説明

HDDサスペンション用積層体の製造方法

【課題】加工工程の煩雑さを省略化し、且つ銅配線を微細に加工できる安価な加工法に適したHDDサスペンション用積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】a)ステンレス層A上に、ポリイミド系樹脂溶液又はその前駆体溶液を塗布・乾燥・熱処理して複数のポリイミド系樹脂層からなる線膨張係数が1×10-5〜3×10-5/℃の絶縁樹脂層Bを形成すること、b)絶縁樹脂層B上に、スパッタ法により金属薄膜としての第1シード層Cを形成する工程、c)第1シード層C上に、スパッタ法により良導電性の金属薄膜としての第2シード層Dを形成する工程、及びd)第2シード層D上に、導体層となるメッキ層Eを形成する工程、の各工程を含むHDDサスペンション用積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)サスペンション基板としての好適な積層体及びそれを使用するHDDサスペンションの製造方法に関するものである。詳しくはサスペンション材料に要求されている配線の微細化において、安価且つ高精度に加工できる高機能性積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HDDの高容量化に向けた技術進化は目覚しく、スライダの小型化によって面記録密度は向上し、現在その平均記憶容量は約40Gbits/in2まで達している。これら技術は、従来のワイヤ線を用いたワイヤタイプのサスペンションから配線が一体となったワイヤレスタイプのサスペンションに代替が進み、従来から問題であったワイヤ線の荷重の不均一化に基づく不安定性が解消されることによってサスペンションの浮揚姿勢は大幅に改善され、小型化するスライダを搭載する技術を可能にした。この小型化したスライダを搭載する技術が可能になったことによってトラック密度及び線記録(ビット)密度といった書き込み容量を飛躍的に向上する技術が達成された(非特許文献1及び2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002-245609号公報
【特許文献2】特開2000-339650号公報
【特許文献3】特開2000-195032号公報
【特許文献4】特開2001-352137号公報
【非特許文献1】IDEMA Japan News No47.p8-
【非特許文献2】日経エレクトロニクス1998.4.6.p713-
【非特許文献3】IDEMA Japan News No45.p6-
【0004】
しかしながら、HDDの高容量化に対する技術ニーズが止まる様相はなく、動画用途を中心に更なる高容量化を目指した技術開発が進んでいる。具体的にはスライダを更に小型化することで記憶容量を向上させる方法、あるいはアームの動きを多段階に分けることでスライダの微小な動きを可能にしたマイクロアクチュエーターの導入、更にはチップ(アンプ)を直接サスペンション上に搭載したチップオンサスペンションといった新技術の提案がなされている。これらマイクロアクチュエーターやチップオンサスペンションの登場によって、これらを制御するための配線数の増加が進み、同時にサスペンション自体の小型化とスライダの小型化が進んでいるため、配線の微細加工性が要求されている(非特許文献2及び3参照)。
【0005】
この微細配線に加工する技術として、従来ステンレス箔上にポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を形成させ、所定の形状に加工した後、熱硬化によってポリイミド樹脂に置換した後、スパッタ−メッキ法により配線を形成するアディティブ法(CIS法)や、ポリイミド樹脂上にスパッタ−メッキを施し後、直接ロードビーム上に接着剤を用いて張り合わせるFOS法などの技術が提案されている。しかしながら、これら技術は微細配線を形成した後、更にスライダや端子と配線を接続するために必要なフライングリードと呼ばれる銅配線単体の部分を形成するには、配線下のポリイミド樹脂をレーザー加工法などの方法を用いて除去しなければならず、後工程が煩雑となりコストが高くなるという問題がある。また、FOS法では接着剤を用いて直接支持基板であるロードビーム上に取り付けるため、位置精度が要求され、この小型化したスライダへの適用は技術的に難しいと言われている。更に、これまでフレクシャーブランクに中継ケーブルを後付けするショートテールタイプと呼ばれるフレクシャーブランクが主流であったが、取り付け加工時の歩留りの観点からこのショートテールと中継ケーブルが一体となったロングテールタイプに移行しつつある。これにより、各端子と接続するために必要な銅配線単独のフライングした部分が多くなるため、後工程での煩雑さが更に増長している。
【0006】
ところで、特許文献1は、ステンレス箔上にポリイミド層及び銅箔を順次積層した積層体をサスペンション用として使用することを教えているが、銅箔はプレス接着法で積層する方法である。特許文献2は、特許文献1と同様な3層の積層体からサスペンションを製造する方法を開示している。特許文献3は、ステンレス箔上にポリイミド前駆体層及び銅箔層を順次形成した積層体を得て、これをサブトラクティブ法により配線パターンを形成し、次にポリイミド前駆体層をフォトリソグラフ技術によりパターニングしたのち、イミド化する工程を含むサスペンションの製造方法を開示する。ここでは、銅箔層はポリイミド前駆体層に形成するが、その方法として熱プレス法の他に、スパッタ法で銅等の金属薄膜を形成し、更にその上に電解銅箔等の金属メッキを施す方法を例示している。特許文献4はサスペンションの周辺構造の改良に係る技術を開示する。そして、特許文献3、4及び非特許文献2には、サスペンションの製造技術としてサブトラクティブ法、アデティブ法、セミアデティブ法等があることを教えており、ステンレス箔、ポリイミド層及び銅箔からなる3層の積層体はサブトラクティブ法、セミアデティブ法に有用であることを開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フレクシャーブランクに加工する際の工程の煩雑さを省略化し、且つ銅配線を微細に加工できる安価な加工法に適したラミネート材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等はかかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、ステンレス箔上にポリイミド系樹脂を形成し、更にスパッタ−メッキを施すことによって、メタルをエッチング処理した後、ポリイミド系樹脂を直接加工することで、レーザービーム照射などによる後加工を必要としない安価に加工できる好適な材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ステンレス層A、絶縁樹脂層B、シード層及びメッキ層EからなるHDDサスペンション用積層体の製造方法において、
a)ステンレス層A上に、ポリイミド系樹脂溶液又はその前駆体溶液を塗布・乾燥・熱処理して複数のポリイミド系樹脂層からなる絶縁樹脂層Bを形成すること、ここで絶縁樹脂層Bの線膨張係数が1×10-5〜3×10-5/℃であり、両面側の層は300℃以下のガラス転移温度を有するポリイミド系樹脂層である、
b)絶縁樹脂層B上に、スパッタ法により金属薄膜としての第1シード層Cを形成する工程、
c)第1シード層C上に、スパッタ法により第1シード層Cの金属薄膜より良導電性の金属薄膜としての第2シード層Dを形成する工程、及び
d)第2シード層D上に、導体層となるメッキ層Eを形成する工程、
の各工程を含むことを特徴とするHDDサスペンション用積層体の製造方法である。
【0010】
また、本発明において、次のいずれか1以上を満足することは、好ましいHDDサスペンション用積層体の製造方法を与える。
1)第1シード層Cと第2シード層Dの層間の接着力及び第2シード層Dとメッキ層Eの層間の接着力が、いずれも0.6kN/m以上であること。
2)第1シード層Cが、2〜10nmの厚みのCr、Mo、Ni、Ti、Be、Si又はこれら合金からなる金属層であること。
3)第2シード層Dが、100〜300nmの厚みの金属層であり、第1シード層Cが2〜30nm厚みの金属層であること。
4)メッキ層Eが、5〜15μmの厚みの銅又は銅を主成分とする銅合金からなる金属層からなること。
5)絶縁性樹脂層Bが、5〜18μmの厚みのポリイミド系樹脂層であって、その線膨張係数が1×10-5〜3×10-5/℃であること。
6)ステンレス層が、5〜30μmの厚みのSUS304からなること。
【0011】
また、本発明は、HDDサスペンションの製造方法において、
e)上記のHDDサスペンション用積層体の製造方法で得られたHDDサスペンション用積層体を用意する工程、
f)メッキ層Eの表面にレジストをマスクとして、その露出したメッキ層をエッチング処理した後、レジストを除去して絶縁性樹脂層Bの上にパターンを有するメッキ層を形成する工程、及び
g)絶縁性樹脂層Bの不要部分を除去して、パターンを有する絶縁樹脂層を形成する工程、
の各工程を含むことを特徴とするHDDサスペンションの製造方法である。
【0012】
以下、本発明のHDDサスペンション用積層体(以下、積層体とも称する)の製造方法について説明する。
本発明の製造方法で得られる積層体は、ステンレス箔層A/絶縁性樹脂層B/第1シード層C/第2シード層D/メッキ層Eからなる。以下、層構造を説明する都合上、ステンレス箔層Aを下とし、メッキ層Eを上とする。
【0013】
本発明の積層体の製造方法で使用するステンレス層は、特に制約はないが、ばね特性や寸法安定性の観点から、300℃以上の温度でアニール処理されたSUS304が特に好ましい。使用されるステンレス箔の厚さは5〜30μm、好ましくは10〜30μm、より好ましくは15〜25μmの範囲にあることよい。ステンレス層の厚みが5μmに満たないと、SUS箔の圧延が困難になり且つコストが高くなるため実用的ではない。また、30μmより厚くなるとステンレス箔の剛性によってスライダの浮力を調整することが困難になり適当ではない。
【0014】
また、本発明におけるステンレス層の上に設けられる絶縁性樹脂層は、寸法安定性や反りの観点から、低熱膨張性であるポリイミド樹脂系からなるものが好ましいが、これに限定されない。エポキシ系樹脂などの汎用樹脂はコスト的に有利な反面、熱膨張係数が大きいため、反りなどが発生し易く、反りによってスライダの安定的な位置精度が得られず記憶容量が低下するため好ましくない。
【0015】
ポリイミド系樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなど、その構造中にイミド結合を有するものであればよい。ポリイミド系樹脂層は、単層のみからなるものでもよいが、好ましくは、複数層のポリイミド系樹脂層からなるものとし、金属層と接する面(表面)の両面を金属層と良好な接着性を示すものを使用し、他の層は低熱膨張性のものとする。金属層と良好な接着性を示すポリイミド樹脂としては、そのガラス転移温度(Tg)が300℃以下のものである。また、ステンレス層又はシード層と接しない中間層には、HDDサスペンションに加工した時の寸法安定性の点からも温度変化に対する寸法変化率、すなわち線膨張係数が30×10-6/℃以下のものを使用することが好ましい。中間層のポリイミド樹脂層を厚くし、線膨張係数が高い表面層のポリイミド樹脂層を使用して、絶縁性樹脂層全体としての線膨張係数を10×10-6〜30×10-6/℃の範囲とする。
【0016】
絶縁性樹脂層の厚みは5〜18μmの範囲が好ましい。厚みが5μmに満たない場合はポリイミド系樹脂層等の絶縁性樹脂層の形成が困難で且つ十分な絶縁性を確保できないため電気信号のクロストークなどの障害が発生するため好ましくない。また、樹脂層の厚みが18μm以上になるとスライダの浮力を制御するためのバネ性に影響を及ぼすようになり、安定的な浮力を得られないため好ましくない。
【0017】
この絶縁性樹脂層Bの上には第1シード層C及び第2シード層Dが順次スパッタ法により積層されている。第1シード層は導体層であるメッキ層との密着力を確保するため、Cr、Mo、Ni、Ti、Be、Si等の金属又はその合金が有効である。このスパッタ層に使用される金属種に特に制限はないが、Cr、Mo又はこれらを主成分とする合金が、密着性が高く特に有効である。また、第1シード層の厚みは2〜300nm、好ましくは2〜30nm、より好ましくは2〜10nmとする。スパッタ層の厚みが2nm以下になると均一に製膜することが困難であり、また300nm以上になるとスパッタ膜に割れなどが発生し好ましくない。
【0018】
第1シード層の上には、メッキ層の積層を容易にするため、予め良好な導電性を有する第2シード層Dを設ける。第2シード層に使用される金属としては、Cu又はCuとCr、Mo、Ni、Ti、Be、Siの銅合金が好ましく使用される。第2シード層は、15〜400nm、好ましくは50〜350nm、より好ましくは100〜300nmの厚みのスパッタ膜とする。この厚みが1nm以下になると電流をかけた際に電流むらが発生しやすくなり、メッキ層にピンホールなどの不良が発生し易い。また、400nmより厚い場合は、脆くなりやすく、フライングリードなどの配線を単独で形成した場合に割れが発生するなど好ましくない。この第2シード層Dの導電性は、第2シード層Cより良導電性であり、メッキ層Eに対し高い接着力を与える金属であることがよい。
【0019】
第2シード層の上に設けられるメッキ層は銅又は銅を主成分とする銅合金から形成される。銅合金に配合される金属としては、Ni、Be、Cr、Ni、Ti、Zr、Fe等がある。メッキ層の厚みが5〜20μm、好ましくは5〜15μmである。メッキ層の厚みが薄くなるほど銅箔配線を微細に加工することが容易であるが、メッキ層の厚みが5μm以下になると配線強度が弱く、フライングリード部の断線などが発生し易く好ましくない。また、メッキ層の厚みが20μm以上になると、銅箔を熱圧着した積層体との比較において、配線強度などの点で劣るなどの点から好ましくない。
【0020】
次に、本発明の積層体の製造方法の一例について説明する。
積層体を製造するにあたっては、まず、基体となるステンレス層上にポリイミド系樹脂液を塗布する。ポリイミド系樹脂の塗布は公知の方法により可能であり、通常、アプリケータを用いて塗布される。ポリイミド系樹脂液は、イミド化されたポリイミド樹脂が溶媒に溶解されたものを使用してもよいが、本発明においてはポリイミド系樹脂の前駆体溶液を使用し、塗布後、予備加熱により溶媒をある程度除去(乾燥)した後、熱処理によりイミド化をする方法が好ましい。なお、イミド化されたポリイミド系樹脂溶液を使用する場合には、当然、イミド化のための熱処理は省略される。このようにして、ポリイミド系樹脂層を形成した後、このポリイミド系樹脂層上にスパッタ法によりポリイミド樹脂との接着性を示す金属薄膜として第1シード層を形成させる。次に、ここで形成した第1シード層の上に更に導電性を示す金属薄膜として第2シード層を形成させる。第2シード層を形成させることによって、電解−メッキ法によるメッキ層の形成を容易にする。次に、第2シード層の上に導体層となるメッキ層を形成させる。
【0021】
次に、本発明のHDDサスペンションの製法について説明する。
HDDサスペンションは前記のようにして得られたステンレス層、樹脂層、第1シード層、第2シード層、メッキ層からなる積層体のメッキ層表面に感光性レジストをラミネート又は塗布し、露光、現像し、感光性レジストをマスクとして露出したメッキ層をエッチング処理して不要な部分を除去したのち、感光層を剥離除去することで樹脂層上に所望のパターンを形成する。次に、露出した樹脂層の不要部分を、メッキ層をマスクとしてレーザー光にて除去し、所望のパターンを有する絶縁層を形成する。更に、上記絶縁層上のメッキ層に感光性レジストをラミネート又は塗布し、同様に露光、現像、エッチング処理し、感光性レジストを剥離することで絶縁層上に回路が形成される。
この後、必要により前記回路が形成されたメッキ層に更にニッケルメッキなどの耐腐食処理を施し、パンチング加工などにて所望の形状に切り出すことでHDDサスペンションとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のHDDサスペンションの製法で得られる積層体は、HDDの高容量化を目指し、多線化するHDDサスペンションの微細配線加工を容易にする。また、小型化するスライダへの配線の取り付け精度を高め、且つサスペンションのスライダの浮上量を調整するためのバネ性の制御を容易にする。更には、純銅を使用するため高導電率化によりインピーダンス制御の向上や電気信号の損失の低減、及び送信速度の向上が可能であり、且つサスペンションに加工する際にレーザービーム照射など後工程を省略することが可能になることでサスペンションを安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例及び比較例などに基づき本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における基本特性の評価方法は以下の方法によるもので、HDDサスペンション用途で必要とされる基本性能は以下に併せて記載する。また、試料のポリイミド系樹脂は十分にイミド化が終了したものを用いた。
【0024】
1)剥離強度の測定:金属箔とポリイミド系樹脂との間の接着力は、ステンレス箔上にポリイミド系樹脂層を形成した後、更にスパッタ‐メッキにより導体層を形成した後、回路加工により1/8インチ配線幅の測定用試験片を作成した。このサンプルを固定板にSUS箔側及び銅箔側をそれぞれ貼り付け、引張試験機(東洋精機株式会社製、ストログラフ-M1)を用いて、各金属箔を90°方向に引き剥がし強さを測定した。
【0025】
2)反りの測定:積層体の反りは、回路加工により直径65mmのディスクを作成し、ノギスを用いて机上に置いた際に最も反りが大きくなる部分を測定した。
【0026】
3)線熱膨張係数の測定:線熱膨張係数の測定は、サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて255℃まで20℃/分の速度で昇温し、その温度で10分間保持した後、更に5℃/分の一定速度で冷却した。冷却時の240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を算出した。
【0027】
また、実施例等に用いられる略号は以下の通りである。
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DADMB:4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0028】
合成例1
線膨張係数が30×10-6/℃以下の低熱膨張性のポリイミド系樹脂層の合成するため、9.0モルのDADMBを秤量し、40Lのプラネタリーミキサーの中で攪拌しながら溶媒DMAc25.5kgに溶解させた。次いで、8.9モルのBPDAを加え、室温にて3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体Aの溶液を得た。
【0029】
合成例2
ガラス転移温度が300℃以下のポリイミド系樹脂層として、6.3モルのDADMBを秤量し、40Lのプラネタリーミキサーの中で攪拌しながら溶媒DMAc25.5kgに溶解させた。次いで、6.4モルのBPDAを加え、室温にて3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体Bの溶液を得た。
【実施例1】
【0030】
合成例2で得られたポリイミド前駆体Bの溶液をステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み20μm)上に、硬化後の厚みが1μmになるように塗布して110℃で3分乾燥した後、その上に合成例1で得られたポリイミド前駆体Aの溶液を硬化後の厚さが7.5μmになるように塗布して110℃で10分乾燥し、更にその上に合成例2で得られたポリイミド前駆体Bの溶液をそれぞれ硬化後の厚みが1.5μmになるように塗布して110℃で3分乾燥した後、更に130〜360℃の範囲で数段階、各3分間段階的な熱処理によりイミド化を完了させ、ステンレス上にポリイミド樹脂層の厚み10μmの積層体を得た。
次に、ここで得られたステンレス/ポリイミド樹脂積層体のポリイミド樹脂面にCrを3nmスパッタし、更にそのスパッタ層の上にCuを200nmスパッタして導電性を確保した後、更にそのスパッタ層の上に電解メッキ法により12μmのCuのメッキ層を形成させた。このようにして得られた積層体について評価した結果、表1に示したようにフレクシャーブランクとしての基本性能を満たし、且つ微細加工に適した積層体が得られた。また、ポリイミド樹脂の加工においてはプラズマ照射のみで加工が可能であり、後工程の煩雑さがなく加工が可能であった。
【実施例2】
【0031】
実施例1と同様の方法により、ステンレス上にポリイミド樹脂層の厚み10μmの積層体を作成した。
次に、ここで得られたステンレス/ポリイミド樹脂積層体のポリイミド樹脂面にMoを3nmスパッタし、更にそのスパッタ層の上にCuを200nmスパッタして導電性を確保した後、更に電解メッキ法により12μmのCuのメッキ層を形成させた。このようにして得られた積層体について評価した結果、表1に示したように実施例1と同様にフレクシャーブランクとしての基本性能を満たし、且つ微細加工に適した積層体が得られた。また、ポリイミド樹脂の加工においてはプラズマ照射のみで加工が可能であり、後工程の煩雑さがなく加工が可能であった。
【0032】
比較例1
実施例1と同様の方法により、ステンレス上にポリイミド樹脂層の厚み10μmの積層体を作成した。
次に、ここで得られたステンレス/ポリイミド樹脂積層体のポリイミド樹脂面にCrを1nmスパッタし、更にそのスパッタ層の上にCuを200nmスパッタして導電性を確保した後、更に電解メッキ法により12μmのCuのメッキ層を形成させた。このようにして得られた積層体について評価した結果、表1に示したように剥離強度にばらつきが発生し、サスペンションの要求される接着強度を満足することができなかった。
【0033】
比較例2
実施例1と同様の方法により、ステンレス上にポリイミド樹脂層の厚み10μmの積層体を作成した。
次に、ここで得られたステンレス/ポリイミド樹脂積層体のポリイミド樹脂面にCrを400nmスパッタしたところひび割れが発生し、更にそのスパッタ層の上にCuを200nmスパッタして導電性を確保した後、更に電解メッキ法により12μmのCuのメッキ層を形成させたところ、ピンホールの発生など安定した導体層が得られなかった。
【0034】
比較例3
実施例1と同様の方法により、ステンレス上にポリイミド樹脂層の厚み10μmの積層体を作成した。
次に、ここで得られたステンレス/ポリイミド樹脂積層体のポリイミド樹脂面にCrを3nmスパッタし、更にそのスパッタ層の上にCuを10nmスパッタして導電性を確保した後、更に電解メッキ法により12μmのCuのメッキ層を形成させたところ、ピンホールが発生し安定した導体層を形成することができなかった。
【0035】
以上のようにして得られた実施例1、2と比較例1〜3の積層体について評価した結果を表1に示した。なお、ステンレス-ポリイミド間及び導体層-ポリイミド間の接着力及び反りの測定は、ステンレスと銅箔をそれぞれ塩化第二鉄を用いて任意の形状に加工した後、上述した方法にて評価を実施した。
また、積層体を300℃のオーブン中で1時間の耐熱試験を行ったところ、全ての系で膨れ、剥がれなどの異常は認められなかった。また、金属箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルムの線熱膨張係数は下記表の通りであり、全ての系で金属箔を任意の形状にエッチング加工した積層体には殆ど反りは認められなかった。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス層A、絶縁樹脂層B、シード層及びメッキ層EからなるHDDサスペンション用積層体の製造方法において、
a)ステンレス層A上に、ポリイミド系樹脂溶液又はその前駆体溶液を塗布・乾燥・熱処理して複数のポリイミド系樹脂層からなる絶縁樹脂層Bを形成すること、ここで絶縁樹脂層Bの線膨張係数が1×10-5〜3×10-5/℃であり、両面側の層は300℃以下のガラス転移温度を有するポリイミド系樹脂層である、
b)絶縁樹脂層B上に、スパッタ法により金属薄膜としての第1シード層Cを形成する工程、
c)第1シード層C上に、スパッタ法により第1シード層Cの金属薄膜より良導電性の金属薄膜としての第2シード層Dを形成する工程、及び
d)第2シード層D上に、導体層となるメッキ層Eを形成する工程、
の各工程を含むことを特徴とするHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項2】
第1シード層Cと第2シード層Dの層間の接着力及び第2シード層Dとメッキ層Eの層間の接着力が、いずれも0.6kN/m以上であることを特徴とする請求項1記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項3】
第1シード層Cが、2〜10nmの厚みのCr、Mo、Ni、Ti、Be、Si又はこれらの合金からなる金属層である請求項1又は2に記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項4】
第2シード層Dが、100〜300nmの厚みの金属層であり、第1シード層Cが2〜30nm厚みの金属層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項5】
メッキ層Eが、5〜15μmの厚みの銅又は銅を主成分とする銅合金からなる金属層からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項6】
絶縁性樹脂層Bが、5〜18μmの厚みであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項7】
ステンレス層Aが、5〜30μmの厚みのSUS304からなる請求項1〜6のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項8】
HDDサスペンションの製造方法において、
e)請求項1〜7のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法で得られたHDDサスペンション用積層体を用意する工程、
f)メッキ層Eの表面にレジストをマスクとして、その露出したメッキ層をエッチング処理した後、レジストを除去して絶縁性樹脂層Bの上にパターンを有するメッキ層を形成する工程、及び
g)絶縁性樹脂層Bの不要部分を除去して、パターンを有する絶縁樹脂層を形成する工程、
の各工程を含むことを特徴とするHDDサスペンションの製造方法。

【公開番号】特開2008−135164(P2008−135164A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308303(P2007−308303)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【分割の表示】特願2004−94551(P2004−94551)の分割
【原出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】