説明

アルコール類の製造方法

【課題】
本発明は、比較的温和な条件下でエステル又はラクトンからアルコール類を高収率かつ高触媒効率で製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、次の一般式(1)
Ru(H)(η1−BH)(L)(L) (1)
(式中、Lはビスホスフィン配位子を表し、Lはジアミン配位子を表す。)
で表される錯体を触媒としてエステル又はラクトンを水素還元することを特徴とするアルコール類の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル又はラクトンを水素還元してアルコール類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル及びラクトンを還元してアルコール類を得る方法は化学合成において重要である。一般に、接触還元によりエステル基やラクトン基を還元することは困難であるとされており、通常は従来より、化学量論量以上の水素化リチウムアルミニウムなどの水素化金属化合物を用いる方法がよく使用されている。しかし、触媒的水素化反応による方法は、副産物の大幅な低減、環境調和、安全性の面で優れており、その開発が望まれている。
このために、エステル又はラクトンを触媒的に水素化してアルコール類を製造する方法は、均一系触媒、不均一系触媒等で多くの提案がなされている。均一系触媒は不均一系触媒に比べて、多様な触媒設計ができるため、近年は均一系触媒による報告が多く見られる。例えば、特許文献1〜3及び非特許文献1、2には、ルテニウム化合物および有機ホスフィン化合物からなるルテニウム錯体を使用するエステル類の水素化反応が記載されている。また、特許文献4、5にはルテニウム化合物および二座又は四座のアミノホスフィンを配位子とするルテニウム錯体を用いた水素化反応が記載されている。特許文献1〜3および非特許文献1、2に記載の水素化反応はいずれも、収率および触媒効率をともに満たすものではなく、経済的に有利な方法と言いがたい。また特許文献2および非特許文献1に記載のエステルの水素化反応では含フッ素アルコールが溶媒として使用され、経済性、環境負荷の観点において課題を有する。特許文献4及び5に記載の方法は、水素化する際に多量の塩基が必要なため塩基に敏感なエステル類では官能基の脱離、重合やエステル交換等の副反応を併発するなどの問題点がある。
また、特許文献6には、ルテニウムヒドリド触媒を用いた均一系でのカルボニル基の水素化方法が開示されているが、この方法ではエステル基の水素化は困難であるとされていた(特許文献6の実施例8参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−247499号公報
【特許文献2】特開2004−300131号公報
【特許文献3】特表2005−524704号公報
【特許文献4】WO2006/106483
【特許文献5】WO2006/106484
【特許文献6】特開2004−238306号公報
【非特許文献1】J. Chem. Soc. Chem. Commun., 1980, 783
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, 1113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、比較的温和な条件下でエステル又はラクトンからアルコール類を高収率かつ高触媒効率で製造可能である、エステル又はラクトンからのアルコール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の事情に鑑み、鋭意検討を行った結果、ビスホスフィン化合物及びジアミン化合物を配位子とするルテニウムヒドリド錯体を触媒として用いることにより、エステル又はラクトンからアルコール類を高収率かつ高触媒効率で製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、ビスホスフィン化合物及びジアミン化合物を配位子とするルテニウムヒドリド錯体を触媒として、エステル又はラクトンを水素還元することによる対応するアルコール類の製造方法を提供するものである。
本発明をより詳細に説明すれば、本発明は、以下の[1]又は[2]に関するものである。
[1]一般式(1)
Ru(H)(η−BH)(L)(L) (1)
(式中、Lはビスホスフィン配位子を表し、Lはジアミン配位子を表す。)
で表される錯体を触媒としてエステル又はラクトンを水素還元することを特徴とするアルコール類の製造方法。
[2]エステル又はラクトンが光学活性体であり、得られるアルコール類の光学純度が、水素還元されるエステル又はラクトンの光学純度の90%以上の数値を保持していることを特徴とする前記[1]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、工業的に有利な比較的低い水素圧及び反応温度で、エステル及びラクトンからアルコール類を高収率、高触媒効率で製造することが可能である。また、還元されるエステル又はラクトンが光学活性体である場合でも、光学純度の低下を伴うことなくアルコール類へ還元することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において原料の水素化基質としてエステル又はラクトンが用いられる。水素化基質として用いられるエステルとしては、脂肪族カルボン酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル等が挙げられる。該エステルはモノカルボン酸由来でもポリカルボン酸由来でも良い。また、これらのエステル類やラクトン類は、本発明の水素化方法において悪影響を及ぼさないいかなる置換基で置換されていてもよい。
本発明において水素化基質として用いられるエステル類としては、例えば、下記の脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、オクチルエステル等の炭素数1〜30、好ましくは1〜20、1〜15、1〜10、又は1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基からなるアルキルエステル;フェニルエステル、ビフェニルエステル、ナフチルエステル等の炭素数6〜40、好ましくは6〜30、6〜20、又は6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基からなるアリールエステル;ベンジルエステル、1−フェネチルエステル等の炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)からなるアラルキルエステル等が挙げられる。
好ましいエステル類としては、メチルエステル、エチルエステルなどの炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキルエステルが挙げられる。より好ましいエステル類としてはメチルエステルが挙げられる。
【0008】
本発明の方法における原料の水素化基質のエステルを構成する脂肪族カルボン酸としては、置換基を有していても良い炭素数2〜30、2〜20、又は2〜15のモノ−又はポリカルボン酸が挙げられ、脂肪族カルボン酸における脂肪族基としては鎖状のものであっても環状のものであってもよい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、シュウ酸、プロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、アクリル酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸等が挙げられる。
また、これら脂肪族カルボン酸は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、保護されていてもよいアミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
上記脂肪族カルボン酸の置換基としてのアルキル基としては、直鎖又は分岐あるいは環状でもよい基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0009】
また、脂肪族カルボン酸の置換基としてのアルコキシ基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐又は環状(環状の場合は炭素数は3以上である。)のアルキル基からなるアルコキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
さらに、脂肪族カルボン酸の置換基としてのアミノ基としては、アミノ基;N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基;N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基;N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基;ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基;メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基;フェニルオキシカルボニルアミノ基等のアリールオキシカルボニルアミノ基;ベンジルオキシカルボニルアミノ基等のアラルキルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
また、脂肪族カルボン酸の置換基としてのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられ、これらアリール基は前記したようなアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基等で置換されていてもよい。
さらに、脂肪族カルボン酸の置換基としてのヘテロアリール基としては例えば炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
また、脂肪族カルボン酸の置換基としてのアラルキル基としては、ベンジル基、1−フェネチル基等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸の置換基としての保護されていてもよい水酸基としては、無保護の水酸基であってもよいが、例えば、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などのトリアルキルシリル基などの公知の水酸基の保護基で保護されていてもよい水酸基などが挙げられる。
脂肪酸カルボン酸の置換基としての保護されていてもよいアミノ基としては、無保護のアミノ基であってもよいが、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基などの公知のアミノ基の保護基で保護されていてもよいアミノ基などが挙げられる。
【0010】
本発明の方法における原料の水素化基質のエステルを構成する芳香族カルボン酸としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、若しくは縮合環式のアリール基;又は、1個〜4個、好ましくは1〜3個若しくは1〜2個の窒素原子、酸素原子、若しくは硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員、好ましくは5〜8員の環を有する単環式、多環式、若しくは縮合環式のヘテロアリール基を有する芳香族カルボン酸が挙げられ、例えば、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、ピリジンカルボン酸、キノリンカルボン酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸等が挙げられる。
また、これらの芳香族カルボン酸は前記したようなアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、保護されていてもよいアミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、保護されていてもよい水酸基等で置換されていてもよい。
【0011】
一方、本発明において用いられるラクトン類としては、β−ラクトン、γ−ラクトン、δ−ラクトン等が挙げられ、これらのラクトン類は前記したようなアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、保護されていてもよいアミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、保護されていてもよい水酸基等で置換されていてもよい。また、ビシクロ環構造や芳香族環と縮合環構造を有していても良い。
【0012】
次に、本発明に用いられる下記一般式(1)、
一般式(1):
Ru(H)(η−BH)(L)(L) (1)
(式中、Lはビスホスフィン配位子を表し、Lはジアミン配位子を表す。)
で表されるルテニウム錯体について説明する。
まず、本発明に用いられるビスホスフィン配位子について説明する。
一般式(1)におけるLで表されるビスホスフィン配位子としては、例えば下記一般式(2)、
一般式(2):
P−Q−PR (2)
(式中、R、R、R及びRは同一又は異なっていてもよく、アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいシクロアルキル基を表し、RとRとで及び/又はRとRとで環を形成してもよい。Qは、置換基を有していてもよいアルキレン鎖、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基、置換基を有していてもよい二価のアリーレン基、又は置換基を有していてもよいフェロセンジイル基を表す。)
で表されるものが挙げられる。
【0013】
上記式中、R、R、R及びRで表される、アルキル基としては炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられる。
上記式中、R、R、R及びRで表される、置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜14の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。これらアリール基の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基等が挙げられる。
該アリール基の置換基としてのアルキル基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基及びt−ブチル基等が挙げられる。
また、該アリール基の置換基としてのアルコキシ基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基及びt−ブトキシ基等が挙げられる。
前記したアリール基はさらに他のアリール基で置換されていてもよく、当該置換基としてのアリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
前記したアリール基の置換基としての複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられ、脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、2−オキソピロリジル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。また、芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0014】
また、R、R、R及びRで表される、置換基を有していてもよいシクロアルキル基のシクロアルキル基としては、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、好ましくは5員環又は6員環のシクロアルキル基が挙げられる。好ましいシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらシクロアルキル基の環上においては、前記アリール基の置換基として挙げたようなアルキル基又はアルコキシ基等の置換基が、1個又は2個以上置換していてもよい。
また、RとR及び/又はRとRとで形成してもよい環としては、R、R、R及びRが結合しているリン原子を含めた環として、炭素数3〜10、好ましくは3〜5のアルキレン基で形成される4員環、5員環又は6員環の環が挙げられる。具体的な環としては、ホスフェタン環、ホスホラン環、ホスファン環、2,4−ジメチルホスフェタン環、2,4−ジエチルホスフェタン環、2,5−ジメチルホスホラン環、2,5−ジエチルホスホラン環、2,6−ジメチルホスファン環、2,6−ジエチルホスファン環等が挙げられる。環を形成する前記したアルキレン基は、前記してきたような各種の置換基で置換されていてもよい。
【0015】
また、Qで表される、置換基を有していても良いアルキレン鎖のアルキレン鎖としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、炭素数1〜6の鎖状又は分岐状のアルキル鎖が挙げられ、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。これらアルキレン鎖に置換する置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
で表される、置換基を有していても良いシクロアルキレン基のシクロアルキレン鎖としては、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10、4〜6の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基からなる2価の基が挙げられ、例えば、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。これらシクロアルキレン基の置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
で表される、置換基を有していてもよい二価のアリーレン基の二価のアリーレン基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基からなる2価の基が挙げられ、例えば、フェニレン基、ビフェニルジイル基、ビナフタレンジイル基等が挙げられる。フェニレン基としては、o又はm−フェニレン基が挙げられ、これらのアリーレン基における置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基及びt−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基及びt−ブトキシ基等のアルコキシ基;水酸基;アミノ基又は置換アミノ基等の置換基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ビフェニルジイル基及びビナフタレンジイル基としては、1,1’−ビアリール−2,2’−ジイル型の構造を有するものが好ましく、これらのビフェニルジイル基及びビナフタレンジイル基における置換基としては、前記したようなアルキル基、アルコキシ基、例えばメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、トリメチレンジオキシ基等のアルキレンジオキシ基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等の置換基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、Qで表される、置換基を有していてもよいフェロセンジイル基の置換基としては、前記したようなアルキル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
前記した一般式(2)で表されるビスホスフィン化合物の具体例としては、例えば、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、1,2−ビス(アニシルフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(アルキルメチルホスフィノ)エタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5−ノルボルネン、2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1−シクロヘキシル−1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,2−ビス(2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン、1,2−ビス(2,5−ジエチルホスホラノ)ベンゼン、1,2−ビス(2,5−ジメチルホスホラノ)エタン、1,2−ビス(2,5−ジエチルホスホラノ)エタン、1−(2−メチルホスホラノ)−2−(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビシクロペンタン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−(5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロビナフチル)、2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、(4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5,5’−ジイルビス(ジフェニルホスフィン)、(4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5,5’−ジイルビス[ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン]、[[4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール]−5,5’−ジイル]ビス[ビス[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メトキシフェニル]ホスフィン]、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゾフェノン、2,2’−ビス(ジ(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
またこの他にも、以下に示すビスホスフィン化合物等も挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
これらの式中のArは、置換基を有してもよいアリール基を示す。当該アリール基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられ、置換基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい、Ar基としては、フェニル基、p−トリル基、3,5−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
もちろん、本発明に用いることのできるビスホスフィン配位子はこれらに限定されるものではない。
【0019】
続いて、本発明に用いられるジアミン配位子について説明する。
一般式(1)におけるLで表されるジアミン配位子としては、下記一般式(3)、
N−Q−NR (3)
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルカン又はアレーンスルホニル基を表し、Qは置換基を有していてもよいアルキレン鎖、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基又は置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。)
で表されるものが挙げられる。
一般式(3)における置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば前記したR、R、R及びRの説明で例示されたような基が挙げられる。
一般式(3)における置換基を有していてもよいアリール基のアリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。該アリール基の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、モノ又はジ置換アミノ基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、一般式(3)における置換基を有していてもよいアルカン又はアレーンスルホニル基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分枝状のアルカン、又は炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、若しくは縮合環式のアレーンに結合したスルホニル基が挙げられ、例えば、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等が挙げられる。
一般式(3)のQにおける置換基を有していてもよいアルキレン鎖、及び置換基を有していてもよいシクロアルキレン基としては、前記してきたQと同様のものが挙げられる。
【0020】
一般式(1)におけるLで表されるジアミン配位子としては、具体的には、例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、3−メチル−1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、1,2−ジアミノシクロペンタン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘプタン、N−メチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルエチレンジアミン、2,3−ジメチル−2,3−ジアミノブタン、o−フェニレンジアミン、2−(アミノメチル)ピリジン、2−ジメチルアミノ−1−フェニルエチルアミン、2−ジエチルアミノ−1−フェニルエチルアミン、2−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルエチルアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1,2−ジシクロヘキシルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、1,2−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)エチレンジアミン、1,2−ビス(4−ジプロピルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−ベンゼンスルホニル−1,2−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−p−トルエンスルホニル−1,2−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−メタンスルホニル−1,2−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−トリフルオロメタンスルホニル−1,2−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−ベンゼンスルホニル−1,2−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)エチレンジアミン、N−ベンゼンスルホニル−1,2−ビス(4−ジプロピルアミノフェニル)エチレンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ジアミノブタン、1−メチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−ベンジル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、N,N’−ビス(フェニルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン、N,N’−ビス(メシチルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン、N,N’−ビス(ナフチルメチル)−1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン等が挙げられる。
もちろん、本発明に用いることのできるジアミン配位子はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明で用いられるルテニウム錯体を製造するための出発原料であるルテニウム化合物としては、例えば、RuCl水和物、RuBr水和物、RuI水和物等の無機ルテニウム化合物、RuCl(DMSO)、[Ru(cod)Cl]n、[Ru(nbd)Cl]n、[Ru(benzene)Cl、[Ru(benzene)Br、[Ru(benzene)I、[Ru(p−cymene)Cl、[Ru(p−cymene)Br、[Ru(p−cymene)I、[Ru(mesitylene)Cl、[Ru(mesitylene)Br、[Ru(mesitylene)I、[Ru(hexamethylbenzene)Cl、[Ru(hexamethylbenzene)Br、[Ru(hexamethylbenzene)I、RuCl(PPh、RuBr(PPh、RuI(PPh、RuH(PPh、RuClH(PPh、RuH(PPh等が挙げられる。例示中、DMSOはジメチルスルホキシド、codは1,5−シクロオクタジエン、nbdはノルボルナジエン、Phはフェニル基をそれぞれ表す。
【0022】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、例えば、特開2004−238306号公報に記載の方法などにより得ることができる。例えば、ルテニウム化合物を溶媒中でビスホスフィン配位子と反応させ、次いで、得られた化合物をジアミン配位子と反応させ、さらに水素化ホウ素金属化合物と反応させる方法などにより得ることができる。
出発原料であるルテニウム化合物とビスホスフィン配位子との反応は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒中で、反応温度−100℃〜200℃で行うことにより、ルテニウム−ビスホスフィン錯体を得ることができる。
得られたルテニウム−ビスホスフィン錯体とジアミン配位子との反応は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒中で、反応温度−100℃〜200℃で行うことにより、ルテニウム−ビスホスフィン−ジアミン錯体を得ることができる。
【0023】
さらに、得られたルテニウム−ビスホスフィン−ジアミン錯体を、水素化ホウ素金属化合物にてヒドリド化することにより、一般式(1)で表されるルテニウムヒドリド錯体を得ることができる。例えば、ルテニウム−ビスホスフィン−ジアミン錯体を、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒などの有機溶媒中で、反応温度−100℃〜200℃で、水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素金属化合物と反応させることで、一般式(1)で表されるルテニウムヒドリド錯体を得ることができる。また、最初に、ルテニウム−ビスホスフィン錯体を、ルテニウム−ビスホスフィン−ヒドリド錯体に変換した後、ジアミンと反応させて一般式(1)で表されるルテニウムヒドリド錯体を得ることもできる。なお、本明細書中、一般式(1)で表される錯体は一つのジアステレオマーに限るものではなく、シス体、トランス体のいずれであってもよい。
【0024】
本発明のアルコール類の製造方法は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが好ましい。用いられる溶媒としては、基質および触媒を溶解できるものが好ましく、単一溶媒あるいは混合溶媒が用いられる。具体的にはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルt−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等の多価アルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、ピリジン、トリエチルアミン等のアミン類等が挙げられる。この中でもエーテル類が好ましい。特に好ましい溶媒としては、テトラヒドロフランが挙げられる。溶媒の使用量は、反応条件等により適宜選択することができるが、原料に対して0.5mol/L〜8.0mol/L、好ましくは0.8mol/L〜2.0mol/Lである。反応は必要に応じ撹拌下に行われる。
【0025】
触媒の使用量は、水素化基質、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常、水素化基質に対するルテニウム金属としてのモル比で0.001モル%〜10モル%、好ましくは0.05モル%〜1モル%の範囲である。
本発明の方法において、水素還元を行う際の反応温度は、10℃〜150℃、好ましくは70℃〜120℃である。反応温度が低すぎると未反応の原料が多く残存する場合があり、また高すぎると、原料、触媒等の分解が起こる場合があり、好ましくない。
本発明において、水素還元を行う際の水素の圧力は、0.5MPa〜10MPa、好ましくは1〜6MPa、さらに好ましくは3MPa〜6MPaである。
また反応時間は8時間〜16時間程度で十分に高い原料転化率を得ることができる。
反応終了後は、抽出、濾過、結晶化、蒸留、各種クロマトグラフィー等、通常用いられる精製法を単独又は適宜組み合わせることにより目的のアルコール類を得ることができる。
【0026】
以下に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、転化率、選択率、光学純度の測定はガスクロマトグラフィー(GC)及び液体クロマトグラフィー(LC)で行った。用いた装置は次のとおりである。
転化率・選択率
GC: GC353B(GLサイエンス社製)
カラム:TC−WAX 0.25mm(I.D.)×30m(length),
0.250μm(thickness) (GLサイエンス社製)
LC: SERIES 1100(HEWLETT PACKARD社製)
光学純度
GC: 5890 SERIES II plus(HEWLETT PACKARD社製)
H−NMRスペクトル及び31P−NMRスペクトルの測定はバリアンテクノロジージャパンリミテッド製Mercury plus 300 4N 型(H−NMR 300MHz,31P−NMR 121MHz)を用いて実施した。
なお、今回水素化原料として用いたα−アミノ酸メチルエステル類は、市販のアミノ酸メチルエステル塩酸塩から、テオドーラ W.グリーン、ピーター G.M.ウッツ、「プロテクティング グループス イン オーガニック シンセシス 第二版」ジョン ウイリー アンド サンズ、1991(Theodora W.Greene,Peter G.M.Wuts,PROTECTING GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Eddition,JOHN WILEY & SONS,INC.1991)に記載されている手法を参考に合成した。なお、L−アラニンメチルエステル塩酸塩((S)−2−アミノプロピオン酸メチル塩酸塩)はAldrich社から、L−プロリンメチルエステル塩酸塩((S)−ピロリジン−2−カルボン酸メチルエステル塩酸塩)は和光純薬から購入したものを使用した。
【0027】
合成例1
100mLのシュレンク型反応管に1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)(680mg、1.65mmol)と、[Ru(benzene)Cl(408.2mg、0.816mmol)を量り取り、容器内を窒素置換した。窒素雰囲気下、DMF(30mL)を加えた後、120℃のオイルバス中で4.0時間加熱した後、オイルバスを60℃まで冷却して、減圧下(1mmHg)でDMFを留去した。ジクロロメタン(25mL)と1,2−ジフェニルエチレンジアミン(dpen)(350mg、1.65mmol)を加えた後、40℃のオイルバス中で2.0時間加熱した。減圧下(1mmHg)でジクロロメタンを留去して、NaBH(1.56g、41.2mmol)、トルエン(15mL)、エタノール(15mL)を加えた。65℃のオイルバスで5分加熱した後、室温で30分撹拌した。
反応溶液をセライト濾過した濾液から溶媒を減圧下(1mmHg)で留去した。得られた残渣にトルエン(50mL)を加えて40℃のオイルバスで加熱して30分撹拌した。反応液をセライト濾過した濾液から溶媒を減圧下(1mmHg)で留去して、得られた粉体を減圧下(1mmHg)で乾燥、1.1gのRuH(η−BH4)(dppp)(dpen)(錯体1)を得た。(収率90%)
H−NMR (C):δ(ppm)
7.84(m, 3H), 7.31(m, 3H), 6.94(m, 3H), 6.86-6.35(m, 19H), 6.23(m, 2H),
4.34(m, 1H), 4.04(m, 1H), 3.67(m, 1H), 3.37(m, 1H), 2.49(m, 2H),
2.27(m, 1H), 2.04(m, 3H), 1.47(m, 1H), 1.14(m, 1H), -0.81(br, 4H),
-15.26(m, 1H).
31P−NMR (C):δ(ppm)
57.78, 57.66.
【0028】
合成例2
合成例1における1,2−ジフェニルエチレンジアミン(dpen)に代えて、エチレンジアミン(en)を用いた以外は合成例1と同様にして、RuH(η−BH)(dppp)(en)(錯体2)を得た。
【0029】
合成例3
合成例1における1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)に代えて、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)を用いた以外は合成例1と同様にして、RuH(η−BH)(dppb)(dpen)(錯体3)を得た。
【実施例1】
【0030】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、安息香酸メチル(4.0mmol)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.008mmol)、テトラヒドロフラン(3mL)を加え、水素圧5MPa、100℃で8時間水素化を行った。水素化の結果、転化率97.4%、選択率100%でベンジルアルコールが得られた。
【実施例2】
【0031】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ブタン酸メチル(2.0mmol、光学純度98.8%ee)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.01mmol)、テトラヒドロフラン(0.5mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率100%、選択率98.8%で(S)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ブタノールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、98.8%eeであり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。なお、光学純度は、得られたアルコールをアセチル化して測定した。
転化率・選択率分析条件: 注入温度 250℃, 検出温度 250℃
80℃(1分)−10℃/分−250℃(12分)
光学純度分析条件: 注入温度 250℃, 検出温度 250℃
100℃ 一定(カラム:CHIRASIL−DEX CB)
【実施例3】
【0032】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)プロピオン酸メチル(2.1mmol、光学純度97.0%ee)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.01mmol)、テトラヒドロフラン(1.0mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率100%、選択率30.4%で(S)−2−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−プロパノール、選択率69.0%で(S)−1−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−2−プロパノールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、いずれも97.0%eeであり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。
転化率・選択率分析条件: 注入温度 250℃, 検出温度 250℃
60℃(1分)−10℃/分−250℃(10分)
光学純度分析条件: 注入温度 250℃, 検出温度 250℃
100℃ 一定(カラム:CHIRASIL−DEX CB)
【実施例4】
【0033】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−3−(フェニルアミノ)−ブタン酸メチル(2.8mmol、光学純度93.9%ee)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.014mmol)、テトラヒドロフラン(1mL)を加え、水素圧5MPa、100℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率100%、選択率99.8%で(S)−3−フェニルアミノ−1−ブタノールが得られた。得られた(S)−3−フェニルアミノ−1−ブタノールの光学純度を測定したところ、93.9%eeであり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。なお、光学純度の測定は、得られたアルコールをアセチル化して測定した。
転化率・選択率分析条件: 注入温度 250℃, 検出温度 250℃
80℃(1分)−10℃/分−250℃(12分)
光学純度分析条件: カラム CHIRALCEL OJ−H、
溶離液 ヘキサン/2−プロパノール=90/10
流速 0.5mL/分、 カラム温度 30℃、
UV 254nm
【実施例5】
【0034】
前記した実施例2において、錯体1(0.01mmol)に代えて、合成例2で製造したRuH(η−BH)(dppp)(en)(錯体2)(0.02mmol)(1モル%)を使用した以外は実施例2と同様にして、(S)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ブタノールを製造した。
転化率は96.7%で、選択率は94.7%であり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。
【実施例6】
【0035】
前記した実施例2において、錯体1(0.01mmol)に代えて、合成例3で製造したRuH(η−BH)(dppb)(dpen)(錯体3)(0.02mmol)(1モル%)を使用した以外は実施例2と同様にして、(S)−3−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)−1−ブタノールを製造した。
転化率は100%で、選択率は98.8%であり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。
【実施例7】
【0036】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、3−メトキシプロピオン酸メチル(4.27mmol)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.021mmol)、テトラヒドロフラン(1mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率79.8%、選択率94.1%で3−メトキシ−1−プロパノールが得られた。
【実施例8】
【0037】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−3−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ブタン酸メチル(2.3mmol、光学純度 >99.0%ee)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.023mmol)、テトラヒドロフラン(1mL)を加え、水素圧5MPa、100℃で17時間水素化を行った。水素化の結果、転化率99.4%、選択率98.8%で(S)−3−(t−ブトキシカルボニルアミノ)−1−ブタノールが得られた。得られた(S)−3−(t−ブトキシカルボニルアミノ)−1−ブタノールの光学純度を測定したところ、>99.0%eeであり、水素化による光学純度の低下は見られなかった。なお、光学純度は、得られたアルコールをp−ニトロベンゾイル化して測定した。
光学純度分析条件: カラム:CHIRALPAK AD 4.6mm(I.D.)×250mm(length),10μm(P.S.) (ダイセル化学工業社製)
溶離液 ヘキサン/IPA=90/10、流量 1.0ml/min、カラム温度 40℃、UV 254nm
【実施例9】
【0038】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−2−(t−ブトキシカルボニルアミノ)プロピオン酸メチル(2.46mmol)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.0246mmol)、テトラヒドロフラン(1mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率100%、選択率98.9%で(S)−2−(t−ブトキシカルボニルアミノ)−1−プロパノールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、99.3%eeであり、基質エステルの光学純度の90%以上を保持していることが確認された。なお、光学純度は、得られたアルコールをp−ニトロベンゾイル化して測定した。
光学純度分析条件: カラム:CHIRALCEL OD 4.6mm(I.D.)×250mm(length),10μm(P.S.) (ダイセル化学工業社製)
溶離液 ヘキサン/IPA=95/5、流量 1.0ml/min、カラム温度 40℃、UV 254nm
【実施例10】
【0039】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−2−ヒドロキシプロピオン酸メチル(5.0mmol、光学純度 99.6%ee)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.05mmol)、テトラヒドロフラン(2mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で17時間水素化を行った。水素化の結果、転化率62.0%、選択率96.8%で(S)−1,2−プロパンジオールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、92.5%eeであり、基質エステルの光学純度の90%以上を保持していることが確認された。なお、光学純度は、得られたアルコールをカーボネート化して測定した。
光学純度分析条件: カラム:β―DEX 225 0.25mm(I.D.)×30
m(length),0.250μm(thickness) (SUPELCO社製)
注入温度 250℃, 検出温度 250℃ 170℃ 一定
【実施例11】
【0040】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−2−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)プロピオン酸メチル(4.2mmol)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.042mmol)、テトラヒドロフラン(2mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率96.0%、選択率77.7%で(S)−2−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)−1−プロパノールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、98.8%eeであり、基質エステルの光学純度の90%以上を保持していることが確認された。
転化率・選択率分析条件:カラム:Inertsil ODS−3 4.6mm(I.D.)×250mm(length),5μm(P.S.) (GLサイエンス社製)
溶離液 アセトニトリル/メタノール/水=30/30/40 〜 70/0/30、流量 0.5ml/min、カラム温度 30℃、UV 254nm
光学純度分析条件: カラム:CHIRALCEL OJ−H 4.6mm(I.D.)×250mm(length),5μm(P.S.) (ダイセル化学工業社製)
溶離液 ヘキサン/エタノール=90/10、流量 1.0ml/min、カラム温度 40℃、UV 254nm


【実施例12】
【0041】
撹拌子を入れた100mLのオートクレーブに、(S)−N−(t−ブトキシカルボニル)−ピロリジン−2−カルボン酸メチルエステル(5.0mmol)、上記の合成例1で得られた錯体1(0.05mmol)、テトラヒドロフラン(2mL)を加え、水素圧5MPa、80℃で16時間水素化を行った。水素化の結果、転化率100%、選択率98.8%で(S)−1−(t−ブトキシカルボニル)−2−ピロリジンメタノールが得られた。得られたアルコールの光学純度を測定したところ、99.9%eeであり、基質エステルの光学純度の90%以上を保持していることが確認された。なお、光学純度は、得られたアルコールをp−ニトロベンゾイル化して測定した。
光学純度分析条件: カラム:CHIRALCEL OD−H 4.6mm(I.D.)×250mm(length),5μm(P.S.) (ダイセル化学工業社製)
溶離液 ヘキサン/IPA=99/1、流量 1.0ml/min、カラム温度 40℃、UV 254nm
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、工業的に有利な比較的低い水素圧及び反応温度で、エステル類やラクトン類から直接対応するアルコール類を高収率、高触媒効率で、しかも光学純度の低下を伴うことなく製造することができる方法を提供するものであり、食品工業、医薬品工業、化粧品工業、香料工業などの各種の産業分野、特に化学産業分野において有用な化学製品の製造方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
Ru(H)(η−BH)(L)(L) (1)
(式中、Lはビスホスフィン配位子を表し、Lはジアミン配位子を表す。)
で表されるルテニウム錯体を触媒として、エステル又はラクトンを水素還元することによる対応するアルコール類の製造方法。
【請求項2】
エステル又はラクトンが光学活性体であり、得られるアルコール類の光学純度が、水素還元されるエステル又はラクトンの光学純度の90%以上の数値を保持していることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−1545(P2009−1545A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114075(P2008−114075)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】