説明

LED用エピタキシャルウェハの製造方法

【課題】チップサイズ6.5mil(165μm)に対応するLED用エピタキシャルウェハの製造方法を提供する。
【解決手段】原料ホルダ1とその下方に配置された回収ホルダ2との間にスライダー3をスライド自在に設け、そのスライダー3に原料ホルダ1の原料溶液溜4から原料溶液が供給されると共に回収ホルダ2の溶液収納槽5へ原料溶液を排出する基板ホルダ部6を形成し、その基板ホルダ部6内に基板8を縦に複数枚保持させた後、スライダー3をスライドさせて基板ホルダ部6内に原料溶液を供給し、基板8上にエピタキシャル層を液相エピタキシャル成長させた後、スライダー3をスライドさせて基板ホルダ部6内の原料溶液を排出するLED用エピタキシャルウェハの製造方法において、基板8を基板ホルダ部6内に保持させる際に、隣り合う基板8,8間のメルト幅13を3mm以下とし、LED用エピタキシャルウェハの総厚を190μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相エピタキシャル成長法によるLED用エピタキシャルウェハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AlGaAsを用いた赤色発光ダイオードは、高波長領域(650〜670nm)での高輝度、安価生産が特徴である。しかし、近年、安価な4元LEDの台頭により、今以上の安価生産が最重要課題である。
【0003】
AlGaAs系のLED用エピタキシャルウェハの製造には、液相エピタキシャル成長法が用いられている。液相エピタキシャル成長法によってエピタキシャルウェハを多数枚製造するための液相エピタキシャル成長装置用グラファイト冶具として、基板を縦に複数枚保持するタイプのものがある。
【0004】
これによれば、基板を縦置きに複数枚保持したグラファイト冶具内の基板ホルダ部へ、原料溶液溜から必要とする原料溶液を供給して基板と接触させ、基板上にエピタキシャル層を成長させた後、基板ホルダ部から原料溶液を排出することにより複数枚のエピタキシャルウェハを一度に製造できる。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−30692号公報
【特許文献2】特開平8−151293号公報
【特許文献3】特開平11−60374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、チップメーカーでは、エピタキシャルウェハ単位面積からのチップ取得率を向上させるために小チップ化を進めており、従来の最小チップサイズである8mil(203μm)から6.5mil(165μm)へのサイズダウンを目指している。
【0008】
しかし、単にチップサイズを6.5mil(165μm)としても、エピタキシャルウェハの総厚(エピタキシャル層+基板)が厚いことで、チップ化した場合にチップが倒れてしまい、取り扱い難いという問題がある。
【0009】
この問題を解決するためには、エピタキシャルウェハの総厚を薄くすることが必須である。この解決策として、基板を薄くする手法が考えられるが、基板のみを薄くした場合、応力の関係でエピタキシャルウェハの反りが大きくなることから小チップ化(6.5mil(165μm))するのが難しいという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、基板を薄くしてもエピタキシャルウェハの反りを従来と同等とし、チップサイズ6.5mil(165μm)に対応できるLED用エピタキシャルウェハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、原料ホルダとその下方に配置された回収ホルダとの間にスライダーをスライド自在に設け、そのスライダーに前記原料ホルダの原料溶液溜から原料溶液が供給されると共に前記回収ホルダの溶液収納槽へ原料溶液を排出する基板ホルダ部を形成し、その基板ホルダ部内に基板を縦に複数枚保持させた後、前記スライダーをスライドさせて前記基板ホルダ部内に原料溶液を供給し、前記基板上にエピタキシャル層を液相エピタキシャル成長させた後、前記スライダーをスライドさせて前記基板ホルダ部内の原料溶液を排出するLED用エピタキシャルウェハの製造方法において、前記基板を前記基板ホルダ部内に保持させる際に、隣り合う基板間のメルト幅を3mm以下とし、LED用エピタキシャルウェハの総厚を190μm以下とするLED用エピタキシャルウェハの製造方法である。
【0012】
前記基板の厚さを145μm以上としてもよい。
【0013】
前記基板をGaAs基板とし、前記エピタキシャル層として所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成してもよい。
【0014】
前記基板をGaAs基板とし、前記エピタキシャル層としてP型GaAlAsクラッド層、所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板を薄くしてもエピタキシャルウェハの反りを従来と同等とし、チップサイズ6.5mil(165μm)に対応できるLED用エピタキシャルウェハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係るLED用エピタキシャルウェハの製造方法に用いるグラファイト冶具(グラファイトボート)の模式図である。
【図2】エピタキシャルウェハの反り幅を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態に係るLED用エピタキシャルウェハの製造方法に用いるグラファイト冶具(グラファイトボート)を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、グラファイト冶具10は、原料ホルダ1とその下方に配置された回収ホルダ2との間にスライダー3をスライド自在に設け、そのスライダー3に原料ホルダ1の原料溶液溜4から原料溶液が供給されると共に回収ホルダ2の溶液収納槽5へ原料溶液を排出する基板ホルダ部6を形成し、その基板ホルダ部6に基板8を縦に複数枚保持させた後、スライダー3をスライドさせて基板ホルダ部6内に原料溶液を供給し、基板8上にエピタキシャル層を液相エピタキシャル成長させた後、スライダー3をスライドさせて基板ホルダ部6内の原料溶液を排出するように構成されている。
【0019】
原料ホルダ1の原料溶液溜4は、基板8に積層するエピタキシャル層の数に応じて複数形成される(図1では2つ)。また、原料ホルダ1の摺動面と反対の面である上面には、原料溶液溜4内を気密に保つためのキャップホルダ11が設けられている。
【0020】
スライダー3の基板ホルダ部6は、基板8を縦に複数枚整列して収容できるように構成されている。また、基板ホルダ部6は、スライダー3がスライドすることで原料溶液溜4と連通し、さらにスライダー3をスライドすることで原料溶液溜4との連通状態が断たれると共に溶液収納槽5と連通されるようになっている。スライダー3には、スライダー3をスライドさせるための操作棒12が取り付けられている。
【0021】
基板ホルダ部6に収容される基板8は、角形であるとよいがD形(または台形)であってもよい。角形やD形(または台形)の基板8を用いると、材料のロスを低減でき、さらにデバイスが形成されたエピタキシャルウェハのプローブ検査によるタクトタイムが短縮できる。なお、取り扱いの観点からは、基板8は円形であってもよい。
【0022】
基板8は、基板ホルダ部6の背板7にセットされる。背板7には、基板8を保持するための凹溝が形成されており、基板8を保持した背板7は、基板ホルダ部6内の横壁に設けられた保持溝にセットされる。なお、背板7に凹溝を設けずに、基板8と背板7とを接触した状態で基板ホルダ部6内の横壁に設けられた保持溝にセットされるようにしてもよい。
【0023】
回収ホルダ2の溶液収納槽5は、原料溶液溜4から基板ホルダ部6に供給された原料溶液を排出・回収すべく、原料溶液溜4の数に応じて形成される(図1では2つ)。
【0024】
エピタキシャル層の原料としては、Ga,GaAs,Al,Zn,Teなど(ドーパントも含む)、必要とするものを用いる。これらの原料からなる原料溶液は、通常、原料溶液溜4に固体状態でセットされ、図示しないヒーターでグラファイト冶具10を加熱して原料を溶解することで得られる。
【0025】
次に、グラファイト冶具10を用いたLED用エピタキシャルウェハの製造方法を説明する。
【0026】
まず、スライダー3の基板ホルダ部6の背板7に基板8をセットする。また、原料ホルダ1の原料溶液溜4に必要とする原料(Ga,GaAs,Al,Zn,Teなど)をセットし、液相エピタキシャル成長装置(加熱炉)内の所定の位置に設置する。
【0027】
本実施の形態に係るLED用エピタキシャルウェハの製造方法では、基板8を基板ホルダ部6内の背板7にセットして保持させる際に、隣り合う基板8,8間のメルト幅13を3mm以下としている。すなわち、基板8の表面と、基板8の表面に対面する背板7との距離を3mm以下としている。
【0028】
次に、水素雰囲気中で液相エピタキシャル成長装置をヒーターで例えば900℃まで加熱して、上記の原料を溶解して原料溶液を準備する。そして、液相エピタキシャル成長装置をその温度(900℃)で3時間保持した後、700℃まで一定の割合(例えば、1℃/min)で降温させる。
【0029】
降温中に操作棒12を押してグラファイト冶具10をスライドすることで、基板ホルダ部6を原料溶液溜4の下に移動させて基板ホルダ部6と原料溶液溜4とを連通し、基板8上に1層目のエピタキシャル層を成長させる。1層目のエピタキシャル層を成長した後、スライダー3をさらにスライドし、原料溶液溜4との連通状態を断つと共に基板ホルダ部6を溶液収納槽5の上に移動させて基板ホルダ部6と溶液収納槽5とを連通し、基板ホルダ部6内の原料溶液を溶液収納槽5内に排出・回収する。同様にして、スライダー3をスライドし、2つ目、3つ目、・・・nつ目の原料溶液溜4と溶液収納槽5を順次移動し、1層目のエピタキシャル層上に、2層目、3層目、・・・n層目のエピタキシャル層を順次成長させる。
【0030】
以上のようにして、例えば、GaAsからなる基板8上に、所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成してなるシングルヘテロ構造のエピタキシャルウェハが得られる。GaAsからなる基板8とP型GaAlAs活性層との間に、さらにP型GaAlAsクラッド層を設けると、GaAsからなる基板8上に、P型GaAlAsクラッド層、所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成してなるダブルヘテロ構造のエピタキシャルウェハが得られる。
【0031】
以上要するに本発明によれば、従来よりも薄くした基板8を基板ホルダ部6内に保持させる際に、隣り合う基板8,8間のメルト幅13を3mm以下(従来は6mm程度)とすることで、エピタキシャル層を薄くし、かつ、総厚も190μm以下とすることができる。エピタキシャル層を薄くできるのは、液相エピタキシャル成長法では、降温中に原料溶液の過飽和分が基板8上にエピタキシャル成長するため、メルト幅13を狭くすることでメルト幅13に存在する原料溶液の量を減らし、エピタキシャル成長に用いる原料の過飽和分の量を少なくしたためである。
【0032】
こうして得られるエピタキシャルウェハは、反りが従来と同等であり、且つ、総厚が190μm以下である。これにより、課題となっていたチップ倒れが激減し、6.5mil(165μm)チップの作製が実現可能となった。つまり、本発明の製造方法によれば、チップサイズ6.5mil(165μm)に対応したエピタキシャルウェハを得ることができる。チップサイズ6.5mil(165μm)は従来よりも小さいチップサイズであるため、エピタキシャルウェハ単位面積からのチップ取得率を向上でき、安価生産に繋がる。
【0033】
また、本発明の製造方法では、従来よりもメルト幅13を狭くし基板8の厚さを薄くしているが、温度条件など他の製造条件は変更する必要がない。さらに、従来よりもメルト幅13が狭いため、基板ホルダ部6内に基板8の枚数を増やして収容・処理することが可能となり、更なる安価生産に繋がる。
【0034】
なお、エピタキシャルウェハの総厚は190μm以下で、かつ、基板8の厚さは145μm程度以上とすることが好ましい。基板の厚さが145μm程度よりも薄くなると、エピタキシャルウェハに反りが生じやすくなるからである。
【実施例】
【0035】
(実施例)
グラファイト冶具10(メルト幅13:3mm)を用いて、P型のGaAsからなる角形の基板8(厚さ:145μm)を基板ホルダ部6に縦にセットし、所定の原料溶液溜4にエピタキシャル層の原料であるGa,GaAs,Al,Zn,Teをセットし、液相エピタキシャル成長装置内の所定の位置に設置した。水素雰囲気中で成長装置を900℃に加熱して、3時間保持後700℃まで1℃/minの割合で降温させた。降温中にスライダー3を押すことにより原料溶液溜4に移動させ、基板8に、P型GaAlAs活性層、N型GaAlAsウインド層を順次液相エピタキシャル成長させた。
【0036】
(比較例)
グラファイト冶具10のメルト幅13を従来の幅である6mm、基板8の厚さを200μmとし、実施例と同様に液相エピタキシャル成長を行った。
【0037】
実施例及び比較例で得られたエピタキシャルウェハの総厚、反り、6.5mil(165μm)でチップ化した時の倒れ率を調査した。反りは、図2に示すように、角形のエピタキシャルウェハ14を平面に3つの角部で3点支持したときの残り1点の角部の平面に対する高さ15を反り幅として測定した。これら実施例と比較例の6.5mil(165μm)チップ作製での効果の検証結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の通り、メルト幅13を3mmとすることにより、エピタキシャル層を薄くすることができ、これによりエピタキシャルウェハ14の反り量を比較例(従来品)と同等とし、且つ、総厚を190μmとすることができた。これにより、課題となっていたチップ倒れが僅か1%と激減し、6.5mil(165μm)チップの作製が実現可能となった。
【0040】
次に、従来最小チップサイズである8mil(203μm)と6.5mil(165μm)でのチップ取得量の比較結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示す通り、チップサイズを8mil(203μm)から6.5mil(165μm)とすることで、単位面積SI(Square Inch:平方インチ)あたりのチップ取得率を42%向上させることができた。
【0043】
上記の実施例の形態は、シングルヘテロ構造のLED用エピタキシャルウェハにおいて実施したものであるが、ダブルへテロ構造のLED用エピタキシャルウェハにおいても同様の効果が得られるのは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 原料ホルダ
2 回収ホルダ
3 スライダー
4 原料溶液溜
5 溶液収納槽
6 基板ホルダ部
7 背板
8 基板
10 グラファイト冶具
13 メルト幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ホルダとその下方に配置された回収ホルダとの間にスライダーをスライド自在に設け、そのスライダーに前記原料ホルダの原料溶液溜から原料溶液が供給されると共に前記回収ホルダの溶液収納槽へ原料溶液を排出する基板ホルダ部を形成し、その基板ホルダ部内に基板を縦に複数枚保持させた後、前記スライダーをスライドさせて前記基板ホルダ部内に原料溶液を供給し、前記基板上にエピタキシャル層を液相エピタキシャル成長させた後、前記スライダーをスライドさせて前記基板ホルダ部内の原料溶液を排出するLED用エピタキシャルウェハの製造方法において、
前記基板を前記基板ホルダ部内に保持させる際に、隣り合う基板間のメルト幅を3mm以下とし、LED用エピタキシャルウェハの総厚を190μm以下とすることを特徴とするLED用エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項2】
前記基板の厚さを145μm以上とする請求項1に記載のLED用エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項3】
前記基板をGaAs基板とし、前記エピタキシャル層として所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成する請求項1又は2に記載のLED用エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項4】
前記基板をGaAs基板とし、前記エピタキシャル層としてP型GaAlAsクラッド層、所望する発光波長に必要なAl混晶比のP型GaAlAs活性層、N型GaAlAs活性層及びN型GaAlAsウインド層を順次形成する請求項1又は2に記載のLED用エピタキシャルウェハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−99562(P2012−99562A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244112(P2010−244112)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】