説明

導電性薄膜の形成方法

【課題】 簡単かつ短時間に基材面に金属ナノ粒子からなる安定した導電性薄膜を形成できる導電性薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 金属ナノ粒子含有インクを基板上に塗布して薄膜を形成する工程と、当該薄膜に還元剤を作用させて還元処理を施す工程とを含むことを特徴とする導電性薄膜の形成方法。前記金属ナノ粒子含有インクは、炭素数10〜20の直鎖または分岐したアルキル基を有する保護剤で被覆された金属ナノ粒子を非水分散媒中に分散させたものを含有するのが好ましい。また、前記還元剤は、濃度0.005〜0.5mol/lの水溶液の状態で用い、還元処理は40〜70℃の温度条件下に行なうのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子含有インクを用い、短時間で基材面に導電性薄膜を形成する導電性薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、回路基板、半導体素子、液晶ディスプレイ用カラーフィルター、配向膜といった電子デバイスの配線パターンを作成するプロセスでは、フォトリソグラフィー技術が主に用いられている。このフォトリソグラフィー技術は、基材面に塗布した感光性物質からなる塗膜に紫外線を照射して感光させて必要な配線パターンを作製するパターニング技術である。
【0003】
これに対して、近年、エレクトロニクスの分野では導電性インクを用いた印刷プロセスによって電子デバイスの配線パターンを形成するプリンテッド・エレクトロニクスが注目され、盛んに研究開発が進められている。この印刷プロセスでは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの活用が進められ、一部商品化されている。このような印刷プロセスを用いることで、従来のフォトリソグラフィー技術において使用されていた感光剤やエッチング液といった化学物質の使用量を大幅に削減できるとともに、少量多品種に対応でき、配線パターン作製設備が小型化し経済性が向上するといったメリットがある。
【0004】
しかし、この印刷プロセスの場合、導電性を発現させるためにインク中に含まれる導電性フィラー同士を融着させるため、導電性インクを用いて形成された配線パターンを高温で焼成する必要がある。しかし、このような高温焼成はエネルギー消費量が大きいことから、環境負荷低減やコストダウンが要請されてきているところであり、また従来の高温焼成を必要とする導電性インクでは不可能であったPETやPPなどの耐熱性のないフレキシブルな高分子基材やTFTを搭載したガラス基板への配線パターン形成について強く要望されていることから、焼成温度の低温化が必至となっている。
【0005】
さらに最近では、ナノサイズの金属微粒子を保護剤(保護コロイド)で被覆して分散安定性を高めた金属ナノ粒子を分散媒中に分散させた導電性インク(以下では、この導電性インクを「金属ナノ粒子含有インク」という。)のプリンテッド・エレクトロニクス分野への応用について研究開発が進められている。導電性インクに金属ナノ粒子が用いられるのは、主にインク中での分散安定性を得るのに有利であること、および金属粒子を微粒にしていくことで融点が低下し焼結温度の低温化が図れることにある。但し、この金属ナノ粒子含有インクを基材面に塗布して形成される薄膜からは短時間のうちに分散媒は揮発していくが、そのままでは当該薄膜は導電性を発現しない。これは、金属ナノ粒子を被覆する保護剤が残存し、金属ナノ粒子同士が接触しないため、また金属ナノ粒子表面に酸化皮膜が形成されるためである。
【0006】
そのため、これまで、金属ナノ粒子含有インクを基材面に塗布した塗膜に導電性を付与するための処理方法として幾つか提案されている。例えば、特許文献1〜3は、概して酸化性雰囲気下または還元性雰囲気下にて500℃未満(実質的には150℃程度)の焼成温度で塗膜を処理するものである。しかし、これらの提案では、大型の処理装置を用いることから、結果としてさらなる低温化が必要であった。
【0007】
また、特許文献4に記載の提案は、水および/または有機酸を含むガス雰囲気中で80〜130℃の温度条件にて焼成することで導電性薄膜を形成するものである。この提案では、特許文献1〜3の提案に比べて焼成温度の低温化は僅かに達成されているが、処理装置が大型であることに変わりはなく、また基材に耐酸性が必要とされるため、基材選択の幅が狭くなるといった問題があった。
【0008】
また、特許文献5記載の提案は、実質金属塩である金属源と酸化防止剤と還元剤とを含有する導電性インクで配線を印刷形成する方法に関するものであるが、150℃での焼成処理が必要であり、さらなる低温化が望まれるとともに、導電性インク中に金属塩と還元剤とが混在することで、導電性インクの貯蔵安定性に難があるという問題がある。
【0009】
また、特許文献6記載は、金属ナノ粒子ペーストに極性溶剤または溶解補助剤を含む極性溶剤溶液を作用させ、乾燥する工程からなる焼結方法を開示するが、塗膜への溶剤を作用させるのに2時間程度と長時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−294018号公報
【特許文献2】特開平10−308119号公報
【特許文献3】特開平10−308120号公報
【特許文献4】特開2006−169613号公報
【特許文献5】特開2008−166590号公報
【特許文献6】特開2008−72052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記課題を解決すべくなされたものであり、簡単かつ安価に基材面に金属ナノ粒子からなる安定した導電性薄膜を短時間にて形成できる導電性薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的は、本発明によれば、金属ナノ粒子含有インクを基板上に塗布して薄膜を形成する工程と、当該薄膜に還元剤を作用させて還元処理を施す工程とを含むことを特徴とする導電性薄膜の形成方法によって達成される。
【0013】
前記金属ナノ粒子含有インクとしては、分散媒中に少なくとも金属ナノ粒子を分散させたものを使用できるが、好ましくは、非水系分散媒中に、炭素数10〜20の直鎖または分岐したアルキル基を有する保護剤にて被覆された金属ナノ粒子を分散させたものを使用するのがよい。
【0014】
金属ナノ粒子含有インクを塗布して得られる薄膜に還元剤を作用させることで導電性が発現するメカニズムについては現在のところ十分に解明できていないが、還元剤を作用させることで、金属ナノ粒子からこれを被覆する保護剤が除去されるとともに、金属ナノ粒子表面に生じている酸化皮膜を還元除去できるためと推測される。前記還元剤は、濃度範囲が0.005〜0.5mol/lの水溶液の状態で使用するのが好ましい。また、前記還元処理は40〜70℃の温度条件下にて行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、金属ナノ粒子含有インクの塗膜に還元剤を作用させて還元処理を施すこととしたので、簡単かつ安価に基材面に安定した導電性薄膜を短時間にて形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を挙げて本発明の導電性薄膜の形成方法について詳細に説明する。本発明における金属ナノ粒子含有インクは、前記の通り、分散媒中に少なくとも金属ナノ粒子を分散させて調製することができる。分散媒としては、水、アルコール系、エーテル系、多価アルコール系などの水溶性有機溶剤の他、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、鉱物油などの非水溶性溶剤といった一般的にインクなどに使用される溶剤を使用することができる。本発明においては、後述する還元処理において薄膜に還元剤水溶液を作用させる場合、金属ナノ粒子が還元剤水溶液に再溶解しないように、非水系分散媒を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明における金属ナノ粒子は、前記のとおりナノサイズの金属微粒子の表面を保護剤で被覆し、安定して独立分散させたものである。金属ナノ粒子に使用される金属としては、銀、銅、金、パラジウム、ニッケル、ロジウムなど公知のものが挙げられる。また、これらの少なくとも2種からなる合金やこれらの少なくとも1種と鉄との合金なども使用できる。前者の合金としては、例えば白金−金合金、白金−パラジウム合金、金−銀合金、銀−パラジウム合金、パラジウム−金合金、白金−金合金、ロジウム−パラジウム合金、銀−ロジウム合金、銅−パラジウム合金、ニッケル−パラジウム合金などが挙げられる。また、後者の鉄との合金としては、例えば鉄−白金合金、鉄−白金−銅合金、鉄−白金−スズ合金、鉄−白金−ビスマス合金および鉄−白金−鉛合金などが挙げられる。これらの金属または合金は、いずれか1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
金属ナノ粒子の平均粒径は1〜10nmの範囲とするのが好ましい。この範囲を超えると、融点降下による粒子間の融着が生じにくくなり、結果として得られる薄膜の導電性も低下することになる。
【0019】
非水系分散媒を用いる場合、金属ナノ粒子の保護剤としては、複素環およびアルキル置換された複素環ならびに、−COOH、−SH、−SOH、−SOH、−SOH、−NH、−NOH、−NOH、−OH、−SiOH、−Si(OH)、−Si(OH)、−PO、−PO、−POH、−COO−、−CON−、−CONH−、−CONH、−S−、−SO−、−SO−、−NH−、−NO−、−O−、−SiO−、−PH−、−PH−、−PO−、−POH−、−POH−、−PO−、−POH−、−PO−、−POH−、−PO−、−N(−)−、−Si(O−)および−Si(O−)からなる群から選択される1以上を含むアルカン、アルケン、アルキン、芳香族炭化水素、アルキル置換された芳香族炭化水素、複素環およびアルキル置換された複素環からなる群から選択される1以上から形成されるものが挙げられる。
【0020】
これらの保護剤のうちでは、炭素数10〜20の直鎖状または分枝状のアルキル鎖を有する脂肪酸類や脂肪族のアミン類、チオール類、アルコール類などを用いることが好ましい。このように炭素数を限定したのは、炭素数10未満では、金属ナノ粒子の保存安定性が保てず、炭素数が20より大きいと、良好な導電性を得るのが困難になるためである。
【0021】
前記脂肪酸類は、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、例えばデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、エライジン酸などが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
また、前記脂肪族アミン類としては、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、デセニルアミン、ウンデセニルアミン、ドデセニルアミン、トリデセニルアミン、テトラデセニルアミン、ペンタデセニルアミン、ヘキサデセニルアミン、ヘプタデセニルアミン、オクタデセニルアミン、ノナデセニルアミン、オレイルアミン、イコセニルアミン、ノナコセニルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミンドデシルジメチルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、ナフタレンジアミン、オクタメチレンジアミン、及びノナンジアミンなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
また、前記脂肪族チオール類としては、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘプタデカンチオール、オクタデカンチオール、ノナデカンチオール、イコサンチオール、デセンチオール、ウンデセンチオール、ドデセンチオール、トリデセンチオール、テトラデセンチオール、ペンタデセンチオール、ヘキサデセンチオール、ヘプタデセンチオール、オクタデセンチオール、ノナデセンチオール、イコセンチオール、ノナコセンチオールなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、前記脂肪族アルコール類としては、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノールなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
金属ナノ粒子の作製方法としては、ガス中蒸着法、スパッタリング法、金属蒸気合成法、コロイド法、アルコキシド法、共沈法、均一沈殿法、熱分解法、化学還元法、アミン還元法、溶媒蒸発法などの従来公知の手法を用いることができる。これらはそれぞれ特有の特徴を備えるが、特に大量生産を目的とする場合には化学還元法、アミン還元法を用いるのが好ましい。これらの作製方法を実施するに当たっては、必要に応じて前記の保護剤を選択して使用するほか、公知の還元剤などを適宜用いることができる。
【0026】
本発明の金属ナノ粒子含有インクには、前記した金属ナノ粒子および分散媒以外にも、本発明の効果に支障が出ない範囲で、基材とナノ粒子との密着性を向上させるためのバインダー成分のほか、例えば酸化防止剤、粘度調整剤、防錆剤などの公知の他の成分を含有させることができる。前記バインダー成分としては、用いる基材(後述)によってその種類が異なるので一概に言えないが、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂などの公知の樹脂などを使用できる。
【0027】
前記分散媒中に前記金属ナノ粒子を分散させ、またそれとともに必要に応じて前記他の成分を分散または溶解させて金属ナノ粒子含有インクを調製するのに、公知の超音波分散機、混練機、捏和機などを用いることができる。この超音波分散機は、他の混練機などとの併用も可能である。
【0028】
本発明の金属ナノ粒子含有インクを適用可能な基材としては、従来公知の配線パターン形成に用いる絶縁性基板などが挙げられる。この絶縁性基板の素材は、無機または有機のいずれであってもよい。無機基板としては、ガラス基板、シリコン、ゲルマニウムなどの半導体基板、ガリウム−ヒ素、インジウム−アンチモンなどの化合物半導体基板などを用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。無機基板には、その表面に他の素材の薄膜を少なくとも1層積層形成した上で用いることもできる。この場合の他の素材としては、例えば二酸化ケイ素、フッ素化ガラス、リンガラス、ホウ素−リンガラス、ホウケイ酸ガラス、多結晶シリコン、アルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化シリコン、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ホウ素、ITO(インジウム錫酸化物)、アモルファスカーボン、フッ素化アモルファスカーボンなどの無機化合物などが挙げられる。
【0029】
また、有機基板としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを素材とする高分子フィルム、シートその他の樹脂成型物のほかに、紙、織物、不織布などが挙げられる。これらもまた単独でまたは2種以上を適宜積層するなど組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、この基材の表面には、必要であれば、金属ナノ粒子含有インクとの密着性を向上させるために予め以下のような処理を施すことができる。この処理としては、例えば当該基板の表面をプラズマ処理、電子線処理などの物理的な手段や密着性向上剤などを塗布するなどの化学的な手段によることができる。この場合、密着性向上剤としては、いわゆるシランカップリング剤として使用されているものやアルミニウムキレート化合物などの公知の薬剤を使用できる。紙などの基材に対しては、金属ナノ粒子の浸透を抑制する為の吸液層を設けることもできる。
【0031】
基材表面への金属ナノ粒子含有インクの塗布方法としては、バーコーター、スプレーコート、スピンコートといった従来公知のコーティング法やスクリーン印刷、凹版印刷、凸版印刷、孔版印刷、インクジェット印刷などの従来公知の印刷方法を用いることができる。また、必要であれば、塗布後に基材表面に形成された薄膜を乾燥するようにしてもよい。
【0032】
前記塗布方法により基材表面に形成された金属ナノ粒子含有インクの薄膜に還元剤を作用させて還元処理を施す。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩、リンゴ酸、ヒドラジン化合物、二酸化チオ尿素、スルホキシ酸塩、ギ酸、ホルムアルデヒド、トコフェロールなどの従来から一般的に使用されている薬剤を使用することができる。還元剤使用時の安全性を考慮すると、これらのうちではアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、クエン酸、クエン酸塩、リンゴ酸、トコフェロールといった食品にも含まれている還元剤の使用が好ましい。
【0033】
還元剤は固体、液体、気体のいずれの状態で塗膜に作用させてもよい。これにより、前記のとおりそのメカニズムは完全に解明されていないが、金属ナノ粒子を被覆する保護剤や当該粒子表面に生じた酸化皮膜を短時間のうちに有効かつ再現性良く除去できる。処理時間をさらに短縮する観点からは、液体状の還元剤を薄膜に作用させるのが好ましく、還元剤を水溶液の状態にして作用させるのがより好ましい。この場合、還元剤水溶液中の還元剤の濃度は、使用する還元剤の種類によって変わるので一概には言えないが、0.001〜1mol/l、好ましくは0.005〜0.5mol/lに設定するのがよい。前記濃度範囲未満では、還元処理に要する時間が長くなるとともに、得られる薄膜の導電性が低くなる。また、前記範囲を超えると、還元処理の際に塗膜が剥離しやすくなるという不具合が生じる。
【0034】
還元処理方法としては特に制限されず、例えば浸漬法のほか、バーコーター、スプレーコート、スピンコートといった従来公知のコーティング方法や、スクリーン印刷、凹版印刷、凸版印刷、孔版印刷、インクジェット印刷などの従来公知の印刷方法を採用することができる。
【0035】
還元処理は、0〜100℃の温度範囲で適宜設定して行うことができる。この温度は、薄膜と接触する還元剤の温度を指している。還元処理に際しては、金属ナノ粒子同士の融着や還元速度向上を促進し、さらに処理時間の短縮化を図る観点から前記温度範囲においてより高温に設定するのが有利であるが、70℃を超えると、還元処理における安全性の確保が困難になること、また特に浸漬法の場合には溶媒中の水分の揮発が早く、還元剤濃度が変動しやすいので、品質を安定化するのが困難になることなどにより、40〜70℃の範囲に設定することが好ましい。これにより、より短時間に金属ナノ粒子から保護剤などを除去でき、その結果金属ナノ粒子同士の接触が確保され、高い導電性が得られる。それとともに、還元処理を最高でも70℃程度の温度条件下で行うことができるので、環境負荷低減にも貢献できる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明の導電性薄膜の形成方法を具体的に説明する。
(銀ナノ粒子含有インクの調製例)
オレイルアミン250mlに硝酸銀10gを加え、液温60℃で加熱溶解した後に、液温が200℃となるまで昇温し、30分間攪拌した。得られた反応液を室温にて放冷後、メタノールを添加して銀ナノ粒子を析出させた。銀ナノ粒子は、混合液を遠心分離機にて沈降分離して採取した。得られた銀ナノ粒子は、ヘキサンへの再分散、メタノール添加によるナノ粒子析出および遠心分離機による沈降分離を3回繰り返すことにより精製した。
得られた銀ナノ粒子にトルエンを添加し、超音波分散させ固形分75wt%の銀ナノ粒子含有インクを作製した。
【0037】
(基材面へのインク薄膜の形成)
実施例1
前記調製例で調製した銀ナノ粒子含有インクを基材であるPETフィルムの表面にワイヤーバーを用いて塗布した。この基材を液温60℃のアスコルビン酸水溶液(濃度0.5mol/l)に60秒浸漬して還元処理を施し(表1参照)、基材表面に銀ナノ粒子含有インクの薄膜を形成した。
【0038】
実施例2〜7
表1に示す通り、アスコルビン酸水溶液の濃度、処理温度および処理時間を変えたほかは、実施例1と同様の条件および方法にて基材表面に薄膜を形成した。
【0039】
比較例1〜3
表2に示す通り、還元剤水溶液に代えてエタノール(比較例1、2)およびメタノール(比較例3)を用い、また処理温度および処理時間に変えたほかは、実施例1と同様の条件および方法により基材表面に薄膜を形成した。なお、メタノールおよびエタノールは、特許文献6において薄膜に作用させる極性溶媒として実施例で用いられ、薄膜の抵抗値において良好〜可の結果が得られたものである。
【0040】
(体積抵抗値の測定)
実施例1〜7および比較例1〜3の各薄膜の厚さをキーエンス社製3Dレーザー顕微鏡VK8710によって測定するとともに、体積抵抗値を(株)三菱化学アナリティック製四端子四探針法抵抗率計ロレスタEP、MCP−T360型にて測定した。これらの結果を表1および表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜7の薄膜はそれぞれ、表1に示すように、処理温度を室温(23℃)および60℃とし、60秒程度処理することで、10−3[Ω・cm]のオーダー以下の低い体積抵抗値を実現しており、優れた導電性が当該薄膜に発現していることがわかる。特に、実施例1〜3の薄膜は、銀バルク材料の体積抵抗値(10−6[Ω・cm]のオーダー)と遜色のない10−5[Ω・cm]のオーダー体積抵抗値をそれぞれ示しており、バルク材料に匹敵する導電性を示していることがわかる。
【0044】
それに対して、比較例1〜3は本発明の還元剤の代わりにアルコールで処理したものであるが、処理温度を60℃まで昇温することで、大きい抵抗値を示し、薄膜に僅かに導電性が認められるものの、配線パターンへの使用に耐えるものではなく、また常温での処理では抵抗値の測定ができず、導電性の発現が認められない。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本発明の導電性薄膜の形成方法によれば、基材面に塗布した薄膜に還元剤を作用させる還元処理を行うことで、簡単かつ安価にバルクと略同等の高い導電性を備えた薄膜を60秒程度の短時間にて形成することができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の導電性薄膜の形成方法は、印刷プロセスによって配線パターンを形成するプリンテッド・エレクトロニクス技術に有効に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子および分散媒を含有する金属ナノ粒子含有インクを基板上に塗布して薄膜を形成する工程と、当該薄膜に還元剤を作用させて還元処理を施す工程とを含むことを特徴とする導電性薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子含有インクは、炭素数10〜20の直鎖または分岐したアルキル基を有する保護剤で被覆された金属ナノ粒子を非水系分散媒中に分散させたものを含んでなる請求項1に記載の導電性薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記還元剤は、濃度0.005〜0.5mol/lの水溶液の状態である請求項1または2に記載の導電性薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記還元処理は40〜70℃の温度条件下に行なわれるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性薄膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−171093(P2010−171093A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10521(P2009−10521)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】