説明

はすば歯車アセンブリ

歯車アセンブリが、円筒形の内腔を有する歯車を含む。凸状のベアリング内表面を有するスリーブが、歯車の内腔に位置され、軸が、スリーブのベアリング内表面の内側に位置される。複数のローラが、軸とスリーブの凸状のベアリング内表面との間に位置される。さらにスリーブが、半径方向内向きに延びてローラをスリーブ内に軸方向について保持するように構成される対向する一対のフランジを含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年5月11日付の米国特許仮出願第60/569,945号の優先権を主張し、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0002】
本発明は、トルクの伝達に使用される歯車に関する。さらに詳しくは、本発明は、自動車用自動変速機において使用される遊星歯車など、摩擦防止用のニードル・ベアリングまたはローラ・ベアリング上で回転するはすば歯車に関する。
【背景技術】
【0003】
図1は、はすば歯車2と、ローラ4の集合を含むローラ・ベアリング3と、内側軸5とを備える代表的なはすば歯車アセンブリ1を示す。はすば歯車は、典型的には、ローラ・ベアリング3に対して転倒荷重を生み出し、結果としてローラ4の両端部が、主に半径方向の荷重を支持することになる。図2は、図1のアセンブリの断面図であり、転倒荷重からもたらされるローラ4のずれを示す。このずれは、分かりやすくするため誇張されて示される。見て取ることができるように、ローラ4が、両端部においてのみ軸5に接触しており、極めて小さい接触面積6しかもたらされていない。ローラ4の端部の荷重が最小限の接触面積6に限られることで、早期に故障が生じる可能性がある。通常見られる故障の態様は、軸5の表面の疲労破壊である。
【0004】
図3は、ローラ端部の荷重を克服しようとする従来技術の試みの断面図を示す。やはり図においては誇張されて示されるが、ベアリング用の軸5’を山形状に作製することで、ローラ4と軸5’との接触面積6aの長さを大きくすることができる。この手法は、軸の表面の寿命を改善するが、より大きな力および耐久性がますます要求されるようになってきていることから、この寿命の改善では不充分なこともある。
【0005】
図4は、歯車2’の内腔に最適な凸状の形状を作製することによってローラ端部の荷重を克服しようとする別の従来技術の試みを示す。これにより、ローラ4と軸5との接触面積6bの長さを最大にすることができる。しかしながら、この方法は、典型的な歯車製造技法を使用したのでは管理が困難であり、具体的には、研削およびホーニング仕上げでは、必要とされるこの異形の形状を容易かつ一貫して生み出すことができない。従来技術においては、歯車の内腔が、ローラ集合体の外側レースウェイとして機能する。ショットピーニングなど、歯車についていくつかの処理が存在し、それらは歯車の寿命を改善するが、ベアリング・レースウェイの寿命には悪い影響をもたらす。これらの処理は、実行が不可能であり、あるいは選択的に実行される必要がある。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、円筒形の内腔を備える歯車を有する歯車アセンブリを提供する。凸状のベアリング内表面を有するスリーブが、歯車の内腔に位置される。軸が、スリーブのベアリング内表面の内側に位置され、複数のローラが、軸とスリーブの凸状のベアリング内表面との間に位置される。さらにスリーブが、半径方向内向きに延びてローラをスリーブ内に軸方向について保持するように構成される対向する一対のフランジを含んでもよい。歯車は、はすば歯車であってよい。
【0007】
本発明の他の態様は、詳細な説明および添付の図面を検討することによって、明らかになるであろう。
【0008】
本発明の実施形態を詳しく説明する前に、本発明の適用が、以下の説明に記載され、あるいは添付の図面に示される細部の構成および構成部品の配置に限られないことを、理解すべきである。本発明について、他の実施形態も可能であり、本発明を、さまざまな方法で実現でき、あるいは実施することができる。また、本明細書において使用される表現および用語が、説明を目的とするものであって、本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことを、理解しなければならない。本明細書において、「含む(including)」、「備える(comprising)」、または「有する(having)」、ならびにこれらの変種の使用は、そこに挙げられる項目およびその均等物のほかに、さらなる項目も含まれることを意味する。「取り付けられる(mounted)」、「接続される(connected)」、「支持される(supported)」、および「結合される(coupled)」といった用語、ならびにこれらの変種は、指定または限定されていない限り、広い意味で使用され、直接的および間接的な取り付け、接続、支持、および結合の両者を包含する。また、「接続される(connected)」および「結合される(coupled)」は、物理的または機械的な接続または結合に限られない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、添付の図面を参照して説明する。添付の図面においては、全体を通じて、同様の符号が同様の構成要素を指し示す。例えば「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「正面」、「前方」、「背面」、「後ろ」、および「後方」などといった特定の用語は、以下の説明においては、相対的な説明の平明さを目的に使用されており、本発明を限定しようとするものではない。
【0010】
図5を参照すると、本発明の第1の実施形態であるはすば歯車アセンブリ10が示される。このはすば歯車アセンブリ10は、はすば歯車2、ベアリング・アセンブリ12、および内側軸5を含む。はすば歯車2が示されるが、本発明は、他の種類の歯車においても実施可能である。歯車2は、ベアリング・アセンブリ12と内側軸5とを収容するように構成された歯車内腔11を有する。歯車内腔11は、実質的に円筒形である非異形の内表面を備えて形成される。ベアリング・アセンブリ12は、複数のローラ4を異形のスリーブ14の内側に位置して含む。異形のスリーブ14は、凸状のベアリング内表面16を含む。凸状の表面16によって、ローラ4が傾くことができ、ローラ4と軸5との間の接触面積6cを最大化することができる。図5に見られるように、ローラ4と軸5との間の接触面積6cが、実質的にローラ4の軸方向の長さの全体に広がる。
【0011】
異形のスリーブ14は、好ましくは、引き抜きプロセスを使用して製造される。引き抜きプロセスは、適切な工作機械器具設備を使用することによって、スリーブ14に凸状の表面16を効率的に形成することを可能にする。形成された異形スリーブ12が、歯車2の内腔11へと圧入され、あるいは他のやり方で固定される。次いで、ローラ4を、例えば自動ローラ装填装置を利用するなど、既知のやり方でスリーブ12内へと装填できる。
【0012】
はすば歯車アセンブリ10が大きな荷重にさらされる用途においては、スリーブ12を、好ましくは、58HRc以上の硬さまで熱処理および無心焼入れできる高炭素材料から引き抜くことができる。高炭素鋼は、引き抜きされたとき、歯車の内腔のための典型的なホーニング加工を必要としない表面の仕上がり生み出す。さらに、所望であれば、異形のスリーブ12とはすば歯車2とを、異なる材料から形成することができる。またさらに、スリーブを、コーティングまたは特別な熱処理プロセスの使用によって、これらの処理を歯車全体に適用する必要なく、ベアリング・レースウェイの要件に合わせて最適化することができる。
【0013】
図6を参照すると、本発明の第2の実施形態であるはすば歯車アセンブリ20が示される。このはすば歯車アセンブリ20は、先の実施形態に類似しており、はすば歯車2、ベアリング・アセンブリ22、および内側軸5を含む。歯車2は、ベアリング・アセンブリ12と内側軸5とを収容するように構成された歯車内腔11を有する。歯車内腔11は、円筒形である非異形の内表面を備えて形成される。ベアリング・アセンブリ22は、複数のローラ4を異形のスリーブ24の内側に位置して含む。先の実施形態と同様、異形のスリーブ24は、ローラ4の傾きを可能にして、ローラ4と軸5との間の接触面積を最大化する凸状のベアリング内表面26を含む。さらに、本実施形態のスリーブ24は、ベアリング表面26の両端から延びる半径方向のフランジ28を備える。対向する両端のフランジ28が、ローラ4のための溝形状を形成する。歯車2、スリーブ24、およびベアリング・ローラ4が、好ましくは、例えば変速機における最終用途への設置に先立って前もって組み立てられ、端部のフランジ28がローラ4を軸方向について拘束する。ローラ4を、プラグ、保持用ケージ、または高粘度のグリスの使用など、既知の任意の保持手段を使用してスリーブ24内に保持することができる。このようなあらかじめの組み立てによって、組み立て時に全てのローラ4を装填するための最終組み立て者を、不要にすることができる。ローラが最終組み立て者によって組み立てられる場合には、ローラの設計を、当業者にとって一般的なやり方であるが、ローラを「要石状に固定(keystone)」または「斜めにして固定(skew lock)」できるように保証することによって、組み立てに合わせて最適化しなければならない場合もある。これは、組み立ての目的のために性能を損なうことにつながり得る。フランジ付きのスリーブを備えてあらかじめ組み立てられた歯車を使用することで、これらの設計上の妥協をなくすことができる。
【0014】
さらに、端部のフランジ28によって、ローラ4のための軸方向の当たり面をもたらすことができる。これらはすば歯車の典型的な用途においては、歯車2の各側にスラスト・ワッシャを組み込む必要がある。図7は、これまで使用されている典型的な歯車およびワッシャの配置を示す。鋼製のワッシャ8が、ローラ4の端部に当接して機能し、通常は鋼製でないワッシャであって、例えば青銅である摩擦低減用ワッシャ9が、軸受面として機能すべく鋼製ワッシャ8に隣接して位置する。
【0015】
図8は、この実施形態のはすば歯車アセンブリ20が、どのようにして歯車およびワッシャのアセンブリの全長を低減できるのかを示す。スリーブ24の端部のフランジ28が、図7に示した鋼製ワッシャ8と同様の当たり面を、ローラ4に提供する。図7のワッシャ9と同様の例えば青銅製のワッシャであり、スリーブ24の外径dにほぼ等しい内径を有する摩擦低減用ワッシャ30が、歯車2の幅の外側へと延びるスリーブ24のそれぞれの端部に設けられる。結果として、軸方向の当接および軸受の機能が、より小型のアセンブリにて達成される。
【0016】
さらに、フランジの内腔の直径fは、ローラ4を軸方向について保持するために充分な小ささであればよく、典型的には、ほぼローラ集合体のピッチ円の直径であればよい。フランジの内腔の直径fと軸の外径sとの間に残るすき間によって、ワッシャ8および9と軸5との間にほとんどすき間がない図7に示した従来のアセンブリに比べ、ベアリングへの潤滑剤の接近の改善がもたらされる。
【0017】
本発明の種々の特徴が、以下の特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】代表的な従来技術のはすば歯車アセンブリの等角投影図である。
【図2】図1の線2−2に沿ったはすば歯車アセンブリの断面図である。
【図3】図2に類似した断面図であって、山形の表面を備えて形成された軸を示す。
【図4】図2に類似した断面図であって、凸状の形状を備えて形成された歯車内腔を示す。
【図5】本発明の第1の実施形態であるはすば歯車アセンブリを示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるはすば歯車アセンブリを示す断面図である。
【図7】図2に類似した断面図であって、ワッシャ・アセンブリの内側に位置された従来技術のはすば歯車アセンブリを示す。
【図8】摩擦低減用ワッシャによって軸の周囲に設置および保持される図6のはすば歯車アセンブリを示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に円筒形の内腔を有する歯車、前記内腔に位置され凸状のベアリング内表面を有するスリーブ、前記ベアリング内表面の内側に位置される軸、および前記軸と前記凸状のベアリング内表面との間に位置される複数のローラを備える歯車アセンブリ。
【請求項2】
前記スリーブが、半径方向内向きに延びて前記ローラを前記スリーブ内に軸方向について保持するように構成される対向する一対のフランジをさらに備える請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項3】
前記半径方向内向きに延びるフランジが、前記スリーブへの潤滑剤の挿入を促進するため、前記フランジと前記軸との間に環状のすき間をもたらすように寸法付けられる請求項2に記載の歯車アセンブリ。
【請求項4】
前記複数のローラのそれぞれが、実質的に前記ローラの軸方向の長さの全体にわたって広がる接触面積にて、前記軸に接触する請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項5】
前記スリーブの外径へと位置できるように寸法付けられた内径を有するワッシャをさらに備える請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項6】
前記スリーブが、引き抜きされた高炭素材料で作られる請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項7】
前記スリーブが、58HRcを超える硬さを有する請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項8】
前記歯車の内腔がホーニングされていない請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項9】
前記歯車と前記スリーブとが異なる材料から作られる請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項10】
前記スリーブが前記歯車の内腔へと圧入される、請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項11】
前記歯車がはすば歯車である請求項1に記載の歯車アセンブリ。
【請求項12】
実質的に円筒形の内腔を有する歯車、
前記内腔に位置され凸状のベアリング内表面を有するスリーブ、前記ベアリング内表面の内側に位置される軸、および前記軸と前記凸状のベアリング内表面との間に位置される複数のローラを備えており、前記スリーブが、半径方向内向きに延びて前記ローラを前記スリーブ内に軸方向について保持するように構成される対向する一対のフランジをさらに備える歯車アセンブリ。
【請求項13】
前記半径方向内向きに延びるフランジが、前記スリーブへの潤滑剤の挿入を促進するため、前記フランジと前記軸との間に環状のすき間をもたらすように寸法付けられる請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項14】
前記複数のローラのそれぞれが、実質的に前記ローラの軸方向の長さの全体にわたって広がる接触面積にて前記軸に接触する請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項15】
前記スリーブの外径へと位置できるように寸法付けられた内径を有するワッシャをさらに備える請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項16】
前記スリーブが、引き抜きされた高炭素材料で作られる請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項17】
前記スリーブが、58HRcを超える硬さを有する請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項18】
前記歯車の内腔がホーニングされていない請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項19】
前記歯車と前記スリーブとが異なる材料から作られる請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項20】
前記スリーブが前記歯車の内腔へと圧入される請求項12に記載の歯車アセンブリ。
【請求項21】
前記歯車がはすば歯車である請求項12に記載の歯車アセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−537415(P2007−537415A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513289(P2007−513289)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/016371
【国際公開番号】WO2005/111471
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(505391713)ティムケン ユーエス コーポレーション (21)
【Fターム(参考)】