説明

III族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物半導体基板の製造方法

【課題】広範囲に亘って均一な低転位密度の領域を有するIII族窒化物結晶を低コストで製造できるIII族窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】種結晶上に、成長方向に対して垂直でない複数の面のみでIII族窒化物半導体結晶の成長面を構成し、且つ前記複数の面から構成される前記成長面が全体として凸面形状を形成しながら成長する凸面成長工程を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法において、前記成長方向がC軸方向であり、前記複数の面が全てC面以外の面である。前記複数のC面以外の面は、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)、あるいは、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物半導体基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウムアルミニウム(AlGaN)等のIII族窒化物半導体は、青色発光ダイオード(LED)やレ
ーザーダイオ−ド(LD)用材料として、脚光を浴びている。さらに、III族窒化物半導
体は、耐熱性や耐環境性が良いという特徴を活かして、電子デバイス用素子への応用開発も始まっている。
【0003】
上記のようなデバイスの高性能化のためには、エピタキシャル層中の結晶欠陥を減らすことが重要である。近年、HVPE法による高品質なGaN基板が開発され、次世代DVD向けのレーザダイオード用途を中心に普及しつつある。
【0004】
GaN基板の転位密度低減手法としては、FIELO(Facet Initiated Epitaxial Lateral Overgrowth)による方法が有名である(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、GaNを傾斜したファセットを形成させながら成長すると、ファセットに出会った転位が屈曲するので、成長方向への転位の伝播を抑制できる。このFIELOの原理をより積極的に応用した転位低減技術が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、傾斜ファセット表面を維持し、凹凸のファセット表面で厚膜を成長することで転位を特定部位に掃き集め、その他の部分を局所的に低転位化する技術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Usui, H. Sunakawa, A. Sakai and A. A. Yamaguchi: Jpn. J. Appl. Phys., 36 (1997), L899
【非特許文献2】K. Motoki, T. Okahisa, N. Matsumoto, M. Matsushima, H. Kimura, H. Kasai, K. Takemoto, K.Uematsu, T. Hirano, M. Nakayama, S. Nakahata, M. Ueno, D. Hara, Y. Kumagai, A. Koukitu and H.Seki: Jpn. J. Appl. Phys., 40 (2001), L140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来方法によるGaN基板には、未だ改善の余地を大きく残している。製造コストの低減は、その中でも最も大きな課題のひとつである。GaN基板を1枚作るために毎回下地基板を準備する必要があり、高コストとなるからである。この問題を解決するために、GaNの高速成長や多数枚成長、あるいはGaNの分厚いバルクインゴットを成長させ、そこから一気に多数枚のGaN基板を切り出す方法(バルク法)などが検討されている。これらの中でも、バルク法は、現在出回っているC面以外の任意の結晶面をもつ基板を作製可能なこともあり、非常に期待されている。
【0007】
しかし、GaNのインゴットを成長することは決して容易なことではない。特に、クラックの問題は深刻である。GaN結晶を分厚く成長すると、成長中になぜか微細なクラックが発生しはじめ、非常に荒れた表面になってしまう。そのような荒れた表面上に成長したGaNは非常に欠陥密度が高く、実用にならない。このような傾向は、成長速度が大きいときほど顕著になる。100μm/h程度の比較的に遅い成長速度では、微細クラック
の問題はあまり顕著ではなく、実際、厚さ5.8mm程度、直径2インチの無クラックG
aNインゴットの作製が報告されている(久保ら、2nd International Symposium on Growth of III-Nitrides (2008)、 発表番号I-Tu-5、“Bulk GaN crystals grown by HVPE”)。しかし、それ以上の成長速度では大きな問題になる。インゴット成長であるから、非常に分厚く成長させるので、経済的な観点からなるべく高速で成長を行いたいのに、非常に厄介な問題である。
【0008】
また、転位密度の低減も重要な課題である。今現在、市場に出回っているGaN基板の転位密度は、10cm−2程度である。窒化物デバイスのポテンシャルをさらに引き出すためには、転位密度をさらに低減する必要がある。転位密度は、GaNを厚く成長するほど減少することが知られている。この転位低減は、厚膜成長の間に、符号の異なるバーガースベクトルをもつ転位同士が引き合い、徐々に接近し、合体消滅することによると考えられる。この機構による転位密度の低減速度は、転位密度の減少とともに著しく遅くなってしまう。これは、転位密度が減少してくると、転位同士の距離が大きくなることと、転位同士の引力相互作用が弱くなることとが原因と考えられる。
一方、別の転位密度の低減方法としては、上述した非特許文献1、2による方法がある。10〜10cm−2程度の低転位密度の領域を有するGaNが得られるものの、低転位領域の幅は0.5mm程度と狭く、高転位密度領域の狭間にある。このため、デバイ
ス作製は位置を精密に合わせて行う必要があり、また、作製できるデバイスのサイズも限られてしまうという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、広範囲に亘って均一な低転位密度の領域を有するIII族窒化物結晶を
、低コストで製造できるIII族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、種結晶上に、成長方向に対して垂直でない複数の面のみでIII族窒
化物半導体結晶の成長面を構成し、且つ前記複数の面から構成される前記成長面が全体として凸面形状を形成しながら成長する凸面成長工程を含むIII族窒化物半導体結晶の製造
方法を提供することにある。
【0011】
上記態様において、前記複数の面から構成される凸面形状の前記成長面内に、凹形状部分が存在しないようにして成長するのが好ましい。また、前記成長方向がC軸方向であり、前記複数の面が全てC面以外の面であることが好ましい。前記複数のC面以外の面には、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)を含むこと、或いは、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)を含むことが好ましい。
また、前記凸面成長工程で成長する前記III族窒化物半導体結晶の直径が、10mm以
上であること、或いは前記凸面成長工程における前記III族窒化物半導体結晶の成長速度
が、300μm/h以上であることが好ましい。更に、前記凸面形状の成長面を有する前記III族窒化物半導体結晶を切断して得られた前記凸面形状の成長面部を含む頂部を、前
記種結晶として用いて、前記凸面成長工程を行うことが好ましい。
【0012】
また、上記態様において、前記種結晶として種結晶基板を用いる場合には、前記種結晶基板の主面上に成長するIII族窒化物半導体結晶の外周部に、前記種結晶基板の主面に対
して傾斜した成長面を形成し、当該傾斜した成長面を前記種結晶基板の中心側に拡大するように成長させて、前記種結晶基板の中心側にある前記種結晶基板の主面に平行な前記III族窒化物半導体結晶の平坦面を消失させる平坦面消失成長工程を設けて、前記傾斜した
成長面のみからなる凸面形状の成長面を形成するのがよい。
また、前記平坦面消失成長工程では、前記種結晶基板として、側壁面が主面に対して傾斜した面を有する種結晶基板を用いるのが好ましい。或いは、前記種結晶基板の成長面と
なる主面上に、開口を有するマスクを、前記開口が前記主面の所定の結晶方位に一致させて重ね、前記開口部分の前記主面上に前記III族窒化物半導体結晶を成長することによっ
て前記平坦面消失成長工程を行うことが好ましい。前記平坦面消失成長工程では、成長中の前記III族窒化物半導体結晶にクラックが発生しない低速結晶成長とし、前記凸面成長
工程では、300μm/h以上の高速結晶成長とすることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様は、上記態様のIII族窒化物半導体結晶の製造方法によって得られた前
記III族窒化物半導体結晶を、切断することによってIII族窒化物半導体基板を作製する工程を含むIII族窒化物半導体基板の製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広範囲に亘って均一な低転位密度の領域を有するIII族窒化物結晶を
低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係るGaN結晶の製造方法及びGaN基板の製造方法の製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施例に係るGaN結晶の製造方法及びGaN基板の製造方法の製造工程を示す工程図である。
【図3】比較例に係るGaN結晶の製造方法の製造工程を示す工程図である。
【図4】比較例に係るGaN結晶の製造方法及びGaN基板の製造方法の製造工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るIII族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物半導体基板の製造方法の概要を説明する。以下の説明では、GaNをIII族窒化物半導体の代表例として説明
する。
【0017】
上述したように、GaNのインゴットを高速で成長する際の問題は、クラックの発生である。本発明者は、そのようなクラックの生じたGaNインゴットを仔細に観察した結果、C面((0001)面)に非常に高密度のクラックが生じ、劣悪な表面状態になっている場合であっても、C面に隣接して自発的に生じるサイドファセット部分には全くクラックが生じていないことに気がついた。
すなわち、例えば円盤状のC面GaN基板を種結晶としてGaNのインゴット成長を行った場合、成長条件にもよるが、C面が厚くなっていくのに従って、C面に隣接して、傾斜したサイドファセットが発達してくる(その分、C面の面積は縮小する)。成長速度が大きい場合、C面にはクラックが生じやすいのだが、非常に高密度のクラックが発生した場合でも、実はサイドファセットは全く健全なままである場合が殆どである。このことから、本発明者は、GaNのインゴット表面にC面が無い状態で結晶成長を行えば、高速成長を行っても無クラック化を容易に達成できるという発想を得た。C面基板の取得効率を考えれば、なるべくC面の縮小を抑制するように成長に工夫を凝らすのが常識だが、本発明はまさに逆転の発想である。
【0018】
C面が無い状態での結晶成長を行う具体的な方法としては、まずは平板状のC面GaN基板を種結晶として厚く成長していく方法がある。サイドファセットが発達しやすい成長条件を選び、積極的にC面を縮小させる。ただし、種結晶基板の直径が大きい場合は、C面が消失するまでにはかなり厚く成長させる必要があるので、それまでの過程では、クラックが生じるのを避けるために、低速で結晶成長を行う必要がある。しかし、C面を消失させるためには、通常は種結晶基板の半径と同程度の厚さにまで成長させる必要があるので、低速成長では時間がかかってしまう。
これを避けるための方法としては、クラックの生じない厚さのうちにC面を消失させることが可能な程度の所定の直径の種結晶基板を用いることも有効である。あるいは、種結晶の側壁面が{10−12}面などの低指数面で囲まれるようにすることも有効である。具体的には、例えば、所定の結晶面を側壁面として備えた種結晶基板を用いるか、所定形状の開口を有するマスクを、所定の結晶方位をあわせて種結晶基板に重ねて、前記開口を通じて結晶成長を行うことによっても実現できる。
【0019】
一旦C面が消失してしまえば、その後は高速でクラックのないインゴットを成長することができる。従って、効率よく低コストでGaN結晶を製造できる。C軸方向への結晶成長はもちろんのこと、成長条件や種結晶基板を保持する基板ホルダを工夫することによって、直径方向(C軸方向に直交する方向)にインゴットを拡大させて成長することも可能である。成長終了後、インゴットをC面と平行にスライスするなどしてGaN基板の製造を行うが、C面が消失し成長面全体が凸型形状のインゴット頂部を、そのまま次のインゴット成長の種結晶として用いることも有効である。
【0020】
本発明は、低欠陥密度のGaNを得るのにも有効な技術である。すなわち、インゴットの成長面全体がインゴットの成長方向とは傾斜したファセットで覆われた状態で成長を行うことにより、転位が屈曲するので、転位密度が低減する。ファセットによる転位の屈曲効果を利用した代表的な転位低減方法については既に述べたが(非特許文献1、2)、それらの従来技術の難点は、ファセットの谷の部分が必ず存在するために、屈曲した転位が谷(凹部)の部分に集まってしまうことである。すなわち、転位密度が高い領域と低い領域とができ、転位密度のミクロな濃淡が出来てしまうということである。本発明では、成長面全体を凸型形状とするため、屈曲した転位は専ら結晶の側面に排出され、特定の場所に集合することがない。従って、低転位密度と転位密度の均一性とを高次元で両立することが可能になる。ミクロとマクロの境目に関しては、一般に明確な定義があるわけではないが、ここでは、ミクロという用語は、光学顕微鏡スケール以下のサイズ、例えば、1mm以下のサイズという意味で用いている。一方、マクロという用語は、ウェハ全面での分布を記述するような、1cm以上のスケールの意味で用いている。
【0021】
上記の説明では、III族窒化物結晶としてGaNについて記載したが、本発明は、Ga
N以外にもAlNやAlGaN等の他のIII族窒化物半導体およびそれらの混晶にも適用
可能である。また、上記の説明では、C軸方向の結晶成長について記載したが、本発明は、C軸方向に限らず、A軸方向、M軸方向、その他方向への成長にも適用できる。
【0022】
次に、本発明に係るIII族窒化物結晶の製造方法及びIII族窒化物基板の製造方法の一実施形態を説明する。
【0023】
本実施形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、種結晶上に、成長方向に対して垂直
でない複数の面のみでIII族窒化物半導体結晶の成長面を構成し、且つ前記複数の面から
構成される前記成長面が全体として凸面形状を形成しながら成長する凸面成長工程を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法である。
III族窒化物半導体結晶の成長面全体を凸面形状にしながら成長する凸面成長とするこ
とによって、クラックの発生がなく、しかも広範囲に亘って均一な低転位密度の領域を有するIII族窒化物結晶を製造できる。更に、高速成長を実現できるので、低コストでIII族窒化物半導体結晶を製造できる。
【0024】
前記複数の面から構成される凸面形状の前記成長面内に、凹形状部分が存在しないようにして成長するのが好ましい。凸面形状の成長面で屈曲した転位が凹形状部分に集まって、高転位密度の領域が生じるのを避けるためである。
【0025】
III族窒化物半導体結晶の成長方向をC軸方向とし、複数の面が全てC面以外の面とす
るのが好ましい。なお、III族窒化物半導体結晶の成長方向は、C軸に限らず、M軸やA
軸等、任意に選ぶことができる。
前記複数のC面以外の面には、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)が含まれるのが好ましい。特に、m=1,2,3のいずれかとするのがよい。すなわち、6つの等価な{10−11}面、6つの等価な{10−12}面、6つの等価な{10−13}面のいずれかが含まれるのがよい。
また、前記複数のC面以外の面には、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)を含まれるのが好ましい。特に、n=1,2,3のいずれかとするのがよい。
また、前記複数のC面以外の面は、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)と、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)との合計12面で構成されているのが好ましい。特に、m=1,2,3のいずれか、n=1,2,3のいずれかとするのがよい。
【0026】
生産性の観点から、凸面成長工程で成長するIII族窒化物半導体結晶の直径(成長方向
に垂直な方向の径)が、10mm以上であること、また、凸面成長工程におけるIII族窒
化物半導体結晶の成長速度が、300μm/h以上であることが好ましい。凸面成長とすることによって、クラックを発生させることなく、300μm/h以上の高速成長が可能となる。凸面成長工程で成長するIII族窒化物半導体結晶の直径は、25mm以上、更に
は40mm以上とするのがより好ましい。また、凸面成長工程におけるIII族窒化物半導
体結晶の成長速度は、500μm/h以上、更には、1000μm/h以上とするのがより好ましい。
【0027】
前記種結晶として種結晶基板を用いる場合、種結晶基板の主面上に成長するIII族窒化
物半導体結晶の外周部に、種結晶基板の主面に対して傾斜した成長面を形成し、当該傾斜した成長面を種結晶基板の中心側に拡大するように成長させて、種結晶基板の中心側にある種結晶基板の主面に平行なIII族窒化物半導体結晶の平坦面を消失させる平坦面消失成
長を行う。これにより、傾斜した成長面のみからなる凸面形状の成長面が形成される。この凸面形状の成長面上に、III族窒化物半導体結晶の凸面成長を行えばよい。
【0028】
前記種結晶基板には、側壁面が主面に対して傾斜した面を有する種結晶基板を用いるようにするのが好ましい。種結晶基板の主面がC面で、C軸方向にIII族窒化物半導体結晶
を成長する場合には、主面に対して傾斜した面である前記側壁面としては、6つの等価な{10−1m}面(mは自然数、特にm=1,2,3のいずれかとするのがよい)、あるいは、6つの等価な{1−12n}面(nは自然数、特にn=1,2,3のいずれかとするのがよい)が好ましい。
【0029】
また、前記種結晶基板の成長面となる主面上に、多角形状の開口を有するマスクを、この開口の各辺が主面の所定の結晶方位に一致するようにして重ね、開口部分の主面上にIII族窒化物半導体結晶を成長することによって、平坦面消失成長を行うようにしてもよい
。例えば、正六角形の開口を持つマスクを用い、正六角形の各辺が<11−20>と一致するようにすると、成長結晶の外周に{10−1m}面が成長し、あるいは、正六角形の各辺を<10−10>と一致するようにすると、成長結晶の外周に{11−2n}面が成長する。
【0030】
平坦面消失成長工程では、成長中のIII族窒化物半導体結晶にクラックが発生しない低
速結晶成長とし、凸面成長工程では、300μm/h以上の高速結晶成長とするのが好ましい。III族窒化物半導体の結晶成長、特に、300μm/h以上の高速結晶成長には、
HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法を用いるのが好ましい。
【0031】
凸面形状の成長面を有するIII族窒化物半導体結晶を切断して得られた凸面形状の成長
面部を含む頂部を、前記種結晶として用いて、凸面成長を行うのが好ましい。この場合、凸面形状の成長面部を含む頂部を再利用でき、しかも平坦面消失成長を省略できる。
【0032】
III族窒化物半導体基板(ウェハ)は、上記III族窒化物半導体結晶の製造方法で製造したIII族窒化物半導体結晶(インゴット)を、切断することによって得られる。
III族窒化物半導体結晶のインゴットから一度に多数枚のIII族窒化物半導体ウェハが得られる。また、インゴットが得られるので、III族窒化物半導体結晶の成長方向に垂直な
面(例えば、C面)以外の任意の結晶面をもつウェハを作製することが可能である。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0034】
(実施例1)
本発明に関わる実施例1のGaN結晶の製造方法及びGaN基板の製造方法を、図1を用いて説明する。図1は、製造工程を示す工程図であって、図1(a),(c)は平面図
(上面図)であり、図1(b),(d),(e)における上部は平面図(上面図)、下部は側面図である。
【0035】
始めに、種結晶として、直径2インチ、厚さ430μmの円盤状のC面GaN基板11を準備した(図1(a))。このGaN基板11の転位密度をCL(Cathodoluminescence;カソードルミネッセンス)法によって測定した。観察視野は1mm角とした。GaN
基板11の面内の平均の転位密度は5×10cm−2であり、観察したスケール内での良好な均一性を有し、面内分布も略均一であった。
【0036】
このGaN基板11をHVPE炉の基板ホルダにセットし、GaN基板11のGa極性面に、III族窒化物半導体結晶としてGaN結晶(GaNインゴット)12のホモエピタ
キシャル成長を行った。原料にはGaClとNHを用いた。キャリアガスにはHとNとの混合ガスを用いた。GaClとNHの分圧はそれぞれ0.3kPaおよび16k
Paとした。成長温度は1050℃とした。成長は略常圧下で行った。このとき、C軸方向の成長速度は約150μm/hであった。
【0037】
成長初期のGaNインゴット12の形状は、全体として概略円錐台状であって、GaNインゴット12の上面12aはC面であり、GaNインゴット12の側面はフラット面部12bと円錐面部12cとからなる傾斜面となっていた。フラット面部12bは{10−11}面であり、円錐台状の傾斜した側面に沿って60度おきに6箇所に現れた。すなわち、GaNインゴット12は、円錐台状の側面(円錐面)が、6箇所でフラット面({10−11}面)で切り取られたような形状をしていた。なお、円錐面部12cは、肉眼では円錐面に見えるが、顕微鏡で拡大して観察すると、{10−11}面と{11−22}面とが細かく交互に並んだギザギザ状の表面となっていた。
傾斜した側面では、成長の進行とともに、{10−11}面からなるフラット面部12bが徐々に発達・拡大し、GaNインゴット12の最厚部が約5mmに達したところで、円錐面部12cが上面12a外周に接しなくなり、フラット面部12bのみが上面12a外周に接し、C面からなる上面12a形状が六角形になった。そのまま成長を継続し、インゴット12の最厚部が約6mmになった時点で成長を停止した(図1(b))。
【0038】
HVPE炉から試料を取り出したところ、六角形状のC面を主面(上面12a)とするインゴット12が形成されていた。クラックは発生していなかった。このインゴット12の最表面(上面12a)から約1mmの位置で切断し、厚さ約1mmの六角形状のC面GaN基板13を切り出した(図1(c))。GaN基板13は、上面13aがC面であり
、6つの側面13bが{10−11}面である。
【0039】
この六角形状のGaN基板13を再び種結晶としてHVPE炉にセットし、GaN基板13上にGaNインゴット14のホモエピタキシャル成長を行った。GaClとNHの分圧はそれぞれ0.7kPaおよび16kPaとした。また、成長温度は1010℃とし
た。このとき、C軸方向の成長速度は約330μm/hであった。この条件で成長を続けると、GaNインゴット14上面のC面に隣接して6つの{10−13}面の側面が発達し、C面は六角形状のまま徐々に小さくなって、六角錐台状の頂部(図示せず)ができた。また、この六角錐台状の頂部の下部に、{10−13}面の側面に隣接して垂直な6つの{10−10}面からなる六角柱状の直胴部14bが出現した。GaNインゴット14の最厚部が約19mmに達した時点で完全にC面が消失し、六角錐状の頂部14aとなった。この六角錐状の頂部14aが、本発明の凸面成長工程における凸面形状の成長面となる。さらに成長を継続し、最厚部が25mmになった時点で成長を停止した(図1(d))。
【0040】
HVPE炉から試料を取り出したところ、インゴット14は、{10−13}面からなる六角錐状の頂部14aと、この頂部14aの下部に{10−10}面からなる六角柱状の直胴部14bとから構成されていた。クラックは発生していなかった。このインゴット14の直胴部14bをC面と平行にスライスし、複数枚のGaNウェハブランクを切り出した。これらのGaNウェハブランクの両面を研磨して、厚さ430μm、直径(正六角形の外接円の直径である対角長)が約46mmの六角形状のC面GaN基板15を得た(図1(e))。インゴット14の頂部14aは加工せず、後述の実施例2における種結晶とした。
【0041】
得られたGaN基板15のうち、直胴部14b上端付近から切り出されたものに関して、CL法により転位密度の分布を調べた。観察視野は1mm角とし、複数箇所を撮影した。その結果、GaN基板15の中心から20mm以内の部分では約1×10cm−2と良好な値であった。また、それよりも外周の部分では約5×10cm−2と、さらに良好な値を示していた。いずれの領域においても、観察したスケール内で良好な均一性を有していた。外周部分の転位密度が中心付近の転位密度よりも低いのは、外周部分は傾斜したファセット面({10−13}面)で成長されたために、その部分では転位の屈曲が起こり、C軸方向への伝播が抑制されたためと考えられる。
【0042】
(実施例2)
本発明に関わる実施例2を、図2を用いて説明する。図2は、GaN結晶及びGaN基板の製造工程を示す工程図であって、図2(a),(b),(c)のそれぞれにおいて、上部は平面図(上面図)、下部は側面図である。
【0043】
上記実施例1で残った{10−13}面の六角錐状の頂部を、実施例2の種結晶21として用いた(図2(a))。この六角錐状の種結晶21をHVPE炉にセットし、種結晶21上にGaNインゴット22のホモエピタキシャル成長を行った。GaClとNHの分圧はそれぞれ2.5kPaおよび49kPaとした。また、成長温度は1010℃とし
た。このとき、C軸方向の成長速度は約1200μm/hであった。成長中、インゴット22の{10−13}面からなる頂部23は六角錐状の形状をそのまま維持し、頂部23の下部には{10−10}面からなる六角柱状の直胴部24が形成され、この直胴部24の長さが増大した。直胴部24の長さが12mmに到達したところで成長を停止し、成長したインゴット22を成長炉から取り出した(図2(b))。
【0044】
取り出したインゴット22の直胴部24をC面と平行にスライスし、複数枚のウェハブランクを得た。これらのGaNウェハブランクの両面を研磨して、厚さ430μm、直径
(対角長)約46mmの六角形状のC面GaN基板25を得た(図2(c))。
【0045】
得られたGaN基板25のうち、直胴部24の上端付近から切り出されたものに関して、CL法により転位密度の分布を調べた。観察視野は1mm角とし、複数箇所を撮影した。GaN基板25の面内の平均転位密度は1×10cm−2であり、観察したスケール内で良好な均一性を有し、面内分布も略均一であった。実施例1と比較して、実施例2で転位密度のマクロな均一性がさらに向上したのは、凸面成長で厚くインゴット22を形成したために、傾斜ファセットによって低転位化した部分が直胴部24の中心にまで拡大したためと考えられる。
【0046】
(比較例1)
本発明に関わる比較例1を、図3を用いて説明する。図3は、GaN結晶の製造工程を示す工程図であって、図3(a)は平面図(上面図)、図3(b)の上部は平面図(上面図)、下部は側面図である。
【0047】
はじめに、実施例1と同じ、直径2インチ、厚さ430μmの円盤状のC面GaN基板31を準備した(図3(a))。このGaN基板31をHVPE炉にセットし、GaN基板31のGa極性面に、GaNのホモエピタキシャル成長を行った。原料にはGaClとNHを用いた。GaClとNHの分圧は、実施例2と同じく、それぞれ2.5kPa
および49kPaとした。成長温度は1010℃とした。成長は略常圧下で行った。このとき、C軸方向の成長速度は約1200μm/hであった。10時間の成長の後、厚さ約12mmのインゴット32が得られた(図3(b))。
【0048】
このインゴット32の上面32aは平坦なC面であり、その周囲は基本的には円錐状になっていたが、この円錐状の側面の六箇所に{10−11}面で削ぎ落としたようなフラット面部32bが形成されていた。円錐台状のインゴット32の横断面形状は次第に六角形に近づきつつあった。円錐状の円錐面部32cに隣接する部分を起点に無数の微細なクラックが発生していた。成長中に微細クラックが生じ、その上からさらにGaNが成長されたために、表面の凹凸が非常に激しかった。
【0049】
(比較例2)
本発明に関わる比較例を、図4を用いて説明する。図4は、GaN結晶及びGaN基板の各製造工程を示す断面図である。
【0050】
はじめに、直径2インチのC面サファイア基板41を準備した(図4(a))。このサファイア基板41上に、MOVPE(metal-organic vapor phase epitaxy;有機金属気
相成長)法を用いて厚さ1μmのGaN薄膜42を成長させ、GaNテンプレートとした(図4(b))。このGaNテンプレート上に、フォトリソグラフィを用いて、Pt(白金)のストライプマスク43を形成した(図4(c))。マスク43の厚さは100nm、幅は1μmとした。マスク43の間隔は500μmとし、ストライプの方向は<11−20>とした。
【0051】
このマスク付テンプレートをHVPE炉にセットし、GaNの成長を行った。原料にはGaClとNHを用いた。GaClとNHの分圧はそれぞれ2.5kPaおよび49
kPaとした。成長温度は1080℃とした。成長は略常圧下で行った。このとき、C軸方向の成長速度は約1000μm/hであった。GaNの成長はマスク開口部44から始まり、まず{10−11}面の2面が交差する山形状の三角形断面のGaN45が形成された(図4(d))。
成長を継続すると、隣同士のマスク開口部44に生じた三角断面のGaN45がマスク43上で互いに衝突し、マスク43を覆ったマスク43上部の衝突部には、GaNインゴ
ット47の谷が形成され、全体として約500μm周期の凹凸の洗濯板断面形状(三角波形状)の表面46となった(図4(e))。
【0052】
その後、さらに成長を継続しても、表面46は平坦化せず、元の三角波形状が維持されたままで厚膜化が進んだ。GaNインゴット47の最厚部が約10mmになった時点で成長を停止し、成長したGaNインゴット47を炉から取り出した(図4(f))。GaNインゴット47の方がサファイア基板41よりも剛性が勝っていたためか、サファイア基板41は、成長終了後の降温中に割れて自然に分離した。
取り出したインゴット47の直胴部をC面と平行にスライスし、複数枚のウェハブランクを得た。これらのGaNウェハブランクの両面を研磨して、厚さ430μmのC面GaN基板48を得た(図4(g))。
【0053】
得られたGaN基板48のうち、インゴット47の最も上部から切り出されたものに関して、CL法により転位密度の分布を調べた。観察視野は1mm角で、複数箇所を撮影した。転位の分布は、マクロスケールでは略均一であったが、ミクロスケールでは、約500μm周期の転位密度の濃淡を示していた。すなわち、成長中に凸部(山部)であった部分は3×10cm−2と良好な転位密度であったが、成長中に谷部であった部分では、谷底の部分に転位が集中し、1×10cm−2以上の高転位密度領域が形成されていた。
【0054】
上記実施例においては、HVPE法で成長したGaNインゴットについてのみ記したが、フラックス法やアモノサーマル法など他の成長方法でも有効なことは明らかである。また、GaN以外に、AlN等の他のIII族窒化物半導体およびそれらの混晶に対しても適
用可能である。上記実施例においては、インゴットの成長方向はC軸方向、スライスはC面と平行な方向についてのみ記したが、成長方向およびスライス面は、M軸やM面等、任意に選定することができる。
【符号の説明】
【0055】
11 C面GaN基板
12 GaNインゴット
12a 上面
12b フラット面部
12c 円錐面部
13 C面GaN基板
14 GaNインゴット
14a 頂部
14b 直胴部
15 C面GaN基板
21 種結晶
22 GaNインゴット
23 頂部
24 直胴部
25 C面GaN基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶上に、成長方向に対して垂直でない複数の面のみでIII族窒化物半導体結晶の成
長面を構成し、且つ前記複数の面から構成される前記成長面が全体として凸面形状を形成しながら成長する凸面成長工程を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の製造方
法。
【請求項2】
前記複数の面から構成される凸面形状の前記成長面内に、凹形状部分が存在しないようにして成長することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体単結晶の製造方法

【請求項3】
前記成長方向がC軸方向であり、前記複数の面が全てC面以外の面であることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記複数のC面以外の面は、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)を含むことを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記複数のC面以外の面は、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)を含むことを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記複数のC面以外の面は、6つの等価な{10−1m}面(但し、mは自然数)と、6つの等価な{1−12n}面(但し、nは自然数)との合計12面で構成されていることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記凸面成長工程で成長する前記III族窒化物半導体結晶の直径が、10mm以上であ
ることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法

【請求項8】
前記凸面成長工程における前記III族窒化物半導体結晶の成長速度が、300μm/h
以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の
製造方法。
【請求項9】
前記種結晶として種結晶基板を用い、前記種結晶基板の主面上に成長するIII族窒化物
半導体結晶の外周部に、前記種結晶基板の主面に対して傾斜した成長面を形成し、当該傾斜した成長面を前記種結晶基板の中心側に拡大するように成長させて、前記種結晶基板の中心側にある前記種結晶基板の主面に平行な前記III族窒化物半導体結晶の平坦面を消失
させる平坦面消失成長工程を有し、
前記平坦面消失成長工程の後に、前記傾斜した成長面のみからなる凸面形状の成長面上に、前記III族窒化物半導体結晶を成長する前記凸面成長工程を行うことを特徴とする請
求項1〜8のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記種結晶基板として、側壁面が主面に対して傾斜した面を有する種結晶基板を用いることを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
前記種結晶基板の成長面となる主面上に、開口を有するマスクを、前記開口が前記主面の所定の結晶方位に一致させて重ね、前記開口部分の前記主面上に前記III族窒化物半導
体結晶を成長することによって前記平坦面消失成長工程を行うことを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
前記平坦面消失成長工程では、成長中の前記III族窒化物半導体結晶にクラックが発生
しない低速結晶成長とし、前記凸面成長工程では、300μm/h以上の高速結晶成長とすることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の製造
方法。
【請求項13】
前記凸面形状の成長面を有する前記III族窒化物半導体結晶を切断して得られた前記凸
面形状の成長面部を含む頂部を、前記種結晶として用いて、前記凸面成長工程を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法によって得られ
た前記III族窒化物半導体結晶を、切断することによってIII族窒化物半導体基板を作製する工程を含むIII族窒化物半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144059(P2011−144059A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4818(P2010−4818)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】