説明

インバータ収納部およびこれを備えているインバータ一体型電動圧縮機

【課題】配線引出部の防水構造の簡素化および組立容易性を確保した上で、汎用性がありシール効果の高い防水パッキンを用いることができるようにし、安価で、かつ防水性を高め得るインバータ収容部を提供する。
【解決手段】開口部19を有し、内部にインバータ装置が収容設置される収容部本体23と、開口部19を密閉可能に覆うカバー25と、開口部19の周囲に形成された傾斜面31およびカバー25の間に介装されるOリングと、収容部本体23に開口部19にかかるように切り欠かれ、配線の引き出しを行うグロメット設置部37と、グロメット設置部37の開口部19に対応する位置に取り付けられ、傾斜面31の一部を構成するプレート傾斜面51を有しているプレート41と、が備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ収納部およびこれを備えているインバータ一体型電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載される空調装置用の圧縮機として、インバータ装置が一体に組込まれている電動圧縮機が用いられている。
このインバータ一体型電動圧縮機は、電動モータと圧縮機構とが内蔵されるハウジングの外周にインバータ収容部(インバータボックス)が設けられている。インバータ収容部の内部には、高電圧電源ユニットから供給される直流電力を三相交流電力に変換し、ガラス密封端子を介して電動モータに給電するインバータ装置が組込まれている。
インバータ収容部には、インバータ装置を挿入する開口部を有する本体と、開口部を密閉可能に覆うカバー部材とが備えられている。
【0003】
インバータ装置は、防湿/防水が必要であり、一部の電装品を樹脂封入したり、インバータ収容部内にゲル材を充填したりするとともに、本体の開口部をカバー部材によって密閉シールし、防水構造としている。
この密閉シールは、開口部の周囲とカバー部材との間に介装された、たとえば、Oリング等の無端状の防水パッキンによって行われるのが通常である。
また、インバータ装置に接続される配線ケーブルは、たとえば、グロメットを介して本体の壁を貫通して引き出されている。このグロメットの周りおよび配線ケーブルの周りの密閉が必要となる。
【0004】
グロメットや防水パッキンを用いた配線ケーブル引出部の防水構造は、たとえば、特許文献1に示されるようにインバータ収容部の壁の内外の各部材を組み合わせてシールするようにされているので、構造が複雑となるし、組立に時間がかかる。
これを解消するものとして、インバータ収容部の壁に開口部にかかるようなグロメット設置部を設け、一体構造とされたグロメットをグロメット設置部に開口部側から挿入することによってグロメット設置部のシール構造を完成させるものが用いられている。
また、特許文献2に示されるようにカバー部材と本体との合わせ面に電線通過孔を形成し、電線通過孔に密接に貫設され、配線ケーブルを貫通する電線貫通孔を有する電線パッキン部を防水パッキンに形成し、防水パッキンの装着によって開口部の密閉シールおよび配線ケーブルのシールを行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2874690号公報
【特許文献2】特開平08−222011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インバータ収容部の壁に開口部にかかるようなグロメット設置部を設けるものでは、グロメット設置部によって開口部が分断されるので、Oリング等の無端状のパッキンを用いることができない。このため、開口部のシールには液状ガスケット、シリコンパッキン等が用いられているが、シール性能が不十分である。
また、特許文献2に示されるものでは、防水パッキンに形成される電線パッキン部の位置、形状等の精度よく製作しないと、十分なシール性能を発揮できない。このため、防水パッキンの製造が難しくコストが高くなるし、組立も難しい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、配線引出部の防水構造の簡素化および組立容易性を確保した上で、汎用性がありシール効果の高い防水パッキンを用いることができるようにし、安価で、かつ防水性を高め得るインバータ収容部およびこれを用いたインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の第1態様は、開口部を有し、内部にインバータ装置が収容設置される収容部本体と、前記開口部を密閉可能に覆うカバー部材と、前記開口部の周囲に形成された防水パッキン保持部および前記カバー部材の間に介装される無端状の防水パッキンと、前記収容部本体に前記開口部にかかるように切り欠かれ、配線の引き出しを行う配線引出部と、該配線引出部の前記開口部に対応する位置に取り付けられ、前記防水パッキン保持部の一部を構成する部分防水パッキン保持部を有しているプレート部材と、が備えられているインバータ収納部である。
【0009】
本態様によれば、配線の引き出しを行う配線引出部は収容部本体に開口部にかかるように切り欠かれて形成されているので、たとえば、配線を取り付けたグロメットは一体構造のものを開口部側から挿入することによって配線のシールを行うことができる。したがって、配線引出部の防水構造の簡素化および組立容易性を確保することができる。
また、グロメットを取り付けた後、プレート部材を配線引出部の開口部に対応する位置に取り付けると、プレート部材の部分防水パッキン保持部が防水パッキン保持部の分断された部分に位置し、防水パッキン保持部の一部を構成するので、防水パッキン保持部は連続した形で形成されることになる。
これにより、開口部の周囲に形成された防水パッキン保持部とカバー部材との間に汎用性がありシール効果の高い防水パッキンを介装させることができるので、安価で、防水性の高い防水構造を形成することができる。
したがって、インバータ収容部は、安価に製造でき、かつ、防水性を向上させることができる。これにより、インバータ収容部は高温雰囲気から低温水没までの厳しい防水要求に耐えることができる。
【0010】
上記態様では、前記カバー部材は、前記防水パッキンを圧縮するに十分な剛性を有しているのが望ましい。
【0011】
このようにすると、防水パッキンを十分に圧縮しても、防水パッキンからの反力によってカバー部材が変形することはないので、十分な防水性能を発揮することができる。
【0012】
また、上記態様では、前記カバー部材の外側に、少なくとも前記防水パッキンの装着位置の剛性を補強する補強部材を取り付けているようにしてもよい。
【0013】
このようにすると、カバー部材は補強部材によって少なくとも防水パッキンの装着位置の剛性が高くなるので、たとえ、剛性の低い薄板のカバー部材を用いたとしても防水パッキンの圧縮に伴う防水パッキンからの反力によってカバー部材が変形することはない。防水パッキンからの反力によるカバー部材の変形が抑制されるので、十分な防水性能を発揮することができる。
カバー部材自体は薄板でよいので、たとえば、制振鋼板を用いることができ、騒音防止等をはかることができる。
【0014】
上記態様では、前記収容部本体に前記カバー部材の周囲を囲む壁部を設け、該壁部の内側に装着されたカバー部材を覆うように樹脂が充填されるようにしてもよい。
【0015】
このようにすると、樹脂が防水パッキンによるシールを補完するので、防水性能を一層向上させることができる。
【0016】
さらに、上記態様では、前記収容部本体の前記配線引出部には、外側に突起したポケット部が形成され、該ポケット部の内側に樹脂が充填されているようにしてもよい。
【0017】
このようにすると、樹脂が配線引出部の防水構造によるシールを補完するので、防水性能を一層向上させることができる。
【0018】
さらに、上記態様では、前記防水パッキンは、所定形状に折曲された金属製の芯材と、該芯材の周囲に一体に成型された弾性体と、で構成されていてもよい。
【0019】
防水パッキンは、金属製の芯材を、たとえば、開口部の防水パッキン保持部の形状に沿った形状に折曲され、この芯材の周囲に弾性体を一体に成型することによって製造される。なお、芯材の終端は、たとえば、溶接によって接合してもよい。
このようにして製造される防水パッキンは、製造時に廃却する材料が少ない、言い換えると、歩留まりが非常に高いので、安価に製造することができる。
また、防水パッキンは、設置部分の形状に沿った形状に製造されるので、容易に所定の位置に装着することができ、組立時の作業性を向上することができる。
芯材は、たとえば、押出成型で製造することができるので、その断面形状は任意の形状とすることができる。
【0020】
本発明の第2態様は、圧縮機構および該圧縮機構を作動する電動モータが内蔵されているハウジングと、該ハウジングの外周に、第1態様のインバータ収容部が備えられているインバータ一体型電動圧縮機である。
【0021】
このように、安価に製造でき、かつ、防水性を向上させることができるインバータ収容部を用いているので、インバータ一体型電動圧縮機は、安価に製造できるし、高温雰囲気から低温水没までの厳しい防水要求に耐えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、配線の引き出しを行う配線引出部は収容部本体に開口部にかかるように切り欠かれて形成されているので、配線引出部の防水構造の簡素化および組立容易性を確保することができる。
また、プレート部材の部分防水パッキン保持部が防水パッキン保持部の分断された部分に位置し、防水パッキン保持部の一部を構成するので、安価で、防水性の高い防水構造を形成することができる。
したがって、インバータ収容部は、安価に製造でき、かつ、防水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるインバータ一体型電動圧縮機1の外観側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる収納部本体の平面図である。
【図3】図2のX視図である。
【図4】本発明の第1実施形態にかかるカバーを閉じる前の状態を示す図2のY−Y端面図である。
【図5】本発明の第1実施形態にかかるカバーを閉じた状態を示す図2のY−Y端面図である。
【図6】本発明の第1実施形態にかかるプレートを取り外した状態を示す収納部本体の部分平面図である。
【図7】本発明の第1実施形態にかかるプレートの平面図である。
【図8】図7のZ−Z断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態にかかる収納部本体の別の実施形態を示し、プレートを取り外した状態を示す部分平面図である。
【図10】プレートを取り付けた状態を示す図9と同様な部分平面図である。
【図11】本発明の第1実施形態にかかる収納部本体のさらに別の実施形態を示し、プレートを取り外した状態を示す部分平面図である。
【図12】プレートを取り付けた状態を示す図11と同様な部分平面図である。
【図13】本発明の第2実施形態にかかるインバータ収納部の横断面を示す端面図である。
【図14】本発明の第2実施形態にかかるプレートを示す斜視図である。
【図15】本発明の第2実施形態にかかる防水パッキンの断面図である。
【図16】本発明の第2実施形態にかかる防水パッキンの製造工程を示す説明図である。
【図17】本発明の第2実施形態にかかる防水パッキンの別の実施態様を示す断面図である。
【図18】本発明の第3実施形態にかかるカバーを示す平面図である。
【図19】図18のW−W断面図である。
【図20】本発明の第4実施形態にかかるカバー部を示す斜視図である。
【図21】本発明の第5実施形態にかかるインバータ収納部の横断面を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかるインバータ一体型電動圧縮機の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態にかかるインバータ一体型電動圧縮機1について図1〜図8を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態にかかるインバータ一体型電動圧縮機1の外観側面図である。
本実施形態においては、インバータ一体型電動圧縮機1は車両用空気調和機に用いられる圧縮機であって、インバータにより駆動回転数が制御されるものとして説明する。
【0025】
インバータ一体型電動圧縮機1は、その外殻を構成する耐圧構造のハウジング3を備えている。この耐圧構造のハウジング3は、図示省略の電動モータが収容されるモータハウジング5と、図示省略の圧縮機構が収容される圧縮機ハウジング7とをボルト9で一体に締め付け固定することによって構成される。
このモータハウジング5および圧縮機ハウジング7は、耐圧容器として十分強度を確保できるようにアルミダイカスト製とされている。
【0026】
ハウジング3内に内蔵される図示省略の電動モータおよび圧縮機構は、図示省略のモータ軸を介して連結され、電動モータの回転によって圧縮機構が駆動されるように構成されている。
モータハウジング5の一端側(図1の左側)には、冷媒吸入ポート11が設けられており、この冷媒吸入ポート11からモータハウジング5内に吸入された低温低圧の冷媒ガスは、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に沿って流通後、圧縮機構に吸い込まれて圧縮される。
圧縮機構により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング7内に吐き出された後、圧縮機ハウジング7の一端側(図1の右側)に設けられている吐出ポート13から外部へと送出されるように構成されている。
【0027】
ハウジング3には、モータハウジング5の一端側(図1の左側)の下部および圧縮機ハウジング7の下部側の2箇所と、圧縮機ハウジング7の上部側の1箇所との計3箇所に取り付け脚15A,15B,15Cが設けられている。
インバータ一体型電動圧縮機1は、この取り付け脚15A,15B,15Cが車両のエンジンルーム内に設置されている走行用原動機の側壁等にブラケットおよびボルトを介して固定設置されることにより搭載されるようになっている。
一般にインバータ一体型電動圧縮機1は、固定ブラケットを介してそのモータ軸線L方向が車両の前後方向または左右方向に向けられ、上下3点もしくは4点で片持ち状態に支持されることが多い。
【0028】
また、モータハウジング5の外周部には、その上方部にインバータ収容部17が一体に成形されている。
インバータ収容部17には、一面(図1の上側)が開放された開口部19を形成する所定高さの周囲壁21により囲われたボックス構造とされた収容部本体23と、収容部本体23の開口部19を密閉可能に覆うカバー(カバー部材)25とが備えられている。
【0029】
インバータ収容部17の内部には、高電圧電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換して電動モータに給電するインバータ装置27が組み込まれ、空調負荷に応じて電動圧縮機の回転数を可変制御できるように構成されている。
インバータ装置27は、高電圧電源ラインに設けられる図示省略の平滑コンデンサやノーマルモードコイル、コモンモードコイル等の高電圧系部品と、パワー系基板、CPU基板、各種接続用の端子等が一体にインサート成形されたインバータモジュール29と、を備えている。
インバータ装置27は、配線ケーブル26によって外部の高電圧電源あるいは車両側の上位制御装置である車両側ECU(Electric Control Unit)と接続されるように構成されている。
【0030】
図2は収納部本体19の平面図である。図3は図2のX視図である。図4および図5は、図2のY−Y端面を模式的に示す端面図であり、図4はカバー25を閉じる前の状態を示し、図5はカバー25を閉じた状態を示している。図6はプレート(プレート部材)41を取り外した状態を示す収納部本体23の部分平面図である。図7はプレート41の平面図である。図8は7図のZ−Z断面図である。
【0031】
収容部本体23の周囲壁21の頂部には、外側に向けて開放するように傾斜した傾斜面(防水パッキン保持部)31と、傾斜面31の外側に続く平面である、カバー25を受ける受面33と、が形成されている。
収容部本体23の周囲壁21には、その一側面における上部位置に外側に突出した突出部35が形成されている。
【0032】
周囲壁21の突出部35に対応する位置には、開放部が開口部19にかかるように略U字形に切り欠かれたグロメット設置部(配線引出部)37が設けられている。
グロメット設置部37の内側に沿って突出するようにプレート設置部39が設けられている。プレート設置部39の頂部は、受面33および傾斜面31よりも下側に位置する平面を形成し、プレート(プレート部材)41を受けるようにされている。
プレート設置部39の内側には、U字形に沿って突起した凸部45が設けられている。
【0033】
グロメット43は、たとえば、硬質ゴムで形成された略直方体形状をしている。グロメット43の外周には、凸部45と嵌合するように3面に亘る溝47が形成されている。
グロメット43には、厚さ方向に貫通し、配線ケーブル26が挿通される貫通孔49が設けられている。貫通孔49は所定数の配線ケーブル26を挿通できるように複数、たとえば、3個備えられている。
【0034】
プレート41は、略矩形状をした金属製の板部材である。プレート41は、プレート設置部39の頂部を略覆うような平面形状とされ、その厚さはプレート設置部39の頂部と受面33の上面との距離と略等しくされている。
プレート41は、プレート設置部39にボルト止め等の手段で固定して設置されるように構成されている。プレート41とプレート設置部39との間には、隙間を埋めるため液状ガスケットなどの樹脂部材が塗布される。プレート41には、その設置位置で開口部19に面する側面から上面に向けて傾斜したプレート傾斜面(部分防水パッキン保持部)51が備えられている。プレート傾斜面51は、プレート41が設置された場合、グロメット設置部37によって分断された傾斜面31を接続するように配置されている。言い換えると、プレート傾斜面51は傾斜面31の一部を構成し、開口部19に沿って連続した傾斜面31を形成することとなる。
【0035】
グロメット43は、配線ケーブル26が貫通孔49に挿通された状態で溝47がグロメット設置部37の凸部45に嵌合するように挿入され、プレート41を固定する時の締め付けにより押圧されてグロメット43がグロメット設置部37に密着するようになる。また、貫通孔49の直径は配線ケーブル26より小さいため、貫通孔49と配線ケーブル26との接触部の面圧が高くなることで配線ケーブル26のインバータ収容部17内への導入部分が水密状態にシールされるようになっている。
グロメット設置部37は、周囲壁21に沿った密閉された壁部を形成するので、突出部35との間にポケット状の空間であるポケット部59が形成される。
【0036】
カバー25の収容部本体23側には、周囲壁21の形状と略同形状で、それよりも若干小さい大きさの外形を有するインロー部53が突出するように備えられている。
無端状の防水パッキンであるOリング55はインロー部53の周囲に保持されている。言い換えると、Oリング55の寸法はインロー部53の周長に基づいて設定されている。
Oリング55は、カバー25が収容部本体23に装着されると、インロー部53の側面およびカバー25の裏面と傾斜面31との間に介在することとなる。
この状態で、カバー25がビス57等でビス止めされることにより開口部19は水密状態に密閉シールされることになる。
【0037】
カバー25はアルミダイカスト製であり、Oリング55を圧縮するに十分な剛性を有している。することができる。これにより、Oリング55を十分に圧縮しても、Oリング55からの反力によってカバー25が変形することはないので、十分な防水性能を発揮することができる。
【0038】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
インバータ一体型電動圧縮機1のインバータ装置27には、高電圧電源から電源ケーブル(図示省略)を介して高電圧の直流電力が供給される。
この直流電力はインバータモジュール29のパワートランジスタなどの電子素子により所定周波数の三相交流電力に変換され、電動モータに供給される。電動モータは、周波数が制御された交流電流に基づいて回転駆動力を発生する。この回転駆動力は、モータ軸を介して圧縮機構に伝達され、圧縮機構を作動させる。
【0039】
圧縮機構の作動により、冷媒吸入ポート11からモータハウジング5内に吸入された低温低圧の冷媒ガスは、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に沿って流通後、圧縮機構に吸い込まれて圧縮される。
圧縮機構により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング7内に吐き出された後、吐出ポート13から外部へと送出される。
モータハウジング5内をモータ軸線L方向へと流通される低温低圧の冷媒ガスは、その間に電動モータを冷却するとともに、モータハウジング5の壁面を介してインバータ収容部17の底面に設置されているインバータ装置27の発熱部品を冷却する。
【0040】
一方、インバータ装置27には、複数本の配線ケーブル26を介して低電圧電力および制御信号が送電および送信される。
この低電圧電力および制御信号によりインバータ装置27が駆動制御される。インバータ装置27が設置されているインバータ収容部17は、カバー25によって密閉され、防水性が確保されており、配線ケーブル26の導入部も水密状態にシールされている。
【0041】
すなわち、配線ケーブル26は、収容部本体23のグロメット設置部37に設置されるグロメット43を通してインバータ収容部17内に貫通されている。
このグロメット43は、配線ケーブル26が挿通された状態で、溝47がグロメット設置部37の凸部45に嵌合するように挿入される。
挿入されたグロメット43はプレート41を固定する時の締め付けにより押圧されてグロメット43がグロメット設置部37に密着するようになる。また、貫通孔49の直径は配線ケーブル26より小さいため、貫通孔49と配線ケーブル26との接触部の面圧が高くなることで配線ケーブル26のインバータ収容部17内への導入部分が水密状態にシールされるようになっている。
【0042】
このように、配線ケーブル26を取り付けたグロメット43は開口部19の上側から挿入して装着することができるので、一体構造のものとできる。
また、装着されたグロメット43は、プレート41の取り付けに伴い、変形され配線ケーブル26のシールが完了することができる。
したがって、グロメット設置部37の防水構造の簡素化および組立容易性を確保することができる。
【0043】
また、プレート41を取り付けると、プレート41のプレート傾斜面51がグロメット設置部37によって分断された傾斜面31を接続し、開口部19に沿って連続した傾斜面31を形成することができる。
これにより、開口部19の周囲に形成された傾斜面31とカバー25との間にOリング55という汎用性がありシール効果の高い防水パッキンを介装させることができるので、安価で、防水性の高い防水構造を形成することができる。
【0044】
Oリング55がインロー部53の周囲に装着された状態で、カバー25を収容部本体23に取り付けることによって開口部19が水密状態にシールされるので、開口部19の防水作業を簡素化することができる。
また、グロメット43は、プレート41によって押圧され、プレート41はカバー25によってOリング55を介して押圧されているので、配線ケーブル26は一層確実に水密状態を維持することができる。
【0045】
したがって、インバータ収容部17は、安価に製造でき、かつ、防水性を向上させることができる。これにより、インバータ収容部17は高温雰囲気から低温水没までの厳しい防水要求に耐えることができる。
【0046】
また、ポケット部59の内側に樹脂を充填するようにしてもよい。このようにすると、樹脂がグロメット設置部37の防水構造によるシールを補完するので、防水性能を一層向上させることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、グロメット設置部37が周囲壁21に沿って形成され、配線ケーブル26がポケット部59の上方へ導出されるようにされているが、これに限定されるものではない。
たとえば、図9および図10に示されるように突出部35に第2のグロメット設置部61を備えるようにしてもよい。カバー25は、突出部35を覆う形状とされ、グロメット設置部61のグロメット63はカバー25によって押圧される。配線ケーブル26は、グロメット設置部37およびグロメット設置部59を通って収容部本体23の側面に導出される。
【0048】
また、図11および図12に示されるように突出部35に第2のグロメット設置部61を備え、グロメット設置部37では、プレート設置部39のみを備えるようにしてもよい。この場合、カバー25は、突出部35を覆う形状とされ、グロメット設置部61のグロメット63はカバー25によって押圧される。配線ケーブル26は、グロメット設置部59を通って収容部本体23の側面に導出される。
【0049】
なお、本実施形態では無端状の防水パッキンとしてOリング55を用いているが、防水パッキンの断面形状はOリング55のような円形のものに限定されるものではなく、任意の形状のものを用いることができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図13〜図16を参照して説明する。
本実施形態の基本構成は、第1実施形態と基本的に同様であるが、第1実施形態とは、開口部19の防水構造が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
図13は、インバータ収納部17の横断面を示す端面図である。図14は、プレート67を示す斜視図である。図15は、防水パッキン71の断面図である。図16は、防水パッキン71の製造工程を示す説明図である。
【0051】
本実施形態における収納部本体23の周囲壁21の頂部には、カバー25を受ける受面33が形成されている。受面33には、開口部19側に略矩形断面をしたパッキン受溝(防水パッキン保持部)65がグロメット設置部37を除く範囲に形成されている。
グロメット設置部37のプレート設置部39にボルト止め等の手段で固定して取り付けられるプレート(プレート部材)67は、図14に示されるように、略矩形状をした金属製の板部材である。プレート67には、その設置位置でグロメット設置部37によって分断されたパッキン受溝65を接続するように配置されている部分パッキン受溝(部分防水パッキン保持部)69が形成されている。
パッキン受溝65および部分パッキン受溝69は、開口部19の形状に沿う連続した溝を形成することになる。
【0052】
略矩形断面をした無端状の防水パッキン71がパッキン受溝65および部分パッキン受溝69によって連続するように形成された溝に装着される。防水パッキン71として略矩形断面のものを用いているが、防水パッキン71の断面形状はOリング55のような円形のものでもよく、任意の形状のものを用いることができる。
カバー25は、図13に示されるように受面33を覆う形状をした金属製の板部材である。たとえば、防振鋼板で形成すると、騒音を防止することができる。
カバー25は、防水パッキン71を圧縮するに十分な剛性を有しているのが望ましい。
【0053】
防水パッキン71は、図15に示されるように、パッキン受溝65および部分パッキン受溝69の形状に合わせて折曲された金属製の芯材73と、芯材73の周囲に一体にインサート成形されている硬質ゴム(弾性体)75と、で構成されている。
芯材73は、断面がH字形をした押出成型された押出材である。防水パッキン71は、パッキン受溝65および部分パッキン受溝69に芯材73のH字の縦2本の部分(以下、フランジ部という)が上下方向に向くように設置される。
【0054】
この防水パッキン71を圧縮すると図15に示されるような圧力分布76となる。すなわち、2箇所のフランジ部で圧力が極大となるので、ラビリンスのような効果が発生し、シール性を向上させることができる。
これは、たとえば、図17に示されるようにX字形の芯材73を用いた防水パッキン71であっても同様にシール性を向上させることができる。
【0055】
防水パッキン71は、図16に示されるようにして製造される。(A)所定長さの芯材73を形成する。たとえば、型鋼、棒鋼を所定長さに切断する、あるいは、押出成型によって成型し、所定長さに切断する等任意の手段を用いることができる。たとえば、芯材73が押出成型で製造されると、その断面形状は任意の形状とすることができるので、目的に沿った断面形状とすることができる。
(B)所定長さの芯材73を設置される部分の形状に沿った形状に折曲する。このとき、芯材73の終端部は溶接によって接合するようにしてもよいし、そのままとしてもよい。
(C)折曲された芯材73の周囲に硬質ゴム75を一体にインサート成形する。
【0056】
このようにして製造される防水パッキン71は、製造時に廃却する材料が少ない、言い換えると、歩留まりが非常に高いので、安価に製造することができる。
たとえば、従来芯材を用いた防水パッキンでは、芯材として鋼板を打ち抜いて形成する方法がよく用いられていた。この場合には、打ち抜き屑が多くでるので、歩留まりが低くなっていた。
このようにして製造された防水パッキン71は、設置部分の形状に沿った形状に製造されているので、容易に所定の位置に装着することができ、組立時の作業性を向上することができる。
【0057】
このように構成された、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
インバータ一体型電動圧縮機1の動作および配線ケーブル26の水密構造については第1実施形態と同様であるので、重複した説明を省略する。
プレート67を取り付けると、プレート67の部分パッキン受溝69がグロメット設置部37によって分断されたパッキン受溝65を接続し、開口部19に沿って連続した溝を形成することができる。この連続した溝に防水パッキン71を装着する。
これにより、開口部19の周囲に形成された傾斜面31とカバー25との間に汎用性がありシール効果の高い防水パッキン71を介装させることができるので、安価で、防水性の高い防水構造を形成することができる。
【0058】
この状態で、カバー25を収容部本体23に取り付けることによって開口部19が水密状態にシールされるので、開口部19の防水作業を簡素化することができる。
したがって、インバータ収容部17は、安価に製造でき、かつ、防水性を向上させることができる。これにより、インバータ収容部17は高温雰囲気から低温水没までの厳しい防水要求に耐えることができる。
【0059】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について図18および図19を参照して説明する。
本実施形態の基本構成は、第2実施形態と基本的に同様であるが、第2実施形態とは、カバー25の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第2実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
図18は、カバー25を示す平面図である。図19は、図18のW−W断面図である。
【0060】
本実施形態におけるカバー77は、アルミダイカスト製とされている。カバー77は、面取りをされた略四角錐台形状をしたカバー本体79と、カバー本体79の内側空間に縦横に配置されたリブ81と、で構成されている。
このように構成されたカバー77は、大きな剛性、すなわち、防水パッキン71を圧縮するに十分な剛性を備えている。したがって、防水パッキン71を十分に圧縮しても、防水パッキン71からの反力によってカバー77が変形することはないので、十分な防水性能を発揮することができる。
【0061】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について図20を参照して説明する。
本実施形態の基本構成は、第2実施形態と基本的に同様であるが、第2実施形態とは、カバー25部分の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第2実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
図20は、カバー25部を示す斜視図である。
【0062】
本実施形態におけるカバー25の外側に、防水パッキン71の装着位置の剛性を補強する補強部材83が取り付けられている。
このようにすると、カバー25は補強部材83によって防水パッキン71の装着位置の剛性が高くなるので、たとえ、剛性の低い薄板のカバー25を用いたとしても防水パッキン71の圧縮に伴う防水パッキン71からの反力によってカバー25が変形することはない。
このように、防水パッキン71からの反力によるカバー25の変形が抑制されるので、開口部19の防水構造は、十分な防水性能を発揮することができる。
カバー25自体は薄板でよいので、たとえば、制振鋼板を用いることができ、騒音防止等をはかることができる。
【0063】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態について図21を参照して説明する。
本実施形態の基本構成は、第2実施形態と基本的に同様であるが、第2実施形態とは、カバー25部分の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第2実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
図21は、インバータ収納部17の横断面を示す端面図である。
【0064】
本実施形態における周囲壁21の頂部には、その外周側に上方に突起した突出壁85が設けられている。突出壁85は、カバー25の全周囲を囲むように設けられている。
本実施形態では、パッキン受溝65および部分パッキン受溝69には防水パッキン71の代わりにOリング55が装着されている。
カバー25を取り付けた後、突出壁85の内側に、装着されたカバー25を覆うように樹脂87が充填されている。
【0065】
このようにすると、樹脂87がOリング55によるシールを補完するので、防水性能を一層向上させることができる。
【0066】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。たとえば、上記実施形態では、インバータ収容部17をモータハウジング5に一体成形しているが、インバータ収容部17はモータハウジング5と別体で構成してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 インバータ一体型電動圧縮機
3 ハウジング
17 インバータ収容部
19 開口部
23 収容部本体
25 カバー
26 配線ケーブル
27 インバータ装置
31 傾斜面
37,61 グロメット設置部
41,67 プレート
51 プレート傾斜面
55 Oリング
59 ポケット部
65 パッキン受溝
69 部分パッキン受溝
71 防水パッキン
73 芯材
75 硬質ゴム
83 補強部材
85 突出壁
87 樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、内部にインバータ装置が収容設置される収容部本体と、
前記開口部を密閉可能に覆うカバー部材と、
前記開口部の周囲に形成された防水パッキン保持部および前記カバー部材の間に介装される無端状の防水パッキンと、
前記収容部本体に前記開口部にかかるように切り欠かれ、配線の引き出しを行う配線引出部と、
該配線引出部の前記開口部に対応する位置に取り付けられ、前記防水パッキン保持部の一部を構成する部分防水パッキン保持部を有しているプレート部材と、
が備えられていることを特徴とするインバータ収納部。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記防水パッキンを圧縮するに十分な剛性を有していることを特徴とする請求項1に記載のインバータ収納部。
【請求項3】
前記カバー部材の外側に、少なくとも前記防水パッキンの装着位置の剛性を補強する補強部材を取り付けていることを特徴とする請求項1に記載のインバータ収納部。
【請求項4】
前記収容部本体に前記カバー部材の周囲を囲む壁部を設け、該壁部の内側に装着されたカバー部材を覆うように樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインバータ収納部。
【請求項5】
前記収容部本体の前記配線引出部には、外側に突起したポケット部が形成され、該ポケット部の内側に樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインバータ収納部。
【請求項6】
前記防水パッキンは、所定形状に折曲された金属製の芯材と、該芯材の周囲に一体に成型された弾性体と、で構成されていることを特徴とする請求項1ないし5に記載のインバータ収納部。
【請求項7】
圧縮機構および該圧縮機構を作動する電動モータが内蔵されているハウジングと、
該ハウジングの外周に、請求項1ないし6のいずれかのインバータ収容部が備えられていることを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−178537(P2010−178537A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19798(P2009−19798)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】