説明

GNSS受信装置及び測位方法

【課題】マルチパスの影響の有無を検出し、マルチパスの影響がある場合にはその影響を低減し、測定精度を向上させること。
【解決手段】複数のGNSS衛星から送信される測位信号に基づいて位置を算出するGNSS受信装置に、測位信号に基づいて求められた擬似距離の時間特性に基づいて、該測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断するマルチパス判断手段と、測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断された場合に、擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求める位相差ゼロ点算出手段と、測位信号に基づいて求められたドップラー周波数の積算値の時間特性と、位相ゼロ点算出手段により求められたゼロ点に基づいて、擬似距離を修正する擬似距離修正手段と、修正された擬似距離に基づいて位置を求める測位演算手段とを備えることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS用周回衛星からの信号を受信して位置や速度を測定するGNSS受信装置及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星航法(GNSS: Global Navigation Satellite System)とは、航空機から3つの航法衛星(GNSS用周回衛星)(以下、GNSS衛星と呼ぶ)を捕捉することで各GNSS衛星からの距離を得るとともに、4つ目の航法衛星からの信号で時刻合わせを行い、航空機の3次元での飛行位置を得ることができる航法システムである。この衛星航法には、全地球的測位システム(GPS: Global Positioning System)、ガリレオ(GALILEO)などが含まれる。
【0003】
例えば、GNSS受信装置は移動体に搭載され、該移動体の位置及び速度を測定する。例えば、GNSS受信装置は、複数のGNSS衛星からの電波を受信することによって、該複数のGNSS衛星から自GNSS受信装置までの距離をそれぞれ測定し、これらの測定値に基づいて該GNSS受信装置が搭載された移動体の測位を行う。GNSS衛星により発射された信号は、該GNSS衛星とGNSS受信装置との間の距離を電波が伝搬する時間だけ遅れてGNSS受信装置に到達する。従って、複数のGNSS衛星について電波伝搬に要する時間を求めれば、測位演算によってGNSS受信装置の位置を求めることができる。例えば、複数のGNSS衛星により発射された電波は、GNSS受信装置の測拒部において、各GNSS衛星からGNSS受信装置までの距離が求められる。そして、測位演算部において、測拒部において求められた距離に基づいて、GNSS受信装置の位置が求められる。
【特許文献1】特開2001−36429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した背景技術には以下の問題がある。
【0005】
GNSS受信装置では、複数のGNSS衛星について電波伝搬に要する時間を求め、測位演算によってGNSS受信装置の位置を求める。この場合、GNSS受信装置により受信される電波には、GNSS衛星のアンテナから発射され、直接到達した電波(直接波)だけではなく、GNSS衛星本体及び/又はGNSS受信装置のアンテナ近傍の地面や構造物等で反射されて、直接波とは異なった経路を通ってきた電波(反射波)も重畳されている。このような、建物や地物などでの反射や回折により生じる、伝搬時間の異なる複数のパスは、マルチパスと呼ばれる。このマルチパスのために直接波の波形は乱され,到達時間の測定に誤差が生じ、その結果、GNSS衛星までの距離を誤測定してしまう。
【0006】
このようなマルチパスによる測定値に対する誤差を低減する技術として、上述した測拒部での対策として、ナローコリレーター(Narrow-Correlator)、ELS(Early-Late Slope)、MEDLL(Multipath Estimating Delay-Lock Loop)などがある。これらの技術では、マルチパス波が推定される。これらの技術は、ハードウエアによる処理によりマルチパスによる誤差を低減する技術である。このようなハードウエアによる処理によりマルチパスによる誤差を低減する技術が搭載された受信機を車載用のGNSS受信装置に備えるのは、コスト高となるため好ましくない。
【0007】
また、測位演算部での対策としては、効果的な技術は開発されていない。従って、現状の車載用のGNSS受信装置では、効果的なマルチパスに対する対策が行われておらず、測拒部において誤測定された各GNSS衛星からGNSS受信装置までの距離に基づいて、GNSS受信装置の位置が求められている。
【0008】
また、GPSにおいては、0.1チップのスペーシングにより求めた推定コード位相、0.2チップのスペーシングで求めた推定コード位相、およびこの2つのスペーシングの幅の関係から相関カーブの真のピーク位置の位相を推定する擬似雑音符号位置検出装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このようにすることにより、擬似雑音符号または擬似雑音符号により変調された変調信号から擬似雑音符号の位相を検出する際、直接波に対してマルチパスによる反射波が重畳されている場合には、直接波による擬似雑音符号の位相を正しく検出できない問題を解決している。ここで、スペーシングとは、位相の進んだC/Aコードと遅れたC/Aコードの間の位相差を示す。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、マルチパスの影響の有無を検出し、マルチパスの影響がある場合にはその影響を低減し、測定精度を向上させることができるGNSS受信装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のGNSS受信装置は、
複数のGNSS衛星から送信される測位信号に基づいて位置を算出するGNSS受信装置において、
前記測位信号から求められた擬似距離の時間特性に基づいて、前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断するマルチパス判断手段と、
前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断された場合に、前記擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求める位相差ゼロ点算出手段と、
前記測位信号に基づいて求められたドップラー周波数の積算値の時間特性と、前記位相ゼロ点算出手段により求められたゼロ点に基づいて、擬似距離を修正する擬似距離修正手段と、
修正された擬似距離に基づいて位置を求める測位演算手段と
を備えることを特徴の1つとする。
【0011】
このように構成することにより、複数のGNSS衛星から送信される測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断できる。そして、マルチパスの影響を受けて受信された場合には、該マルチパスが測位結果に及ぼす影響を低減できる。
【0012】
さらに別の構成例では、
前記マルチパス判断手段は、前記擬似距離の時間特性における擬似距離に振動がみられるか否かを判断し、振動がみられる場合には前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断し、振動がみられない場合には前記測位信号がマルチパスの影響を受けずに受信されたと判断するように構成される。
【0013】
この場合、前記マルチパス判断手段は、前記擬似距離の時間特性における極大値及び極小値を求め、極大値と極小値との差が所定の閾値以上である場合には振動がみられると判断し、極大値と極小値との差が所定の閾値未満である場合には振動がみられないと判断するように構成するようにしてもよい。
【0014】
このように構成することにより、前記擬似距離の時間特性における擬似距離の振動の有無に基づいて、マルチパスの影響を受けたか否かを判断できる。
【0015】
さらに別の構成例では、
前記位相差ゼロ点算出手段は、前記擬似距離の時間特性における極大値及び極小値を求め、極大値及び極小値の尖度の比に基づいてゼロ点を求めるように構成される。
【0016】
このように構成することにより、前記擬似距離の時間特性における極大値及び極小値の尖度の比に基づいてゼロ点を求めることができる。
【0017】
さらに別の構成例では、
前記擬似距離修正手段は、前記ゼロ点が初期値となるように前記ドップラー周波数の積算値の時間特性を擬似距離方向にシフトさせることにより擬似距離を修正するように構成される。
【0018】
このように構成することにより、距離の変化を示すドップラー周波数の積算値に対して初期値を与えることができるため、ゼロ点が初期値となるように前記ドップラー周波数の積算値の時間特性を擬似距離方向にシフトさせることにより求められる擬似距離は、より真値に近い値となる。
【0019】
本発明の測位方法は、
複数のGNSS衛星から送信される測位信号に基づいて位置を算出するGNSS受信装置における測位方法において、
前記測位信号に基づいて、擬似距離の時間特性を求めるステップと、
前記擬似距離の時間特性に基づいて、前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断するステップと、
前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断された場合に、前記擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求めるステップと、
前記測位信号に基づいて求められたドップラー周波数の積算値の時間特性と、前記ゼロ点を求めるステップにより求められたゼロ点に基づいて、擬似距離を修正するステップと、
修正された擬似距離に基づいて位置を求めるステップと
を有することを特徴の1つとする。
【0020】
このようにすることにより、複数のGNSS衛星から送信される測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断できる。そして、マルチパスの影響を受けて受信された場合には、該マルチパスが測位結果に及ぼす影響を低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施例によれば、マルチパスの影響の有無を検出し、マルチパスの影響がある場合にはその影響を低減し、測定精度を向上させることができるGNSS受信装置及び測位方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0023】
本発明の実施例に係るGNSS(Global Navigation Satellite System 全世界航法衛星システム)は、GNSS受信装置100を備え、該GNSS受信装置100は、図1に示すように、受信部102と、PSR(Pseudo Range)測定部104と、PSR極検出部106と、位相差ゼロ点算出部108と、ADR(Accumulated Doppler Range)測定部110と、ADR修正部112と、測位演算部114とを備える。
【0024】
受信部102は、GNSS衛星200により送信された測位信号を受信し、PSR測定部104及びADR測定部110に入力する。例えば、GNSS受信装置100の位置として経度及び緯度を測定する場合には少なくとも3機のGNSS衛星により送信された測位信号を受信する。さらに、高さ方向の位置を検出する必要がある場合には、少なくとも4機のGNSS衛星により送信された測位信号を受信するのが好ましい。GNSS衛星200には、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星、グロナス(GLONASS)、ガリレオ(GALILEO)などが含まれる。
【0025】
PSR測定部104は、入力された測位信号に基づいて、擬似距離を測定し、測定した擬似距離を、PSR極検出部106に入力する。例えば、GNSS衛星がGPS衛星である場合には、全てのGPS衛星からは、擬似雑音符号で位相変調された1.5GHz(L1帯)と1.2GHz(L2帯)の2波の電波が連続送信されている。L1帯の電波はm系列の擬似雑音符号を2つ組み合わせて生成されるゴールド符号と呼ばれる擬似雑音符号で位相変調されている。この擬似雑音符号は衛星ごとに異なり、L1帯における擬似雑音符号はC/Aコードと呼ばれている。PSR測定部104は、C/Aコードを生成し、該C/Aコードを切り替えることによって、所望の衛星からの電波を分離受信する。本実施例においては、GNSS衛星がGPS衛星であり、C/Aコードを擬似雑音符号の一例として説明するが、GNSS衛星がGPS衛星以外の衛星である場合にも同様である。例えば、PSR測定部104は、内蔵されている時計に同期させて生成したC/Aコードを調整しながら、受信した信号との相関をとる動作を行う。相関が最大のとき、このC/Aコードの位相は、GPS衛星とGNSS受信機との間の電波伝播に要する時間を示すことになる。PSR測定部104は、複数のGPS衛星について電波伝播に要する時間を求め、該電波伝播に要する時間に基づいて擬似距離を求める。
【0026】
PSR極検出部106は、入力された擬似距離を一定期間収集し、擬似距離の時間特性を求める。PSR極検出部106は、その擬似距離の時間特性に基づいて、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものであるか否かを判断する。
【0027】
擬似距離は、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものである場合には、図2に示すように、真値に対してあるばらつきを持った特性を有する。一方、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けてGNSS受信装置100に受信されたものである場合には、図3に示すように、真値に対してあるばらつきを持った特性を有するとともに、反射波の影響により、振動がみられる。
【0028】
PSR極検出部106は、擬似距離の時間特性に振動がみられるか否か、言い換えれば、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信された場合の擬似距離の時間特性にもともとみられるバラツキとは明らかに異なる特性がみられるか否かに基づいて、マルチパスの影響の有無を判断する。具体的には、PSR極検出部106は、振動がみられる場合にはGNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けてGNSS受信装置100に受信されたものであると判断し、振動がみられない場合にはGNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものであると判断する。例えば、擬似距離の時間特性において、極大値及び極小値を求め、極大値と極小値との差が所定の閾値以上である場合には振動がみられると判断し、極大値と極小値との差が所定の閾値未満である場合には振動がみられないと判断するようにしてもよい。ここで、閾値は、受信機が有する擬似距離のバラツキに基づいて決定される。従って、閾値は受信機毎に異なるようにしてもよい。
【0029】
PSR極検出部106は、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けてGNSS受信装置100に受信されたものであると判断した場合には、擬似距離の時間特性に基づいて、極値(極大値、極小値)を検出する。そして、PSR極検出部106は、検出した極値とともに擬似距離の時間特性を位相差ゼロ点算出部108に入力する。
【0030】
また、PSR極検出部106は、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものであると判断した場合には、擬似距離を測位演算部114に入力する。
【0031】
位相差ゼロ点算出部108は、入力された極値及び擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相との差がゼロとなる点(ゼロ点)を求める。そして、位相差ゼロ点算出部108は、検出したゼロ点をADR修正部112に入力する。例えば、極大値と極小値の尖度の比に基づいて、ゼロ点を検出するようにしてもよい。具体的には、図4に示すような擬似距離の時間特性が得られた場合、ゼロ点Yは式(1)により示される。図4において、αは極大値からある所定の時間Δt変化した場合における擬似距離の変化量を示し、βは極小値からある所定の時間Δt変化した場合における擬似距離の変化量を示す。
【0032】
=(Y−Y)×β/(α+β)+Y (1)
ADR測定部110は、入力された測位信号に基づいて、ドップラー周波数を測定し、測定したドップラー周波数の積算を行う。そして、ADR測定部110は、ドップラー周波数(ADR)の積算値の時間特性を求め、該ドップラー周波数の積算値の時間特性をADR修正部112に入力する。ドップラー周波数を測定することにより擬似距離の長短を検出することができる。従って、擬似距離を積算することにより、距離の変化を求めることができる。積算されたドップラー周波数は、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものである場合及びマルチパスの影響を受けてGNSS受信装置100に受信されたものである場合ともに、擬似距離に比べて、その特性の変化は小さい。
【0033】
ADR修正部112は、入力されたゼロ点及び擬似距離の時間特性と、ドップラー周波数の積算値の時間特性に基づいて、擬似距離の修正を行う。言い換えれば、ドップラー周波数の積算値の時間特性を修正することにより、擬似距離を修正する。例えば、積算されたドップラー周波数の時間特性をY軸方向、すなわち擬似距離方向にシフトさせる。具体的には、図5に示すように、ADR修正部112は、位相差ゼロ点算出部108により求められたゼロ点を初期値とするようにドップラー周波数の積算値の時間特性をY軸方向にシフトさせる。
【0034】
擬似距離の時間特性において、擬似距離の絶対値は正しい値であるが、そのバラツキが大きい欠点がある。一方、ドップラー周波数の積算値の時間特性において、その特性の傾きは正しい値であるが、その絶対値は正しくない欠点がある。そこで、積算されたドップラー周波数に対して初期値を与えることにより、擬似距離を求める。ADR修正部112は、求めた擬似距離を測位演算部114に入力する。
【0035】
測位演算部114は、PSR極検出部106又はADR修正部112により入力された擬似距離に基づいて、自GNSS受信装置100の位置を求める。また、測位演算部114は、PSR極検出部106又はADR修正部112により入力された擬似距離に基づいて、自GNSS受信装置100の速度を求めるようにしてもよい。
【0036】
次に、本実施例に係るGNSS受信装置における測位方法について、図6を参照して説明する。
【0037】
受信部102は、GNSS衛星200により送信された測位信号を受信する(ステップS602)。例えば、GNSS受信装置100の位置として経度及び緯度を測定する場合には少なくとも3機のGNSS衛星により送信された測位信号を受信する。さらに、高さ方向の位置を検出する必要がある場合には、少なくとも4機のGNSS衛星により送信された測位信号を受信するのが好ましい。
【0038】
PSR測定部104は、測位信号に基づいて、擬似距離を測定する(ステップS604)。
【0039】
PSR極検出部106は、擬似距離の時間特性を求め、該擬似距離の時間特性に基づいて、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けずにGNSS受信装置100に受信されたものであるか否かを判断する(ステップS606)。
【0040】
GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受けず、GNSS受信装置100に受信されたものである場合(ステップS606:NO)、後述するステップS616に遷移する。
【0041】
一方、GNSS衛星200から送信された電波がマルチパスの影響を受け、GNSS受信装置100に受信されたものである場合(ステップS606:YES)、PSR極検出部106は、擬似距離の時間特性に基づいて、極値を検出する(ステップS608)。
【0042】
位相差ゼロ点算出部108は、ステップS608において求められた極値に基づいて、直接波の位相と反射波の位相との差がゼロとなる点(ゼロ点)を求める(ステップS610)。
【0043】
ADR測定部110は、測位信号に基づいて、ドップラー周波数を測定し、測定したドップラー周波数の積算を行う。そして、ADR測定部110は、積算されたドップラー周波数(ADR)の時間特性を求める(ステップS612)。
【0044】
ADR修正部112は、擬似距離の時間特性及びゼロ点と、積算されたドップラー周波数の時間特性に基づいて、積算されたドップラー周波数の初期値がゼロ点となるように、積算されたトップラー周波数の時間特性をY軸方向にシフトさせ、シフトさせたトップラー周波数の積算値の時間特性を擬似距離とみなすことにより擬似距離を求める(ステップS614)。
【0045】
測位演算部114は、擬似距離に基づいて、自GNSS受信装置100の位置を求める。また、測位演算部114は、擬似距離に基づいて、自GNSS受信装置100の速度を求めるようにしてもよい。
【0046】
本実施例において、ステップS604−ステップ610における処理と、ステップS612における処理は入れ替えることが可能である。また、これらの処理は、平行して行われるようにしてもよい。
【0047】
本実施例によれば、擬似距離の時間特性に振動がみられるか否かに基づいて、マルチパスの影響の有無を判断することができる。
【0048】
また、マルチパスの影響がある場合に、ドップラー周波数の積算値の時間特性に対して初期値を与えることにより、マルチパスの影響を低減した擬似距離を求めることができる。従って、マルチパスの影響を低減した擬似距離に基づいて、位置を求めることができるため、測定精度を向上させることができる。
【0049】
説明の便宜上、発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明されるが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてよい。
【0050】
以上、本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、各実施例は単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。説明の便宜上、本発明の実施例に係る装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウエアで、ソフトウエアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が包含される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例にかかるGNSS受信装置を示す部分ブロック図である。
【図2】マルチパスの影響がない場合の擬似距離及びドップラー周波数の積算値の時間特性を示す説明図である。
【図3】マルチパスの影響がある場合の擬似距離及びドップラー周波数の積算値の時間特性を示す説明図である。
【図4】直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求める方法を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施例にかかる擬似距離の修正方法を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施例にかかるGNSS受信装置における測位処理を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0052】
100 GNSS受信装置
102 受信部
104 PSR測定部
106 PSR極検出部
108 位相差ゼロ点算出部
110 ADR測定部
112 ADR修正部
114 測位演算部
200 GNSS衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGNSS衛星から送信される測位信号に基づいて位置を算出するGNSS受信装置において、
前記測位信号から求められた擬似距離の時間特性に基づいて、前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断するマルチパス判断手段と、
前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断された場合に、前記擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求める位相差ゼロ点算出手段と、
前記測位信号に基づいて求められたドップラー周波数の積算値の時間特性と、前記位相ゼロ点算出手段により求められたゼロ点に基づいて、擬似距離を修正する擬似距離修正手段と、
修正された擬似距離に基づいて位置を求める測位演算手段と
を備えることを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のGNSS受信装置において、
前記マルチパス判断手段は、前記擬似距離の時間特性における擬似距離に振動がみられるか否かを判断し、振動がみられる場合には前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断し、振動がみられない場合には前記測位信号がマルチパスの影響を受けずに受信されたと判断することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項3】
請求項2に記載のGNSS受信装置において、
前記マルチパス判断手段は、前記擬似距離の時間特性における極大値及び極小値を求め、極大値と極小値との差が所定の閾値以上である場合には振動がみられると判断し、極大値と極小値との差が所定の閾値未満である場合には振動がみられないと判断することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記位相差ゼロ点算出手段は、前記擬似距離の時間特性における極大値及び極小値を求め、極大値及び極小値の尖度の比に基づいてゼロ点を求めることを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記擬似距離修正手段は、前記ゼロ点が初期値となるように前記ドップラー周波数の積算値の時間特性を擬似距離方向にシフトさせることにより擬似距離を修正することを特徴とするGNSS受信装置。
【請求項6】
複数のGNSS衛星から送信される測位信号に基づいて位置を算出するGNSS受信装置における測位方法において、
前記測位信号に基づいて、擬似距離の時間特性を求めるステップと、
前記擬似距離の時間特性に基づいて、前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたか否かを判断するステップと、
前記測位信号がマルチパスの影響を受けて受信されたと判断された場合に、前記擬似距離の時間特性に基づいて、直接波の位相と反射波の位相とが等しくなるゼロ点を求めるステップと、
前記測位信号に基づいて求められたドップラー周波数の積算値の時間特性と、前記ゼロ点を求めるステップにより求められたゼロ点に基づいて、擬似距離を修正するステップと、
修正された擬似距離に基づいて位置を求めるステップと
を有することを特徴とする測位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103509(P2009−103509A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273979(P2007−273979)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】