説明

DC−DCコンバータ

【課題】急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータを提供する。
【解決手段】主スイッチ素子Q1と整流スイッチ素子Q2を有してなる同期整流型のDC−DCコンバータであって、整流スイッチ素子Q2が、整流トランジスタ素子Tr2と整流ダイオード素子Di2とで構成されてなり、入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtを判定して、該判定値が所定の基準値を越えた時、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2の相補的なオン・オフ動作を解除し、デッドタイムTDより長い時間、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が共にオフとなる状態が設定されてなるDC−DCコンバータとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器に安定した直流電力を供給するDC−DCコンバータに関し、特に、車載用の電子機器にも適用可能なDC−DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に安定した直流電力を供給するDC−DCコンバータは、同期整流素子を持たないチョッパ型のDC−DCコンバータと、同期整流素子を持つ同期整流型のDC−DCコンバータに大別できる。
【0003】
チョッパ型のDC−DCコンバータは、スイッチング素子の動作により一次側の直流電力を間欠的にコイルに供給するもので、該コイルに蓄積された電磁エネルギーを利用して、昇圧または降圧された二次側の直流出力を得るものである。
【0004】
図9は、チョッパ型のDC−DCコンバータの一例で、特開2001−161068号公報(特許文献1)に開示された供給電力制限機能付きDC−DCコンバータの構成図である。
【0005】
図9に示すチョッパ型のDC−DCコンバータは、主として、スイッチングトランジスタ(スイッチング素子)21、平滑用コイル22、平滑用コンデンサ23および整流ダイオード24からなる。また、スイッチングトランジスタ21のパルス幅を制限するためのパルス幅制限電圧設定部25とPWMコンパレータ20を有しており、パルス幅制限電圧設定部25の出力電圧が、入力電源の電圧の高低に応じて変化するように構成されている。
【0006】
図9のDC−DCコンバータにおいては、入力電源電圧が高くなるとパルス幅制限電圧設定部25の出力電圧も高くなり、入力電源電圧が低くなると、パルス幅制限電圧設定部25の出力電圧も低くなる。このように、パルス幅制限電圧設定部25の出力電圧は、三角波出力電圧の1周期の中で、PWMコンパレータ20が電圧を出力する期間(スイッチングパルスのパルス幅)の最大値を、制限幅以下に制限する役割を果たすが、当該制限幅が、入力電源電圧に応じて変化するようになっている。
【0007】
一方、同期整流型のDC−DCコンバータは、チョッパ型のDC−DCコンバータの整流ダイオードに代えて、同期整流素子を用いるものである。
【0008】
図10は、同期整流型のDC−DCコンバータの一例で、特開2007−151271号公報(特許文献2)に開示されたDC−DCコンバータの回路構成を示した図である。
【0009】
図10に示すDC−DCコンバータは、チョッパ回路1、誤差増幅回路(出力誤差検出回路)2、制御駆動回路(制御部)3、及び電圧検出回路(電圧検出部)4によって構成されている。
【0010】
チョッパ回路1は、制御端子へ入力される信号によってオン・オフ動作を行う主スイッチ素子(第1のスイッチ)11と、主スイッチ素子11のオン・オフ動作によって磁気エネルギーの蓄積と放出とを繰り返すインダクタ12と、インダクタ12を流れる電流を平滑化する平滑コンデンサ13と、主スイッチ素子11のオン・オフ動作と相補的にオン・オフ動作を行う整流スイッチ素子(第2のスイッチ)14とによって構成されている。主スイッチ素子11は、入力直流電圧Viが印加され、平滑コンデンサ13から出力直流電圧Vo が負荷15へ出力される。なお、主スイッチ素子11と整流スイッチ素子14とは、スイッチングの際に、双方共にオフ状態となる期間であるデッドタイムを有している。また、pチャネルの主スイッチ素子11とnチャネルの整流スイッチ素子14には、それぞれ、逆並列にダイオード素子が付加されている。これらダイオード素子は、MOSトランジスタ素子を半導体基板に形成した場合に同時形成されるボディダイオード素子を示すものであり、一般的な同期整流型のDC−DCコンバータにおいては、該ボディダイオード素子が動作しないようにしている。
【0011】
図10に示すDC−DCコンバータにおいて、誤差増幅回路(出力誤差検出部)2は、出力直流電圧Voを検出して目標値との誤差を増幅した誤差信号Veを生成する。電圧検出回路4は、誤差増幅回路2が出力する誤差信号Veを検出し、目標とする検出レベルと誤差信号Ve との差に応じた検出信号を出力する。また、制御駆動回路3は、主スイッチ素子11の電流に応じた電流検出信号Vcを生成する電流検出回路36、比較回路32、所定のスイッチング周波数とパルス幅とを有するクロック信号Vckを生成する発振回路31、NORゲート35、駆動信号DRを生成するラッチ回路34、主スイッチ素子11を駆動する第1の駆動信号Vg1を生成する駆動回路33、および、該第1の駆動信号Vg1とは逆論理で最小値に設定されたデッドタイムを有する信号Vg20と電圧検出回路4からの検出信号とに応じて、主スイッチ素子11がオフ状態となってから整流スイッチ素子14がオン状態となるまでのデッドタイムが調整された第2の駆動信号Vg2を生成するデッドタイム調整回路37を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−161068号公報
【特許文献2】特開2007−151271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図10に示した同期整流型のDC−DCコンバータは、一般的に、図9に示したチョッパ型のDC−DCコンバータに較べて、ハイサイドの主スイッチ素子11とローサイドの整流スイッチ素子14が共にオフ状態になるデッドタイムを短くなるように制御することで、高い変換効率が得られる。
【0014】
また、図10のDC−DCコンバータは、デッドタイム調整回路37により、出力直流電圧Voが大きくなればなるほど整流スイッチ素子14のデッドタイムを伸ばすように構成されており、その結果、出力直流電圧Voの上昇を抑制することができる。
【0015】
しかしながら、図10のDC−DCコンバータにおいても、例えば自動車特有のサージ(異常電圧)であるロードダンプのように、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においては、スイッチ素子11,14の動作特性が変化するため、デッドタイムの制御が困難である。このため、場合によっては2つのスイッチ素子11,14が同時オンとなって貫通電流が流れ、スイッチ素子11,14が破壊することがある。
【0016】
そこで本発明は、高い変換効率が得られる同期整流型のDC−DCコンバータであって、自動車におけるロードダンプのように急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載のDC−DCコンバータは、ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの整流スイッチ素子を有してなる同期整流型のDC−DCコンバータであって、前記整流スイッチ素子が、整流トランジスタ素子と該整流トランジスタ素子に逆並列に接続されてなる整流ダイオード素子とで構成されてなり、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子のオン・オフ状態を制御する制御駆動回路部を有してなり、前記制御駆動回路部において、前記主スイッチ素子への入力電圧を検知し、前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率を判定して、該判定値が所定の基準値を越えた時、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子の相補的なオン・オフ動作を解除し、前記相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子が共にオフとなる状態が設定されてなることを特徴としている。
【0018】
上記DC−DCコンバータは、ハイサイドの主スイッチ素子と、ローサイドの整流トランジスタ素子および該整流トランジスタ素子に逆並列に接続されてなる整流ダイオード素子とで構成された整流スイッチ素子を有している。上記ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの整流トランジスタ素子は、通常動作時において、制御駆動回路部により相補的なオン・オフ動作を行うように制御駆動されている。従って、上記DC−DCコンバータは、通常動作時においては、所謂、同期整流型の動作を行う。
【0019】
一方、上記DC−DCコンバータは、主スイッチ素子への入力電圧Viを検知しており、制御駆動回路部において、入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtを判定して、該判定値が所定の基準値を越えた時、主スイッチ素子と整流トランジスタ素子の相補的なオン・オフ動作を解除し、相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間、主スイッチ素子と整流トランジスタ素子が共にオフとなる状態が設定されている。ここで、整流トランジスタ素子には整流ダイオード素子が逆並列に接続されているため、主スイッチ素子と整流トランジスタ素子が相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間共にオフ状態となった場合においても、上記整流ダイオード素子をフリー・ホイーリング動作させて、電力供給を継続することができる。別の言い方をすれば、主スイッチ素子と整流トランジスタ素子が相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間共にオフ状態となった場合には、上記DC−DCコンバータは、チョッパ型のDC−DCコンバータとして動作する。
【0020】
以上のようにして、上記DC−DCコンバータは、高い変換効率が得られる同期整流型のDC−DCコンバータであって、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータとすることができる。
【0021】
上記DC−DCコンバータにおいては、入力電圧または入力電圧の上昇率のいずれか一方だけでなく、請求項2に記載のように、前記入力電圧および前記入力電圧の上昇率の両者を判定して、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子の相補的なオン・オフ動作を解除することが好ましい。これにより、例えば自動車におけるロードダンプのように、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合の異常時において、より確実な制御が可能となる。
【0022】
上記DC−DCコンバータにおいては、例えば請求項3に記載のように、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記整流トランジスタ素子を常にオフ状態とすることが好ましい。これによれば、該判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、上記DC−DCコンバータは、完全にチョッパ型のDC−DCコンバータとしての動作に切り替わる。このため、素子破壊をより確実に防止することができる。
【0023】
また、上記DC−DCコンバータにおいては、請求項4に記載のように、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記整流トランジスタ素子のオン信号のパルス幅は前記解除前と同じで、前記整流トランジスタ素子のオン信号の繰り返し周期を前記解除前より遅くするようにしてもよい。
【0024】
この場合には、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、整流ダイオード素子が主とし整流動作を担い、整流トランジスタ素子は補助的な役割を果たす。従って、予想される異常時の入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtに対して、整流トランジスタ素子のオン信号の繰り返し周期を適宜設定することで、素子破壊の防止と安定した直流電力供給を両立させることができる。
【0025】
上記DC−DCコンバータにおいては、前記主スイッチ素子についても、請求項5に記載のように、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記主スイッチ素子のオン信号のパルス幅は前記解除前と同じで、前記主スイッチ素子のオン信号の繰り返し周期を前記解除前より遅くすることが好ましい。
【0026】
これによれば、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、主スイッチ素子の動作をより安定化させることができ、整流トランジスタ素子を補助的に用いる場合にも、デッドタイムの制御をより容易に行うことができる。
【0027】
また、上記DC−DCコンバータにおいては、請求項6に記載のように、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記主スイッチ素子および前記整流トランジスタ素子のスイッチング速度を、前記解除前より低下させることが好ましい。これにより、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、急激な電圧上昇に伴う主スイッチ素子および整流トランジスタ素子のオーバーシュート(リンギング)を防止することができる。
【0028】
上記DC−DCコンバータにおいては、請求項7に記載のように、前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率の判定が、デジタル回路のソフト演算によりなされるように構成することができる。また、請求項8に記載のように、前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率の判定が、電子回路によりなされるように構成してもよい。
【0029】
上記DC−DCコンバータにおいては、請求項9に記載のように、前記整流ダイオード素子として、順方向電圧の低いショットキバリア型ダイオードであることが好ましい。
【0030】
一方、請求項10に記載のように、前記整流トランジスタ素子が、MOSトランジスタ素子である場合には、前記整流ダイオード素子が、前記MOSトランジスタ素子と同じ半導体基板に形成されてなるボディダイオード素子である構成とすることも可能である。これによって、上記DC−DCコンバータの小型化と低コスト化を図ることができる。また、整流トランジスタ素子に内在するボディダイオード素子を整流ダイオード素子として用いるDC−DCコンバータにおいては、ボディダイオード素子の動作が低速であるため、主スイッチ素子を制御するだけで、微妙なデッドタイム制御が不要である。従って、デッドタイム不足により発生する貫通電流で素子や負荷が破壊する不具合を回避したり、デッドタイム過多によるサージ発生と誤動作を回避したりすることが容易である。
【0031】
また、この場合には請求項11に記載のように、前記DC−DCコンバータにおいて、前記主スイッチ素子に流れる電流を検知することが好ましい。これによって、低速のボディダイオード素子を用いる場合であっても、残留するサージ電流が無いことを十分に検知した上で、主スイッチ素子および補助的に用いる整流トランジスタ素子の動作制御を行うことができる。
【0032】
上記DC−DCコンバータにおいては、請求項12に記載のように、前記主スイッチ素子と前記整流スイッチ素子が、同じSOI(Silicon On Insulator)基板に形成されてなることが好ましい。これによれば、主スイッチ素子と整流スイッチ素子をバルクのシリコン単結晶基板に形成する場合に較べて、主スイッチ素子および整流スイッチ素子を構成する整流トランジスタ素子と整流ダイオード素子の高速化と低損失化が可能である。
【0033】
以上のようにして、上記DC−DCコンバータは、高い変換効率が得られる同期整流型のDC−DCコンバータであって、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータとすることができる。
【0034】
従って、請求項13に記載のように、上記DC−DCコンバータは、車載用として好適である。特に、請求項14に記載のように、前記基準値が、ロードダンプサージに対して設定されてなるようにすることで、自動車におけるロードダンプのように急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のDC−DCコンバータの一例で、(a)は、DC−DCコンバータ100の要部構成を示した回路図であり、(b)は、(a)に示す制御駆動回路部50の詳細を示した回路図である。
【図2】図1(a)に示すDC−DCコンバータ100の動作の一例を説明するタイムチャートである。
【図3】高Vi,高dVi/dt判定回路51をデジタル回路のソフト演算により構成した場合の図で、(a)は、ソフト演算のフローチャートであり、(b)は、判定動作を説明するタイムチャートである。
【図4】図3に示したソフト演算の変形例で、(a)は、フローチャートであり、(b)は、ロードダンプ発生時における入力電圧Viの時間変化の一例をより詳細に示した図である。
【図5】高Vi,高dVi/dt判定回路51を電子回路によりなされるように構成した場合の回路図である。
【図6】図5に示した電子回路の変形例で、(a)は、回路図であり、(b)は、ロードダンプ発生時における入力電圧Viの時間変化の別例を詳細に示した図である。
【図7】整流ダイオード素子としてMOSトランジスタ素子と同時形成されるボディダイオード素子を利用したDC−DCコンバータの例を示す図で、(a)は、DC−DCコンバータ101の要部構成を示した回路図であり、(b)は、(a)に示す制御駆動回路部50aの詳細を示した回路図である。
【図8】(a)は、整流スイッチ素子Q4の具体化例を示した断面図であり、(b)は、整流ダイオード素子Di2の具体化例を示した断面図である。
【図9】チョッパ型のDC−DCコンバータの一例で、特許文献1に開示された供給電力制限機能付きDC−DCコンバータの構成図である。
【図10】同期整流型のDC−DCコンバータの一例で、特許文献2に開示されたDC−DCコンバータの回路構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態を、図に基づいて説明する。
【0037】
図1は、本発明のDC−DCコンバータの一例で、図1(a)は、DC−DCコンバータ100の要部構成を示した回路図であり、図1(b)は、図1(a)に示す制御駆動回路部50の詳細を示した回路図である。
【0038】
図1(a)に示すDC−DCコンバータ100は、車載用のDC−DCコンバータで、以下に詳述するように、特に、ロードダンプのように急激な入力電圧上昇dVi/dtがある場合や高入力電圧Viが長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なようにしたものである。
【0039】
図1(a)に示すDC−DCコンバータ100は、図中に破線で囲ったハイサイドの主スイッチ素子Q1とローサイドの整流スイッチ素子Q2を有してなる、同期整流型のDC−DCコンバータである。ハイサイドの主スイッチ素子Q1は、pチャネルのMOSトランジスタ素子からなり、制御端子へ入力される信号G1によってオン・オフ動作を行う。主スイッチ素子Q1のオン・オフ動作によって、インダクタLは、磁気エネルギーの蓄積と放出とを繰り返す。平滑コンデンサCは、インダクタLを流れる電流ILを平滑化する。また、DC−DCコンバータ100におけるローサイドの整流スイッチ素子Q2は、主スイッチ素子Q1のオン・オフ動作と相補的にオン・オフ動作を行う整流トランジスタ素子Tr2と、一般的な同期整流型のDC−DCコンバータと異なり、該整流トランジスタ素子Tr2に逆並列に接続された整流ダイオード素子Di2とで構成されている。図1(a)のDC−DCコンバータ100における整流トランジスタ素子Tr2は、nチャネルのMOSトランジスタ素子からなり、整流ダイオード素子Di2は、外付けのショットキバリア型ダイオード素子からなる。
【0040】
図1(a)に示すように、DC−DCコンバータ100は、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2のオン・オフ状態を制御する制御駆動回路部50を有している。DC−DCコンバータ100は、制御駆動回路部50において、主スイッチ素子Q1への入力電圧Viと平滑コンデンサCの出力電圧Voを検知し、最適な主スイッチ素子Q1のゲート信号G1と整流トランジスタ素子Tr2のゲート信号G2を出力する。
【0041】
図1(b)に示すように、制御駆動回路部50は、高Vi,高dVi/dt判定回路51、出力電圧判定回路52、PWM演算回路53および駆動回路54で構成されている。入力電圧Viは、高Vi,高dVi/dt判定回路51によって、通常状態であるか、あるいは入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtが所定の基準値を越えた異常状態であるかが判定される。出力電圧Voは、出力電圧判定回路52によって、安定出力が得られているかどうかが判定される。これら高Vi,高dVi/dt判定回路51による入力電圧Viと出力電圧判定回路52による出力電圧Voの判定結果をもとにして、PWM演算回路53により所定の演算を行い、駆動回路54を介して主スイッチ素子Q1のゲート信号G1と整流トランジスタ素子Tr2のゲート信号G2が出力される。
【0042】
図1(a)に示すDC−DCコンバータ100は、後で詳述するように、制御駆動回路部50において、主スイッチ素子Q1への入力電圧Viを検知し、入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtを判定している。そして、該判定値が所定の基準値を越えた時、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2の相補的なオン・オフ動作を解除し、相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が共にオフとなる状態が設定されている。
【0043】
図2は、図1(a)に示すDC−DCコンバータ100の動作の一例を説明するタイムチャートである。図2においては、入力電圧Viと出力電圧Vo、主スイッチ素子Q1のゲート信号G1と整流トランジスタ素子Tr2のゲート信号G2、主スイッチ素子Q1を流れる電流IQ1、整流トランジスタ素子Tr2を流れる電流It2、整流ダイオード素子Di2を流れる電流Id2およびインダクタLを流れる電流ILを同じ時間軸で示している。
【0044】
前述したように、図1(a)に示すDC−DCコンバータ100は、ハイサイドの主スイッチ素子Q1と、ローサイドの整流トランジスタ素子Tr2および該整流トランジスタ素子Tr2に逆並列に接続された整流ダイオード素子Di2とで構成された整流スイッチ素子Q2を有している。上記ハイサイドの主スイッチ素子Q1とローサイドの整流トランジスタ素子Tr2は、図2に示すように、通常動作時において、制御駆動回路部50により相補的なオン・オフ動作を行うように制御駆動されている。従って、DC−DCコンバータ100は、通常動作時においては所謂同期整流型の動作を行い、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が所定のデッドタイム制御の下で相補的にオン・オフを繰り返すことで、高効率なPWM動作を行い、安定した直流電圧を出力する。尚、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が相補的なオン・オフ動作を行う通常動作時においては、整流ダイオード素子Di2は、無効状態となっている。
【0045】
一方、図1(a)のDC−DCコンバータ100は、前述したように主スイッチ素子Q1への入力電圧Viを検知しており、制御駆動回路部50において、後述するように入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtを判定している。そして、該判定値が所定の基準値を越えた時、図2に示すように、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2の相補的なオン・オフ動作を解除し、相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムTDより長い時間、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が共にオフとなる状態が設定されている。図2のタイムチャートにおいては、ロードダンプの開始が判定された段階で、整流トランジスタ素子Tr2を完全に停止し、ロードダンプが継続している間、整流トランジスタ素子Tr2を常にオフ状態とする例を示している。
【0046】
ここで、図1(a)のDC−DCコンバータ100においては、従来の同期整流型のDC−DCコンバータと異なり、整流トランジスタ素子Tr2には整流ダイオード素子Di2が逆並列に接続されているため、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムTDより長い時間共にオフ状態となった場合においても、整流ダイオード素子Di2をフリー・ホイーリング動作させて、図2に示すように、電力供給を継続することができる。別の言い方をすれば、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2が相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムTDより長い時間共にオフ状態となった場合には、DC−DCコンバータ100は、チョッパ型のDC−DCコンバータとして動作する。
【0047】
以上のようにして、図1(a)に示すDC−DCコンバータ100は、高い変換効率が得られる同期整流型のDC−DCコンバータであって、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータとなっている。
【0048】
次に、図1(b)に示す制御駆動回路部50の高Vi,高dVi/dt判定回路51について、その動作をより詳細に説明する。
【0049】
図3は、高Vi,高dVi/dt判定回路51をデジタル回路のソフト演算により構成した場合の図である。図3(a)は、ソフト演算のフローチャートであり、図3(b)は、判定動作を説明するタイムチャートである。
【0050】
図3(a)のフローチャートで示した高Vi,高dVi/dt判定回路51は、以下のように動作する。最初に、ステップS0において、メモリVjをゼロにリセットしておく。次に、ステップS1において、
入力電圧Viをサンプリングする。尚、サンプリング周期ΔTは、ロードダンプ時の入力電圧Viの急変に追従できる程度に短い時間に設定する。
【0051】
次に、ステップS2において、高電圧判定Aを実施し、入力電圧Viがロードダンプ状態かどうかを基準値Va(例えば30V)と比較し、Vi>Vaならロードダンプ状態(YES)、Vi<Vaなら非ロードダンプ状態(NO)と判定する。入力電圧Viがロードダンプ状態にある(YES)と判定された場合には、ステップS5にとび、ロードダンプ信号を出力する。入力電圧Viが非ロードダンプ状態にある(NO)と判定された場合には、次のステップS3に進む。
【0052】
次のステップS3においては、基準値Vaより低く設定された基準値Vb(例えば20V)で、高電圧判定Bを実施する。入力電圧Viがロードダンプに近い状態にあるかどうかを基準値Vbと比較し、Vi>Vbならロードダンプに近い状態(YES)、Vi<Vbならロードダンプに近くない状態(NO)と判定する。入力電圧Viがロードダンプに近い状態にある(YES)と判定された場合には、次のステップS4に進む。入力電圧Viがロードダンプに近くない状態にある(NO)と判定された場合には、ステップS6にとび、入力電圧ViをメモリVjに入れる。
【0053】
ステップS4は、入力電圧Viが基準値Vbより大きい時、高dVi/dt判定Cを実施する。ステップS4では、入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔTを計算し、基準値k(例えば1V/μsec)と比較して、(Vi−Vj)/ΔT>kならロードダンプ突入状態(YES)、(Vi−Vj)/ΔT<kならロードダンプ非突入状態(NO)と判定する。ロードダンプ突入状態にある(YES)と判定された場合には、次のステップS5に進む。ロードダンプ非突入状態にある(NO)と判定された場合には、ステップS6にとび、入力電圧ViをメモリVjに入れる。
【0054】
ステップS2におけるロードダンプ状態またはステップS4におけるロードダンプ突入状態が判定されると、ステップS5のロードダンプ信号出力Dにおいて、ロードダンプ信号を出力する。ロードダンプ信号を出力した後、ステップS6にとび、入力電圧ViをメモリVjに入れる。
【0055】
ステップS6において、入力電圧ViをメモリVjに入れた後は、再びステップS1に戻り、上記ステップを繰り返す。
【0056】
図3(b)のタイムチャートは、入力電圧Viと出力電圧Voおよび図3(a)のフローチャートにおける各ステップの出力信号を同じ時間軸で示した図で、入力電圧Viにロードダンプサージが入った時の各ステップの出力信号を示している。
【0057】
入力電圧Viにロードダンプサージが入ると、入力電圧Viが基準値Vbより大きい状態となり、先にステップS3の高電圧判定Bで、ロードダンプに近い状態にあると判定される。続いて、ステップS4の高dVi/dt判定Cでロードダンプ突入状態が判定され、ステップS5のロードダンプ信号出力Dにおいて、ロードダンプ信号が立ち上がる。ロードダンプによって高い入力電圧Viが続いている間は、ステップS2の高電圧判定Aにおいてロードダンプ状態が判定されるため、ロードダンプ信号は出力され続ける。その後、ロードダンプによる入力電圧Viが基準値Vaより小さくなった時点で、ステップS2において非ロードダンプ状態が判定され、ステップS5におけるロードダンプ信号の出力が停止される。
【0058】
図4は、図3に示したソフト演算の変形例で、図4(a)は、フローチャートであり、図4(b)は、ロードダンプ発生時における入力電圧Viの時間変化の一例をより詳細に示した図である。
【0059】
図4(a)に示すフローチャートにおいては、図3(a)に示したフローチャートに較べて、ステップS3’の高電圧判定B’とステップS4’の高dVi/dt判定C’の二つのステップが追加されている。ステップS3’における高電圧判定B’の基準値Vb’は、ステップS2における基準値Va(例えば30V)とステップS3における基準値Vb(例えば20V)の中間の値(例えば25V)に設定される。また、ステップS4’における高dVi/dt判定C’の基準値k’は、ステップS4における基準値k(例えば1V/μsec)に較べて大きな値(例えば2V/μsec)に設定される。
【0060】
図4(a)に示すフローチャートでは、ステップS2においてVi<Va=30Vで非ロードダンプ状態(NO)と判定され、ステップS3においてVi>Vb=20Vでロードダンプに近い状態(YES)と判定された場合に、次のステップS3’に進む。
【0061】
次のステップS3’においては、基準値Va=30Vと基準値Vb=20Vの中間の値に設定された基準値Vb’=25Vで、高電圧判定B’を実施する。ステップS3’において入力電圧Vi>Vb=25V’なら、ステップS4の高dVi/dt判定Cに進み、入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔT>k=1V/μsecの時にロードダンプ突入状態(YES)と判定されて、ステップS5に進む。一方、ステップS3’において入力電圧Vi<Vb=25V’なら、ステップS4’の高dVi/dt判定C’に進み、入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔT>k’=2V/μsecの時にロードダンプ突入状態(YES)と判定されて、ステップS5に進む。
【0062】
図4(a)に示すフローチャートは、図3(a)に示したフローチャートに較べて、基準値Vb=20Vと基準値Va=30Vの間における入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔTに関する判定をより詳細に行うものである。すなわち、基準値Vb=20Vと基準値Vb’=25Vの間においては、(Vi−Vj)/ΔT>k’=2V/μsecでロードダンプ突入状態(YES)を判定し、基準値Vb’=25Vと基準値Va=30Vの間においては、(Vi−Vj)/ΔT>k=1V/μsecでロードダンプ突入状態(YES)を判定する。
【0063】
ロードダンプ発生時における入力電圧Viの時間変化は、図4(b)に例示したように、通常一定ではなく、(Vi−Vj)/ΔTは一般的に一定値とはならない。例えば、図4(b)では、基準値Vb=20Vと基準値Vb’=25Vの間における入力電圧Viの傾きに較べて、基準値Vb’=25Vと基準値Va=30Vの間における入力電圧Viの傾きが小さくなっており、飽和傾向を示している。このような場合、二点の入力電圧Viの基準値Va,Vbと一点の入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔTの基準値kしか持たない図3(a)のフローチャートでは正確なロードダンプ突入状態の判定が困難である。一方、図4(a)のフローチャートでは、中間の入力電圧Viの基準値Vb’と時間変化(Vi−Vj)/ΔTの基準値k’を適宜設定することにより、より正確なロードダンプ突入状態の判定が可能になる。尚、図4(a)においては、ステップS4’における入力電圧Viの時間変化(Vi−Vj)/ΔTの基準値k’=2V/μsecを、ステップS4における基準値k=1V/μsecに較べて大きくする場合の例を示した。しかしながらこれに限らず、ロードダンプ突入時の入力電圧Viの時間変化傾向によっては、ステップS4’における基準値k’をステップS4における基準値kより小さく設定してより正確な判定をすることも可能である。
【0064】
図5は、図1(b)に示す高Vi,高dVi/dt判定回路51を電子回路によりなされるように構成した場合の回路図である。
【0065】
図5に示す電子回路を用いても、図3に示した高Vi,高dVi/dt判定回路51をデジタル回路のソフト演算により構成した場合と同等の判定動作を行わせることができる。すなわち、高電圧判定回路AをコンパレータCOMP1と基準値Va(例えば30V)の比較電源で構成し、入力電圧Vi>基準値Vaの時、ロードダンプ状態と判定し、端子Aに出力する。また、高電圧判定回路BをコンパレータCOMP2と基準値Vb(例えば20V)の比較電源で構成し、入力電圧Vi>基準値Vbの時、ロードダンプに近い状態と判定し、端子Bに出力する。さらに、高dVi/dt判定回路を微分回路とコンパレータCOMP3で構成し、抵抗R、容量Cおよび基準電圧Vr1,Vr2を適宜設定することにより、例えばdVi/dt>1V/μsecの時、ロードダンプ突入状態と判定し、端子Cに出力する。端子B出力と端子C出力のAND演算、および端子A出力とのOR演算により、端子Dにロードダンプ信号が出力される。
【0066】
以上のようにして、図5に示す電子回路を高Vi,高dVi/dt判定回路51として用いても、図3に示した高Vi,高dVi/dt判定回路51をデジタル回路のソフト演算により構成した場合と同等の判定動作を行わせることができる。
【0067】
図6は、図5に示した電子回路の変形例で、図6(a)は、回路図であり、図6(b)は、ロードダンプ発生時における入力電圧Viの時間変化の別例を詳細に示した図である。
【0068】
図6(a)に示す電子回路においては、図5に示した電子回路の端子B出力と端子C出力のAND演算に換えて、端子B出力と端子C出力のDラッチ演算が用いられている。図5に示した端子B出力と端子C出力のAND演算をする電子回路においては、例えば入力電圧Vi<基準値Va=30Vにおいては、入力電圧Vi>基準値Vb=20VとdVi/dt>基準値1V/μsecが同時に満たされるとき、ロードダンプ状態が判定される。しかしながら、ロードダンプ発生時における入力電圧Viは、図6(b)に例示したように、点線で示した平均的な入力電圧Viの上昇にノイズが重なって、入力電圧Viが上下に揺らぎながら増大していく場合がある。この場合、端子B出力と端子C出力のAND演算を行う図5に示した電子回路では、図6(b)において入力電圧Vi>基準値Vb=20VであってもdVi/dtがマイナスの部分ではロードダンプ状態と判定されない。これに対して、端子B出力と端子C出力のDラッチ演算が用いられる図6(a)の電子回路では、入力電圧Vi>基準値Vb=20Vの条件が一度でも成立し、その条件が成立している間にdVi/dt>基準値1V/μsecの条件が成立すれば、ロードダンプ突入状態であると判定し記憶することができるため、より正確なロードダンプ突入状態の判定が可能になる。
【0069】
図1(a)に示すDC−DCコンバータ100においては、入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtのいずれか一方だけでなく、図3と図5に例示したように、入力電圧Viおよび入力電圧の上昇率dVi/dtの両者を判定して、主スイッチ素子Q1と整流トランジスタ素子Tr2の相補的なオン・オフ動作を解除することが好ましい。これにより、例えば自動車におけるロードダンプのように、急激な入力電圧上昇dVi/dtがある場合や高入力電圧Viが長時間続く場合の異常時において、より確実な制御が可能となる。
【0070】
図1(a)のDC−DCコンバータ100においては、入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtの判定値が所定の基準値を越えた状態で、図2に示したように整流トランジスタ素子Tr2を常にオフ状態とすることが好ましい。これによれば、該判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、DC−DCコンバータ100は、完全にチョッパ型のDC−DCコンバータとしての動作に切り替わる。このため、素子破壊を確実に防止することができる。
【0071】
しかしながらこれに限らず、図1(a)のDC−DCコンバータ100においては、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、整流トランジスタ素子Tr2のオン信号のパルス幅は解除前と同じで、整流トランジスタ素子Tr2のオン信号の繰り返し周期を解除前より遅くするようにしてもよい。この場合には、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、整流ダイオード素子Di2が主とし整流動作を担い、整流トランジスタ素子Tr2は補助的な役割を果たす。従って、予想される異常時の入力電圧Viまたは入力電圧の上昇率dVi/dtに対して、整流トランジスタ素子Tr2のオン信号の繰り返し周期を適宜設定することで、素子破壊の防止と安定した直流電力供給を両立させることができる。
【0072】
図1(a)のDC−DCコンバータ100においては、主スイッチ素子Q1についても、図2のロードダンプ開始判定後に示すように、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、主スイッチ素子Q1のオン信号のパルス幅は解除前と同じで、主スイッチ素子Q1のオン信号の繰り返し周期を解除前より遅くするようにしている。これによれば、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧Viの異常時において、主スイッチ素子Q1の動作をより安定化させることができ、整流トランジスタ素子Tr2を補助的に用いる場合にも、デッドタイムの制御をより容易に行うことができる。
【0073】
また、図1(a)のDC−DCコンバータ100においては、前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、主スイッチ素子Q1および整流トランジスタ素子Tr2のスイッチング速度を、解除前より低下させることが好ましい。これにより、判定値が所定の基準値を越えた入力電圧の異常時において、急激な電圧上昇に伴う主スイッチ素子Q1および整流トランジスタ素子Tr2のオーバーシュート(リンギング)を防止することができる。
【0074】
図1(a)のDC−DCコンバータ100における整流ダイオード素子Di2としては、前述したように、順方向電圧の低いショットキバリア型ダイオードが好適である。
【0075】
一方、これに限らず、整流トランジスタ素子をMOSトランジスタ素子とする場合には、整流ダイオード素子として、該MOSトランジスタ素子と同じ半導体基板に同時形成されるボディダイオード素子とすることも可能である。これによれば、上記DC−DCコンバータの小型化と低コスト化を図ることが可能である。
【0076】
図7は、上記整流ダイオード素子としてMOSトランジスタ素子と同時形成されるボディダイオード素子を利用したDC−DCコンバータの例を示す図である。図7(a)は、DC−DCコンバータ101の要部構成を示した回路図であり、図7(b)は、図7(a)に示す制御駆動回路部50aの詳細を示した回路図である。尚、図7(a),(b)に示すDC−DCコンバータ101および制御駆動回路部50aにおいて、それぞれ、図1(a),(b)に示したDC−DCコンバータ100および制御駆動回路部50と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0077】
図7(a)に示すDC−DCコンバータ101も、図1(a)に示したDC−DCコンバータ100と同様に、ハイサイドの主スイッチ素子Q3とローサイドの整流スイッチ素子Q4を有してなる同期整流型のDC−DCコンバータである。ローサイドの整流スイッチ素子Q4は、主スイッチ素子Q3のオン・オフ動作と相補的にオン・オフ動作を行う整流トランジスタ素子Tr4と該整流トランジスタ素子Tr4に逆並列に接続された整流ダイオード素子Di4とで構成されている。一方、図7(a)のDC−DCコンバータ101は、図1(a)のDC−DCコンバータ100と異なり、整流ダイオード素子Di4が、nチャネルのMOSトランジスタ素子である整流トランジスタ素子Tr4と同じ半導体基板に同時形成されるボディダイオード素子で構成されている。図7(a)のDC−DCコンバータ101における整流ダイオード素子Di4も、図1(a)のDC−DCコンバータ100における整流ダイオード素子Di2と同様に、制御駆動回路部50aにより、ロードダンプ等の異常時において、主スイッチ素子Q3と整流トランジスタ素子Tr4がオフ状態となった場合にフリー・ホイーリング動作するように設定されている。尚、図7(a)のDC−DCコンバータ101においては、主スイッチ素子Q3も逆並列に接続されたボディダイオード素子が内在するpチャネルのMOSトランジスタ素子となっているが、該主スイッチ素子Q3のボディダイオード素子は、動作しないように無効状態にしている。
【0078】
整流トランジスタ素子Tr4に内在するボディダイオード素子を整流ダイオード素子Di4として用いるDC−DCコンバータ101においては、ボディダイオード素子の動作が低速であるため、主スイッチ素子Q3を制御するだけで、微妙なデッドタイム制御が不要である。従って、デッドタイム不足により発生する貫通電流で素子や負荷が破壊する不具合を回避したり、デッドタイム過多によるサージ発生と誤動作を回避したりすることが容易である。
【0079】
一方、整流トランジスタ素子Tr4に内在するボディダイオード素子を整流ダイオード素子Di4として用いるDC−DCコンバータ101においては、図7(a)に示すように、主スイッチ素子Q3に流れる電流を検知することが好ましい。これによって、整流ダイオード素子Di4として低速のボディダイオード素子を用いる場合であっても、残留するサージ電流が無いことを十分に検知した上で、主スイッチ素子Q3および補助的に用いる整流トランジスタ素子Tr4の動作制御を行うことができる。特に、入力電圧異常時の電流モニタのサンプリングタイミングは、nチャネルMOSトランジスタに内在するボディダイオード素子に起因するサージ電流が無くなるまで十分な待ち時間を取ってから行えるように、整流トランジスタ素子Tr4のゲート制御を行い、動作の安定化をさらに図る。
【0080】
図1(a)に示したDC−DCコンバータ100や図7(a)に示したDC−DCコンバータ101においては、主スイッチ素子Q1,Q3と整流スイッチ素子Q2,Q4が、同じSOI(Silicon On Insulator)基板に形成されてなることが好ましい。これによれば、主スイッチ素子Q1,Q3と整流スイッチ素子Q2,Q4をバルクのシリコン単結晶基板に形成する場合に較べて、主スイッチ素子Q1,Q3および整流スイッチ素子Q2,Q4を構成する整流トランジスタ素子Tr2,Tr4と整流ダイオード素子Di2,Di4の高速化と低損失化が可能である。
【0081】
図8は、上記した主スイッチ素子Q1,Q3と整流スイッチ素子Q2,Q4を同じSOI基板に形成する場合の具体的な構造例を示す図で、図8(a)は、整流スイッチ素子Q4の具体化例を示した断面図であり、図8(b)は、整流ダイオード素子Di2の具体化例を示した断面図である。
【0082】
図8(a)に示す整流スイッチ素子Q4および図8(b)に示す整流ダイオード素子Di2は、いずれも、埋込酸化膜63を有するSOI基板60に形成されている。SOI基板60は、基板貼り合わせ技術により形成されたSOI基板で、支持基板62に対して素子が形成される埋込酸化膜63上のSOI層61は、薄く研磨加工されている。また、図8(a)に示す整流スイッチ素子Q4および図8(b)に示す整流ダイオード素子Di2は、いずれも、埋込酸化膜63に達する絶縁分離トレンチ64によって、周りの素子から絶縁分離されている。
【0083】
図8(a)に示す整流スイッチ素子Q4は、nチャネルMOSトランジスタからなる整流トランジスタ素子Tr4と、該整流トランジスタ素子Tr4に内在するボディダイオード素子からなる図中に記号で示した整流ダイオード素子Di4とで構成されている。また、図8(b)に示す整流ダイオード素子Di2は、ショットキバリア型ダイオードである。図8(a)に示す整流トランジスタ素子Tr4と整流ダイオード素子Di4および図8(b)に示す整流ダイオード素子Di2は、いずれも薄いSOI層61に形成されており、バルクのシリコン単結晶基板に形成する場合に較べて、高速化と低損失化が可能である。
【0084】
以上のようにして、上記したDC−DCコンバータは、高い変換効率が得られる同期整流型のDC−DCコンバータであって、急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能なDC−DCコンバータとすることができる。
【0085】
従って、上記したDC−DCコンバータは、車載用として好適である。特に、前記基準値をロードダンプサージに対して設定することで、自動車におけるロードダンプのように急激な入力電圧上昇がある場合や高入力電圧が長時間続く場合においても、素子破壊することなく、安定した直流電力供給が可能である。
【符号の説明】
【0086】
100,101 DC−DCコンバータ
Q1,Q3 主スイッチ素子
Q2,Q4 整流スイッチ素子
Tr2,Tr4 整流トランジスタ素子
Di2,Di4 整流ダイオード素子
L インダクタ
C 平滑コンデンサ
50,50a 制御駆動回路部
51 高Vi,高dVi/dt判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイサイドの主スイッチ素子とローサイドの整流スイッチ素子を有してなる同期整流型のDC−DCコンバータであって、
前記整流スイッチ素子が、整流トランジスタ素子と該整流トランジスタ素子に逆並列に接続されてなる整流ダイオード素子とで構成されてなり、
前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子のオン・オフ状態を制御する制御駆動回路部を有してなり、
前記制御駆動回路部において、
前記主スイッチ素子への入力電圧を検知し、
前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率を判定して、該判定値が所定の基準値を越えた時、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子の相補的なオン・オフ動作を解除し、前記相補的なオン・オフ動作時のデッドタイムより長い時間、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子が共にオフとなる状態が設定されてなることを特徴とするDC−DCコンバータ。
【請求項2】
前記入力電圧および前記入力電圧の上昇率の両者を判定して、前記主スイッチ素子と前記整流トランジスタ素子の相補的なオン・オフ動作を解除することを特徴とする請求項1に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項3】
前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記整流トランジスタ素子を常にオフ状態とすることを特徴とする請求項1または2に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項4】
前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記整流トランジスタ素子のオン信号のパルス幅は前記解除前と同じで、前記整流トランジスタ素子のオン信号の繰り返し周期を前記解除前より遅くすることを特徴とする請求項1または2に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項5】
前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記主スイッチ素子のオン信号のパルス幅は前記解除前と同じで、前記主スイッチ素子のオン信号の繰り返し周期を前記解除前より遅くすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項6】
前記判定値が所定の基準値を越えた状態で、前記主スイッチ素子および前記整流トランジスタ素子のスイッチング速度を、前記解除前より低下させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項7】
前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率の判定が、デジタル回路のソフト演算によりなされることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項8】
前記入力電圧または前記入力電圧の上昇率の判定が、電子回路によりなされることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項9】
前記整流ダイオード素子が、ショットキバリア型ダイオードであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項10】
前記整流トランジスタ素子が、MOSトランジスタ素子であり、
前記整流ダイオード素子が、前記MOSトランジスタ素子と同じ半導体基板に形成されてなるボディダイオード素子であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項11】
前記DC−DCコンバータにおいて、
前記主スイッチ素子に流れる電流を検知することを特徴とする請求項10に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項12】
前記主スイッチ素子と前記整流スイッチ素子が、同じSOI基板に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項13】
前記DC−DCコンバータが、車載用であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のDC−DCコンバータ。
【請求項14】
前記基準値が、ロードダンプサージに対して設定されてなることを特徴とする請求項13に記載のDC−DCコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−88291(P2010−88291A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198538(P2009−198538)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】