説明

p−メンタン−3−オールのアルキル化誘導体及びそれらの清涼剤としての使用

本発明は、式A又はBの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体に関し、R2が水素又はメチル基を表す場合、R1は−(CH2)n−OH基(nの値は0、1、2及び3の値であってよい)を表し、あるいはR2がヒドロキシ基を表す場合、R1はメチル基又は−(CH2)n−OH基(nの値は1、2及び3の値であってよい)を表す。また本発明は、その誘導体の調製方法、及びその誘導体を含む香水、化粧品又は食品組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規の結晶化したp−メンタン−3−オールのアルキル化誘導体、及びその応用、特に清涼剤としての応用に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔中又は皮膚上に新鮮な効果をもたらす物質が常に必要とされている。飲料、あめ、チューインガムを含む食品、及び歯科用、身体用又は薬用衛生製品の場合、香り又は風味に関して他のいかなる効果も及ぼさずに、特に冷涼感を生じさせる物質がとりわけ求められている。強い清涼力のある、多数の化学的に構造が明らかな物質が既知である。最もよく知られているのがl(エル)−メントールで、ある種のミント(Mentha spp.)、例えばメンサ・アルベンシス(Mentha Arvensis)の精油の主成分であって、そこから結晶化により非常に高純度の状態で単離できる。それが天然物由来であるか合成物由来であるかに関わらず廉価であるために、メントールは食品及び歯科衛生調合品に数多く使用されている。しかしながら高すぎる揮発性に加えて、l−メントールにはミントをはっきりと思い起こさせる典型的な臭気に加えて苦味を含むいくつかの欠点が他にもあり、そのためこれらの特性が望ましくない配合物においてl−メントールは不適当である。その上高濃度で使用した場合に灼熱感が生じることがあり、芳香混合物の他の成分と相互作用することがしばしばある。
【0003】
このような理由から、苦味と臭気がなく、可能な限り最も強く持続する生理学的な新鮮感を生み出す物質の合成が長きにわたって研究されている。
【0004】
また、そのような物質を結晶化された状態で得ることが望ましいと思われる。
【0005】
第1の解決方法には基本構造を保持しながらメントールの分子量を増大することが含まれる。ヒドロキシ−8−p−メンタン−3−オールのようなヒドロキシル化メントール誘導体が米国特許第5959161号に記載されている。メンチル モノ−スクシネート及び清涼剤としてのその使用は米国特許第5725865号及び第5843466号の特許請求の範囲となっている。同様に、対応するモノグルタレートがWO2003/043431に記載されている。米国特許第3419543号に記載されている、メンチルとグリセロール及びプロピレングリコールのようなポリオールとの混合炭酸エステルもまた良い候補である。l−メンチルラクテートはDE−A−2608226に記載されている。
【0006】
他の解決方法には、メントキシ基を有する誘導体を得るために、アルキル及びヒドロキシル基で置換した基をメントール上にグラフトすることが含まれる。このように、このカテゴリーの数多くの誘導体は前述した要求に対応することが示されている。中でも、Takasago Perfumery Co.の米国特許第4459425号に記載されている(−)−メントキシプロパン−1,2−ジオールを挙げることができる。米国特許第5266592号に記載されているグリセロールアセタールのようなメントンの環状アセタールはこのカテゴリーに関する。
【0007】
p−メンタン−3−イル骨格を有する清涼生成物の他のカテゴリーは、カルボキサミド官能基を環上にグラフトしたものである。Wilkinson Sword Ltd.により合成され、及び様々な特許で特許請求の範囲とされている数多くの誘導体のうち、WS−3として知られるN−エチル−p−メンタン−3−カルボキサミドは今もなお製造され広く使用されている。p−メンタン−3−イル単位は必須ではなく、適切に置換したN−アルキルカルボキサミドが非常に活性でありうることも見出されている。これはWS−23としても知られる2−イソプロピル−N,2,3−トリメチルブチルアミドの場合である。
【0008】
Nestec companyが最近、ある種のピロリジニルフラノン誘導体、詳しくは非常に強い清涼効果を持つ4−メチル−3−(1−ピロリジニル)−2[5H]フラノンを色麦芽中に発見した。これら物質の清涼剤としての使用は米国特許第6592884号で特許請求の範囲とされている。しかしながら清涼効果を有する生成物を使用する通常の条件下では、これらエナミンの使用はそれらが比較的安定性に乏しいために妨げられ、ピロリジンの不快な臭気の生成と顕著な褐色化を伴う。
【0009】
フランス特許出願第2359604号には、新規清涼物質としての、p−メンタニル単位の3位の炭素上に2−ヒドロキシエチル基を有するメントール誘導体の使用が記載されている。実際にこの文献に記載されている方法で得られる3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノールはシロップ状液体の外観を有し、少なくとも2組の立体異性体から構成され、それぞれがおよそ85:15の比率である。この混合物を得る方法は、主に知覚可能なメントール臭及び苦味の存在によって期待していた性能を悪い方に変える、いくつかの他の副成分が存在する原因でもあることがその後に観察された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに出願人は新規の結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体が、苦味及び臭気を伴わず、強くて持続する生理学的な新鮮感を生み出すことを発見した。
【0011】
このことが本出願の対象を、式A又はBの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体とする理由である。
【化1】

(上式において、R2が水素又はメチル基を表す場合、R1は−(CH2)n−OH基(nの値は0、1、2及び3であってよい)を表し、あるいはR2がヒドロキシ基を表す場合、R1はメチル基又は−(CH2)n−OH基(nの値は1、2及び3であってよい)を表す。)
【0012】
本発明を実施するのに好ましい条件では、R2は水素又はメチル基である。本発明を実施するのに好ましい他の条件では、R2はヒドロキシ基である。本発明を実施するのに好ましいさらに別の条件では、nの値は0、1又は2、特に0又は1である。
【0013】
本発明の化合物の中で、より特別に言及されうるものは以下である。
(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール 「1a」
(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール 「1b」
(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール 「2a」
(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール 「2b」
【0014】
同定した化合物の化学式は明細書の最後に含まれている。
【0015】
また本出願の対象は、R2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=1)を表す、上式A又はBの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、企図する3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール異性体を得るために、アルキルα−ハロゲノアセテートと純度95%超の(−)−メントンとの間でReformatzky反応を行い、次にそうして得られたβ−ヒドロキシエステルをLiAlH4のような水素化物を用いて1,3−ジオールへと還元することを特徴とする。
【0016】
また本出願の対象は、R2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、上式Aの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて例えば結晶化により精製される、企図する1,2−ジオールを得るために、臭化ビニルマグネシウムのようなハロゲン化ビニルマグネシウムを(−)−メントンと縮合し、次に得られた3級ビニルカルビノールをアセチル化し、オゾニドを得るためにオゾン分解処理をし、そのオゾニドを特に水素化ホウ素ナトリウムを用いて好ましくはその場(in-situ)で還元し、そうして生成したアセテートを加水分解することを特徴とする。
【0017】
また本出願の対象は、R2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、上式Bの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて例えば結晶化により精製される、企図する1,2−ジオールを得るために、(−)−メントンのシアンヒドリンを選択的に調製し、次に水素化物を用いて還元することを特徴とする。
【0018】
また本出願の対象は、R2がヒドロキシ基を表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、上式Aの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて例えば結晶化により精製される、企図するトリオールを得るために、臭化ビニルマグネシウムのようなハロゲン化ビニルマグネシウムを(−)−メントンと縮合し、次に得られた3級ビニルカルビノールをエポキシ化し、その後アルカリ加水分解を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の対象であるp−メンタン−3−オール誘導体は非常に有用な特性及び品質を有している。特にそれらはメントールの特徴的な臭気を生じずかつ苦味を伴わずに新鮮感を生み出す。
【0020】
これらの特性は、香水及び化粧品に上述のp−メンタン−3−オール誘導体を使用する理由付けとなる。
【0021】
またこのことが本出願の対象を、特に清涼剤として又はそのメントール臭のために、上述のp−メンタン−3−オール誘導体を含むことを特徴とする香水もしくは化粧品組成物、又は食品組成物とする理由である。
【0022】
これらの組成物は例えば固体又は液体であってよく、一般に使用される形態、例えば以下に限定されないが、ローション、アフターシェーブローション、化粧水、デオドラント、シャンプー、シェービングクリーム、歯磨き粉及び他の歯科衛生製品、軟膏、エアロゾル、食用品の香料(あめ、チューインガム、アイスクリーム、飲料、これらに限定されないものを含む)、並びにたばこであってよい。これらは通常の方法により調製される。
【0023】
p−メンタン−3−オール誘導体は、アラビアゴム、ラクトース、スターチ、水系又は非水系ビヒクル、及び保存剤のような、これら組成物に一般に使用される賦形剤に組み入れることができる。
【0024】
また本発明の対象は上述の組成物の調製方法であって、それ自体は既知である方法により、p−メンタン−3−オール誘導体を許容可能な成分と混合することを特徴とする。
【0025】
上述のp−メンタン−3−オール誘導体を使用するための好ましい条件は、上述した本発明の他の対象物、特に香水又は化粧品組成物にも適用される。
【0026】
以下の例は本出願を説明するものである。
【実施例】
【0027】
例1及び2:(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール「1a」及び(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール「1b」:純度85%の(−)−メントン0.1モル及びエチルブロモアセテート0.16モルをテトラヒドロフラン(THF)100mLに溶解した溶液を、事前に少量のヨウ素で活性化した粉末亜鉛0.3モルの沸騰し撹拌されている懸濁物にゆっくりと添加する。反応が開始したらすぐに加熱を中断し、発熱反応が溶媒の還流を維持するように添加を行う。添加が完了したら再度1時間加熱する。冷却した反応混合物をセライト上で濾過し、次いでセライトをTHF250mL、次に酢酸エチル250mLで洗浄する。
【0028】
合わせた有機相を続いて希塩酸溶液及び塩水を用いて洗浄する。有機相を乾燥し、溶媒を留去する。その比率が増加していく酢酸エチルを含むヘキサンを溶出溶媒として用い、残渣をシリカゲルのクロマトグラフにかける。このようにして2種類のReformatzkyジアステレオ異性体の付加物が4:1の比率で単離される(収率70〜75%)。
【0029】
それぞれ分離されたヒドロキシエステルの20%乾燥THF溶液を、沸騰している水素化アルミニウムリチウム1.5モル当量のTHF懸濁液に添加する。
【0030】
3時間還流した後、反応媒体を冷却し、酢酸エチル及び希塩酸を続いて添加する。有機相を分離し、水相をエチルエーテルで抽出する。合わせた有機相を乾燥し溶媒を除去する。
【0031】
ヘキサン−酢酸エチル95:5混合物を溶出溶媒として用い、残渣を小さいシリカゲルカラムのクロマトグラフにかける。固化するオイルが得られる。その後、2種類のジアステレオ異性体のジオールのそれぞれを得るために、1.5〜2体積のヘキサンから粗固体を結晶化し、収率は70〜80%である。
【0032】
分析:(−)−(1R、3R、4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール 「1a」 融点80〜82℃;[α]D −16°;NMR 1H δ0.77〜0.98(2H、m)、0.90(3H、d、J=6.5Hz)、0.91(6H、d、J=6.7Hz)、1.03(1H、ddd、J=12.9、3.5、2.0Hz)、1.27〜1.59(3H、m)、1.60〜1.93(3H、m)、2.12〜2.36(2H、m)、2.23(2H)、3.70〜3.83(1H、m)、3.99(1H、ddd、J=14.5、10.3、4.1Hz);NMR 13C δ17.6、20.0、22.1、23.3、25.2、27.5、34.6、40.5、45.9、49.7、58.6、75.0;マススペクトル m/z 200(M+)、185、155、137、115(100%)、97、81、69、55;IRスペクトル(ヌジョール) v(cm-1) 856、1072、3299、3378。
【0033】
(−)−(1R、3S、4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール 「1b」 融点84〜86℃;[α]D −33.4°;NMR 1H δ0.80〜1.02(1H、m)、0.85(3H、d、J=6.7Hz)、0.90(3H、d、J=6.2Hz)、0.98(3H、d、J=6.7Hz)、1.1(2H、m)、1.26〜1.50(1H、m)、1.57〜1.80(3H、m)、1.83〜2.00(1H、m)、2.04〜2.26(2H、m)、2.30(2H、s)、3.72〜3.85(1H、m)、3.93(1H、ddd、J=13.9、10.8、3.1Hz);NMR 13C δ19.6、22.4、24.1、24.8、24.9、30.3、32.6、35.1、47.1、54.1、59.2、77.1;マススペクトル m/z 200(M+)、185、155、149、143、137、129、121、115(100%)、97、88、81、69、55;IRスペクトル(ヌジョール) v(cm-1) 866、871、1157、3308。
【0034】
これら2種類のジオールは、とりわけ感知される苦味又はメントール臭がなく、強い清涼効果を有している。
【0035】
例3:(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール「2a」:最初に臭化ビニルマグネシウム溶液を、削ったマグネシウム0.15モルと15%臭化ビニルTHF溶液0.13モルとを用いて調製する。−20〜−30℃の温度でこの溶液を窒素下で(−)−メントン0.1モルのTHF溶液80mLに添加する。2時間撹拌した後に反応混合物を周囲温度にし、続いて0℃へ冷却して塩化アンモニウム溶液を添加する。水相を静かに移し、酢酸エチル100mLで2回抽出する。続いて合わせた有機相を氷で冷やした0.1N塩酸溶液、飽和させた重炭酸ナトリウム、その後塩水にに添加する。硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を除去して得られた油状の残渣(16.3g)を、酢酸ナトリウム2.5g(0.03モル)が添加された無水酢酸100mLに溶解する。この混合物を撹拌しながら5時間沸騰させる。冷却後反応混合物を砕いた氷に注ぐ。周囲温度で2時間放置した後、混合物をヘキサン:酢酸エチル=1:1混合物250mLで2回抽出する。その後有機相を水で数回、次に重炭酸ナトリウム飽和溶液、最後に塩水で洗浄する。乾燥し溶媒を留去して得られた油状の残渣をシリカゲル(MN Kieselgel 60−Macherey & Nagel)200gのクロマトグラフにかけ、ヘキサン:酢酸エチル=4:1混合物で溶出する。こうしてアセチル化ビニルカルビノール11.2g(収率50%)及び変化していないビニルカルビノール20%を収集する。アセチル化誘導体をメタノールとジクロロメタンの混合物80mLに溶解し、次いで−70℃でオゾン分解を行う。反応混合物を通して窒素をバブリングすることにより過剰のオゾンを除去し、次いで反応混合物を水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液(1モル当量)で処理する。温度を20〜25℃に上げ、2時間後に反応混合物を氷水中で希釈し、次いでジクロロメタン150mLで2回抽出する。溶媒留去後、残渣をメタノール100mLに溶解し、40%カリ水溶液10mLを加えて水浴中で2時間加熱する。減圧下低温でメタノールを留去し、次いで氷水中で希釈し、酢酸を用いてpHを5に調節する。反応混合物をジクロロメタン100mLで2回抽出する。溶媒除去後、残った粗生成物を−20℃に一晩冷却して2容積のヘキサンから結晶化させる。所望の生成物「2a」6.3g(収率73%)を得る。
【0036】
分析:融点80〜82℃;[α]D −6.7°;NMR 1H δ0.77〜1.05(2H、m)、0.90(3H、d、J=6.2Hz)、0.91(6H、d、J=7.0Hz)、0.18(1H、ddd、J=6.6、4.3、2.3Hz)、1.35〜1.60(2H、m)、1.61〜1.84(3H、m)、1.66(2H、s)、2.08(1H、dh、J=2.3、7.0Hz)、3.43(1H、d、J=10.8Hz)、3.73(1H、d、J=10.8Hz);NMR 13C δ18.2、20.5、22.4、23.6、26.1、27.8、35.1、44.9、47.4、63.4、75.0;マススペクトル m/z 186(M+)、155(100%)、137、125、111、101、95、81、74、69、55、43;IRスペクトル(ヌジョール) v(cm-1) 819、906、1042、1165、1265、3219、3526。
【0037】
例4:(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール「2b」:三フッ化ホウ素エーテル(7.8mL、58mmol)及びシアン化トリメチルシリル(7.2mL、58mmol)を(−)−メントン10g(13mL、64mmol)に添加する。混合物を周囲温度で1時間撹拌し、次いで60℃で30分撹拌する。冷却した2N塩酸水溶液100mLを添加して反応を中断する。混合物をエーテルで抽出し(3回、100mL)、合わせた有機抽出物を5%重炭酸ナトリウム溶液で洗浄し、次に塩水で洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥し溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムのクロマトグラフにかけ、ヘキサン:エーテル=9:1の混合物を用いて溶出する。こうして所望の(アキシアル位にシアノ基を有する)シアンヒドリン4gを単離し、収率は38%である。
【0038】
このシアンヒドリン(3g、17mmol)を窒素下で無水トルエン75mLに溶解する。−40℃に冷却しながら、水素化ジイソブチルアルミニウム(1.2Mトルエン溶液30mL)を1時間かけて添加する。添加が完了したらこの温度に保持したまま1時間撹拌する。次に反応混合物を40mLの氷冷した塩化アンモニウム飽和溶液(40mL)及びエーテル(40mL)の撹拌した混合物に注ぐ。その後5%硫酸水溶液60mLを添加し、混合物を周囲温度で2時間激しく撹拌する。反応混合物をエーテルで抽出し(2回、100mL)、合わせた有機相を減圧下で濃縮する。残渣をメタノール50mLに溶解し、周囲温度にて水素化ホウ素ナトリウム(20mmol、0.76g)で処理する。常法により粗生成物2.1gが得られ、次いでシリカゲルカラムのクロマトグラフによりヘキサン:酢酸エチル=4:1混合物、次に1:1混合物で溶出して精製する。こうして純粋なジオール「2b」1.9gが得られる。
【0039】
分析:融点48〜50℃;[α]D −19.6°;NMR 1H δ0.73〜1.02(2H、m)、0.79(3H、d、J=7.0Hz)、0.91(3H、d、J=7.0Hz)、0.97(3H、d、J=7.0Hz)、1.1(1H、dq、J=13.1、3.1Hz)、1.23〜1.36(1H、m)、1.38〜1.58(1H、m)、1.64(1H、ddd、J=10.1、6.6、3.1Hz)、1.70〜1.81(1H、m)、2.04〜2.24(2H、m)、3.15(2H、bs)、3.63(1H、d、J=11.2Hz)、3.69(1H、d、J=11.2Hz);NMR 13C δ19.5、22.4、23.6、24.7、30.1、35.0、44.9、52.0、62.9、76.4;EI−MS m/z 186(M+)、169、155、137、111、101、95、83、81、69、59、55、43、41。
【0040】
例5:(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−(エタン−1,2−ジオール)「3」:3−クロロ過安息香酸(70%水中懸濁物、1.1モル当量)を、0℃で撹拌しながら少しずつ先のビニルカルビノール(0.1モル)のジクロロメタン溶液100mLに添加する。10時間後、3−クロロ安息香酸の析出物をブフナーで濾過する。濾液を重炭酸ナトリウム飽和溶液で洗浄する。シリカゲルカラムのクロマトグラフにより精製した後に、油状のエポキシカルビノールが収率80%で得られ、次いでTHF70mLに溶解し、その後最少量の水に溶解した水酸化リチウム0.5モル当量を添加し、混合物を50℃で2時間撹拌する。反応混合物の体積を減圧下で溶媒を蒸発させて減少させ、水及びエーテルの混合物中で分離する。有機相を希塩酸溶液で洗浄し、次いで塩水で洗浄する。溶媒除去後、シリカゲルカラムのクロマトグラフにより、ヘキサン:酢酸エチル=1:1混合物で溶出することで精製して、期待したトリオール「3」が収率60%で単離される。
【0041】
分析:融点34〜36℃;[α]D −14.6°;NMR 1H δ0.70〜1.10(4H、m)、0.80(3H、d、J=6.6Hz)、0.91(3H、d、J=6.6Hz)、0.92(3H、d、J=6.6Hz)、1.2〜1.9(8H、m)、3.29(1H、dd、J=6.6、4.25Hz)、3.71(1H、dd、J=12.0、7.0Hz)、3.88(1H、m);NMR 13C δ18.4、21.9、23.1、23.9、25.7、30.5、33.6、38.3、45.9、61.0、61.2、65.7;マススペクトル m/z 198、183(100%)、167、155、149、139、125、119、111、105、95、81、67、55;IRスペクトル(ヌジョール) v(cm-1) 896、984、1032、1065、3382。
【0042】
2種類の異性体「3a」及び「3b」の形態で存在しうるこの化合物の清涼効果は強く、その苦味は実質的に知覚できない状態である。この化合物の親水性的な性質により、この特性が必要とされる用途にこの化合物を使用することができる。
【0043】
比旋光度はクロロホルム中、1%(質量/体積)の濃度で測定し、NMRスペクトルは他に指摘のない限りクロロホルムを溶媒として用い250MHzで動作する分光計で記録した。
【0044】
比較例:本発明に類似の化合物も調製した。
【0045】
例1の合成法をl−イソメントン、d−メントン又はd−イソメントンに適用した場合、3組のジオールが(1S,3R,4S)及び(1S,3S,4S)、(1S,3R,4R)及び(1S,3S,4R)、(1R,3R,4R)及び(1R,3S,4R)の配置でそれぞれ得られる。これら全てのジオールは清涼効果を有するが、l−メントンから調製したものとは比較できない程度である。
【0046】
後に示すジオール「4」、「5」及び「6」の清涼効果の強さは減少しており、知覚できる苦味があって、化合物「4」の場合はさらにひどい。後に示す1,4−ジオール「7」及び1,5−ジオール「8」の場合も同じ欠点が見られる。後に示す異性体ジオール「9a」及び「9b」の場合のように、メトキシメチル基を(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール構造に導入することは、(これらのうち特に一方で)清涼感と苦味の両方が増大する効果がある。
【0047】
トリオール「10」の2種類の異性体のいずれも、ジオール「1」、「2」又は「3」と比較できる強度の清涼感を生み出さない。
【0048】
ジオール「11」の場合のような、(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール及び(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノールのO−アルキル化誘導体は特に強い清涼効果を有さないが、それらの苦味は非常に顕著である。
【0049】
アセテート「12」及びモノ−スクシネート「13」のように、(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール又は(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノールのただ1つの1級アルコール官能基をエステル化すると期待外れの品質を有する化合物となる。l−メントールと(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノールとの混合炭酸エステル「14」、又は(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノールとの混合炭酸エステル「15」についても同様である。
【0050】
組成物例
例1:(1)アフターシェーブローション向けの香料組成物:
【0051】
【表1】

【0052】
(2)アフターシェーブローションの調製におけるこの組成物の使用:以下の組成のローションにおいてこの組成物がおよそ0.5〜1%使用されている。
【0053】
【表2】

【0054】
例2:(1)シェービングクリーム向けの香料組成物:
【0055】
【表3】

【0056】
(2)シェービングクリームの調製におけるこの香料組成物の使用:以下の組成のシェービングクリームにおいて香料組成物がおよそ0.5〜1%使用されている。
【0057】
【表4】

【0058】
例3:エアロゾル身体用デオドラント向けの香料:
【0059】
【表5】

【0060】
この香料組成物は以下のようなエアロゾル組成物中で使用された。
【0061】
【表6】

【0062】
容器は、70%が先の混合物、及び30%が2.5barのエアロゾル噴射剤(プロパン/ブタン混合物)で満たされる。
【0063】
例4:口腔洗浄剤向けの香料組成物:調製した口腔洗浄剤1Lあたり、(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノールをおよそ0.2g用いる。清涼効果が得られる。
【0064】
例5:歯磨き粉向けの香料組成物:(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノールを最終製品のおよそ0.05〜2質量%用いる。好ましい実施態様では、この組成物が有するであろう若干の苦味をなくすために、甘味料としてサッカリン酸ナトリウムをおよそ0.1〜0.15質量%添加することが想定される。
【0065】
例6:たばこ向け香料組成物:たばこ1kgあたり、(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノールをおよそ0.05g用いる。清涼効果が得られる。
【0066】
例7:ボイルドスイート(あめ)向けの香料組成物:107℃にボイルしたサッカロース(350g)の水溶液(水110g)を調製する。グルコースシロップ150gを添加し、148℃でボイルする。香料、クエン酸及び着色剤をおよそ120℃で添加し、(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノールを最終製品1kgあたり0.2g添加する。非常にはっきりした清涼効果が得られる。
【0067】
例8:チューインガムの香料組成物:常法に従い調製したチューインガムペーストに、(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノールを最終製品1kgあたり0.2〜0.8g添加する。
【0068】
【化2】

【0069】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A又はBの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体。
【化1】

(上式において、R2が水素又はメチル基を表す場合、R1は−(CH2)n−OH基(nの値は0、1、2及び3であってよい)を表し、あるいはR2がヒドロキシ基を表す場合、R1はメチル基又は−(CH2)n−OH基(nの値は1、2及び3であってよい)を表す。)
【請求項2】
2が水素又はメチル基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】
2がヒドロキシ基を表すことを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の誘導体。
【請求項4】
nの値が0又は1であることを特徴とする、請求項1に記載の誘導体。
【請求項5】
(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール、
(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール、
(−)−(1R,3R,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール、
(−)−(1R,3S,4S)−3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−メタノール
から選択される、請求項1に記載の誘導体。
【請求項6】
2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=1)を表す、請求項1に記載する式A又はBの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、必要に応じて単離される、企図する3−ヒドロキシ−p−メンタン−3−エタノール異性体を得るために、アルキルα−ハロゲノアセテートと純度95%超の(−)−メントンとの間でReformatzky反応を行い、次にそうして得られたβ−ヒドロキシエステルを水素化物を用いて1,3−ジオールへと還元することを特徴とする方法。
【請求項7】
2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、請求項1に記載する式Aの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて精製される、企図する1,2−ジオールを得るために、ハロゲン化ビニルマグネシウムを(−)−メントンと縮合し、次に得られた3級ビニルカルビノールをアセチル化し、オゾニドを得るためにオゾン分解処理をし、そのオゾニドを還元し、そうして生成したアセテートを加水分解することを特徴とする方法。
【請求項8】
2がHを表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、請求項1に記載する式Bの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて精製される、企図する誘導体を得るために、(−)−メントンのシアンヒドリンを選択的に調製し、次に水素化物を用いて還元することを特徴とする方法。
【請求項9】
2がヒドロキシ基を表し、かつR1が−(CH2)n−OH基(n=0)を表す、請求項1に記載する式Aの結晶化した3−アルキル化(1R,4S)−p−メンタン−3−オール誘導体の調製方法であって、単離されかつ必要に応じて精製される、企図する誘導体を得るために、ハロゲン化ビニルマグネシウムを(−)−メントンと縮合し、次に得られた3級ビニルカルビノールをエポキシ化し、その後アルカリ加水分解を行うことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のp−メンタン−3−オール誘導体を含むことを特徴とする、香水又は化粧品組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のp−メンタン−3−オール誘導体を含むことを特徴とする、食品組成物。

【公表番号】特表2007−537211(P2007−537211A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512252(P2007−512252)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001058
【国際公開番号】WO2005/121058
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506377259)ロベルテ ソシエテ アノニム (1)
【Fターム(参考)】