説明

エアバッグ装置

【課題】ストラップの他端が解放された場合であっても、ストラップのエアバッグの外部における運動を制限することができるエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグ2と、エアバッグ2にガスを供給するインフレータ3と、エアバッグ2及びインフレータ3を固定するリテーナ4と、一端51がエアバッグ2の一部に接続されたストラップ5の他端52を解放可能に保持するストラップ保持装置6と、を有し、一端71がストラップ5に接続されるとともに他端72がエアバッグ2に接続されるストラップ拘束テザー7を有している。ストラップ拘束テザー7は、解放されたストラップ5の自由端の運動を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置に関し、特に、張力によってベントホールの開閉やエアバッグの形状等を制御するストラップを有するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、衝突時や急減速時等の緊急時にエアバッグを車内で膨張展開させて乗員に生ずる衝撃を吸収するためのエアバッグ装置が搭載されることが一般的になっている。かかるエアバッグ装置には、ステアリングに内装された運転席用エアバッグ装置、インストルメントパネルに内装された助手席用エアバッグ装置、車両側面部又はシートに内装されたサイドエアバッグ装置、ドア上部に内装されたカーテンエアバッグ装置、乗員の膝部に対応したニーエアバッグ装置、フード下に内装された歩行者用エアバッグ装置等、種々のタイプが開発・採用されている。
【0003】
これらのエアバッグ装置は、一般に、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、を有する。また、かかるエアバッグには、例えば、エアバッグの膨張展開形状を規制したり、ベントホールの開閉を制御したりするためのストラップが配置されることがある(例えば、特許文献1〜特許文献4参照)。
【0004】
特許文献1に記載されたエアバッグ装置は、ピン部材及びスクイブを有するストラップ保持装置と、一端がエアバッグの外表面に接続され他端がピン部材に係合可能なパッチ部材(ストラップ)と、を有し、パッチ部材の保持及び解放を制御することによりベントホールの開閉を制御するようにしている(例えば、特許文献1の図4〜図7参照)。そして、パッチ部材をピン部材から解放すると、パッチ部材は張力によってベントホールからエアバッグの外部に放出され、ベントホールが開放される(例えば、特許文献1の図7参照)。
【0005】
特許文献2に記載されたエアバッグ装置は、アクチュエータを有する連結選択機構(ストラップ保持装置)と、一端がエアバッグの外表面に接続され他端が連結選択機構に隣接した保持部に係合された連結材(ストラップ)と、を有し、連結材の保持及び解放を制御することによりベントホールの開閉を制御するようにしている(例えば、特許文献2の図1〜図13参照)。そして、連結選択機構の作動により連結材を保持部から解放すると、連結材は張力によってエアバッグの外部に引っ張られ、ベントホールが開放される(例えば、特許文献2の図13参照)。
【0006】
特許文献3に記載されたエアバッグ装置は、カッター及びガス発生装置を有するアクチュエータ(ストラップ保持装置)と、一端がエアバッグの外部に突出するダクト部に接続され他端がアクチュエータに係合可能なテザー(ストラップ)と、を有し、テザーの保持及び解放を制御することによりダクト部により形成されるベントホールの開閉を制御するようにしている(例えば、特許文献3の図4参照)。そして、アクチュエータの作動によりテザーを切断して解放すると、テザーは張力によってエアバッグの外部に引っ張られ、ダクト部が反転してベントホールが開放される。
【0007】
特許文献4に記載されたエアバッグ装置は、キャップ及び解除装置を有するストラップ保持装置と、一端がエアバッグの外部に突出するように形成された凸部に接続され他端がキャップを介してストラップ保持装置に係合可能なストラップと、を有し、ストラップの保持及び解放を制御することにより凸部に形成されたベントホールの開閉を制御するようにしている(例えば、特許文献4の図5参照)。そして、解除装置の作動によりキャップを吹き飛ばすと、テザーは張力によってエアバッグの外部に引っ張られ、凸部がエアバッグ上で起立してベントホールが開放される。また、特許文献4の図19には、同様の作用により、エアバッグの容量(膨張展開形状)を制御できる旨も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6648371号明細書
【特許文献2】特開2009−1259号公報
【特許文献3】特開2010−83175号公報
【特許文献4】特開2008−308139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1〜特許文献4に記載されたエアバッグ装置では、ストラップ保持装置(連結選択機構、アクチュエータ、ストラップ解除装置等のように称することもある)に接続されたストラップ(テザー、連結材、パッチ、ベルト、係留索等のように称することもある)の他端を解放した場合に、ストラップの他端は自由端状態になっている。したがって、ストラップの他端は、ストラップの張力やエアバッグのガス圧によって、最終的にエアバッグの外部に放出されることとなる。ここで、ストラップの他端がエアバッグの外部に放出された場合、その勢いによってストラップに接続された物体(エアバッグの外表面、ダクト部、凸部等)を変形させたり、ストラップが車内の一部に絡まったりしてしまう可能性があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、ストラップの他端が解放された場合であっても、ストラップのエアバッグの外部における運動を制限することができるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、一端が前記エアバッグの一部に接続されたストラップの他端を解放可能に保持するストラップ保持装置と、を有するエアバッグ装置において、一端が前記ストラップに接続されるとともに他端が前記エアバッグ又は前記リテーナに接続されるストラップ拘束テザーを有する、ことを特徴とするエアバッグ装置が提供される。
【0012】
前記ストラップの一端は、例えば、前記エアバッグの外殻、前記エアバッグに形成されたベントホールを開閉する弁体、前記エアバッグのベントホールを形成する筒状部材又は前記エアバッグのベントホールを有する突出部に接続されている。また、前記ストラップの他端は、前記エアバッグに形成されたスリットに挿通されて前記エアバッグの内部に引き込まれていてもよい。さらに、前記ストラップ拘束テザーと前記ストラップとの接続部は、前記ストラップの長手方向に沿って形成された縫合線によって形成されていてもよい。
【0013】
前記ストラップ拘束テザーは、前記ストラップの他端における末端部寄りに接続されていてもよい。また、前記ストラップ拘束テザーは、所定の張力が生じた場合に中間部又は接続部で破断可能に構成されていてもよい。また、前記ストラップ拘束テザーは、前記ストラップを構成する部材の一部により構成されていてもよい。また、前記ストラップ及び前記ストラップ拘束テザーは、エアバッグに使用される基布又はシートベルトに使用されるウェビングの素材により構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明に係るエアバッグ装置によれば、他端が解放可能に構成されたストラップにストラップ拘束テザーを接続したことにより、ストラップの他端が解放された場合であっても、ストラップがストラップ拘束テザーを介してエアバッグ装置に接続された状態を維持することができ、ストラップのエアバッグの外部における運動を制限することができる。
【0015】
ストラップの一端がエアバッグの外殻、弁体、筒状部材、突出部に接続されている場合のように、ストラップの他端を解放した場合に、ストラップの他端がエアバッグの外部に放出され易い構造であっても、本発明によれば、ストラップ拘束テザーによりストラップのエアバッグの外部における運動を制限することができる。
【0016】
また、ストラップの他端がエアバッグの外部からエアバッグの内部に引き込まれている場合のように、ストラップの張力によってストラップの他端がエアバッグの外部に放出され易い構造であっても、本発明によれば、ストラップ拘束テザーによりストラップのエアバッグの外部における運動を制限することができる。
【0017】
さらに、ストラップ拘束テザーとストラップとの接続部をストラップの長手方向に沿って形成された縫合線により構成することにより、該接続部がエアバッグのスリットを通過するときの抵抗を低減することができ、ストラップの解放に伴う作用(例えば、ベントホールの開放)を阻害しないようにすることができる。
【0018】
ストラップ拘束テザーをストラップの他端における末端部寄りに接続することにより、ストラップの自由端の長さを短くすることができ、ストラップのエアバッグの外部における運動を効果的に制限することができる。
【0019】
ストラップ拘束テザーを所定の張力が生じた場合に中間部又は接続部で破断可能に構成することにより、ストラップが車内構造物等の他の物体に引っ掛かった場合であっても、その引っ掛かりを容易に解除することができる。
【0020】
ストラップ拘束テザーをストラップを構成する部材の一部により構成することにより、ストラップ拘束テザーの接続位置の位置決めを考慮する必要がなく、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0021】
ストラップ及びストラップ拘束テザーを基布又はウェビングの素材で構成することにより、車両安全装置の分野において強度、難燃性、耐環境性等の所定の規制条件を満足する部材を容易に入手することができるとともに、車両安全装置に使用した部材の余りや切れ端を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図であり、(A)はストラップ保持状態、(B)はストラップ解放状態、を示している。
【図2】ストラップ拘束テザーの接続位置に関する説明図であり、(A)はストラップとストラップ拘束テザーとの接続部、(B)はストラップ拘束テザーとエアバッグ装置との接続部の変形例、を示している。
【図3】ストラップ拘束テザーの接続方法を示す図であり、(A)はストラップ拘束テザーがストラップと別部品の場合、(B)はストラップ拘束テザーがストラップと一体部品の場合、を示している。
【図4】ストラップ拘束テザーが破断した状態を示す図であり、(A)はストラップとの接続部で破断した場合、(B)はストラップ拘束テザーの中間部で破断した場合、(C)はエアバッグ装置との接続部で破断した場合、を示している。
【図5】本発明の他の実施形態に係るエアバッグ装置を示す部分拡大図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1〜図5を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図であり、(A)はストラップ保持状態、(B)はストラップ解放状態、を示している。図2は、ストラップ拘束テザーの接続位置に関する説明図であり、(A)はストラップとストラップ拘束テザーとの接続部、(B)はストラップ拘束テザーとエアバッグ装置との接続部の変形例、を示している。図3は、ストラップ拘束テザーの接続方法を示す図であり、(A)はストラップ拘束テザーがストラップと別部品の場合、(B)はストラップ拘束テザーがストラップと一体部品の場合、を示している。
【0024】
本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置1は、図1〜図3に示したように、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグ2と、エアバッグ2にガスを供給するインフレータ3と、エアバッグ2及びインフレータ3を固定するリテーナ4と、一端51がエアバッグ2の一部(突出部21)に接続されたストラップ5の他端52を解放可能に保持するストラップ保持装置6と、を有し、一端71がストラップ5に接続されるとともに他端72がエアバッグ2に接続されるストラップ拘束テザー7を有している。
【0025】
図1(A)及(B)に示したエアバッグ装置1は、例えば、助手席用エアバッグ装置であり、助手席の前面に配置されたインストルメントパネル(図示せず)に固定されることによって格納される。折り畳まれて格納されたエアバッグ2は、インフレータ3の作動により内部にガスが供給されると膨張展開を開始し、インストルメントパネルを突き破って車室内に放出され、シートSに着座した乗員Pの前方に膨張展開される。
【0026】
前記エアバッグ2は、エアバッグ2の外殻に形成された開口部に接続された突出部21を有する。突出部21の内側、具体的には、ストラップ5で突出部21を引っ張った時に突出部21とエアバッグ2とが重なり合う領域には、ベントホール22が形成されている。突出部21の頂部にはストラップ5の一端51が接続されている。また、エアバッグ2は、突出部21とリテーナ4との間において、ストラップ5を挿通可能な形状に形成されたスリット23を有する。ストラップ5の他端52は、エアバッグ2に形成されたスリット23に挿通されてエアバッグ2の内部に引き込まれている。スリット23は、エアバッグ2の外殻に形成された切れ目(切り込み部)であってもよいし、細長形状の開口部であってもよい。そして、ストラップ5をインフレータ3側に引っ張ると、図1(A)に示したように、突出部21の内側はエアバッグ2の表面に押付けられ、ベントホール22が閉じた状態となり、エアバッグ2の内圧が保持される。
【0027】
突出部21は、図示したように、エアバッグ2の片側(例えば、車両の中心部側)に配置するようにしてもよいし、エアバッグ2の両側に配置するようにしてもよい。また、エアバッグ2は、突出部21に形成されたベントホール22に加えて、エアバッグ2の外郭に形成された常開型ベントホール(図示せず)を有していてもよい。かかる常開型ベントホールを形成することによって、突出部21に形成されたベントホール22が閉じた状態であっても、エアバッグ2内のガスを外部に排出することができ、乗員Pがエアバッグ2に接触したときの衝撃を緩和することができる。
【0028】
前記インフレータ3は、エアバッグ2に供給されるガスを発生させるガス発生器であり、例えば、略円板形状の外形をなしている。図1では、ディスク型のインフレータ3の場合を図示しているが、略円柱形状の外形をなしたシリンダ型のインフレータ3を使用してもよい。インフレータ3は、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、加速度センサ等の計測値に基づいて制御される。ECUが車両の衝突や急減速を感知又は予測すると、インフレータ3はECUからの点火電流により点火され、インフレータ3の内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させ、エアバッグ2にガスを供給する。
【0029】
前記リテーナ4は、例えば、インストルメントパネル又はインストルメントパネルに嵌め込まれたエアバッグカバーの背面に形成された脚部に係止されて支持される。また、一般に、リテーナ4は、ブラケットを介してインストルメントパネル内の車両構造物に固定される。図示したように、ストラップ保持装置6をリテーナ4の外部に配置した場合には、リテーナ4は、ストラップ5の他端52を外部に引き出し可能な開口部41を有する。開口部41は、ストラップ5の断面形状よりも若干大きい形状を有し、例えば、長細いスリット又はスロット形状に構成される。なお、リテーナ4の構成は、図示した構造に限定されるものではなく、従来から一般的に使用されている種々のリテーナに変更することができる。
【0030】
前記ストラップ5は、突出部21に付与する張力を調整して、突出部21をエアバッグ2の表面に密着させたり、突出部21をエアバッグ2の表面で起立させたりする部品である。ストラップ5は、種々の織布や不織布により形成することができるが、エアバッグ2に使用される基布又はシートベルトに使用されるウェビングの素材により構成するようにしてもよい。ストラップ5を基布により構成する場合には、例えば、一枚の基布を複数回折り畳んで縫合したり、複数枚の基布を積層して縫合したりすることによって、略平紐状に形成する。ストラップ5をウェビングの素材により構成する場合には、例えば、一枚のウェビングから強度を保持できる幅に切り取ったり、ウェビングと同様の製法で幅狭のものを製造したりすることによって、略平紐状に形成する。なお、「ストラップ」の用語は、テザー、連結材、パッチ、ベルト、係留索、係留綱、紐状部材、帯状部材、ワイヤ等の張力Tを生じ得る全ての部品を含む趣旨である。
【0031】
前記ストラップ保持装置6は、ストラップ5の他端52を解放可能に保持する部品であり、リリース機構やストラップ解除装置と称されることもある。具体的には、ストラップ5の他端52側を拘束する保持部と、該保持部におけるストラップ5の拘束を解除する解除装置と、を有する。例えば、解除装置は小型ガス発生装置(MGG)であるスクイブにより構成され、スクイブはECU(電子制御ユニット)からの点火電流(点火信号)により点火され、内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させる。このスクイブの作動により、ストラップ5を保持するキャップやピンを引き抜いたり、保持されたストラップ5をカッターにより切断したりすることによって、ストラップ5の拘束を解除する。
【0032】
図示したストラップ保持装置6は、リテーナ4の外部に配置されているが、リテーナ4の内部に配置するようにしてもよい。ストラップ保持装置6をリテーナ4の外部に配置した場合には、リテーナ4の構造を複雑にする必要がなく、ストラップ保持装置6がインフレータ3から噴出される高温ガスに曝されることもない。なお、ストラップ保持装置6の構成は、上述した構造に限定されるものではなく、従来から一般的に使用されている種々のストラップ保持装置に変更することができる。
【0033】
前記ストラップ拘束テザー7は、解放されたストラップ5の自由端の運動を制限する部品である。具体的には、ストラップ拘束テザー7は、ストラップ5に接続される一端71と、エアバッグ2又はリテーナ4に接続される他端72と、を有する。ストラップ拘束テザー7の一端71は、例えば、図1(A)に示したように、エアバッグ2の内部において、ストラップ5の外面(エアバッグ2の外殻側の面)側に接続される。ストラップ拘束テザー7の一端71は、ストラップ5の他端52における末端部寄りである、図2(A)に示した範囲A1内に接続される。ここで、「末端部寄り」とは、ストラップ5の中央部からストラップ5の他端52までの範囲A1を意味する。なお、ストラップ拘束テザー7は、ストラップ5がストラップ保持装置6から解放されたときに、少なくとも突出部21をエアバッグ2上で起立させることができる長さに設定される。
【0034】
ストラップ拘束テザー7は、エアバッグ2の外部で自由に運動するストラップ5を拘束する部品であるため、自由に運動し得るストラップ5の長さを半分以下にできるようにすることが好ましい。また、ストラップ保持装置6をリテーナ4の外部に配置した場合には、ストラップ保持装置6の構成に応じて、ストラップ5の中央部からリテーナ位置までの範囲A2内にストラップ拘束テザー7の一端71を接続するようにしてもよい。なお、ストラップ拘束テザー7の一端71の接続位置は、上述した位置に限定されるものではなく、ストラップ5の長さや解放されたストラップ5の挙動の解析結果等によって任意に設定することができる。
【0035】
また、ストラップ拘束テザー7の他端72は、図1(A)に示したように、エアバッグ2のスリット23の近傍に縫合等により接続される。このように、ストラップ拘束テザー7の他端72をエアバッグ2に接続することによって、図1(B)に示したように、ストラップ5が突出部21に引っ張られてエアバッグ2の外部に放出された場合であっても、ストラップ5の他端52が自由に動き回らないように拘束することができる。ストラップ拘束テザー7の他端72の接続位置は、スリット23の近傍に限定されるものではなく、ストラップ5の長さ等の条件によって任意に設定することができ、例えば、インフレータ3に接近した位置に接続するようにしてもよい。
【0036】
また、ストラップ拘束テザー7の他端72は、図2(B)に示したように、リテーナ4に接続するようにしてもよい。具体的には、リテーナ4は、エアバッグ2及びインフレータ3を固定するためのバッグリング42を有し、ストラップ拘束テザー7の他端72をエアバッグ2と一緒にバッグリング42で挟持する。バッグリング42は、ボルト等の固定具によりリテーナ4に固定される。かかる構成によれば、ストラップ拘束テザー7の他端72の縫製工程を省略することができ、製造工程を簡素化することができる。
【0037】
ここで、ストラップ5とストラップ拘束テザー7の接続方法について説明する。図3(A)に示したように、ストラップ5とストラップ拘束テザー7とが別部品により構成されている場合、ストラップ拘束テザー7の一端71がストラップ5上の所定の接続位置に配置されるように、ストラップ拘束テザー7をストラップ5上に配置する。その後、接続部73を縫合、接着、溶着等により接続する。接続部73を縫製糸により縫合する場合には、図示したように、接続部73はストラップ5の長手方向に沿って形成された縫合線73aによって形成するようにしてもよい。かかる構成により、接続部73がエアバッグ2のスリット23を通過するときの抵抗を低減することができ、ストラップ5の解放に伴う作用(例えば、ベントホール22の開放)を阻害しないようにすることができる。
【0038】
また、図3(B)に示したように、ストラップ5は、幅が拡張された拡幅部53と、ストラップ5と拡幅部53との間に形成された切り込み部54と、を有し、拡幅部53をストラップ5上に折り重ね、接続部73を縫合、接着、溶着等により接続するようにしてもよい。このように、ストラップ拘束テザー7をストラップ5を構成する部材の一部により構成することにより、ストラップ拘束テザー7の接続位置の位置決めを考慮する必要がなく、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0039】
上述したストラップ拘束テザー7は、例えば、ストラップ5と同じ素材により構成され、種々の織布や不織布により形成することができ、エアバッグ2に使用される基布又はシートベルトに使用されるウェビングの素材により構成するようにしてもよい。ストラップ5及びストラップ拘束テザー7を基布又はウェビングの素材により構成することにより、車両安全装置の分野において、強度、難燃性、耐環境性(例えば、−40℃〜80℃の温度領域で劣化したり機能低下したりしないこと)等の所定の規制条件を満足する部材を容易に入手することができる。
【0040】
ところで、図1(B)に示したストラップ解放状態において、エアバッグ2、突出部21、ストラップ5及びストラップ拘束テザー7により囲まれた空間が形成される。したがって、この空間に車内構造物等の他の物体が引っ掛かってしまう可能性がある。そこで、ストラップ拘束テザー7に所定の張力が生じた場合に破断可能に構成して、この引っ掛かりを解除できるようにしてもよい。ここで、図4は、ストラップ拘束テザーが破断した状態を示す図であり、(A)はストラップとの接続部で破断した場合、(B)はストラップ拘束テザーの中間部で破断した場合、(C)はエアバッグ装置との接続部で破断した場合、を示している。
【0041】
図4(A)〜(C)に示したように、ストラップ拘束テザー7は種々の箇所で破断させることができる。図4(A)に示した実施形態は、ストラップ拘束テザー7とストラップ5との接続部73で破断させるようにしている。図4(B)に示した実施形態は、ストラップ拘束テザー7の中間部74で破断させるようにしている。図4(C)に示した実施形態は、ストラップ拘束テザー7とエアバッグ2との接続部75で破断させるようにしている。なお、各図において、ストラップ拘束テザー7の破断前の状態を点線で図示している。
【0042】
図4(A)及び(C)に示したように、ストラップ拘束テザー7の接続部73,75でストラップ拘束テザー7を破断させる場合には、縫合、接着、溶着等の結合力を調整し、所定の張力で破断するように構成すればよい。また、図4(B)に示したように、ストラップ拘束テザー7の中間部74でストラップ拘束テザー7を破断させる場合には、中間部74に切れ目(テアライン)を形成したり、部分的に幅を狭くしたり、部分的に肉厚を薄くしたりして、所定の張力で破断するように構成すればよい。
【0043】
このように、ストラップ拘束テザー7を所定の張力が生じた場合に中間部74又は接続部73,75で破断可能に構成することにより、エアバッグ2、突出部21、ストラップ5及びストラップ拘束テザー7で囲まれた空間に車内構造物等の他の物体が引っ掛かった場合であっても、その引っ掛かりを容易に解除することができる。なお、「所定の張力」とは、前記空間に引っ掛かりが生じていない状態において、ストラップ拘束テザー7を保持及び解放した場合に生じ得る通常の張力よりも大きい張力を意味する。
【0044】
ここで、上述したエアバッグ装置1における、突出部21に形成されたベントホール22の開閉制御の一例について説明する。乗員Pが大柄な場合(例えば、成人男性等)には、一般に体重が重く、車両の急減速時に生じる慣性力が大きい。したがって、エアバッグ2の内圧を高くして乗員Pを受け止めることができるようにしておく必要がある。そこで、図1(A)に示したように、ストラップ保持装置6によりストラップ5を保持した状態を維持し、突出部21を閉状態のままにしておく。突出部21を閉状態にした場合、インフレータ3からエアバッグ2に供給されたガスは、常開型ベントホールからガスが排気されるのみであり、排気量を低減することができる。したがって、エアバッグ2の内圧を容易に高くすることができる。
【0045】
一方、乗員Pが小柄な場合(例えば、成人小柄女性や子供等)には、一般に体重が軽く、車両の急減速時に生じる慣性力が小さい。したがって、エアバッグ2の内圧を低くして乗員Pをソフトに受け止めることができるようにしておく必要がある。そこで、図1(B)に示したように、ストラップ保持装置6によりストラップ5を解放し、突出部21を開状態にしておく。突出部21を開状態にした場合、インフレータ3からエアバッグ2に供給されたガスは、常開型ベントホール及び突出部21に形成されたベントホール22の両方からガスが排気され、排気量を増加させることができる。したがって、エアバッグ2の内圧を容易に低くすることができる。
【0046】
また、このとき、ストラップ5がストラップ拘束テザー7を介してエアバッグ装置1に接続された状態を維持することができ、ストラップ5のエアバッグ2の外部における運動を制限することができ、ストラップ5の他端52がエアバッグ2の外部に放出された場合であっても、ストラップ5が車内で自由に動き回らないように拘束することができ、突出部21の変形を抑制することができ、車内構造物等への絡まりを抑制することもできる。
【0047】
乗員Pが大柄であるか小柄であるかは、例えば、ECU(電子制御ユニット)に接続されたシート荷重センサ(図示せず)により容易に判断することができる。シート荷重センサは、例えば、乗員Pが着座するシートS内に配置される。また、シート荷重センサに替えて、シート位置センサや車内に配置されたCCDカメラ等を利用した画像処理手段によって乗員Pの体型を判断するようにしてもよい。
【0048】
そして、乗員PがシートSに着座した段階で、シート荷重センサにより乗員Pが大柄であるか小柄であるか又は体重が重いか軽いかについて判断し、その結果を乗員体格情報としてECUに記憶しておく。乗員体格情報は、例えば、体重の閾値を設定しておき、閾値よりも重い場合は大柄の体型として認識し、閾値よりも軽い場合は小柄の体型として認識する情報である。ECUは、車両の衝突や急減速を感知又は予測したときに、かかる乗員体格情報に基づいてストラップ保持装置6を制御し、ストラップ5の保持又は解放を制御する。すなわち、ストラップ保持装置6は、乗員Pが大柄又は体重が重い場合にストラップ5を保持し、乗員Pが小柄又は体重が軽い場合にストラップ5を解放するように構成されている。
【0049】
なお、上述したベントホール22の開閉制御は、ストラップ5及びストラップ保持装置6を有するエアバッグ装置1の使用方法の単なる一例に過ぎず、用途や目的に応じて適宜変更することができる。
【0050】
次に、上述したエアバッグ装置1の他の実施形態について説明する。ここで、図5は、本発明の他の実施形態に係るエアバッグ装置を示す部分拡大図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、を示している。なお、上述した第一実施形態に係るエアバッグ装置1と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。また、各図において、上述した第一実施形態に係るエアバッグ装置1と異なる部分のみを拡大して図示しており、図示されていない部分は第一実施形態に係るエアバッグ装置1と同じ構成を有している。
【0051】
図5(A)に示したように、第二実施形態に係るエアバッグ装置1は、ストラップ5の一端が、エアバッグ2に形成されたベントホール24を開閉する弁体25に接続されたものである。換言すれば、第二実施形態に係るエアバッグ装置1は、第一実施形態における突出部21に替えて弁体25を配置したものである。かかる第二実施形態においても、弁体25に接続されたストラップ5の保持及び解放を制御することによって、ベントホール24の開閉を制御することができる。
【0052】
そして、上述した第一実施形態と同様に、ストラップ5の他端52は、ストラップ保持装置6に接続されており、ストラップ保持装置6から解放された場合には、エアバッグ2の外部に放出され易い構造となっている。そこで、第一実施形態と同様の構成を有するストラップ拘束テザー7を配置することによって、第二実施形態においても、ストラップ5のエアバッグ2の外部における運動を制限するようにしている。なお、図5(A)においてストラップ拘束テザー7の図は省略してある。
【0053】
図5(B)に示したように、第三実施形態に係るエアバッグ装置1は、ストラップ5の一端が、エアバッグ2のベントホール26を形成する筒状部材27に接続されたものである。換言すれば、第三実施形態に係るエアバッグ装置1は、第一実施形態における突出部21に替えて筒状部材27を配置したものである。かかる第三実施形態においても、筒状部材27に接続されたストラップ5の保持及び解放を制御することによって、ベントホール26の開閉を制御することができる。
【0054】
そして、上述した第一実施形態と同様に、ストラップ5の他端52は、ストラップ保持装置6に接続されており、ストラップ保持装置6から解放された場合には、エアバッグ2の外部に放出され易い構造となっている。そこで、第一実施形態と同様の構成を有するストラップ拘束テザー7を配置することによって、第三実施形態においても、ストラップ5のエアバッグ2の外部における運動を制限するようにしている。
【0055】
図5(C)に示したように、第四実施形態に係るエアバッグ装置1は、ストラップ5の一端が、エアバッグ2の外殻に接続されたものである。かかる第四実施形態は、ストラップ5によってエアバッグ2の膨張展開形状を制御するものである。すなわち、ストラップ5を保持した場合には、エアバッグ2の膨張展開形状は小さいものとなり、ストラップ5を解放した場合には、エアバッグ2の膨張展開形状は大きいものとなる。このように、エアバッグ2の膨張展開形状を制御することによって、乗員Pの体格や着座位置(いわゆるアウトオブポジションの場合を含む)に応じてエアバッグ2を膨張展開させることができる。
【0056】
そして、上述した第一実施形態と同様に、ストラップ5の他端52は、ストラップ保持装置6に接続されており、ストラップ保持装置6から解放された場合には、エアバッグ2の外部に放出され易い構造となっている。そこで、第一実施形態と同様の構成を有するストラップ拘束テザー7を配置することによって、第四実施形態においても、ストラップ5のエアバッグ2の外部における運動を制限するようにしている。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、エアバッグ装置1は、運転席用エアバッグ装置、サイドエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置、ニーエアバッグ装置、歩行者用エアバッグ装置等であってもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1…エアバッグ装置
2…エアバッグ
3…インフレータ
4…リテーナ
5…ストラップ
6…ストラップ保持装置
7…ストラップ拘束テザー
21…突出部
22,24,26…ベントホール
23…スリット
25…弁体
27…筒状部材
41…開口部
42…バッグリング
51…一端(ストラップ)
52…他端(ストラップ)
53…拡幅部
54…切り込み部
71…一端(ストラップ拘束テザー)
72…他端(ストラップ拘束テザー)
73,75…接続部
73a…縫合線
74…中間部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、一端が前記エアバッグの一部に接続されたストラップの他端を解放可能に保持するストラップ保持装置と、を有するエアバッグ装置において、
一端が前記ストラップに接続されるとともに他端が前記エアバッグ又は前記リテーナに接続されるストラップ拘束テザーを有する、ことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ストラップの一端は、前記エアバッグの外殻、前記エアバッグに形成されたベントホールを開閉する弁体、前記エアバッグのベントホールを形成する筒状部材又は前記エアバッグのベントホールを有する突出部に接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記ストラップの他端は、前記エアバッグに形成されたスリットに挿通されて前記エアバッグの内部に引き込まれている、ことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記ストラップ拘束テザーと前記ストラップとの接続部は、前記ストラップの長手方向に沿って形成された縫合線によって形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記ストラップ拘束テザーは、前記ストラップの他端における末端部寄りに接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記ストラップ拘束テザーは、所定の張力が生じた場合に中間部又は接続部で破断可能に構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記ストラップ拘束テザーは、前記ストラップを構成する部材の一部により構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記ストラップ及び前記ストラップ拘束テザーは、エアバッグに使用される基布又はシートベルトに使用されるウェビングの素材により構成される、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49338(P2013−49338A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188008(P2011−188008)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】