説明

XYステージ

【課題】負荷の質量や、負荷とX軸駆動部との距離が変化した場合でも、安定して機械共振および反共振を吸収できるXYステージを実現する。
【解決手段】X軸方向に移動制御される第1部材と、この第1部材上に直交して結合しY軸方向に移動制御されると共に、前記第1部材との結合位置より所定距離を隔てて負荷が搭載された第2部材よりなるXYステージにおいて、
X軸指令値に基づいて前記第1部材を移動制御するX軸制御系と、
Y軸指令値に基づいて前記第2部材を移動制御するY軸制御系と、
前記X軸フィードバック制御系に挿入され、この制御系で発生する機械共振および反共振を吸収するようにパラメータが設定されているフィルタ手段と、
を具備し、
前記フィルタ手段は、前記Y軸制御系における前記負荷の情報を取得し、前記パラメータの設定値を更新する動的パラメータ設定部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はXYステージに関し、詳しくは、X軸方向に移動可能なX軸駆動部を備えた第1部材と、前記X軸駆動部に結合するとともにY軸方向に移動可能なY軸駆動部を備えた第2部材を有し、このY軸駆動部に搭載される負荷をX軸方向およびY軸方向に位置制御するXYステージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、X軸方向に移動可能な移動ステージを備えた台座と、X軸方向に移動可能な移動ステージに結合するとともにY軸方向に移動可能な移動ステージを備えた台座を有する位置決め装置が記載されている。
【0003】
図3は、従来のXYステージの構成を示す平面図である。ステータ(図示せず)が形成された第1部材10がX軸方向に沿って配置されている。このステータ上にX軸方向に位置制御されるX軸駆動部10aが搭載され、このX軸駆動部10aとステータでX軸リニアモータを構成している。
【0004】
X軸駆動部10aには、第1部材10と直交して、ステータ(図示せず)が形成された第2部材20が結合している。このステータ上にY軸方向に位置制御されるY軸駆動部20aが搭載され、このY軸駆動部20aとステータでY軸リニアモータを構成している。第2部材20a上には、位置制御の対象である負荷L(図示せず)が搭載されている。
以下、X軸駆動部10aとこのX軸駆動部10aに連結状態にある部材(第2部材20、Y軸駆動部20a、負荷L)を制御対象と称する。
【0005】
Y軸駆動部20aは、X軸駆動部10aからY軸方向に距離l[m]隔てた位置にある。このように、X軸駆動部10aから距離を隔てて負荷Lが搭載されている場合には、制御対象に機械共振および反共振が発生し、X軸駆動部10aの制御系を発振させてしまうことがある。この影響により、X軸リニアモータの制御性能(安定性、定常性、応答性)が低下することが知られている。
【0006】
さらに、反共振については、ある周波数のゲインを低下させてしまうため、位置制御系はこの周波数で制御することができない。この現象は、バネ・ダンパー系でモデル化することができる。
【0007】
図4は、負荷Lを備える第2部材20が、第1部材10に対して片端固定はりの形態で結合している系をバネ・ダンパー系でモデル化した模式図である。スライダMの位置をxM、負荷Lの位置をxL、スライダMの推力をfM、スライダMの質量をmM、負荷Lの質量をmL、負荷L取り付け部材の粘性係数をd、負荷L取り付け部材の復元係数をkとするとき、スライダ部Mの運動方程式は、(1)式で与えられる。
【0008】

【0009】
負荷Lの運動方程式は、(2)式で与えられる。
【0010】

【0011】
図5は、従来のXYステージの制御系の構成例を示す機能ブロック図である。図5の(A)Y軸制御系、(B)はX軸制御系を示している。図5の(B)において、X軸制御系は、X軸駆動部10aと、X軸用制御器10bと、これらの間に挿入された後述するフィルタ手段10cを備える。X軸用制御器10bは、X軸指令値XsとX軸位置信号Xfの偏差を演算した駆動電流指令をX軸駆動部10aに出力する。
【0012】
図5の(A)において、Y軸制御系は、Y軸駆動部20aと、Y軸用制御器20bとを備える。Y軸用制御器20bは、Y軸指令値YsとY軸位置信号Yfの偏差を演算した駆動電流指令をY軸駆動部20aに出力する。
【0013】
前記(1),(2)式をラプラス変換して得られる、スライダ側および負荷L側の推力−速度の伝達関数に基づき演算されるスライダ側の推力−速度ボード線図は、(3)式で表記される。
【0014】

【0015】
(3)式において、反共振振動数ω1=√(k/mL)、反共振減衰率ζ1=d/2・√(mL/k)、共振周波数ω2=√(k(mM+mL)/(mM・mL))、共振減衰率ζ2=d/2・√((mM+mL)/(mM・mL・k))である。
【0016】
図6は、(3)式で表記される図5の(B)に示すX軸制御系のボード線図である。このボード線図から機械共振点Pと反共振点Qを確認できる。この状態では制御性に問題があり、低い周波数領域にある反共振Qが系の感度を低下させているため制御帯域が上がらない。これは過渡応答性の低下となる。
【0017】
このような問題に対して従来技術では、特許文献2に開示されているような機械共振および反共振をノッチフィルタにより補償する手法や、図5の(B)に示すようにX軸制御系にフィルタ手段10cを挿入することで対応してきた。
【0018】
フィルタ手段10cは、ある一定の条件下において制御対象の機械共振および反共振特性を測定し、測定された機械共振および反共振と反対の特性をもつように設定したフィルタである。このフィルタ手段10cを制御対象の前に挿入することで、制御対象の機械共振および反共振をキャンセルする。
【0019】
(3)式から導かれる、制御対象の機械共振および反共振特性と対称の特性をもつフィルタ手段10cの伝達特性Fuは、(4)式で表記される。
【0020】

【0021】
(4)式において、ω1=const、ζ1=const、ω2=const、ζ2=constである。すなわち、パラメータは固定値に設定されている。
【0022】
図7は、図5の(B)のX軸制御系で示したフィルタ手段10cのボード線図である。図6のX軸制御系のボード線図と比較して、フィルタ手段10cは、制御対象の機械共振・反共振特性と対称の特性を有し、制御系の共振点Pに対称な反共振点P’および制御系の反共振点Qに対称な共振点Q’を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平07−234723号公報
【特許文献2】特開2005−245051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従来構成のXYステージでは、次のような問題がある。
(1)フィルタ手段10cに設定されたパラメータは定数であった。一方、負荷Lの質量が変化した場合や、Y軸駆動部とX軸駆動部との距離(すなわち、負荷LとX軸駆動部との距離)が変化した場合(アームが伸縮した場合等)には、制御対象の機械共振および反共振の周波数が変化する。X軸リニアモータの駆動中にこのような特性変化が起こると、制御対象の特性がフィルタ手段10cに設定されたパラメータから外れてしまい、フィルタ手段10cで補償できなくなってしまう。これにより、フィルタ10cの位相遅れ効果により制御系を不安定にしてしまう。
【0025】
図8は、従来のXYステージのX軸制御系のゲインおよび位相特性図である。図8(A)はフィルタ手段10cによる補償前のX軸制御系のボード線図および位相シフトを示したものである。X軸制御系は、周波数f1で反共振点Q、周波数f2で共振点Pを持つ。
なお、復元係数kが大きくなると反共振点Q、共振点Pは高周波数側にシフトする傾向にある。また、質量mLが小さくなると反共振点Q、共振点Pは高周波数側にシフトする傾向にある。
【0026】
図8(B)はフィルタ手段10cのボード線図を示し、負荷Lの質量やY軸駆動部20aとX軸駆動部10aとの距離の変化により、反共振点Q’の周波数がf1’にシフトし、共振点P’の周波数がf2’にシフトした場合を示している。
【0027】
図8(C)は、このような特性のフィルタ手段10cで補償した場合のX軸のゲインおよび位相特性図である。ゲイン特性において、周波数f1’とf1および周波数f1’とf1に位相ずれに起因する突変が発生し、周波数f1’とf1間で位相が−180°以上シフトする現象が発生し、制御系を不安定にする。
【0028】
本発明は、負荷の質量や、負荷とX軸駆動部との距離が変化した場合でも、安定して機械共振および反共振を吸収できるXYステージを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
このような課題を達成するために、請求項1の発明は、
X軸方向に移動可能なX軸駆動部を備えた第1部材と、前記X軸駆動部に結合するとともにY軸方向に移動可能なY軸駆動部を備えた第2部材を有し、このY軸駆動部に搭載される負荷をX軸方向およびY軸方向に位置制御するXYステージにおいて、
X軸指令値に基づいて前記X軸駆動部を制御するX軸制御系と、
Y軸指令値に基づいて前記Y軸駆動部を制御するY軸制御系と、
前記X軸制御系で発生する機械共振および反共振の周波数成分を吸収するようにパラメータが設定されるとともに、前記負荷の情報に基づいて前記パラメータを更新するフィルタ手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0030】
請求項2の発明は、
請求項1に記載のXYステージにおいて、前記情報は、前記X軸駆動部と前記Y軸駆動部までの距離であることを特徴とする。
【0031】
請求項3の発明は、
請求項1または2に記載のXYステージにおいて、前記情報は、前記負荷の質量であることを特徴とする。
【0032】
請求項4の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載のXYステージにおいて、前記第2部材は、前記第1部材に対して片端固定はりの状態で結合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、X軸制御系で発生する機械共振および反共振の周波数成分を吸収するようにパラメータが設定されるとともに、前記負荷の情報に基づいて前記パラメータを更新するフィルタ手段を備えたことにより、負荷の質量や、負荷とX軸駆動部との距離が変化して機械共振および反共振の周波数が変化しても、フィルタ手段の吸収する周波数成分が自動的に新しい周波数に追従し、安定して機械共振および反共振を吸収できるXYステージを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のXYステージの一実施例における、制御系の機能ブロック図である。
【図2】本発明を適用したXYステージのX軸駆動系のゲインおよび位相特性図である。
【図3】従来のXYステージの構成を示す平面図である。
【図4】負荷Lを備える第2部材20が、第1部材10に対して片端固定はりの形態で結合している系をバネ・ダンパー系でモデル化した模式図である。
【図5】従来のXYステージの制御系の構成例を示す機能ブロック図である。
【図6】図5の(B)に示すX軸制御系のボード線図である。
【図7】図5の(B)のX軸制御系で示したフィルタ手段10cのボード線図である。
【図8】従来のXYステージのX軸制御系のゲインおよび位相特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のXYステージの一実施例における、制御系の機能ブロック図である。図1は、従来例として説明した図5におけるフィルタ手段10cを、フィルタ手段100としたものである。なお、従来例と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
フィルタ手段100は、制御対象の機械共振および反共振をキャンセルする目的で挿入されるフィルタである。
フィルタ手段100は、動的パラメータ設定部100aを備えている。動的パラメータ設定部100aには、初期値として、負荷Lの質量mLの初期値と、負荷Lが搭載されるY軸駆動部20aとX軸駆動部10aとの距離lの初期値が設定される。
フィルタ手段100は、Y軸制御系からY軸駆動部20aのY軸位置が入力される。動的パラメータ設定部100aは、このY軸位置に基づいて距離lの設定値を更新する。なお、動的パラメータ設定部100aは、距離lの更新とともに、距離lの関数である復元係数k(l)の設定値を更新する。
また、フィルタ手段100には、外部から負荷Lの質量mLの変化を示す情報を入力する。動的パラメータ設定部は、入力される質量mLの変化を示す情報に基づいて、負荷Lの質量mLの設定値を更新する。
【0037】
質量mLおよび復元係数k(l)の変動を考慮したX軸制御系のボード線図は、(5)式で表記される。
【0038】

【0039】
(5)式における復元係数k(l)、反共振周波数:ω1(mL,k)、反共振減衰率:ζ1(mL,k)、共振周波数:ω2(mL,k)、共振減衰率:ζ2(mL,k)のそれぞれは、(6)式で表記される。
【0040】

【0041】
(6)式において、Jは片端固定はりの断面二次モーメント、Eはヤング率、miはi次モード(1次:12.360、2次:485.481、3次:3807.016)である。
【0042】
(5)式に基づいて、動的に更新されるフィルタ手段100のボード線図は、(7)式で表記される。
【0043】

【0044】
(4)式に示した従来例におけるフィルタ手段10cと(7)式に示した本発明におけるフィルタ手段100の特性比較で明らかなように、本発明のフィルタ手段100では、復元係数k(l)、反共振周波数:ω1(mL,k)、反共振減衰率:ζ1(mL,k)、共振周波数:ω2(mL,k)、共振減衰率:ζ2(mL,k)は、質量mL,k(l)が更新されることによりそれぞれ変化し、X軸制御系で発生する機械共振および反共振周波数の変動に追従した補償が得られる。
【0045】
図2は、本発明を適用したXYステージのX軸制御系のゲインおよび位相特性図である。図8に示した従来例のボード線図との対比で明らかなように、図2(A)に示したX軸制御系の反共振点Qの周波数f1と、図2(B)に示したフィルタ手段100の共振点Q’の周波数f1は常に一致する。
【0046】
同様に、図2(A)に示したX軸制御系の共振点Pの周波数f2と、図2(B)に示したフィルタ手段100反共振点P’の周波数f2は常に一致する。したがって、図2(C)に示すX軸制御系のゲインおよび位相特性には、図8(c)で示した位相の突変は発生せず、安定なX軸制御系を実現することができる。
【0047】
本発明によれば、上記のようなフィルタ手段100をX軸駆動部10aの前に挿入することで、負荷Lの質量mLや、Y軸駆動部20aとX軸駆動部10aとの距離lが変化して機械共振および反共振の周波数が変化しても、フィルタ手段100の吸収する周波数成分が自動的に新しい周波数に追従し、安定して機械共振および反共振を吸収できるXYステージを実現できる。
【符号の説明】
【0048】
10a X軸駆動部
10b X軸用制御器
20a Y軸駆動部
20b Y軸用制御器
100 フィルタ手段
100a 動的パラメータ設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸方向に移動可能なX軸駆動部を備えた第1部材と、前記X軸駆動部に結合するとともにY軸方向に移動可能なY軸駆動部を備えた第2部材を有し、このY軸駆動部に搭載される負荷をX軸方向およびY軸方向に位置制御するXYステージにおいて、
X軸指令値に基づいて前記X軸駆動部を制御するX軸制御系と、
Y軸指令値に基づいて前記Y軸駆動部を制御するY軸制御系と、
前記X軸制御系で発生する機械共振および反共振の周波数成分を吸収するようにパラメータが設定されるとともに、前記負荷の情報に基づいて前記パラメータを更新するフィルタ手段と、
を備えたことを特徴とするXYステージ。
【請求項2】
前記情報は、前記X軸駆動部と前記Y軸駆動部までの距離であることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項3】
前記情報は、前記負荷の質量であることを特徴とする請求項1または2に記載のXYステージ。
【請求項4】
前記第2部材は、前記第1部材に対して片端固定はりの状態で結合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のXYステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−198315(P2010−198315A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42371(P2009−42371)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】