説明

イトヒキダラ肝油から高純度のワックスエステルを得るための方法

【課題】イトヒキダラの肝油から、トリグリセリドを実質的に含まない高純度のワックスエステルを得る。
【解決手段】本発明は、イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油から分子蒸留によってワックスエステルを分離すること、分離されたワックスエステルを脱臭することを含む方法を提供する。また本発明は、イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油を吸着剤に付し、次に該吸着剤にヘキサンを流し、ヘキサンで溶出された画分からワックスエステルを分離することを含む方法を提供する。さらに、本発明は、上記製造方法により得られた高度不飽和ワックスエステルを含む化粧品、医薬品及び医薬部外品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のワックスエステルを得るための方法に関する。また、本発明は、該高純度のワックスエステルを含む化粧品、医薬品及び医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
かつて、ワックスエステルは、抹香鯨油がその供給源であり、洗剤等の界面活性剤又は化学工業の原料として利用されてきた。しかし、1988年からの捕鯨禁止によって、世界的に抹香鯨油の利用ができなくなった。そのため、現在では、抹香鯨油の代替資源として、米国南西部及びメキシコの砂漠に自生する灌木の種子より得られるホホバ油(jojoba oil)、及び主として南太平洋ニュージーランド海域で漁獲される深海魚のオレンジラッフィー(orange roughy;別名ヒウチダイ)から抽出されるオレンジラッフィー油の2つの資源が開発され、国際的なワックスエステルの供給源になっている。日本は、ワックスエステルについて、この両資源に依存しているのが現状である。
【0003】
しかし、近年オレンジラッフィーの漁獲量が低下してきているため、オレンジラッフィーに代わる魚類が研究されている。北海道大学の林教授は、東北・北海道の太平洋側又はオホーツク海などに分布するイトヒキダラ(forked hake; Laemonema longipes)が、その肝油中にワックスエステルを多量に含有することを明らかにした(下記、非特許文献1〜3を参照)。日本では、イトヒキダラは、トロール漁獲物として、年間約2万トン水揚げされているが、その魚肉が練り製品の一部に利用されている程度であり、利用価値が低い。
【0004】
オレンジラッフィー油由来のワックスエステルは、オレンジラッフィー油を、通常脱ガム、脱酸、水素添加等の精製操作を行い、次に脱臭操作を行うことにより得られる。しかし、該精製操作は、複数の工程を得る必要があることから、工業的に問題がある。また、大きな欠点として、水素添加することによって、ワックスエステルを構成する不飽和結合の全てが消失し、飽和なワックスエステルへと変換されてしまい、融点の上昇とともに不飽和ワックスエステルの長所であるベタツキ感の少ないさっぱりとした感触も失われてしまう。
さらに、上記精製に加えて、リパーゼ処理、又はアルカリ処理をして精製する方法が知られている(下記、特許文献1を参照)。しかし、リパーゼは高価であること、アルカリ処理は、アルカリによる不要な分解が生じうるために好ましくない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−117696号公報
【非特許文献1】林 賢治、山田 実、北大水産彙報、第26巻、第356〜366頁、1976年。
【非特許文献2】林 賢治、日本水産学会誌、第53巻、第2263〜2267頁、1987年。
【非特許文献3】林 賢治、樫木 勇、日本水産学会誌、第54巻、第135〜第140頁、1988年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イトヒキダラの肝油中には、ワックスエステルの他にトリグリセリドが含まれている。従って、イトヒキダラの肝油から、高純度のワックスエステルを得るためには、トリグリセリドを実質的に含まないように肝油を精製することが必要である。また、精製されたワックスエステルが、魚油特有のにおいを有することを避けるために、さらに高度に脱臭することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油から分子蒸留によってワックスエステルを分離すること、分離されたワックスエステルを脱臭することを含む方法を提供する。
また、本発明は、イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油を吸着剤に付し、次に該吸着剤にヘキサンを流し、ヘキサンで溶出された画分からワックスエステルを分離することを含む方法を提供する。
さらに、本発明は、上記方法により得られたワックスエステルを含む化粧品、医薬品及び医薬部外品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による高純度のワックスエステルは、無臭、無色透明であり、且つ安全性に高い。また、本発明による高純度のワックスエステルは、長期間保存しても戻り臭もほとんど無いことから、安定した品質を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
イトヒキダラ(Laemonema longipes)は、チゴダラ科イトヒキダラ属に属し、北海道の太平洋側又はオホーツク海などに分布する。
【0010】
イトヒキダラの肝油は、次のようにして例えば得られる。イトヒキダラより肝臓を採取し、採取した肝臓をミキサーで粉砕する。採取した肝臓は、採取直後のもの又は冷凍したもののいずれを用いてもよい。粉砕した肝臓を撹拌抽出(例えば、0.5〜1時間)し、又は粉砕した肝臓に水(例えば、等重量倍)を加えて、20℃〜60℃の温度で加温しながら撹拌抽出(例えば、0.5〜1時間)し、その後遠心分離(例えば、3000回転、10分間)により上層を回収することによって、肝油(肝臓油ともいう)が得られる。或いは、上記粉砕した肝臓を、生体中の脂質抽出方法として広く用いられている、Bligh & Diyer法を用いて、又は食品に使用可能な溶剤であるヘキサン−エタノール系を用いて、肝油を得てもよい。
【0011】
イトヒキダラの肝油には、ワックスエステルとトリグリセリドが、約90:10〜80:20(重量%)の割合で含まれている。この肝油からトリグリセリドを取り除いて、ワックスエステルをさらに精製するために、分子蒸留による精製、又は吸着剤を用いた吸着/溶出処理をおこなう。
【0012】
1.分子蒸留による精製
1−1.脱酸処理
イトヒキダラの肝油を酸価に応じて必要な水酸化ナトリウムを用いて遊離脂肪酸を除去する。
1−2.白土処理
脱酸処理した肝油に、白土を対油1〜10%を加え、90〜100℃で、10〜15分間撹拌する。イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油は、多量のワックスエステル、少量のトリグリセリド、遊離脂肪酸、コレステロール、リン脂質及び有臭物質成分を含む。
1−3.分子蒸留
イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油を、蒸発機を用いて分子蒸留を行う。好ましくは、遠心式蒸発機を用いる。分子蒸留の条件は、蒸発機の種類によっても異なるが、遠心式蒸発機の場合、温度200〜250℃、好ましくは200〜230℃、1〜3mTorr、流量8〜10 kg/時間であることが好ましい。分子蒸留を繰り返し行うことにより、ワックスエステル留分の回収率を向上することができる。好ましくは、分子蒸留を3回〜10回繰り返し行う。
分子蒸留を行うことにより得られるワックスエステル留分は、ワックスエステルとトリグリセリドを、98.5:1.5〜99.5:0.5(重量%)の割合で含む。ワックスエステル留分におけるワックスエステル含量は、精製オレンジラッフィー油(約98%)よりも多く、精製オレンジラッフィー油を水素添加処理したオレンジラッフィー油選択水素添加油(約99%)と同等である。従って、得られたワックスエステル留分は、ワックスエステルを高濃度に含む。
【0013】
2.吸着剤を用いた吸着/溶出処理
2−1.脱酸処理
上記1−1で述べた脱酸処理を必要に応じて行う。
2−2.白土処理
上記1−2で述べた白土処理を必要に応じて行う。
2−3.吸着剤への吸着及び溶出処理
イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油1部を吸着剤10部に付して、肝油成分を吸着させる。吸着は、好ましくは室温で行う。吸着は、バッチ処理又はカラム処理によっておこなってよい。吸着剤として、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ又はフロリジールのいずれか一つ、又はそれらの組み合わせが使用できる。次に、吸着剤1部に対して、ヘキサン5〜25部を使用し、吸着剤からワックスエステルをヘキサンにより溶出して、ヘキサン溶出画分を得る。ヘキサン溶出画分からヘキサンをエバポレーターを用いて留去し、ワックスエステル(以下、ヘキサン可溶部という)を得る。
ヘキサン可溶部は、ワックスエステルを99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、更に好ましくは99.8重量%以上含む。ヘキサン可溶画分の色は、ガードナー比色法を用いて1であり、イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油に比べて、脱色されている。また、該ワックスエステル製品の臭いは、イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油に比べて、脱臭されている。回収率は、イトヒキダラの肝油又は白土処理した肝油1部を、10倍量の吸着剤に吸着させて、ヘキサンで溶出した場合、操作温度によっても異なるが、約55〜65重量%である。回収率の観点から、吸着剤としてゼオライト、シリカゲル、アルミナが好ましい。アルミナとして、活性アルミニウムオキシドを使用することが出来る。
【0014】
分子蒸留により得られたワックスエステル留分は、さらに魚臭を取り除くために、以下の脱臭処理をおこなう。上記ヘキサン可溶画分についても必要に応じて、同様に以下の脱臭処理をおこなってもよい。
【0015】
3.脱臭処理
3−1.ゼオライトによる脱臭
分子蒸留によって得られるワックスエステル留分及び吸着剤を用いた吸着/溶出処理によって得られるヘキサン可溶部(以下、ワックスエステル留分等という)を、人工ゼオライト又は天然ゼオライトを使用し脱臭する。好ましくは、ゼオライトは、ワックスエステル留分等に対して、5〜20%(w/w)加え、35〜45℃、20〜60分間撹拌する。
【0016】
3−2.水蒸気蒸留による脱臭
水蒸気蒸留機を用いて、ワックスエステル留分等の脱臭を行い、精製ワックスエステルを得る。水蒸気蒸留の条件は、蒸留機の種類によっても異なるが、温度140〜160℃、好ましくは温度150℃、及び真空1〜3Torrであることが好ましい。ワックスエステル留分からの精製ワックスエステルは、ワックスエステルとトリグリセリドを、99:0.5〜98:1.5(重量%)の割合で含む。ワックスエステル回収率は、99重量%以上、好ましくは99.5重量%、さらに好ましくは99.8重量%以上である。得られた精製ワックスエステルは、ほぼ無臭に近く、魚油特有の臭気は感じられない。
【0017】
精製ワックスエステルの一例は、C14〜C22の不飽和脂肪酸とC14〜C24の不飽和アルコールとを構成成分とするC34〜C42の炭素数が90重量%以上のワックスエステルであってよい。精製ワックスエステルの炭素数組成、アルコール組成及び脂肪酸組成の例が、下記実施例1の表3〜表5に示される。精製ワックスエステルの組成は、現在ワックスエステルの供給源であるオレンジラッフィー油由来のワックスエステル(C16〜C20の不飽和脂肪酸とC18〜C22の不飽和アルコールとを構成成分とするC38〜C42のワックスエステルを88重量%含む)と同等のC38〜C42の組成を80重量%以上含み、従って非常に類似した組成を持っており、またその不飽和度も同等である。
【0018】
以上のように、本発明によるワックスエステルの精製方法は、従来のワックスエステルの複雑な精製法(脱ガム、脱酸、水素添加等)に比べて、短いステップで高純度のワックスエステルを得ることができるため、簡便且つ経済的である。また、得られたワックスエステルは、無臭で戻り臭が少ない。
【0019】
本発明において、高純度のワックスエステルとは、分子蒸留による精製後、脱臭処理した精製ワックスエステル、吸着剤を用いた吸着/溶出処理したヘキサン可溶画分、及び該ヘキサン可溶画分を脱臭処理した精製ワックスエステルをいう。
【0020】
本発明による高純度のワックスエステルの組成の一例は、精製ワックスエステルと同様に、C14〜C22の不飽和脂肪酸とC14〜C24の不飽和アルコールとを構成成分とし、C34〜C42の炭素数が90重量%以上である。
【0021】
本発明による高純度のワックスエステルは、ワックスエステルを99重量%以上含む。好ましくは、99.5重量%以上含む。さらに好ましくは、99.9重量%以上含む。従って、本発明の高純度のワックスエステルは、オレンジラッフィー油(約98%)よりも多く、又はオレンジラッフィー油選択水素添加油(約99%)と同等もしくはそれよりも多くワックスエステルを含む。また、本発明の高純度のワックスエステルは、オレンジラッフィー油に比べてさらに脱臭されている。従って、本発明の高純度のワックスエステルは、オレンジラッフィー油の代替となりうる。
【0022】
本発明の上記した肝油の精製及び脱臭方法は、イトヒキダラだけでなく、ワックスエステルとトリグリセリドを含むその他の魚油から、ワックスエステルを高純度に精製するために適用されうる。そのような魚油の例として、オレンジラッフィー油、アブラソコムツ油、ボラ卵油及びハダカイワシ油などが挙げられる。
【0023】
本発明による高純度のワックスエステルは、ワックスエステルの純度が99重量%以上と高く、且つその臭いもほとんど無い又は無い。従って、本発明による高純度のワックスエステルを化粧品、医薬品、医薬部外品、香水及び皮革油剤の基材油として使用することができる。化粧品としては、例えばベビー製品(ベビーシャンプー、ローション、オイル、パウダー及びクリーム)、アイメイクアップ製品(アイクリーム、睫ペンシル、アイライナー、アイシャドー、アイローション、アイメイクアップ除去剤、マスカラ)、日焼け止めクリーム(リキッド、ゲル)、口紅及びファウンデーション製品を挙げることができる。医薬品としては軟膏、座薬などを挙げることができる。医薬部外品としては、入浴剤、毛髪調整剤(ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、リンス、シャンプー、トニックなど)、洗顔クリーム(リキッド、ゲル)、アフターシェーブローション、プレシェーブローションなどを挙げることができる。化粧品には、化粧品の安定性を向上するために、ビタミンE、BHT、BHA、アントシラン等の酸化防止剤を添加してもよい。また、本発明による高純度のワックスエステルは、エモリエント組成物のワックスエステル成分として使用されてもよい。医薬品及び医薬部外品には、薬効成分の他、薬事法により定められている所定の医薬品添加物(賦形剤、安定剤など)を含んでもよい。
【0024】
また、本発明による高純度のワックスエステルを化学処理して得られる高級アルコール(脂肪アルコール)は、界面活性剤、化粧品原料、潤滑油などの化学工業原料として好適に使用されうる。
【0025】
実施例
以下に、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。下記において、油脂の分析は、基準油脂分析方法に従いおこなった。また、ワックスエステル、トリグリセリドの分析は、TLC/FID(薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出)法(IATROSCAN TH-10、IATRON LABORATORIES, INC.製)を用いて測定した。
また、ワックスエステルの臭いの官能検査は、10人のパネラーを使用して行った。その評価基準は以下の通りである;◎:ほぼ無臭、○:若干の臭気が感じられる、△:改善は見られるが特有の臭気が残る、×:改善が見られない。
【0026】
製造例1
イトヒキダラ肝臓からの肝油の抽出
イトヒキダラ肝臓は、丸光水産株式会社より購入した冷凍肝臓ブロックを用いた。その一般性状は、水分(25.5重量%)、粗蛋白質(6.3重量%)、粗脂肪(67.1重量%)、粗灰分(0.8重量%)である。一般性状の分析は、「飼料定量分析検査基準」に記載の方法に従い測定した。
【0027】
肝油の効率的な抽出について、肝臓をミキサーで粉砕したものを用い、以下の3つの方法について試験した。
(試験1)
粉砕した肝臓200gを、室温、50℃、又は90℃にて、夫々1時間撹拌(300rpm、1時間)抽出し、次に遠心分離(3000rpm、10分間)によって上層を回収することによって肝油を得た。
(試験2)
粉砕した肝臓200gに、等重量倍の水を加えて、室温、50℃、又は90℃にて、1時間撹拌(300rpm、1時間)抽出し、次に遠心分離(3000rpm、10分間)によって上層を回収することによって肝油を得た。
(試験3)
粉砕した肝臓200gから、Bligh & Dyer法を用いて、肝油を得た。
(試験4)
粉砕した肝臓200gに、2重量倍量のヘキサン及び4重量倍量のエタノールを加えて、室温で30分攪拌し抽出し、ろ紙で濾過した。溶剤をエバポレーターを用いて留去させ、肝油を得た。
【0028】
試験1〜4の各抽出法によって得られた肝油の性状を以下に示す。
【表1】

【0029】
表1より、試験2の方法が、試験1の方法に比べて若干ではあるが、収率が良い。また、抽出時の温度を挙げることによって収率を上げることができた。しかし、抽出時の温度を挙げることによって、肝油の臭いが悪くなった。試験3、試験4の方法では、収率が試験1及び試験2に比べて収率は良くなったが、肝油の色、臭いがいずれも悪くなった。これは、溶剤を用いて行った場合には、リン脂質などの微量成分も抽出されたためであると推察される。
なお、工業的には、試験2の50℃で抽出する方法が、収率、抽出油の性状の点で好ましい。該抽出によって得られた肝油におけるワックスエステルとトリグリセリドの組成比(重量%)は、90:10.6であった。
【0030】
製造例2
粉砕した肝臓200gに、等重量倍の水を加えて、室温、50℃、又は90℃にて、1時間撹拌(300rpm、1時間)抽出し、次に遠心分離(3000rpm、10分間)によって上層を回収することによって肝油を得た。得られた肝油の性状は、以下の表2に示す通りである。
【0031】
【表2】

【0032】
該抽出によって得られた肝油におけるワックスエステルとトリグリセリドの組成比(重量%)は、84.3:11.1であった。
【実施例1】
【0033】
1.ワックスエステル留分の回収
製造例2で得られた肝油を脱酸処理後、白土処理(対油5%(w/w))(100℃、10分間撹拌)をして精製イトヒキダラ肝油を得た。
次に、精製イトヒキダラ肝油を遠心式蒸発機(型番300B、日本真空技術株式会社製)を用いて分子蒸留(温度230℃、1〜3mTorr、流量8〜10 kg/時間)を5回繰り返しておこない、ワックスエステル留分を得た。回収率は、約70%であった。表3〜表5に、ワックスエステル留分の炭素数組成、アルコール組成及び脂肪酸組成を夫々示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
ワックスエステル留分におけるワックスエステルとトリグリセリドの組成比(重量%)は、99.5:0.3であった。
また、官能検査により、ワックスエステル留分の臭いは、精製イトヒキダラ肝油の臭いに比べて魚臭が低減されていた。
ワックスエステル留分におけるワックスエステル含量(99.5%)は、精製オレンジラッフィー油(98%)、オレンジラッフィー油選択水素添加油(99%)のワックスエステル含量よりも高いかほぼ等しい。従って、得られたワックスエステル留分では、ワックスエステルが高濃度に精製されていた。
【0038】
2.ワックスエステル留分の脱臭
該ワックスエステル留分から魚臭を低減するために、ゼオライトによる脱臭、分子蒸留機による脱臭、水蒸気蒸留による脱臭を試験した。
【0039】
2−1 ゼオライトによる脱臭
ワックスエステル留分を、下記の各種ゼオライトを用い、窒素気流下で処理した。
a)人工ゼオライト(Fe型) 野本木材株式会社製
b)人工ゼオライト(Ca型) 野本木材株式会社製
c)天然ゼオライト 野本木材株式会社製
d)シルトンB 水澤化学工業株式会社
e)シルトンCPT-30 水澤化学工業株式会社
ゼオライト処理は、対ワックスエステル留分5%、10%、20%ゼオライト(w/w)で、40℃、30分間撹拌することにより行った。
脱臭後のワックスエステル留分の臭いについて、官能検査により評価した。その結果を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
その結果、対ワックスエステル留分10%以上のゼオライト(但し、対ワックスエステル留分10%の場合の天然ゼオライトを除く)を用いることによって、ワックスエステル留分に比べて、臭いを低減することは出来た。しかし、若干の魚臭、及びゼオライト臭が残った。
【0042】
2−2 水蒸気蒸留による脱臭
得られたワックスエステル留分100mLについて、水蒸気脱臭(150℃、1時間)を行い、精製ワックスエステルを得た。回収率は、約100 %であった。精製ワックスエステルにおけるワックスエステルとトリグリセリドの組成比(重量%)は、99:0.6であった。回収率は、ほぼ100%に近かった。
表7〜表9に、精製ワックスエステルの炭素数組成、アルコール組成、脂肪酸組成を夫々示す。
【0043】
【表7】

【0044】
【表8】

【0045】
【表9】

【0046】
精製ワックスエステルの炭素数組成、アルコール組成及び脂肪酸組成は、ワックスエステル留分の炭素数組成、アルコール組成及び脂肪酸組成の夫々とほぼ同じであった。
【0047】
精製ワックスエステルの臭いについて、官能検査により評価した。精製ワックスエステルは、ほぼ無臭に近く、魚油特有の臭気は感じられなかった。従って、水蒸気蒸留による脱臭は、ゼオライトによる脱臭よりも脱臭効果が高かった。
【実施例2】
【0048】
製造例2で得られた肝油を脱酸処理後、白土処理(対油5%(w/w))(100℃、10分間撹拌)をして精製イトヒキダラ肝油を得た。精製イトヒキダラ肝油におけるトリグリセリドの組成比(重量%)は、84.3:11.1であった。
次に、精製イトヒキダラ肝油1gを10倍量の人工ゼオライト(型番 人工ゼオライトFe型(100 mesh、)、野本木材株式会社製)、シリカゲル(型番 ワコーゲル C-200(200 mesh)、和光純薬工業株式会社)、活性アルミニウムオキサイド(型番 活性アルミナ カラムクロマトグラフ用(300 mesh)、和光純薬工業株式会社)、フロリジール(型番 フロリジール(60〜100 mesh)、和光純薬工業株式会社)に夫々吸着させ、引き続きヘキサン180 mlで溶出した。ヘキサン溶出画分からヘキサンをエバポレーターで留去し、ヘキサン可溶部を得た。ヘキサン可溶部の収率及びその脂質組成を表10に示す。
【0049】
【表10】

【0050】
各吸着剤におけるヘキサン可溶部の収率は、人工ゼオライト、シリカゲル、アルミナについて夫々60.1、60.1、62.6%であるのに対して、フロリジールでは30.1%と低い値であった。これは、ワックスエステルが、フロリジールに対して吸着性が強いためであると考えられる。各吸着剤におけるヘキサン可溶部は、ワックスエステル100%を含有した。また、色は、ガードナー比色法で1であった。
【実施例3】
【0051】
(戻り臭の試験)
実施例1で製造したワックスエステル(水蒸気蒸留による脱臭をしたもの)を室温で4週間にわたって放置し、試験開始後1週ごとに官能試験を行った。3週目になると若干の戻り臭を感じるパネラーもいるが、ごく一部のパネラーに限られ、4週目になってもパネラーの割合に変化は無かった。その結果を表11に示す。
【0052】
【表11】

【実施例4】
【0053】
コールドクリーム
実施例1の水蒸気蒸留により得られた精製ワックスエステル13重量%、サラシミツロウ12重量%、アルモンド油55重量%、ホウ砂0.5重量%、水19.5重量%の割合で混合した。
その結果、肝油特有の魚臭がなく、油のべた付き感の少ない乳化液が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
現在日本ではワックスエステル供給源を海外資源であるホホバ油、オレンジラッフィー油に頼っているが、本発明により国内で廃棄処分されている未利用水産資源を有効に利用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油から分子蒸留によってワックスエステルを分離すること、分離されたワックスエステルを脱臭することを含む方法。
【請求項2】
脱臭した製品が、ワックスエステルを99重量%以上含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子蒸留が、遠心式蒸発機で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分子蒸留が、200〜250℃、1〜3mTorrで行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記脱臭が、吸着剤による脱臭、水蒸気脱臭又はそれらの組み合わせで行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着剤が、ゼオライト、シリカゲル又はアルミナのいずれか一つ又はそれらの組み合わせである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イトヒキダラの肝油を精製し、高純度のワックスエステルを得るための方法であって、該肝油を吸着剤に付し、次に該吸着剤にヘキサンを流し、ヘキサンで溶出された画分からワックスエステルを分離することを含む方法。
【請求項8】
前記吸着剤が、ゼオライト、シリカゲル、又はアルミナのいずれか一つ又はそれらの組み合わせである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分離されたワックスエステルを脱臭することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記脱臭が、吸着剤による脱臭、水蒸気脱臭又はそれらの組み合わせで行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により得られたワックスエステルを含む化粧品、医薬品又は医薬部外品。

【公開番号】特開2006−249180(P2006−249180A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65332(P2005−65332)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(594072993)日本化学飼料株式会社 (4)
【Fターム(参考)】