説明

ころ軸受及び風力発電用増速機

【課題】スメアリングが発生するのを効果的に抑制することができるころ軸受及び風力発電用増速機を提供する。
【解決手段】ころ軸受8は、内輪軌道面11aを有する内輪11と、外輪軌道面12aを有する外輪12と、内輪軌道面11aと外輪軌道面12aとの間に転動可能に配置された複数の円筒ころ13と、周方向に沿って複数形成されたポケット17に円筒ころ13が個別に収容された保持器14とを備えている。円筒ころ13の両端面には第1凸状球面13b及び第2凸状球面13cが形成され、ポケット17の内壁面の四隅には第1及び第2凸状球面13b,13cにそれぞれ点接触する第1〜第4接触面18a〜18dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受及び風力発電用増速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電装置として、ブレードにより風力を受けて当該ブレードに接続された主軸を回転させ、その主軸の回転を増速させて発電機を駆動させるために、増速機が用いられるものがある。図4に示すように、この増速機202は、主軸200の回転を入力して増速する遊星歯車機構203と、この遊星歯車機構203により増速された回転を入力して、さらにその回転を増速する高速段歯車機構204と、この高速段歯車機構204の回転トルクを出力する出力軸205とを備えている。
【0003】
遊星歯車機構203は、主軸200と一体回転可能に連結された入力軸203aが回転すると、遊星キャリア203bが回転することによって、遊星歯車203cを介して太陽歯車203dが増速回転し、その回転を高速段歯車機構204の低速軸204aに伝達するようになっている。
高速段歯車機構204は、低速軸204aが回転すると、低速ギヤ204b及び第1中間ギヤ204cを介して中間軸204dを増速回転させ、さらに第2中間ギヤ204e及び高速ギヤ204fを介して出力軸205を増速回転させるようになっている。
【0004】
増速機202の低速軸204a、中間軸204d及び出力軸205をそれぞれ回転自在に支持する軸受として、ころ軸受206〜211が多用されている(例えば、特許文献1参照)。このうち、出力軸205の一端部を回転自在に支持するころ軸受210は、図5に示すように、内輪軌道面101aを有する内輪(回転輪)101と、外輪軌道面102a及び鍔部102bを有する外輪(固定輪)102と、内輪軌道面101aと外輪軌道面102aとの間に転動可能に配置されている複数のころ103と、周方向に沿って複数形成されたポケット104aにころ103が個別に収容された保持器104とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−232186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の風力発電装置では、その長期使用によって、高速回転する出力軸を支持するころ軸受において、ころの転動面や回転輪の軌道面にスメアリング(表層焼付きが起こる現象)が発生し、ころ軸受の寿命が低下するという問題があった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、スメアリングが発生するのを効果的に抑制することができるころ軸受及び及び風力発電用増速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、スメアリングの発生メカニズムについて鋭意研究を重ねた。その結果、風力の低下により主軸の回転速度が急激に低下すると、重量の重い発電機のロータの慣性により、出力軸の回転速度よりも発電機の駆動軸の回転速度が上回ることによっていわゆるトルク抜け(荷重抜け)が発生し、このトルク抜けによって出力軸を支持するころ軸受に作用するラジアル荷重が減少し、ころ軸受のころと回転輪側の内輪軌道面との転がり摩擦抵抗よりも、ころと保持器(ポケットの内壁面)との面接触による接触摩擦抵抗、外輪(固定輪)の鍔部と保持器との摺動摩擦抵抗及びころの端面と鍔部との摺動摩擦抵抗を合算した摩擦抵抗が上回ることにより、ころの自転が遅れることを見出した。そして、この状態から風力の増加により主軸の回転速度が急激に増加したときに、ころの転動面と内輪軌道面との接触面で高速滑りが発生し、その接触面が昇温することにより、スメアリングが発生するという知見を得、かかる知見に基づいて本願発明を完成させた。
【0008】
(1)すなわち、本発明のころ軸受は、内輪軌道面を有する内輪と、前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動可能に配置された複数のころと、周方向に沿って複数形成されたポケットに前記ころが個別に収容された保持器と、を備え、前記ころの端面及び当該端面に隣接する前記ポケットの内壁面のうち、一方の面に凸状球面が形成され、他方の面に前記凸状球面と点接触する接触面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ころの端面と当該端面に隣接するポケットの内壁面とが点接触するため、従来の面接触する場合に比べて、ころと保持器との接触摩擦抵抗を低減することができる。これにより、ころが自転し易くなるため、ころ軸受にスメアリングが発生するのを効果的に抑制することができる。
【0010】
(2)前記ころにおける前記両軌道面を転動する転動面は、前記凸状球面と前記接触面とが点接触することにより、当該転動面に隣接する前記ポケットの内壁面との接触が回避されていることが好ましい。この場合、ころと保持器との接触摩擦抵抗をさらに低減することができる。
【0011】
(3)前記ころ軸受は、前記一方の面が、前記ころの端面であることが好ましい。この場合、ころの端面が凸状球面となるため、ころにスキューが発生してその軸線が傾いても、ころの端部がポケットの内壁面とこじれるのを効果的に抑制することができる。
【0012】
(4)他の観点からみた本発明の風力発電用増速機は、風力によるブレードの回転を伝達する増速ギヤを有するとともに、ころ軸受を介して支持された増速回転軸を備え、前記ころ軸受が、上記(1)〜(3)のいずれかのころ軸受であることを特徴とする。
本発明によれば、風力発電の運転中に風力が変動することによって、風力発電用増速機の増速回転軸を支持するころ軸受にスメアリングが発生するのを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のころ軸受によれば、ころが自転し易くなるため、ころ軸受にスメアリングが発生するのを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る風力発電用増速機を示す概略側面図である。
【図2】上記風力発電用増速機に用いられるころ軸受を示す断面図である。
【図3】上記ころ軸受のころ及び保持器を示す平面図である。
【図4】従来の風力発電用増速機を示す断面図である。
【図5】従来のころ軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る風力発電用増速機を示す概略側面図である。この風力発電用増速機1は、風力によるブレード(図示省略)の回転を増速させて発電機(図示省略)を駆動させるものであり、遊星歯車機構2と、複数の増速回転軸31〜33を有する高速段歯車機構3とを備えている。
【0016】
遊星歯車機構2は、ブレードの回転軸(図示省略)と一体回転可能に連結された入力軸21を有しており、この入力軸21が回転すると遊星キャリア22が回転するようになっている。これにより、遊星歯車23を介して太陽歯車24が回転し、その回転が高速段歯車機構3の低速軸31に伝達される。
高速段歯車機構3の複数の増速回転軸31〜33には、低速ギヤ31aを有する前記低速軸31と、第1中間ギヤ32a及び第2中間ギヤ32bを有する中間軸32と、高速ギヤ33aを有する出力軸33とが含まれている。本実施形態では、低速ギヤ31a、第1及び第2中間ギヤ32a,32b、及び高速ギヤ33aが、増速ギヤとされている。
【0017】
低速軸31は、その直径が例えば約1mの大型の回転軸からなり、遊星歯車機構2の入力軸21と同軸上に配置されている。低速軸31の軸方向両端部はころ軸受4,5により支持されている。中間軸32は、低速軸31の上方に配置されており、その軸方向両端部はころ軸受6,7により支持されている。中間軸32の第1中間ギヤ32aは低速ギヤ31aと噛み合い、第2中間ギヤ32bは高速ギヤ33aと噛み合っている。出力軸33は、中間軸32の上方に配置されており、その自由端部33b及び出力端部33cは、それぞれころ軸受8,9により支持されている。出力端部33cは、発電機の駆動軸(図示省略)に一体回転可能に連結されている。
【0018】
以上の構成により、入力軸21の回転は、遊星歯車機構2のギヤ比、低速ギヤ31aと第1中間ギヤ32aとのギヤ比、及び第2中間ギヤ32bと高速ギヤ33aとのギヤ比により3段階に増速されて、出力軸33の出力端部33cから回転トルクが出力される。すなわち、風力によるブレードの回転は、風力発電用増速機1により3段階に増速されて、発電機を駆動するようになっている。なお、本発明における風力発電用増速機1は、上記構成に限定されるものではなく、少なくとも増速ギヤを有する増速回転軸をころ軸受で支持しているものであればよい。
【0019】
図2は、出力軸33の自由端部33bを支持するころ軸受8を示す断面図である。図2において、ころ軸受8は、円筒ころ軸受からなり、出力軸33に外嵌固定された内輪11と、ハウジング(図示省略)に固定された外輪12と、内輪11と外輪12との間に転動可能に配置された複数の円筒ころ13と、周方向に沿って複数形成されたポケット17に円筒ころ13を個別に収容している環状の保持器14とを備えている。内輪11、外輪12、円筒ころ13及び保持器14は、例えば軸受鋼等の合金鋼によって形成されている。
【0020】
内輪11は、その外周の軸方向中央部に形成された内輪軌道面11aと、この内輪軌道面11aの軸方向両側に形成されたテーパ面11bとを有している。このテーパ面11bは、軸方向外側に向かって漸次縮径するように形成されている。
外輪12は、内輪11と同心上に配置されており、その内周の軸方向中央部に形成された外輪軌道面12aと、この外輪軌道面12aの軸方向両側に形成された一対の鍔部12bとを有している。外輪軌道面12aは、内輪軌道面11aに対向して配置されている。
【0021】
鍔部12bは、外輪12の内周の軸方向両端部から径方向内方に向かって突出して形成されており、円筒ころ13の端面が当接する鍔面12b1と、保持器14の円環部15の外周面15aに対向する対向周面12b2とを有している。
鍔面12b1は、円筒ころ13の第1及び第2凸状球面13b,13c(後述)と点接触するように、軸方向外側に向かって漸次縮径するテーパ面とされている。対向周面12b2は、保持器14の外周面15aが摺動することにより、保持器14の回転を案内するようになっている。なお、鍔部12bは、外輪12に形成されているが、内輪11の内輪軌道面11aの軸方向両側に形成されていてもよい。
【0022】
円筒ころ13は、内輪11の内輪軌道面11aと外輪12の外輪軌道面12aとの間に転動可能に配置されており、両軌道面11a,12aを転動する転動面13aを有している。
保持器14は、軸方向に離反して配置された一対の円環部15と、この円環部15の周方向に沿って等間隔おきに配置されて両円環部15同士を連結する複数の柱部16とを有している。一対の円環部15と隣接する柱部16との間には、それぞれ前記ポケット17が形成されており、このポケット17内に各円筒ころ13が配置されている。各円環部15の軸方向内側の側面15b及び隣接する柱部16の周方向の側面16aは、ポケット17の内壁面とされている。
【0023】
図3は、円筒ころ13及び保持器14を示す平面図である。図3において、円筒ころ13の両端面には、それぞれ第1凸状球面13b及び第2凸状球面13cが形成されている(図2も参照)。この第1及び第2凸状球面13b,13cの中心点Cは、それぞれ円筒ころ13の軸線X上に配置されている。
【0024】
保持器14のポケット17の内壁面には、その四隅において円筒ころ13の第1及び第2凸状球面13b,13cと点接触する複数の接触面18a〜18dが形成されている。具体的には、一方(図3の左側)の円環部15の軸方向内側の側面15bと、隣接する柱部16の周方向の側面16aとが繋がる二箇所の隅部には、円筒ころ13の第1凸状球面13bと点接触する凸状円弧面からなる第1接触面18a及び第2接触面18bが形成されている。また、他方(図3の右側)の円環部15の軸方向内側の側面15bと、隣接する柱部16の周方向の側面16aとが繋がる二箇所の隅部には、円筒ころ13の第2凸状球面13cと点接触する凸状円弧面からなる第3接触面18c及び第4接触面18dが形成されている。
【0025】
第1及び第2接触面18a,18bは、前記軸線Xを挟んで周方向両側から第1凸状球面13bに点接触するようになっている。また、第3及び第4接触面18c,18dは、前記軸線Xを挟んで周方向両側から第2凸状球面13cに点接触するようになっている。さらに、第1〜第4接触面18a〜18dは、第1及び第2凸状球面13b,13cと点接触したときの摩擦抵抗が小さくなるように、円筒ころ13の自転中心である軸線Xに近い位置で、第1及び第2凸状球面13b,13cと点接触している。
【0026】
円筒ころ13の転動面13aは、第1及び第2凸状球面13b,13cと第1〜第4接触面18a〜18dとが接触することにより、当該転動面13aに隣接するポケット17の内壁面(柱部16の側面16a)との接触が回避されている。すなわち、第1及び第2接触面18a,18bは、円筒ころ13が周方向に移動して転動面13aが柱部16の側面16aに接触する前に、第1凸状球面13bに点接触するように形成されている。同様に、第3及び第4接触面18c,18dは、円筒ころ13が周方向に移動して転動面13aが柱部16の側面16aに接触する前に、第2凸状球面13cに点接触するように形成されている。
【0027】
以上のように構成された風力発電用増速機1及びころ軸受8によれば、円筒ころ13の両端面に形成された第1及び第2凸状球面13b,13cと、保持器14のポケット17の内壁面に形成された第1〜第4接触面18a〜18dとが点接触する。これにより、従来の面接触する場合に比べて、円筒ころ13と保持器14との接触摩擦抵抗を低減することができるため、円筒ころ13が自転し易くなる。
したがって、風力発電の運転中に風力が変動することによって、風力発電用増速機1の出力軸33を支持するころ軸受8にスメアリングが発生するのを効果的に抑制することができる。
【0028】
また、円筒ころ13の第1及び第2凸状球面13b,13cと、保持器14の第1〜第4接触面18a〜18dとが接触することにより、円筒ころ13の転動面13aがポケット17の内壁面(柱部16の側面16a)に接触するのを回避することができるため、円筒ころ13と保持器14との接触摩擦抵抗をさらに低減することができる。
【0029】
また、円筒ころ13の両端面に第1及び第2凸状球面13b,13cが形成されているので、円筒ころ13にスキューが発生してその軸線が傾いても、円筒ころ13の両端部がポケット17の内壁面(円環部15の側面15b)とこじれるのを効果的に抑制することができる。
【0030】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、凸状球面を円筒ころの端面に形成し、接触面をポケットの内壁面に形成しているが、凸状球面をポケットの内壁面に形成し、接触面を円筒ころの端面に形成するようにしてもよい。
また、凸状球面に点接触する接触面は、凸状円弧面以外に、テーパ面により形成されていてもよい。
さらに、凸状球面及び接触面の少なくとも一方の面に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、PTEE、MOSなどの固体潤滑膜からなる摩擦係数の小さい被膜によりコーティングしてもよい。この場合、円筒ころと保持器との接触摩擦抵抗をさらに低減することができる。
【0031】
また、本発明のころ軸受は、風力発電用増速機の出力軸に用いられる場合について例示したが、低速軸や中間軸を支持するころ軸受においてころが自転しないおそれがある場合には、低速軸又は中間軸に本発明のころ軸受を用いることも可能である。
また、本実施形態のころ軸受は、風力発電用増速機に用いられる場合について例示したが、工作機械等の他の機器において軽負荷の状態で高速回転される場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1:風力発電用増速機、8:ころ軸受、11:内輪、11a:内輪軌道面、12:外輪、12a:外輪軌道面、13:円筒ころ(ころ)、13a:転動面、13b:第1凸状球面、13c:第2凸状球面、14:保持器、33:出力軸(増速回転軸)、17:ポケット、18a:第1接触面、18b:第2接触面、18c:第3接触面、18d:第4接触面、33a:高速ギヤ(増速ギヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪軌道面を有する内輪と、
前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動可能に配置された複数のころと、
周方向に沿って複数形成されたポケットに前記ころが個別に収容された保持器と、を備え、
前記ころの端面及び当該端面に隣接する前記ポケットの内壁面のうち、一方の面に凸状球面が形成され、他方の面に前記凸状球面と点接触する接触面が形成されていることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記ころにおける前記両軌道面を転動する転動面は、前記凸状球面と前記接触面とが点接触することにより、当該転動面に隣接する前記ポケットの内壁面との接触が回避されている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記一方の面が、前記ころの端面である請求項1又は2に記載のころ軸受。
【請求項4】
風力によるブレードの回転を伝達する増速ギヤを有するとともに、ころ軸受を介して支持された増速回転軸を備え、
前記ころ軸受が、請求項1〜3のいずれか一項に記載のころ軸受であることを特徴とする風力発電用増速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53713(P2013−53713A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193740(P2011−193740)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】