説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】 モータ部Aの回転数が低い場合でも、また、高回転域でも、適切な油量を供給できるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 モータ部Aの回転力により作動し、潤滑油の給油通路に潤滑油を供給する回転ポンプ47を備えるインホイール駆動装置において、前記回転ポンプ47以外に、外部動力で作動する補助ポンプ58を配置し、回転ポンプ47による潤滑油の供給量が少ない時に補助ポンプ58を作動するように制御するのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インホイールモータ駆動装置に関し、特に、インホイールモータ駆動装置における潤滑油や冷却油のポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に示したインホイールモータ駆動装置101は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転が入力されこれを減速して出力する減速部Bと、出力された減速度で車輪を回転させる車輪ハブ軸受部Cによって構成される(特許文献1、同2)。
【0003】
前記構成のインホイールモータ駆動装置101において、装置のコンパクト化の観点からモータ部Aには低トルクで高回転のモータが採用される。その一方、車輪ハブ軸受部Cは、車輪を駆動するために大きなトルクが必要となる。このため、減速部Bにおいては、コンパクトで高減速比が得られるサイクロイド減速機が採用されることが多い。
【0004】
モータ部Aは、モータハウジング102に固定されたステータ103と、ステータ103の内側においてモータ軸104に取り付けられたロータ105を備える。ステータ103とロータ105は径方向の隙間をおいて対向するラジアルギャップモータを構成する。モータ軸104は、その前後両端部において、転がり軸受106a、106bを介してモータハウジング102に回転自在に支持される。
【0005】
前記のモータ軸104には内部通路107が設けられ、その内部通路107の前端に減速部Bの入力軸108が挿入され、一体に連結される。入力軸108にも内部通路109が設けられ、両方の内部通路107、109が連通している。
【0006】
減速部Bは、サイクロイド減速機によって構成され、前記入力軸108の外径面に軸方向に隣接した一対の180°位相を異にした偏心カム110a、110bが設けられる。偏心カム110a、110bの周りに転がり軸受111a、111bを介して曲線板112a、112bが回転自在に嵌合される。曲線板112a、112bは外周面に円弧歯車115が形成され、その円弧歯車115に係合する外ピン113が減速機ケーシング114の内周面に一定間隔でそれぞれ回転自在に設けされている。外ピン113の数は円弧歯車115の歯数より1だけ多く、複数の外ピン113が同時に円弧歯車115と係合する(図8参照)。
【0007】
また、曲線板112a、112bの回転中心の周りの一定半径上に周方向に一定間隔をおいて貫通孔130が設けられ、これに内ピン116が挿通される。貫通孔130は内ピン116より所定量だけ大径に形成されている。各内ピン116の一端部が減速部Bの出力部材117のフランジ部に固定されることにより、曲線板112a、112bの自転運動が出力部材117に伝達される。出力部材117と入力軸108は同芯状態にあり、入力軸108の外径面と出力部材の内径面との間に転がり軸受118が介在される。
【0008】
前記内ピン116の後端部は、スタビライザー119に挿通固定される。スタビライザー119は、前記の入力軸108の外径面に相対回転可能に支持される。
【0009】
減速部B内部に設けられた前記の転がり軸受111a、111b、曲線板112a、112b等の減速部構成部材に対し潤滑油を供給する潤滑機構は、前記スタビライザー119の外径面に設けられサイクロイドポンプ等の回転ポンプ120を備える。この回転ポンプ120は、スタビライザー119およびこれと連結された出力部材117と一体に回転する。
【0010】
潤滑油を減速部Bの内部に供給する給油通路121は、図7に示したように、回転ポンプ120の吐出口からモータハウジング102の内側に沿って後方に延び、モータ軸104の後端部からその内部通路107、減速部Bの入力軸108の内部通路109、その内部通路109に連通するよう入力軸108に径方向に設けられた入力軸給油孔122a、122bによって構成される。
【0011】
潤滑油の帰還通路126(図7参照)は、減速機ケーシング114の底部に設けられた排出口127、潤滑油貯留部128を経て回転ポンプ120の吸入口に至る通路により構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−63043号公報
【特許文献2】特開2009−216190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の回転ポンプ120は、外部電源を必要としないため、断線による動作不良といったことがなく、信頼性が高い。
【0014】
ところで、モータ部Aは、一般的に低回転、高トルクの時に動力損失が大きく、発熱が多いため、連続で回転させるためには冷却が必要である。
【0015】
ところが、モータ部Aの回転力を利用した回転ポンプ120は、モータ部Aの回転数が低い場合には、吐出量も少なくなるので、必要十分な油量を供給できない可能性がある。
【0016】
また、低回転、高トルクに適した油量を供給できる回転ポンプ120を配置した場合、高回転域で過剰油量となり、動力損失の原因になる等の懸念がある。
【0017】
そして、低回転トルク域でどれだけ連続で運転できるかは、モータ部Aの温度で決まるため、冷却油が多ければ多いに越したことはないが、内蔵できるポンプの大きさの点から自ずと限界がある。
【0018】
また、内蔵ポンプの形式によっては、回転方向が変わると、吐出方向が変わり、潤滑油を循環できない場合もある。
【0019】
そこで、この発明は、モータ部Aの回転数が低い場合でも、また、高回転域でも、適切な油量を供給できるインホイールモータ駆動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の課題を解決するために、この発明は、モータ部の回転力により作動し、潤滑油の給油通路に潤滑油を供給する回転ポンプ備えるインホイール駆動装置において、前記回転ポンプ以外に、外部動力で作動する補助ポンプを配置したものである。
【0021】
前記補助ポンプは、回転ポンプによる潤滑油の供給量が少ない時に作動するように制御される。
【0022】
前記補助ポンプの制御は、例えば、内部温度又はその周辺の温度に基づいて行われる。
【0023】
前記補助ポンプは、モータ部の回転と無関係に、車両駆動時に断続的に作動させてもよいし、一定時間作動させるようにしてもよい。
【0024】
補助ポンプ用の給油通路は、前記回転ポンプのとは別に備えてもよい。
【0025】
前記給油通路は、モータ部や減速機を覆うハウジングの内部に配置される。
【0026】
前記補助ポンプの給油通路は、モータ部のハウジングの端面側に配置することができる。
【0027】
前記給油通路は、モータ部の回転軸又は減速機の回転軸の少なくとも一方の回転軸内に配置され、この回転軸内の給油通路を経由して各部へ潤滑油が供給される。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、この発明によれば、モータ部によって回転力を利用した回転ポンプ以外に、外部動力で作動する補助ポンプを配置しているので、モータ部Aの回転数が低い場合でも、また、高回転域でも、適切な油量を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の断面図である。
【図2】図2は、同上の減速部の拡大断面図である。
【図3】図3は、図2のX1−X1線の断面図である。
【図4】図4は、同上の一部拡大断面図である。
【図5】図5は、回転ポンプの正面図である。
【図6】図6は、補助ポンプの制御フローを示す図である。
【図7】図7は、従来例のインホイールモータ駆動装置の断面図である。
【図8】図8は、図7のX8−X8線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0031】
この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置11は、図1に示したように、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bの出力を車輪に伝える車輪ハブ軸受部Cを備える。モータ部Aはモータハウジング12の内部に組み込まれ、減速部Bは減速部ハウジング13に組み込まれる。モータハウジング12の前端に減速部ハウジング13がボルト14によって連結固定される。
【0032】
モータ部Aは、モータハウジング12に固定されたステータ15と、モータ軸16に一体化されたロータ17を備え、ステータ15とロータ17はラジアル方向に対向したラジアルギャップモータを構成している。ロータ17は、ボルト18によってモータ軸16のフランジ19に固定される。モータ軸16は、その前後両端部において、転がり軸受21a、21bを介してモータハウジング12に回転自在に支持されている。
【0033】
前記のモータ軸16に内部通路22が設けられ、その内部通路22の前端に減速部Bの入力軸23が連結されている。入力軸23にも内部通路25が設けられ、両方の内部通路22、25は相互に連通している。
【0034】
前記の入力軸23には、減速部Bの内部において隣接した一対の偏心カム27a、27bが設けられる(図2、図4参照)。これらの偏心カム27a、27bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うように、180°位相を変えて設けられている。
【0035】
減速部Bは、減速部ハウジング13の内径面に嵌合固定された環状のケーシング26を備え(図2参照)、減速部Bを構成する各部材がケーシング26の内部に組み込まれている。
【0036】
減速部Bを構成する部材としては、前記の偏心カム27a、27b、各偏心カム27a、27bに転がり軸受28a、28bを介して回転自在に保持された曲線板29a、29b、ケーシング26の内径面に沿って等間隔に固定された複数の外ピン31(図3参照)、曲線板29a、29bの自転運動を出力部材32に伝達する運動変換機構、各偏心カム27a、27bの軸方向外側に隣接して入力軸23に取り付けられたカウンタウェイト33a、33b等がある。
【0037】
前記の外ピン31は、曲線板29a、29bの外周部に形成された円弧歯車30に係合する外周係合部材としての機能を果たす。また、減速部Bには、ケーシング26内の諸部材に潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。また、出力部材32は車輪側回転部材としての機構を果たす。
【0038】
出力部材32は、フランジ部32aと軸部32bとを有する(図2、図3参照)。フランジ部32aには、出力部材32の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に複数の内ピン34の一端部が挿入固定される。また、軸部32bは車輪ハブ35の内径面に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪に伝達する。出力部材32のフランジ部32aの内径面と入力軸23との間に、転がり軸受36が介在され、入力軸23と出力部材32が同芯状態に保持されかつ相対回転可能となっている。
【0039】
前記内ピン34の他端部は、スタビライザー37のフランジ部37aに挿通支持される。スタビライザー37は、フランジ部37aの内径に設けられた円筒部37bを有し、その円筒部37bが針状ころ軸受38を介してモータ軸16の前端部外径面に回転自在に嵌合されている。
【0040】
曲線板29a、29bは、図3に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される円弧歯車30を有し、また一方側の端面から他方側の端面に貫通する複数の貫通孔39を有する。貫通孔39は、曲線板29a、29bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔をおいて内ピン34と同数、同間隔に設けられており、各貫通孔39に内ピン34が挿通される。
【0041】
前記の曲線板29a、29bは、それぞれ偏心カム27a、27bに対し転がり軸受28a、28bを介して回転自在に支持される。曲線板29a、29bの位相も、偏心カム27a、27bと同方向に180°位相がずれている。
【0042】
転がり軸受28a、28bは、図4に示したように、偏心カム27a、27bの外径面に嵌合された内輪部材40a、40bと、曲線板29a、29bの貫通孔39の内径面に直接形成された外輪軌道面41(図3参照)と、これらの間に介在された複数の円筒ころ28c、28dとから成る円筒ころ軸受である。前記の内輪部材40a、40bの各内外面に、それぞれフランジ部40c、40dが設けられる。
【0043】
外ピン31は、図2、図3に示したように、前記のケーシング26の内周面に沿い、入力軸23の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。外ピン31の両端部は針状ころ軸受43を介してケーシング26の両側の肉厚部26a、26bに回転自在に支持される。また、外ピン31の両端面に玉44が保持され、その玉44を閉塞リング板45に接触させることによりスラスト方向の摩擦を軽減している。外ピン31の数は曲線板29a、29bの円弧歯車30の歯数より1だけ多く、外ピン31の複数のものが同時に円弧歯車30と係合する。
【0044】
入力軸23およびこれと一体の偏心カム27a、27bによって曲線板29a、29bに公転運動が加えられると、円弧歯車30と外ピン31とが係合して、曲線板29a、29bに自転運動を生じさせる。
【0045】
カウンタウェイト33a、33bは、各偏心カム27a、27bおよび曲線板29a、29bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心カム27a、27bの外側に隣接した位置において、偏心カム27a、27bとそれぞれ180°位相を変えて偏心状態に取り付けられる。
【0046】
前述の運動変換機構は、出力部材32に固定された複数の内ピン34と、曲線板29a、29bに設けられた貫通孔39とで構成される。貫通孔39の内径寸法は、内ピン34の外径寸法(「針状ころ軸受46a、46bを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分(偏心カム27a、27bの偏心量の2倍)大きく設定されている。
【0047】
内ピン34は、出力部材32の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、前述のように内ピン34の一端部が出力部材32に固定され、他端部がスタビライザー37に固定されている。曲線板29a、29bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板29a、29bの貫通孔39を通過する部分に針状ころ軸受46a、46bが設けられ、各内ピン34はその針状ころ軸受46a、46bを介して貫通孔39に部分的に接触する。
【0048】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給する機構であって、モータハウジング12の減速部B側の壁面の内径部分において、スタビライザー37の円筒部37bの外径面に設けられた回転ポンプ47(図1、図2参照)、その吐出口48から減速部Bの内部に至る給油通路49と、潤滑を終えて減速部Bから吸入口51に戻る帰還通路52によって構成される。
【0049】
給油通路49は、モータハウジング12の内側に沿ってモータ軸16の後端に達し、モータ軸16と入力軸23の各内部通路22、25、入力軸23の各偏心カム27a、27bに対応する位置において径方向に設けられた給油孔53a、53b(図2、図4参照)を経由する。
【0050】
減速部B内部に設けられた前記の転がり軸受28a、28b、曲線板27a、27b等の減速部構成部材に対し潤滑油を供給する潤滑機構は、前記スタビライザー37の外径面に設けられサイクロイドポンプ等の回転ポンプ47を備える。この回転ポンプ47は、スタビライザー37およびこれと連結された出力部材32と一体に回転する。
【0051】
潤滑油を減速部Bの内部に供給する給油通路49は、図1に示したように、回転ポンプ47の吐出口48からモータハウジング12の内側に沿って後方に延び、モータ軸16の後端部からその内部通路22、減速部Bの入力軸23の内部通路25、その内部通路25に連通するよう入力軸23に径方向に設けられた入力軸給油孔53a、53b(図4参照)、偏心カム27a、27bに設けられたカム部給油孔54a、54b、および転がり軸受28a、28bの内輪部材40a、40bに設けられた内輪給油孔55a、55bによって構成される。
【0052】
潤滑油の帰還通路52(図1参照)は、減速機ケーシング13の底部に設けられた排出口56、潤滑油貯留部57128を経て回転ポンプ47の吸入口51に至る通路により構成される。
【0053】
前記の回転ポンプ47は、図5に示すように、スタビライザー37と一体に回転するインナーロータ60と、インナーロータ60の回転に伴って従動回転するアウターロータ61と、ポンプ室62と、給油通路49に連通する吐出口48と帰還通路52に連通する吸入口51を備えるサイクロイドポンプである。
【0054】
インナーロータ60は、外径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分60aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分60bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。このインナーロータ60は、スタビライザー37の円筒部37bの外径面に嵌合され、内ピン34を介して出力部材32と一体回転する。
【0055】
アウターロータ61は、内径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分61aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分61bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。このアウターロータ61は、モータハウジング12に回転自在に支持されている。減速部Bを独立した減速機として使用する場合は、アウターロータ61は減速機ハウジングに支持される。
【0056】
インナーロータ60は、回転中心c1を中心として回転する。一方、アウターロータ61は、インナーロータの回転中心c1と異なる回転中心c2を中心として回転する。また、インナーロータ60の歯数をnとすると、アウターロータ61の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=5としている。
【0057】
インナーロータ60とアウターロータ61との間の空間には、複数のポンプ室62が設けられている。そして、インナーロータ60が出力部材32の回転を利用して回転すると、アウターロータ61は従動回転する。このとき、インナーロータ60およびアウターロータ61はそれぞれ異なる回転中心c1、c2を中心として回転するので、ポンプ室62の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口51から流入した潤滑油が吐出口48から給油通路49に圧送される。
【0058】
前記の潤滑油貯留部57は、低速回転時においては、回転ポンプ47によって排出しきれない潤滑油を一時的に貯留しておくことができる。その結果、減速部Bのトルク損失の増加を防止することができる。一方、高速回転時においては、排出口56に到達する潤滑油量が少なくなっても、潤滑油貯留部57に貯留されている潤滑油を給油通路49に押し出すことができる。その結果、減速部Bに安定して潤滑油を供給することができる。
【0059】
さらに、低速回転時や運転開始時等、回転ポンプ47による潤滑油の供給が十分に行えない場合を補助するために、前記回転ポンプ47以外に、外部動力で作動する補助ポンプ58を配置している。
【0060】
補助ポンプ58は、モータ部Aのハウジング12の端面側に配置している。
【0061】
前記補助ポンプ58の給油通路59は、回転ポンプ47の給油通路49とは別に設けられ、潤滑油貯留部57から潤滑油を吸引し、モータ軸16の内部通路22に供給される。
【0062】
図1では、理解を容易にするための説明上、モータ軸16の内部通路22に供給する補助ポンプ58の給油通路59と、回転ポンプ47の給油通路49とが180度対向するようにしているが、位相はずらした方が良い。
【0063】
補助ポンプ58の制御処理は、例えば、図6に示す処理フローによって行う。
【0064】
まず、モータ部Aの周辺温度情報を取得し(F1)、モータ部Aが駆動しているかどうかを判定する(F2)。
【0065】
フローF2で、モータ部Aが駆動中であると判定されると、モータ部Aの駆動中の補助ポンプ58の作動要否判定を行う(F3)。
【0066】
F3において、補助ポンプ58の作動が必要であると判定した場合には、補助ポンプ58を作動させる(F4)。
前記F2において、モータ部Aが駆動していないと判定されると、モータ部Aの停止後の補助ポンプ58の作動要否判定を行う(F5)。
【0067】
そして、F4において、補助ポンプ58の作動が必要であると判定した場合には、補助ポンプ58を作動させる(F6)。
【0068】
一方、F4において、補助ポンプ58の作動が不要であると判定した場合には、補助ポンプ58を停止する(F7)。
【0069】
前記F3、F5における補助ポンプ58の作動要否の判定は、内部温度又はその周辺の温度、車両の駆動開始時かどうか、車両の後退時かどうかによって行う。
【0070】
上記構成の減速部Bにおける潤滑油の流れを説明する。まず、回転ポンプ47と補助ポンプ58から吐出され、給油通路49あるいは給油通路59からモータ軸16の内部通路22を経て入力軸23の内部通路25に達した潤滑油は、回転ポンプ47の圧力および入力軸23の回転に伴う遠心力によって給油孔53a、53bおよび給油溝55を経て減速部Bの内部に流入する。
【0071】
減速部Bの内部に流入した潤滑油にはさらに遠心力が作用するので、転がり軸受28a、28b、内ピン34の周りの針状ころ軸受46a、46b、その針状ころ軸受46a、46bと貫通孔39との当接部分、および曲線板29a、29bの円弧歯車30と外ピン31との当接部分等を潤滑しながら径方向外側に移動する。
【0072】
減速部ハウジング13の内壁面に到達した潤滑油は、排出口56から排出されて潤滑油貯留部57に貯留される。潤滑油貯留部57に貯留された潤滑油は、回転ポンプ47によって吸引され、帰還通路52を経て吸入口51に戻る。
【0073】
前記の給油通路49は、モータハウジング12から、モータ軸16および入力軸23の内部通路22、25を通過する間に、転がり軸受21a、21b、モータ部Aを冷却する冷却液としても機能する。
【0074】
前記の減速部潤滑機構は、給油通路49を通過する潤滑油を冷却する冷却水路63を含む。冷却水路63は、モータハウジング12の外周面に周方向に設けられ、その内側を通過する給油通路49の潤滑油を冷却するとともに、モータ部Aも冷却する。
【0075】
車輪ハブ軸受部Cは、図1に示すように、減速部Bの出力部材32に固定連結された車輪ハブ35、車輪ハブ35を減速部ハウジング13に対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受64を備える。車輪ハブ35の内径面に出力部材32が挿入されスプライン結合されるとともに、車輪ハブ35から露出した出力部材32の先端部をナット65で締結することによって、出力部材32と車輪ハブ35を結合している。
【0076】
上記構成のインホイールモータ駆動装置11の作動原理を詳しく説明する。モータ部Aは、ステータ15のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ17が回転する。このとき、コイルに高周波数の電圧を印加する程、ロータ17は高速回転する。
【0077】
これにより、ロータ17に接続されたモータ軸16およびこれと一体の入力軸23が回転すると、偏心カム27a、27bが偏心回転運動をすることにより曲線板29a、29bが入力軸23の回転軸心を中心として、入力軸23の速度で公転運動を行う。このとき、複数の外ピン31が、曲線板29a、29bの円弧歯車30と係合して、曲線板29a、29bに対し入力軸23の回転方向とは逆向きに低速の自転運動を生じさせる。
【0078】
貫通孔39に挿通された内ピン34は、曲線板29a、29bの自転運動に伴って貫通孔39の内壁面と部分的に当接する。これにより、曲線板29a、29bの公転運動が内ピン34に伝わらず、曲線板29a、29bの自転運動のみが出力部材32を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0079】
このようにして、モータ軸16の回転が減速部Bによって減速されて出力部材32に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、車輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0080】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン31の数をZA、曲線板29a、29bの円弧歯車30の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図1に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0081】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置11を得ることができる。また、外ピン31を針状ころ軸受43により支持し、また内ピン34の曲線板29a、29bに当接する位置に針状ころ軸受46a、46bを設けたことにより、摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0082】
上記第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置11を電気自動車に採用することにより、ばね下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性に優れた電気自動車を得ることができる。
【0083】
以上述べた第1の実施形態においては、モータハウジング12の内部に給油通路49を設けた例を示したが、これに限ることなく、例えば、インホイールモータ駆動装置11の外側に循環油路を設けてもよい。
【0084】
また、回転ポンプ47としてサイクロイドポンプの例を示したが、これに限ることなく、出力部材32の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。
【0085】
また、減速部Bの曲線板29a、29bを180°位相を変えて2枚設けたが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120°位相を変えて設けるとよい。
【0086】
また、上記の運動変換機構は、出力部材32に固定された内ピン34と、曲線板29a、29bに設けられた貫通孔39とで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ35に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0087】
上記の作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0088】
また、上記の作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を車輪に伝達させているが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、車輪側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電しても良い。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いたりしてもよい。
【0089】
さらに、曲線板29a、29bを支持する転がり軸受28a、28bとして円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0090】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置11のコンパクト化の観点からは、転がり軸受28a、28bには円筒ころ軸受が好適である。
【0091】
また、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばハウジングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0092】
また、減速部Bにサイクロイド減速機構を採用したインホイールモータ駆動装置11の例を示したが、これに限ることなく、任意の減速機構を採用することができる。例えば、遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構等が該当する。
【0093】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
A モータ部
B 減速部
C 車輪ハブ軸受部
11 インホイールモータ駆動装置
12 モータハウジング
13 減速部ハウジング
14 ボルト
15 ステータ
16 モータ軸
17 ロータ
18 ボルト
19 フランジ
21a、21b 転がり軸受
22 内部通路
23 入力軸
25 内部通路
26 ケーシング
26a、26b 肉厚部
27a、27b 偏心カム
28a、28b 転がり軸受
28c、28d 円筒ころ
29a、29b 曲線板
30 円弧歯車
31 外ピン
32 出力部材
32a フランジ部
32b 軸部
33a、33b カウンタウェイト
34 内ピン
35 車輪ハブ
36 転がり軸受
37 スタビライザー
37a フランジ部
37b 円筒部
38 針状ころ軸受
39 貫通孔
40a、40b 内輪部材
40c、40d フランジ部
40e、40f 軌道面
41 外輪軌道面
43 針状ころ軸受
44 玉
45 閉塞リング板
46a、46b 針状ころ軸受
47 回転ポンプ
48 吐出口
49 給油通路
50a、50b 内輪給油溝
51 吸入口
52 帰還通路
53a、53b 給油孔
54a、54b 給油プレート
54c、54d 内側面
55 給油溝
55a、55b 偏心カム給油溝
55b 内輪給油溝
56 排出口
57 潤滑油貯留部
58 補助ポンプ
59 給油通路
60 インナーロータ
60a 歯先部分
60b 歯溝部分
61 アウターロータ
61a 歯先部分
61b 歯溝部分
62 ポンプ室
63 冷却水路
64 車輪ハブ軸受
65 ナット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部の回転力により作動し、潤滑油の給油通路に潤滑油を供給する回転ポンプ備えるインホイール駆動装置において、前記回転ポンプ以外に、外部動力で作動する補助ポンプを配置したことを特徴とするインホイール駆動装置。
【請求項2】
前記補助ポンプが、回転ポンプによる潤滑油の供給量が少ない時に作動するように制御されている請求項1記載のインホイール駆動装置。
【請求項3】
前記請求項2の制御を、内部温度又はその周辺の温度に基づいて行うことを特徴とするインホイール駆動装置。
【請求項4】
前記補助ポンプを、モータ部の回転と無関係に、車両駆動時に断続的に作動させる請求項1記載のインホイール駆動装置。
【請求項5】
車両後退時に、内部温度又はその周辺の温度に無関係に、前記補助ポンプを一定時間作動させることを特徴とする請求項1記載のインホイール駆動装置。
【請求項6】
車両の駆動開始時に、内部温度又はその周辺の温度に無関係に、前記補助ポンプを一定時間作動させることを特徴とする請求項1記載のインホイール駆動装置。
【請求項7】
前記回転ポンプの給油通路とは別に、補助ポンプ用の給油通路を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインホイール駆動装置。
【請求項8】
前記給油通路が、モータ部や減速機を覆うハウジングの内部に配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインホイール駆動装置。
【請求項9】
前記補助ポンプの給油通路が、モータ部のハウジングの端面側に配置されている請求項1〜8のいずれかに記載のインホイール駆動装置。
【請求項10】
前記補助ポンプが、モータ部のハウジングの端面側に配置されている請求項1〜9のいずれかに記載のインホイール駆動装置。
【請求項11】
前記給油通路が、モータ部の回転軸又は減速機の回転軸の少なくとも一方の回転軸内に配置され、この回転軸内の給油通路を経由して各部へ潤滑油を供給することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のインホイール駆動装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−219820(P2012−219820A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82549(P2011−82549)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】