説明

III族窒化物系半導体、その製造方法、発光素子及び照明装置

【課題】 P型不純物がドープされ活性化されたIII族窒化物系半導体をアニールを必要とせずに容易に製造可能なP型導電性のIII族窒化物系半導体等を提供すること。
【解決手段】 基板110の一主面上に形成されたIII族窒化物系半導体(P型半導体層112)であり、III族窒化物系半導体に基板110からの不純物が含まれている。これにより、アクセプタ不純物としてのホウ素を、基板110から直接的にIII族窒化物系半導体に混入させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED等の半導体発光素子に用いられるIII族窒化物系半導体、その製造方法、III族窒化物系半導体を用いた発光素子、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系化合物半導体等のIII族窒化物系半導体(Ga1−x−yInAlN)(ただし、x+y≦1,x≧0,y≧0とする。)は、AlNやInN等との混晶であるAlGaNやInGaN、及びInGaAlN等からなり、組成を選択することにより可視光領域から紫外光領域までの発光が可能であり、発光ダイオード(LED)や半導体レーザ等の発光素子の材料として、検討または一部実用化が図られている。また、電界効果型トランジスタ等の半導体材料としても検討されており、高出力の高周波素子として期待されており、開発が進められている。
【0003】
特に発光素子として応用を図るには、高品質なP型及びN型のIII族窒化物系半導体層を作製する必要がある。N型のIII族窒化物系半導体層は、ドナー不純物となるシリコン(Si)等のドーピングにより比較的容易に低抵抗な層を得ることができる。しかしながら、P型のIII族窒化物系半導体層については、単にマグネシウム(Mg),亜鉛(Zn)等のアクセプタ不純物をドーピングしても、ドーパントの活性化率が低く、キャリア濃度は1018cm−3程度であり、低抵抗のP型III族窒化物系半導体層を得ることができないといった問題がある。
【0004】
これは、III族窒化物系半導体層を成長させるのに一般的に用いられている基板であるサファイア(Al)は、III族窒化物系半導体との格子定数差が大きいため、その結晶性が悪く、そのため残留ドナー不純物濃度が高くなる。従って、アクセプタ不純物を添加しても、この残留ドナー不純物に相殺されて、有効にアクセプタとして機能しないこととなる。
【0005】
また、マグネシウムや亜鉛のアクセプタ準位がそれぞれ200meVと370meVと深く、また、MOCVD成長(有機金属化学気相成長)法によるIII族窒化物系半導体層の成長中に、V族元素の供給源として用いるアンモニア(NH)やキャリアガスの水素ガス(H)等による水素(H)がIII族窒化物系半導体層の結晶中に取り込まれ、アクセプタ不純物として添加したマグネシウムや亜鉛と結合し、マグネシウムや亜鉛がアクセプタ不純物として機能しないためと理解されている。
【0006】
上記P型III族窒化物系半導体層を得る方法として、特許文献1には、実質的に水素を含まない雰囲気中において400℃以上の温度でアニールする方法が開示されており、水素とマグネシウム,亜鉛との結合を熱エネルギーにより解離させている。
【0007】
また、特許文献2には、マグネシウムや亜鉛の代わりにアクセプタ不純物としてホウ素(B)を用いることが開示されている。
【特許文献1】特許第2540791号公報
【特許文献2】特開2000−164927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、大量のIII族窒化物系半導体層が形成されたウェハーを同時に一括処理でき、大量生産に向いている方法であるが、加熱時の雰囲気調整が必要であり、また条件によっては十分に低抵抗なP型III族窒化物系半導体層を得ることができない。十分な低抵抗化を行うためには、600℃以上の高温で10分〜20分間保持する必要があり、その際にIII族窒化物系半導体層から窒素が抜ける等の問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術においては、マグネシウムや亜鉛の代わりにアクセプタ不純物としてホウ素を用いているが、不純物源としてホウ素を含む有機金属(例えばトリメチルボロン:TMB,トリエチルボロン:TEB)が必要であり、さらに不純物の添加後に、特許文献2に記載されている方法のようなアニールによる活性化プロセスが必要である。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、P型不純物がドープされ活性化されたIII族窒化物系半導体をアニールを必要とせずに容易に製造可能なP型導電性のIII族窒化物系半導体、その製造方法、そのP型導電性のIII族窒化物系半導体を用いた発光素子、及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のIII族窒化物系半導体は、基板の一主面上に形成されたIII族窒化物系半導体であり、該III族窒化物系半導体に前記基板からの不純物が含まれていることを特徴とする。
【0012】
本発明のIII族窒化物系半導体において好ましくは、前記基板は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成り、前記不純物がホウ素であることを特徴とする。
【0013】
本発明のIII族窒化物系半導体の製造方法は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、該III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を前記基板との界面から固相反応により混入させることを特徴とする。
【0014】
本発明のIII族窒化物系半導体の製造方法は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、該III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を雰囲気ガス中の気相から混入させることを特徴とする。
【0015】
本発明の発光素子は、基板の一主面上に、それぞれIII族窒化物系半導体からなる、P型半導体層、発光層及びN型半導体層が順に積層されているとともに、前記P型半導体層及び前記N型半導体層にそれぞれ電極が設けられており、前記III族窒化物系半導体が上記本発明のIII族窒化物系半導体であることを特徴とする。
【0016】
本発明の照明装置は、上記本発明の発光素子と、該発光素子からの発光を受けて光を発する蛍光体及び燐光体の少なくとも一方とを具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のIII族窒化物系半導体は、基板の一主面上に形成されたIII族窒化物系半導体であり、III族窒化物系半導体に基板からの不純物が含まれていることから、アクセプタ不純物としてのホウ素を、基板から直接的にIII族窒化物系半導体に混入させることができる。従って、ホウ素源としての原料であるトリメチルボロン(TMB)やトリエチルボロン(TEB)等が不要となり、III族窒化物系半導体を容易かつ低コストに製造できる。また、ホウ素はマグネシウムや亜鉛よりも軽元素であり、III族窒化物系半導体中に浅いアクセプタ準位が形成される。
【0018】
本発明のIII族窒化物系半導体は好ましくは、基板は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成り、不純物がホウ素である。上記の二硼化物単結晶からなる基板は、III族窒化物系半導体と格子定数が近似しており、この基板上にIII族窒化物系半導体を結晶成長させることで得られるIII族窒化物系半導体の結晶性は高く、残留ドナー濃度も低くすることができる。よってアクセプタ不純物としてホウ素を用いることにより、アクセプタ準位が低いことからマグネシウムや亜鉛よりも活性化率が上がり、また、添加されたアクセプタ不純物であるホウ素が残留ドナーと相殺されることがないため、活性化率が高い低抵抗のP型III族窒化物系半導体を得ることが可能になる。
【0019】
さらに、III族窒化物系半導体層の結晶性が良いため、その成長中の水素原子の取り込みや、結晶中での拡散が抑制され、添加した不純物との結合が生じにくくなる。そのため、III族窒化物系半導体は結晶成長終了時に既にP型化しており、新たにアニール処理等行う必要がなく、低抵抗のP型III族窒化物系半導体を得ることが可能となる。
【0020】
本発明のIII族窒化物系半導体の製造方法は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を基板との界面から固相反応により混入させることから、ホウ素源としての原料であるトリメチルボロン(TMB)やトリエチルボロン(TEB)等が不要であり、さらに固相反応によりホウ素が取り込まれるため、その分布は基板と接する側がホウ素濃度が高くなる。このことにより半導体層上に電極を形成した際に、表面部分のキャリア濃度が高くでき、低接触抵抗を得ることができる。
【0021】
また、本発明のIII族窒化物系半導体の製造方法は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を雰囲気ガス中の気相から混入させることから、III族窒化物系半導体中のホウ素濃度は一定な分布にでき、成長温度などの成長条件により濃度を変化できることから、階段状のホウ素濃度分布などを得ることができる。
【0022】
本発明の発光素子は、基板の一主面上に、それぞれIII族窒化物系半導体からなる、P型半導体層、発光層及びN型半導体層が順に積層されているとともに、P型半導体層及びN型半導体層にそれぞれ電極が設けられており、III族窒化物系半導体が上記本発明のIII族窒化物系半導体であることから、P型半導体層は低抵抗なものとなり、また、基板上に形成されたP型半導体層は結晶性が良いため、貫通転位密度を減らすために厚く積層する必要がない。従って、発光素子の抵抗を小さくすることができ、駆動電圧の低減化を達成することができる。
【0023】
本発明の照明装置は、上記本発明の発光素子と、その発光素子からの発光を受けて光を発する蛍光体及び燐光体の少なくとも一方とを具備していることから、小さい電力で良好な発光強度を有する発光素子の光により蛍光体または燐光体を強く励起するため、小さい電力で高い照度を得ることができるものとなる。また、本発明の照明装置は、従来の蛍光灯や放電灯等よりも省エネルギー性や小型化に優れたものとなり、蛍光灯や放電灯等よりも優れた照明装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のIII族窒化物系半導体について実施の形態を以下に詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明のIII族窒化物系半導体について実施の形態の例を示すものであり、基板110の一主面(上面)にバッファ層111を介してIII族窒化物系半導体112をMOCVD法により形成した構成である。
【0026】
図1の例では、基板110として、化学式XB(ただし、XはTi及びZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶を用いている。好適には二硼化ジルコニウム(ZrB)を挙げることができるが、ZrBの結晶性また格子定数が大きく変化しない程度に他のアクセプタ不純物と成り得るマグネシウムや亜鉛を含んでいてもよく、これらがIII族窒化物系半導体112中に同時に混入されても構わない。
【0027】
また、バッファ層111は、III族窒化物系半導体112と基板110との格子定数や熱膨張係数が近い場合は必ずしも用いる必要はないが、バッファ層111としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、及びこれらの混晶である窒化ガリウムアルミニウム(AlGaN)を用いることができる。
【0028】
二硼化物単結晶である二硼化ジルコニウム(ZrB)の場合には、GaNと格子定数が近く、またAl0.24Ga0.76Nと格子定数が一致するため、このようなAl0.24Ga0.76Nを直接成長しても構わない。
【0029】
バッファ層111の形成後に温度を上げ、III族窒化物系半導体112を引き続き形成する。III族窒化物系半導体112としては、GaN層,AlGaN層,またはInGaN層等のAlN及び窒化インジウム(InN)の混晶組成でもよい。
【0030】
また、III族窒化物系半導体112の成長方法は、MOCVD法の他にも分子線エピタキシー(MBE)法やハイドライド気相成長(HVPE)法、パルスレーザデポジション(PLD)法等が挙げられる。
【0031】
バッファ層111及びIII族窒化物系半導体112の形成温度は、それぞれ400℃〜800℃、800℃〜1100℃である。
【0032】
以上のように化学式XB(ただし、XはTi及びZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶の基板110上にIII族窒化物系半導体112を形成することにより、基板110に含まれるホウ素が、III族窒化物系半導体112の高温での成長中にバッファ層111を介した固相拡散によって混入させる。基板に含まれる、もしくは基板を構成するホウ素は、III族窒化物系半導体112の形成中の高温下において、基板から拡散する。ホウ素はイオン半径がガリウムや窒素より小さいため、比較的容易にIII族窒化物系半導体112中を拡散することが可能である。
【0033】
また、基板110から蒸発したホウ素が、III族窒化物系半導体112の原料ガスとともにIII族窒化物系半導体112の成長中に取り込まれることによって、III族窒化物系半導体112中にホウ素を混入させることができる。
【0034】
III族窒化物系半導体112中へのホウ素の混入は、形成されたIII族窒化物系半導体112について、SIMS(二次イオン質量分析)による深さ方向のホウ素分布をみることで確認できる。ホウ素は基板110側の方が多く存在しており、基板110から離れるに従って徐々に減少している。また、基板110から離れた部分ではほぼ一定のホウ素濃度を示していることから、ホウ素は基板110との界面からの固相拡散と、III族窒化物系半導体112の成長と同時に気相から取り込まれていると理解できる。
【0035】
以上のような構成にすることで、III族窒化物系半導体112の成長中にホウ素が基板110からIII族窒化物系半導体112中に混入されるが、III族窒化物系半導体112に対して格子定数のずれが小さい基板110上に形成しているので、III族窒化物系半導体112の結晶性がよく、残留ドナー濃度を抑制できる。そのため、III族窒化物系半導体112の成長後にアクセプタ不純物(ホウ素)活性化のためにアニールすることを不要として、低抵抗なP型III族窒化物系半導体を得ることができる。
【0036】
この際ホウ素濃度は1017/cmから1021/cmあれば好ましく、また電極との低コンタクト抵抗のために基板側のホウ素濃度が高くなるような濃度分布になることが好ましいが、基板上にP型層となるIII族窒化物系半導体から成長することで、不純物の固相拡散により前記濃度分布を得ることができる。
【0037】
次に、本発明のIII族窒化物系半導体を用いた発光素子の構成の一例を図2に示す。図1の例のように作製した化学式XB(ただし、XはTi及びZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶の基板10上に、バッファ層11、それぞれIII族窒化物系半導体からなる、第一導電型層(P型半導体層)12、発光層13及び第二導電型層(N型半導体層)14が順に積層されており、P型半導体層12及びN型半導体層14にそれぞれ電極15,16が形成されている。
【0038】
本例では、基板10は化学式XB(ただし、XはTi及びZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶からなるが、好適には二硼化ジルコニウム(ZrB)である。この場合、ZrBの結晶性、格子定数が大きく変化しない程度に他のアクセプタ不純物と成り得るマグネシウムや亜鉛を含んでいてもよく、これらがIII族窒化物系半導体12中に混入されていても構わない。
【0039】
またバッファ層11は、III族窒化物系半導体12と基板10の格子定数や熱膨張係数が近い場合は必ずしも形成する必要はないが、バッファ層11としては、窒化ガリウム,窒化アルミニウム,窒化ガリウムアルミニウムを用いることができる。
【0040】
バッファ層11の形成後に温度を上げ、III族窒化物系半導体12を引き続き形成する。III族窒化物系半導体12としては、GaN,AlGaN,またはInGaN等のAlN及びInNの混晶組成でもよい。また、III族窒化物系半導体12の成長方法は、MOCVD法の他にも分子線エピタキシー(MBE)法やハイドライド気相成長(HVPE)法、パルスレーザデポジション(PLD)法等が挙げられる。
【0041】
バッファ層11及びIII族窒化物系半導体12の形成温度は、それぞれ400℃〜800℃、800℃〜1100℃である。
【0042】
このようにして、III族窒化物系半導体12は、基板10からホウ素が添加されることによりアクセプタ不純物が含まれることとなる。図2において、このIII族窒化物系半導体12は、バッファ層11側からGaNからなるコンタクト層12−a、AlGaNからなるクラッド層12−b、AlGaNからなるキャップ層12−cからなる構成であるが、キャップ層12−cはGaNであっても構わず、クラッド層12−bをAl組成の異なる2層からなるものとしても構わない。
【0043】
III族窒化物系半導体12中の不純物濃度は、結晶成長温度と、各層厚に混入量が依存する基板10からの固相を介しての拡散と気相を介しての取り込みとにより、制御が可能である。従って、コンタクト層12−a、クラッド層12−b、キャップ層12−cの順に不純物濃度が高くなる分布とすることができる。
【0044】
III族窒化物系半導体12の結晶成長温度は、例えばコンタクト層12−a及びクラッド層12−bは800℃〜1100℃、キャップ層12−cは発光層13の形成温度により異なり発光層13の形成温度と同じか僅かに高い程度であり、好適には700℃〜900℃である。
【0045】
また、III族窒化物系半導体12の各層の厚みは、コンタクト層12−aは5〜10nm、クラッド層12−bは50〜200nm、キャップ層12−cは10〜50nmが好適である。
【0046】
さらに、コンタクト層12−aは形成されていなくてもよく、バッファ層11をコンタクト層12−aの代わりとすることができる。
【0047】
発光層(活性層)13は、InGaN,GaN,AlGaN等から構成された障壁層13a、井戸層13bからなる量子井戸構造(MQW)からなっている。例えば、障壁層13aとしてGaN層、井戸層13bとしてInGaN層を用いることができる。
【0048】
発光層13の形成温度は、インジウムの組成比にもよるがキャップ層12−cと同様に700℃〜900℃であるが、基板10からのホウ素の拡散をなくすために700℃〜800℃と低い方が好ましい。また、発光層13を成す各層の厚みは、障壁層13aは5〜15nm、井戸層13bは3〜10nmであり、さらに量子井戸構造の繰返し数は3〜5層がよい。
【0049】
発光層13上にはN型半導体層14が積層されており、N型半導体層14は不純物としてシリコン(Si)をドープしたGaNから成る。N型半導体層14の形成温度は900℃〜1100℃である。N型半導体層14の厚みは、通常のサファイア上に形成される場合には格子定数のミスマッチが大きいため、転位を低減するために2〜3μmとする必要がある。これに対して、本発明のZrB基板上の場合、III族窒化物系半導体との格子定数のミスマッチが小さいため転位低減が可能であり、また、N型半導体層14は発光層13上に形成されるので転位低減のために厚くする必要がないことから、N型半導体層14の厚みは、図2の場合であれば1μmあれば十分である。このようにN型半導体層14の厚みを薄くすることにより、発光素子全体の抵抗低減や、発光層13で発光した光の吸収を極力抑えることが可能となる。
【0050】
また、発光層13とN型半導体層14の間に活性層13の分解を抑制する目的で発光層13と同じ成長温度で形成するInGaN層やGaN層を積層してもよい。
【0051】
さらに、電極15がN型半導体層14上に、電極16が基板10の他主面(下面)に形成されている。例えばZrBから成る基板10は、金属とほぼ同等の高い導電性を示すため、その下面に電極16を形成しても電流を流すことが可能となる。また、基板10とバッファ層11を介した電極16とP型半導体層12とのコンタクトは、P型半導体層12と全面で接することから電流の広がりもよく、基板10と電極16のコンタクト抵抗も低いことから、縦型に通電しても抵抗を低く、均一な発光を達成できる。
【0052】
電極16を形成する際に基板10を研磨等して薄くした後に形成しても構わない。さらに、ZrB等からなる基板10が導電性を有するために、例えばサブマウント基板に基板10をはんだ等により直接接続し電気的に導通をとることも可能である。また、このような電極16を特に用いない構成も採用可能である。
【0053】
また、N型半導体層14上に形成される電極15は、N型半導体層14の全面に形成する必要はなく、少なくともワイヤーボンディングができる程度の大きさの電極15を形成すればよい。
【0054】
電極15の位置は、図2では平面視で発光素子のほぼ中心に形成しているが、N型半導体層14は抵抗が低く電流の広がりが良いので、平面視で発光素子の端の方に形成されていてもよい。また、電極15は、発光素子における光の取り出し方向によっては、透光性または反射性の材料からなるように選択することができる。
【0055】
電極15,16に用いることができる好適な材料としては、アルミニウム(Al),チタン(Ti),ニッケル(Ni),クロム(Cr),インジウム(In),錫(Sn),モリブデン(Mo),銀(Ag),金(Au),ニオブ(Nb),バナジウム(V),白金(Pt)等であり、これらから成る薄膜として形成できる。また、他の好適な材料として、酸化錫(SnO),酸化インジウム(In),酸化インジウム錫(ITO),酸化亜鉛(ZnO)等を挙げることができ、これらから成る薄膜として形成できる。また、上記薄膜を複数積層したり、上記各種材料の合金や化合物から成る薄膜であってもよい。反射性の材料としては、例えば銀(Ag),アルミニウム(Al),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd)等が好適である。
【0056】
さらに、ボンディングやプローバ測定を行うために、各電極15,16上にパッド電極17,18を設ける。パッド電極17,18としては例えばTi層,Au層を積層したもの等を使用することができる。
【0057】
そして、ダイシングまたはスクライブ等によりチップ形状に分割することにより、図2に示す発光素子が得られる。
【0058】
以上のような構成にすることにより、III族窒化物系半導体の成長中にホウ素が基板10からIII族窒化物系半導体中に混入するが、III族窒化物系半導体に対して格子定数のずれが小さい基板10上にIII族窒化物系半導体を形成しているので、III族窒化物系半導体層の結晶性がよく、残留ドナー濃度を抑制できる。そのため、III族窒化物系半導体の成長後にアニールすることなく低抵抗で結晶性の良いP型III族窒化物系半導体を得ることができ、その結果、発光効率の良い、低い動作電圧の発光素子を得ることが可能となる。
【0059】
次に、本発明の発光素子について実施の形態の他例の構成を図3に示す。図3の構成の発光素子においては、フリップチップ型実装にも対応するものであり、図2の構成のように、基板10上に、バッファ層11、P型導体層12、発光層13、N型半導体層14を形成している構成は同じである。また図3の構成では、N型半導体層14に接続する電極15を、基板10に形成される電極16と同じ基板10の主面側に形成している。
【0060】
この電極15は以下のようにして形成することができる。まず、基板10の他主面(下面)からN型半導体層14にまで達する開口部を設ける。この開口部は、基板10にレジストによるパターニング等をした後に、開口部に相当する個所を除去することのよって形成され、例えば基板10を成すZrBは沸酸(HF)と硝酸(HNO)の混合液である沸硝酸水溶液で除去できるので、容易にパターニング及び除去が可能である。
【0061】
さらに、開口部において、バッファ層11、P型半導体層12、発光層13及びN型半導体層14の一部を、N型半導体層14の表面が露出するまでエッチングを行う。エッチングは反応性イオンエッチング(RIE)装置により行うことができる。
【0062】
再度フォトリソグラフィ工程、蒸着工程、リフトオフ工程により、N型半導体層14上に、Ti層,Al層,Ni層,Au層を積層して成る電極15を、さらに同様の積層構造からなる電極16を同時に基板10の下面に形成した。
【0063】
さらに、ボンディングやプローバ測定を行うために、各電極15,16上にパッド電極17,18を設ける。パッド電極17,18としては、例えばTi層,Au層を積層して成るもの等を使用することができる。
【0064】
そして、ダイシングまたはスクライブ等によりチップ形状に分割することにより、図3に示す、III族窒化物系半導体を用いた発光素子が得られる。
【0065】
また、図3においては基板10の一部を除去し、基板10の下面に電極16を形成したが、基板10はIII族窒化物系半導体の成長に使用した後は完全に除去して、電極16がバッファ層11上に形成されるようにすることも可能である。この場合、基板10を沸硝酸により完全に除去した後に、バッファ層11全面に電極16を形成する。電極16の材料としては、反射性の材料であれば、例えば銀(Ag),アルミニウム(Al),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd)を好適に用いることができる。
【0066】
さらに基板10除去後に、バッファ層11上に、例えばニッケル(Ni),金(Au)からなる透明電極を形成し、その上の一部にボンディングやプローバ測定を行うための例えばTi層,Au層を積層して成るパッド電極を形成することも可能である。
【0067】
以上のような構成にすることでIII族窒化物系半導体の成長中にホウ素が基板からIII族窒化物系半導体層に混入され、そのため、III族窒化物系半導体が格子定数のずれが小さい基板上に形成されているので、III族窒化物系半導体層の結晶性がよく、残留ドナー濃度を抑制できる。従って、成長後にアニールすることなく低抵抗で結晶性の良いP型III族窒化物系半導体を得ることができるため、発光効率の良い、低い動作電圧の発光素子を得ることが可能となる。
【0068】
次に、図4に本発明の照明装置について実施の形態の一例を示す。図4の照明装置は、図2及び図3に示す本発明の発光素子24と、この発光素子24に設けた発光層13に沿って出射される紫外光(波長365nm程度)〜近紫外光(波長380nm〜410nm程度)を、上方に反射する反射面19aを有する反射部材19と、発光素子24からの発光を受けて白色光等の可視光を発する蛍光体20(または燐光体)とを具備する構成である。
【0069】
また、発光素子24は、窒化アルミニウム(AlN)等の高熱伝導の絶縁材料からなる基台21上面に形成された導体パターン22a,22b上に、バンプ電極23a,23bを介して電気的に接続されており、その発光素子24の実装面の反対側から発光素子24全体を蛍光体20で覆っている。また、基台21上面には、反射面19aを成す金属材料(アルミニウム等)と同じ材料から成る反射部材19、または反射面19aが金属材料(アルミニウム等)でコーティングされた反射部材19を設けている。
【0070】
この照明装置は、例えば、発光素子24の光取り出し面側に蛍光体20を設けた構成であり、この構成において、発光素子24が例えば波長365nm前後の紫外光〜近紫外光で発光し、蛍光体20がその発光を受けて例えば励起光である白色光を発することによって、照明装置として動作する。
【0071】
本発明の照明装置は、このような構成としたことから、反射面19aが発光素子24から受けて反射した紫外光〜近紫外光と、小さい電力で高い発光強度を有する発光素子24自体の紫外光〜近紫外光とにより、蛍光体20(または燐光体)を強く励起するため、小さい電力で良好な照度を得ることができる。また、この本発明の照明装置は、従来の蛍光灯や放電灯等の代替品となり、それらよりも省エネルギー性や小型化に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のIII族窒化物系半導体について実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のIII族窒化物系半導体を用いた発光素子について実施の形態の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のIII族窒化物系半導体を用いた発光素子について実施の形態の他例を示す断面図である。
【図4】本発明の発光素子を用いた照明装置発光素子について実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10:基板
11:バッファ層
12:P型半導体層
13:発光層
14:N型半導体層
15,16:電極
17,18:パッド電極
19:反射部材
19a:反射面
20:蛍光体
21:基台
23a,23b:導体パターン
110:基板
111:バッファ層
112:P型半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一主面上に形成されたIII族窒化物系半導体であり、該III族窒化物系半導体に前記基板からの不純物が含まれていることを特徴とするIII族窒化物系半導体。
【請求項2】
前記基板は、化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成り、前記不純物がホウ素であることを特徴とする請求項1記載のIII族窒化物系半導体。
【請求項3】
化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、該III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を前記基板との界面から固相反応により混入させることを特徴とするIII族窒化物系半導体の製造方法。
【請求項4】
化学式XB(ただし、XはTiおよびZrのうち少なくとも1種を含む。)で表される二硼化物単結晶から成る基板の一主面上に、気相成長法によりIII族窒化物系半導体を形成する際に、該III族窒化物系半導体中に不純物であるホウ素を雰囲気ガス中の気相から混入させることを特徴とするIII族窒化物系半導体の製造方法。
【請求項5】
基板の一主面上に、それぞれIII族窒化物系半導体からなる、P型半導体層、発光層及びN型半導体層が順に積層されているとともに、前記P型半導体層及び前記N型半導体層にそれぞれ電極が設けられており、前記III族窒化物系半導体が請求項1または2記載のIII族窒化物系半導体であることを特徴とする発光素子。
【請求項6】
請求項5記載の発光素子と、該発光素子からの発光を受けて光を発する蛍光体及び燐光体の少なくとも一方とを具備していることを特徴とする照明装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−35876(P2007−35876A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216357(P2005−216357)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】