚にも病変部にAGEsの蓄積が関与していることが知られている。さらに歯肉組織にAGEsが蓄積すると活性酸素を産生し、そこに炎症を起こし、組織を傷つけ、歯周病の発病・進行を招くといわれているため、糖尿病を発症すると歯周病になるリスクが高まると言われている。
【0007】
また近年、糖尿病とは別に、AGEsが皮膚の老化とも密接な関連があることが明らかとなってきた。AGEsは加齢に伴って増加するが、皮膚のタンパク質であるコラーゲン部分でメイラード反応が生じると、タンパク質中のリジン残基のアミノ基あるいはアルギニン残基のグアニジル基と糖のカルボニル基が非酵素的に反応し、AGEsが生成しコラーゲン部分同士を架橋させてしまう。架橋構造が形成されると分子が硬くなり、皮膚本来の弾力性が失われる。また、架橋物を異物と判断し、分解酵素(コラゲナーゼ、エラスターゼ)の分泌量が増える。これらのことから肌のハリや弾力性が失われ、また肌が脆くなり、さらにはシワ、たるみ、くすみの発生につながる。
【0008】
このようにAGEsは糖尿病性合併症の引き金としての観点だけでなく、アンチエイジングの観点からもAGEsの生成機構が注目されるようになってきた。
【0009】
そこでAGEsの生成阻害あるいは、生成したAGEsを分解することによって糖尿病の合併症などを治療あるいは予防する方法が求められ、いくつか示されている。
【0010】
例えば、AGEs生成阻害剤(メイラード反応阻害剤)として実用化されているものとしてはアミノグアニジン(非特許文献1)が代表的なものである。しかし、これらの化合物は求核性が強く、食欲不振、吐き気、下痢、便秘などの消化器症状の副作用が心配される。
【0011】
一方、天然物からAGEsの生成阻害活性を有する物質の探索も精力的に行われており、大高良姜(Alpinia galanda Will.)の抽出物(特許文献1)、食品廃棄物(特許文献2)、パパイヤ(Carica papayaL.)の抽出物(特許文献3)、モノスルフィド化合物(特許文献4)、アントシアニン(特許文献5)、柑橘類の揮発性油状物(特許文献6)、トランスケイヒ酸、パラクマル酸及びフェルラ酸(特許文献7)、アスナロ、アセンヤク、イタドリ、イチヤクソウ、アンズ、ケイカンカ、ハクカユマトウ、シラカバ、セイヨウサンザシ、セイヨウノコギリソウ、タラヨウ、ドクダミ、トルメンチラ、バクモンドウ、ヒバ、ブドウ、ミチャナギ、ムクロジ、モッカ、レイシ、ローマカミツレからなる群よりなる群より選ばれる、1種又は2種上の植物抽出物及び/又はロスマリン酸(特許文献8)、アケビ、アロエ、アンズ、カバ、キキョウ、ゴミシ、サンシチニンジン、タウコギ、ナルコユリ、ハコベ、ハマヂシャ、ブクリョウ、ユズ(特許文献9)、オーロン骨格を有するフラボノイド(特許文献10)生薬の抽出物(特許文献11)、フラバノン類(特許文献12)、プロアントシアニジン(特許文献13)、クルクミン(非特許文献2)などが例示される。
【特許文献1】特許公開2006−62987号公報
【特許文献2】特許公開2006−256977号公報
【特許文献3】特許公開2006−298812号公報
【特許文献4】特許公開2005−261396号公報
【特許文献5】国際公開WO2005/040182号公報
【特許文献6】特許公開2004−35424号公報
【特許文献7】特許公開2003−212774号公報
【特許文献8】特許公開2003−212770号公報
【特許文献9】特許公開2002−241293号公報
【特許文献10】特許公開平9−241165号公報
【特許文献11】特許公開平8−259431号公報
【特許文献12】特許公開平7−324025号公報
【特許文献13】特許公開平6−336430号公報
【非特許文献1】Brownlee,M.;Vlassara,H.;Kooney,A.;Ulrich,P.;Cerami,A.:Aminoguanidin prevents diavetes−induced arterial wall protein cross−linking.Science.232,1629-1632(1986)
【非特許文献2】Sajithlal,G.B.;Chithra,P.;Chandrakasan,G.:Effect of the advanced glycation and cross−linking of collagen in diabetic rats.Biochemical Pharmacology,56,1607-1614(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来使用されているAGEs生成阻害剤は、高価で、年間を通して安定に確保できない生薬を原料としている、あるいは、安全性が確認されていない、等の問題があり、安価で大量に安定的にかつ安全に確保できるAGEs生成阻害剤の開発が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、AGEs生成阻害活性およびケトアミン生成阻害活性を有する化合物を見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のAGEs生成阻害剤は、下記式(I)
【化3】

(I)
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にクマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、または水素を示す。)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
【0015】
上記AGEs生成阻害剤は、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、およびカフェオイルフェルロイルキナ酸、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有し得る。
【0016】
上記化合物またはその薬学的に許容される塩は、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、ウコギ科植物、およびモチノキ科植物からなる群より選択される植物体から抽出することができる。
【0017】
本発明のケトアミン生成阻害剤は、
下記式(I)
【化4】

(I)
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にクマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、または水素を示す。)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有することを特徴とする。
【0018】
上記ケトアミン生成阻害剤は、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、およびカフェオイルフェルロイルキナ酸、およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有し得る。
【0019】
前記化合物またはその薬学的に許容される塩は、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、ウコギ科植物、およびモチノキ科植物からなる群より選択される植物体から抽出することができる。
【0020】
本発明の医薬組成物は、上記いずれかのAGEs生成阻害剤または上記いずれかのケトアミン生成阻害剤を含有することを特徴とする。
【0021】
本発明の糖尿病合併症処置用組成物は、上記のいずれかのAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を含有することを特徴とする。
【0022】
本発明のシワ、たるみ、および/またはくすみ形成抑制用組成物は、上記のいずれかのAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を含有することを特徴とする。
【0023】
本発明の飲食品は、上記のいずれかのAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、その阻害活性が高く、優れた作用を有する。このような阻害剤の有効成分である式(I)の化合物あるいはその塩は、天然成分からも抽出が可能であり、人体に対する安全性が高い。このような阻害剤を利用して、AGEs生成またはケトアミン生成に関連する疾病の治療、予防に役立つ医薬組成物および食品の製造を行うことが可能である。また、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤の有効成分である化合物またはその塩は、AGEs生成またはケトアミン生成に関連する加齢に伴う現象の緩和に有用である。したがって、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、組成物、医薬品、医薬部外品、および食品の製造にも使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤には、下記一般式(I)
【化5】

(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、クマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、または水素を示す。)で表される化合物が含まれる。この化合物がAGEs生成阻害またはケトアミン生成阻害の活性本体である。
【0027】
これらの化合物の中で、特にAGEs生成阻害またはケトアミン生成阻害活性が優れているのは、R、R、およびRのうち、1つのみが水素である二置換誘導体であり、具体的には、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、またはカフェオイルフェルロイルキナ酸である。このうち、AGEs生成阻害またはケトアミン生成阻害活性が特に優れているのはカフェー酸のジエステル誘導体であるジカフェオイルキナ酸である。ジカフェオイルキナ酸には、3,4‐O‐ジカフェオイルキナ酸(3,4−diCQA)、3,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸(3,5−diCQA)および4,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸(4,5−diCQA)が含まれる。
【0028】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤には、従って、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、およびカフェオイルフェルロイルキナ酸からなる群より選択される1種または2種以上の組み合わせが含まれることが好ましい。より好ましくは、ジカフェオイルキナ酸単独またはジカフェオイルキナ酸と他の化合物との組み合わせが含まれる。
【0029】
本発明に用いられる上記化合物の塩も使用でき、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。このような塩には、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。天然物中においては、式(I)で表される化合物は、塩としても存在している。
【0030】
本発明に用いる式(I)で表される化合物またはそれらの塩を得るための原材料としては、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、ウコギ科植物、およびモチノキ科植物からなる群より選択される植物体であることが好ましいが、これに限定されない。天然物から抽出する以外にも、式(I)で表される化合物またはその塩を当業者に公知の方法により合成することも可能である。
【0031】
天然物から抽出する場合には、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科、モチノキ科植物などの植物体自体若しくはその粉砕物の抽出物、その精製物又は部分精製物などを原材料として挙げることができる。好ましくは、式(I)で表される化合物またはその塩は、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出される。これらの植物体は、式(I)で表される化合物またはその塩の含有量が比較的高く、より簡便で短時間に前記誘導体を抽出することができる。なお、これら植物の部位は果実、種子(胚乳部)、葉、樹木、樹皮などいずれも用いることができる。
【0032】
アカネ科植物に属するCoffea arabica(以下、コーヒーと略称)の栽培種はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の三原種とそれをもとにした数十品種がある。アカネ科植物に属するコーヒー生豆は、原材料として好適である。
【0033】
ロブスタ種のコーヒー生豆は、アラビカ種のコーヒー生豆よりキナ酸誘導体の含有量が高く、さらにロブスタ種の中でも低等級のコーヒー生豆(低品質のコーヒー生豆)にキナ酸誘導体の含有量が高い。よって、ロブスタ種の低等級のコーヒー生豆は、低価格で購入でき、通常飲用しない低品質のコーヒー生豆を有効利用することができる点でキナ酸誘導体を得るための原材料としてさらに好適である。
【0034】
本発明に用いる式(I)の化合物またはその塩の原料としては、生のまま、あるいは天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥されたものでもよいが、焙煎される温度、すなわちアミノ−カルボニル反応(メイラード反応)が進行し得る温度では化合物が分解されてしまい、目的とする化合物の収率が低下してしまう。したがって、原料としては高温で加熱等されておらず、メイラード反応が進行していないことが好ましい。
【0035】
本発明に用いる式(I)で表される化合物またはその塩の製造方法としては、まず、前記植物体を水または有機溶媒などで抽出することで、濃度を高める方法が好適である。使用する有機溶媒としては、例えばメタノ−ル、エタノ−ル、プロパノール、酢酸エチル、又はそれらの含水物などを挙げることができる。これらの有機溶媒を用いて抽出物を得るには、公知の方法に従えばよく、例えば前記した植物の葉、樹木、樹皮を適当に破砕した後、それらの粉砕物、また該植物の樹液を前記した有機溶媒で公知の方法を用いて処理する。具体的には、原料の1〜100倍(質量比)、好ましくは3〜20倍(質量比)の有機溶媒で温度0℃以上、好ましくは10℃からその有機溶媒の沸点以下の温度条件下で、1分〜8週間、好ましくは10分〜1週間抽出処理をする。
【0036】
上記のごとくして得られた抽出処理物自体を精製に用いてもよいが、好ましくは有機溶媒を通常の方法、例えば、ロータリエバポレーターなどを使用して除去するのがよい。或いは更に、凍結乾燥や加熱乾燥処理を施してもよい。
【0037】
上記抽出物から式(I)の化合物またはその塩を精製するには、公知の天然有機化合物類の分離・精製法を採用すればよい。例えば、活性炭、シリカ、化学修飾シリカ、ポリマー系担体などを用いた吸脱着、あるいはクロマトグラフィー、液−液抽出、分別沈澱などの手法により、不純物を除き精製する。具体的には、上記抽出物をODS−シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、60〜100%(以下全て質量%)メタノール溶液または適宜の濃度のエタノール或いはプロパノールを溶離液として溶出・分画する。これらのクロマトグラフィーによって分離される成分を集め、濃縮・結晶化することにより式(I)で表される化合物またはその塩を得ることができる。
【0038】
本発明に用いる式(I)で表される化合物またはその塩は、天然物に由来する安全性が高いAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤の調製に有用で、溶解性、安定性に優れ、化粧品、飲食品に悪影響を与えることなく添加することができ、所望のAGEs生成阻害またはケトアミン生成阻害作用を発揮することができる。
【0039】
一方、本発明の式(I)で表される化合物またはその塩は、合成することも可能である(例えば、米国特許第5401858号)。
【0040】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、医薬組成物に含有させることができる。医薬組成物は、例えば、糖尿病の合併症を予防、治療、改善することを目的とした医薬品、医薬部外品などの形態で提出され得る。
【0041】
ここで、糖尿病の合併症とは、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性足病変、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄色症、白内障、大血管障害、歯周病などを指す。
【0042】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤はまた、シワ、たるみ、くすみなどの生成抑制用組成物として、いわゆる抗老化を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品としても使用することができる。
【0043】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を医薬組成物として用いる場合は、経口投与でも非経口投与でも用いることができる。本発明の化合物(I)またはその塩そのものをAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤として、薬学的に許容される担体と配合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などの固形製剤;またはシロップ剤、注射剤などの液状製剤として経口または非経口的に投与する為の組成物とすることができる。薬学的に許容される担体としては、各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0044】
賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。結合剤の好適な例としては、例えば結合セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。溶剤の好適な例としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。
【0045】
溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。
【0046】
等張化剤の好適な例としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤の好適な例としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。防腐剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0047】
また、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を、主に化粧品、医薬部外品などに含有させて用いる場合にも、その形態は、特に制限はなく、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム、軟膏、エアゾール剤、カプセル剤、吸収性物品及びシート状製品等の形態をとり得る。
【0048】
その他、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を、飲食品、機能性食品の調製に用いることもできる。その場合は、また、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を、ティーバッグ状、飴状、液体、またはペースト状などの当業者が通常用いる形態に調製し得る。
【0049】
また、本発明に係わるAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を、化粧品、医薬部外品、飲食品、または機能性食品に用いる場合にも、他の有効成分や薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて調製することもできる。たとえば、本発明の効果を損なわない範囲内で、油脂類、界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子類、顔料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を含有させることができる。例えば、グリチルリチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl−α−トコフェロールおよびその誘導体、ビタミンB2及びB6などと用いることにより、その効果を高めることができる。
【0050】
本発明の化合物またはその塩単独でも、加齢にともなう皮膚のシワ、たるみまたはくすみ等の抑制効果を持つが、他の保湿・美肌性化粧品成分、例えば、エラスチン、コラーゲン、レシチン、スクワレン、プラセンターリキッド(胎盤抽出液)、グリセリン類、グリコール類、発酵代謝産物、乳酸菌培養液、ビタミンAおよびC、コンドロイチン硫酸ナトリウム、2‐ピロリドン‐5‐カルボン酸ナトリウム(PCA‐Na)、オキシベンゾン、トラネキサム酸、塩酸ジフェンヒドラジン、アデノシン酸、カラミン、水溶性アズレン、紫根エキス、当帰エキス、ワレモコウエキス、アミノカプロン酸、サリチル酸、ビサボロール、バクモンドウ粘液多糖類等の植物多糖類などと共に用いて、より一層効果を高めることもできる。
【0051】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤を含む化粧品としては、例えば、水/油または油/水型の乳化化粧料、クリーム、化粧乳液、化粧水、油性化粧料、口紅、ファンデーション、皮膚洗浄剤、ヘアートニック、整髪剤、育毛剤、入浴剤等が挙げられる。
【0052】
本発明の化粧品の製造法は特に限定されず、一般に用いられている化粧品の製造法を挙げることができる。
【0053】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、このように医薬組成物、糖尿病合併症処置用組成物、シワ、たるみ、および/またはくすみ形成抑制用組成物に含有させることができ、この場合の組成物等における式(I)の化合物またはその塩の含有量は、作用発現の観点から適宜選択でき、特に限定されないが、組成物等100重量部当たり好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0054】
本発明の阻害剤を薬剤として投与する場合には、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択されるが、通常、有効成分化合物の量として、1日当たり0.01〜100mg/kg程度が好ましく、0.1〜10mg/kgがより好ましい。
【0055】
本発明の飲食品としては、通常の飲食品、例えば、穀物加工品(小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅等)、油脂加工品(可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等)、大豆加工品(豆腐類、味噌、納豆等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等)、水産製品(冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮等)、乳製品(原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリーム等)、野菜・果実加工品(ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等)、菓子類(チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類等)、アルコール飲料(日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等)、嗜好飲料(緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等)、調味料(しょうゆ、ソース、酢、みりん等)、缶詰・瓶詰め・袋詰め食品(牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済み食品)、半乾燥または濃縮食品(レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類)、乾燥食品(即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープ等)、冷凍食品(すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテル等)、固形食品、液体食品(スープ等)、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が挙げられる。
【0056】
また、本発明の飲食品には、上記通常の飲食品のほか、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品、例えば、健康食品、機能性食品、サプリメントあるいは厚生労働省の定める特別用途食品、例えば特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品、病者用組み合わせ食品、高齢者用食品が含まれる。
【0057】
本発明の飲食品の製造法は特に限定されるものではなく、調理、加工および一般に用いられている飲食品の製造法を挙げることができる。本発明の飲食品におけるAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤の含有量は特に限定されず、作用発現の観点から適宜選択できるが、式(I)で表される化合物またはその塩で換算して、飲食品100重量部当たり、好ましくは2.5〜50重量部、より好ましくは3〜10重量部である。
【0058】
本発明に用いられる式(I)の化合物またはその薬学的に許容できる塩は、植物界に存在する物質であり、適宜多量に含有している植物を選択し、メタノール等の入手容易な溶媒で容易に抽出することが可能であり、従来のメイラード反応抑制作用を有するとされるアミノグアニジンに比べて安価なコストで製造することができ工業的に大量生産する上で有利である。また、AGEs生成抑制に関して顕著な効果を有するジカフェオイルキナ酸類は、コーヒー豆などに多く含まれている物質で、もともと食経験が豊富な上、生体に対して極めて穏やかであり、副作用のない状態で生体内におけるメイラード反応を有効に抑制することができる。さらに、式(I)の化合物は、生体内に良く吸収されるポリフェノールであり、個人差はあるが摂取後1〜4時間以内には血中に取り込まれる可能性が高い。したがって速やかに血中に取り込まれる。
【0059】
なお、本発明の医薬品、飲食品の製造方法については特に限定されず、例えば公知の医薬品、飲食品の製造方法を適宜選択すればよい。例えば本発明の医薬品、飲食品の製造工程において、本発明のAGEs生成抑制剤が最終製品に含有されていれば、これを添加する時期、方法等々は特に限定されず、作業性等を考慮して適宜選択すればよい。
【0060】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例等により限定されない。
【実施例】
【0061】
まず、アカネ科植物としてコーヒー豆(Coffea canephora)からの化合物含有画分の調製(参考例1)、各化合物の同定(参考例2)を示す。
【0062】
<参考例1> 化合物含有画分の調製
コーヒー生豆中から、式(I)の化合物を、瓜谷らの報告を参考に単離した(Uritani,I.;Muramatsu,K.:Phytopathologicalchemistry of black−rotted sweet potato.part 4.Isolation and identification of polyphenols from injured sweet potato.Nippon Nougeikagaku Kaishi.27,29−33(1952))。
【0063】
すなわち、供試生豆(Indonesia AP-1)100gを粉砕し、70%(v/v)メタノール水溶液1Lを加えて80℃で20分間、3回抽出を繰り返した。抽出液は50mlまで減圧濃縮後、4℃に48時間保ってフェニルプロパノイド誘導体類とカリウムイオン、カフェインが等モルずつ会合した黄褐色の沈殿を得た。この沈殿物に飽和酒石酸溶液を加えて生成した酒石酸カリウムの白色沈殿を除去した。つぎにクロロホルムを添加してクロロホルム層に移行したカフェインを除去した。水層を分取HPLC PLC−561 system(GL Sciences Inc.,)で目的のピークを分取した。より詳細な分離条件は、以下の通りである。すなわち、カラム:Inertosil ODS-3 250X19mm i.d. (GL Sciences Inc.)、カラム温度40℃、移動相:溶媒A(0.2%酢酸中20% CH3OH)および B(メタノール)、グラディエント:0.0分、A=100%、60.0分、A:B=1:1、70.0分、B=100%、80.0分、A=100%、検出:UV 326nm。すべてのサンプルを、1分辺り、15mlにて溶出した。
【0064】
また、325nmに吸収をもつ7種類の物質のHPLCクロマトグラムを図1に示す。各ピークフラクションはSephadex LH−20 カラムクロマトグラフィーをおこない、メタノールで溶出することによって精製した。精製フェニルプロパノイド誘導体類は凍結乾燥を行ってから−20℃で保存した。
【0065】
<参考例2、7種類の物質の同定>
参考例1で、生豆から単離した7種類の物質のHPLC分析結果と最大吸収波長、FAB−MSおよびMS−MS データを表1に、H−NMRデータを表2(物質1から4)および表3(物質5から7)にまとめた。
【表1】

【表2】

【表3】

物質1、2および3はFAB−MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z163に、ネガティブイオンモードでm/z 191にフラグメントピークが出現した。m/z163フラグメントは陽イオン化にともなうカフェオイル基由来のカルボニル酸素と、m/z191フラグメントはキナ酸由来のフラグメントと同定した。これらのMS分析結果から、3種類の物質はカフェオイルキナ酸と同定した。カフェオイルキナ酸1、2および3のH−NMRスペクトルは、カフェー酸とキナ酸のスペクトルを合わせたもので、キナ酸のC−3、C−4およびC−5プロトンのいずれかのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていた。従って、カフェオイルキナ酸1、2および3を3−CQA、5−CQA、4−CQAと同定した。
【0066】
物質4はFAB−MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z177に、ネガティブイオンモードではm/z191と194にフラグメントを与えた。m/z177フラグメントは、フェルロイル基に由来し、m/z191フラグメントはキナ酸由来、m/z194はフェルロイル基由来のフラグメントと同定した。また物質3のH−NMRスペクトルはMorishitaらの文献(Morishita,H.;Iwashita,H.;Osaka,N.;Kido,R.:Chromatographic separation and identification of naturally occurring chlorogenic acids by 1H nuclear magnetic resonance spectroscopy and mass spectrometry.J.Chromatogr.315,253−260(1984))に酷似していたことから、物質4は5−FQAと同定した。
【0067】
物質5〜7はFAB−MSでm/z516に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z355と163に、ネガティブイオンモードではm/z353、191、179、173、135にフラグメントが出現した。m/z355と166のフラグメントはカフェオイル基が遊離して生成したクロロゲン酸とカフェオイル基由来のカルボニル酸素と考えられる。一方、m/z353のフラグメントはカフェオイル基が遊離したカフェオイルキナ酸、m/z191と173はキナ酸由来、m/z179と135はカフェー酸に由来すると同定した。これらのMS分析結果から、物質5〜7はジカフェオイルキナ酸の異性体と同定した。さらに1H−NMRスペクトルでキナ酸のC−3、C−4およびC−5位のプロトンのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていたことから、物質5〜7をそれぞれ3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQAと同定した。
【0068】
<実施例1> AGEs生成阻害活性試験
物質1〜7のAGEs生成阻害試験は、Yokozawaらの方法(Yokozawa,T.;Nakagawa,T.;Terasawa,K.:Effects of oriental medicines on the production of advanced glycation endproducts.Journal of Traditional Medicines.18,107−112(2001))を参考に実施した。すなわち、密閉容器内に100mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解したグルコース、フルクトース、ウシ血清アルブミンおよび被験物質となる物質1から7およびその他の物質をそれぞれ25mM、25mMおよび10mg/ml、0〜3.26mMの最終濃度になるよう添加、攪拌した。これを55℃で120時間反応させた後、分光蛍光光度計にて励起360nm/蛍光450nmでの蛍光強度を測定した。AGEs生成阻害活性は次式によりもとめた。
AGEs生成阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}
A=緩衝液と被験物質との混合液の蛍光度
B=牛血清アルブミンとグルコースと被験物質との混合液の蛍光度
C=被験物質を添加していない牛血清アルブミンとグルコースとの混合液の蛍光度(Control)
D=緩衝液の蛍光度
【0069】
被験物質の濃度を変えてAGEs生成阻害活性をもとめ、横軸に化合物濃度を、縦軸にAGEs生成阻害活性をプロットしてグラフを描き、回帰式からAGEs生成を50%阻止するのに必要な化合物濃度を算出した(IC50;50% reduction)。また、比較対照にはアミノグアニジンを用いた。
【0070】
被験物質のAGEs生成阻害活性(IC50)を表4にまとめた。モノカフェオイルキナ酸(3−CQA、4−CQA、5−CQA)は、205.4〜232.1μM、5−FQAは864.6μM程度のAGEs生成阻害活性であったが、ジカフェオイルキナ酸類のAGEs生成阻害活性(IC50)はカフェオイルキナ酸類、フェルロイルキナ酸(3−CQA、4−CQA、5−CQA、5−FQA)と比較して顕著な活性(IC50,16.7μM〜35.2μM)が認められた。
【表4】

【0071】
試験に用いたすべてのジカフェオイルキナ酸類は、AGEs生成阻害剤として用いられているアミノグアニジン(IC50,3565.2μM)より有意に高い阻害活性を示した。
【0072】
また試験に用いたすべてのジカフェオイルキナ酸類は、天然に存在するAGEs生成阻害剤として知られているクルクミン、ロスマリン酸と比較しても顕著なAGEs抑制効果が見られた。
【0073】
また、キナ酸、およびフェニルプロパノイド単独(カフェー酸、p-クマル酸、桂皮酸、フェルラ酸)を同条件にて比較検討したところ、カフェー酸にやや活性が見られたが、キナ酸、桂皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸には顕著なAGEs生成抑制活性は見られなかった。
【0074】
<実施例2、ケトアミン生成阻害活性試験>
AGEs生成の過程において、その中間物であるケトアミンを測定するNBT還元法により、物質1から7および実施例1と同じ他の物質についてケトアミン生成阻害作用を調べた。すなわち、密閉容器内に100mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解したグルコース、フルクトース、ウシ血清アルブミンおよび被験物質をそれぞれ25mM、25mM、10mg/mlおよび0〜3.26mMの最終濃度になるよう添加、攪拌した。これを55℃で120時間反応させた。120時間後、反応液30μlに0.2mg/0.9ml[リン酸緩衝液(pH10.3)]NBT溶液を250μlml添加、37℃で30分間インキュベートし、590nmの吸光度を測定した。
ケトアミン生成阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}
A=緩衝液と被験物質との混合液の吸光度
B=牛血清アルブミンとグルコースと被験物質との混合液の吸光度
C=被験物質を添加していない牛血清アルブミンとグルコースとの混合液の吸光度(Control)
D=緩衝液の吸光度
【0075】
被験物質の濃度を変えてケトアミン生成阻害活性をもとめ、横軸に被験物質濃度を、縦軸にケトアミン生成阻害活性をプロットしてグラフを描き、回帰式からケトアミン生成を50%阻止するのに必要な濃度を算出した(IC50;50% reduction)。また、比較対照にはアミノグアニジンを用いた。
【0076】
被験物質のケトアミン生成阻害活性(IC50)を表5にまとめた。モノカフェオイルキナ酸(3−CQA、4−CQA、5−CQA)は301.8〜466.8μM、5−FQAは259.4μMであった。しかしジカフェオイルキナ酸類のAGEs生成阻害活性(IC50)はカフェオイルキナ酸類、フェルロイルキナ酸(3−CQA、4−CQA、5−CQA、5−FQA)と比較して顕著な活性(IC50、37.8μM〜108.1μM)が認められた。
【表5】

【0077】
試験に用いた全てのジカフェオイルキナ酸類は、AGEs生成阻害剤として用いられているアミノグアニジン(IC50、<4000μM)より顕著に高いケトアミン生成阻害活性を示した。また天然に存在するAGEs生成阻害剤として知られているクルクミンには顕著なケトアミン生成阻害効果が見られなかった。またロスマリン酸はIC50が305.7μMであったが、ジカフェオイルキナ酸(IC50;37.8〜108.1μM)ほどの効果を示さなかった。
【0078】
また、キナ酸、およびフェニルプロパノイド単独(カフェー酸、p-クマル酸、桂皮酸、フェルラ酸)を同条件にて比較検討したところ、カフェー酸にやや活性が見られたが、キナ酸、桂皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸には顕著なAGEs生成抑制活性は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、AGEs生成に関連する、例えば糖尿病などの疾患の治療又は予防に有用である。また、本発明のAGEs生成阻害剤またはケトアミン生成阻害剤は、加齢に伴う現象、すなわち、シワ、たるみ、くすみなどの形成抑制に有用である。従って、本発明のAGEs生成阻害剤は、AGEs生成に関連する疾患や現象の治療又は予防に有用な医薬品、組成物、飲料品などの製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】7種類の物質のHPLCクロマトグラムを表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(I)


(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にクマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、または水素を示す。)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するAGEs生成阻害剤。
【請求項2】
ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、およびカフェオイルフェルロイルキナ酸、およびそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載のAGEs生成阻害剤。
【請求項3】
前記化合物またはその薬学的に許容される塩が、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、ウコギ科植物、およびモチノキ科植物からなる群より選択される植物体から抽出される、請求項1または2に記載のAGEs生成阻害剤。
【請求項4】
下記式(I)
【化2】

(I)


(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にクマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、または水素を示す。)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するケトアミン生成阻害剤。
【請求項5】
ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、およびカフェオイルフェルロイルキナ酸、およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項4に記載のケトアミン生成阻害剤。
【請求項6】
前記化合物またはその薬学的に許容される塩が、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、ウコギ科植物、およびモチノキ科植物からなる群より選択される植物体から抽出される、請求項4または5に記載のケトアミン生成阻害剤。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれかに記載のAGEs生成阻害剤または請求項4から6までのいずれかに記載のケトアミン生成阻害剤を含有する飲食品。
【請求項8】
請求項1から3までのいずれかに記載のAGEs生成阻害剤または請求項4から6までのいずれかに記載のケトアミン生成阻害剤を含有する医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から3までのいずれかに記載のAGEs生成阻害剤または請求項4から6までのいずれかに記載のケトアミン生成阻害剤を含有する糖尿病合併症処置用組成物。
【請求項10】
請求項1から3までのいずれかに記載のAGEs生成阻害剤または請求項4から6までのいずれかに記載のケトアミン生成阻害剤を含有するシワ、たるみ、および/またはくすみ形成抑制用組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−96773(P2009−96773A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271588(P2007−271588)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【Fターム(参考)】