説明

インクジェット印刷用インク、およびこれを用いたフラットパネルディスプレイ用電極の製造方法

【課題】低コストかつ分散安定性に優れたインクジェット印刷用インクを提供すること。
【解決手段】(a)導電性粉末、(b)重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(c)下記式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物、および(d)光重合開始剤を含有することを特徴とするインクジェット印刷用インク。


[式中、*は結合手を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用インク、およびフラットパネルディスプレイ部材の製造方法に関する。詳しくは、フラットパネルディスプレイを構成する電極の形成に好適なインクジェット印刷用インク、およびこれを用いたフラットパネルディスプレイ用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィールドエミッションディスプレイ(以下、「FED」ともいう。)、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」ともいう。)等のフラットパネルディスプレイ(以下、「FPD」ともいう。)は、大型パネルでありながら製造プロセスが容易であること、視野角が広いこと、自発光タイプで表示品位が高いこと等の理由から、フラットパネル表示技術の中で注目されている。特にカラーPDPは、30インチ以上の壁掛けTV用の表示デバイスとして将来主流になるものと期待されている。
【0003】
FEDは、電界印加によって陰極から真空中に電子を放出させ、その電子を陽極上の蛍光体に照射することにより、蛍光体を発光させて情報を表示するディスプレイである。
また、カラーPDPは、ガス放電により発生する紫外線を蛍光体に照射することによってカラー表示が可能になる。そして、一般に、カラーPDPにおいては、赤色発光用の蛍光体部位、緑色発光用の蛍光体部位、および青色発光用の蛍光体部位が基板上に形成されることにより、各色の発光表示セルが全体に均一に混在した状態に構成されている。具体的には、ガラス等からなる基板の表面に、バリアリブと称される絶縁性材料からなる隔壁が設けられており、この隔壁によって多数の表示セルが区画され、該表示セルの内部がプラズマ作用空間になる。そして、このプラズマ作用空間に蛍光体部位が設けられるとともに、この蛍光体部位にプラズマを作用させる電極が設けられることにより、各々の表示セルを表示単位とするプラズマディスプレイパネルが構成される。前記電極は、通常、銀等を含有する白色導電層と、該白色導電層の下層に反射防止層(遮光層)の役割を有する暗色層(黒色層)とを有する積層パターンで構成される。また、通常PDPのコントラストを向上させるために、電極パターンの間にブラックマトリクスやカラーフィルターが設けられる。
【0004】
このようなFPDにおけるパネル材料の製造方法としては、(1)イオンスパッタ法や電子ビーム蒸着法等による方法や、(2)フォトリソグラフィー法やスクリーン印刷法等により形成した無機粉体含有樹脂層パターンを焼成し、有機物質を除去する方法等が知られている。中でも感光性ペーストや感光性のドライフィルムを使用したフォトリソグラフィー法が、製造効率が高く、原理的にパターン精度に優れているため好適に用いられている。
【特許文献1】特開平11−162339号公報
【特許文献2】特開2001−84833号公報
【特許文献3】特開2002−245932号公報
【特許文献4】特開2003−51250号公報
【特許文献5】特開2000−268716号公報
【特許文献6】特開2007−112884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フォトリソグラフィー法は、パターン精度に優れていながら、露光、現
像、洗浄と言ったプロセスが必要であり、現像液の処理にもコストがかかる。その上、大部分の材料を現像により洗い流してしまい、現像液中の高価な無機粉体を回収するのも困難であるため、コストが高くなるという問題がある。また、露光に用いるフォトマスクが必要であり、パターンデザイン変更時に、時間とコストを要する。
【0006】
スクリーン印刷法は、電極パターンを直接、基板に印刷するため、無駄のないプロセスであるが、パターンの線幅が100μm程度までのものしか安定に形成することができず、近年の高精細パターンに対応できないという問題がある。
【0007】
この問題を解決するために、インクジェット法を用いて、線幅が100μm以下の精細なパターンを形成する方法が開発されている。しかしこの方法においては、インク中の顔料の分散性が悪く、インク調製時の濾過性が悪いという問題や、調製後のインクの沈降安定性および吐出安定性が悪く、良好なパターンを継続して形成することが困難という問題が生じていた。また、これら分散性の問題を解決するために、用いる顔料粒子の粒径を50nm以下にまで下げることが一般に行われているが、そのような粒子はコストが高く、脱フォトリソグラフィーのコストメリットが失われてしまうため、好ましくない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものである。
本発明の第1の目的は、低コストかつ分散安定性に優れたインクジェット印刷用インクを提供することにある。
【0009】
本発明の第2の目的は、FPDのパネル部材である電極を高精度で、かつ低コストで形成することができるFPD用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のインクジェット印刷用インクは、(a)導電性粉末、(b)重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(c)下記式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物、および(d)光重合開始剤を含有することを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、*は結合手を表す。]
また、本発明のフラットパネルディスプレイ用電極の製造方法は、基板上に前記インクジェット印刷用インクを用いてインクジェット印刷してパターンを形成する工程、該パターンにエネルギー線を照射して硬化パターンを得る工程、および該硬化パターンを焼成する工程、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェット印刷用インクは、分散性に優れ、インク調製時の濾過性がよく、調製後の沈降安定性にも優れる。そのため、インク調製時の作業性向上やフィルター交換回数の低減が見込め、継続的に安定したインク吐出性を得ることができ、ノズル詰まりを抑制することが可能である。そして、本発明のインクジェット印刷用インクおよびこれを用いたFPD用電極の製造方法によれば、精度の高いパターンを有するFPD用電極を
効率よく製造することができる。
【0014】
また、インクジェット法では、基板上の必要な部分にだけインクを吐出し、部材を形成するだけであるので、本発明のインクジェット印刷用インクおよびこれを用いたFPD用電極の製造方法によれば、プロセスを簡便化できるだけでなく、材料の無駄をなくすことができる。また、CADを描いたPCをインクジェットプリンターに接続するだけで、直接の回路形成が可能となり、時間とコストの削減も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の(1)インクジェット印刷用インク、および(2)該インクを用いたFPD用電極の製造方法について詳細に説明する。
[(1)インクジェット印刷用インク]
本発明のインクジェット印刷用インクは、(a)導電性粉末、(b)重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物(以下、「(b)重合性不飽和化合物」ともいう。)、(c)下記式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物、および(d)光重合開始剤を含有することを特徴とする。
【0016】
【化2】

【0017】
[式中、*は結合手を表す。]
(a)導電性粉末
本発明で用いられる(a)導電性粉末としては、特に限定されるものではなく、インクジェット印刷用インクにより形成される焼結体の用途(FPD部材の種類)、仕様(抵抗)等に応じて適宜選択することができる。
【0018】
優れた導電性を示す導電性粉末としては、金、銀、銅、白金、ニッケル、アルミニウム、パラジウム、鉄、スズ、インジウムの金属微粒子、およびそれらの酸化物微粒子、合金微粒子等が挙げられる。本発明のインクジェット印刷用インクは、これらの微粒子を少なくとも1種含有することが好ましい。
【0019】
また、(a)導電性粉末の平均粒径(D50)は、インクの分散性、沈降性、インクジェットノズルからの吐出性、パターニング精度、コストの観点から、0.05μm以上、5μm以下が好ましい。
【0020】
本発明のインクジェット印刷用インクにおいて、(a)導電性粉末の使用量は、該インクジェット印刷用インクの全体量に対して、通常10〜90質量%であり、好ましくは30〜80質量%である。
【0021】
(b)重合性不飽和化合物
本発明で用いられる(b)重合性不飽和化合物としては、重合性不飽和基としてメタクリロイル基(CH2=C(CH3)−CO−)を少なくとも1つ有する化合物(以下、「メタクリル系化合物」という。)、アクリロイル基(CH2=CH−CO−)を少なくとも
1つ有する化合物(以下、「アクリル系化合物」という。)、ビニル基(CH2=CH−
)を少なくとも1つ有する化合物(以下、「ビニル系化合物」という。)等を挙げることができる。前記(b)重合性不飽和化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用
することができる。
【0022】
ここで、(b)重合性不飽和化合物を用いる利点は、インクジェット吐出により形成したパターンを、紫外線等のエネルギー線により硬化させることにより、吐出直後のパターン形状を維持することが可能となることである。
【0023】
前記メタクリル系化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールモノメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールモノメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート、1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,5−ペンタンジオールモノメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノメタクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
これらのメタクリル系化合物のうち、低粘度である点で、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールモノメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート等が好ましく、特に、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
【0025】
本発明において、前記メタクリル系化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
前記アクリル系化合物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート(エチレングリコール由来の構成単位数が5〜9)、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロプレングリコール由来の構成単位数が5〜14)、1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールモノアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールモノアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールモノアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、モノメチロールトリシクロデカンモノアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ペンタエリスリトールとエチレンオキサイドとの付加反応生成物のテトラアクリレート)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
これらのアクリル系化合物のうち、低皮膚刺激性である点で、イソボルニルアクリレー
ト、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が好ましく、特に、イソボルニルアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートが好ましい。
【0027】
本発明において、前記アクリル系化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
また、前記ビニル系化合物としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、2−(2−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
これらのビニル系化合物のうち、低粘度であるという点で、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、2−(2'−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2
−(2'−ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が好ましく、特に、N−ビニ
ルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、2−(2−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレートが好ましい。
【0029】
本発明において、前記ビニル系化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
本発明のインクジェット印刷用インクにおいて、(b)重合性不飽和化合物の使用量は、(a)導電性粉末100質量部に対して、通常30〜300質量部であり、好ましくは50〜200質量部である。
【0030】
(c)式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物
本発明においては、(c)前記式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物(以下、単に「(c)化合物」ともいう。)を用いることにより、分散性に優れ、インク調製時の濾過性がよく、調製後の沈降安定性にも優れるインクジェット印刷用インクを調製することが可能となり、また、継続的に安定したインク吐出性を得ることができる。このため、精度の高いパターンを有する電極を効率よく製造することができる。
【0031】
前記(c)化合物の前記式(1)で表される基の含有数は、2つ以上、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。前記式(1)で表される基の含有数が前記範囲にあると、インクジェット印刷用インクの分散性と保存安定性とのバランスに優れる。
【0032】
前記(c)化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0033】
本発明において、(c)化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
本発明のインクジェット印刷用インクにおいて、(c)化合物の使用量は、(a)導電性粉末100質量部に対して、通常0.1〜30質量部であり、好ましくは0.5〜20質量部である。
【0034】
(d)光重合開始剤
本発明で用いられる(d)光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、カンファーキノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−[4'−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ
プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のカルボニル化合物;
アゾイソブチロニトリル、4−アジドベンズアルデヒド、エタノン−1−[9−エチル−6−〔2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル〕−9.H.−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)等のアゾ化合物またはアジド化合物;
2−メルカプトベンゾチアゾール、メルカプタンジスルフィド等の有機硫黄化合物;
ベンゾイルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、パラメタンハイドロパーオキシド等の有機パーオキシド;
1,3−ビス(トリクロロメチル)−5−(2'−クロロフェニル)−1,3,5−ト
リアジン、2−[2−(2−フラニル)エチレニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン等のトリハロメタン類;
2,2’−ビス(2−クロロフェニル)4,5,4’,5’−テトラフェニル1,2’−ビイミダゾール等のイミダゾール二量体;
2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物;
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド化合物;
1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキ
シム)]等のO−アシルオキシム化合物等が挙げられる。
【0035】
本発明において、前記(d)光重合開始剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
本発明のインクジェット印刷用インクにおいて、(d)光重合開始剤の使用量は、(b)重合性不飽和化合物100質量部に対して、通常0.1〜30質量部であり、好ましくは0.5〜20質量部である。
【0036】
(e)任意成分
本発明のインクジェット印刷用インクには、焼成後の基板との密着性、構造物の機械的
強度を上げるという目的で、結着ガラスが含有されていてもよい。
【0037】
また、本発明のインクジェット印刷用インクには、粘度調整のための溶剤や可塑剤、アクリル樹脂やセルロース樹脂が含有されていてもよい。
また、基板との密着性を上げるためのシランカップリング剤、分散性向上や沈降抑制を狙った前記(c)化合物以外の分散剤、接着助剤、ハレーション防止剤、レベリング剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、粘着性付与剤、表面張力調整剤、乾燥防止剤等の各種添加剤が含有されてもよい。
【0038】
前記結着ガラスとしては、軟化点が350〜700℃、好ましくは400〜620℃の範囲内にあるガラス粉末を挙げることができる。ガラス粉末の軟化点が前記範囲の下限値を下回る場合には、該ガラス粉末を含有するインクによるインクジェット印刷用インク膜の焼成工程において、可塑剤等の有機物質が完全に分解除去されない段階でガラス粉末が溶融することがある。そのため、形成される部材の中に有機物質の一部が残留し、この結果、抵抗値の上昇を招くおそれがある。一方、ガラス粉末の軟化点が前記範囲の上限値を上回る場合には、高温で焼成する必要があるために、被印刷材であるガラス基板等に歪み等が発生しやすい。
【0039】
好適なガラス粉末の具体例としては、
1.酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素(PbO−B23−SiO2系)の混合物、
2.酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素(ZnO−B23−SiO2系)の混合物、
3.酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(PbO−B23−SiO2
Al23系)の混合物、
4.酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素(PbO−ZnO−B23−SiO2
)の混合物、
5.酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化ケイ素(Bi23-B23-SiO2系)の混合物、
6.酸化亜鉛、酸化リン、酸化ケイ素(ZnO−P25−SiO2系)の混合物、
7.酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化カリウム(ZnO−B23−K2O系)の混合物、
8.酸化リン、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(P25−B23−Al23系)の混合物、
9.酸化亜鉛、酸化リン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(ZnO−P25−SiO2
Al23系)の混合物、
10.酸化亜鉛、酸化リン、酸化チタン(ZnO−P25−TiO2系)の混合物、
11.酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウム(ZnO−B23−SiO2
2O系)の混合物、
12.酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウム(ZnO−B23−SiO2−K2O−CaO系)の混合物、
13.酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(ZnO−B23−SiO2−K2O−CaO−Al23系)の混合物
等が挙げられる。
【0040】
前記ガラス粉末の平均粒子径(D50)は、0.1〜5μmであることが好ましい。
また、前記ガラス粉末の添加量は、(a)導電性粉末100質量部に対し、0〜20質量部であることが好ましい。
【0041】
本発明のインクジェット印刷用インクは、前記(a)導電性粉末、(b)重合性不飽和化合物、(c)化合物、および(d)光重合開始剤と、必要に応じて前記(e)任意成分とを、ロール混練機、ミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル等の混練機を用いて混練することにより調製することができる。
【0042】
前記のようにして調製されるインクジェット印刷用インクは、インクジェットによる吐出に適した流動性を有するインク状の組成物であり、その粘度は、25℃において通常1〜1000cP、好ましくは3〜100cPとされる。
【0043】
本発明のインクジェット印刷用インクは、ピエゾ型、バブルジェット(登録商標)型、ビームジェット型等、特に制限されることなくいかなる方式のインクジェットにも使用することができる。
【0044】
本発明のインクジェット印刷用インクは、導電性を要する部材の製造、特にPDP用電極等、FPD用電極の製造に好適に用いることができる。
[(2)FPD用電極の製造方法]
以下、本発明のインクジェット印刷用インクを用いたFPD用電極の製造方法について説明する。
【0045】
本発明のFPD用電極の製造方法は、[1]基板上に前記インクジェット印刷用インクを用いてインクジェット印刷してパターンを形成する工程、[2]該パターンにエネルギー線を照射して硬化パターンを得る工程、および[3]該硬化パターンを焼成する工程、を含むことを特徴とする。なお、本発明において「エネルギー線」とは、可視光線、紫外線、遠紫外線、X線、電子線、分子線、γ線、シンクロトロン放射線、プロトンビーム線等を意味する。
【0046】
以下、PDPの前面基板上のバス電極形成プロセスにおける、前記各工程について説明する。他の電極も、基本的に同様の方法により製造することができる。
−工程[1]−
本工程では、被印刷材である基板上に、本発明のインクジェット印刷用インクを用いてインクジェット印刷してパターンを形成する。
【0047】
本工程におけるパターンの形成は、公知のインクジェット方式によるパターン形成法に従って行うことができる。例えば、被印刷材であるガラス基板(例えば、旭硝子製PD200)上に形成された透明電極の上に、該ガラス基板またはインクジェットのヘッドを移動させながら、インクジェットのヘッドからインクを吐出させることによって、目的のパターンを形成する。この際、ノズルの数を増やすことで描写時間が短くなり、効率よく電極を形成することができる。
【0048】
本工程では、安定した連続吐出が可能となるように、インクジェット印刷用インクおよびノズルヘッドを、例えば、通常10〜100℃、好ましくは15〜60℃の一定温度に保持する。
【0049】
また、ノズルからのインクジェット印刷用インクの吐出量は、例えば、通常2〜15ピコリットル/秒、好ましくは4〜12ピコリットル/秒である。
−工程[2]−
本工程では、前記パターンにエネルギー線を照射して露光することにより、硬化パターンを形成する。
【0050】
露光による硬化は、インクジェット印刷用インクの着弾後、通常0.001〜2.0秒、好ましくは0.001〜1.0秒の間に行う。高精細な印刷を行うためには、インクジェット印刷用インクの着弾後、速やかに露光を行うことが望ましい。
【0051】
前記エネルギー線としては、通常200〜500nm、好ましくは240〜420nmの波長の紫外線や可視光線が用いられる。露光量は、通常1〜1000mJ/cm2であ
る。露光方法としては、例えば、特開昭60−132767号公報や米国特許第6145979号明細書に記載されている方法、より具体的にはシャトル方式やファイバー方式等を採用することができる。
【0052】
印刷に際しては、単層で印刷しても、多層重ねに印刷してもよい。なお、多層重ねに印刷する場合は、各層の印刷後に、その都度、エネルギー線により硬化をすることが望ましい。
【0053】
−工程[3]−
本工程では、前記硬化パターンを焼成する。本工程では、硬化パターン層である無機粉体含有樹脂パターン層を焼成処理するため、該無機粉体含有樹脂パターン層に残留する有機物質が焼失されて電極が形成される。
【0054】
焼成処理の温度としては、前記無機粉体含有樹脂層残留部の有機物質が焼失される温度であることが必要であり、通常400〜600℃である。また、焼成時間は、通常10〜90分間である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下では「部」は「質量部」を示す。
−濾過性−
インクの濾過性に関しては、SUS製の2000メッシュ(通過粒球子参考値12μm)フィルターを用いて圧送により濾過し、その濾過詰まり回数が0ないし1回の場合を濾過性良好(○)、濾過詰まり回数が2回ないし3回の場合を濾過性やや悪い(△)、濾過詰まり回数が4回以上起こった場合を濾過性悪い(×)の三段階で評価した。
【0056】
−沈降安定性−
また、インクの沈降安定性に関しては、得られたインクをサンプル瓶に充填して封をした後、室温にて三日間静置したときの沈降具合を評価した。本発明では、完全に沈降を抑制することは出来なかったが、その中でも、三日経過した後に初めてインク上澄みに導電性粒子が浮遊する場合を沈降安定性良好(○)、一日〜三日の間で完全に沈降するものを沈降安定性やや悪い(△)、一日以内に完全に沈降しているものを沈降安定性悪い(×)の三段階で評価した。
【0057】
−粘度−
また、インクの粘度は、E型粘土計を用いて、温度25℃、回転数20rpmの条件で測定した。
【0058】
[実施例1]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(c)化合物としてテトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)5部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(
メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン4部、2,4−ジエチルチオキサントン2部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、9.3cPであった。
【0059】
[実施例2]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコール
ジアクリレート100部、(c)化合物としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)5部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4’−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン4部、2,4−ジエチルチオキサントン2部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、9.4cPであった。
【0060】
[比較例1]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(メチ
ルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2部、2,4−ジエチルチオキサントン1部、分散剤としてβ−メルカプトプロピオン酸5部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、8.8cPであった。
【0061】
[比較例2]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(メチル
チオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2部、2,4−ジエチルチオキサントン1部、分散剤として2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート5部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、9.3cPであった。
【0062】
[比較例3]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(メチ
ルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2部、2,4−ジエチルチオキサントン1部、分散剤として1,6−ヘキサンジチオール5部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、8.9cPであった。
【0063】
[比較例4]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(メチ
ルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2部、2,4−ジエチルチオキサントン1部、分散剤として1−ペンタンチオール5部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、8.8cPであった。
【0064】
[比較例5]
(a)導電性粉末として、銀粉末(平均粒径(D50)0.5μm)100部、(b)重合性不飽和化合物として、N−ビニルピロリドン100部、トリプロピレングリコールジアクリレート100部、(d)光重合開始剤として、2−メチル−1−[4'−(メチル
チオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン2部、2,4−ジエチルチオキサントン1部を使用し、分散機を用いてこれらを混練して、インクジェット印刷用インクを得た。前記インクの25℃における粘度は、8.8cPであった。
【0065】
実施例および比較例で得られたインクジェット印刷用インクの評価結果を表1に示す。なお表1中、前記式(1)で表される基を有する化合物を、β−メルカプトプロピオン酸誘導体と記載している。
【0066】
[実施例3]
実施例1で得られたインクジェット印刷用インクを用いて、インクジェットパターニング装置(Microjet社製、NanoPrinter−1500S)を用い、35μmのノズル径を有するノズルヘッド(Dimatix社製 SE−128)から、ガラス基板上に吐出し、直線状の導電性パターンの印刷を行った。その後、超高圧水銀灯によりg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)の混合光を照射した。その際の露光量は、365nmのセンサーで測定した照度換算で20mJ/cm2とした。
走査型電子顕微鏡により露光後のパターンの観察を行ったところ、線幅75μm、高さ5μmのファインパターンが得られていることが確認された。
【0067】
[実施例4]
実施例2で得られたインクジェット印刷用インクを用いたこと以外は実施例3と同様に実施した。走査型電子顕微鏡により露光後のパターンの観察を行ったところ、線幅75μm、高さ5μmのファインパターンが得られていることが確認された。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性粉末、(b)重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(c)下記式(1)で表される基を少なくとも2つ有する化合物、および(d)光重合開始剤を含有することを特徴とするインクジェット印刷用インク。
【化1】

[式中、*は結合手を表す。]
【請求項2】
基板上に請求項1に記載のインクジェット印刷用インクを用いてインクジェット印刷してパターンを形成する工程、
該パターンにエネルギー線を照射して硬化パターンを得る工程、および
該硬化パターンを焼成する工程、
を含むことを特徴とするフラットパネルディスプレイ用電極の製造方法。

【公開番号】特開2009−227825(P2009−227825A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75348(P2008−75348)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】