説明

イオンビーム発生器

【課題】グリッド・アセンブリ内の熱ひずみが小さいイオンビーム発生器を提供すること。
【解決手段】放電チャンバの側壁(1A)、取付けプラットホーム(40)および抽出グリッド電極アセンブリ(20)の熱膨張係数α、αおよびαが、α>α≧αの関係を有するように選択される。たとえば、放電チャンバ側壁の材料はステンレス鋼またはアルミニウムであり、グリッドの材料はMo、WまたはCであり、また、プラットホームの材料はTiまたはMoである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンビーム発生器に関し、詳細にはグリッド中の熱ひずみを小さくするための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2005−506656号に従来のイオンビーム発生器の1つが開示されている。スパッタリング・システムまたはエッチング・システムにイオンビーム発生器を使用する場合、アルゴンなどの適切なガスがガス導入手段を介して放電チャンバに導入される。プラズマは、このガスにrf電力を印加することによって生成される。通常、生成されたプラズマは、放電チャンバ内に閉じ込められる。プラズマの一部は、個々のファセット内のイオンビーム抽出ユニットの近傍に存在している。イオンビーム抽出ユニットの各々には、放電チャンバからイオンをその中に抽出し、イオンをそれによって加速するグリッドのアセンブリが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−506656号:PCT/GB2002/002544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のイオンビーム発生器は、動作中、ビーム抽出ユニットが熱によって膨張し、そのためにユニットのグリッドがひずむ、という技術的な問題を抱えている。したがってビーム抽出効率が低下し、延いてはエッチング性能あるいはスパッタリング性能が悪くなっている。したがって本発明の目的は、プロセス品質において改善されたイオンビーム発生器を提供するために、抽出ユニット内の熱ひずみを防止する(小さくする)ことである。熱ひずみのこのような低減により、長期間にわたる安定した性能が得られるだけでなく、イオンビーム発生器のスタートアップ時間が短縮される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、プラズマ放電チャンバと、プラズマ放電チャンバ内に生成されるプラズマ中のイオンを抽出してイオンビームを生成する抽出電極アセンブリと、プラズマ放電チャンバと抽出電極アセンブリの間に配置された、プラズマ放電チャンバに抽出電極アセンブリを取り付けるための取付けプラットホームとを備えたイオンビーム発生器であって、プラズマ放電チャンバの側壁のうちの少なくとも取付けプラットホームと接触している部分が熱膨張係数TEC=αを有し、取付けプラットホームが熱膨張係数TEC=αを有し、また、抽出電極アセンブリが熱膨張係数TEC=αを有しているとすると、α、α、αが式α>α≧αを満足するイオンビーム発生器が提供される。
実施形態では、抽出電極アセンブリは、スクリーン・グリッド、加速器グリッドおよび減速器グリッドを備えている。プラズマ放電チャンバの側壁は、ステンレス鋼またはアルミニウムでできている。取付けプラットホームは、TiまたはMoでできている。これらのグリッドは、Mo、WまたはCでできている。個々のグリッドの厚さは2mm以上である。スクリーン・グリッドは、イオンビームが通過する複数の開口を有しており、個々の開口は、直線的に穿たれた、直径が異なる第1および第2の孔を有している。これらの孔はテーパ孔で結合されており、直径が大きい方の孔が加速器グリッドに面している。
本発明の他の態様によれば、プラズマ放電チャンバと、プラズマ放電チャンバの環状側壁に取り付けられた、第1のリング部材および第2のリング部材を備えたリング様取付けプラットホームと、取付けプラットホームの第1のリング部材と第2のリング部材の間に取り付けられた円板様抽出電極アセンブリと、絶縁体によって取り囲まれたボルトとを備えたイオンビーム発生器であって、
取付けプラットホームの第1、第2のリング部材および抽出電極アセンブリの各々がその周辺縁領域にボルト開口を有し、絶縁体によって取り囲まれたボルトがこのボルト開口を通って貫通し、貫通したこのボルトが抽出電極アセンブリを第1のリング部材と第2のリング部材の間に固定し、また、
抽出電極アセンブリ内のボルト開口の内側面がボルトを取り囲んでいる絶縁体の外部表面と緊密に接触し、第1および第2のリング部材中のボルト開口が半径方向に細長くなっており、したがって第1および第2のリング部材中のボルト開口の内側面と、ボルトを取り囲んでいる絶縁体の外部表面との間に空間が存在しているイオンビーム発生器が提供される。この態様の場合、上記熱膨張係数は、式α>α≧αで表される関係を有している。
【発明の効果】
【0006】
本発明のイオンビーム発生器によれば、グリッド中のひずみが抑制され、したがって高品質イオンビームが生成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明によるイオンビーム発生器を備えた基板処理装置の略図である。
【図2】この実施形態によるイオンビーム発生器の第1の実施形態の横断面図である。
【図3】本発明によるイオンビーム発生器内のグリッドの平面図である。
【図4】本発明によるイオンビーム発生器内のグリッド・アセンブリの横断面図である。
【図5】本発明によるイオンビーム発生器の第2の実施形態の横断面図である。
【図6】図2のイオンビーム発生器の第1の実施形態における熱膨張した第1のリングを示す図である。
【図7】図5のイオンビーム発生器の第2の実施形態における熱膨張した第1のリングを示す図である。
【図8】イオンビーム発生器内のステンレス鋼製取付けプラットホームに対するエッチング速度および一様性の時間依存性を示すグラフである。
【図9】イオンビーム発生器内のチタン製取付けプラットホームに対する速度および一様性の時間依存性の改善を示すグラフである。
【図10】本発明によるイオンビーム発生器を備えた成膜用イオンビームスパッタリング装置の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0009】
本発明の一実施形態による、たとえばエッチング装置などの基板処理装置について、図1を参照して説明する。図1は、基板エッチング装置の構成を示したものである。図1に示されている基板処理装置100は、基板処理チャンバ2、基板(ウェーハ)10を保持するように構成されたホルダ11、基板ホルダ11をサポートする回転可能ステージ12、イオンビームを生成するためのイオンビーム発生器200およびチャンバ2の内部の大気を排気するための真空ポンプ3を備えている。イオンビーム発生器200の中には、プラズマ放電チャンバ1の前側表面に、プラズマ中のイオンを抽出するための抽出電極アセンブリ20が配置されている。基板ホルダ11は、イオンビームBが移動する方向に対して、選択された角度で傾斜するように構成されている。入射するイオンビームに対するウェーハ表面の角度は、ステージ12をパンすることによって変更することができる。基板は、スリットSを介してイオンビーム・エッチング・チャンバの中へ輸送され、また、イオンビーム・エッチング・チャンバから搬出される。
【0010】
図2は、イオンビーム発生器200の第1の実施形態の横断面図である。抽出電極アセンブリ20は、3つの円板状グリッド21、22および23からなっており、これらのグリッドの開口は整列している。抽出電極アセンブリ20は、環状またはリング状取付けプラットホーム40を介してプラズマ放電チャンバ1の環状側壁1Aに取り付けられている。円板状グリッド21〜23の環状周辺領域をプラズマ放電チャンバ1の上に取り付けるための取付けプラットホーム40は、キャップ・リング41ならびに第1および第2のリング42および43を備えている。キャップ・リング41は、チャンバ1の側壁1Aに取り付けられている。第1のリング42は、キャップ・リング41と接触している。第1のリング42の下部表面は、スクリーン・グリッド21と接触している。グリッド21、22および23は、第1のリング42と第2のリング43の間に配置されており、これらは、すべて、アセンブリ20をリング42と43の間にはさんで一体にボルト締めされている。金属固定ボルト28が第2のリング43にねじ込まれており、抽出電極アセンブリ20を取付けプラットホーム−第1のリング42の上に確実に取り付けている。金属固定ボルト28は、円筒状アライメント絶縁体30によってスクリーン・グリッド21、加速グリッド22および減速グリッド23から絶縁されている。金属固定ボルト28は、さらに、絶縁ボルト・キャップ27によってキャップ・リング41から絶縁されている。固定ボルト28の頂部はキャップ・リング41で蓋がされているが、絶縁ボルト・キャップ27は、キャップ・リング41によって所定の位置に保持されている。円筒状絶縁体30は、グリッド21、22および23のグリッド開口のためのアライメント・フィクスチャとして機能している。グリッド21、22および23の各々の開口36の内部表面は、絶縁体30の外部表面と緊密に接触している。グリッド21、22および23は、円筒状絶縁体30に固定されている。つまり、固定ボルト28は、第1および第2のリング42および43ならびに抽出電極アセンブリ20の開口すなわちボルト孔に挿入された円筒状アライメント絶縁体30によって覆われており、したがって抽出電極アセンブリ20のすべてのグリッドは、それぞれの位置で正確に整列している。第2のリング43の上部表面は減速グリッド23と接触している。スペーサ絶縁体29Aは、スクリーン・グリッド21と加速グリッド22の間に配置されている。スペーサ絶縁体29Bは、加速グリッド22と減速グリッド23の間に配置されている。電極アセンブリは、サイズに応じて、電極縁の周囲に一様に分散した20個を超えるボルト開口を、それに付随する円筒状絶縁体、スペーサおよび絶縁キャップと共に有することができる。抽出電極アセンブリ20をプラズマ・チャンバ1の側壁1Aに取り付けるための他の手段を取付けプラットホーム40内に提供することができる。たとえば、上で言及した、第1のリング42をチャンバ1の側壁1Aにボルト締めするための孔と孔の間に、貫通孔すなわち開口を提供することができる。また、スクリーン・グリッド21を第1のリングおよびキャップ・リングと共にチャンバ1の側壁1Aにボルト締めすることも可能である。グリッド21、22および23は、プラズマ放電チャンバ1の側壁1Aから電気的に分離されている。
【0011】
図1および2の実施形態では、チャンバ1の側壁1Aに使用されている共通の材料は、AlまたはSUSである。チャンバ内へ外部磁界または電界を与える誘導的に結合された電力ソースの場合、プラズマ・チャンバ1のいくつかの部分には、通常、アルミナまたは水晶などの誘電材料が利用されている。誘電材料は、通常、SUSまたはAlなどの剛直材料によって所定の位置に保持され、かつ、サポートされている。さらに、取付けプラットホーム40が取り付けられる部分は、強く、かつ、剛直でなければならず、同じくAlまたはSUSのいずれかでできている。プラズマ放電チャンバ2は、空気または水による強制冷却することができる。グリッド21、22および23は、通常、熱膨張係数が小さく、また、高温での強度が高いため、MoまたはCでできている。取付けプラットホームに対してはその剛直性に重点が置かれてきた。Moグリッド上の取付け孔を(熱)膨張方向に沿って細長くすることも可能であるが、これらのグリッドの相互の整列が重要であり、妥協があってはならない。
放電チャンバ1の側壁1Aは、プラズマが放電チャンバ1内で点火されると温かくなる。また、電極グリッド21、22および23も同じく加熱されるが、これらのグリッドの熱容量は放電チャンバ1の熱容量より小さいため、グリッド21、22および23は著しく加熱されることになる。さらに、加速器電圧が高い場合、加速器グリッド22は、材料をスパッタリングするだけの十分なエネルギーでイオンを引き付けることができる。また、高エネルギー・イオンは加熱にも寄与している。冷却は、通常は取付けプラットホームおよび放電チャンバ壁と接触しているグリッド縁に対する放射および伝導によって実行される。高い温度および温度勾配は、エッチングの一様性、安定性およびグリッド調整時間に影響を及ぼすグリッドの変形あるいはグリッド開口の不整列の原因になっている。特定の実施形態の場合、プラズマ放電チャンバ1および抽出電極アセンブリ20を備えたイオンビーム発生器200が動作している間、プラズマ放電チャンバ1の側壁1Aの温度は約75℃まで上昇し、また、グリッド21、22および23の温度は約200℃まで上昇する。ここでは、グリッド温度として与えられるグリッドの温度は一様ではなく、つまり、グリッドの温度は中心部分が最も熱く、また、縁部分が最も冷たい。グリッド21、22および23を固着し、かつ、取り付けるために、取付けプラットホーム40は、プラズマ放電チャンバ1と抽出電極アセンブリ20の間に配置されている。動作時の熱ひずみを小さくするためには、次の関係を満足するようにそれらの間の熱膨張係数を選択しなければならない。
α>α≧α
上式で、取付けプラットホーム40と接触するプラズマ放電チャンバ1の側壁1Aの熱膨張係数はαであり、取付けプラットホーム40の熱膨張係数はαであり、また、抽出電極アセンブリ20の熱膨張係数はαである。
【0012】
実施形態のように、側壁1Aの材料は、ステンレス鋼(SUS)およびアルミニウムのグループから選択される。取付けプラットホーム40の材料は、TiおよびMoのグループから選択される。グリッド21、22および23の材料は、Mo、WおよびCのグループから選択される。グリッドに使用されるMoの熱膨張係数は5×10−6−1であり、取付けプラットホーム40に使用されるTiの膨張係数は8.7×10−6−1であり、また、側壁1Aに使用されるAlの熱膨張係数は23×10−6−1である。これらの材料の上記組合せは、(α>α≧α)の関係を満足している。
【0013】
Al製のプラズマ放電側壁1Aおよび直径=400mmのMoグリッドからなる円形ビーム抽出電極アセンブリ20は、一例と見なされている。とりわけスクリーン・グリッドの熱ひずみに対するステンレス鋼(SUS)製取付けプラットホームの効果とTi製取付けプラットホームの効果が比較されている。縁の近くに一様に分散した、スクリーン・グリッド21および取付けプラットホーム40をプラズマ放電チャンバ側壁1Aに固着するためのボルト用の8個のボルト開口36が提供されている。これらの開口は、互いに149mmの間隔を隔てて配置されている。イオンビーム発生器が動作している間、プラズマ放電チャンバ1の側壁1Aの温度が室温から約75℃まで上昇し、取付けプラットホームの温度が約140℃まで上昇し、また、平均グリッド温度が約200℃まで上昇する。Moグリッド開口の位置は、グリッドの半径方向にΔR=0.16mmの熱膨張のため、図2および図5の半径方向Rに沿ってシフトする。グリッド開口とグリッド開口の間の距離は、円周に沿ってΔC=0.13mmだけ長くなる。Al製側壁1A−開口位置は、半径方向にΔR=0.20mmだけシフトし、また、開口間距離は、ΔC=0.15mmだけ長くなる。SUS製取付けプラットホーム40(α=15×10−6−1)の場合、ΔR=0.31mmであり、また、ΔCは0.25mmである。Ti製取付けプラットホーム(α=5×10−6−1)の場合、ΔR=0.18mmであり、また、ΔCは0.14mmである。これらの値は、Al製チャンバ側壁1A、Ti製プラットホーム40およびMo製スクリーン・グリッドの場合の値に極めて近い。スクリーン・グリッド、取付けプラットホームおよび側壁の0.1mmの相対開口位置のシフトは、ビーム抽出電極全体の直径と比較すると小さく、スタートアップ性能を改善するためには十分である。
【0014】
図3は、本発明によるイオンビーム発生器のグリッドの一実施形態を示したものである。グリッド21、22および23の各々は、中央開口領域6および中央開口領域6を取り囲んでいる外部領域7を備えている。中央開口領域6は、多くのマイクロイオンビーム開口6Aを有している。プラズマ放電チャンバ1から抽出されたイオンビームは、中央開口領域6のイオンビーム開口6Aを通過する。外部領域7は、8個(またはそれ以上)のボルト28を挿入するように構成された8個(またはそれ以上)のボルト開口36を有することができ、ボルトの各々は、円筒状アライメント絶縁体30によって封入されている。
【0015】
図4は、本発明によるイオンビーム発生器内の抽出電極アセンブリ20のグリッドのビーム抽出電極の断面を示したものである。ボルト28を個々のグリッドのボルト開口36に挿入することにより、図4に示されているように、スクリーン・グリッド21の中央開口領域6の開口6A、加速グリッド22の中央開口領域6の開口6A、および減速グリッド23の中央開口領域6の開口6Aが空間的に順序付けられ、整列する。この実施形態では、スクリーン・グリッド21の厚さDSは3mm、加速グリッド22の厚さDAも3mm、減速グリッド23の厚さDDは2mmである。スクリーン・グリッド21と加速グリッド22の間の間隔DSAは2mmであり、加速グリッド22と減速グリッド23の間の間隔DADも2mmである。グリッドの厚さをより分厚くすることによってひずみを小さくすることができる。これは、開口領域におけるボルト締めが望ましくない場合にとりわけ有用である。グリッドがより分厚い場合(>2mm)、スクリーン・グリッドは、テーパが付けられていることが好ましい。厚さが増すと加速器電圧V2の要求事項が高くなり、良好なビームの直進性を達成するためには1000Vを超える電圧になるからである。
スクリーン・グリッド21では、イオンビーム開口は、その深さDに及ぶ上部分は直径Lsを有しており、また、その下部部分はLsより大きい直径Lsを有している。加速グリッド22の個々の開口の直径LAは、減速グリッド23のそれの直径Lより小さい。この構成の開口を使用することにより、良好に平行化された、発散の小さいイオンビームが得られる。スクリーン・グリッド21の個々の開口は、図4に示されているように、直線的に穿たれた、直径が異なる第1および第2の孔を有している。これらの孔はテーパ孔で結合されており、直径が大きい方の孔が加速グリッド22に面している。
【0016】
抽出グリッド21、22および23は、通常、プラズマ・チャンバ上への取付けに先立って一体化される。この方法によれば、電極すなわちグリッドの整列および間隔をより容易にチェックすることができる。グリッド21、22および23は、スペーサ29Aおよび29B(図2)をより分厚くすることができるよう、その縁部分を薄くトリムすることができる。トリムすることによって短絡およびアークの発生が少なくなる。縁をトリムする代わりに、グリッド・アライメントのためのボルト開口36の周囲に凹所領域を提供することも可能である。さらに、リング42およびリング43の内部表面にテーパを施し(テーパー角度<0.5°)、グリッドのうちのとりわけスクリーン・グリッド21および減速グリッド23を同心状に湾曲させることができる(皿形にすることができる)。リング42または43の内部表面は、極めて浅い円錐の一部を形成している。グリッドの外部領域がこのような表面に押し付けられると、同心状に歪曲する、つまりグリッドが皿形になることが想定される。グリッドが皿形になることによって構造的な安定性が改善される。最後に、第1のリング42を介したボルトによって抽出電極アセンブリ20がプラズマ放電チャンバ側壁1Aに取り付けられる。
【0017】
図5は、本発明によるイオンビーム発生器200のグリッド・アセンブリ20の第2の実施形態を示したものである。図5のイオンビーム発生器200は、基本的には図2の構成と同じ構成を有している。同じ部材には同じ参照数表示が割り当てられており、したがって詳細な説明は省略する。
【0018】
図2の構成と異なっている特徴は、円筒状アライメント絶縁体30の内径が大きくなっており、また、取付けリング42および43内のボルト開口36が広くなっていることである。即ち、グリッド21、22及び23のボルト開口36の内側面はボルト28を囲む絶縁体30の外部表面と緊密に接触しているが、リング42と43のボルト開口36の内側面は絶縁体30の外部表面との間に空間がある。グリッドの熱膨張と比較すると、取付けリング42、43の方が熱膨張が若干大きいため、ボルト28は、円筒状スペーサの中心から外方向へシフトする(半径方向に外側に向かって)。開口36に挿入された絶縁体30で囲まれたボルト28は、これらの広い開口により取付けリング42、43の外方向シフトを許容し、グリッドを大きく外方向に引張ることなく円筒状取付けリングを自由に膨張させることができる。
【0019】
異なる熱膨張にさらに適応するために、半径方向Rに細長くなった細長い開口36を第1および第2のリング42および43の中に配置することができる。これらの開口36は半径方向に沿って細長くなっており、したがってグリッドからの熱によって抽出電極アセンブリ全体が温かくなってもグリッド構成(皿状構成、等々)が著しくひずむことはない。したがって安定したエッチング速度および一様性が短時間で達成される。
【0020】
次に、本発明による基板処理装置100の動作について、図1を参照して説明する。プラズマ放電チャンバ1の圧力は、通常、約10−4Pa(10−5ミリバール)ないし約10−2Pa(10−3ミリバール)の範囲に維持されている。不活性ガス(Ar、XeまたはKr)などの処理ガスがガス導入手段(図示せず)によってプラズマ放電チャンバ1に供給される。たとえば、ガス導入手段によってArがプラズマ放電チャンバ1に供給され、また、RF電力がRFコイル手段(図示せず)に印加され、それによりプラズマが生成される。放電チャンバ1内に閉じ込められたプラズマ中のイオンがイオン抽出電極アセンブリ20によって抽出され、基板10に対するエッチングが実施される。
【0021】
図1に示されている実施形態では、スクリーン・グリッド21の電位Vは、100Vないし1000Vなどのプラス電位に設定されており、加速器グリッド22の電位Vは、−1000Vないし−3000Vの間のマイナス電位の範囲に設定されている。また、減速グリッド23の電位は接地に設定されている。好ましい一例として、スクリーン・グリッド21および加速グリッド22の厚さが3mmであり、減速グリッドの厚さが2mmないし3mmであり、また、グリッド間隔が2mmである場合、V<300VおよびV<−1500Vの条件下において5°未満のビーム発散θが得られる。
【0022】
図6は、8個の開口36に、円筒状絶縁体30によって取り囲まれたボルト28が挿入された第1の取付けリング42に対する熱膨張の効果を示したものである。これらの開口は、グリッドを取付けプラットホーム40に固定するために必要な開口に対応していてもよい(図2参照)。第1の取付けリング42は、開口部分でボルト28によって剛直に保持され、平らな表面(リングおよびグリッドに平行の)に取り付けられる。シミュレーションによれば、ボルト締めされない領域(ボルトによって固定される位置を除く領域)は、(平面)半径方向に沿って膨張し、かつ、スクリーン・グリッド21に向かう方向に隆起する(平面外)ことが分かる。後者の運動によってスクリーン・グリッド21が変形し、そのためにエッチング速度が局部的に変化し、したがって一様性が損なわれる。プラズマ・チャンバ側壁1Aも、第1の取付けリング42、グリッド21、22および23の同じような熱膨張があると上記変形が抑制される。グリッドからプラズマ・チャンバへの温度勾配が存在するため(T<T<T)、(α>α≧α)の関係であることが好ましい。図7は、プラズマ・チャンバ側壁1Aと第1の取付けリング22の間の相対運動を許容する第1の取付けリング42に対する熱膨張の効果を示したものである。これは、半径方向に沿って細長くなったボルト開口36を提供することによって達成されたものである。第1のリング42は、同じく半径方向に膨張するが、平面外成分の変形が最小化されている。取付けリング42および43を熱膨張係数が小さいMoグリッドよりさらに膨張させることを許容する、図5に示されている構成に対して、同様の微小ひずみ効果が期待される。
【0023】
図8は、関係(α>α≧α)を満足しない取付けリング・プラットホーム40に対するエッチング速度および一様性の時間依存性を示したものである。ここでは、取付けリングはステンレス鋼でできている。複数のウェーハが同じ条件でエッチングされた。これは、通常、ツールの「ウェーハ間」(Wafer−to−Wafer:WtW)性能安定性を決定するために実施される。この場合、ツールはコールド・スタートからのものであり、つまりツールを温めるための事前条件付けは一切なされなかった。コールド・スタートからのWtWによって、製造ウェーハを処理することができるようになるまでの間にどの程度の事前条件付けが必要であるかについての知見が得られる。取付けリングがSUSでできている場合、安定したエッチング速度および一様性を得るためには100分を超える時間が必要である。安定した速度または一様性を得るためのこの長い待ち時間または条件付け時間のため、ツールの総合的な利用が制限されている。また、保守以外の他の理由でツールが停止する時間が存在することになるが、長い事前条件付け手順のため、さらに、総ツール・アップタイムが短縮され、また、運転コストが増加する。
【0024】
図9は、本発明によるチタン製取付けプラットホーム40(α>α≧αを満足する)に対する速度および一様性の時間依存性の改善を示したものである。コールド・スタートから安定した速度および一様性を得るまでに要する時間は約15分ないし20分である。事前条件付け継続期間が短いため、総ツール・アップタイムが長くなり、また、所与の数のウェーハに対する総合運転コストが低減される。取付けプラットホームにチタンを使用し、かつ、熱ひずみを解放する手段を提供することにより、グリッド・アセンブリは、従来のステンレス鋼プラットホームを使用した場合よりも速く安定した構成を達成する。チタンは、その膨張係数がステンレス鋼の膨張係数の約1/2であり、したがってMoおよびCなどの共通グリッドすなわち共通電極材料の微小熱係数とのより良好な整合を提供する。尚、図9の条件付け(調整)時間データは図5の構成によったものである。
【0025】
図10は、基板10の上に膜を形成するためのスパッタリング装置100’の中にイオンビーム発生器200が取り付けられた他の実施形態を示したものである。この実施形態には、図2に示されているイオンビーム発生器と同じイオンビーム発生器が使用されている。したがってイオンビーム発生器200についての詳細な説明は省略する。イオンビーム発生器200は、陰極5の上に取り付けられているターゲット15に斜めに入射する(たとえばX度<90°などで)イオンビームを放出するようになされている。ターゲット・マウント5は、最大6個のターゲットを保持するための6個の取付けファセットを有している。このターゲットは、選択された1つのターゲットがイオンビームによって照射されるように配置されるよう、平らな面に直角の軸Aの周りに回転コンベヤのように回転させることができる。基板10を保持している基板ホルダ11は、照射されたターゲットからのスパッタ粒子を一様に付着させることができる位置に、それが可能な角度で配置されている。基板ホルダ11は、保持されている基板の表面に直角の軸Bの周りに回転させることができる。また、前記ホルダ11は、基板10の表面に平行で、かつ、軸Aに平行の軸に沿ってパンさせることも可能である。パニングによってターゲットから入射する粒子の入射角が制御される。
【符号の説明】
【0026】
200 イオンビーム発生器
1 プラズマ放電チャンバ
2 処理チャンバ
20 抽出電極アセンブリ
100 エッチング装置/基板処理装置
3 真空ポンプ
10 基板(ウェーハ)
11 基板ホルダ
12 回転可能陰極
S スリット
1A 放電チャンバ1の側壁
40 取付けプラットホーム
41 キャップ・リング
42 第1のリング
43 第2のリング
21 スクリーン・グリッド
22 加速グリッド
23 減速グリッド
27 キャップ絶縁体
28 固定ボルト
29 スペーサ絶縁体
30 円筒状アライメント絶縁体
31 タップ
6 中央開口領域
7 外部領域

36 ボルト開口
100’ スパッタリング装置
5 回転式ターゲット・マウント
15 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ放電チャンバ、
前記プラズマ放電チャンバ内に生成されるプラズマ中のイオンを抽出してイオンビームを生成する抽出電極アセンブリ、
前記プラズマ放電チャンバと前記抽出電極アセンブリとの間に配置された、前記プラズマ放電チャンバに前記抽出電極アセンブリを取り付けるための取付けプラットホームと
からなるイオンビーム発生器であって、
前記プラズマ放電チャンバの側壁のうちの少なくとも前記取付けプラットホームと接触している部分が熱膨張係数TEC=αを有し、前記取付けプラットホームが熱膨張係数TEC=αを有し、また、前記抽出電極アセンブリが熱膨張係数TEC=αを有しているとすると、α、αおよびαが式α>α≧αを満足するイオンビーム発生器。
【請求項2】
前記抽出電極アセンブリが、前記取付けプラットホームに取り付けられたスクリーン・グリッド、前記スクリーン・グリッドとの間に絶縁体を介在させることによって前記スクリーン・グリッドに取り付けられた加速グリッド、および前記加速グリッドとの間に絶縁体を介在させることによって前記加速グリッドの上に取り付けられた減速器グリッドとからなる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プラズマ放電チャンバの前記側壁の材料が、ステンレス鋼およびアルミニウムからなるグループから選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記取付けプラットホームの材料が、TiおよびMoからなるグループから選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記グリッドの材料が、Mo、WおよびCからなるグループから選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記グリッドの厚さが2mm以上である、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
前記取付けプラットホームが、前記スクリーン・グリッドと接触している第1の環状リングを備えた、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
前記スクリーン・グリッドが前記イオンビームが通過する複数のイオンビーム開口を有し、個々のイオンビーム開口が、直線的に穿たれた、直径が異なる第1および第2の孔を有し、前記孔がテーパ孔で結合され、直径が大きい方の孔が前記加速グリッドに面している側にある、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
プラズマ放電チャンバ、
前記プラズマ放電チャンバの環状側壁に取り付けられた、第1のリング部材および第2のリング部材を備えたリング状付けプラットホーム、及び
前記取付けプラットホームの前記第1のリング部材と第2のリング部材の間に取り付けられた円板状抽出電極アセンブリとボルトとからなるイオンビーム発生器であって、
前記取付けプラットホームの前記第1、第2のリング部材および前記抽出電極アセンブリの各々がその周辺領域にボルト開口を有し、前記絶縁体によって取り囲まれたボルトが前記ボルト開口を通って貫通し、貫通した前記ボルトが前記抽出電極アセンブリを前記第1のリング部材と第2のリング部材の間に固定し、
前記抽出電極アセンブリ内の前記ボルト開口の内側面が前記ボルトを取り囲んでいる前記絶縁体の外部表面と緊密に接触し、前記第1および第2のリング部材中の前記ボルト開口が半径方向に細長くなっており、それにより前記第1および第2のリング部材中の前記ボルト開口の前記内側面と、前記ボルトを取り囲んでいる前記絶縁体の前記外部表面との間に空間が存在しているイオンビーム発生器。
【請求項10】
前記プラズマ放電チャンバの前記側壁が熱膨張係数TEC=αを有し、前記取付けプラットホームが熱膨張係数TEC=αを有し、また、前記抽出電極アセンブリが熱膨張係数TEC=αを有し、α、αおよびαが式α>α≧αを満足する、請求項9に記載のイオンビーム発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−129270(P2011−129270A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−284129(P2009−284129)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】