説明

インテグリン受容体の遮断に対する反応者の選別方法

本発明は、インテグリン受容体の遮断に対する反応者を同定するための方法、ならびに、上記遮断を引き起こす処置が必要な患者において当該処置に対する反応性を決定するための方法に関する。さらに、本発明は上記方法に使用されるキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α2β1インテグリン受容体の遮断(ブロック)に対する反応者を臨床研究用に選別する方法、ならびにα2β1インテグリン受容体遮断を引き起こす処置が必要な患者において、そのような処置に対する反応性を決定するための方法に関する。さらに、本発明は上記方法に使用されるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞とコラーゲンとの間の相互作用は、細胞の移動及び分化を含む多くの生理学的機能に不可欠である。しかしながら、同じ相互作用はまた、血栓形成及び癌転移のような疾患と関係があるメカニズムを促進する可能性がある。血小板を含め、細胞は、インテグリンと呼ばれる特異的コラーゲン受容体を介してコラーゲン繊維に結合する。健常な動脈壁の内皮細胞層は、循環している血小板がコラーゲンと相互作用することを防ぐ。内皮損傷部位では、コラーゲンが露出し、損傷した内皮表面に血小板が付着して、血栓形成につながる一連の事象が開始される。血小板のコラーゲンへの付着は、コラーゲン受容体であるα2β1インテグリンによって主に媒介される。α2β1インテグリンは、血小板が血流から離れて堅固に付着することを媒介することにおいて、中心的に関与する。
【0003】
疫学研究により、血栓の発生におけるα2β1インテグリンの役割が明らかになっており、血小板表面でのα2β1インテグリンの高い発現レベルが、血栓塞栓症の症状の独立した重要な危険因子であることが示されている(非特許文献1参照:Kunicki et al.,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,2002,22:14−20)。加えて、高いα2β1インテグリンの発現は、心筋梗塞を含む急性冠症候群と関連付けられている。α2β1の発現レベルは、6つの異なるα2対立遺伝子によって定義され、当該発現レベルに影響を与える特定の特異的多型が同定されている。発現レベルに影響を与える特定の多型の1つは、α2インテグリンcDNAの塩基対807に位置する一塩基多型(SNP)C/Tである。T807は血小板での受容体α2β1のより高い発現と関連し、C807はより低い発現密度と関連している(非特許文献2参照:Kunicki et al.,Blood,1997,89:1939−1943)。正常集団においては、α2発現のレベルには大きな個体差がある。
【0004】
SNP T807は血栓塞栓性疾患の重要な危険因子として示唆されている。具体的に、SNP T807は、若年患者(≦50歳)の脳血管発作(脳卒中)や糖尿病性網膜症のリスクに関連する。しかしながら、多くの他の研究はそのような関連を示していないことに留意しなければならない(非特許文献1参照:Kunicki et al.,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,2002,22:14−20)。
【0005】
このように、α2β1インテグリンの高い発現レベルと遺伝的変異体とは、血栓性疾患を起こす潜在的危険因子と考えられるが、処置に対する反応におけるそれらの役割はほとんど明らかではなく、また、α2β1インテグリン受容体の遮断に対する血小板感受性に関するα2多型の役割についての報告は不十分である。Rozalskiら(非特許文献3参照:Pharmacol.Rep.,2005,57:1−13)は、TT807遺伝子型を有する被験体が、モノクローナル抗α2β1インテグリン抗体を用いた処置に対して、CC807遺伝子型を有する被験体よりも良好に反応することを示している。しかしながら、この報告はヘテロ接合型CT807遺伝子型を有する被験体の反応性について触れていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kunicki et al.,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,2002,22:14−20
【非特許文献2】Kunicki et al.,Blood,1997,89:1939−1943
【非特許文献3】Pharmacol.Rep.,2005,57:1−13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
α2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応する被験体の同定及び選別は、一般に、成功確率を有意に向上させ、臨床的使用のための新規のα2β1インテグリン阻害剤の開発費を大幅に削減するであろう。更に、α2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に対する反応性の決定により、当該処置に反応しないことが既知である患者に対して、非倫理的に当該処置を施すことが回避される。このように、α2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に反応する患者を選別する方法が当該分野で必要とされている。そのような患者は、血栓塞栓症の症状の予防、処置、及び/又は緩和において前記インテグリン受容体の阻害剤を用いた処置によって恩恵を受けるであろうし、新規の抗血栓薬の開発を目的とする臨床研究のために選別されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、α2インテグリン遺伝子型TT807を有する個体、及び、α2β1インテグリンの高い全体的発現レベルを伴うα2インテグリン遺伝子型CT807を有する個体が、α2β1受容体の遮断に反応するという驚くべき知見に基づく。
従って、本発明は、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体を同定する方法に関する。当該方法には以下の工程が含まれる。a)前記被験体から得られた試料において、配列番号1に示されるα2インテグリンcDNAの塩基対807に位置する一塩基多型(SNP)C/Tを決定する工程、b)CT807遺伝子型を有する被験体から得られた血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程、及び、c)TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する被験体を、α2β1インテグリン受容体の遮断に応答する被験体として同定する工程。
【0009】
本発明はさらに、α2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置が必要な患者において、そのような処置に対する反応性を決定する方法に関する。当該方法には以下の工程が含まれる。a)前記患者から得られた試料において、配列番号1に示されるα2インテグリンcDNAの塩基対807に位置するSNP C/Tを決定する工程、b)前記患者がCT807遺伝子型を有すると決定された場合に、インビトロで血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程、及び、c)TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する患者を、α2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応性を示す患者として指定する工程。
【0010】
本発明はさらに、患者の血栓塞栓症の症状の処置、予防、及び/又は緩和のための方法に関し、当該方法には、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する患者に対して、α2β1インテグリン阻害剤を有効量投与する工程が含まれる。
【0011】
さらに、本発明は、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有することにより、反応性があると診断された患者における血栓塞栓症の症状を予防、処置、及び/又は緩和するための薬学的組成物の製造のための、α2β1インテグリン阻害剤あるいはそれらの組み合わせの使用に関する。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によると、患者は、狭心症(angina pectoris)(不安定狭心症、狭心症(stenocardia)、及び、不特定狭心症を含むがこれらに限定されない);急性心筋梗塞;亜急性心筋梗塞(再発性心筋梗塞を含む);心筋梗塞の血栓性及び血栓塞栓性合併症;他の虚血性心疾患(心筋梗塞につながることのない冠動脈血栓を含むがこれに限定されない);慢性虚血性心疾患;肺塞栓症;脳梗塞(血栓症、塞栓症、脳実質外動脈もしくは脳動脈の閉塞又は狭窄、あるいは大脳静脈血栓症が原因である梗塞を含むがこれらに限定されない);脳梗塞につながることのない血栓症、塞栓症、脳実質外動脈もしくは脳動脈の閉塞又は狭窄;一過性脳虚血発作、及び、関連する症候群;頭蓋内静脈系の血栓症;動脈塞栓症及び血栓症(動脈瘤の塞栓症及び血栓症を含むがこれらに限定されない);血栓性静脈炎;門脈血栓症;他の静脈塞栓症及び血栓症;自家移植片、同種移植片、異種移植片、又は人工補綴物の血栓症;外傷後血栓症(ステント術又は血管形成術のような血管内手技の合併症を含むがこれらに限定されない);ならびに吻合術の血栓症のような血栓塞栓症に罹患している。
【0013】
本発明はさらに、ヒト被験体においてα2β1インテグリン受容体の遮断に対する反応性を決定するためのキットに関する。本発明のキットには以下が含まれる。a)α2インテグリン遺伝子の増幅のためのPCRプライマー、及び、状況に応じて他のPCR試薬、b)Bgl II制限酵素及び適切な緩衝液(バッファー)、c)血小板上でのα2β1インテグリンの発現レベルを検出するためのα2β1インテグリン結合試薬、並びに、d)前記ヒト被験体がα2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に反応性があるかどうかを決定するための説明書。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によると、前記α2β1インテグリン受容体の遮断は、抗体、スルホンアミド誘導体のような化合物、又は、アミノ酸配列RKKを含むペプチドのようなペプチドを含む、α2β1インテグリン阻害剤あるいはα2β1インテグリン結合試薬を用いて達成される。
以下では、本発明は添付の図面を参照して好ましい実施形態によってさらに詳細に記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】TT807(白丸)遺伝子型、及び、CT807(白三角)遺伝子型のいずれかを有するドナーがそれぞれ、CC807(黒四角)遺伝子型を有するドナーよりも、それらの血小板表面で高いα2インテグリンの平均発現を有することを示す図。なお、Y軸は血小板上での平均蛍光(MEF)におけるα2インテグリンの量を示す。**p<0.005。
【図1B】遺伝子型群がスクリーニングされる方法を示す図。増幅された断片はBgl II制限酵素で処理され、1.5%のアガロースゲル中で泳動させられる。TT807遺伝子型は(+)/(+)として、CT807は(+)/(−)として、そしてCC807は(−)/(−)として示される。
【図1C】図1Bの模式図。
【図2A】インテグリン受容体の遮断により、α2インテグリンの高い発現レベルを有するドナー(遺伝子型TT807及びCT807)においては血管閉鎖時間が長くなることを示す図。閉鎖時間はα2β1インテグリン阻害剤(BTT−3016)が存在しない場合(コントロール)と存在する場合とで、PFA−100(血小板機能分析装置)を用いて分析した。すなわち、図2Aは、全血管閉鎖時間に対するBTT−3016の効果が、TT807遺伝子型と、TC807遺伝子型及び高いα2インテグリンレベル(MEF≧35)とのいずれかを有する反応性のドナーを用いて示される図である。なお、図2Aにおけるy軸は、PFA−100によって決定された全血管閉鎖時間を秒数で示している。
【図2B】インテグリン受容体の遮断により、α2インテグリンの高い発現レベルを有するドナー(遺伝子型TT807及びCT807)においては血管閉鎖時間が長くなることを示す図。閉鎖時間はα2β1インテグリン阻害剤(BTT−3016)が存在しない場合(コントロール)と存在する場合とで、PFA−100(血小板機能分析装置)を用いて分析した。すなわち、図2Bは、血管閉鎖時間に対するBTT−3016の効果が、CC807遺伝子型を有する非反応性のドナーを用いて示される図である。なお、図2Bにおいては、y軸は、PFA−100によって決定された全血管閉鎖時間を秒数で示している。
【図3】EDTAが、C14標識されたインテグリン阻害剤のCHO−α2細胞への結合を阻害するが、CHO−野生型(wt)細胞への結合を阻害しないことを示す図。このことは、標識された化合物が細胞表面上のα2インテグリンの量を特異的に検出することを示す。Y軸は、細胞に対するC14標識されたインテグリン阻害剤の結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体を同定するための方法を見出すために試みられた研究に基づく。
30人の無作為に選択した健常なボランティアについて、α2インテグリンcDNAの塩基対807に位置する一塩基多型(SNP)C/Tの遺伝子型を分類した。研究した被験体のうち、43%がCC807遺伝子型を有し、37%がCT807遺伝子型を有し、そして20%がTT807遺伝子型を有していた。
【0017】
「CT807遺伝子型」との語は、本明細書中では、一方のα2インテグリン対立遺伝子のcDNA中の塩基対807にSNP Cを有し、かつ、他方のα2インテグリン対立遺伝子のcDNA中の塩基対807にSNP Tを有するヘテロ接合型の遺伝子型を指す。これに応じて、「CC807遺伝子型」との語は、両方のα2インテグリン対立遺伝子のcDNA中の塩基対807にSNP Cをそれぞれ有するホモ接合型の遺伝子型を指し、また「TT807遺伝子型」との語は、両方のα2インテグリン対立遺伝子のcDNA中の塩基対807にSNP Tをそれぞれ有するホモ接合型の遺伝子型を指す。
塩基対807は、例えば、Kunickiら,1997(前記)及びKritzikら,1998(Blood,92:2382−2388)によって開示され、配列番号1に示されるα2インテグリンヌクレオチド配列のヌクレオチド807をいう。当該α2インテグリンのcDNA配列はまた、GenBank受入番号X17033の下で公的に入手することもできる。
【0018】
α2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に対する、遺伝子型が同定された健常なボランティアの反応性を、PFA−100血小板機能分析における全血管閉鎖時間に対する合成α2β1インテグリン阻害剤(例えばWO2005/090298に開示されたスルホンアミド誘導体)の効果を測定することによって評価した。
PFA−100分析装置は、小血管の損傷後の一次止血を刺激する高い剪断誘導性を有する装置(high shear-inducing device)である。
【0019】
このシステムには、コラーゲン及びアデノシン二リン酸(ADP)でコートされた生物学的活性膜を含む試験カートリッジが含まれる。抗凝固全血試料が一定の負圧下で毛細管を通して流される。膜上の血小板アゴニスト(すなわち、ADP及びコラーゲン)と高剪断速度(high shear rate)とによって血小板凝集が活性化され、安定な血小板プラグで開口部が閉塞される。開口部を完全に塞ぐのに必要な時間は「閉鎖時間」として表される。合成α2β1インテグリン阻害剤を、個々の健常なボランティアから得られた全血試料に添加し、PFA−100を用いて閉鎖時間を測定した。コントロール試料(同じ個体に由来する未処理の試料)と比較して、閉鎖時間が長くなれば、被験体をα2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応性がある被験体と見なした。
【0020】
図2Bに示すように、PFA−100分析において、CC807遺伝子型を有する被験体は、スルホンアミド誘導体での処置に反応しないことが分かった。したがって、当該被験体は、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応しない被験体と見なされるべきである。
一方、α2β1インテグリンの高い発現レベル(平均蛍光又はMEF≧35)とともにCT807遺伝子型を有する被験体だけでなく、TT807遺伝子型を有する全ての被験体は、スルホンアミド誘導体での処置に対して統計学的に有意に反応し(p<0.05;図2A)、このような被験体がα2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応性を有する被験体と見なされるべきであることを示している。
【0021】
上記に基づいて、本発明により、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体を同定するための方法が提供され、当該方法には以下の工程が含まれる。上記被験体から得られた試料中で、α2インテグリンcDNAの塩基対807に位置するSNP C/Tを決定する工程、CT807遺伝子型を有する被験体から得られた血小板上でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程、及び、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する被験体を、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体として同定する工程。
【0022】
α2インテグリン遺伝子型は、制限酵素断片長多型分析(RFLP)のような当該分野で公知である任意の適切な方法によって、任意の適切な生物学的試料中で決定することができる。本発明の1つの実施形態においては、α2インテグリン遺伝子型は全血由来の細胞DNAの全体を単離し、特異的α2インテグリンプライマーを用いたPCRを行うことによって決定される。増幅されたα2断片は、その後、Bgl IIのような制限酵素で切断され、切断反応の結果がアガロースゲル上で検出される。増幅された断片に当該制限酵素の認識部位が含まれる場合は、当該断片は2つのより小さい断片に切断されるであろう。例えば、インテグリンα2 cDNA上の塩基対807にあるヌクレオチドTはBgl II制限酵素の認識部位を作るが、一方、同じ位置にあるヌクレオチドCは当該制限酵素の認識部位を作らない。このように、α2インテグリン遺伝子型は、例えばBgl II酵素での切断によって決定することができる。
【0023】
α2β1インテグリンの発現レベルは、当該分野で公知である任意の適切な直接的あるいは間接的な方法によって決定することができる。本発明における1つの実施形態においては、血小板が全血から単離され、当該血小板は特異的蛍光α2インテグリン抗体で標識される。その後、α2抗体染色が、例えば、フローサイトメーターによって分析される。
【0024】
本発明における別の実施形態においては、放射標識されたインテグリン阻害化合物又は蛍光標識されたインテグリン阻害化合物が、α2β1インテグリンの発現レベルを決定するために使用される。スルホンアミド誘導体(例えば、[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]−スルホニル}メチルアミンの塩酸塩;又は4−({[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}−アミノ)フェニルフェニルケトンのナトリウム塩)のような前記インテグリン阻害化合物は、例えば、血小板表面でα2β1インテグリンに結合し、当該結合のレベルはα2β1インテグリンの発現レベルに比例する。
【0025】
上記結合は、当業者に周知であるように、論点となっている標識の性質次第で、例えば、フローサイトメーター、シンチレーションカウンターあるいはオートラジオグラフィーによって検出することができる。本発明の更なる実施形態においては、ビオチニル化された(例えば、ストレプトアビジンが結合したビオチン)インテグリン阻害ペプチドが、α2β1インテグリンの発現レベルを評価するために使用される。前記ペプチドのα2β1インテグリンに対する結合は、α2β1インテグリンの発現レベルに比例し、例えば、化学発光によって検出することができる。インテグリン阻害ペプチドを標識するための、蛍光標識、発光標識、発色標識、測光標識、及び、放射活性標識のような他の適切な標識は、当該分野で容易に利用することができる。
【0026】
α2β1インテグリンの発現レベルを決定するためにフローサイトメーターが使用される場合には、(蛍光抗体又は蛍光標識されたインテグリン阻害化合物によってもたらされた)蛍光の強度は、1つの血小板上のα2インテグリンの量を示す。平均蛍光(MEF)は、10000個の血小板がフローサイトメーターによって計数される試料による平均蛍光強度である。フローサイトメーターによって得られたヒストグラムデータの統計分析は、個々の試料についてのMEF値を提供する。異なる試料のこれらのMEF値は、フローサイトメトリーの実行が同じ機器設定で行われた場合には、互いに比較することができる。「高い発現レベル」との語は、本明細書中で使用される場合は、MEF≧35を意味する。
【0027】
本発明におけるいくつかの実施形態においては、「高い発現レベル」は、コントロールの血小板と比較して、血小板に対する前記標識された化合物又はペプチドの結合の有意な(好ましくは、統計学的に有意な)増大によって決定される。当業者は、結合の差異が有意である場合を知り、そして当該差異を検出するための適切な方法を評価する。
【0028】
本発明におけるα2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体を同定するための方法は、例えば、新規の抗血栓薬の開発を目的とする臨床研究のための被験体を選別することにおいて有用である。α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体の同定及び選別は、一般に、成功確率を有意に向上させ、臨床的使用のための新規のα2β1インテグリン阻害剤の開発費を大幅に削減するであろう。TT807遺伝子型を有する被験体だけをそのような臨床試験に含める場合には、ボランティアのうちの15〜20%しか選択されないだろう。この態様は、何千人もの患者が必要とされる大規模な臨床試験において特に重要である。ここでは、α2β1インテグリンの高い発現レベルとともにCT807遺伝子型を有する被験体もまた、そのような臨床研究のために選択することができ、適切な個体の数はボランティアのうちの約40%に増える。
【0029】
本発明によれば、α2β1インテグリン受容体遮断を引き起こす処置が必要な患者において、そのような処置に対する反応性を決定するための方法も提供され、そして、当該処置に反応しないことが既知である患者を非倫理的に処置することが回避される。当該方法には以下の工程が含まれる。前記患者から得られた試料中で、α2インテグリンcDNAの塩基対807に位置するSNP C/Tを決定する工程、前記患者がCT807遺伝子型を有すると決定された場合に、インビトロで血小板上のα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程、並びに、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する患者を、α2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応性を示す患者として指定する工程。
本発明におけるいくつかの実施形態においては、上記患者は血栓塞栓症の症状に罹患している。遺伝子型の決定と血小板表面でのα2β1インテグリンの発現レベルの測定は、上記のように、任意の適切な方法によって行うことができる。
【0030】
本発明におけるα2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に対する反応性を決定するための方法は、例えば、血栓塞栓症の症状の予防又は処置において、α2β1インテグリン阻害剤を用いた処置により恩恵を受けるであろう患者を選択するために有用である。
【0031】
本発明によりさらに、患者の血栓塞栓症の症状の処置、予防又は緩和のための方法が提供され、当該方法には、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する当該患者に対して、α2β1インテグリン受容体を有効量投与する工程が含まれる。
【0032】
本発明はさらに、TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有することによって反応性があると診断された患者における血栓塞栓症の症状の予防、処置、及び/又は緩和のための薬学的組成物を製造するための、α2β1インテグリン阻害剤、あるいは、それらの組み合わせの使用に関する。
【0033】
「血栓塞栓症の症状」との語には、本明細書中で使用される場合は、狭心症(angina pectoris)(例えば、不安定狭心症、狭心症(stenocardia)、及び、不特定狭心症);急性心筋梗塞;亜急性心筋梗塞(再発性心筋梗塞を含む);心筋梗塞の血栓性及び血栓塞栓性合併症;他の虚血性心疾患(例えば、心筋梗塞によって生じたものではない冠動脈血栓);慢性虚血性心疾患;肺塞栓症;脳梗塞(例えば、血栓症、塞栓症、脳実質外動脈もしくは脳動脈の閉塞又は狭窄、あるいは大脳静脈血栓症が原因である梗塞);結果として脳梗塞にならない血栓症、塞栓症、脳実質外動脈もしくは脳動脈の閉塞又は狭窄;一過性脳虚血発作、及び、関連する症候群;頭蓋内静脈系の血栓症;動脈塞栓症及び血栓症(例えば、動脈瘤の塞栓症及び血栓症);血栓性静脈炎;門脈血栓症;他の静脈塞栓症及び血栓症;自家移植片、同種移植片、異種移植片、又は人工補綴物の血栓症;外傷後血栓症(例えば、ステント術又は血管形成術のような血管内手技の合併症);ならびに吻合術の血栓症が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明と関連して、結果的にα2β1インテグリン受容体を遮断する適切な化合物としては、抗体、スルホンアミド誘導体及びα2β1インテグリン結合ペプチドのようなα2β1インテグリンの機能を部分的もしくは完全に阻害又はブロックする任意の化合物が挙げられる。
【0035】
本発明の更に別の目的は、上記のように、血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定することにおいて使用される、適切に標識されたα2β1インテグリン阻害剤を提供することである。適切な標識は当業者に公知であり、これには、放射標識、蛍光標識、及び、ビオチン標識が含まれるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明によっては、ヒト被験体においてα2β1インテグリン受容体の遮断に対する反応性を決定するためのキットも提供され、上記キットには以下が含まれる。
a)α2インテグリン遺伝子の増幅のためのPCRプライマー、及び、状況に応じて他のPCR試薬。
b)Bgl II制限酵素及び適切な緩衝液。
c)血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを検出するためのα2β1インテグリン結合試薬。
d)前記ヒト被験体がα2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に反応性があるかどうかを決定するための説明書。
【0037】
本発明での使用に適しているPCRプライマーには、α2インテグリン遺伝子の領域34400nt〜64910ntにハイブリダイズする第1のプライマーと、インテグリンα2遺伝子の領域65430nt〜72180ntにハイブリダイズする第2のプライマーが含まれる。α2インテグリン遺伝子のヌクレオチド配列は、GenBank受入番号NT_006713の下で公的に入手することができる。ヌクレオチド領域34400〜64910は、配列番号2に示されるヌクレオチド1〜30511に相当し、一方、ヌクレオチド領域34400〜64910は、配列番号3に示されるヌクレオチド1〜6751に相当する。通常、前記PCRプライマーの長さは15塩基対〜25塩基対であり、好ましくは20塩基対である。本発明の1つの実施形態においては、前記第1のプライマーには、配列番号4に示されるヌクレオチド配列が含まれ、前記第2のプライマーには、配列番号5に示されるヌクレオチド配列が含まれる。
【0038】
なお、α2インテグリン遺伝子の増幅に必要であり、状況に応じて本発明のキットに含められる他のPCR試薬としては、DNAポリメラーゼ、適切なPCR緩衝液及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)が挙げられる。
【0039】
本発明の1つの実施形態においては、血小板上のα2β1インテグリンの発現レベルを検出するための前記α2β1インテグリン結合試薬は、α2β1抗体、好ましくは、蛍光標識されたα2β1抗体である。
【0040】
本発明の別の実施形態においては、血小板上のα2β1インテグリンの発現レベルを検出するための上記α2β1インテグリン結合試薬は、例えば、WO2005/090298、EP1258252、EP0472053、WO03/008380に記載されているスルホンアミド誘導体のような、放射標識又は蛍光標識された化合物である。適切な標識と標識方法は当業者には容易に理解される。
例えば、C14放射標識に適している化合物としては、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル][4−(ジメチルアミノ)フェニル]メチルアミン、
2H−ベンゾ[3,4−d]1,3−ジオキソラン−5−イル[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチルアミン、
[4−(ジメチルアミノ)フェニル][(3−ブロモフェニル)スルホニル]メチルアミン、
[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]−スルホニル}メチルアミンの塩酸塩、
{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}メチル(2−メチルベンゾキサゾール−5−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]{4−[(4,6−ジメチルピリミジン−2−イル)メチルアミノ]−フェニル}メチルアミン、
[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロ−2−メチルフェニル)フェニル]スルホニル}−メチルアミン、
[(3−ブロモフェニル)スルホニル]メチル(2−メチルインドール−5−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチル(1−メチルインドール−6−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]カルバゾール−3−イルメチルアミン
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル](1,2−ジメチルインドール−5−イル)メチルアミン、及び
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチル(1−メチルインドール−5−イル)アミン、が挙げられる。一方、蛍光標識には、4−({[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}アミノ)フェニルフェニルケトン(BTT−3016)のナトリウム塩が適している。
【0041】
本発明の更に別の実施形態においては、血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを検出するための前記α2β1インテグリン結合試薬は、WO99/02551に開示された3つのアミノ酸であるアルギニン−リジン−リジンの共線的配列(RKK;配列番号6)を含むビオチニル化された環状ペプチドである。そのような環状ペプチドには、例えば、1コピー以上のRKK配列モチーフを含むペプチド、アミノ酸配列RKKH(配列番号7)を含むペプチド、アミノ酸配列CRKKHC(配列番号8)を含むペプチド、アミノ酸配列CTRKKHC(配列番号9)、アミノ酸配列CTRKKHDC(配列番号10)、アミノ酸配列CTRKKHDNC(配列番号11)、アミノ酸配列CTRKKHDNAC(配列番号12)、及び、アミノ酸配列CTRKKHDNAQC(配列番号13)を含むペプチドが含まれる。前記ビオチニル化されたペプチドは、例えば、化学発光によって検出することができる。他の適切な標識と検出方法は当業者に容易に利用される。
【0042】
状況に応じて、前記キットに、試料中の全DNAの単離、得られたPCR産物の精製、(Bgl II反応の結果を検出するための)アガロースゲル電気泳動、及び、全血からの血小板の単離に必要とされる必須の試薬の全て、又は、いくつかを含めてもよい。
【実施例】
【0043】
〔実施例1〕
〔α2対立遺伝子の遺伝子型分類とα2β1の発現〕
30人の健常なドナーにおけるα2対立遺伝子の分布を、NucleoSpin Bloodキット(Macherey Nagel社製)を用いて、全血から全DNAを単離することによって決定した。可能性のあるBgl II部位を含むインテグリンα2遺伝子のイントロンGの約600塩基対の断片を、以下のプライマーを使用してゲノムDNAから増幅させた:5’プライマー(配列番号2に示された塩基対30480〜30503)GATTTAACTTTCCCGACTGCCTTC(配列番号4)、及び、3’プライマー(配列番号3に示された塩基対8〜31)CATAGGTTTTTGGGGAAC−AGGTGG(配列番号5)(Kritzikら,1998)。
【0044】
PCR増幅は、以下のプロトコルを使用して行った:94℃で10分間の変性;2サイクル:94℃で1分間の変性、69℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸張;2サイクル:94℃で1分間の変性、67℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸張;35サイクル:94℃で1分間の変性、65℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸張。PCR産物をBgl II制限酵素(Promega社製)で切断し、反応産物を1.5%のアガロースゲルで分析した。
【0045】
ドナーのα2遺伝子型を制限酵素断片長多型分析(RFLP)に基づいて決定した。α2インテグリンcDNA上の塩基対807にあるヌクレオチドTは、Bgl II制限酵素の認識部位を作るが、当該塩基対807にヌクレオチドCがある場合には、Bgl IIでの切断は起こらないであろう。ドナーの両方の対立遺伝子にBgl II認識部位が含まれる場合は、アガロースゲル中には2つのより小さい断片(〜300塩基対)だけが存在するであろう(TT807遺伝子型)が、他方の対立遺伝子が切断されない場合には、アガロースゲル中には600塩基対のバンドと2つのより小さいバンドが存在するであろう(TC807遺伝子型)。いずれの対立遺伝子にもBgl II認識部位が含まれない場合には、アガロースゲル中には600塩基対のバンドだけが存在するであろう(TT807遺伝子型)。
【0046】
結果として、ドナーのうち、43%がCC807遺伝子型を持ち、37%がTC807遺伝子型を持ち、そして20%がTT807遺伝子型を持っていた。これまでに、Carlssonら(Blood,1999,93:3583−3586)は、184人の健常なドナーからなる1つの群においてα2インテグリンCT807の分布を研究し、それにしたがう結果を示した。
【0047】
全血からの血小板の単離を、OptiPrep試薬(Axis−Shield社製)を用いて、製造業者のプロトコルに従って行った。密度勾配遠心分離の後、血小板を、抗α2インテグリンFITC結合抗体(BD Pharmingen社製)、又は、コントロール抗体である抗マウスFITC(DACO社製)で、室温で30分間標識した。細胞の蛍光を、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson社製)で検出した。
【0048】
遺伝子型とα2β1発現との間の相関関係を、単離した血小板のフローサイトメトリー染色によって決定した。インテグリンα2対立遺伝子CT807(平均蛍光(MEF)40.2)を有するドナーとTT807(MEF 47.2)を有するドナーとは、α2対立遺伝子CC807(MEF 23.4)を有するドナーよりも、それらの血小板表面上に多量のα2を有していた。平均的なα2β1インテグリン発現は、ホモ接合型(TT807)ドナー群及びヘテロ接合型(CT807)ドナー群のいずれにおいても高かったにもかかわらず、平均的な発現のばらつきは、ヘテロ接合型群において、より大きかった。
【0049】
〔実施例2〕
〔血管閉鎖時間に対するインテグリン受容体の遮断の効果〕
PFA−100分析における全血管閉鎖時間に対する合成α2β1インテグリン阻害剤である4−({[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}アミノ)フェニルフェニルケトン(BTT−3016)のナトリウム塩の効果を、個々の遺伝子型集団を代表するドナーについて決定した。血液を、抗凝固剤として3.2%の緩衝化したヘパリンリチウムを含むチューブの中に収集した。全血試料をインテグリン阻害化合物の存在下又は非存在下で処理した。試料を室温で10分間インキュベートし、PFAコラーゲン/ADPカートリッジ中に分注し、閉鎖時間をPFA−100(Dade Behring社製)を用いて決定した。
【0050】
BTT−3016により、インテグリンα2β1の高い発現を有しているドナーにおいて、統計学的に有意に(二元ANOVA;p<0.05)閉鎖時間を延長することが示された(フローサイトメトリー分析によって、血小板上のα2インテグリンの量はMEF≧35と決定された)。効果は、遺伝子型(CT807又はTT807)には依存しなかった。BTT−3016は、低いインテグリン発現を有するドナー(遺伝子型CC807)においては有効ではなかった。このように、血小板のフローサイトメトリー染色を用いたα2β1インテグリンのタンパク質発現レベルの検出に、α2 cDNAの塩基対807での遺伝子多型の分析を組み合わせることにより、血栓性疾患の処置においてα2β1受容体の遮断により恩恵を受けるであろう患者の選別が可能となる。
【0051】
〔実施例3〕
〔血小板上のα2β1インテグリン発現レベルの決定におけるC14標識されたインテグリン阻害剤の使用〕
14標識されたインテグリン阻害化合物である[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]−スルホニル}メチルアミンの塩酸塩の結合を、CHO−wt細胞とα2インテグリンを過剰発現するCHO細胞クローン(CHO−α2)とを用いて研究した。なお、CHO−wt細胞は、それらの細胞表面にコラーゲン受容体インテグリンを持たない。
【0052】
2%のホルムアルデヒドを含むPBS中に細胞を固定した。その後、当該細胞を洗浄し、反応緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.4、5mMのMgCl2)中に懸濁した。10μMのC14標識された阻害化合物を全ての試料に添加し、当該細胞を20mMのEDTAの存在下又は非存在下で1時間、+4℃でインキュベートした。個々の試料から20000個の細胞をGF/Bガラス・マイクロファイバー・フィルター(Whatman社製)上にロードし、試料を10mLの反応緩衝液で洗浄した。膜をシンチレーション緩衝液(Optiphase HiSafe3,Perkin Elmer社製)に入れ、その活性をシンチレーションカウンターで測定した(Wallac 1415)。
【0053】
14標識されたインテグリン阻害化合物は、CHO−wt細胞よりもCHO−α2細胞に対してより効率よく結合した(図3)。α2インテグリンが当該化合物に結合するためにはMg2+イオンが必要であるとの事実から、EDTAを実験に使用した。20mMのEDTAの存在下で、標識された化合物の結合は、CHO−α2細胞では阻害されたが、CHO−wt細胞では阻害されなかった。これは、結合がα2インテグリンに対して特異的であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体を同定するための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法。
a)前記被験体から得られた試料において、配列番号1に示されるα2インテグリンcDNAの塩基対807に位置する一塩基多型(SNP)C/Tを決定する工程。
b)CT807遺伝子型を有する被験体から得られた血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程。
c)TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する被験体を、α2β1インテグリン受容体の遮断に反応する被験体として同定する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
工程a)は、制限酵素断片長多型に基づくことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
工程b)は、フローサイトメーター又はシンチレーションカウンターを用いた、オートラジオグラフィー、化学発光、測光、蛍光検出法又は発光検出法によって行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
工程c)における前記高い発現レベルは、平均蛍光が35以上であることを意味することを特徴とする方法。
【請求項5】
α2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置が必要な患者において、そのような処置に対する反応性を決定するための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法。
a)前記患者から得られた試料において、配列番号1に示されるα2インテグリンcDNAの塩基対807に位置するSNP C/Tを決定する工程。
b)前記患者がCT807遺伝子型を有すると決定された場合に、インビトロで血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを測定する工程。
c)TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する患者を、α2β1インテグリン受容体の遮断に対して反応性を示すものとして指定する工程。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記患者は、血栓塞栓症の症状に罹患していることを特徴とする方法。
【請求項7】
患者の血栓塞栓症の症状の処置、予防、及び/又は緩和のための方法であって、
TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有する患者に対して、α2β1インテグリン阻害剤を有効量投与する工程を含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記阻害剤は、抗体であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、
前記阻害剤は、α2β1インテグリン結合化合物であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記化合物は、スルホンアミド誘導体であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法において、
前記阻害剤は、ペプチドであることを特徴とする方法。
【請求項12】
TT807遺伝子型と、α2β1インテグリンの高い発現レベルを伴うCT807遺伝子型とのいずれかを有することにより、反応性があると診断された患者における血栓塞栓性の症状を予防、処置、及び/又は緩和するための薬学的組成物の製造のための、α2β1インテグリン阻害剤あるいはそれらの組み合わせの使用。
【請求項13】
請求項12に記載の使用において、
前記阻害剤は、抗体であることを特徴とする使用。
【請求項14】
請求項12に記載の使用において、
前記阻害剤は、α2β1インテグリン結合化合物であることを特徴とする使用。
【請求項15】
請求項14に記載の使用において、
前記化合物は、スルホンアミド誘導体であることを特徴とする使用。
【請求項16】
請求項12に記載の使用において、
前記阻害剤は、ペプチドであることを特徴とする使用。
【請求項17】
ヒト被験体においてα2β1インテグリン受容体の遮断に対する反応性を決定するためのキットであって、以下を含むことを特徴とするキット。
a)α2インテグリン遺伝子の増幅のためのPCRプライマー、及び、状況に応じて他のPCR試薬。
b)Bgl II制限酵素及び適切な緩衝液。
c)血小板でのα2β1インテグリンの発現レベルを検出するためのα2β1インテグリン結合試薬。
d)前記ヒト被験体がα2β1インテグリン受容体の遮断を引き起こす処置に反応性があるかどうかを決定するための説明書。
【請求項18】
請求項17に記載のキットにおいて、
a)は、配列番号2に示されるα2インテグリン遺伝子の領域1〜30511ntにハイブリダイズする第1のプライマーと、配列番号3に示されるインテグリンα2遺伝子の領域1〜6751ntにハイブリダイズする第2のプライマーとを含むことを特徴とするキット。
【請求項19】
請求項18に記載のキットにおいて、
前記第1のプライマーには、配列番号4に示されるヌクレオチド配列が含まれ、
前記第2のプライマーには、配列番号5に示されるヌクレオチド配列が含まれることを特徴とするキット。
【請求項20】
請求項17に記載のキットにおいて、
前記α2β1インテグリン結合試薬は、抗体であることを特徴とするキット。
【請求項21】
請求項17に記載のキットにおいて、
前記α2β1インテグリン結合試薬は、α2β1インテグリン結合化合物であることを特徴とするキット。
【請求項22】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記化合物は、スルホンアミド誘導体であることを特徴とするキット。
【請求項23】
請求項22に記載のキットにおいて、
前記スルホンアミド誘導体は、以下の群より選択されることを特徴とするキット。
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル][4−(ジメチルアミノ)フェニル]メチルアミン、
2H−ベンゾ[3,4−d]1,3−ジオキソラン−5−イル[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチルアミン、
[4−(ジメチルアミノ)フェニル][(3−ブロモフェニル)スルホニル]メチルアミン、[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]−スルホニル}メチルアミンの塩酸塩、
{[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}メチル(2−メチルベンゾキサゾール−5−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]{4−[(4,6−ジメチルピリミジン−2−イル)メチルアミノ]−フェニル}メチルアミン、
[4−(ジメチルアミノ)フェニル]{[3−(4−フルオロ−2−メチルフェニル)フェニル]スルホニル}−メチルアミン、
[(3−ブロモフェニル)スルホニル]メチル(2−メチルインドール−5−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチル(1−メチルインドール−6−イル)アミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]カルバゾール−3−イルメチルアミン、
[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル](1,2−ジメチルインドール−5−イル)メチルアミン、
及び[(2,4−ジクロロフェニル)スルホニル]メチル(1−メチルインドール−5−イル)アミン、
及び4−({[3−(4−フルオロフェニル)フェニル]スルホニル}アミノ)フェニルフェニルケトンのナトリウム塩。
【請求項24】
請求項17に記載のキットにおいて、
前記α2β1インテグリン結合試薬は、ペプチドであることを特徴とするキット。
【請求項25】
請求項23に記載のキットにおいて、
前記ペプチドには、配列番号6〜13からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれることを特徴とするキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−527233(P2010−527233A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503536(P2010−503536)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050195
【国際公開番号】WO2008/125738
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(500021583)バイオティ セラピーズ コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】