説明

インナーフォーカスズームレンズ

【課題】無限遠距離から至近距離までの全ての共役長で高い結像性能を得ることができ、かつ、フォーカシングでの画角変動が少ない、広角でコンパクトなズームレンズを提供する。
【解決手段】ズームレンズZLは、拡大側から順に、変倍時に固定で負のパワーを有する第1レンズ群Gr1と、変倍時に移動する複数のレンズ群Gr2〜Gr4を有する。第1レンズ群Gr1が負のパワーを有する3つのレンズ群:第1a群Gr1aと第1b群Gr1bと第1c群Gr1cを含み、第1a群Gr1aがフォーカス時に固定で少なくとも1枚の正レンズを含み、第1b群Gr1bが無限遠から近距離へのフォーカス時に縮小側へ移動し、第1c群Gr1cが無限遠から近距離へのフォーカス時に拡大側へ移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はズームレンズに関するものであり、更に詳しくは、広角でコンパクトなインナーフォーカスズームレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ交換することなく焦点距離を変えることのできるズームレンズは、使用上の利便性やコスト面で大変有利である。しかし、全ての焦点距離や共役長において充分な結像性能の得られないことが多く、とりわけ至近距離で高い結像性能を得ることは困難である。また、無限遠距離から至近距離にフォーカシングする際の画角の変動を抑えることも困難であるが、それを抑えるための技術はあまり知られていない。これらの問題を解決するために、複数の群をフォーカス群として用いるフローティングと呼ばれる技術が、特許文献1〜5で提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1記載のズームレンズは、負トップズームで第2レンズ群のインナーフォーカスを採用している。特許文献2記載のズームレンズは、負トップズームで第1レンズ群が有する負群と正群でのフォーカスを採用しており、特許文献3記載のズームレンズは、負トップズームで第1レンズ群が有する2つの負群でのフォーカスを採用しており、特許文献4記載のズームレンズは、負トップズームで第1レンズ群が有する負群と正群でのフォーカスを採用している。また、特許文献5記載のズームレンズは、正トップズームで第1レンズ群が固定の負群と2つの正群から成り、2つの正群でハの字フォーカスを行う構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−169051号公報
【特許文献2】特開平11−095100号公報
【特許文献3】特開2002−357771号公報
【特許文献4】特開2008−257005号公報
【特許文献5】特開平09−258102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のズームレンズでは、フォーカス群とズーム群が共用になっているため、フォーカシング時の焦点距離変動(画角変動)が大きくなるという問題がある。特許文献2〜4に記載のズームレンズでは、第1レンズ群中のすべての群を動かしているため、必然的にパワーの強い群をフォーカシングで動かすことになり、画角変動を抑えることができないという問題がある。さらに、特許文献1〜4に記載のズームレンズは前玉が可動なので、全ての共役長で周辺光量を確保するために前玉径に余裕を持たせる必要がある。また、特許文献5に記載のズームレンズでは、第1レンズ群が正のパワーを有しているため、広画角化を図ろうとするとレンズ径が大きくなってしまう。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、無限遠距離から至近距離までの全ての共役長で高い結像性能を得ることができ、かつ、フォーカシングでの画角変動が少ない、広角でコンパクトなズームレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明のズームレンズは、拡大側から順に、変倍時に固定で負のパワーを有する第1レンズ群と、変倍時に移動する複数のレンズ群と、を有するズームレンズであって、前記第1レンズ群が負のパワーを有する3つのレンズ群を含み、前記3つのレンズ群のうち、最も拡大側のレンズ群を第1a群とし、第1a群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1b群とし、第1b群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1c群とすると、前記第1a群が、フォーカス時に固定で少なくとも1枚の正レンズを含み、前記第1b群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に縮小側へ移動し、前記第1c群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に拡大側へ移動することを特徴とする。
【0008】
第2の発明のズームレンズは、上記第1の発明において、以下の条件式(1)を満たすことを特徴とする。
2<f1a/f1<10 …(1)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1a:第1a群の焦点距離、
である。
【0009】
第3の発明のズームレンズは、上記第1又は第2の発明において、以下の条件式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする。
1<f1b/f1<5 …(2)
2<f1c/f1<10 …(3)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1b:第1b群の焦点距離、
f1c:第1c群の焦点距離、
である。
【0010】
第4の発明の撮像光学装置は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明に係るズームレンズと、受光面上に形成された光学像を電気的な信号に変換する撮像素子と、を備え、前記撮像素子の受光面上に被写体の光学像が形成されるように前記ズームレンズが設けられていることを特徴とする。
【0011】
第5の発明のデジタル機器は、上記第4の発明に係る撮像光学装置を備えることにより、被写体の静止画撮影,動画撮影のうちの少なくとも一方の機能が付加されたことを特徴とする。
【0012】
第6の発明のプロジェクタは、画像を表示する画像表示素子と、光源と、その光源からの光を前記画像表示素子に導く照明光学系と、前記画像表示素子に表示された画像をスクリーン面に拡大投影する上記第1〜第3のいずれか1つの発明に係るズームレンズと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、負のパワーを有する第1レンズ群が負のパワーを有する特徴的な3つのレンズ群を含んだインナーフォーカス構成になっているため、無限遠距離から至近距離までの全ての共役長で高い結像性能を得ることができ、かつ、フォーカシングでの画角変動を少なくし、広角化及びコンパクト化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施の形態(実施例1)の光路図。
【図2】第2の実施の形態(実施例2)の光路図。
【図3】実施例1の望遠端,無限遠物体距離時の収差図。
【図4】実施例1の望遠端,最近接物体距離時の収差図。
【図5】実施例1の中間ポジション,無限遠物体距離時の収差図。
【図6】実施例1の中間ポジション,最近接物体距離時の収差図。
【図7】実施例1の広角端,無限遠物体距離時の収差図。
【図8】実施例1の広角端,最近接物体距離時の収差図。
【図9】実施例2の望遠端,無限遠物体距離時の収差図。
【図10】実施例2の望遠端,最近接物体距離時の収差図。
【図11】実施例2の中間ポジション,無限遠物体距離時の収差図。
【図12】実施例2の中間ポジション,最近接物体距離時の収差図。
【図13】実施例2の広角端,無限遠物体距離時の収差図。
【図14】実施例2の広角端,最近接物体距離時の収差図。
【図15】光学ガラスのアッベ数と部分分散比との関係を示すグラフ。
【図16】ズームレンズを搭載したデジタル機器の概略構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るズームレンズ等を説明する。本発明に係るズームレンズは、拡大側から順に、変倍時に固定で負のパワーを有する第1レンズ群と、変倍時に移動する複数のレンズ群と、を有するズームレンズである(パワー:焦点距離の逆数で定義される量)。そして、前記第1レンズ群が負のパワーを有する3つのレンズ群を含み、前記3つのレンズ群のうち、最も拡大側のレンズ群を第1a群とし、第1a群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1b群とし、第1b群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1c群とすると、前記第1a群が、フォーカス時に固定で少なくとも1枚の正レンズを含み、前記第1b群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に縮小側へ移動し、前記第1c群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に拡大側へ移動することを特徴としている。
【0016】
第1レンズ群に負のパワーを持たせれば、広画角を達成しやすくなる。また、フォーカシングの際に強すぎないパワーを持つ複数のレンズ群を動かせば、無限遠距離から至近距離までの全ての共役長で画角変動をコントロールしつつ高い結像性能を得ることが可能になる。したがって、固定群(第1a群に相当する。)を設け、それに負のパワーを持たせることが効果的である。すべての群が負のパワーを持つようにすれば、固定群,移動群のそれぞれのパワーを抑えることができるので、収差補正には有利である。また、移動群(第1b群,第1c群に相当する。)を互いに逆方向に動かせば、フォーカシングの際の画角変動を抑えることができる。
【0017】
全体で負のパワーを持つ第1レンズ群において、最も拡大側の第1a群に正レンズを配し、続く第1b群と第1c群に負のパワーを持たせることにより、90度近い広画角でも歪曲収差や倍率色収差を効果的に補正することができる。負のパワーを持つ第1a群を固定し、残る負のパワーを持つ第1b群と第1c群を独立して移動させることより、フォーカシングの際の画角の変動を抑えつつ、像面湾曲や歪曲収差の変動を効果的に補正することが可能になる。また、第1a群を位置固定とすることにより、前玉径に余裕を持たせる必要がなくなり、鏡筒を小さくでき、全長を短く維持することができる。さらに、防塵防滴効果が得られやすく、衝撃に強くなる等の効果もある。
【0018】
上述したズームレンズの特徴的構成によると、無限遠距離から至近距離までの全ての共役長で高い結像性能を得ることができ、かつ、フォーカシングでの画角変動を少なくし、広角化及びコンパクト化を達成することができる。そして、そのズームレンズをデジタルカメラ,プロジェクタ等のデジタル機器に用いれば、デジタル機器に対し高性能の画像入力機能や画像出力機能を軽量・コンパクトに付加することが可能となる。したがって、デジタル機器のコンパクト化,低コスト化,高性能化,高機能化等に寄与することができる。こういった効果をバランス良く得るとともに、更に高い光学性能,小型化等を達成するための条件等を以下に説明する。
【0019】
以下の条件式(1)を満たすことが望ましい。
2<f1a/f1<10 …(1)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1a:第1a群の焦点距離、
である。
【0020】
条件式(1)を満たすことにより、前玉の径の増大を抑えつつ、歪曲や像面湾曲を良好に補正することができる。条件式(1)の下限を下回ると、第1a群のパワーが強くなりすぎるため、歪曲や像面湾曲が悪化するおそれがある。条件式(1)の上限を上回っても、歪曲や像面湾曲が悪化するおそれがあるほか、前玉の径の増大にもつながる。
【0021】
以下の条件式(1a)を満たすことが望ましく、条件式(1b)を満たすことが更に望ましい。
2<f1a/f1<8 …(1a)
2<f1a/f1<6 …(1b)
これらの条件式(1a),(1b)は、前記条件式(1)が規定している条件範囲のなかでも、前記観点等に基づいた更に好ましい条件範囲を規定している。したがって、好ましくは条件式(1a)、更に好ましくは条件式(1b)を満たすことにより、上記効果をより一層大きくすることができる。
【0022】
以下の条件式(2)及び(3)を満たすことが望ましい。
1<f1b/f1<5 …(2)
2<f1c/f1<10 …(3)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1b:第1b群の焦点距離、
f1c:第1c群の焦点距離、
である。
【0023】
条件式(2)及び(3)を満たすことにより、広画角化を図りつつ、全ての共役長で諸収差をバランス良く補正することができる。条件式(2)又は条件式(3)の下限を下回ると、フォーカス群のパワーが強くなりすぎるため、全ての共役長で像面湾曲や倍率色収差をバランス良く補正することが困難になる。また、画角を一定に保つことも困難になる。条件式(2)又は条件式(3)の上限を上回ると、フォーカス群のパワーが弱くなり、近接距離でフォーカスを合わせることができなくなる。
【0024】
以下の条件式(2a)を満たすことが望ましく、条件式(2b)を満たすことが更に望ましい。
1<f1b/f1<3.5 …(2a)
1<f1b/f1<3 …(2b)
これらの条件式(2a),(2b)は、前記条件式(2)が規定している条件範囲のなかでも、前記観点等に基づいた更に好ましい条件範囲を規定している。したがって、好ましくは条件式(2a)、更に好ましくは条件式(2b)を満たすことにより、上記効果をより一層大きくすることができる。
【0025】
以下の条件式(3a)を満たすことが望ましく、条件式(3b)を満たすことが更に望ましい。
2<f1c/f1<8 …(3a)
2<f1c/f1<6 …(3b)
これらの条件式(3a),(3b)は、前記条件式(3)が規定している条件範囲のなかでも、前記観点等に基づいた更に好ましい条件範囲を規定している。したがって、好ましくは条件式(3a)、更に好ましくは条件式(3b)を満たすことにより、上記効果をより一層大きくすることができる。
【0026】
本発明に係るズームレンズは、画像入力機能付きデジタル機器用の撮像レンズとしての使用に適しており、これを撮像素子等と組み合わせることにより、被写体の映像を光学的に取り込んで電気的な信号として出力する撮像光学装置を構成することができる。撮像光学装置は、被写体の静止画撮影や動画撮影に用いられるカメラの主たる構成要素を成す光学装置であり、例えば、物体(すなわち被写体)側から順に、物体の光学像を形成するズームレンズと、そのズームレンズにより形成された光学像を電気的な信号に変換する撮像素子と、を備えることにより構成される。そして、撮像素子の受光面(すなわち撮像面)上に被写体の光学像が形成されるように、前述した特徴的構成を有するズームレンズが配置されることにより、小型・低コストで高変倍・高性能の撮像光学装置やそれを備えたデジタル機器を実現することができる。
【0027】
画像入力機能付きデジタル機器の例としては、シネマ用カメラ,デジタルカメラ,ビデオカメラ,監視カメラ,車載カメラ,テレビ電話用カメラ等のカメラが挙げられ、また、パーソナルコンピュータ,デジタル機器(例えば、携帯電話,モバイルコンピュータ等の小型で携帯可能な情報機器端末),これらの周辺機器(スキャナー,プリンター等),その他のデジタル機器等に内蔵又は外付けされるカメラが挙げられる。これらの例から分かるように、撮像光学装置を用いることによりカメラを構成することができるだけでなく、各種機器に撮像光学装置を搭載することによりカメラ機能を付加することが可能である。例えば、カメラ付きプロジェクタ等の画像入力機能付きデジタル機器を構成することが可能である。
【0028】
図16(A)に、画像入力機能を有するデジタル機器DUの概略構成例を模式的断面で示す。図16(A)に示すデジタル機器DUに搭載されている撮像光学装置LUは、物体(すなわち被写体)側から順に、物体の光学像(像面)IMを変倍可能に形成するズームレンズZL(AX:光軸)と、平行平面板PT(撮像素子SRのカバーガラス;必要に応じて配置される光学的ローパスフィルター,赤外カットフィルター等の光学フィルター等に相当する。)と、ズームレンズZLにより受光面SS上に形成された光学像IMを電気的な信号に変換する撮像素子SRと、を備えている。この撮像光学装置LUで画像入力機能付きデジタル機器DUを構成する場合、通常そのボディ内部に撮像光学装置LUを配置することになるが、カメラ機能を実現する際には必要に応じた形態を採用することが可能である。例えば、ユニット化した撮像光学装置LUをデジタル機器DUの本体に対して着脱自在又は回動自在に構成することが可能である。
【0029】
ズームレンズZLは、複数のズーム移動群がそれぞれ光軸AXに沿って移動して各ズーム群間隔を変化させることにより変倍(すなわちズーミング)を行い、最も物体側(拡大側)のズーム群内の2つのフォーカス群がそれぞれ光軸AXに沿って移動することによりフォーカシングを行い(インナーフォーカス)、撮像素子SRの受光面SS上に光学像IMを形成する構成になっている。撮像素子SRとしては、例えば複数の画素を有するCCD(Charge Coupled Device)型イメージセンサ,CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等の固体撮像素子が用いられる。ズームレンズZLは、撮像素子SRの光電変換部である受光面SS上に被写体の光学像IMが形成されるように設けられているので、ズームレンズZLによって形成された光学像IMは、撮像素子SRによって電気的な信号に変換される。
【0030】
デジタル機器DUは、撮像光学装置LUの他に、信号処理部1,制御部2,メモリ3,操作部4,表示部5等を備えている。撮像素子SRで生成した信号は、信号処理部1で所定のデジタル画像処理や画像圧縮処理等が必要に応じて施され、デジタル映像信号としてメモリ3(半導体メモリ,光ディスク等)に記録されたり、場合によってはケーブルを介したり赤外線信号等に変換されたりして他の機器に伝送される(例えば携帯電話の通信機能)。制御部2はマイクロコンピュータから成っており、撮影機能(静止画撮影機能,動画撮影機能等),画像再生機能等の機能の制御;ズーミング,フォーカシング,手ぶれ補正等のためのレンズ移動機構の制御等を集中的に行う。例えば、被写体の静止画撮影,動画撮影のうちの少なくとも一方を行うように、制御部2により撮像光学装置LUに対する制御が行われる。表示部5は液晶モニター等のディスプレイを含む部分であり、撮像素子SRによって変換された画像信号あるいはメモリ3に記録されている画像情報を用いて画像表示を行う。操作部4は、操作ボタン(例えばレリーズボタン),操作ダイヤル(例えば撮影モードダイヤル)等の操作部材を含む部分であり、操作者が操作入力した情報を制御部2に伝達する。
【0031】
ここで、第1,第2の実施の形態を挙げて、ズームレンズZLの具体的な光学構成を更に詳しく説明する。図1,図2は、第1,第2の実施の形態を構成するズームレンズZLにそれぞれ対応する光路図であり、望遠端(T),中間ポジション(M,中間焦点距離状態),広角端(W)でのレンズ配置,光路等を光学断面で示している。図1,図2中、矢印mi(i=2,3,…)は、望遠端(T)から広角端(W)へのズーミングにおける第iレンズ群Griの移動をそれぞれ模式的に示しており、矢印mb,mcは、無限遠物体距離から最近接物体距離へのフォーカシングにおける第1b群Gr1b,第1c群Gr1cの移動をそれぞれ模式的に示している。また、第jレンズGjは拡大側からj番目に位置するレンズである。
【0032】
第1,第2の実施の形態(図1,図2)のズームレンズZLは、最も拡大側(物体側)のズーム群及び最も縮小側(像側)のズーム群(絞りSTは最終群において最も拡大側に位置する)を固定群とし、それ以外のズーム群を移動群として光軸AXに沿って移動させることによりズーミングを行う構成になっている。例えば、第1の実施の形態(図1)は、拡大側から順に負正正負正のパワーを有する5群構成のズームレンズであり、第1レンズ群Gr1及び第5レンズ群Gr5が固定群であり、第2レンズ群Gr2〜第4レンズ群Gr4が移動群である。第2の実施の形態(図2)は、拡大側から順に負正負正負正正のパワーを有する7群構成のズームレンズであり、第1レンズ群Gr1及び第7レンズ群Gr7が固定群であり、第2レンズ群Gr2〜第6レンズ群Gr6が移動群である。
【0033】
また、ズーム時に固定で負のパワーを有する第1レンズ群Gr1は、拡大側から順に、第1a群Gr1aと、第1b群Gr1bと、第1f群Gr1fと、第1c群Gr1cと、の4つのレンズ群で構成されている。その4つのレンズ群のうち、第1a群Gr1aと第1b群Gr1bと第1c群Gr1cは、負のパワーを有するレンズ群であり、第1a群Gr1aと第1f群Gr1fは、フォーカス時に固定である。第1a群Gr1aは少なくとも1枚の正レンズを含み、第1b群Gr1bは無限遠から近距離へのフォーカス時に縮小側へ移動し、第1c群Gr1cは無限遠から近距離へのフォーカス時に拡大側へ移動する構成になっている。
【0034】
第1,第2の実施の形態において、第15レンズG15(図1,図2)は石英ガラスから成っている。石英ガラスは、標準的な異常分散性を示すため、色収差を増大させることがなく、かつ、フォーカス位置ずれを良好に補正することができる。石英ガラスは、図15のグラフではアッベ数Vd=67.72、部分分差比P=0.524にあり、標準的な異常分散性を示し、色収差を増大させるおそれがない。また石英ガラスは、その透過率が波長350nmで99.9%(材料の厚さ10mm)と充分に大きく、また、色バランスを良好に維持することができる。さらに、石英ガラスは、温度変化に対する屈折率変化率dN/dTが9.9×10-6と大きく、正レンズで発生するフォーカス位置のずれを良好に補正し、画質の低下を防ぐことができる。
【0035】
次に、ズームレンズZLを適用したプロジェクタの一実施の形態を説明する。図16(B)に、プロジェクタPJの概略構成例を示す。このプロジェクタPJは、ズームレンズZL,反射ミラー12,画像表示素子13,光源14,照明光学系15,制御部16,プリズムPR等を備えている。制御部16は、プロジェクタPJの全体制御を司る部分である。画像表示素子13は、光を変調して画像を生成する画像変調素子であり、画像を表示する表示面上には、カバーガラスCGが設けられている。光源14からの光は、照明光学系15,ミラー12及びプリズムPRで画像表示素子13に導かれる。プリズムPRは、例えばTIRプリズム(他に色分離合成プリズム等)から成り、照明光と投影光との分離を行う。画像表示素子13に表示された画像は、ズームレンズZLでスクリーン面11に拡大投影される。
【0036】
ズーミングやフォーカシングのために移動するレンズ群には、それぞれ光軸AXに沿って拡大側又は縮小側に移動させるアクチュエータ17が接続されている。そしてアクチュエータ17には、移動群の移動制御を行うための制御部16が接続されている。なお、制御部16及びアクチュエータ17については、これを使わず手動でレンズ群を移動させてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施したズームレンズの構成等を、実施例のコンストラクションデータ等を挙げて更に具体的に説明する。ここで挙げる実施例1,2(EX1,2)は、前述した第1〜第2の実施の形態にそれぞれ対応する数値実施例であり、第1,第2の実施の形態を表す光路図(図1,図2)は、対応する実施例1,2のレンズ構成,光路等をそれぞれ示している。
【0038】
各実施例のコンストラクションデータでは、面データとして、左側の欄から順に、面番号i,曲率半径r(mm),軸上面間隔d(mm),d線(波長587.6nm)に関する屈折率Nd,d線に関するアッベ数Vdを示す。また、各種データとして、ズーム比を示し、さらに各焦点距離状態(T),(M),(W)について、全系の焦点距離(FL,mm),Fナンバー(FNO),像高(Y’,mm),レンズ全長(TL,mm),バックフォーカス(BF,mm),最近接物体距離時の倍率(近端倍率),無限遠物体距離時の半画角(無限ω,°),最近接物体距離時の半画角(近端ω,°),画角変動(%),並びにズーミング及びフォーカシングにおける可変面間隔di(i:面番号,mm)を示し、ズームレンズ群データとして、各レンズ群の焦点距離(mm)を示す。なお、いずれの実施例においても、無限遠から至近距離まででの画角変動を2%程度に抑えることができている。
【0039】
なお、バックフォーカスBFは、レンズ最終面から近軸像面IMまでの距離を空気換算長により表記しており、レンズ全長TLは、レンズ最前面からレンズ最終面までの距離にバックフォーカスを加えたものである。また、(T,∞),(M,∞),(W,∞)は各焦点距離状態(T),(M),(W)における無限遠物体距離時の可変面間隔diを示しており、(T,N),(M,N),(W,N)は各焦点距離状態(T),(M),(W)における最近接物体距離時の可変面間隔diを示している。表1に、各実施例の条件式対応値を示す。
【0040】
図3〜図8,図9〜図14は、実施例1,2(EX1,2)にそれぞれ対応する収差図である。図3,図4,図9,図10は望遠端(T)における諸収差を示しており、図5,図6,図11,図12は中間ポジション(M,中間焦点距離状態)における諸収差を示しており、図7,図8,図13,図14は広角端(W)における諸収差を示している。また、図3,図5,図7,図9,図11,図13は無限遠物体距離時(無限ポジション:∞)の諸収差を示しており、図4,図6,図8,図10,図12,図14は最近接物体距離時(近端ポジション:N)の諸収差を示している。
【0041】
図3〜図14のそれぞれにおいて、(A)は球面収差(mm)、(B)は非点収差(mm)、(C)は歪曲収差(%)、(D)は倍率色収差(mm)を示している(H:入射高さ(mm),Y’:像高(mm))。(A)の球面収差図において、実線はe線(波長546.1nm)に対する球面収差、破線はg線(波長435.8nm)に対する球面収差、一点鎖線はC線(波長656.3nm)に対する球面収差、をそれぞれ表している。(B)の非点収差図において、太線で示すmer−e,mer−g,mer−Cはメリディオナル像面、細線で示すsag−e,sag−g,sag−Cはサジタル像面であり、実線はe線(波長546.1nm)、破線はg線(波長435.8nm)、一点鎖線はC線(波長656.3nm)に対する非点収差をそれぞれ表している。(C)の歪曲収差図において実線はe線に対する歪曲(%)を表しており、(D)の倍率色収差図において破線はg線(波長435.8nm)、一点鎖線はC線(波長656.3nm)に対する倍率色収差をそれぞれ表している。
【0042】
実施例1
単位:mm
面データ
i r d Nd Vd
1 166.067
8.632 1.69680 55.5
2 301.160
0.500
3 112.627
8.511 1.71300 53.9
4 191.882
0.500
5 70.555
3.387 1.72916 54.7
6 34.168
9.893
7 62.893
2.371 1.72916 54.7
8 26.769
可変(フォーカス)
9 -113.546
1.393 1.80518 25.5
10 32.822
可変(フォーカス)
11 -134.227
7.178 1.59270 35.5
12 -26.596
0.010
13 -26.596
1.676 1.48749 70.4
14 77.321
2.448
15 93.911
6.396 1.59270 35.5
16 -58.472
可変(フォーカス)
17 -48.591
1.692 1.65412 39.7
18 -196.645
可変(フォーカス・ズーム)
19 297.717
7.272 1.48749 70.4
20 -38.451
3.983
21 133.494
3.558 1.88300 40.8
22 84.814
可変(ズーム)
23 43.901
8.081 1.54814 45.8
24 -158.261
可変(ズーム)
25 -93.075
2.343 1.88300 40.8
26 40.177
0.010
27 40.177
6.403 1.48749 70.4
28 -88.944
0.500
29 105.024
4.726 1.45847 67.7
30 -77.381
可変(ズーム)
31(絞り) ∞
1.450
32 37.279
6.540 1.59270 35.5
33 -33.425
0.010
34 -33.425
0.839 1.83481 42.7
35 42.507
16.896
36 45.752
6.869 1.49700 81.6
37 -43.520
0.500
38 118.174
5.360 1.49700 81.6
39 -53.071
2.917
40 -38.455
1.024 1.88300 40.8
41 34.631
2.815
42 42.958
7.497 1.49700 81.6
43 -62.483
1.000
44 828.643
4.132 1.49700 81.6
45 -75.958
38.000
46 ∞
1.000 1.51680 64.2
47 ∞
1.000
48 ∞
【0043】
各種データ
ズーム比 1.61
(T) (M) (W)
FL 29.0 22.5 18.0
FNO 3.15 3.15 3.15
Y' 16.8 16.8 16.8
TL 271.2 271.2 271.2
BF 39.7 39.7 39.7
近端倍率 -0.0914 -0.0733 -0.0588
無限ω(°) 31.0 36.8 43.0
近端ω(°) 30.7 36.4 42.2
画角変動(%) -0.81 -1.08 -1.86

(T,∞) (M,∞) (W,∞) (T,N) (M,N) (W,N)
d8 11.642 11.642 11.642 14.515 14.515 14.515
d10 10.761 10.761 10.761 7.888 7.888 7.888
d16 9.995 9.995 9.995 5.261 5.261 5.261
d18 1.666 0.440 0.586 6.400 5.174 5.320
d22 0.500 20.335 38.408 0.500 20.335 38.408
d24 5.292 7.328 9.866 5.292 7.328 9.866
d30 42.392 21.748 0.991 42.392 21.748 0.991
【0044】
ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -16.876
2 19 90.121
3 23 63.265
4 25 -498.206
5 31 98.491
【0045】
実施例2
単位:mm
面データ
i r d Nd Vd
1 232.913
11.380 1.72916 54.7
2 -489.850
3.200
3 -238.540
5.623 1.59270 35.3
4 1555.364
0.500
5 196.039
9.989 1.48749 70.2
6 -332.424
0.500
7 132.022
3.039 1.60300 65.4
8 32.308
可変(フォーカス)
9 -89.867
2.188 1.75700 47.8
10 48.827
可変(フォーカス)
11 -87.815
4.211 1.51633 64.1
12 75.048
0.010
13 75.048
10.000 1.83481 42.7
14 -66.499
可変(フォーカス)
15 -48.310
4.102 1.51633 64.1
16 22216.872
可変(フォーカス・ズーム)
17 -229.144
7.547 1.48749 70.2
18 -52.104
可変(ズーム)
19 154.427
12.826 1.62041 60.3
20 -43.677
0.010
21 -43.677
2.789 1.88300 40.8
22 508.663
可変(ズーム)
23 94.235
11.528 1.59270 35.3
24 -82.541
可変(ズーム)
25 -129.135
3.802 1.88300 40.8
26 55.274
0.010
27 55.274
9.918 1.62041 60.3
28 -291.945
可変(ズーム)
29 165.719
9.394 1.45847 67.7
30 -78.365
可変(ズーム)
31(絞り) ∞
11.827
32 76.438
8.529 1.59270 35.3
33 -43.225
0.010
34 -43.225
2.051 1.88300 40.8
35 334.850
13.683
36 67.342
6.036 1.49700 81.5
37 -109.202
1.056
38 43.363
6.935 1.49700 81.5
39 -135.874
2.515
40 -245.042
1.805 1.88300 40.8
41 26.368
8.339
42 32.941
4.642 1.49700 81.5
43 66.609
5.264
44 -166.832
3.237 1.49700 81.5
45 -73.012
38.000
46 ∞
2.000 1.51633 64.1
47 ∞
1.000
48 ∞
【0046】
各種データ
ズーム比 1.77
(T) (M) (W)
FL 49.5 37.2 28.0
FNO 2.70 2.70 2.70
Y' 16.8 16.8 16.8
TL 353.3 353.3 353.3
BF 40.3 40.3 40.3
近端倍率 -0.0861 -0.0648 -0.0487
無限ω(°) 18.7 24.4 31.2
近端ω(°) 18.6 24.4 31.1
画角変動(%) -0.36 -0.23 -0.37

(T,∞) (M,∞) (W,∞) (T,N) (M,N) (W,N)
d8 15.368 15.368 15.368 17.757 17.757 17.757
d10 13.570 13.570 13.570 11.181 11.181 11.181
d14 10.909 10.909 10.909 6.223 6.223 6.223
d16 9.107 9.672 5.000 13.793 14.358 9.687
d18 0.500 23.045 56.281 0.500 23.045 56.281
d22 2.183 0.500 13.480 2.183 0.500 13.480
d24 1.206 4.532 2.901 1.206 4.532 2.901
d28 1.728 14.458 0.500 1.728 14.458 0.500
d30 69.938 32.456 6.500 69.938 32.456 6.500
【0047】
ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 -31.396
2 17 135.953
3 19 -282.245
4 23 75.571
5 25 -106.051
6 29 117.051
7 31 200.591
【0048】
【表1】

【符号の説明】
【0049】
DU デジタル機器
LU 撮像光学装置
ZL ズームレンズ
Gr1 第1レンズ群
Gr2 第2レンズ群
Gr3 第3レンズ群
Gr4 第4レンズ群
Gr5 第5レンズ群
Gr6 第6レンズ群
Gr7 第7レンズ群
ST 絞り
SR 撮像素子
SS 受光面(撮像面)
IM 像面(光学像)
AX 光軸
1 信号処理部
2 制御部
3 メモリ
4 操作部
5 表示部
PJ プロジェクタ
13 画像表示素子
14 光源
15 照明光学系
16 制御部
17 アクチュエータ
PR プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大側から順に、変倍時に固定で負のパワーを有する第1レンズ群と、変倍時に移動する複数のレンズ群と、を有するズームレンズであって、
前記第1レンズ群が負のパワーを有する3つのレンズ群を含み、
前記3つのレンズ群のうち、最も拡大側のレンズ群を第1a群とし、第1a群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1b群とし、第1b群よりも縮小側に位置するレンズ群を第1c群とすると、
前記第1a群が、フォーカス時に固定で少なくとも1枚の正レンズを含み、
前記第1b群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に縮小側へ移動し、
前記第1c群が、無限遠から近距離へのフォーカス時に拡大側へ移動することを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
以下の条件式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載のズームレンズ;
2<f1a/f1<10 …(1)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1a:第1a群の焦点距離、
である。
【請求項3】
以下の条件式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載のズームレンズ;
1<f1b/f1<5 …(2)
2<f1c/f1<10 …(3)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離、
f1b:第1b群の焦点距離、
f1c:第1c群の焦点距離、
である。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のズームレンズと、受光面上に形成された光学像を電気的な信号に変換する撮像素子と、を備え、前記撮像素子の受光面上に被写体の光学像が形成されるように前記ズームレンズが設けられていることを特徴とする撮像光学装置。
【請求項5】
請求項4記載の撮像光学装置を備えることにより、被写体の静止画撮影,動画撮影のうちの少なくとも一方の機能が付加されたことを特徴とするデジタル機器。
【請求項6】
画像を表示する画像表示素子と、光源と、その光源からの光を前記画像表示素子に導く照明光学系と、前記画像表示素子に表示された画像をスクリーン面に拡大投影する請求項1〜3のいずれか1項に記載のズームレンズと、を備えたことを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−68690(P2013−68690A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205639(P2011−205639)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】