説明

X線装置およびX線測定方法

【課題】X線の被検知物による吸収情報と位相情報とを、分離して独立した情報として取得するX線装置を提供する。
【解決手段】X線装置であって、X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子と、分割素子により分割され、被検知物を透過したX線の位相変化によるX線の位置変化量を、X線または光の強度変化量に換えて、X線または光の強度を検出する検出手段と、検出手段から得られたX線または光の強度から被検知物の吸収情報であるX線透過率像と、位相情報であるX線微分位相像またはX線位相シフト像を演算する演算手段と、を有し、分割素子は、X線を分割することにより検出手段において2以上の幅を有するX線を照射する構成を備え、演算手段は、検出手段におけるX線の位置変化量とX線または光の強度変化量との相関関係が2以上の幅を有するX線間で異なることに基づいて演算する構成を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いた撮像装置およびX線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を用いた非破壊検査法は工業利用から医療利用まで幅広い分野で用いられている。
例えば、X線は波長が約1pm〜10nm(10-12〜10-8m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(約2keV〜)を硬X線、波長の長いX線(約0.1keV〜約2keV)を軟X線という。
例えば、被検知物にX線を透過させた時の透過率の違いを用いた吸収コントラスト法で得られる吸収像はX線の透過能の高さを利用し、鉄鋼材料などの内部亀裂検査や手荷物検査などのセキュリティ分野の用途として実用化されている。
一方、X線の吸収によるコントラストがつきにくい密度差の小さい物質で構成されている被検知物に対しては、被検知物によるX線の位相変化を検出するX線位相イメージングが有効である。例えば、高分子材料の相分離構造体のイメージングや医療応用が検討されている。
【0003】
各種X線位相イメージングにおいて、特許文献1が示すX線の被検知物による位相変化による屈折効果を利用した方法は、非常に簡便で効果的な方法である。具体的には、微小焦点のX線源を用い、被検知物と検出器の距離を離すことによってX線の被検知物による屈折効果から被検知物の輪郭が強調されて検出されることを利用している。
また、この方法は屈折効果を利用するため、多くのX線位相イメージング手法の場合と異なりシンクロトロン放射光のような干渉性の高いX線を必ずしも必要としないといった特徴がある。
一方、特許文献2では、検出器の画素のエッヂ部分にX線を遮蔽するマスクを設置した撮像装置が開示されている。
被検知物がない状態において、遮蔽マスクの一部にX線が照射するようにセッティングを行えば、被検知物による屈折効果により生じたX線の位置変化が強度変化として検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−102215号公報
【特許文献2】国際公開第2008/029107号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の従来例ものにおいては、X線の被検知物による吸収情報(X線の透過率像)と位相情報(X線微分位相像やX線位相シフト像)とが混在している。
そのため、上記従来例のものにおいては、これらの吸収情報と位相情報を分離して独立に取得することができないといった課題を有している。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、X線の被検知物による吸収情報(X線の透過率像)と位相情報(X線微分位相像やX線位相シフト像)とを、分離して独立した情報として取得することが可能となるX線装置およびX線測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のように構成したX線装置およびX線測定方法を提供するものである。
本発明のX線装置は、X線の被検知物による吸収情報と位相情報を取得するX線装置であって、
X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子と、
前記分割素子により分割され、前記被検知物を透過したX線の位相変化によるX線の位置変化量を、X線の強度変化量に換えて、X線の強度を検出する検出手段と、
前記検出手段から得られたX線の強度から前記被検知物の前記吸収情報であるX線透過率像と、前記位相情報であるX線微分位相像またはX線位相シフト像を演算する演算手段と、を有し、
前記分割素子は、前記X線を分割することにより前記検出手段において2以上の幅を有するX線を照射する構成を備えると共に、
前記演算手段は、前記検出手段におけるX線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づいて演算する構成を備えていることを特徴とする。
また、本発明のX線測定方法は、X線の被検知物による吸収情報と位相情報を取得するX線測定方法であって、
前記X線を幅の異なる2つ以上のX線に分割する工程と、
前記被検知物による前記分割されたX線の位相変化によるX線の位置変化量を、X線の強度変化量に換えて、X線の強度を検出する工程と、
X線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づき、前記被検知物のX線透過率およびX線の位置変化量を演算する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、X線の被検知物による吸収情報(X線の透過率像)と位相情報(X線微分位相像やX線位相シフト像)とを、分離して独立した情報として取得することが可能となるX線装置およびX線測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1、2、3におけるX線装置の構成例を示す図。
【図2】実施形態1における分割素子の構成例を示す図。
【図3】実施形態1におけるX線光学素子の構成例を示す図。
【図4】実施形態1において説明する異なる幅のX線におけるX線光学素子透過後のX線強度比と移動量の関係を示した図。
【図5】実施形態1で説明する演算手段における処理フローを示す図。
【図6】実施形態2で説明するX線光学素子の構成例を示す図。
【図7】実施形態3で説明するX線光学素子の構成例を示す図。
【図8】実施形態4で説明するX線光学素子の構成例を示す図。
【図9】実施形態4で説明するX線光学素子の構成例を示す図。
【図10】実施例で説明する装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態では、X線の被検知物による位相変化を利用したX線装置において、X線の被検知物による吸収情報と位相情報とを、分離して独立した情報として取得できるX線装置およびX線測定方法について説明する。
本発明の実施形態のX線の被検知物による吸収情報(X線の透過率像)と位相情報(X線微分位相像やX線位相シフト像)を取得するX線装置は、つぎの構成を備える。
X線を発生するX線発生手段と、該X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子を備え、この分割素子は、X線を分割することにより検出手段において2以上の幅を有するX線を照射することが可能に構成されている。
このような分割素子を備えることにより、検出手段におけるX線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づいて、つぎのように吸収情報と位相情報を独立して取得することが可能に構成されている。
すなわち、上記分割素子により分割され前記被検知物を透過したX線の位相変化によるX線の位置変化量をX線の強度変化量に換えて、X線の強度を検出する検出手段を備える。
さらに、検出手段から得られたX線の強度から被検知物の吸収情報であるX線透過率像と、位相情報であるX線微分位相像またはX線位相シフト像を演算する演算手段を備える。
そして、この演算手段は、上記検出手段におけるX線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づいて演算することが可能に構成されている。
【0011】
また、上記検出手段によりX線の強度を検出するに際しては、具体的には、被検知物によるX線の屈折効果によるX線の検出器上での入射位置変化量を、X線強度変化量に変換するX線光学素子を用いて検出する。
ここで、X線の検出器上での入射位置変化量をX線強度変化量に変換するX線光学素子とは、つぎのような素子のことを言う。
すなわち、X線の入射位置に応じて、X線の吸収量(透過量)が連続的に変化する素子や、X線の入射位置に応じて、X線に感度を有するシンチレータの発光量が連続的に変化する素子のことを言う。
あるいは、X線の入射位置に応じて、X線の遮蔽面積が連続的に変化する素子や、X線の入射位置に応じて、X線に感度を有するシンチレータで発光した光の吸収量(透過量)が連続的に変化する素子のことを言う。
さらにまた、X線の入射位置に応じて、シンチレータで発光した光の遮蔽面積が連続的に変化する素子、またはX線の入射位置に応じて、シンチレータで発光した光の透過率が連続的に変化する素子のことを言う。
【0012】
X線の入射位置に応じて、X線の吸収量(透過量)が連続的に変化する素子や、シンチレータで発光した光の発光量が連続的に変化する素子は、連続的または段階的に吸収体もしくはシンチレータの形状を変化させることにより構成することができる。
また、単位体積当たりのX線の吸収量(透過量)を連続的または段階的に変化させることにより構成することもできる。
なお、本明細書では、「連続的」との用語は「段階的」の概念を含むものとして取り扱うこともある。
また、X線の入射位置に応じて、X線の遮蔽面積が連続的に変化する素子や、シンチレータで発光した光の遮蔽面積が連続的に変化する素子は、X線またはシンチレータで発光した光に対するマスク等の遮光素子を用いることにより構成することができる。
また、シンチレータで発光した光の吸収量(透過量)を連続的または段階的に変化させる素子は、基板上に金属膜の厚さを連続的に変えながら形成した減光素子等を用いることにより構成することができる。
【0013】
また、このX線光学素子に対して入射するX線を空間的に分割するX線分割素子を用いるが、X線分割素子で分割されたX線は検出器上において、2つ以上の幅を持つようにする。
例えば、X線分割素子がスリットを並べた構造になっていて、2種類の幅のスリットが交互に並んだ構造になっていることにより構成することができる。
このような素子を用いることにより、X線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が2以上の幅を有するX線間で異なることに基づき吸収情報と位相情報を独立に得ることができる。以下、具体的に説明する。
【0014】
(実施形態1)
実施形態1では、X線光学素子にX線の入射位置に応じて、X線の吸収量(透過量)が連続的に変化する素子を用いて、吸収情報と位相情報を独立に得ることができるX線装置について、図1を用いて説明する。
本実施形態のX線装置は、図1に示すように、X線発生源としてのX線源101から発生するX線の光路上に、分割素子103と、被検知物104と、X線光学素子105と、検出手段106とが配置された構成を備える。
なお、分割素子103と、被検知物104と、X線光学素子105を移動させるステッピングモータ等を用いた移動手段109、110、111を別途設けても良い。
被検知物104は適宜移動することができるため、被検知物104の特定個所についての像を得ることができる。
X線源101から発生されたX線は分割素子103により空間的に分割される。すなわち、分割素子103は、特許文献2に記載されている複数のアパーチャを有するサンプルマスクとして機能するものであって、この分割素子103を透過したX線はX線の束となる。
分割素子103は、ラインアンドスペースによるスリットアレイ形状を備えたものであっても、2次元的に配列された穴を有しているものであっても良い。
【0015】
分割素子103の模式図を図2に示す。
分割素子は、2種類以上のスリット幅を周期的に有するラインアンドスペースのスリットアレイで構成することができる。
具体的には、分割素子103は基板201と2種類の幅の異なるスリット202、203が交互に並んだ構造とすることができる。
基板201に設けられたスリット202、203は、X線を透過する形態であれば、光学素子の基板を貫通しなくとも良い。
基板201を構成する材料としてはX線の吸収能が高いPt、Au、Pb、Ta、Wなどから選択される。
分割素子103により分割されたX線の検出手段106位置でのラインアンドスペースの周期は検出手段106の画素サイズ以上である。
すなわち、検出手段を構成する画素の大きさは、検出手段106の位置におけるX線の空間的な周期以下である。
分割素子103により空間的に分割されたシート状のX線は、被検知物104によって吸収されると共に位相が変化し、その結果、屈折する。
屈折したそれぞれのX線はX線光学素子105に入射する。X線光学素子105を透過したX線は検出手段106によりそれぞれのX線の強度を検出する。
検出手段106により得たX線に関する情報は演算手段107により数的処理がなされ、モニタ等の表示手段108に出力される。
【0016】
被検知物104としては、人体、人体以外としては無機材料、無機有機複合材料が挙げられる。
検出手段106は、例えばX線フラットパネル検出器、X線CCDカメラや直接変換型X線2次元検出器などから選択される。
検出手段106はX線光学素子105と近接していてもよいし、一定の間隔を隔てて配置してもよい。また、X線光学素子105を検出手段106の中に組み込んでも良い。
なお、単色X線を用いる場合には、X線源101と分割素子103の間にスリットと組み合わせたモノクロメータやX線多層膜ミラーなどの単色化手段102を配置してもよい。
また、X線光学素子105からの散乱X線による像の不明瞭化を軽減するために、X線光学素子105と検出器106の間、または被検知物104とX線光学素子105との間にレントゲン撮影に用いられるグリッドを配置しても良い。
【0017】
図3に、図1のX線光学素子105の一部分について説明するX線光学素子303の模式図を示す。
基準X線301は、被検知物104の存在しない状態での分割されたX線を示している。
X線302は被検知物104の存在によって屈折したX線を示している。これら基準X線301とX線302のX線光学素子303上でのX方向(X線の入射方向に対して垂直方向)の移動量はdである。
X線の物質による屈折角は極めて小さいためdはμmオーダーの移動量しかない。
X線光学素子303はX方向に厚みが変化している三角柱形状が配列した構造を有している。
このように構成することにより、X方向にX線光学素子303内における透過X線の光路長が変化する。すなわち、X線光学素子303は、X線の入射位置によりX線の吸収量(透過量)が変化する吸収能勾配を有している。
なお、X線光学素子303は、板状の部材を加工することにより構成してもよい。
【0018】
図4に、分割素子103による異なる幅のX線におけるX線光学素子透過後の、X線強度比と移動量の関係を示した図を示す。
図4には、被検知物104が無い状態でX線光学素子303に対し分割素子103によって異なる2つの幅のX線が照射された場合において、基準位置からの移動量に対する基準X線301とX線302との強度比を、異なる2種類の幅のX線に対してプロットしたものが示されている。
図4から明らかなように、X線の移動量が極めて微小な領域において両者は直線的な関係を示す。
2種類の幅を有する、それぞれのX線の移動量dに対する基準X線301の強度I1、I2と、X線302の強度I1’、I2’との関係は、つぎの式(1)であらわすことができる。

【0019】
1、a2、b1、b2、は定数であり、図4のデータをフィッティングすることによって得ることができる。被検知物104を測定する場合は、X線の透過率Aを考慮すると、つぎの式(2)を導くことができる。

【0020】
隣り合うX線光学素子105を透過したX線が被検知物104のほぼ同じ位置の情報であるという仮定から、式(2)の2つの方程式を解くことによりX線の移動量dと被検知物104に対するX線の透過率Aを求めることができる。
この場合、X線光学素子105の隣り合う2つの素子つまり2つの領域におけるX線強度の情報を用いて透過率A、X線位置移動量dを得るため、空間分解能は1/2になる。
そこで、空間分解能の低減を改善するために上記測定に加えて被検知物104もしくは分割素子103をX方向に被検知物104の既に測定した位置に対して別の幅のX線を用いて測定できる長さ分移動させ測定することができる。
これにより、空間分解能を落とさずに情報を得ることができる。
この分割素子103を用いることにより、X線の吸収情報及び位相情報を独立した情報として得ることができる。
また、X線光学素子105により検出手段106の画素サイズ以下のX線位置変化量を検出できるため、被検知物−検出器間距離を短くすることができ、装置の小型化を達成できる。
【0021】
演算手段107のフロー図を図5に示す。まずX線光学素子105を透過した各X線の強度情報を取得する(S100)。
次に、各X線の強度情報からX線透過率A、基準X線301に対する位置変化量dを算出する(S101)。
位置変化量dと被検知物104−X線光学素子105間の距離Zを用いて、各X線の屈折角(Δθ)は、つぎの式(3)で表される。

【0022】
式(3)を用いて各X線の屈折角(Δθ)を算出する(S102)。
屈折角(Δθ)と微分位相(dφ/dx)とは式(4)の関係がある。

【0023】
λはX線の波長であり連続X線を用いる場合は実効波長を意味する。この式(4)を用いて各X線の微分位相(dφ/dx)を算出する(S103)。
次に、得られた各微分位相(dφ/dx)をX方向に積分することによって位相(φ)を算出する(S104)。
この様に算出された微分位相(dφ/dx)および位相(φ)は表示手段108によって表示することができる(S105)。
このような構成により、検出手段106の1画素内の微小なX線の位置変化を検出できるため、被検知物104と検出手段106の距離を長く取る必要性がなく装置の小型化ができる。そして、被検知物によるX線の透過率像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を分離して得ることができる。
【0024】
なお、被検知物104と検出手段106の距離を長くする構成を選択すれば、より微小な屈折によるX線位置変化を測定することが出来る。
以上の構成によれば、位相変化の検出にX線の屈折効果を利用するため干渉性の高いX線を必ずしも用いる必要がなく、吸収像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を得ることができる。
なお、上記ではX線微分位相像またはX線位相シフト像を得ているが、吸収情報から得た透過率像やX線の位置変化量、屈折角を表示手段108に表示してもよい。
【0025】
(実施形態2)
実施形態2では、実施形態1のX線光学素子の代わりに発光量勾配を有する蛍光体を複数配列した蛍光体アレイをX線光学素子として用いた場合のX線装置について説明する。
本実施形態では、X線光学素子105と検出手段106が接した構造の説明になっているが、分離したものでも構わない。
ここで、発光量勾配を有する蛍光体とは、X線の入射位置により、蛍光の発光量が変化する蛍光体のことをいう。
この蛍光体は、形状を連続的に変化させるか、または、単位体積あたりの発光量を連続的に変化させることにより構成することができる。
なお、本明細書では、「連続的」との用語は「段階的」の概念を含むものとして取り扱う。例えば、ステップ状に発光量が変化している形態も本発明に含まれる。
装置構成は実施形態1と同じである。分割素子103により2つの幅を持つ周期的に分割されたX線は被検知物104に照射され、透過X線はX線光学素子105に入射する。X線光学素子105の一部分の模式図を図6に示す。
【0026】
基準X線601は被検知物104存在しない状態での分割されたX線を示している。X線602は被検知物104の存在によって屈折したX線を示している。603は発光量勾配を有する蛍光体アレイである。
蛍光体アレイ603はX線照射によって蛍光を発光する材料で構成され、且つ素子内で図6に示したX方向に連続的に形状が異なるため、その結果、蛍光の発光量分布を付与していることになる。
例えば、上記蛍光体アレイ603の材料としては、例えば一般にX線用のシンチレーターとして使用されているつぎのものから選択することができる。
すなわち、NaI(Tlドープ)、CsI(Tl)CsI(Naドープ)、CsI(ドープなし)、LSO(Ceドープ)、YAP(Ceドープ)、GSO(Ceドープ)などから選択することができる。
【0027】
検出手段106には可視光用のCCDやCOMSセンサを用いることができる。
このようなX線光学素子105に対して幅が異なるX線が入射すると、実施形態1で示した場合と同じように、その幅に応じて基準X線601が入射する位置からのX線の移動量に対する蛍光体アレイ603の発光量変化比が異なる。
事前に被検知物104のない状態で、分割素子103を移動させながら発光量のデータを取ることにより、移動量と発光量変化比に対して関数でフィッティングする。
これにより、実施形態1と同様の演算手段107を用いて、各X線による発光情報からX線透過率A、基準X線601に対する位置変化量dを算出し、微分位相量を算出する。
微分位相量をX方向に積分することによって、位相を算出することができる。
この場合、X線光学素子105の隣り合う2つの素子つまり2つの領域におけるX線強度の情報を用いて透過率A、X線位置移動量dを得るため、空間分解能は1/2になる。
【0028】
そこで、空間分解能の低減を改善するために上記測定に加えて被検知物104もしくは分割素子103をX方向に被検知物104の既に測定した位置に対して別の幅のX線を用いて測定できる長さ分移動させ測定することができる。
これにより、空間分解能を落とさずに情報を得ることができる。
このような構成により、検出手段106の1画素内の微小なX線の位置変化を検出できるため、被検知物104と検出手段106の距離を長く取る必要性がなく装置の小型化ができる。
そして、被検知物によるX線の透過率像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を分離して得ることができる。
【0029】
なお、被検知物104と検出手段106の距離を長くする構成を選択すれば、より微小な屈折によるX線位置変化を測定することが出来る。
以上の構成によれば、位相変化の検出にX線の屈折効果を利用するため干渉性の高いX線を必ずしも用いる必要がなく、吸収像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を得ることができる。
なお、上記ではX線微分位相像またはX線位相シフト像を得ているが、吸収情報から得た透過率像やX線の位置変化量、屈折角を表示手段108に表示してもよい。
【0030】
(実施形態3)
実施形態3では、実施形態1のX線光学素子105の代わりにX線の一部分を遮蔽するための遮蔽体を複数配列した遮蔽体アレイをX線光学素子として用いた場合のX線装置について説明する。
本実施形態ではX線光学素子105と検出手段106が接した構造の説明になっているが、分離したものでも構わない。
図7にX線光学素子105の一部分の模式図を示す。
2つの幅を持つ基準X線701、702は、被検知物104のない部分での分割されたX線を示している。そして、画素705の中央部を通るように入射されており、X線706、707は被検知物104によって屈折し、画素705の中央部からずれた位置に入射したX線を示している。
遮蔽体704によって基準X線701、702、X線706、707の一部分を遮蔽している。
遮蔽体704の形状からX線706、707が基準X線701、702の位置である中央部に対してX方向に移動するとX線706、707の遮蔽面積が連続的に変化するため、その強度変化から移動量を得ることができる。
【0031】
実施形態1と同様に、2つの幅を持つX線の移動量に対する強度変化比は2つの傾きを持つ直線的な変化を示す。そのため実施形態1と同様の演算手段107を用いる。
これにより、各X線による強度情報からX線透過率A、基準X線701、702に対する位置変化量dを算出し、微分位相を算出する。
微分位相をX方向に積分することによって、位相を算出することができる。この場合、X線光学素子105の隣り合う2つの素子、つまり2つの領域におけるX線強度の情報を用いて透過率A、X線位置移動量dを得るため、空間分解能は1/2になる。
【0032】
そこで、空間分解能の低減を改善するために上記測定に加えて被検知物104もしくは分割素子103をX方向に被検知物104の既に測定した位置に対して別の幅のX線を用いて測定できる長さ分移動させ測定することができる。
これにより、空間分解能を落とさずに情報を得ることができる。
このような構成により、検出手段106の1画素内の微小なX線の位置変化を検出できるため、被検知物104と検出手段106の距離を長く取る必要性がなく装置の小型化ができる。
そして、被検知物によるX線の透過率像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を分離して得ることができる。
【0033】
なお、被検知物104と検出手段106の距離を長くする構成を選択すれば、より微小な屈折によるX線位置変化を測定することが出来る。
以上の構成によれば、位相変化の検出にX線の屈折効果を利用するため干渉性の高いX線を必ずしも用いる必要がなく、吸収像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を得ることができる。
なお、上記ではX線微分位相像またはX線位相シフト像を得ているが、吸収情報から得た透過率像やX線の位置変化量、屈折角を表示手段108に表示してもよい。
【0034】
(実施形態4)
実施形態4では、実施形態1のX線光学素子105の代わりに蛍光体でX線を可視光に変化した後にX線の移動を検出される可視光の強度変化に変換するために可視光の一部分を遮光するためのX線光学素子について説明する。
また、位置変化に対して連続的に可視光の透過率が変化するX線光学素子を用いた場合のX線装置について説明する。
本実施形態では、X線光学素子105と検出手段106が接した構造の説明になっているが、分離したものでも構わない。
まず、減光するためのX線光学素子について図8を用いて、本実施形態におけるX線光学素子105および検出手段106について説明する。
図1におけるX線光学素子105および検出手段106は、本実施例ではシンチレータ806、X線光学素子803、光検出器805によって構成されている。光検出器805が2次元的に配列されているためそれぞれの光検出器805が検出画像の画素に相当する。シンチレータ806は、X線に対して感度を有しておればよく、ヨウ化セシウム(CsI)などが用いられる。
また、光検出器805はシンチレータの発光波長領域で感度を有しておればよく、CCDやCMOSなどが用いられる。
なお、シンチレータ806とX線光学素子803と光検出器805は図8のように一体的に形成されていてもよく、離間して配置しても良い。
【0035】
図8において、基準X線801は被検知物104のない状態での分割されたX線を示し、X線802は被検知物104によって屈折したX線を示している。
この基準X線801は光検出器805の画素の中央部を通るようにセッティングしておくことが好ましい。
X線光学素子803は光学フィルタ804が複数設けられた構成になっている。光学フィルタ804はX方向(入射するX線に対して垂直方向)に対して連続的に光透過率が変化するフィルタである。
光学フィルタ804は、光透過性のある基板上に連続的に膜厚を変えて金属を積層させたものなどが用いられる。なお、「連続的」との用語は、「段階的(ステップ状)」の概念を含む。
【0036】
このような構成によれば、X線802が基準X線801に対してX方向に移動すると、光検出器805で検出される強度が変化する。
このため、検出強度から被検知物104による基準X線801からの位置変化量dを得ることができる。
同様に遮光体をX線光学素子として用いた場合を図9に示す。
図9は、X線光学素子105と検出手段106をX線の入射方向から見た図である。
まず、X線は遮光体904上に設置されたシンチレータ903によって可視光に変換される。
シンチレータ903は、X線に対して感度であればよく、ヨウ化セシウム(CsI)などが用いられる。
2つの幅を持つ基準X線がシンチレータによって可視光に変換された基準光901、902は、画素905の中央部を通るように入射されている。
そして、光906、907はX線が被検知物104によって屈折し、画素905の中央部からずれた位置のシンチレータ部に入射した可視光に変換された光を示している。
遮光体904によって基準光901、902、光906、907の一部分は遮光されている。
遮光体904の形状から光906、907が基準光901、902の位置である中央部に対してX方向に移動すると光906、907の遮光面積が連続的に変化するため、その強度変化から移動量を得ることができる。
【0037】
減光する方法および遮光する方法を実現するX線光学素子105は、分割素子103によって分割された2つの幅を持つX線に対して、その移動量に対する検出強度変化比は異なる2つの傾きを持つ直線的な変化を示す。
そのため、実施形態1と同様の演算手段107を用いることにより、各X線による強度情報からX線透過率A、位置変化量dを算出し、微分位相を算出する。微分位相をX方向に積分することによって、位相を算出することができる。
この場合、X線光学素子105の隣り合う2つの素子つまり2つの領域におけるX線強度の情報を用いて透過率A、X線位置移動量dを得るため、空間分解能は1/2になる。
【0038】
そこで、空間分解能の低減を改善するために上記測定に加えて被検知物104もしくは分割素子103をX方向に被検知物104の既に測定した位置に対して別の幅のX線を用いて測定できる長さ分移動させ測定することができる。
これにより、空間分解能を落とさずに情報を得ることができる。
このような構成により、検出手段106の1画素内の微小なX線の位置変化を検出できるため、被検知物104と検出手段106の距離を長く取る必要性がなく装置の小型化ができる。そして、被検知物によるX線の透過率像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を分離して得ることができる。
【0039】
なお、被検知物104と検出手段106の距離を長くする構成を選択すれば、より微小な屈折によるX線位置変化を測定することが出来る。
以上の構成によれば、位相変化の検出にX線の屈折効果を利用するため干渉性の高いX線を必ずしも用いる必要がなく、吸収像、X線微分位相像またはX線位相シフト像を得ることができる。
なお、上記ではX線微分位相像またはX線位相シフト像を得ているが、吸収情報から得た透過率像やX線の位置変化量、屈折角を表示手段108に表示してもよい。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例におけるX線装置およびX線測定方法を、図10を用いて説明する。
X線発生手段としてはX線源1001に示すMoターゲットの回転対陰極型のX線発生装置を用いる。
X線源から100cm離れた位置に配置した分割素子1003により空間的に分割される。この分割素子1003としては、厚さ100μmのタングステン(W)にスリット幅50μmと30μmを交互に並べたものを用いた。
スリット周期は100μmである。
なお、W以外にも、Au、Pb、Ta、Ptなどの材料を使用することも可能である。
分割素子1003により分割されたX線を被検知物1004に照射する。被検知物1004を透過したX線はX線光学素子1005に入射する。なお分割素子1003、被検知物1004、X線光学素子1005にはそれぞれステッピングモータによる移動手段1009、1010、1011が設けられている。
X線光学素子1005はNiの三角柱を厚さ1mmのカーボン基板上に並べた構造をもち底辺の長さは150μmで高さは75μmである。
【0041】
X線光学素子1005を透過したX線はX線検出器1006上で200μm周期に投影されるようにX線検出器1006を配置しX線強度を検出する。
その後、分割素子1005を三角柱の周期方向に移動手段1009を用いて100μm動かした後に同様の測定を行う。
X線検出器1006は画素サイズ50μm×50μmのフラットパネル検出器を用い、三角柱の周期方向4画素のX線強度値を足し合わせて1つのX線光学素子に対するX線強度とした。
事前に、被検知物1004のない状態での分割素子1003を一方向に移動させながらX線強度データを取得することにより、分割素子1003によって分割されたそれぞれのX線のX線光学素子に対する位置変化量とX線強度変化率の関係に関するデータを取得した。
これらのデータを関数でフィッティングしたものを、演算手段1007で用いて各X線の被検知物1004でのX線透過率(A)と、位置変化量(d)を算出し、式(3)を用いて屈折角(Δθ)を算出する。
屈折角(Δθ)から式(4)を用いて微分位相を算出し、各X線から求めた微分位相を空間的に積分することによりX線位相シフト像を求める。微分位相の計算において波長はMoの特性X線である0.71Åを用いた。
演算手段1007によって得られたX線透過率像、X線微分位相像、X線位相シフト像は表示手段1008としてのPCモニタに表示される。
【符号の説明】
【0042】
101:X線源
102:単色化手段
103:分割素子
104:被検知物
105:X線光学素子
106:検出手段
107:演算手段
108:表示手段
109:移動手段
110:移動手段
111:移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の被検知物による吸収情報と位相情報を取得するX線装置であって、
X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子と、
前記分割素子により分割され、前記被検知物を透過したX線の位相変化によるX線の位置変化量を、X線の強度変化量に換えて、X線の強度を検出する検出手段と、
前記検出手段から得られたX線の強度から前記被検知物の前記吸収情報であるX線透過率像と、前記位相情報であるX線微分位相像またはX線位相シフト像を演算する演算手段と、を有し、
前記分割素子は、前記X線を分割することにより前記検出手段において2以上の幅を有するX線を照射する構成を備えると共に、
前記演算手段は、前記検出手段におけるX線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づいて演算する構成を備えていることを特徴とするX線装置。
【請求項2】
前記分割素子は、2種類以上のスリット幅を周期的に有するラインアンドスペースのスリットアレイで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のX線装置。
【請求項3】
前記ラインアンドスペースのスリットアレイは、スリット幅の異なる2つのスリットが交互に配列して構成されていることを特徴とする請求項2に記載のX線装置。
【請求項4】
前記分割素子と前記検出手段との間にX線光学素子を有し、
前記X線光学素子は、前記被検知物による位相変化によって生ずる位置変化量を、X線の強度変化量に換える素子で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のX線装置。
【請求項5】
前記X線光学素子を構成する素子が、X線を吸収または透過する複数の部材が前記X線の入射方向に対して垂直方向に複数配列された構成を備え、
前記部材が前記X線の入射方向に対して垂直方向に厚みが変化している三角柱形状に形成され、X線の入射位置によりX線の吸収量または透過量が変化する吸収能勾配を有していることを特徴とする請求項4に記載のX線装置。
【請求項6】
前記X線光学素子を構成する素子が、X線に感度を有する蛍光体が前記X線の入射方向に対して垂直方向に複数配列された構成を備え、
前記蛍光体がX線の入射位置により発光量が変化する発光量勾配を有することを特徴とする請求項4に記載のX線装置。
【請求項7】
前記X線光学素子を構成する素子が、X線の一部分を遮蔽するための遮蔽体が前記X線の入射方向に対して垂直方向に複数配列された構成を備え、
前記遮蔽体はX線の入射位置により遮蔽面積が変化する構造を有することを特徴とする請求項4に記載のX線装置。
【請求項8】
前記X線光学素子を構成する素子が、光学フィルタが前記X線の入射方向に対して垂直方向に複数配列された構成を備え、
前記光学フィルタがX線の入射位置により光透過率が変化する構造を有することを特徴とする請求項4に記載のX線装置。
【請求項9】
X線の被検知物による吸収情報と位相情報を取得するX線測定方法であって、
前記X線を幅の異なる2つ以上のX線に分割する工程と、
前記被検知物による前記分割されたX線の位相変化によるX線の位置変化量を、X線の強度変化量に換えて、X線の強度を検出する工程と、
X線の位置変化量とX線の強度変化量との相関関係が前記2以上の幅を有するX線間で異なることに基づき、前記被検知物のX線透過率およびX線の位置変化量を演算する工程と、
を有することを特徴とするX線測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−37352(P2012−37352A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177062(P2010−177062)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】