説明

エポキシ−フェノール樹脂共分散液

エポキシ樹脂と少なくともフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を作製するための有機溶媒を含まない方法を報告する。そのような共分散液の組成物は、80℃で1500000から300mPasおよび120℃で10000から20mPasの範囲の、温度対粘度プロファイルの範囲内である、エポキシ樹脂と少なくともフェノールノボラック樹脂とのブレンドに基づいている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を調製する方法ならびにそのような共分散液の特定組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂はこれまで長い間使用されており、種々のビークル(溶媒、粉末)が試みられてきた。環境への関心から、いくつかのタイプの最終用途に関し産業界に、水性の開発がますます提案されてきている。US6,221,934は、エポキシ基にアミドアミンを反応させて調製されるエポキシ官能性界面活性剤を使用することによるエポキシ樹脂の安定な水性乳化液を記載している。エポキシ樹脂はさらに、水相溶性のアミンオリゴマーで硬化される。
【0003】
さらに、エポキシ樹脂の水中への乳化に適合した種々の乳化剤へも、注意が向けられてきた。例えば、ホウ酸から誘導されるホウ酸エステルとアルキレングリコールおよびβ―ジアルキル置換アミノアルカノールの両者との反応生成物を、乳化剤として使用するエポキシ樹脂の水性乳化液が、US3,301,804に記載されている。ポリエポキシドがリン酸エステル型乳化剤で乳化されている電着用ポリエポキシド乳化液が、US3,634,348に記載されている。US3,249,412において、イミダゾリンおよびアミドからなる群から選択される陽イオン性乳化剤ならびに非イオン性乳化剤が組合せで使用される、ガラス繊維サイジングのためのエポキシ樹脂乳化液。
【0004】
また、エポキシ樹脂乳化液組成物のための種々の硬化剤が当業界で公知である。例えば、エポキシ樹脂組成物のための硬化剤としては、ポリマー脂肪酸および末端アミノ基を含む脂肪族ポリアミンから誘導されるポリアミド反応生成物(US2,811,495およびUS2,899,397)、1−8個の炭素原子を有するカルボン酸および三級アミンから誘導されるアミン塩(US3,640,926)、ジアミンおよびジカルボン酸から誘導されるポリアミド(US3,355,409)、フェノールで修飾されたポリアミン(US3,383,347)、ポリアミンにポリマー化した脂肪酸を反応させて調製されるアミノ基含有ポリアミド(US3,324,041)を含む。
【0005】
上述の従来技術の限界は、水性配合物の製造方法が、いくつかの化学反応を必要とすることであり、そのような配合物は、アミンまたはポリアミドにより室温でまたは50−60℃で硬化させるように設計されており、硬化剤およびエポキシ乳化液の組成物が、室温(20℃)での保存中安定ではないことである。産業界はいまだに、長期の保存において安定なエポキシおよび硬化剤の水性組成物を求めている。エポキシ樹脂は、酸(または無水物)と、チオ化合物およびフェノール樹脂と反応させ得る。
【0006】
他の硬化剤を使用することも可能であり、そのような架橋剤の例は、アミノプラストおよびフェノールプラスト樹脂である。適切なアミノプラスト樹脂は、メチロール尿素、ジメトキシメチロール尿素、ブチル化尿素ホルムアルデヒドポリマー樹脂、ヘキサメトキシメチルメラミン、メチル化メラミン−ホルムアルデヒドポリマー樹脂およびブチル化メラミン−ホルムアルデヒドポリマー樹脂である。そのような組成物の主要な欠点は、硬化に当って遊離のホルムアルデヒドを発生することであり、産業界はこの欠点を回避することを望んでいる。
【0007】
US4,073,762は、(a)重量で98から50%のビスフェノール型のエポキシ樹脂および(b)重量で2から50%のノボラック型のエポキシ樹脂を、非イオン性界面活性剤と共に水中で乳化することにより形成されるエポキシ樹脂乳化液および前記エポキシ樹脂乳化液中に組み込まれた硬化剤を含む、水性エポキシ樹脂塗料組成物を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,221,934号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第3,301,804号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第3,634,348号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第3,249,412号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2,811,495号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2,899,397号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第3,640,926号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第3,355,409号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第3,383,347号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第3,324,041号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第4,073,762号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、既存の技法中に含まれる上記の欠陥を克服する水性エポキシ樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明の目的は、以下のとおりである。
(1)エポキシ樹脂および少なくともフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を作製するための有機溶媒を含まない方法。
(2)以下のステップ、
(a)80−120℃の範囲の温度にエポキシ樹脂を加熱し、フェノールノボラック樹脂を加えるステップ、
(b)100℃未満の温度で、界面活性剤と水分量を加えるステップ、
または、
(a)80−120℃の範囲の温度にエポキシ樹脂を加熱するステップ、
(b)100℃未満の温度で、界面活性剤と転相水分量を加えるステップ、
(c)100℃未満の温度で、フェノールノボラック樹脂および希釈水を加えるステップ
にある、エポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を作製するための方法。
(3)エポキシ樹脂、少なくともフェノールノボラック樹脂および非イオン性界面活性剤、ならびに水を含む組成物。
(4)硬化触媒の存在下で上記の組成物は、(金属、紙、木材、プラスチック上での)熱硬化被覆、繊維サイジング、接着剤、研磨剤用バインダー、織布および不織布フィルター(繊維、紙)用含浸剤としてのバインダーの用途において特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実用上の目的のために、本発明の組成物はまた、当業者に公知の溶媒、顔料、フィラーおよび添加剤を含んでもよい。
【0012】
本発明にとって有用なエポキシ樹脂は、ビスフェノールA[2,2−ビス(4‘ヒドロキシフェニル)−プロパン]またはビスフェノールFとエピクロルヒドリン等との間の縮合により得られるビスフェノール型エポキシ樹脂に基づいている。市販のビスフェノール型エポキシ樹脂は、液体または固体であり、約350から約3750の分子量および約180から約3500のエポキシ当量を有する。このような市販のビスフェノール型エポキシ樹脂の典型的な例は、次のようである。Epikote862、Epikote828、Epikote834、Epikote1001、Epikote1004、Epikote1007およびEpikote1009、EpikoteYX4000(Hexion Specialty Chemicals Inc.によって製造された製品の登録商標);DER330、DER331、DER334、DER337、DER661、DER664、DER667およびDER669(Dow Chemical Co.);AralditeGY250、AralditeGY252、AralditeGY260、AralditeGY280、AralditeGY6071、AralditeGY6084、AralditeGY6097およびAralditeGY6099(Huntsman Chemical);Epiclon850(大日本インキ化学工業株式会社)。これらの市販のビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で使用し得るまたはそれらの2種以上の混合物でも使用し得る。
【0013】
エポキシ官能性が2以上の他のエポキシ樹脂は、一般にフェノールノボラック型樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて調製される。
【0014】
市販のエポキシノボラック型樹脂としては、Epikote154(エポキシ当量176−181)、DEN431(エポキシ当量172−179)、DEN438(エポキシ当量175−182)、EPN1138(エポキシ当量172−179)等をあげることができる。
【0015】
脂肪族環式エポキシを使用し得る。脂肪族環式エポキシの例としては、例えば、(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロ−ヘキシルメチル、脂肪族ジシクロジエーテルジエポキシ[2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)−シクロヘキサン−m−ジオキサン]、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)およびビニルシクロヘキセンジオキサイド[4−(1,2−エポキシエチル)−1,2−エポキシシクロヘキサン]を含む。そのようなエポキシ樹脂の市販品の例としては、例えば、EPONEX樹脂1510、HELOXY Modifiers 32、44、48、56、67、68、71、84、107、505(すべてHexion Specialty Chemicals Inc.から入手できる。)、ならびにUnion Carbideのエポキシ樹脂、ERL−4221、4289、4299、4234および4206が含まれる。
【0016】
共分散されたフェノールノボラック樹脂は、芳香族単位がメチレン架橋で連結され、フェノール基が維持されるように、酸触媒の存在下で、フェノールとアルデヒドを反応させた生成物に基づいている。このような組成物は、初期の縮合反応に用いられる、アルデヒドに対するフェノールのモル比に依存して、モノマー状にもポリマー状にもなり得る。適切なフェノールの例は、フェノール、o,mまたはp−クレゾール、2,4−キシレノール、3,4−キシレノール、2,5−キシレノール、カルダノール、p−tert−ブチルフェノールであり、ジヒドリックフェノールは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、レゾルシノール、ハイドロキノン、等である。好ましいジヒドリックフェノールは、コストおよび入手しやすさ等の理由で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、(ビスフェノールA)およびビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンである。有用なアルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよびプロピオンアルデヒドである。
【0017】
低または高分子量の直鎖状フェノール樹脂などの他の型の硬化剤、Epikure168(Hexion Specialty Chemicalsから)もしくはベンゾオキサジンまたはこれらの組合せも用い得る。
【0018】
非イオン性界面活性剤として、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレングリコールの誘導体、エチレンビニルアルコール共重合体および/または部分加水分解ポリビニルアルコールに基づくポリマーなどの遊離水酸基を有するポリマーが特に良い結果を与えることが記述され得る。Rhodoviol、Polyviol、Mowiol、Airvol、Cuvol、Premiol、Poval、Mowital、Excevalなどの市販の製品。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に記載の方法は、以下の範囲に設定される温度対粘度プロファイルの中にあるエポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とのブレンドに対して実施可能である。すなわち、80℃で1500000から300mPasおよび120℃において10000から20mPas、またはより好ましくは、90℃で250000から100mPasおよび110℃で20000から30mPasである。
【0020】
上記の粘度範囲は、高または低分子量(高および低粘度)のエポキシ樹脂と少なくとも高または低分子量のフェノールノボラックとのブレンドにより得られた。
【0021】
以下に用いる方法および硬化した配合物の特性に対して適当なモル比は、エポキシ樹脂/フェノールノボラック樹脂のモル比で表して、0.45/1から1/0.45またはより好ましくは、0.45/1から1/0.70である。
【0022】
本発明に用いる硬化触媒は、イミダゾールまたはその塩などのアミン誘導体、ホスフィンまたはホスホニウム塩、ブロックしたウロン、アミノ酸およびエポキシ−フェノール反応を触媒するための当業界における類似の既知の触媒である。
【0023】
表1の実施例は、本発明を例示するものであり、次の方法に従って作製された。
【0024】
エポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂は、80から120℃の範囲の、高温で共に混合される。
【0025】
<100℃の温度で、界面活性剤と水を反応器に入れる。
または、
(a)80−120℃の範囲の温度で、エポキシ樹脂を加熱する、
(b)100℃未満の温度で、界面活性剤と転相水分量を加える、
(c)100℃未満の温度で、フェノールノボラック樹脂と希釈水を加える。
【0026】
上記の方法のステップを実施することにより、共分散液の特性を表1−3にあげた。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の実施例から、エポキシ/フェノールノボラック樹脂の比は、配合物の硬化後のTgに影響を与えることが明らかである。配合物中に用いるエポキシ樹脂の水準が大きければ大きいほど(例2、3および4を比較せよ)、殆ど同じ粒径分布を有する共分散液を達成するのに必要な界面活性剤の水準が低くなる。
【0029】
以下の手順に従い保存安定性を調べた。20℃で保存した共分散液についてコールター体積%(DvおよびDv90)により粒子径を定期的にチェックした。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
本発明の組成および方法により作製した配合物は、安定性および反応性の点で、工業規格の要求と必要性を満たしている。上記の組成物は、(金属、紙、木材、プラスチック上の)熱硬化被覆、繊維サイジング、接着剤、研磨剤用バインダー、織布および不織布フィルター(繊維、紙)用含浸剤としてのバインダーの用途に使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂および少なくともフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を作製するための有機溶媒を含まない方法。
【請求項2】
エポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂の水性共分散液を作製する方法が、以下のステップ、
(a)80−120℃の範囲の温度にエポキシ樹脂を加熱し、フェノールノボラック樹脂を加えるステップ、
(b)100℃未満の温度で、界面活性剤と水分量を加えるステップ、
または、
(a)80−120℃の範囲の温度にエポキシ樹脂を加熱するステップ、
(b)100℃未満の温度で、界面活性剤と転相水分量を加えるステップ、
(c)100℃未満の温度で、フェノールノボラック樹脂および希釈水を加えるステップ
にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とのブレンドが、80℃で1500000から300mPasおよび120℃で10000から20mPasの範囲の溶融粘度を有することを特徴とする、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とのブレンドが、90℃で250000から100mPasおよび110℃で20000から30mPasの範囲の溶融粘度を有することを特徴とする、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
界面活性剤が、遊離水酸基を有するポリマーである、請求項1から4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも界面活性剤が、部分加水分解されたポリビニルアルコールに基づくポリマーである、請求項1から5に記載の方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とのブレンドは、80℃で1500000から300mPasおよび120℃で10000から20mPas、または90℃で250000から100mPasおよび110℃で20000から30mPasの範囲の溶融粘度を有することを含む、組成物。
【請求項8】
請求項5または6に記載の界面活性剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
硬化触媒を含む、請求項7および8に記載の組成物。
【請求項10】
硬化触媒が、イミダゾール誘導体から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
熱硬化コーティングまたは熱硬化バインダーまたは熱硬化接着剤の配合物における、請求項1から10までのいずれかに記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2011−506649(P2011−506649A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537304(P2010−537304)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010447
【国際公開番号】WO2009/074293
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(596174400)ヘキソン スペシャルティ ケミカルズ インコーポレーテッド (20)
【住所又は居所原語表記】180 East Broad Street,Columbus,Ohio 43215,United States of America
【Fターム(参考)】