説明

つかみ具

【課題】 試験片の端部を容易にドラム部材に装着することが可能なつかみ具を提供すること。
【解決手段】 上つかみ具2は、その断面が略半円状の移動挟持部11と、その断面が略半円状の固定挟持部12とから構成され、その外周部が円筒状の形状をなすドラム部材10を備える。ハンドルギア33とドラム部材駆動ギア39と連結させ、ハンドル31を操作して、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10を回転させる。また、ハンドルギア33と回転軸駆動ギア38と連結させ、ハンドル31を操作して、回転軸21を回転させることにより、一対のテーパー部材23を移動させる。これにより、移動挟持部11が固定挟持部12に対して移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、引っ張り試験機において、試験片を挟持するためのつかみ具に関し、特に、試験片として重布と呼称される布やロープなどを使用した場合に、好適に引っ張り試験を実行することが可能なつかみ具に関する。
【背景技術】
【0002】
このような引っ張り試験に使用するつかみ具としては、円筒状のドラムを半割状にした一対の挟持部により試験片の一端を挟持するものが知られている。例えば、特許文献1には、円筒状の周面を有する半割ドラムを備え、試験片の一端をこの半割ドラム間に挟んで半割ドラムの周面に巻き付け、この半割ドラムを周面の両端においてつかみ具本体に回転しないように支持した引っ張り試験用つかみ具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−58337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のつかみ具においては、半割ドラムを開いた状態で試験片をその隙間に挿入し、しかる後、半割ドラムを固定する必要があることから、作業性が悪いという問題がある。また、試験片の端部を曲げるとともに、試験片が半割ドラムとフレームとの隙間を通過する状態で、この試験片を半割ドラムに巻き付ける必要があることから、特に、腰の強い試験片の場合には、作業性がさらに悪くなるという問題も生ずる。さらに、試験片を半割ドラムに巻き付けた後には、試験片に大きな弛みが発生することになり、この弛みを解消した後に引っ張り試験を行うためには、つかみ具を支持するクロスヘッドの移動ストロークを大きくする必要が生じ、装置が大型化するという問題を生ずる。
【0005】
このため、半割ドラムを回転可能な構成とすることも考えられるが、この場合においても、例えば樹脂製のシート等の極めて腰の強い試験片を半割ドラムの外周面に巻き付けるためには、半割ドラムを回転させるために極めて大きな力が必要となるという問題がある。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験片の端部を容易にドラム部材に装着することが可能なつかみ具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、引っ張り試験機において試験片を挟持するためのつかみ具であって、その断面が略半円状の移動挟持部と、その断面が略半円状の固定挟持部とから構成され、前記移動挟持部と前記固定挟持部とを対向配置することにより、それらの外周部が円筒状の形状をなすドラム部材と、その軸芯が前記ドラム部材の軸芯と平行となる状態で、前記固定挟持部に回転可能に配設された回転軸と、前記回転軸を回転させる回転駆動部と、前記回転軸と連結され、前記回転軸の回転に伴って前記移動挟持部を、当該移動挟持部と前記固定挟持部との間に試験片を挟持する挟持位置と、当該移動挟持部が前記固定挟持部から離隔した離隔位置との間を往復移動させる移動機構とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記回転駆動部は、前記回転軸に連結されたハンドルである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記回転軸は、その外周部にネジ部が形成されるとともに、前記移動挟持部には、前記固定挟持部と対向する位置に傾斜面が形成されており、前記移動機構は、前記回転軸のネジ部に螺合することにより、前記回転軸の回転に伴って前記回転軸の軸芯方向に往復移動するナット部と、前記ナット部と連結されるとともに、前記移動挟持部の傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記ナット部の移動に伴って前記移動挟持部の傾斜面をその傾斜面により押圧することにより、前記移動挟持部を前記挟持位置と前記離隔位置の間で移動させるテーパー部材と、前記移動挟持部を前記固定挟持部に近接する方向に付勢する付勢手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記回転軸の外周部に形成されたネジ部は、その両端部側の領域において互いに逆を向く方向に形成されるとともに、前記移動挟持部には、前記固定挟持部と対向する位置に互いに逆方向を向く一対の傾斜面が形成されており、前記移動機構におけるナット部は、前記逆方向を向くネジ部に各々螺合するように一対配設されるとともに、これらの一対のナット部に、前記移動挟持部における一対の傾斜面と各々当接する傾斜面を有する一対のテーパー部材が各々連結される。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明において、前記ハンドルは、前記回転軸を回転させる状態から、前記移動挟持部および前記固定挟持部よりなるドラム部材を回転させる状態に切替可能である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記固定挟持部および前記移動挟持部よりなるドラム部材と一体となって回転するドラム部材駆動ギアと、前記回転軸に固定された回転軸駆動ギアと、前記ハンドルに固定されたハンドルギアとを備えるとともに、前記ハンドルギアは、前記回転軸駆動ギアと連結することにより当該回転軸駆動ギアを回転させる第1の位置と、前記ドラム部材駆動ギアと連結することにより当該ドラム部材駆動ギアを回転させる第2の位置との間で移動可能である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、回転駆動部によって回転軸を回転させることにより、試験片の端部を移動挟持部と固定挟持部との間に挟持することができ、試験片をつかみ具に装着することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、ハンドルを操作することにより、試験片の端部を移動挟持部と固定挟持部との間に挟持することができ、試験片を容易につかみ具に装着することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、移動挟持部の傾斜面をナット部の傾斜面により押圧することで、移動挟持部を固定挟持部に対して、挟持位置と離隔位置の間で移動させることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、単一の回転軸を回転させることにより一対のテーパー部材を移動させて移動挟持部を押圧することができ、これにより、移動挟持部を正確かつ容易に移動させることが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、移動挟持部を移動させるためのハンドルを利用して、固定挟持部および移動挟持部よりなるドラム部材を回転させることが可能となる。このため、つかみ具に挟持した試験片に弛みが発生することを容易に防止することが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、簡易な構成でありながら、ハンドルによる移動挟持部の移動動作とドラム部材の回転動作とを、容易に切り換えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係るつかみ具を採用した材料試験機の概要図である。
【図2】移動挟持部11および固定挟持部12からなるドラム部材10により試験片1を挟持する状態を模式的に示す説明図である。
【図3】上つかみ具2の断面概要図である。
【図4】上つかみ具2の斜視図である。
【図5】移動挟持部11および固定挟持部12の連結関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るつかみ具を採用した材料試験機の概要図である。
【0021】
この材料試験機は、重布と呼称される布やロープなどの試験片に対して引っ張り試験を行うためのものであり、基台65と、左右一対のねじ棹を収納するための基台65上に立設された左右一対のケーシング64と、これらのケーシング64に沿って昇降するクロスヘッド61と、この発明に係るつかみ具としての上つかみ具2および下つかみ具3とを備える。
【0022】
これらの上つかみ具2および下つかみ具3は、互いに同様の構成を有し、上下対称に配置されている。これらの上つかみ具2および下つかみ具3は、各々、後述する移動挟持部11と固定挟持部12とから構成されるドラム部材10と、ハンドル31とを備える。これらの上つかみ具2および下つかみ具3は、その設置スペースの関係から、基台65およびケーシング64に対して傾斜した姿勢で取り付けられている。後述する試験片1は、その両端をこれらの上つかみ具2および下つかみ具3により挟持され、その引っ張り試験が行われる。
【0023】
クロスヘッド61は、その両端にケーシング64内に収納された左右一対のねじ棹と螺合するナット部を備える。これらのねじ棹は、基台65内に配設されたモータの駆動により同期して回転する。このため、クロスヘッド61は、モータの駆動によるねじ棹の回転により、図1において実線で示す位置と破線で示す位置の間を昇降移動する。
【0024】
上つかみ具2は、ジョイント49およびクロスヘッド61を貫通する連結部材62を介してロードセル63と連結されている。一方、下つかみ具3は、ジョイント49を介して基台65に連結されている。試験片1に負荷される試験力は、ロードセル63により検出される。また、試験片1の上下の標点間の変位量は、図示しない変位計で検出される。ロードセル63および変位計からの信号は図示しない制御回路に入力される。そして、制御回路は、ロードセル63および変位計からの信号に基づいて、ねじ棹を回転駆動するモータの駆動制御信号を作成する。これにより、モータの回転によるクロスヘッド61の上下位置が制御され、試験片1の引っ張り試験が行われる。
【0025】
次に、上述した上つかみ具2および下つかみ具3の構成について説明する。なお、以下の説明においては、上つかみ具2および下つかみ具3のうち、上つかみ具2についてのみ説明するが、下つかみ具3は、この上つかみ具2と同様の構成を有する。
【0026】
まず、上つかみ具2のよる試験片1の挟持動作の概要について説明する。図2は、移動挟持部11および固定挟持部12からなるドラム部材10により試験片1を挟持する状態を模式的に示す説明図である。
【0027】
上つかみ具2は、その断面が略半円状の移動挟持部11と、その断面が略半円状の固定挟持部12とから構成され、この移動挟持部11と固定挟持部12とを対向配置することにより、それらの外周部が円筒状の形状をなす半割ドラム状のドラム部材10を備える。これらの移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10は、後述するドラム部材駆動ギア39とともに一体となって回転する。
【0028】
これらの移動挟持部11と固定挟持部12との距離αは、回転軸21の回転に伴って移動する一対のテーパー部材23(後述する図3参照)の位置により決定される。布やロープあるいは樹脂製のシート等からなる試験片1は、その先端を移動挟持部11と固定挟持部12の間に挿入され、それらにより挟持された後、固定挟持部12および移動挟持部11の外周部に巻回される。そして、この試験片1が、上つかみ具2および下つかみ具3の移動挟持部11と固定挟持部12とにより挟持されて固定された状態で、この試験片1に対する引っ張り試験が実行される。
【0029】
このとき、上つかみ具2における移動挟持部11は、固定挟持部12に対して上側に配置されている。すなわち、移動挟持部11は、引っ張り試験時に応力が付与される外側の位置に配置されている。このため、引っ張り試験時に移動挟持部11に対して応力が付与された場合には、移動挟持部11は、固定挟持部12に接近する方向、すなわち、移動挟持部11と固定挟持部12による試験片1への挟持力が増加する方向に応力を受けることになる。このため、引っ張り試験を実行するときに、試験片1への挟持力が減少することを有効に防止することが可能となる。なお、下つかみ具3においては、移動挟持部11は、引っ張り試験時に応力が付与される外側の位置、すなわち、固定挟持部12に対して下側に配置されることになる。
【0030】
移動挟持部11および固定挟持部12により形成される隙間は、それらの間に試験片1を挿入しやすくするため、水平方向に対して約15度傾斜した位置で停止される構成となっている。そして、そのときの固定挟持部の端部91と移動挟持部11の端部92との距離は、試験片1の厚みより十分大きくなるように設定されている。なお、試験片1に対する引っ張り力が直接作用する固定挟持部12の端部92は、十分大きなアール加工がなされている。また、移動挟持部11の端部92および固定挟持部12の他の端部92にも、アール加工がなされている。
【0031】
次に、固定挟持部12に対して移動挟持部11を移動させるための移動機構および移動挟持部11および固定挟持部12よりなるドラム部材10を回転させる回転機構の構成について説明する。図3は、上つかみ具2の断面概要図である。また、図4は、上つかみ具2の斜視図である。
【0032】
これらの図に示すように、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10は、その側方に配設されたドラム部材駆動ギア39とともに、移動挟持部11と固定挟持部12が一体となって回転可能な状態で、一対の側板41により支持されている。
【0033】
また、図3に示すように、上つかみ具2は、その軸芯が移動挟持部11と固定挟持部12とから成るドラム部材10の軸芯と平行となる状態で、固定挟持部12に回転可能に配設された回転軸21を備える。この回転軸21の外周部には、ネジ部が形成されている。この回転軸21の外周部に形成されたネジ部は、その両端部側の領域において互いに逆を向く方向に形成されている。この回転軸21の一端には、回転軸駆動ギア38が配設されている。また、この回転軸21の他端部は、その断面が矩形状に形成された連結部26となっている。
【0034】
この上つかみ具2は、ハンドル31を備える。このハンドル31に連結された軸32には、ハンドルギア33が配設されている。これらのハンドル31、軸32およびハンドルギア33は、図3において実線で示す位置と仮想線で示す位置との間を移動可能となっている。
【0035】
このハンドルギア33は、図3において実線で示す位置に配置されたときには、ギア34、ギア35、軸36、ギア37を介して、回転軸21の一端に配設された回転軸駆動ギア38と噛合する。また、このハンドルギア33は、図3において仮想線で示す位置に配置されたときには、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10の側方に配設されたドラム部材駆動ギア39と噛合する。すなわち、ハンドル31に連結されたハンドルギア33は、回転軸駆動ギア38と連結することによりこの回転軸駆動ギア38を回転させる第1の位置と、ドラム部材駆動ギア39と連結することによりこのドラム部材駆動ギア39を回転させる第2の位置との間で移動可能となっている。
【0036】
回転軸21の外周部に形成されたネジ部において、その両端部側のねじ山が互いに逆を向く方向に形成された領域には、各々、一対のナット部22が配設されている。これらのナット部22は、回転軸21のネジ部に螺合することにより、回転軸21の回転に伴って回転軸21の軸芯方向に往復移動する。これらのナット部22の移動方向は、互いに逆方向となっている。そして、各ナット部22には、各々、テーパー部材23が連結されている。
【0037】
上述した移動挟持部11には、固定挟持部12と対向する位置に傾斜面25が形成されている。一方、一対のテーパー部材23は、移動挟持部11の傾斜面25と対応する傾斜面24を備えている。そして、一対のナット部22が互いに近接する方向に移動したときには、その移動に伴って移動挟持部11の傾斜面25がテーパー部材23の傾斜面24により押圧されることになる。
【0038】
図5は、移動挟持部11および固定挟持部12の連結関係を示す説明図である。なお、図5(a)は移動挟持部11を平面視した図であり、図5(b)は移動挟持部11および固定挟持部12を側面視した図である。
【0039】
移動挟持部11と固定挟持部12とは、4本の連結軸51により連結されている。そして、各連結軸51と移動挟持部11との間には、圧縮バネ52が配設されている。このため、移動挟持部11は、4本の圧縮バネ52の作用により、固定挟持部12に近接する方向に付勢されている。
【0040】
再度、図3を参照して、ハンドル31が図3において実線で示す第1の位置に配置された状態において回転され、回転軸21が回転することにより、一対のテーパー部材23が互いに近接する方向に移動したときには、このテーパー部材23の移動に伴って移動挟持部11の傾斜面25がテーパー部材23の傾斜面24により押圧される。これにより、図3において実線で示すように、移動挟持部11は、図5に示す圧縮バネ52に抗して、固定挟持部12から離隔した離隔位置に移動する。一方、回転軸21が回転することにより、一対のテーパー部材23が互いに離隔する方向に移動したときには、図3において仮想線で示すように、移動挟持部11は、図5に示す圧縮バネ52の作用により、移動挟持部11と固定挟持部12との間に試験片1を挟持する挟持位置に移動する。
【0041】
図3および図4を参照して、一対の側板41の側方には、一体となって回転する移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10およびドラム部材駆動ギア39の回転を停止させるための、一対の回り止めキー43が配設されている。これら一対の回り止めキー43は、レバー42により互いに連結されている。この回り止めキー43の作用により、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10およびドラム部材駆動ギア39は、図2に示すように、移動挟持部11および固定挟持部12により形成される隙間が、それらの間に試験片1を挿入しやすい、水平方向に対して約15度傾斜した位置で停止される構成となっている。
【0042】
以上のような構成を有する上つかみ具2に試験片1を装着する場合には、最初に、ハンドル31に連結されたハンドルギア33を、図3において仮想線で示す第2の位置に配置し、ハンドルギア33とドラム部材駆動ギア39と連結させる。この状態でハンドル31を操作して、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10を回転させる。そして、回り止めキー43の作用により、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10およびドラム部材駆動ギア39を、図2に示す位置に停止させる。
【0043】
この状態において、ハンドル31に連結されたハンドルギア33を、図3において実線で示す第1の位置に配置し、ハンドルギア33と回転軸駆動ギア38と連結させる。この状態でハンドル31を操作することにより、回転軸21を一方向に回転させ、一対のテーパー部材23を互いに近接する方向に移動させる。これにより、図3において実線で示すように、移動挟持部11を固定挟持部12から離隔した離隔位置に移動させる。そして、移動挟持部11と固定挟持部12との間に、試験片1の先端部を進入させる。
【0044】
この状態において、ハンドル31を操作することにより、回転軸21を上述した方向とは逆方向に回転させ、一対のテーパー部材23を互いに離隔する方向に移動させる。これにより、図3において仮想線で示すように、移動挟持部11が、図5に示す圧縮バネ52の作用により、移動挟持部11と固定挟持部12との間に試験片1を挟持する挟持位置に移動する。試験片1の一端は、圧縮バネ52の作用により、上つかみ具2に固定される。
【0045】
試験片1の一端が上つかみ具2により固定されれば、これと同様の動作により、試験片の他端を下つかみ具3により固定する。
【0046】
次に、回り止めキー43の作用によるドラム部材10の停止機能を解除する。そして、上つかみ具2または下つかみ具3におけるハンドル31を操作し、ハンドルギア33を、図3において仮想線で示す第2の位置に配置する。この状態でハンドル31を操作して、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10を回転させることにより、図2に示すように、試験片1をドラム部材10の外周面に巻回して、試験片1の弛みを解消する。
【0047】
しかる後、回り止めキー43の作用により、移動挟持部11と固定挟持部12からなるドラム部材10およびドラム部材駆動ギア39を、図2に示す位置に停止させる。この状態で、クロスヘッド61を上下移動させて、引っ張り試験を実行する。
【0048】
このとき、上つかみ具2における移動挟持部11は固定挟持部12に対して上側に配置されており、下つかみ具3における移動挟持部11は固定挟持部12に対して下側に配置されている。すなわち、各移動挟持部11は、引っ張り試験時に応力が付与される外側の位置に配置されている。このため、引っ張り試験時に移動挟持部11に対して応力が付与された場合には、移動挟持部11は、固定挟持部12に接近する方向、すなわち、移動挟持部11と固定挟持部12による試験片1への挟持力が増加する方向に応力が付与されることになる。このため、引っ張り試験を実行するときに、試験片1を確実に挟持することが可能となる。
【0049】
以上のように、この発明に係る上つかみ具2および下つかみ具3によれば、単一のハンドル31を操作することにより、試験片1を移動挟持部11と固定挟持部12との間に挟持する挟持動作と、試験片1を移動挟持部11および固定挟持部12から成るドラム部材10に巻き付ける巻き付け動作とを容易に実行することが可能となる。
【0050】
なお、上述した実施形態においては、回転軸21を回転させる回転駆動部としてハンドル31を使用しているが、このハンドル31のかわりにモータ等を使用してもよい。また、回転軸21の他端部におけるその断面が矩形状に形成された連結部26に、着脱式のハンドルを装着することにより、回転軸21を回転させる構成を採用してもよい。
【0051】
また、上述した実施形態においては、その断面が略半円状の移動挟持部11と、その断面が略半円状の固定挟持部12とを使用して、それらの外周部が円筒状の形状をなすドラム部材10を構成している。但し、これらの移動挟持部11および固定挟持部12は、例えば、半楕円状の形状であってもよい。すなわち、これらの移動挟持部11および固定挟持部12としては、試験片1に損傷を与えることなく、その表面を試験片1が容易に摺動し得るような、断面がおおよそ半円状の形状であればよい。
【符号の説明】
【0052】
1 試験片
2 上つかみ具
3 下つかみ具
10 ドラム部材
11 移動挟持部
12 固定挟持部
21 回転軸
22 ナット部
23 テーパー部材
24 傾斜面
25 傾斜面
31 ハンドル
32 軸
33 ハンドルギア
38 回転軸駆動ギア
39 ドラム部材駆動ギア
51 連結軸
52 圧縮バネ
61 クロスヘッド
63 ロードセル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引っ張り試験機において試験片を挟持するためのつかみ具であって、
その断面が略半円状の移動挟持部と、その断面が略半円状の固定挟持部とから構成され、前記移動挟持部と前記固定挟持部とを対向配置することにより、それらの外周部が円筒状の形状をなすドラム部材と、
その軸芯が前記ドラム部材の軸芯と平行となる状態で、前記固定挟持部に回転可能に配設された回転軸と、
前記回転軸を回転させる回転駆動部と、
前記回転軸と連結され、前記回転軸の回転に伴って前記移動挟持部を、当該移動挟持部と前記固定挟持部との間に試験片を挟持する挟持位置と、当該移動挟持部が前記固定挟持部から離隔した離隔位置との間を往復移動させる移動機構と、
を備えたことを特徴とするつかみ具。
【請求項2】
請求項1に記載のつかみ具において、
前記回転駆動部は、前記回転軸に連結されたハンドルであるつかみ具。
【請求項3】
請求項2に記載のつかみ具において、
前記回転軸は、その外周部にネジ部が形成されるとともに、
前記移動挟持部には、前記固定挟持部と対向する位置に傾斜面が形成されており、
前記移動機構は、
前記回転軸のネジ部に螺合することにより、前記回転軸の回転に伴って前記回転軸の軸芯方向に往復移動するナット部と、
前記ナット部と連結されるとともに、前記移動挟持部の傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記ナット部の移動に伴って前記移動挟持部の傾斜面をその傾斜面により押圧することにより、前記移動挟持部を前記挟持位置と前記離隔位置の間で移動させるテーパー部材と、
前記移動挟持部を前記固定挟持部に近接する方向に付勢する付勢手段と、
を備えたことを特徴とするつかみ具。
【請求項4】
請求項3に記載のつかみ具において、
前記回転軸の外周部に形成されたネジ部は、その両端部側の領域において互いに逆を向く方向に形成されるとともに、
前記移動挟持部には、前記固定挟持部と対向する位置に互いに逆方向を向く一対の傾斜面が形成されており、
前記移動機構におけるナット部は、前記逆方向を向くネジ部に各々螺合するように一対配設されるとともに、これらの一対のナット部に、前記移動挟持部における一対の傾斜面と各々当接する傾斜面を有する一対のテーパー部材が各々連結されるつかみ具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のつかみ具において、
前記ハンドルは、前記回転軸を回転させる状態から、前記移動挟持部および前記固定挟持部よりなるドラム部材を回転させる状態に切替可能であるつかみ具。
【請求項6】
請求項5に記載のつかみ具において、
前記固定挟持部および前記移動挟持部よりなるドラム部材と一体となって回転するドラム部材駆動ギアと、
前記回転軸に固定された回転軸駆動ギアと、
前記ハンドルに固定されたハンドルギアとを備えるとともに、
前記ハンドルギアは、前記回転軸駆動ギアと連結することにより当該回転軸駆動ギアを回転させる第1の位置と、前記ドラム部材駆動ギアと連結することにより当該ドラム部材駆動ギアを回転させる第2の位置との間で移動可能であるつかみ具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−75090(P2011−75090A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230166(P2009−230166)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】