説明

ウィスカ形成傾向の少ないスズ被覆プリント配線基板

【課題】ウィスカ形成のない、または少ないプリント配線基板用の保護層を提供する。
【解決手段】 (i)少なくとも1つの非導電性基層、(ii)少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および(iii)スズ含有層を持つ被覆品において、層(ii)は層(i)と層(iii)との間に位置する被覆品。この被覆品は、スズ含有層(iii)が、少なくとも1種の他の金属を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または銅合金の層およびスズ含有層を持つ被覆品であって、スズ含有層がスズと少なくとも1種の他の金属を含有する被覆品に関する。この被覆品は、プリント配線基板として、又はプリント配線基板の製造に特に適している。
【背景技術】
【0002】
一般に、導体トラック構造の製造直後で組み立て前、プリント配線基板には露出された銅表面上および銅めっきされたドリル穴中に保護層が設けられている。その目的は、組み立て中に形成される全てのはんだ付け点が電気的にも機械的にも全ての要件を満たすことを保証することである。したがって、この保護層は、はんだ付け性を守る役割を果たし、“最終的はんだ付け可能表面”と呼ばれることが多い。
【0003】
現在、はんだ付け可能表面は産業界では通常、液状はんだ(スズ鉛または銀−スズはんだ、いわゆる“熱風スズめっき”)または化学的に被着されたニッケル−金、銀、パラジウムまたはスズ層から製造されている。このような金属仕上げは最長1年の貯蔵期間を意図している。一方、プリント配線基板面を銅用錯化剤で処理することにより得られる純有機仕上げ(いわゆる“OSP”)は、はんだ付け性を維持しようとすれば、通常3〜6ヶ月より長い期間貯蔵できない。錯化剤としては、例えばイミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、チオ尿素、およびイミダゾール−2−チオンが用いられる。
【0004】
一般に、金属被覆はプリント配線基板に極めて適しているが、多くの欠点も示す。金による被覆は金価格が高いので高価であるだけでなく、金層の適用に特殊な工程も必要とする。例えば、金はいわゆる水平プラントでは化学的に適用できず、垂直プラントでしか適用できないが、これには高い処理費用が追加される。
【0005】
銀の適用は再現性が低く、必要なプラントは調整が困難である。
【0006】
したがって、近年、化学的スズめっきに対する興味が増大している。これは、有機金属ポリアニリンの助けを借りてスズ被着に基づき達成できた特性の大幅な向上("オルメコンCSN法",オルメコン社,アムメルスベック)だけが原因でなく、アトテック社による大きな努力("スタンナテック"法)にも由来している。スズ表面は例えばNi/Auによるコーティングよりもかなり経済的である。
【0007】
EP0807190B1からは金属蒸着材料の製造方法が知られている。この方法においては、金属蒸着される材料がはじめに固有導電性重合体で被覆され、次に固有導電性重合体は還元により活性化され、最後に金属が非電気化学的に適用され、被覆された材料は金属のイオンの溶液と接触される。この方法は、スズを銅に沈着させるのに特に適しており、プラスチック面の金属蒸着にも特に適している。
【0008】
スズ表面の欠点は、これらの表面が貯蔵期間中にいわゆる“ウィスカ”、すなわち、針状のスズ結晶、を形成する強い傾向が多かれ少なかれあるという事実に見ることができる。このウィスカは長さが数μmに達することがあり、プリント配線基板の機能をひどく損なう可能性がある。数年前、このような出来事は、最終的にスズ表面がフレキシブルプリント配線基板、“テープキャリア方式”(TAB)工程、および“デュポンフィルム”(COF)法のようなある用途に対し、日本のようなある地域でのみ、不承不承受けいれられるという結果に終わった。
【0009】
これまで、ウィスカ形成の原因を完全に明らかにすることは不可能であったが、プリント配線基板を通じて銅およびスズ層に伝達されるか、またはスズ被覆されたCu層に生じる機械的応力が張力に誘発された結晶化の過程で針状結晶形成を引き起こす、というのが一般的見方である。
【0010】
室温で7週間の貯蔵期間後、従来のスズ表面は30μm〜100μm以上の長さを持つウィスカを示す。このウィスカ形成は、0.6〜1.2mmの直径を持つドリル穴において顕微鏡で特に良く検出できる。ウィスカは他の箇所でも発生するが、顕微鏡によるそれらの評価はドリル穴でより容易である。7週間後、オルメコンCSN法により作られたスズ表面は、約10〜20μmの大きさを持つウィスカを示す。
【0011】
US6,361,823はウィスカ形成が完全に防止されると言われている方法を開示している。この方法において、プリント配線基板ははじめに本質的に純粋なスズの層を与えられ、この層の上に少なくとも2種の金属の合金層が適用される。好ましい合金金属はスズと銀である。しかしながら、ウィスカ形成は明らかに減らせるが、再現性はなく、所望の程度には減らせない、と実用試験は示している。
【0012】
ウニクロン社(キルヒハイムボランデン)は、銀層がはじめに露出された銅表面上に沈着され、次にスズ層がウニクロン法(G2)により沈着される方法を開発し、一時市販した。しかしながら、この方法はほとんど何の改善ももたらさなかった。一つの理由として、あまりにも銀の沈着が少なかったために何の効果も得られなかった。他の理由は、銀層の厚さがあまりに大きく(約40nmの層厚さ以上)、スズがもはや沈着しなかったことである。最終的に、この方法では所望の結果が得られなかった。
【0013】
【特許文献1】欧州特許第0807190号明細書
【特許文献2】米国特許第6361823号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0700573号明細書
【非特許文献1】Wessling et al., Eur. Phys. J. E 2, 2000, 207-210
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、以前のように、ウィスカ形成の傾向が無いか、又は少ないプリント配線基板用の保護層を提供する必要が依然として存在した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、以下を持つ被覆品により達成される:
(i) 少なくとも1つの非導電性基層、
(ii) 少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および
(iii) スズ含有層。
【0016】
層(ii)は層(i)と層(iii)との間に位置する。この被覆品は、スズ含有層(iii)が少なくとも1種の他の金属を含有することを特徴とする。
【0017】
驚くべきことに、少なくとも1種の他の金属元素を含有するスズ含有層がプリント配線基板の被覆に用いられると、ウィスカ形成が有効に抑制できることが発見された。
【0018】
他の金属として適当なのは、銅および/またはスズに可溶で、銅および/またはスズと合金を形成できる金属である。好ましくは、層(iii)は、Mg、Ca、Zr、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Ga、In、Ge、SbおよびBiから選ばれる少なくとも1種の他の金属を含有している。好ましい金属群はCa、Zr、Mn、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Ga、In、Ge、SbおよびBiである。他の金属として特に好ましいのは、銀、プラチナ、金、ニッケル、ビスマス、銅、およびこれらの金属の2種以上の組み合わせである。
【0019】
層(iii)はスズと他の金属または金属類との合金を含有する可能性がある。別法として、層(iii)はスズと他の金属または金属類との微粉または多相混合物を含有する。後者の場合には、金属粒子または金属相は1〜500nmのサイズを持つのが好ましい。
【0020】
以下で“合金”という用語を用いる場合、これは狭い意味の合金類(すなわち、原子レベルでの金属類の混合物)と、微粉砕された又は多相の混合物との両者を意味するものと解される。微粉混合物は、微粉状の1種または数種の金属類の他の金属の基体への分散体である。
【0021】
さらに、層(iii)は1種または数種の有機系添加剤、好ましくは、炭素、硫黄および/または窒素元素の少なくとも1つを含有する添加剤、を含有する可能性がある。
【0022】
有機添加剤として特に適しているのは、錯化剤および/または導電性重合体である。
【0023】
銅との錯体を形成できる錯化剤が好ましく、特に、チオ尿素、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、尿素、クエン酸、イミダゾール−2−チオン、およびそれらの混合物である。
【0024】
層(iii)は少なくとも1種の導電性重合体も含有する可能性があり、これは好ましくは有機金属の形態で用いられる。これらの物質類からの様々な物質の組み合わせが使用できる。本発明においては、別記しない限り、重合体は有機重合体を意味するものと解される。
【0025】
“固有導電性重合体”とも呼ばれる電気伝導性重合体または導電性重合体は、小さい分子化合物(単量体)から構成され、重合により少なくとも低重合体となり、したがって化学結合により結合された少なくとも3つの単量体単位を含有し、中立(非導電)状態で共役n−電子系を示し、酸化、還元またはプロトン付加(“ドーピング”と呼ばれることが多い)により導電性のイオン型に変換できる物質を意味するものと解される。導電性は少なくとも10-7S/cmであり、通常は105S/cm未満である。
【0026】
ドーピング剤としては、例えばヨウ素、過酸化物、ルイス酸およびプロトン酸が酸化によるドーピングの場合に用いられ、例えば還元によるドーピングの場合にはナトリウム、カリウム、カルシウムが用いられる。
【0027】
導電性重合体は化学的に組成が極めて多様であることができる。単量体としては、例えばアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、ピロール、アニリン、チオフェン、フェニレンスルフィド、ペリナフタレンその他、およびスルホアニリン、エチレンジオキシチオフェン、チエノ−チオフェンその他のようなそれらの誘導体、およびそれらのアルキルまたはアルコキシ誘導体、またはスルホネート、フェニル、その他側基のような他の側基を持つ誘導体が有用である。上記の単量体の組み合わせも単量体として使用できる。そのためには、例えばアニリンおよびフェニレンスルフィドが結合されて、これらのA−B二量体が単量体として用いられる。目的に応じ、例えばピロール、チオフェンまたはアルキルチオフェン類、エチレンジオキシチオフェン、チエノ−チオフェン、アニリン、フェニレンスルフィドその他が互いにA−B構造に結合でき、次に低重合体または重合体に変換される。
【0028】
ほとんどの導電性重合体は温度の上昇と共に導電性が多かれ少なかれ高度に増大し、これにより、それらが非金属導体と判る。他の導電性重合体は、温度の上昇と共に導電性が低下することから、少なくとも室温に近い温度範囲において金属の挙動を示す。金属挙動を認識するさらに別の方法は、低温(ほぼ0Kまで低下)での温度に対する導電性のいわゆる“還元活性化エネルギー”をプロットすることである。導電性への金属貢献を行う導体は、低温で曲線の正の勾配を示す。そのような物質は“有機金属”と呼ばれている。
【0029】
有機金属はそれ自体知られている。Wessling et al., Eur. Phys. J. E 2, 2000, 207-210によると、非金属導体の状態から少なくとも部分的金属導体への遷移は、固有導電性重合体の合成の完了後に一段摩擦または分散処理により実施できる。その方法技術の基礎はEP0700573Aに記載されている。このように、分散処理により導電性も増大し、用いた導電性重合体の化学組成は有意に変化しない。
【0030】
好ましい固有導電性重合体は上述の通りであるが、特に以下が例示できる:ポリアニリン(PAni)、ポリチオフェン(PTh)、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン類)(PEDT)、ポリジアセチレン、ポリアセチレン(PAc)、ポリピロール(PPy)、ポリイソチアナフテン(PITN),ヘテロアリーレン基が例えばチオフェン、フランまたはピロールであり得るポリヘテロアリーレンビニレン(PArV)、ポリ−p−フェニレン(PpP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリペリナフタレン(PPN)、なかんずくポリフタロシアニン(PPc)、およびそれらの誘導体(例えば単量体が側鎖または側基で置換されて形成されたもの)、それらの共重合体、およびそれらの物理的混合物。特に好ましいのはポリアニリン(PAni)、ポリチオフェン(PTh)、ポリピロール(PPy)、およびそれらの誘導体、それらの混合物である。もっとも好ましいのはポリアニリンである。
【0031】
錯化剤と導電性重合体との混合物も適している。
層(iii)は好ましくは以下を含有し:
スズ 20〜99.5重量%、
他の金属 0.01〜80重量%、
錯化剤 0〜80重量%、および
導電性重合体 0〜80重量%、
それぞれの比率は層(iii)の総質量を基準とする。
【0032】
有機添加剤(類)は、層(iii)の総質量を基準に1ppb〜5重量%の量で用いられるのが好ましい。
【0033】
基層(i)として、プリント配線基板技術で用いられる全ての材料が適しており、特に、エポキシドおよびエポキシド複合体、テフロン、シアン酸エステル、セラミックス、セルロースおよびセルロース複合体、例えば、厚紙等、これらの物質に基づく材料、軟質基層、例えばポリイミドに基づくものである。基層は0.1〜3mmの層厚さを持つことが好ましい。
【0034】
銅層または銅合金層(ii)は5〜210μm、特に15〜35μmの厚さを持つことが好ましい。
【0035】
層(iii)は好ましくは50nm〜4μm、特に好ましくは100nm〜3.5μm、極めて特に好ましくは200nm〜3μm、特に200nm〜2μmの層厚さを持つ。
【0036】
他の金属または金属類は、層(iii)中に均質に分布していないのが好ましい。すなわち、他の金属の濃度は層(iii)の厚さ方向に変動している。
【0037】
層(iii)中のスズ濃度が50モル%より大である深さまでは、他の金属または金属類が100ppmより大で50モル%未満の濃度で存在するのが好ましい。特に好ましいのは、層(iii)の外側300nm〜3μmにおけるスズ濃度が50モル%より大である層(iii)である。
【0038】
他の金属または金属類の濃度は以下のように段階的に変化しているのが好ましい。層の外側0.5〜5%においては、他の金属または金属類の濃度は層の次の2〜10%における濃度より低く、この次層での濃度はそれより下方の層の5〜95%における濃度より高い。これらのパーセント値は層の厚さを基準としている。
【0039】
本発明に係る被覆品はプリント配線基板の製造に特に適しており、この被覆品は基板とも呼ばれるプリント配線基板であることが好ましい。これらは、穴を持つ可能性がある電気部品の組み立てに用いられる薄板である。これらの穴は、例えば、それらの板の上面と下面との接続、はんだの供給、またはさらにはんだ付けを行うための部品の導線の収容に役立つ。
【0040】
本発明に係る被覆品、特にプリント配線基板の製造には、
(1) 銅または銅含有合金の層を基層の表面に適用し、
(2) 工程(1)で製造した層を構造化し、
(3) その後、構造化した銅または銅合金層にスズ含有層を適用する。
【0041】
この方法の好ましい形態に従うと、工程(1)の後、銅または銅合金層(ii)を脱脂、洗浄する。このためには、物品を通常の市販の酸性または塩基性洗浄剤で処理するのが好ましい。硫酸およびクエン酸をベースにした洗浄剤、例えばオルメコン社の洗浄剤ACL7001等、が好ましい。物品を約2分間45℃の洗浄浴に放置し、その後水で洗うのが好ましい。
【0042】
さらに、工程(1)の後、または洗浄後、銅または銅合金層(ii)を酸化的に前処理する、例えば、表面をH22または無機過酸化物でエッチングにより前処理することが好ましい。適当なエッチング液は市販されており、例えば、オルメコン社の過酸化水素含有液エッチ7000である。物品は約2分間30℃のエッチング液に放置するのが好ましい。
【0043】
工程(1)で製造された層はリソグラフィーまたはエッチング法により構造化するのが好ましく、これによりランドパターンが作られる。現在、工程(1)と工程(2)は、構造化されたCu導体トラックの直接適用または同様の方法に置き換えることも可能である。
【0044】
工程(2)の後、必要であればドリル穴(“穴”)を作り、その後これらの穴に銅めっきする。
【0045】
上記方法の個々の工程の実施は、それ自体当業者に知られている。
【0046】
工程(3)において、工程(2)で形成された層上にスズ含有層を以下のように適用するのが好ましい。スズイオンと他の金属または金属類のイオンとを含有する浴から錯体形成および酸化還元法の実施によりスズと他の金属を化学的に沈着させる。
【0047】
特に好ましいのは、スズイオンおよび/または他の金属のイオンを含有する2種以上の異なった浴から錯体形成および酸化還元法の実施によりスズと他の金属または金属類を工程(2)で形成した層上に化学的に沈着させる方法である。この変法により、個々の金属および任意の添加剤について別個の浴を用いることができる。このようにして、個々の金属および添加剤の沈着率が意図した通りに制御できるので、層(iii)におけるそれらの濃度が再現性よく、比較的低い制御費用で調節できる。
【0048】
驚くべきことに、はじめに他の金属、そして必要に応じ1種または数種の有機添加剤の層を工程(2)で形成された層上に沈着し、次に他の金属および必要に応じ添加する有機添加剤または添加剤類の層にスズ層を沈着することにより、層(iii)が簡便に作製できることが明らかになった。
【0049】
他の金属として、Mg、Ca、Zr、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Ga、In、Ge、SbおよびBiからなる群から選ばれた金属をはじめに沈着することが好ましく、これは前記の有機添加剤の存在下で実施することが特に好ましい。他の金属としては、銀、プラチナ、金、ニッケル、ビスマスおよび銅が好ましく、銀が特に好ましい。その後、スズ層を1種または数種の有機添加剤も含有できる従来のスズ浴で適用する。好ましくは、他の金属または金属類は導電性重合体と共に沈着させ、スズは銅錯化剤と共に沈着させる。
【0050】
他の金属および必要に応じ添加できる有機添加剤または添加剤類の層は、3〜100nm、好ましくは10〜40nm、特に好ましくは10〜20nmの厚さで沈着させるのが好ましい。
【0051】
例えば好ましい形態においては、銅表面をはじめに脱脂、酸化的エッチングし、次にAg陽イオンを溶解形状で、ポリアニリンをコロイド分散形状で含有する浴で処理する。この銀−有機成分含有層は3〜100nmの厚さで沈着する。その後、スズ(II)陽イオンおよびチオ尿素または他の錯化剤を含有する酸性浴からスズを沈着させる。
【0052】
スズは、所望の層厚さが好ましくは100nm〜3μmの層厚さで達成されるような量で沈着される。
【0053】
他の金属または金属類および必要に応じ添加する有機添加剤または添加剤類は、問題の金属または金属類のイオンを各0.003〜1重量%の濃度で含有し、必要に応じ1種または数種の有機添加剤を各0.001〜25重量%の濃度で含有する1種または数種の水性浴から沈着させるのが好ましい。この浴が有機添加剤として銅錯化剤を含有する場合、これは0.1〜5重量%の濃度で用いられるのが好ましい。導電性重合体は、0.001〜0.1重量%の浴濃度で用いられるのが好ましい。銅錯化剤としては、チオ尿素、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、またはイミダゾール−チオン類のような関連化合物、およびそれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0054】
驚くべきことに、本発明に係る方法は物品の表面に他の金属または金属類の緻密層を形成しない。代わりに、開放気孔の多孔面が得られ、これは膜状、スポンジ状または泡状とも呼ぶことができる。スズが極めて緩徐にさらに沈着するだけであるか、または全く沈着しないのは、明らかに例えば緻密Ag層があるからであり、一方、例えば開放気孔Ag層があると、その後のスズ層形成は妨げられない、と様々な研究が示している。
【0055】
従来法と対照的に、スズを後から沈着させると、銅層との界面に金属間Sn−Cu相を形成する純粋なスズ層が得られないが、本発明に係る方法では驚くべきことに、外面の真下で比較的高濃度の他の金属または金属類を示すスズ合金が形成されることが判っている。当然予想した通り、銅表面、すなわち、他の金属または金属類が当初沈着していた箇所、での他の金属または金属類の濃度は、この面の上方にある層(iii)の下層での濃度より低く、高くない、という事実も驚くべきことである。他の金属または金属類は低スズ含量の領域にまで検出でき、他の金属または金属類の濃度は外面の濃度と10の1乗だけ変わるのが好ましく、最大濃度は表面の真下に存在する。ただし、例えば有機添加剤含有銀層は銅上に第1層として適用され、銅に富んだ第1層となる。
【0056】
特に好ましい形態によると、層(iii)は他の金属類として銀と銅を含有し、銀も銅も層(iii)の外面に顕著な量で認められることになる。
【0057】
本発明に係る方法は、銅との界面に金属間Sn−Cu相を形成し、これらの相は従来法で形成されたSn−Cu相より広く、相境界は従来法のSn−Cu相より不鮮明であることも認められている。
【0058】
したがって、本発明に係る方法では、例えば銀を用いても、予期される前述の層構造、すなわち、Sn層/銀層/Cu層の形態であり、時には金属間相が形成された層構造、が得られず、むしろ、表面に比較的高濃度のAgを示し、このAg濃度は下部層よりも予想外に高いことが判っているようなスズ層を得られることは驚くべきことである。層(iii)は、外部の下層で比較的高いCu濃度と、内部の銅に富んだ層で比較的高いCu濃度も示す。
【0059】
本発明により製造されたスズ含有層(iii)は、ウィスカ形成傾向が既知の層より著しく低い、という事実は少なくとも衝撃的とさえ言える驚きである。さらに、スズ含有層は長期にわたりはんだ付け性を保持する。層(iii)は10μmより長いウィスカを数本持つだけか、好ましくは全く持たず、特に好ましくは、14週間室温で貯蔵後も依然としてウィスカがない(光学顕微鏡検査で判定)。この結果は、現在のところ何ら説明ができない。上述の層(iii)の構造が、ウィスカ形成をもたらす応力の伝達を抑えるものと推定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下に実施態様と図により本発明を非限定的にさらに説明する。図1は、本発明に係るプリント配線基板の層(iii)の二次イオン質量スペクトルを示し、図2は、従来法で作製されたプリント配線基板の層(iii)の二次イオン質量スペクトルを示し、図3は、プリント配線基板において本発明に適した銀層の二次イオン質量スペクトルを示し、図4は、プリント配線基板において本発明に適した銀層の電子顕微鏡写真を示し、図5は、プリント配線基板において本発明に適さない銀層の二次イオン質量スペクトルを示し、図6は、本発明にしたがい被覆されたプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示し、図7は、本発明にしたがわずに被覆されたプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示し、図8は、本発明にしたがわずに被覆された別のプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示す。
【0061】
実施例1:被覆されたプリント配線基板の製造
エポキシ樹脂複合体プリント配線基板を、洗浄浴において45℃で2分間硫酸およびクエン酸をベースにした通常の市販洗浄剤(ACL7001,オルメコン社)を用いて洗浄・脱脂した。用いたプリント配線基板の試験設計は、試験機関およびプリント配線基板メーカのものと一致し、実際のプリント配線基板構造を模したものであった。これらの基板は、はんだ付け性が測定可能で、評価可能であった。次に、プリント配線基板を室温の水道水で水洗いし、その後、H22含有エッチング液(エッチ7000,オルメコン社)で2分間30℃で処理した。エッチング後、基板を再び室温の水道水で水洗いした。水洗い後、プリント配線基板を、チオ尿素(30g/l)、硫酸(20g/l)、硫酸銀として銀200mg/l、ポリアニリンの4%水分散液1g/lを含有する40℃の温水溶液または分散液に45秒間浸漬した。均一な銀半透明層が沈着した。次に、プリント配線基板をSn2+含有浴を用いて従来通りスズめっきした。
【0062】
スズめっき前に蛍光X線分光法により測定した銀層の厚さは10nmであったが、電気化学的測定法を用いたとき(検流計電量測定)、40nmの層厚さが認められた。この相違は、層の有機成分で説明できる。
【0063】
プリント配線基板は二次イオン質量分析(SIMS)により検討した。この検討法においては、層を除去し、一層ずつ分析する。短いスパッタ時間は層の外部領域に相当し、長いスパッタ時間では層の深部領域が示される。500秒のスパッタ時間は概ね800nmの層厚さに相当する。すなわち、500秒後、層の上部800nmが除去された。
【0064】
図1は、スズめっき後の層(iii)のSIMSスペクトルを示す。検討した全層領域にわたり銀が分布して存在し、驚くべきことに、スズめっき前に銀を適用したにも拘らず、表面で(スパッタ時間0〜500秒)層内部より1桁〜2桁高い濃度を示すことが明らかに見られる。同様に、スズと銅の濃度は層の厚さ方向にわたり均一に低下していることが明らかに見られる。曲線“CuzuSn”は銅とスズとの割合を表す。1,900秒のスパッタ時間後(約3μmに相当)、この数値は10-4の数値に達する。このスペクトルから、金属類の合金または微粉混合物の形成が確認できる。
【0065】
図3は、スズめっき前の二次イオン質量分析により記録した銀層のスペクトルを示す。銀と銅に加え、この層は用いられた有機添加剤に由来するC、N、PおよびS元素をわずかとは言えない量で含有していることを、このスペクトルは示している。
【0066】
図4は、銀層の電子顕微鏡写真を示す。層の開放気孔多孔構造が明らかに見分けられる。
【0067】
これに比べ、図5は、銀浴においてより高い銀濃度、より高い温度、より長い滞留時間のプリント配線基板で得られた銀層のSIMSスペクトルを示す。この銀層は図3に示した層より著明に厚く緻密であるので、ほとんどスズはその上に沈着できない。
【0068】
実施例2〜7:被覆されたプリント配線基板の製造(比較例)
実施例1と同様に、プリント配線基板を通常の市販品によりそれぞれの取扱説明書にしたがいスズめっきした。用いた市販品は、オルメコンCSN(オルメコン社,アムメルスベック,実施例2)、オルメコンCSN FF(オルメコン社,アムメルスベック,実施例3)、シプリィ ツィンポジット LT34(実施例4)、ウニクロンG2(ウニクロン社,キルヒハイムボランデン;実施例5)、オミクロン(サーテック社,フロリダ,米国;実施例6)、スタンナテック(アトテック社,ベルリン;実施例7)であった。
【0069】
図2は、比較例3のプリント配線基板の二次イオン質量スペクトルを示す。図1との比較から、スズと銅の濃度は不連続な形状を示す、すなわち、スズ層は約900秒のスパッタ時間で突然低下し、銅濃度は同時に突然上昇することが明らかに見られる。これは、層同士の実質的分離を示している。10-4の銅/スズ比は、はるかに短いスパッタ時間後に既に達成されている。
【0070】
実施例8:ウィスカサイズの決定
実施例1〜7で製造されたプリント配線基板を室温で7週間および14週間貯蔵した。次に、光学顕微鏡により基板のウィスカ形成を調べ、該当する場合、ウィスカのサイズを決定した。背景が暗いとウィスカが発見しやすかったので、直径1mmのドリル穴を観察した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
図6は、14週間貯蔵後の実施例1のプリント配線基板の光学顕微鏡写真を示す。ウィスカ形成は認められない。
【0073】
図7は、7週間貯蔵後の比較例3のプリント配線基板の光学顕微鏡写真を示す。この写真では、ドリル穴の上部領域(12時の箇所)にウィスカ繊維が結像している。
【0074】
図8は、7週間貯蔵後の比較例4のプリント配線基板の写真を示す。この写真では、多数のウィスカが結像面に認められる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係るプリント配線基板の層(iii)の二次イオン質量スペクトルを示す。
【図2】従来法で作製されたプリント配線基板の層(iii)の二次イオン質量スペクトルを示す。
【図3】プリント配線基板において本発明に適した銀層の二次イオン質量スペクトルを示す。
【図4】プリント配線基板において本発明に適した銀層の電子顕微鏡写真を示す。
【図5】プリント配線基板において本発明に適さない銀層の二次イオン質量スペクトルを示す。
【図6】本発明にしたがい被覆されたプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示す。
【図7】本発明にしたがわずに被覆されたプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示す。
【図8】本発明にしたがわずに被覆された別のプリント配線基板において1mmのドリル穴の光学顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 少なくとも1つの非導電性基層、
(ii) 少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および
(iii) スズ含有層
を持つ被覆品であって、前記層(ii)は前記層(i)と前記層(iii)との間に位置する被覆品において、
前記スズ含有層(iii)が、少なくとも1種の他の金属を含有する
ことを特徴とする被覆品。
【請求項2】
請求項1において、
前記層(iii)が、他の金属として、Mg、Ca、Zr、Mn、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Ga、In、Ge、SbおよびBiから選ばれる少なくとも1種の金属を含有している
被覆品。
【請求項3】
請求項2において、
前記他の金属が、銀、プラチナ、金、ニッケル、ビスマス、銅、またはこれらの金属の2種以上の組み合わせである
被覆品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、スズと少なくとも1種の他の金属との合金を含有する
被覆品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、スズと少なくとも1種の他の金属との微粉または多相混合物を含有する
被覆品。
【請求項6】
請求項5において、
金属粒子または金属相が、1〜500nmの大きさを持つ
被覆品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、さらに少なくとも1種の有機系添加剤を含有する
被覆品。
【請求項8】
請求項7において、
前記有機系添加剤が、炭素、硫黄および/または窒素元素の少なくとも1つを含有する
被覆品。
【請求項9】
請求項7〜8のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、さらに錯化剤および/または導電性重合体を含有する
被覆品。
【請求項10】
請求項9において、
前記有機添加剤が、銅との錯体を形成できる
被覆品。
【請求項11】
請求項9又は10において、
前記添加剤が、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリピロール類、チオ尿素、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、尿素、クエン酸、イミダゾール−チオン類、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる
被覆品。
【請求項12】
請求項1〜12のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、前記層(iii)の総質量を基準として
スズ 20〜99.5重量%、
他の金属 0.01〜80重量%、
錯化剤 0〜80重量%、および
導電性重合体 0〜80重量%、
を含有する
被覆品。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、1ppb〜5重量%の有機系添加剤を含有する
被覆品。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかにおいて、
前記層(i)が、0.1〜3mmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかにおいて、
前記層(ii)が、5〜210μmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、50nm〜4μmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかにおいて、
前記他の金属の濃度が、前記層(iii)の厚さ方向に変動している
被覆品。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかにおいて、
前記層(iii)の外側300nm〜3μmにおけるスズ濃度が、50モル%より大である
被覆品。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかにおいて、
前記層の上部0.5〜5%における前記他の金属の濃度が、前記層の次の2〜10%における濃度より低く、この次層での濃度はそれより下層となる前記層の5〜95%における濃度より高い
被覆品。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかにおいて、
プリント配線基板の形態にある
被覆品。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかの被覆品を製造する方法であって、
(1) 銅または銅含有合金の層を基層の表面上に適用し、
(2) 工程(1)で製造した前記層を構造化し、
(3) 前記構造化した銅または銅合金層上にスズ含有層を適用する
方法。
【請求項22】
請求項21において、
工程(3)において、スズイオンおよび前記他の金属のイオンを含有する浴から錯体形成および酸化還元法の実施により、工程(2)で形成された前記層上にスズおよび前記他の金属を化学的に沈着させて、前記スズ含有層を適用する
方法。
【請求項23】
請求項21において、
スズイオンおよび/または前記他の金属のイオンを含有する2種以上の異なった浴から錯体形成および酸化還元法の実施により、工程(2)で形成された前記層上にスズおよび前記他の金属を化学的に沈着させる
方法。
【請求項24】
請求項23において、
はじめに前記他の金属、および必要に応じ1種または数種の有機添加剤の層を工程(2)で形成された前記層上に沈着させ、次に前記他の金属および前記必要に応じ添加する有機添加剤または添加剤類の層上にスズ層を沈着させる
方法。
【請求項25】
請求項24において、
前記他の金属および前記必要に応じ添加する有機添加剤または添加剤類の前記層を3〜100nmの厚さで沈着させる
方法。
【請求項26】
請求項24又は25において、
前記スズを100nm〜3μmの層厚さで沈着させる
方法。
【請求項27】
請求項24〜26のいずれかにおいて、
前記他の金属および前記必要に応じ添加する有機添加剤または添加剤類の層を、前記金属のイオンを0.003〜1重量%の濃度で含有し、必要に応じ1種または数種の有機添加剤を各0.001〜25重量%の濃度で含有する水性浴から沈着させる
方法。
【請求項28】
請求項27において、
前記浴が、0.1〜5重量%の銅用錯化剤を含有する
方法。
【請求項29】
請求項27又は28において、
前記浴が、0.001〜0.1重量%の導電性重合体を含有する
方法。
【請求項30】
請求項21〜29のいずれかにおいて、
前記他の金属が、銀、プラチナ、金、ニッケル、ビスマス、銅、またはこれらの金属の2種以上の組み合わせである
方法。
【請求項31】
請求項21〜30のいずれかの方法で得られる被覆品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−37227(P2006−37227A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−183261(P2005−183261)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504224957)オルメコン・ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】