説明

I型コラーゲン付着誘導ペプチドが固定された骨移植材及び支持体

本発明は、表面に骨の石灰化増進ペプチドが固定された骨移植材と組織工学用の支持体及びI型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する医薬組成物に関し、さらに詳しくは、I型コラーゲンに特異的に結合するペプチドが表面に固定された骨移植材と組織工学用の支持体及びI型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する組織再生修復用の医薬組成物に関する。本発明による骨移植材及び組織工学用の支持体は、表面に付着された骨組織形成増進ペプチドにより再生に預かる細胞が細胞外基質の主な成分であるコラーゲンの付着を促して骨組織への分化速度を増大させ、骨再生の最終段階である石灰化を促して最終的に組織再生力を極大化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面に骨の石灰化増進ペプチドが固定された骨移植材と、組織工学用の支持体及びI型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する医薬組成物に係り、さらに詳しくは、I型コラーゲンに特異的に結合するペプチドが表面に固定された骨移植材と、組織工学用の支持体(以下、支持体)及びI型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する組織再生修復用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙を支持する歯周組織は、一般に、歯槽骨、歯槽骨と歯牙との間の歯根膜を構成する歯周靭帯組織、上皮組織、及び結渋組織からなる。歯周炎の進行による歯槽骨の消失は歯周靭帯組織の喪失を伴い、歯周炎の治療後に消失された組織部位においては結渋組織の過多生長により歯槽骨と歯周靭帯組織の正常な回復が不可能になる。また、新たに骨が生成されるとしても、歯周靭帯組織が正常に分化されず、歯牙の機能喪失を引き起こすことがある。
【0003】
このような問題を解決するために、歯槽骨再生術として、自家骨移植術と共に人為的な遮蔽膜を用いて完全な組織の再生または新形成を誘導しようとする試みが活発になされている。骨組織の再生のために、骨移植材として組織工学的な培養支持体も活用されている。骨移植材及び支持体の導入を通じて効果的に歯周組織及び骨組織の再生を誘導した例(Camelo, M. et al., International J. Periodont. Restorative Dent., 21:109, 2001)が報告されて以来、牛骨よりなる骨粉末粒子など種々の素材が骨移植材及び組織再生目的の組織工学用の支持体として活用されてきている。
【0004】
一方、このような骨移植材及び支持体の再生効率を高めるために、骨移植材及び支持体に組織再生を向上可能な物質を付着する研究が行われている。骨移植材及び支持体の表面に細胞外基質中のタンパク質成分が先に付着し、その後に石灰化過程が起こりながら、最終的に骨組織が形成される。このとき、細胞外基質の主な成分であるコラーゲンの付着を誘導すると、骨組織再生の初期反応を迅速に誘導することになるため、究極的に再生速度を高めることが可能になる。また、このような細胞外基質物質が生体内において組織損失を修復して再生させるのに役立つことが報告されており、実際の臨床においてもこれらの優れた組織再生力が多数の結果から確認されている。
【0005】
このような例としては、多孔質リン酸カルシウム焼結体と包接膜体としてコラーゲン誘導体を用いる人工生体複合材料(大韓民国登録特許第105511号)、骨牙細胞の付着を促す自然骨代替用の人工骨構造材料(大韓民国登録特許第487693号)、骨コラーゲン支持体(大韓民国登録特許第427557)などが知られている。しかしながら、ほとんどの細胞外基質物質であるコラーゲンは分子量が数十kDaに達する高分子量のタンパク質であって、これらは生体組織から直接的に抽出されたり組換えタンパク質の形に製造されるため相対的に高価であり、加熱時に熱に不安定であるため種々の医薬組成物として製造することが困難であるという短所があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の如き従来の技術の問題点を解決するために鋭意努力した結果、骨移植材及び支持体の表面に細胞外基質の主な構成タンパク質であるコラーゲンの付着を迅速に誘導可能なペプチドを固定することにより、骨組織の再生速度が増大可能になるだけではなく、分子量が少ないために体内への適用時に免疫反応の危険性が少なく、体内において安定した形で存在することができて薬効が持続可能であることを確認して本発明を完成するに至った。
【発明の詳細な説明】
【0007】
《技術的課題》
本発明の目的は、コラーゲン付着誘導ペプチドがその表面に固定されている骨組織再生促進用の骨移植材及び組織工学用の支持体を提供することころにある。
【0008】
本発明の他の目的は、コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する組織再生修復用の医薬組成物を提供するところにある。
【技術的解決方法】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、I型コラーゲン付着誘導ペプチドがその表面に固定されている骨移植材及び組織工学用の支持体を提供する。
【0010】
また、本発明は、I型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する組織再生修復用の医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明において、前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドは、配列番号1〜6のいずれか一つのアミノ酸配列を必須に含有することが好ましく、配列番号1〜6から選ばれたアミノ酸配列のN末端にシステインが付加されていることがさらに好ましい。
【0012】
本発明の他の特徴及び実施態様は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲からなお一層明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】I型コラーゲンへの本発明によるペプチドの付着の度合いを分析した結果を示す図である。
【図2】本発明によるペプチドに対する細胞付着パターンを示す共焦点走査蛍光顕微鏡写真であって、(a)は、ペプチドが塗布されていない表面への細胞の付着パターンを示すものであり、(b)、(c)及び(d)はそれぞれカイウサギ(Oryctolagus cuniculus)の骨シアロタンパク質I由来のペプチドが固定された骨移植材の表面への細胞付着パターンを示すものである。
【図3】本発明によるペプチドを培養液に加えながら一定期間硬組織形成培地において培養し、カルシウムの沈着の度合いをカルセインにより染色して共焦点走査蛍光顕微鏡により観察した写真であって、(a)はペプチドを処理していない無処理群であり、(b)、(c)及び(d)はそれぞれカイウサギ(Oryctolagus cuniculus)の骨シアロタンパク質I由来のペプチドが固定された骨移植材表面への細胞の石灰化パターンを示すものである。
【図4】本発明によるペプチドを培養された細胞に一定時間露出させ、細胞を回収し、細胞内信号伝達に預かるマーカーであるERKの量をウェスタンブロットによって測定した結果を示す写真である(NT:ペプチドを処理していない細胞、C1:配列番号1のペプチドを処理した細胞、C2:配列番号2のペプチドを処理した細胞、C3:配列番号3のペプチドを処理した細胞)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、一つの観点において、I型コラーゲン付着誘導ペプチドがその表面に固定されている骨組織再生促進用の骨移植材及び組織工学用の支持体に関する。すなわち、本発明は、膠原質付着誘導ペプチドを骨組織再生用の骨移植材及び組織工学用の支持体の表面に固定することにより、薬理活性を持たせて骨組織及びその他の組織再生効率を増加させることのできる骨移植材及び組織再生用の支持体に関する。
【0015】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドは、配列番号1〜6のいずれかのアミノ酸配列を必須に含有することを特徴とする。本発明において、アミノ酸配列を必須に含有することは、本発明のアミノ酸配列に他のアミノ酸配列が付加され、類似の機能を有するペプチドを包括する。また、前記アミノ酸配列のN末端にシステインが付加的に結合されたものの他に、他のアミノ基が結合された構成をいずれも含む。例えば、化学的に骨移植材及び支持体への固定を容易にするために、前記配列番号1〜6から選ばれたアミノ酸配列のN末端にシステインが2分子のグリシンから構成されたスペーサー(CGG−及びCGGGGG−)を介して付加されているペプチドなどがある。
【0016】
本発明において使用可能な骨移植材及び支持体としては、当該分野において使用するあらゆる種類及び形態の骨移植材と高分子支持体が挙げられる。骨移植材の例としては、自家骨、牛骨及び豚骨など生物由来の骨ミネラル粉末及びその多孔性ブロック、合成水酸化アパタイト粉末及びその多孔性ブロック、リン酸三カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、リン酸一カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、二酸化珪素(シリカ)を主成分とする骨移植材、シリカと高分子との混合体を主成分とする骨充填移植材、キトサン、生体適合性高分子を主成分とする微粒子、チタンなどがある。また、高分子支持体の例としては、キトサン、生体適合性高分子を主成分とする多孔性支持体、チタンの3次元的多孔性支持体などがある。このとき、前記骨移植材及び支持体の表面は活性ペプチドの付着が容易になるように表面を改質することが好ましい。
【0017】
本発明によるコラーゲン付着誘導ペプチドは、骨牙細胞の初期の分化過程において細胞外基質の主な構成成分であるコラーゲンの結合を促して分化の最終段階である石灰化への進行を促す効果があるため、骨組織及び歯周組織再生治療に適しているという特徴を有する。
【0018】
本発明によるコラーゲン付着誘導ペプチドは、N末端にフリーのアミノ基またはシステインを有しているため、架橋剤による骨移植材及び支持体の表面への固定が容易である。本発明に適する架橋剤は、1、4−ビス−マレイミドブタン(BMB)、1、11−ビス−マレイミドテトラエチレングリコール(BM[PEO]4)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、スクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチルシクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート]](SMCC)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMCC)、スクシンイミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート](SPDP)及びそのスルホン化塩(スルホ−SPDP)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)及びそのスルホン化塩(スルホ−MBS)、スクシンイミジル[4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート](SMPB)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMPB)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明は、他の観点において、コラーゲン付着誘導ペプチドを組織再生修復用の医薬組成物の内部に封入することにより、薬理活性を持たせて骨組織及びその他の組織再生効率を増加させることのできる組織再生修復用の医薬組成物に関する。
【0020】
本発明において使用可能な組織再生修復用の医薬組成物としては、当該分野において用いるあらゆる種類の薬剤学的な剤型が挙げられ、皮膚に適用可能な軟膏剤またはクリーム剤の剤型が好ましい。前記軟膏剤及びクリーム剤としては、通常用いる基剤である脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、鉛、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤または他の適当な添加剤が使用可能である。
【0021】
また、前記医薬組成物はゲル状に利用可能であり、前記ゲルは通常使用可能な基剤であるキトサン、アルギン酸、プロピレングリコール、プロピレングリコールアルギン酸、ポロキサマー(poloxamer)、コンドロイチン硫酸などを用いることが好ましい。
【0022】
以下、本発明によるI型コラーゲン付着誘導ペプチドが固定された骨移植材と、組織工学用の支持体及びI型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する医薬組成物について詳述する。
【0023】
本発明において用いたコラーゲン付着誘導ペプチドは細胞外基質を構成するタンパク質から活性部位のアミノ酸配列を分離抽出したものであり、抽出後に化学的な修飾を経て活性構造を維持するようにしている。具体的に、前記ペプチドは、カイウサギ(Oryctolagus cuniculus)の骨シアロタンパク質I(BSP1)85−105位のアミノ酸配列YRLKRSKS(配列番号1)、KMFHVSNAQYPGA(配列番号2)、YRLKRSKSKMFHVSNAQYPGA(配列番号3)、ヒトの骨シアロタンパク質I149−169位のアミノ酸配列YGLRSKS(配列番号4)、KKFRRPDIQYPDAT(配列番号5)、YGLRSKSKKFRRPDIQYPDAT(配列番号6)のいずれかのアミノ酸配列を必須に含有するようにする。
【0024】
ペプチドの構造を安定化するための修飾過程において、前記アミノ酸配列のうち選ばれたアミノ酸配列のN末端部位にシステインをCGG−、またはCGGGGG−スペーサーの形で付加して化学的に合成させてペプチドを製造する。
【0025】
前記製造されたペプチドを付着するために、骨移植材または高分子支持体の表面を改質する過程を経る。このときに用いられる骨移植材及び高分子支持体は、自家骨、牛骨及び豚骨など生物由来の骨ミネラル粉末及びその多孔性ブロック、合成水酸化アパタイト粉末及びその多孔性ブロック、リン酸三カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、リン酸一カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、二酸化珪素(シリカ)を主成分とする骨移植材、シリカと高分子との混合体を主成分とする骨充填移植材、キトサン、生体適合性高分子を主成分とする微粒子及びその多孔性支持体、チタン及びその3次元的な多孔性支持体などが利用でき、その種類によって改質過程がやや異なってくる。
【0026】
表面の改質化過程は、一般に、骨移植材粒子または支持体の表面の不純物を除去した後、表面にペプチドを化学的に付着するために、架橋剤を添加することにより行われる。このとき、ペプチド末端のシステインと結合可能な官能基、例えば、SH基を導入するか、あるいは、アミン(NH)が形成されるように処理して、今後、架橋剤による架橋反応が円滑になされるようにする。
【0027】
架橋剤の結合された骨移植材粒子または支持体を前記製造されたペプチドと反応させた後に洗浄してペプチドが固定された骨移植材または支持体を得る。このとき、前記ペプチドを骨移植材及び支持体の表面に化学的に結合させて表面に単位面積当たり(cm)に0.1〜10mgが固定されるようにすることが好ましく、さらに好ましくは、前記ペプチドは5〜30個のアミノ酸から構成され、これらのペプチドは骨移植材及び支持体の表面単位面積当たりに1〜5mgを固定するようにする。
【0028】
また、前記製造されたペプチドは封入されて組織再生修復用の医薬組成物として製造され、このとき、前記組成物は液剤、ゲル、軟膏剤またはクリーム剤型に製造される。特に、軟膏剤またはクリーム剤型に製造するに際し、軟膏剤及びクリーム剤に通常用いる基剤である脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、鉛、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤または他の適当な添加剤を用いてペプチドを入れてよく混ぜて全質を均一にして製造する。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、これらの実施例は単に本発明を一層詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかである。
【0030】
特に、下記の実施例においては、配列番号1〜3のコラーゲン付着誘導ペプチドだけを例示しているが、ヒトの骨シアロタンパク質I149−169位のアミノ酸配列YGLRSKS(配列番号4)、KKFRRPDIQYPDAT(配列番号5)、YGLRSKSKKFRRPDIQYPDAT(配列番号6)などのコラーゲン付着誘導ペプチドを合成し、その末端にシステインなどを付加する場合にも類似する効果が得られるということは当業者にとって自明であると言えるであろう。
【0031】
<実施例1:I型コラーゲン付着活性ドメイン含有ペプチドの合成>
カイウサギ(Oryctolagus cuniculus)の骨シアロタンパク質I(BSP1)のI型コラーゲン付着活性ドメインを含む配列番号1、2及び3のアミノ酸配列を有するペプチドのN−末端部位にそれぞれシステインを有するようにCGG−、またはCGGGGG−スペーサーを付加してI型コラーゲン付着誘導ペプチドを化学的に合成した。
【0032】
前記合成されたペプチドのI型コラーゲンに対する親和性の有無をビアコアX(ビアコア社製、スウェデン)を用いて確認した。CM5チップにI型コラーゲンを結合させた後、製造されたペプチドを4μmolに溶解して、ビアコアXの微細流路に流しながらペプチドがコラーゲンに結合された量を定量した(図1)。その結果、図1に示すように、コラーゲンに対する親和性は、配列番号3のペプチドの方が最も高く現れ、配列番号2のペプチドが最も低く現れた。
【0033】
<実施例2:牛骨由来の骨ミネラル粒子へのI型コラーゲン付着誘導ペプチドの固定>
牛骨由来の骨ミネラル粒子をエタノールにより減圧洗浄した後、100℃の真空オーブンにおいて20時間静置して表面の不純物を除去した。骨ミネラル粒子の表面をヘキサンに溶解した3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)により処理した後に洗浄した。これにより、表面にアミン残基が形成され、ここに架橋剤BMBを添加して結合させた。架橋剤の結合された骨ミネラル粒子を実施例1において合成されたそれぞれのペプチドと12時間反応させた後に洗浄してペプチドが固定された骨ミネラル粒子を得た。
【0034】
<実施例3:合成水酸化アパタイト及びリン酸三カルシウムへのI型コラーゲン付着誘導ペプチドの固定>
合成水酸化アパタイト及びリン酸三カルシウム骨移植材粉末をエタノールにより減圧洗浄した後、100℃の真空オーブンにおいて20時間静置して表面の不純物を除去した。粒子の表面をヘキサンに溶解した3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)により処理した後に洗浄した。これにより、表面にアミン残基が形成され、ここに架橋剤BMBを添加して結合させた。架橋剤の結合された骨移植材粒子を実施例1において合成されたそれぞれのペプチドと12時間反応させた後に洗浄してペプチドが固定された骨移植材粒子を得た。
【0035】
<実施例4:キトサン骨移植材へのI型コラーゲン付着誘導ペプチドの固定>
粉末状もしくは多孔性支持体の形に製造されたキトサン骨移植材を2mlのリン酸緩衝液(pH7.4)に加えて表面を水和させた後、ここに架橋剤としてスルホ−SMCCを5mg/mlの濃度にて加え、2時間かけて攪拌してキトサン骨移植材の表面に官能基を導入した。2時間常温反応後、キトサン骨移植材を洗浄し、ここに実施例1において合成されたそれぞれのペプチド10mgをそれぞれ100μlのリン酸緩衝液に溶かした溶液を加えて24時間かけて反応させた後に洗浄してペプチドが固定されたキトサン骨移植材を製造した。
【0036】
<実施例5:ポリ乳酸骨移植材へのI型コラーゲン付着誘導ペプチドの固定>
ポリ乳酸移植用の粉末や多孔性支持体をリン酸緩衝液(pH4.7)に加えて表面を水和させた後、20mg/mlの塩酸シスタミン溶液と反応させた。ここに架橋剤としてEDCを滴加して骨移植材表面のカルボン酸を活性化させた。24時間反応させて洗浄した後、30mg/mlのジチオトレイトール(DTT)溶液1mlを加えてさらに24時間かけて反応させてポリ乳酸の表面にスルフヒドリル基が導入されるようにした。前記改質されたポリ乳酸骨移植材を実施例1において合成されたそれぞれのペプチドと混合して、骨移植材のスルフヒドリル基とペプチドとの間のS−S結合を通じてペプチドを固定した。
【0037】
<実施例6:本発明によるペプチドによる細胞付着力の実験>
実施例2において製造された骨移植材の表面にヒト骨肉腫細胞(KCLB No.21543)を接種した後に2時間かけて培養した。ヒト骨肉腫細胞が培養された骨移植材を2%グルタルアルデヒド溶液により固定した。固定された骨移植材を1%Triton X100により処理した後に蛍光標識ファロイジン溶液を添加して付着された細胞質を染色した。染色後に洗浄してサンプルを固定した後、骨移植材に付着された細胞を共焦点走査蛍光顕微鏡により観察した(図2)。
【0038】
図2の(a)はBSA(Bovine serum albumin)によりコーティングされた表面の細胞付着を示すものであり、(b)、(c)及び(d)はそれぞれ配列番号1、2及び3のアミノ酸配列N末端にそれぞれシステインが付加されているペプチドがコーティングされた表面における細胞付着を示すものである。細胞付着の結果、BSAがコーティングされた表面の細胞付着パターンは球状に不安定に付着されていることが観察されるのに対し、コラーゲン付着誘導ペプチドがコーティングされた表面には細胞培養3時間後に既にほとんどの細胞において細胞質の伸張が観察されるなど安定した細胞付着が観察された。
【0039】
<実施例7:本発明によるペプチドによる細胞における石灰化の実験>
実施例2において製造された骨移植材をカルセイン(カルシウム蛍光標識)入りの硬組織形成培地に加えながら、中胚葉起源幹細胞(C2C12;ATCC CRL−1772)を14日かけて培養した。培養された骨牙細胞を2%グルタルアルデヒド溶液により固定した。固定された骨移植材を1%Triton X100により処理した後、ファロイジン溶液を添加して付着された細胞質を染色した。染色後に洗浄してサンプルを固定した後、細胞外基質に沈着されたカルシウムを固定された骨移植材の表面において共焦点走査蛍光顕微鏡により観察した(図3)。
【0040】
図3の(a)はペプチドを加えていない群であり、(b)、(c)及び(d)はそれぞれ配列番号1、2及び3のアミノ酸配列N末端にそれぞれシステインが付加されているペプチドによる細胞内のカルシウムの沈着の度合いを示すものである。ペプチドを加えていない群(a)に比べて、コラーゲン付着誘導ペプチドを加えた群においてなお一層多くのカルシウムの蛍光が現れた。この結果から、コラーゲン付着誘導ペプチドが細胞の石灰化を促すことが分かる。
【0041】
<実施例8:本発明によるペプチド固定骨移植材の表面に培養された骨牙細胞における分化マーカータンパク質の発現>
実施例2において製造された配列番号1、2及び3のアミノ酸配列N末端にそれぞれシステインが付加されているペプチドが固定された骨移植材の表面に、培養された骨牙細胞の分化マーカータンパク質の発現を確認するために、ペプチドを中胚葉起源幹細胞(C2C12)に30分間露出させた後、細胞を回収して細胞内信号伝達に預かるマーカータンパク質であるERKの量をウェスタンブロットにより測定した。
【0042】
中胚葉起源幹細胞を60mmのペトリ皿に移した後、ペプチドを30分間処理し、細胞内の合計のタンパク質を抽出し、その量をブラッドフォード方法により定量した。タンパク質40μgをアクリルアミドゲルに電気泳動した後、ニトロセルロースメンブレンに移し、細胞内信号伝達タンパク質であるERKとリン酸化されたERK(pERK)の抗体と反応させた。この後、抗体と結合する2次抗体を標識子として標識して反応させ、前記メンブレンを現像して現れるタンパク質バンドを観察してその密度を測定した(図4)。
【0043】
その結果、図4に示すように、ペプチドを処理していない細胞(NT)に比べて、ペプチドを処理した細胞(C1、C2、C3)においてリン酸化されたERK(pERK)の発現が大幅に増大していた。この結果から、コラーゲン付着誘導ペプチドが固定された骨移植材の表面において生育された細胞は骨組織への分化が促されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、本発明は、低濃度の容量でも所望の組織再生効果が得られるコラーゲン付着誘導ペプチドが表面に固定されている骨移植材及び組織工学用の支持体を提供する効果がある。本発明の骨移植材及び組織工学用の支持体は、表面に付着されたコラーゲン付着誘導ペプチドにより再生に預かる細胞が細胞外基質の主な成分であるI型コラーゲンの付着を促して骨組織への分化速度を増大させ、骨再生の最終段階である石灰化を促して最終的に組織再生力を極大化することができる。さらに、分子量が少なくて体内に適用するときに免疫反応の危険性があまりなく、体内において安定した形で存在することができて薬効が持続可能である他、歯周組織、歯槽骨再生及びその他の骨組織再生手術時における手術適応性に優れている。
【0045】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施様態に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は添付された請求項らとこれらの等価物により定まると言えるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I型コラーゲン付着誘導ペプチドがその表面に固定されている骨移植材。
【請求項2】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6のいずれかの一つのアミノ酸配列を必須に含有することを特徴とする請求項1に記載の骨移植材。
【請求項3】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6から選ばれたアミノ酸配列のN末端にシステインが付加されていることを特徴とする請求項1に記載の骨移植材。
【請求項4】
前記システインが、CGG、またはCGGGGGスペーサーの形で付加していることを特徴とする請求項3に記載の骨移植材。
【請求項5】
前記骨移植材が、生物由来の骨ミネラル粉末及びその多孔性ブロック、合成水酸化アパタイト粉末及びその多孔性ブロック、リン酸三カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、リン酸一カルシウム粉末及びその多孔性ブロック、二酸化珪素(シリカ)を主成分とする骨移植材、シリカと高分子との混合体を主成分とする骨充填移植材、キトサン、生体適合性高分子を主成分とする微粒子、及びチタンからなる群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の骨移植材。
【請求項6】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、架橋剤によって固定されていることを特徴とする請求項1に記載の骨移植材。
【請求項7】
前記架橋剤が、1、4−ビス−マレイミドブタン(BMB)、1、11−ビス−マレイミドテトラエチレングリコール(BM[PEO]4)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、スクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチルシクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート]](SMCC)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMCC)、スクシンイミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート](SPDP)及びそのスルホン化塩(スルホ−SPDP)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)及びそのスルホン化塩(スルホ−MBS)、スクシンイミジル[4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート](SMPB)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMPB)よりなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の骨移植材。
【請求項8】
I型コラーゲン付着誘導ペプチドがその表面に固定されている組織工学用の支持体。
【請求項9】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6のいずれかの一つのアミノ酸配列を必須に含有することを特徴とする請求項8に記載の組織工学用の支持体。
【請求項10】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6から選ばれたアミノ酸配列のN−末端にシステインが付加されていることを特徴とする請求項9に記載の組織工学用の支持体。
【請求項11】
前記システインが、CGG、またはCGGGGGスペーサーの形で付加していることを特徴とする請求項10に記載の組織工学用の支持体。
【請求項12】
前記組織工学用の支持体が、キトサン、生体適合性高分子を主成分とする多孔性支持体、チタンの3次元的な多孔性支持体からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の組織工学用の支持体。
【請求項13】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、架橋剤によって固定されていることを特徴とする請求項8に記載の組織工学用の支持体。
【請求項14】
前記架橋剤が、1、4−ビス−マレイミドブタン(BMB)、1、11−ビス−マレイミドテトラエチレングリコール(BM[PEO]4)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、スクシンイミジル4−[N−マレイミドメチルシクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート]](SMCC)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMCC)、スクシンイミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート](SPDP)及びそのスルホン化塩(スルホ−SPDP)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)及びそのスルホン化塩(スルホ−MBS)、スクシンイミジル[4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート](SMPB)及びそのスルホン化塩(スルホ−SMPB)よりなる群から選択される1以上であることを特徴とする請求項13に記載の組織工学用の支持体。
【請求項15】
I型コラーゲン付着誘導ペプチドを含有する組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項16】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6のいずれかの一つのアミノ酸配列を必須に含有することを特徴とする請求項15に記載の組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項17】
前記I型コラーゲン付着誘導ペプチドが、配列番号1〜6から選ばれたアミノ酸配列のN−末端にシステインが付加されていることを特徴とする請求項16に記載の組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項18】
前記システインが、CGG、またはCGGGGGスペーサーの形で付加していることを特徴とする請求項17に記載の組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物が、液剤、ゲル、軟膏剤及びクリーム剤からなる群より選択されたいずれか一つの形態であることを特徴とする請求項15に記載の組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項20】
前記ゲルの基剤が、キトサン、アルギン酸、プロピレングリコール、プロピレングリコールアルギン酸、ポロキサマー、コンドロイチン硫酸からなる群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項19に記載の組織再生修復用の医薬組成物。
【請求項21】
前記軟膏剤又が、クリーム剤の基剤は脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、鉛、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤からなる群より選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項19に記載の組織再生修復用の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−527263(P2009−527263A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553151(P2008−553151)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000335
【国際公開番号】WO2007/089084
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(505326520)ソウル ナショナル ユニバーシティ インダストリー ファウンデーション (10)
【Fターム(参考)】