エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法
【課題】エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造において、作業性および生産性を向上する。
【解決手段】エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法は、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態にし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含む。そのような物品としては、エポキシ樹脂組成物を用いて形成されるエポキシ樹脂成形体、エポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いて形成されるプリント配線基板がある。
【解決手段】エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法は、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態にし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含む。そのような物品としては、エポキシ樹脂組成物を用いて形成されるエポキシ樹脂成形体、エポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いて形成されるプリント配線基板がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法に関し、そのような物品としては、エポキシ樹脂成形体、エポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いたプリント配線基板を対象とする。より詳細には、本発明は、熱伝導率などの特性がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向において改善されたエポキシ樹脂成形体の製造方法に関する。本発明はまた、熱膨張係数が等方的に小さくなるように制御されたエポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いたプリント配線基板の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板やその基板上に実装される半導体パッケージの封止材などの電子部品の絶縁材料としては、エポキシ樹脂などからなる高分子組成物が使用されている。近年の電子機器の高性能化に伴い、電子素子の発熱量も増大しているため、これらの高分子組成物にも高い熱伝導性が求められている。
【0003】
この問題に対処するため、一般に、エポキシ樹脂等に高い熱伝導性を有するセラミックスや金属などの充填剤を配合した複合材が用いられている。しかしながら、このような複合材は、必要とする熱伝導性を得るために充填材を大量に配合しなければならず、成形性に劣るという問題があった。
【0004】
それに対し、特許文献1および特許文献2には、磁場を印加することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させて熱伝導率を向上させたエポキシ樹脂成形体およびその製造方法が開示されている。これにより充填材の配合量を少なくすることができ、成形性を損なわずに所望の熱伝導率を得ることができる。
【0005】
また、プリント配線基板および電子部品には、エポキシ樹脂などの高分子材料の他に、金属、セラミックス、無機ガラス等の様々な異種材料が使用されている。異種材料同士が接合或いは隣接して配置された箇所においては、熱膨張係数の差によって、基板または電子部品自身あるいはそれらの界面に熱応力が発生する。特に、基板を形成するエポキシ樹脂などの高分子材料(室温における一般的な熱膨張係数:>5×10−5(/K))と配線材料に用いられる銅(室温における熱膨張係数:1.65×10−5(/K))等の金属とでは、熱膨張係数の差が大きい。そのため、エポキシ樹脂などの高分子材料および金属で構成される基板や電子部品では、発生する熱応力によって亀裂が生じたり、エポキシ樹脂などの高分子材料部分と金属部分との界面の剥離や配線の断線、ショート等のトラブルが起こって問題となっている。そこで、このような問題に対処するため、プリント配線基板として、一般に、ガラスクロスなどの基材にエポキシ樹脂や熱可塑性高分子などを含む高分子組成物を含浸させて乾燥したプリプレグと、銅箔とを加熱加圧して一体成形することによって形成される、銅張積層板が用いられている。その他にも、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合した基板も提案されている。
【0006】
近年のプリント配線基板の多層化、複雑化にともない、スルーホール信頼性確保などの目的で、特にプリント基板材料の厚み方向における熱膨張を抑えることが重要となってきている。しかしながら、上記のようなガラスクロス含浸エポキシプリント配線基板では、表面に沿う方向の熱膨張を低下させることは可能であるが、厚み方向における熱膨張は逆に増大する。また、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合したエポキシプリント配線基板は、基板の熱膨張を等方的にある程度低下させることが可能であるが、十分ではなかった。
【0007】
これに対し、本発明者らは、繊維クロスにエポキシ樹脂を含浸させた後、磁場など印加によって、エポキシ樹脂の分子鎖を繊維クロスの厚み方向に配向させることにより、等方的に熱膨張を低減させたエポキシ樹脂複合成形体が得られることを見出した。
【0008】
しかしながら、上記のように分子鎖の配向を利用したエポキシ樹脂成形体やエポキシ樹脂複合成形体に用いられるエポキシ樹脂は高融点のものが多い。そのため、そのようなエポキシ樹脂を溶融させて硬化剤と混合してエポキシ樹脂組成物を調製する際に、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が非常に迅速に進行する。従って、例えば、そのようなエポキシ樹脂組成物を用いて上記のエポキシ樹脂成形体を製造する場合、反応の進行によりエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎてしまうと、磁場などの印加によるエポキシ樹脂の配向が困難となる。そのため、エポキシ樹脂と硬化剤との溶融混合によるエポキシ樹脂組成物の調製から、該組成物の注型、磁場印加によるエポキシ樹脂の配向までの工程を非常に短時間の間に行わなければならず、作業性に劣っていた。また、エポキシ樹脂組成物がその硬化反応の進行により高粘度となると、注型時に巻き込んだ気泡が抜け難くなり、内部に気泡を含んだ不均一な成形体を生じることがある。さらに、エポキシ樹脂の配向は、配向時のエポキシ樹脂組成物の粘度、すなわち該組成物の硬化反応の進行度に大きく影響されるので、上記のような作業性に劣る製造方法では、成形体におけるエポキシ樹脂の配向状態が一定にならず、熱伝導率等の特性のばらつきが大きくなり、生産性に劣っていた。硬化遅延剤などを使用すると硬化反応時間を長くすることはできるが、逆に生産効率が悪化するという問題があった。
【0009】
また、繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させたエポキシ樹脂複合成形体を製造する場合には、上記の問題に加えて、繊維クロスにエポキシ樹脂を含浸させる工程において、繊維クロスの積層間隔が均一にならずに偏りを生じることがある。そのため、得られたエポキシ樹脂複合成形体において、意図した等方的な熱膨張係数が得られないことがあり、生産性に劣っていた。
【特許文献1】特開2004−175926号公報
【特許文献2】特開2004−331811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、エポキシ樹脂成形体、並びにエポキシ樹脂複合成形体およびそれを用いたプリント基板などのエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品を製造するにあたり、それらの製造方法を鋭意検討した結果、なされたものである。
【0011】
本発明の目的とするところは、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造において、より作業性が良好で、生産性が高い製造方法を提供することにある。そのような物品としては、エポキシ樹脂の分子鎖の配向により、熱伝導率や熱膨張係数などの特性が制御されたエポキシ樹脂成形体、並びにエポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体によって形成されたプリント配線基板を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法であって、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態とし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含むことを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品がエポキシ樹
脂成形体であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを要旨とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹
脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを要旨とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記Bステージ状態にする工程は、前記エポキシ樹脂組成物を冷却することによって行われることを要旨とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法において、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応の進行度は、70%以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エポキシ樹脂の分子鎖の配向により熱伝導性や熱膨張係数などの特性が改善されたエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体、並びにそれらを用いたプリント配線基板の製造に際し、作業性および生産性を向上することができる。特に、本発明の方法によって得られたエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体において、熱伝導性や熱膨張係数などの特性のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、図1に示すエポキシ樹脂成形体1を製造する方法を提供する。エポキシ樹脂成形体1は、板状の形状を有し、エポキシ樹脂の分子鎖がその厚み方向、すなわち図1のZ軸線方向に配向されている。このエポキシ樹脂成形体1は、エポキシ樹脂の分子鎖が一定方向、すなわち該成形体の厚み方向に配向されることにより、その配向方向(図1のZ軸線方向)において極めて高い熱伝導率を有する。
【0021】
次に、エポキシ樹脂成形体1を形成するための第1実施形態の製造方法について、図2〜図5を用いて説明する。まず、エポキシ樹脂成形体1を形成するために用いるエポキシ樹脂と硬化剤とを混合してエポキシ樹脂組成物16を調製する。次に、例えば、図2に示すように、エポキシ樹脂成形体1の平板形状に対応した形状を有するキャビティ12が形成された金型11を準備する。次いで、図3に示すように、エポキシ樹脂組成物16を、金型11の内部のキャビティ12内に充填する。ここで、必要に応じて、金型11は加熱装置(図示せず)によって加熱される。エポキシ樹脂組成物16が常温で粉体または固体である場合には、該エポキシ樹脂組成物16はキャビティ12内において前記加熱装置によって溶融状態に維持される。次いで、エポキシ樹脂組成物16の硬化反応が完全に進行してしまわないうちに、金型11内のエポキシ樹脂組成物16を冷却して、硬化反応の進行をほぼ停止させて、エポキシ樹脂組成物16を半硬化状態、すなわちBステージ状態にする。エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にするには、エポキシ樹脂組成物16を、数分、好ましくは1〜2分の間に、少なくとも20〜25°C程度まで冷却することが好ましい。冷却する方法としては、例えば、金型11を冷却板上に配置することなどが挙げられる。そのような冷却板の表面温度は、20〜25°C程度であってもよいし、それよりも低い温度に維持されていてもよい。これにより、図4に示す、すなわちBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得ることができる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12に充填する工程の間、またはその後で、減圧或いは加圧により、エポキシ樹脂組成物16に混入した気泡を除去する工程を加えることが好ましい。
【0023】
金型11からBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を取り出す。このBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17の常温における状態は、使用するエポキシ樹脂および硬化剤の状態に依存する。例えば、使用したエポキシ樹脂および硬化剤が固体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17も常温では固体となる。使用したエポキシ樹脂および硬化剤の少なくとも一方が常温で液体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は半固体、すなわち高粘度のペースト状態となることもある。いずれの場合であっても、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、必要に応じて、低温(例えば10°C以下)にてその状態を維持したまま、すなわち硬化反応がそれ以上ほとんど進行することなく、保存しておくことができる。
【0024】
次に、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を任意の成形装置の金型11にキャビティ12内に配置する。次に、図5に示すように、金型11の上下に磁場発生装置として配置された一対の永久磁石13によって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。磁場を印加する際、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、加熱装置(図示せず)により加熱されて液体状態にされている。このとき、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖が外力によって移動可能である、すなわち、同分子鎖が磁場によって配向可能である液体状態であることが必要である。
【0025】
エポキシ樹脂に磁場を印加すると、エポキシの分子鎖ではその軸線方向に沿った磁化率が大きいため、その分子鎖が磁力線と平行になるように配向する。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように配置されている。従って、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖は、キャビティの厚さ、すなわち得られるエポキシ樹脂成形体の厚さ方向に配向される。
【0026】
エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法としては、磁場の他に、電場およびせん断場のうちのいずれかを用いる方法を用いることもできる。しかしながら、これらの配向方法の中でも、配向する方向を容易に制御できることから、磁場による配向方法が好ましい。また、必要に応じて、上記の配向方法を併用することもできる。
【0027】
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程において、エポキシ樹脂組成物17が分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する場合には、エポキシ樹脂組成物17は、キャビティ12内で前記配向工程において液晶状態に維持されることが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂が液晶状態を発現することにより、該エポキシ樹脂の分子鎖はより高度に配向され得る。
【0028】
次に、このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加した状態で引き続き加熱することによって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を完全に硬化させて、金型11から取り出す。それにより、図1に示したエポキシ樹脂成形体1が得られる。
【0029】
上記実施形態において、前記成形装置としては、トランスファー成形装置、プレス成形装置、注型成形装置、射出成形装置、押出成形装置等のエポキシ樹脂の成形が可能である装置を用いることができる。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、シート状、フィルム状、ブロック状、粒状、棒状、チューブ状、繊維状等の様々な形状のエポキシ樹脂成形体に成形することができる。
【0030】
前記磁場を発生する磁場発生装置としては、永久磁石、電磁石、超電導磁石、コイル等
が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度は、好ましくは0.2〜20テスラ(T)、さらに好ましくは0.5〜15T、最も好ましくは1〜10Tである。この磁束密度が0.2T未満であると、エポキシ樹脂の剛直な分子鎖を十分に配向させることができず、熱伝導率の向上や熱膨張係数の低下が不十分となる。一方、磁束密度が20Tを超える磁場は、実用上得られ難い。この磁束密度の範囲が0.2〜20Tであると、配向方向で熱伝導率が高く、熱膨張係数の低いエポキシ樹脂複合成形体が得られるとともに、実用的である。
【0031】
第1実施形態の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
・第1実施形態では、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物16を半硬化状態で冷却することにより、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を形成する。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、低温にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂の硬化がそれ以上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。従って、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を、フィルム状、シート状、およびブロック状などの用途に合った形状で、予め必要な数量だけ用意して保存することが可能となる。また、このようにエポキシ樹脂組成物の調製および該エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物においてエポキシ樹脂の分子鎖を磁場などによって配向させる工程とを時間的に分離して行うことができる。このため、後続の配向工程を急いで行う必要がなく、容易に行うことができるため、配向工程における作業性が向上する。
【0032】
・上記のように、配向工程の作業性が向上することによって、複数の成形体において、エポキシ樹脂の分子鎖をより均一に配向させることができる。その結果、エポキシ樹脂分子鎖の配向状態のばらつき、従って、その配向方向における成形体の熱伝導率のばらつきが低減される。よって、該エポキシ成形体の生産性が向上する。
【0033】
・第1実施形態では、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場の印加によって配向させているので、前記分子鎖を高度に配向させることができるとともに、その配向方向を容易に制御することができる。
【0034】
したがって、第1実施形態の製造方法によれば、エポキシ樹脂の分子鎖が高度に配向することによって、その配向方向における熱伝導性などの特性が改善されたエポキシ樹脂成形体を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。
【0035】
第1実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂成形体1は、半導体パッケージなどの封止材、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板、熱伝導性接着層、モータや発電機の絶縁層等の放熱部材に適用することができ、各種電子部品等で発生する熱を伝導伝熱させ、外部に放熱することができるものである。
【0036】
第1実施形態は以下のように変更することも可能である。
・エポキシ樹脂成形体1は、平板形状以外の任意の形状に成形されてもよい。
・エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率をさらに向上させるために、エポキシ樹脂組成物16に、熱伝導性充填材を適量添加することも可能である。
【0037】
・Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程にて使用する金型は、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にする工程にて使用する金型と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
・エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に充填してBステージ状態のエポキシ樹
脂組成物17を形成する際に、金型11に磁場を印加して、予め、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させておいてもよい。この場合、磁場配向したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により完全に硬化させる際には、再び同様に磁場を印加してその配向状態を維持する必要がある。
【0039】
・前記永久磁石13は、金型11を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石13を省略してもよい。
・前記永久磁石13は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
・磁力線Mは、曲線状等であってもよい。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、エポキシ樹脂組成物と繊維材料とからなるエポキシ樹脂複合成形体を製造する方法を提供する。エポキシ樹脂複合成形体は、第1の平面(例えば、該成形体の表面)に沿って配置された繊維材料と該繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物とからなり、エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面と交差する方向に配向されている。図1および図2は、前記繊維材料として繊維クロス15を用いたエポキシ樹脂複合成形体10を示す。尚、前記繊維材料として、繊維クロス15の代わりに、あるいは繊維クロス15に加えて単繊維の集合体(単繊維群)を用いてもよい。
【0041】
エポキシ樹脂複合成形体10は、板状の形状を有し、図6に示すように、エポキシ樹脂組成物16と複数枚の繊維クロス15とから形成されている。エポキシ樹脂複合成形体10において、繊維クロス15は、第1の平面、すなわち、本実施形態では成形体1の表面と平行になるように配置されている。さらに、エポキシ樹脂組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖は、第1の平面にほぼ直交する方向、すなわち、本実施形態においては、エポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向(図1のZ方向)に配向されている。つまり、エポキシ樹脂の分子鎖は繊維クロス15とほぼ直交するように配置されている。このエポキシ樹脂複合成形体10では、繊維クロスが拡がる方向、すなわち第1の平面に平行な方向における熱膨張は繊維クロスによって抑制され、繊維クロスの厚み方向における熱膨張はエポキシ樹脂の分子鎖をその方向に配向させることによって低減されている。そのため、エポキシ樹脂複合成形体10は、等方的に低減された熱膨張係数を有する。また、エポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロスの繊維や繊維間の空隙と比較すると非常に小さいため、その配向が繊維クロス15(または単繊維群)によって阻害され難い。したがって、成形体内に繊維クロス15(または単繊維群)を高密度に含有させることができる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態の製造方法について説明する。まず、エポキシ樹脂複合成形体10を形成するために用いるエポキシ樹脂と硬化剤とを混合してエポキシ樹脂組成物16を調製する。次いで、図7に示すプリプレグ成形用金型21を準備する。プリプレグ成形用金型21の内部には、薄い平板形状に対応する形状を有するキャビティ22が形成されている。図8に示すように、このキャビティ22内に、繊維材料として、一枚の繊維クロス15を該キャビティ22の底面22aに沿うように、好ましくは、底面22aと平行になるように配置する。次いで、図9に示すように、エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に流し込み、繊維クロス15にエポキシ樹脂組成物16を含浸させる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物16を含浸させる工程の間、またはその後で、減圧或いは加圧により、混入した気泡を除去する工程を加えることが好ましい。
エポキシ樹脂組成物16が常温で粉体または固体である場合には、エポキシ樹脂組成物16を含浸させる工程において、任意の加熱装置(図示せず)によって、エポキシ樹脂組成物16は溶融状態に維持される。
【0044】
次いで、エポキシ樹脂組成物16の硬化反応が完全に進行してしまわないうちに、その金型21内のエポキシ樹脂組成物を冷却して硬化反応の進行を停止させ、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にする。尚、冷却方法および冷却温度などの条件は、第1実施形態の場合と同様である。これにより、図10に示すような、繊維クロス15に含浸したエポキシ樹脂組成物16がBステージ状態となったプリプレグ18が得られる。このBステージ状態のプリプレグ18は、低温(例えば10°C以下)にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂組成物の硬化反応がそれ以上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。
【0045】
プリプレグ18において、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物の常温における状態は、使用するエポキシ樹脂および硬化剤の状態に依存する。例えば、使用したエポキシ樹脂および硬化剤が固体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物も常温では固体となる。使用したエポキシ樹脂および硬化剤の少なくとも一方が常温で液体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物は半固体、すなわち高粘度のペースト状態となることもある。
【0046】
次に、図11に示すように、得られたプリプレグ18を、金型11のキャビティ12内に複数枚積層して配置する。図15に示すように、金型11のキャビティ12内に配置されたプリプレグ18を所定の温度で加熱、加圧しながら、金型11の上下に磁場発生装置として配置された一対の永久磁石13によって、プリプレグ18に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように、すなわち繊維クロス15が拡がる平面にほぼ直交するように配置されている。従って、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖は、キャビティ12の厚さ方向、すなわち繊維クロスとほぼ直交する方向に配向される。この磁場印加の際、プリプレグ18を構成するBステージ状態のエポキシ樹脂組成物は、任意の加熱装置(図示せず)により、液体状態にされる。ここで、前記エポキシ樹脂組成物は、第1実施形態の場合と同様に、その分子鎖の磁場配向が可能である液体状態にされることが必要である。
【0047】
また、エポキシ樹脂組成物16が分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する場合には、前記配向工程において、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物は液晶状態に維持されることが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂が液晶状態を発現することにより、該エポキシ樹脂の分子鎖はより高度に配向され得る。
【0048】
このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加したまま、引き続き加熱することにより、プリプレグ18を完全に硬化させて、金型11から取り出す。これにより、上述したエポキシ樹脂複合成形体10を得ることができる。
【0049】
第2実施形態において、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法として、第1実施形態において挙げた方法と同様の配向方法を用いることができる。また、磁場発生装置の種類およびエポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度の範囲についても、第1実施形態の場合と同様である。
【0050】
第2実施形態の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
・第2実施形態の製造方法では、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物16からエポキシ樹脂複合成形体を形成するために、繊維クロス15に含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を形成する。Bステージ状態のプリプレグ18は、低温にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂の硬化がそれ以
上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。そのため、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を、フィルム状、シート状、およびブロック状などの用途に合った形状で、予め必要な数量だけ用意して保存することが可能となる。また、このようにプリプレグ18を形成する工程と、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を磁場などによって配向させる工程とを時間的に分離して行うことができる。このため、後続の配向工程を急いで行う必要がなく、かつ容易に行うことができるため、配向工程における作業性が向上する。
【0051】
・上記のように、配向工程の作業性が向上することによって、複数の複合成形体において、エポキシ樹脂の分子鎖をより均一に配向させることができる。その結果、エポキシ樹脂分子鎖の配向状態のばらつき、従って、エポキシ樹脂複合成形体10のその配向方向における熱膨張係数のばらつきが低減される。よって、エポキシ樹脂複合成形体10の生産性が向上する。
【0052】
・第2実施形態の製造方法によれば、エポキシ樹脂組成物16を繊維クロス15に含浸させて、一旦、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態としてプリプレグ18を形成する。したがって、繊維クロス15はプリプレグ18中において固定される。このプリプレグ18を積層することによってエポキシ樹脂複合成形体10を形成するため、エポキシ樹脂複合成形体10中において、積層された繊維クロス15はほぼ平行に配置され、かつその間隔はほぼ一定に保たれる。これにより、エポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数のばらつきを、特に繊維クロス15の積層方向、すなわち、エポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向において、より低減することができる。
【0053】
・第2実施形態では、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場の印加によって配向させているので、前記分子鎖を高度に配向させることができるとともに、その配向方向を容易に制御することができる。したがって、第2実施形態の製造方法によれば、第1の平面に沿って配置された繊維と、第1の平面にほぼ直交するように高度に配向されたエポキシ樹脂の分子鎖とによって、熱膨張係数が等方的に低減されたエポキシ樹脂複合成形体を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。
【0054】
・第2実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂複合成形体10中、繊維クロス15(または単繊維群)を成形体の表面(第1の平面)と平行になるように配置し、エポキシ樹脂の分子鎖をその表面に直交する方向、すなわち、成形体の厚み方向に配向させている。このように、エポキシ樹脂複合成形体10のマトリックスであるエポキシ樹脂の分子鎖を繊維クロス15(または単繊維群)と交わる方向に配向させることにより、繊維クロス15(または単繊維群)が拡がる方向(表面に沿う方向)と、それと交わってエポキシ樹脂の分子鎖が延びる方向(厚み方向)の双方において、熱膨張を低減することが可能となる。また、エポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロスの繊維や繊維間の空隙と比較すると非常に小さいため、その配向が繊維クロス15(または単繊維群)によって阻害され難い。したがって、成形体内に繊維クロス15(または単繊維群)を高密度に含有させることができる。
【0055】
第2実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂複合成形体10は、各種複合材料、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体等の絶縁材に適用することができる。それにより、各種電子部品において、エポキシ樹脂と他の材料との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減することができる。
【0056】
なお、第2実施形態を以下のように変更して製造することもできる。
・エポキシ樹脂複合成形体10において、繊維はその繊維軸(長軸)が第1の平面に沿
うように配向されていればよく、必ずしも第1の平面と平行である必要はない。また、エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されていればよく、第1の平面に直交している必要はない。
【0057】
・エポキシ樹脂複合成形体10は、平板形状以外の任意の形状に成形されてもよい。
・繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。その場合には、例えば、単繊維はその繊維軸がエポキシ樹脂複合成形体10の表面と平行な面内に配置され、かつ、好ましくは、単繊維の繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、エポキシ樹脂の分子鎖は成形体1の厚み方向(図1のZ方向)に沿って配向される。この場合、上記製造方法において、プリプレグ18を形成する際、単繊維群の繊維軸がキャビティ12の底面12aに沿って、好ましくは平行に、かつ、各繊維の繊維軸が向かう方向はランダムとなるように、繊維群をキャビティ12内に配置する。
【0058】
・上記実施形態において、繊維クロス15に加えて単繊維群を用いる場合、前記エポキシ樹脂組成物16の代わりに、予め単繊維群を添加したエポキシ樹脂組成物を金型21のキャビティ22内に充填して、同組成物を繊維クロス15に含浸させてプリプレグ18を形成してもよい。この時、キャビティ22の厚みと比べて、単繊維の方が長い場合には、各単繊維は、その繊維軸がキャビティ12の底面に沿う方向に自動的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、各単繊維の繊維軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。
【0059】
・繊維クロス15の代わりに単繊維群を用いる場合には、前記エポキシ樹脂組成物16の代わりに、予め単繊維群を添加したエポキシ樹脂組成物を金型21のキャビティ22内に充填してもよい。この時、キャビティ22の厚みと比べて、単繊維の方が長い場合には、各単繊維は、その繊維軸がキャビティ12の底面に沿って自発的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、各単繊維の繊維軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。次に、前記組成物を加熱溶融させたのち、冷却することにより、配向した繊維を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する。次に、少なくとも1枚の前記中間体を金型11のキャビティ12内に配置する。次に、上述のプリプレグ18の配向工程と同様に、金型11のキャビティ12内に配置された前記中間体を所定の温度で加熱、加圧しながら、金型11の上下に配置された一対の永久磁石13によって、前記中間体に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、前記中間体内のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、前記中間体を完全に硬化させて、金型11から取り出す。これにより、同様のエポキシ樹脂複合成形体を得ることができる。
【0060】
単繊維群を用いる場合、いずれの製造方法においても、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場によって配向させる際に、エポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一の方向に単繊維群をも配向させないように留意することが必要である。
【0061】
・エポキシ樹脂複合成形体10において、プリプレグ18を成形体の厚み方向と平行に配置し、エポキシ樹脂の分子鎖を該成形体の表面と平行に配向させてもよい。この場合、上記製造方法において、磁力線Mがキャビティ12内のエポキシ樹脂組成物16の表面と平行になるように、一対の永久磁石13を金型11の両側方に対向させて配設する。
【0062】
・前記永久磁石13は、金型11を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石13を省略してもよい。
・前記永久磁石13は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
【0063】
・磁力線Mは、曲線状等であってもよい。また、磁力線Mが二方向以上に延びるように永久磁石13を配設してもよい。さらに、磁力線M又は金型11のいずれか一方を回転させてもよい。
【0064】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、図13に示すプリント配線基板20の製造方法を提供する。プリント配線基板20は、第2実施形態の製造方法によって形成され得るエポキシ樹脂複合成形体10と、エポキシ樹脂複合成形体10を挟むように、該複合成形体10の上下両面上に形成された導電層14a,14bとを備える。プリント配線基板20において、エポキシ樹脂複合成形体10中の繊維クロス15は、該プリント配線基板20の表面と平行になるように配置されている。また、エポキシ樹脂複合成形体10中のエポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロス15と直交する方向、すなわち、同基板20の厚み方向に配向されている。これにより、プリント配線基板20は、熱膨張係数が等方的に小さくなるように制御されている。
【0065】
プリント配線基板20を製造するための第3実施形態の製造方法は、上述した第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体10の製造方法において、金型11のキャビティ12内にプリプレグ18(または中間体)を配置する工程の前、同工程の後、および同工程内の少なくともいずれかにおいて、図14に示すように、例えば、金属箔からなる導電層14aをキャビティ12の底面上に配置し、金属箔からなる導電層14bを積層されたプリプレグ18の最上面上に配置する。その後、図12に示した第2実施形態の製造方法と同様に、磁場を印加することによって、プリプレグ18(または中間体)中のエポキシ樹脂の分子鎖をプリプレグ18(または中間体)の厚さ方向に配向させる。このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加したまま、引き続き加熱することによって、プリプレグ18(または中間体)を完全に硬化させて、金型11から取り出すことにより、上面および底面に導電層14a,14bが設けられたエポキシ樹脂複合成形体が得られる。さらに、導電層14a,14bを、例えば、エッチングなどの周知の方法によってパターンニングして回路を形成することによって、プリント配線基板20を得ることができる。
【0066】
第3実施形態においても、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法として、第1実施形態において挙げた方法と同様の方法を用いることができる。また、磁場発生装置の種類およびエポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度の範囲についても、第1実施形態の場合と同様である。
【0067】
第3実施形態においては、プリント配線基板の要求特性として、絶縁体部が電気的に高絶縁性であることが挙げられるため、前記エポキシ樹脂複合成形体10内に配置された繊維クロス及び単繊維群も絶縁性であることが好ましい。導電層14a,14bとしては、金属箔、金属鍍金層、導電性ペースト層など、電気回路を形成可能なものが使用できる。
【0068】
第3の実施形態によれば、エポキシ樹脂複合成形体を用いたプリント配線基板の製造に際し、第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法と同様の効果を得ることができる。従って、第3実施形態の製造方法によれば、上述したように熱膨張係数が等方的に低減されたエポキシ樹脂複合成形体10を絶縁体とし、その絶縁体に導電層を設けたプリント配線基板20を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。また、そのようなプリント配線基板20は、導電層14a,14bと絶縁体(エポキシ樹脂複合成形体10)との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減し、スルーホール安定性を向上させることができるものである。
【0069】
また、第3実施形態には、第2実施形態における変更に加えて、以下の変更を適用することも可能である。
・金属箔などからなる導電層は、1層でもよいし複数の層であってもよい。また、そのような導電層は、キャビティ12の底面、上面、および積層したプリプレグ18の間の少なくともいずれかに配置され得る。
【0070】
・予めエポキシ樹脂複合成形体を製造し、接着層などを介して、金属箔などからなる導電層をエポキシ樹脂複合成形体に一体化させることによりプリント配線基板を形成してもよい。
【0071】
・導電層として、金属箔の代わりに、金属鍍金層あるいは導電性ペースト層を用いてもよい。
第1〜第3実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂成形体1、エポキシ樹脂複合成形体10およびプリント配線基板20において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αは、0.5以上1.0未満の範囲にある。より詳細には、前記配向度αは、平均値で0.5以上1.0未満の範囲にあり、かつその標準偏差は0.010以下である(サンプル数:20)。
【0072】
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
(ただし、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表す。)
配向度αを求めるには広角X線回折測定(透過)を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)に配向がある場合には同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。まず、成形体試料について、このデバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示す回折パターンを得る(図15参照)。この回折パターンにおいて、横軸はX線の回折角度θの2倍の角度2θを示し、2θ=20度の位置に確認されるピークは、硬化したエポキシ樹脂の分子鎖間の距離を表すものと考えられている。
【0073】
エポキシ樹脂のこの回折ピークの角度(ピーク散乱角)は、エポキシ樹脂の構造の違いやエポキシ樹脂組成物の配合の違いによって、約15〜30度の範囲となる場合もあるが、概ね20度前後に現れる。測定角をこの回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)に固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までの試料のX線回折強度分布を測定することにより、図16に示すようなピーク散乱角における方位角方向のX線回折強度分布が得られる。この強度分布におけるピークが急峻であるほど、エポキシ樹脂の分子鎖が一定方向に高度に配向されていることを示している。従って、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅Δβ)を求め、この半値幅Δβを上記式(1)に代入することによって、エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αを算出することができる。図16に示す方位角方向の強度分布の場合、配向度αは0.72である。
【0074】
エポキシ樹脂の分子鎖の配向により、エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率やエポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数をどの程度制御できるかは、配向度αの値に依存する。エポキシ樹脂成形体1およびエポキシ樹脂複合成形体10において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αが前記範囲にある場合、その配向方向において、エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率を向上させることができ、またエポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数を有意に低下させることができる。また、配向度αの標準偏差が上記範囲にあると、複数の成形体、複合成形体、および、プリント配線基板を生産した場合、複数の製品において、熱伝導率および熱膨張係数における上述の効果を安定して得ることができる。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂成形体1エポキシ樹脂複合成形体において、この配向度αが0.5未満であると、成形体の熱膨張係数が低下せず、十分な効果が得られない。一方、配向度αは、半値幅Δβが常に正の値を示すため、上記(1)式から1.0以上の値はとり得ない。
【0076】
前記エポキシ樹脂複合成形体10において、第1の平面、すなわち本実施形態においては、該複合成形体10の表面に平行な方向、およびそれに直交する方向における熱膨張係数は、いずれも5×10−6(上付きに変更のこと)〜50×10−6(/K)の範囲、より好ましくは、10×10−6〜40×10−6(/K)の範囲にあり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数とそれに直交する方向における熱膨張係数との差は、30×10−6(/K)以下である。さらに、前記熱膨張係数の標準偏差は、いずれも1.0以下である(サンプル数:20)
以下、本発明の製造方法によって製造されるエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体の各構成要素について詳述する。
【0077】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。これらの種類のエポキシ樹脂は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。さらに、このようなエポキシ樹脂のなかでも、特に分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂(主鎖型液晶性エポキシ樹脂)を用いることが好ましい。分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の液晶状態を利用することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を容易に配向させることができる。また、その配向度も容易に制御することも可能である。エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂のうち、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の含有量は、50重量%以上であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0078】
分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂としては、分子の主鎖にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂が特に好ましい。メソゲン基とは、液晶性を示す官能基を示し、具体的には、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0079】
エポキシ樹脂分子鎖内に含まれるこれらのメソゲン基の数は、少なくとも一つ以上であり、二つ以上であってもよい。また、メソゲン基とメソゲン基の間に脂肪族炭化水素基、脂肪族エーテル基、脂肪族エステル基、シロキサン結合等から構成される屈曲鎖(スペーサ)と呼ばれる柔軟構造部を有していてもよい。
【0080】
このような液晶性エポキシ樹脂は、ある温度領域で液晶状態となり、部分的にメソゲン基が規則的に配列しやすい性質を有している。これらの液晶性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって、液晶に固有の強い複屈折性の発現により確認することができる。液晶状態の種類としては、ネマティック、スメクティック、コレステリック、ディスコティック等のいずれの液晶状態を発現するものでもかまわない。なお、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂と、分子内にメソゲン基を含まないエポキシ樹脂とを混合して用いてもよい。
【0081】
<繊維材料>
本発明のエポキシ樹脂複合成形体に用いられる繊維材料は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミックス繊維、有機繊維から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0082】
また、繊維材料は、繊維クロスおよび単繊維群の少なくともいずれかであることが好ましい。また、単繊維の生産性や取り扱い、エポキシ樹脂組成物への配合のし易さなどを考慮すると、単繊維の直径は0.1〜30μmであり、繊維クロスにおける単繊維の織り密度は横糸・縦糸ともに、5〜50本/25mm程度が実用的に好ましい。
【0083】
繊維クロス中の繊維は、エポキシ樹脂組成物が含浸し易いように、繊維同士が離間されて織成されていてもよい。また、縦糸と横糸の編みこむ数の割合についても、適宜調整しても構わない。また、繊維クロスは、フェルト布などのような繊維を高分子樹脂で固定した織布または不織布であっても構わない。
【0084】
また、繊維クロスと単繊維群とを組み合わせて使用してもよい。さらに、2種類以上の繊維クロス及び単繊維群を併用してもよい。
また、繊維クロスおよび単繊維群のうち、少なくとも1種類の繊維クロスおよび単繊維群がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と交わる方向に配置されていれば、他の繊維クロスおよび単繊維群は無配向であっても、エポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一方向に配置されていても構わない。
【0085】
ここで、繊維の異方性反磁性磁化率χaが大きい値であると、磁場雰囲気下で繊維は磁力線に平行あるいは直交する方向に大きな力を受ける。異方性反磁性磁化率χaとは、外部より磁場を印加することにより生じる、繊維の繊維軸方向の磁化率χ//から、繊維軸に直交する方向の磁化率χ⊥差し引いた反磁性磁化率の異方性を示す値である。この異方性反磁性磁化率χaが正の値を示す繊維、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維などは、磁場雰囲気下で、繊維軸が磁力線に沿って平行になるように力を受ける。また、エポキシ樹脂、特に主鎖型液晶性エポキシ樹脂の分子鎖も磁場雰囲気下で磁力線に沿って平行になるように力を受け、その方向に配向する。
【0086】
このように、エポキシ樹脂の分子鎖も、磁力線と平行になるように配向する性質を有する。したがって、異方性反磁性磁化率χaが正の値を示す単繊維群を使用し、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場によって配向させる場合には、磁場によって単繊維群がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一の方向に配向されないように留意する必要がある。この方法としては、磁場によって配向され難い繊維、すなわち異方性反磁性磁化率χa自体が小さい繊維を用いるか、あるいは、配向するのにより大きな力を必要とするように、長い繊維を用いる、凝集・密集している繊維を用いる、比重の高い繊維を用いる、もしくは高粘度のエポキシ樹脂組成物を使用するなどの方法が挙げられる。
【0087】
<エポキシ樹脂組成物>
エポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体を形成するエポキシ樹脂組成物16には、上述のエポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂を反応硬化させるための硬化剤とが配合されている。配合される硬化剤の種類及び量、熱硬化条件については特に限定されるものではない。例えば、通常のアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、潜在性硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート類、ブロックイソシアネート等を用いることができる。それらの硬化剤は単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。また、これらの硬化剤の配合量は、通常これらの硬化剤が使用される際の使用量と同様である。
【0088】
また、単繊維群を用いてエポキシ樹脂複合成形体を形成する場合には、エポキシ樹脂組
成物16に単繊維群が添加されていてもよい。
さらに、エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂に加えて、他の反応硬化性樹脂を少量含有していてもよい。
【0089】
また、エポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体における熱伝導率のさらなる向上、熱膨張係数のさらなる低減、並びに破壊靭性、曲げ強度、誘電率などの諸特性の向上を目的として、前記エポキシ樹脂組成物に充填剤を適量配合することも可能である。充填剤としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属炭酸化合物、金属被覆樹脂、樹脂フィラー、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素系材料、タルク、クレー等が挙げられる。より詳細には、金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としては酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。エポキシ樹脂と充填剤との濡れ性の改善や、エポキシ樹脂と充填剤との界面を補強したり、エポキシ樹脂に対する充填剤の分散を促進したりするために、前記充填剤に通常のカップリング剤処理を施してもかまわない。
【0090】
なお、エポキシ樹脂組成物には必要に応じて、硬化促進剤、硬化遅延剤、補強材、ゴムやエラストマー等の低応力化剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、エネルギー消光剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、難燃剤、消泡剤、可塑剤、溶剤等を添加することも可能である。
【0091】
<Bステージ状態>
本発明において、Bステージ状態とは、エポキシ樹脂組成物中において、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応が一部進行した状態で停止された半硬化状態を示す。従って、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にするとは、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を一部進行させた状態で、その硬化反応を停止させて、該組成物を半硬化状態にすることを意味する。この硬化反応の反応進行率は、示差走査熱量分析によって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させた場合の反応熱量Q1と、未硬化状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させた場合の反応熱量Q2とを測定することによって、下記式(2)から求められる。
【0092】
反応進行率(%)={(Q2−Q1)/Q2}×100・・・(2)
本発明においてBステージ状態のエポキシ樹脂組成物における硬化反応進行率は70%以下である。この硬化反応進行率が70%以下であれば、その組成物に含まれるエポキシ樹脂の分子鎖の配向が可能となる。前記反応進行率は、好ましくは10〜60%、より好ましくは20〜56%である。反応進行率が70%より高くなると、硬化反応が進行し過ぎているために、後の配向工程において十分な分子鎖の配向が得られず、所望の特性が得られない。また、反応進行率が低過ぎる場合には、後の配向工程における配向は可能であるが、そのようなBステージ状態のエポキシ樹脂組成物は、粘着性を有する状態となることがあり、使用する用途によっては作業性が悪化する。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物の反応進行率は、エポキシ樹脂と硬化剤との反応温度や反応時間、反応後の冷却速度等により調整することができる。
【0093】
また、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を保存する場合は、反応がそれ以上進行しない低温(例えば10°C以下)で保存する必要がある。保存中にエポキシ樹脂の硬化反応が進行してしまうと、後の配向工程でエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることが困難になるおそれがある。
【0094】
<プリプレグ>
上記実施形態において、プリプレグ18は、繊維クロスにエポキシ樹脂組成物を含浸させ、そのエポキシ樹脂組成物の硬化反応を一部進行させた後、硬化反応を停止し、前記エポキシ樹脂組成物を半硬化状態、すなわちBステージ状態にした中間生成物である。
【0095】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0096】
<エポキシ樹脂成形体>
(実施例1)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂であるテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Aとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度170℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得た。次に、磁束密度5テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお、印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0097】
(実施例2)
実施例1と同一のエポキシ樹脂組成物16を使用し、表1に記載の磁束密度に変更した以外は実施例1と同様にシートを作製した。
【0098】
(実施例3)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂である1,5−ビス−[4−[2−アザ−2−(メチル−4−ヒドロキシフェニル)−ビニル]フェノキシ]ペンタンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Bとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得た。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を105℃で、時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。
なお、印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0099】
(実施例4)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂であるジヒドロキシ−α−メチルスチルベンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Cとする)と硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を調製した。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ化した組成物16を150℃で、1
時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0100】
(実施例5)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂である1,4−ビス−[4−(4−ヒドロキシベンゾエート)フェノキシ]ブタンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Dとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1モル:0.5モルで混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を調製した。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を150℃で、3時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0101】
(実施例6)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例2と同様の材料、組成および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体1を作製した。
【0102】
(実施例7)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例2と同様の材料、組成および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体1を作製した。
【0103】
(比較例1〜5)
実施例1〜5と同一の各エポキシ樹脂組成物を溶融した後、冷却せずに、エポキシ樹脂組成物が充填された金型を高温に維持したまま磁場中に移動させて、エポキシ樹脂の分子鎖の配向およびエポキシ樹脂組成物の完全硬化を行った。それ以外は、それぞれ実施例1〜5の条件および方法に従って、シート状の各エポキシ樹脂成形体を作製した。
【0104】
(比較例6)
比較例2と同一のエポキシ樹脂組成物に硬化遅延剤としてp−トルエンスルホン酸エチルエステルを5重量部添加した。この組成物を用いて、加熱時間(硬化時間)を20分間とした以外は、比較例2と同様の条件および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体を作製した。
【0105】
(比較例7)
実施例2と同一のエポキシ樹脂組成物を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例2と同様にシート状のエポキシ樹脂成形体を作製した。
【0106】
実施例1〜5、比較例1〜7のエポキシ樹脂成形体の配向度αを理学電機株式会社製のX線回折装置(RINT RAPID)を使用して、上述した方法によって算出した。実施例2のX線回折測定による赤道方向の回折パターンの一例を図15に、回折ピーク角度2θ=20度における方位角分布の一例を図16に示す。また、比較例1のX線回折測定による赤道方向の回折パターンの一例を図17に、回折ピーク角度2θ=20度における方位角分布の一例を図18に示す。測定は20個の各成形体について行い、配向度αについて平均値と、ばらつきの指標として標準偏差を算出した。
【0107】
また、実施例1〜7、比較例1〜7について、厚さ方向の熱伝導率λをレーザーフラッシュ法で測定した。測定は20個の成形体について行い、熱伝導率の平均値と、ばらつきの指標として標準偏差とを算出した。
【0108】
実施例1〜7、比較例1〜7について、配向度αおよび熱伝導率λの平均値および標準偏差を表1に示す。
【0109】
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜7では、いずれも得られたシートの配向度αの平均値が0.5以上であり、厚さ方向の熱伝導率λの平均値が0.5W/(m・K)以上の優れた熱伝導性を有している。このように実施例1〜7では、高性能化された最近の電子部品に十分に対応できる熱伝導性シートを得ることができた。さらに、実施例1〜7の製造方法では、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用したため、作業に習熟せずとも比較的容易にエポキシ樹脂成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、配向度αおよび熱伝導率λの標準偏差が小さく、製造上のばらつきが少ないことを示しており、生産性は高かった。
【0110】
それに対し、比較例1〜5では、配向度αが0.5以上で、厚さ方向の熱伝導率λが0.5W/(m・K)以上の熱伝導性を有したシートが得られているものの、エポキシ樹脂組成物をBステージ化せずに、磁場を印加するために、金型を高温のまま移動させるなど、熟練を要する工程があるため、作業性に劣った。そのために配向度αおよび熱伝導率λのばらつきを示す標準偏差が大きな値を示しており、生産性が悪化している。また、比較例6では硬化遅延剤の効果により作業性は改善され、配向度αおよび熱伝導率λの標準偏差はやや小さくなった。しかしながら、硬化遅延剤を添加しない場合(実施例2)と比較して2倍の硬化時間を必要とするため、生産性は悪化した。
【0111】
また、比較例7では、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物においてエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎているため、後の磁場印加工程でエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができず、十分な熱伝導率を有するシートが得られなかった。
【0112】
<エポキシ樹脂複合成形体を用いたプリント配線基板>
(実施例8)
第3実施形態の製造方法に従って、エポキシ樹脂複合成形体を絶縁層として用い、導電層として銅箔を使用したプリント配線基板を作製した。エポキシ樹脂として、分子の主鎖にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭ファイバーグラス製「MS130」(重量106g/m2、密度19本/25mm)を使用した。導電層14a,14bとしては、日鉱マテリアルズ製電解銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が8vol%となるように設定した。まず、1枚のガラスクロスに温度170℃に加熱して溶融させたエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後、直ちに冷却固化させることにより、ガラスクロスに含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。
【0113】
次に、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に3枚のプリプレグ18をキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。さらに、そのプリプレグ18の上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたって加熱および加圧することによって、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、プリプレグ18を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向とした。次に、その積層板にドリルによって穴径0.9mmの穴を200個形成し、各穴のランド径1.3mm、回路幅0.2mm,回路間隔を0.2mmとなるように銅スルーホールメッキ処理を経て、回路を形成し、プリント配線基板20を作製した。
【0114】
(実施例9及び10)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を変更した以外は、実施例8と同様の材料、組成、および方法で各プリント配線基板20を作製した。
【0115】
(実施例11)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)および磁束密度を変更した以外は、実施例8と同様の材料、組成、および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0116】
(実施例12)
実施例8と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合した。その混合物に、実施例6〜9のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長3mm)を添加して、エポキシ樹脂組成物16を調製した。ガラス繊維の添加量は、成形体におけるガラス繊維含有量が21vol%となるように設定した。前記導電層14a,14bとして実施例1と同一の銅箔を使用した。まず、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃に加熱した金型11のキャビティ12の中に充填し加熱溶融した後、すぐに冷却固化させて、ガラス繊維を含有したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなるシート状の中間体を得た。次に、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に前記中間体を重ね
て配置し、さらにその上に別の銅箔を積層した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記中間体を170℃、10分間にわたって加熱することにより、該中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、該中間体を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板が得られた。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例6との同様の方法で、プリント配線基板20を作製した。
【0117】
(実施例13)
実施例8と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合してエポキシ樹脂組成物16を調製した。実施例8〜11で使用したガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(長さ30mm)を使用した。導電層14a,14bとしては、日鉱マテリアルズ製電解銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラス繊維の量は、成形体におけるガラス繊維含有量が17vol%となるように設定した。まず、金型11のキャビティ12内にガラス繊維の繊維軸が、キャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティの中に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、直ちに冷却固化させて、ガラス繊維に含浸したエポキシ樹脂がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。次に、このプリプレグ18を用いて、実施例10と同様の方法で、プリント配線基板20を作製した。
【0118】
(実施例14)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例10と同様の材料、組成および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0119】
(実施例15)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例10と同様の材料、組成および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0120】
(比較例8)
実施例8と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラスクロスを用いて、プリプレグを作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に3枚のガラスクロスをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、エポキシ樹脂組成物16をガラスクロスに含浸させた後、そのエポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたってエポキシ樹脂組成物16を加熱することにより、該組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、実施例6と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0121】
(比較例9及び10)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を変更した以外は、比較例8と同様の方法で各プリント配線基板を作製した。
【0122】
(比較例11)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)および磁束密度を変更した以外は、比較例8と同様の方法でプリント配線基板を作製した。
【0123】
(比較例12)
実施例10と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物を完全に硬化させた。これにより、厚み2mmの積層板が得られた。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例6と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0124】
(比較例13)
実施例11と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ化した組成物を作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その上にガラス繊維の繊維軸が銅箔の表面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティ12内に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、該エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、そのエポキシ樹脂組成物16上にさらに別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、エポキシ樹脂組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例8と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0125】
(比較例14)
実施例8と同一のエポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例8と同様の条件および方法でプリント配線基板を作製した。
【0126】
実施例8〜15及び比較例8〜14で得られたプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分についてエポキシ樹脂の配向度αを測定した。配向度αの測定は、実施例6〜10および比較例8〜13の各プリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用いて、エポキシ樹脂の配向度αをX線回折装置(理学電機株式会社製「RINT RAPID」)によって測定したX線回折パターンより求めた。測定は20個のプリント配線基板について行い、配向度αの平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0127】
また、各実施例及び比較例で得られた各プリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分について、プリント配線基板の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。熱膨張係数の測定は、各実施例および比較例のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用い、熱機械分析装置(株式会社島津製作所「TMA−50」)によって、荷重3g、昇温速度10°C/分にて行った。測定は20個のプリント配線基板について行い、熱膨張係数の平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0128】
さらに、各プリント配線基板について、スルーホール信頼性試験を行った。各プリント配線基板をJIS−C0025に準拠して、260°Cの油および20°Cの水中へ、それぞれ10秒間ずつ浸漬させることを1サイクルとした。このサイクルを繰り返して、断線が発生するまでのサイクル数を計測した。この試験を20個のプリント配線基板について行い、サイクル数の平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0129】
実施例8〜15及び比較例8〜14において得られたプリント配線基板について、上記測定値および試験結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
表2の結果から明らかなように、実施例8〜15では、得られた基板の配向度αの平均値が0.5以上であり、かつその標準偏差はいずれも0.01以下の低い値を示した。また、基板の表面に沿う方向と、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させた厚み方向の双方において、平均的に低い熱膨張係数を示すとともに、それらの標準偏差はいずれも1.0以下の低い値を示した。スルーホール信頼性についても十分なサイクル数であった。各標準偏差が小さいことから、実施例8〜15で得られたプリント配線基板では、製造上のばらつきが小さいことから、実施例8〜15の製造方法は生産性が高いことが分かる。つまり、実施例8〜15の製造方法によって、熱膨張係数が小さく等方的に制御され、スルーホールにおける熱応力が低減されたプリント配線基板を安定して製造することができた。さらに
、Bステージ状態のプリプレグまたは中間体を使用したため、作業に習熟せずとも、比較的容易にエポキシ樹脂複合成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、実施例8〜11によるプリント配線基板の断面を顕微鏡で観察したところ、ガラスクロスが均等に積層されていた。
【0131】
一方、比較例8〜13においては、配向度は0.5以上で、熱膨張係数の平均値は小さく等方的であり、スルーホール信頼性試験の平均サイクル数は十分な回数となっている。しかしながら、それぞれの標準偏差が大きく、熱膨張性係数およびサイクル数にばらつきが生じている。従って、比較例8〜12においては、熱膨張係数が小さく等方的に制御され、スルーホールにおける熱応力が低減されたプリント配線基板を安定して生産することはできなかった。また、実施例8〜15のプリプレグまたはBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用した場合と比べ、高温の金型を磁場装置内に移動させるなどの熟練を要する工程があるために作業性に劣った。さらに、比較例8〜11によるプリント配線基板の断面を観察したところ、プリント配線基板の内部でガラスクロスが偏って積層されていた。
比較例14においては、Bステージ状態のプリプレグにおいてエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎていたため、後の磁場印加工程においてエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができなかった。そのため、厚さ方向の熱膨張係数を十分に低下させることができず、スルーホール信頼性試験においても十分なサイクル数を得ることができなかった。
【0132】
<エポキシ樹脂複合成形体>
(実施例16)
第2実施形態の製造方法に従って、エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。エポキシ樹脂として、分子の主鎖にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭ファイバーグラス製「MS130」(重量106g/m2、密度19本/25mm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が8vol%となるように設定した。まず、1枚のガラスクロスに温度170℃に加熱して溶融させたエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後、直ちに冷却固化させることにより、ガラスクロスに含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。
【0133】
次に、金型11のキャビティ12内に3枚のプリプレグ18を、キャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたって加熱および加圧することによって、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、プリプレグ18を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体10を得た。尚、印加した磁場の磁力線の方向はエポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向に一致するように設定した。
【0134】
(実施例17及び18)
キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を3枚から5枚または10枚に変更した以外は、実施例16と同様の材料、組成、および方法で各エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0135】
(実施例19)
キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を10枚に変更し、磁束密度を5テスラに変更した以外は、実施例16と同様の材料、組成、および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0136】
(実施例20)
実施例16と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合した。その混合物に、実施例16〜19のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長3mm)を添加して、エポキシ樹脂組成物16を調製した。ガラス繊維の添加量は、成形体におけるガラス繊維含有量が21vol%となるように設定した。まず、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃に加熱した金型11のキャビティ12の中に充填し加熱溶融した後、すぐに冷却固化させて、ガラス繊維を含有したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなるシート状の中間体を得た。次に、金型11のキャビティ12内に前記中間体を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記中間体を170℃、10分間にわたって加熱することにより、該中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、該中間体を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体10が得られた。尚、印加した磁場の磁力線の方向はエポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向と一致するように設定した。
【0137】
(実施例21)
実施例16と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合してエポキシ樹脂組成物16を調製した。実施例16〜19で使用したガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(長さ30mm)を使用した。使用するガラス繊維の量は、成形体におけるガラス繊維含有量が17vol%となるように設定した。まず、金型11のキャビティ12内にガラス繊維の繊維軸が、キャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティの中に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、直ちに冷却固化させて、ガラス繊維に含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。次に、このプリプレグ18を用いて、実施例8と同様の方法で、エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0138】
(実施例22)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例18と同様の材料、組成および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0139】
(実施例23)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例18と同様の材料、組成および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0140】
(比較例15)
実施例16と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラスクロスを用いて、プリプレグを作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。金型11のキャビティ12内に3枚のガラスクロスをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、エポキシ樹脂組成物16をガラスクロスに含浸させた。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたってエポキシ樹脂組成物16を加熱することにより、該組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体を得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0141】
(比較例16及び17)
キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を3枚から5
枚(比較例16)または10枚(比較例17)に変更した以外は、比較例15と同様の方法で各エポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0142】
(比較例18)
キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を10枚に変更し、磁束密度を5テスラに変更した以外は、比較例15と同様の方法でエポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0143】
(比較例19)
実施例18と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。まず、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物を完全に硬化させた。これにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体が得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0144】
(比較例20)
実施例19と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ化した組成物を作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。まず、金型11のキャビティ12内に、ガラス繊維の繊維軸がキャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティ12内に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、該エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、エポキシ樹脂組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体を得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0145】
(比較例21)
実施例10と同一のエポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例10と同様の条件および方法でエポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0146】
実施例16〜23で得られたエポキシ樹脂複合成形体10について、第2実施形態において記載した方法により、エポキシ樹脂の配向度α、並びにエポキシ樹脂複合成形体の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。その結果、実施例16〜23のエポキシ樹脂複合成形体の配向度αおよび熱膨張係数について、対応する第2実施形態の実施例8〜15のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分における測定値とほぼ同様の値が得られた。従って、実施例16〜23で得られたエポキシ樹脂複合成形体10は、実施例8〜15のプリント配線基板と同様に、製造上のばらつきが小さい。従って、実施例16〜23の製造方法は、生産性が高いことが分かる。つまり、実施例16〜23の製造方法によって、熱膨張係数が小さく等方的に制御されたエポキシ樹脂複合成形体10を安定して製造することができた。さらに、Bステージ状態のプリプレグまたは中間体を使用したため、作業に習熟せずとも、比較的容易にエポキシ樹脂複合成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、実施例16〜19によるプリント配線基板の断面を顕微鏡で観察したところ、ガラスクロスが均等に積層されていた。
比較例15〜21で得られたエポキシ樹脂複合成形体についても、第2実施形態において記載した方法により、エポキシ樹脂の配向度α、並びにエポキシ樹脂複合成形体の表面
に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。その結果、比較例15〜21のエポキシ樹脂複合成形体の配向度αおよび熱膨張係数について、対応する第2実施形態の比較例8〜14のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分における測定値とほぼ同様の値が得られた。つまり、比較例15〜20においては、対応する第2実施形態の比較例8〜13の場合と同様に、配向度αおよび熱膨張係数の平均値は所望の範囲であったが、それらの標準偏差が大きかった。従って、比較例15〜20においては、熱膨張係数が小さく等方的に制御されたエポキシ樹脂複合成形体を安定して生産することはできなかった。また、実施例16〜23のプリプレグまたはBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用した場合と比べ、磁場を印加するために、高温の金型を磁場装置内に移動させるなどの熟練を要する工程があるために作業性に劣った。さらに、比較例15〜18によるエポキシ樹脂複合成形体の断面を観察したところ、該複合成形体の内部でガラスクロスが偏って積層されていた。また、比較例21のエポキシ樹脂複合成形体では、第2実施形態の比較例14のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分の場合と同様に、Bステージ状態のプリプレグにおけるエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎていたため、後の磁場印加工程においてエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができなかった。その結果、比較例21のエポキシ樹脂複合成形体では、厚さ方向の熱膨張係数を十分に低下させることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】第1実施形態および第2実施形態の製造方法により得られるエポキシ樹脂成形体及びエポキシ樹脂複合成形体を示す斜視図。
【図2】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図3】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図4】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図5】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図6】第2実施形態により得られるエポキシ樹脂複合成形体を示す断面図。
【図7】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図8】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図9】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図10】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図11】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図12】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図13】第3実施形態の製造方法により得られるプリント配線基板を示す断面図。
【図14】第3実施形態のプリント配線基板の製造方法を示す概略図。
【図15】実施例2で得られるエポキシ樹脂成形体のデバイ環の半径方向におけるX線回折強度分布の一例を示すX線回折パターン。
【図16】実施例2で得られるエポキシ樹脂成形体の方位角方向の強度分布の一例を示すグラフ。
【図17】比較例1で得られるエポキシ樹脂成形体のデバイ環の半径方向におけるX線回折強度分布の一例を示すX線回折パターン。
【図18】比較例1で得られるエポキシ樹脂成形体の方位角方向の強度分布の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0148】
1…エポキシ樹脂成形体、10…エポキシ樹脂複合成形体、11,21…金型、12,22…キャビティ、14a,14b…導電層、16…エポキシ樹脂組成物、18…プリプレグ、20…プリント配線基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法に関し、そのような物品としては、エポキシ樹脂成形体、エポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いたプリント配線基板を対象とする。より詳細には、本発明は、熱伝導率などの特性がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向において改善されたエポキシ樹脂成形体の製造方法に関する。本発明はまた、熱膨張係数が等方的に小さくなるように制御されたエポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体を用いたプリント配線基板の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板やその基板上に実装される半導体パッケージの封止材などの電子部品の絶縁材料としては、エポキシ樹脂などからなる高分子組成物が使用されている。近年の電子機器の高性能化に伴い、電子素子の発熱量も増大しているため、これらの高分子組成物にも高い熱伝導性が求められている。
【0003】
この問題に対処するため、一般に、エポキシ樹脂等に高い熱伝導性を有するセラミックスや金属などの充填剤を配合した複合材が用いられている。しかしながら、このような複合材は、必要とする熱伝導性を得るために充填材を大量に配合しなければならず、成形性に劣るという問題があった。
【0004】
それに対し、特許文献1および特許文献2には、磁場を印加することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させて熱伝導率を向上させたエポキシ樹脂成形体およびその製造方法が開示されている。これにより充填材の配合量を少なくすることができ、成形性を損なわずに所望の熱伝導率を得ることができる。
【0005】
また、プリント配線基板および電子部品には、エポキシ樹脂などの高分子材料の他に、金属、セラミックス、無機ガラス等の様々な異種材料が使用されている。異種材料同士が接合或いは隣接して配置された箇所においては、熱膨張係数の差によって、基板または電子部品自身あるいはそれらの界面に熱応力が発生する。特に、基板を形成するエポキシ樹脂などの高分子材料(室温における一般的な熱膨張係数:>5×10−5(/K))と配線材料に用いられる銅(室温における熱膨張係数:1.65×10−5(/K))等の金属とでは、熱膨張係数の差が大きい。そのため、エポキシ樹脂などの高分子材料および金属で構成される基板や電子部品では、発生する熱応力によって亀裂が生じたり、エポキシ樹脂などの高分子材料部分と金属部分との界面の剥離や配線の断線、ショート等のトラブルが起こって問題となっている。そこで、このような問題に対処するため、プリント配線基板として、一般に、ガラスクロスなどの基材にエポキシ樹脂や熱可塑性高分子などを含む高分子組成物を含浸させて乾燥したプリプレグと、銅箔とを加熱加圧して一体成形することによって形成される、銅張積層板が用いられている。その他にも、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合した基板も提案されている。
【0006】
近年のプリント配線基板の多層化、複雑化にともない、スルーホール信頼性確保などの目的で、特にプリント基板材料の厚み方向における熱膨張を抑えることが重要となってきている。しかしながら、上記のようなガラスクロス含浸エポキシプリント配線基板では、表面に沿う方向の熱膨張を低下させることは可能であるが、厚み方向における熱膨張は逆に増大する。また、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合したエポキシプリント配線基板は、基板の熱膨張を等方的にある程度低下させることが可能であるが、十分ではなかった。
【0007】
これに対し、本発明者らは、繊維クロスにエポキシ樹脂を含浸させた後、磁場など印加によって、エポキシ樹脂の分子鎖を繊維クロスの厚み方向に配向させることにより、等方的に熱膨張を低減させたエポキシ樹脂複合成形体が得られることを見出した。
【0008】
しかしながら、上記のように分子鎖の配向を利用したエポキシ樹脂成形体やエポキシ樹脂複合成形体に用いられるエポキシ樹脂は高融点のものが多い。そのため、そのようなエポキシ樹脂を溶融させて硬化剤と混合してエポキシ樹脂組成物を調製する際に、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が非常に迅速に進行する。従って、例えば、そのようなエポキシ樹脂組成物を用いて上記のエポキシ樹脂成形体を製造する場合、反応の進行によりエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎてしまうと、磁場などの印加によるエポキシ樹脂の配向が困難となる。そのため、エポキシ樹脂と硬化剤との溶融混合によるエポキシ樹脂組成物の調製から、該組成物の注型、磁場印加によるエポキシ樹脂の配向までの工程を非常に短時間の間に行わなければならず、作業性に劣っていた。また、エポキシ樹脂組成物がその硬化反応の進行により高粘度となると、注型時に巻き込んだ気泡が抜け難くなり、内部に気泡を含んだ不均一な成形体を生じることがある。さらに、エポキシ樹脂の配向は、配向時のエポキシ樹脂組成物の粘度、すなわち該組成物の硬化反応の進行度に大きく影響されるので、上記のような作業性に劣る製造方法では、成形体におけるエポキシ樹脂の配向状態が一定にならず、熱伝導率等の特性のばらつきが大きくなり、生産性に劣っていた。硬化遅延剤などを使用すると硬化反応時間を長くすることはできるが、逆に生産効率が悪化するという問題があった。
【0009】
また、繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させたエポキシ樹脂複合成形体を製造する場合には、上記の問題に加えて、繊維クロスにエポキシ樹脂を含浸させる工程において、繊維クロスの積層間隔が均一にならずに偏りを生じることがある。そのため、得られたエポキシ樹脂複合成形体において、意図した等方的な熱膨張係数が得られないことがあり、生産性に劣っていた。
【特許文献1】特開2004−175926号公報
【特許文献2】特開2004−331811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、エポキシ樹脂成形体、並びにエポキシ樹脂複合成形体およびそれを用いたプリント基板などのエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品を製造するにあたり、それらの製造方法を鋭意検討した結果、なされたものである。
【0011】
本発明の目的とするところは、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造において、より作業性が良好で、生産性が高い製造方法を提供することにある。そのような物品としては、エポキシ樹脂の分子鎖の配向により、熱伝導率や熱膨張係数などの特性が制御されたエポキシ樹脂成形体、並びにエポキシ樹脂複合成形体および該複合成形体によって形成されたプリント配線基板を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法であって、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態とし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含むことを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品がエポキシ樹
脂成形体であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを要旨とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程をさらに有し、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹
脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを要旨とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記Bステージ状態にする工程は、前記エポキシ樹脂組成物を冷却することによって行われることを要旨とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法において、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応の進行度は、70%以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エポキシ樹脂の分子鎖の配向により熱伝導性や熱膨張係数などの特性が改善されたエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体、並びにそれらを用いたプリント配線基板の製造に際し、作業性および生産性を向上することができる。特に、本発明の方法によって得られたエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体において、熱伝導性や熱膨張係数などの特性のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、図1に示すエポキシ樹脂成形体1を製造する方法を提供する。エポキシ樹脂成形体1は、板状の形状を有し、エポキシ樹脂の分子鎖がその厚み方向、すなわち図1のZ軸線方向に配向されている。このエポキシ樹脂成形体1は、エポキシ樹脂の分子鎖が一定方向、すなわち該成形体の厚み方向に配向されることにより、その配向方向(図1のZ軸線方向)において極めて高い熱伝導率を有する。
【0021】
次に、エポキシ樹脂成形体1を形成するための第1実施形態の製造方法について、図2〜図5を用いて説明する。まず、エポキシ樹脂成形体1を形成するために用いるエポキシ樹脂と硬化剤とを混合してエポキシ樹脂組成物16を調製する。次に、例えば、図2に示すように、エポキシ樹脂成形体1の平板形状に対応した形状を有するキャビティ12が形成された金型11を準備する。次いで、図3に示すように、エポキシ樹脂組成物16を、金型11の内部のキャビティ12内に充填する。ここで、必要に応じて、金型11は加熱装置(図示せず)によって加熱される。エポキシ樹脂組成物16が常温で粉体または固体である場合には、該エポキシ樹脂組成物16はキャビティ12内において前記加熱装置によって溶融状態に維持される。次いで、エポキシ樹脂組成物16の硬化反応が完全に進行してしまわないうちに、金型11内のエポキシ樹脂組成物16を冷却して、硬化反応の進行をほぼ停止させて、エポキシ樹脂組成物16を半硬化状態、すなわちBステージ状態にする。エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にするには、エポキシ樹脂組成物16を、数分、好ましくは1〜2分の間に、少なくとも20〜25°C程度まで冷却することが好ましい。冷却する方法としては、例えば、金型11を冷却板上に配置することなどが挙げられる。そのような冷却板の表面温度は、20〜25°C程度であってもよいし、それよりも低い温度に維持されていてもよい。これにより、図4に示す、すなわちBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得ることができる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12に充填する工程の間、またはその後で、減圧或いは加圧により、エポキシ樹脂組成物16に混入した気泡を除去する工程を加えることが好ましい。
【0023】
金型11からBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を取り出す。このBステージ状態のエポキシ樹脂組成物17の常温における状態は、使用するエポキシ樹脂および硬化剤の状態に依存する。例えば、使用したエポキシ樹脂および硬化剤が固体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17も常温では固体となる。使用したエポキシ樹脂および硬化剤の少なくとも一方が常温で液体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は半固体、すなわち高粘度のペースト状態となることもある。いずれの場合であっても、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、必要に応じて、低温(例えば10°C以下)にてその状態を維持したまま、すなわち硬化反応がそれ以上ほとんど進行することなく、保存しておくことができる。
【0024】
次に、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を任意の成形装置の金型11にキャビティ12内に配置する。次に、図5に示すように、金型11の上下に磁場発生装置として配置された一対の永久磁石13によって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。磁場を印加する際、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、加熱装置(図示せず)により加熱されて液体状態にされている。このとき、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖が外力によって移動可能である、すなわち、同分子鎖が磁場によって配向可能である液体状態であることが必要である。
【0025】
エポキシ樹脂に磁場を印加すると、エポキシの分子鎖ではその軸線方向に沿った磁化率が大きいため、その分子鎖が磁力線と平行になるように配向する。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように配置されている。従って、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖は、キャビティの厚さ、すなわち得られるエポキシ樹脂成形体の厚さ方向に配向される。
【0026】
エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法としては、磁場の他に、電場およびせん断場のうちのいずれかを用いる方法を用いることもできる。しかしながら、これらの配向方法の中でも、配向する方向を容易に制御できることから、磁場による配向方法が好ましい。また、必要に応じて、上記の配向方法を併用することもできる。
【0027】
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程において、エポキシ樹脂組成物17が分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する場合には、エポキシ樹脂組成物17は、キャビティ12内で前記配向工程において液晶状態に維持されることが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂が液晶状態を発現することにより、該エポキシ樹脂の分子鎖はより高度に配向され得る。
【0028】
次に、このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加した状態で引き続き加熱することによって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を完全に硬化させて、金型11から取り出す。それにより、図1に示したエポキシ樹脂成形体1が得られる。
【0029】
上記実施形態において、前記成形装置としては、トランスファー成形装置、プレス成形装置、注型成形装置、射出成形装置、押出成形装置等のエポキシ樹脂の成形が可能である装置を用いることができる。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、シート状、フィルム状、ブロック状、粒状、棒状、チューブ状、繊維状等の様々な形状のエポキシ樹脂成形体に成形することができる。
【0030】
前記磁場を発生する磁場発生装置としては、永久磁石、電磁石、超電導磁石、コイル等
が挙げられる。
エポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度は、好ましくは0.2〜20テスラ(T)、さらに好ましくは0.5〜15T、最も好ましくは1〜10Tである。この磁束密度が0.2T未満であると、エポキシ樹脂の剛直な分子鎖を十分に配向させることができず、熱伝導率の向上や熱膨張係数の低下が不十分となる。一方、磁束密度が20Tを超える磁場は、実用上得られ難い。この磁束密度の範囲が0.2〜20Tであると、配向方向で熱伝導率が高く、熱膨張係数の低いエポキシ樹脂複合成形体が得られるとともに、実用的である。
【0031】
第1実施形態の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
・第1実施形態では、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物16を半硬化状態で冷却することにより、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を形成する。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17は、低温にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂の硬化がそれ以上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。従って、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を、フィルム状、シート状、およびブロック状などの用途に合った形状で、予め必要な数量だけ用意して保存することが可能となる。また、このようにエポキシ樹脂組成物の調製および該エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物においてエポキシ樹脂の分子鎖を磁場などによって配向させる工程とを時間的に分離して行うことができる。このため、後続の配向工程を急いで行う必要がなく、容易に行うことができるため、配向工程における作業性が向上する。
【0032】
・上記のように、配向工程の作業性が向上することによって、複数の成形体において、エポキシ樹脂の分子鎖をより均一に配向させることができる。その結果、エポキシ樹脂分子鎖の配向状態のばらつき、従って、その配向方向における成形体の熱伝導率のばらつきが低減される。よって、該エポキシ成形体の生産性が向上する。
【0033】
・第1実施形態では、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場の印加によって配向させているので、前記分子鎖を高度に配向させることができるとともに、その配向方向を容易に制御することができる。
【0034】
したがって、第1実施形態の製造方法によれば、エポキシ樹脂の分子鎖が高度に配向することによって、その配向方向における熱伝導性などの特性が改善されたエポキシ樹脂成形体を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。
【0035】
第1実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂成形体1は、半導体パッケージなどの封止材、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板、熱伝導性接着層、モータや発電機の絶縁層等の放熱部材に適用することができ、各種電子部品等で発生する熱を伝導伝熱させ、外部に放熱することができるものである。
【0036】
第1実施形態は以下のように変更することも可能である。
・エポキシ樹脂成形体1は、平板形状以外の任意の形状に成形されてもよい。
・エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率をさらに向上させるために、エポキシ樹脂組成物16に、熱伝導性充填材を適量添加することも可能である。
【0037】
・Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程にて使用する金型は、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にする工程にて使用する金型と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
・エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に充填してBステージ状態のエポキシ樹
脂組成物17を形成する際に、金型11に磁場を印加して、予め、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させておいてもよい。この場合、磁場配向したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により完全に硬化させる際には、再び同様に磁場を印加してその配向状態を維持する必要がある。
【0039】
・前記永久磁石13は、金型11を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石13を省略してもよい。
・前記永久磁石13は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
・磁力線Mは、曲線状等であってもよい。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、エポキシ樹脂組成物と繊維材料とからなるエポキシ樹脂複合成形体を製造する方法を提供する。エポキシ樹脂複合成形体は、第1の平面(例えば、該成形体の表面)に沿って配置された繊維材料と該繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物とからなり、エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面と交差する方向に配向されている。図1および図2は、前記繊維材料として繊維クロス15を用いたエポキシ樹脂複合成形体10を示す。尚、前記繊維材料として、繊維クロス15の代わりに、あるいは繊維クロス15に加えて単繊維の集合体(単繊維群)を用いてもよい。
【0041】
エポキシ樹脂複合成形体10は、板状の形状を有し、図6に示すように、エポキシ樹脂組成物16と複数枚の繊維クロス15とから形成されている。エポキシ樹脂複合成形体10において、繊維クロス15は、第1の平面、すなわち、本実施形態では成形体1の表面と平行になるように配置されている。さらに、エポキシ樹脂組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖は、第1の平面にほぼ直交する方向、すなわち、本実施形態においては、エポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向(図1のZ方向)に配向されている。つまり、エポキシ樹脂の分子鎖は繊維クロス15とほぼ直交するように配置されている。このエポキシ樹脂複合成形体10では、繊維クロスが拡がる方向、すなわち第1の平面に平行な方向における熱膨張は繊維クロスによって抑制され、繊維クロスの厚み方向における熱膨張はエポキシ樹脂の分子鎖をその方向に配向させることによって低減されている。そのため、エポキシ樹脂複合成形体10は、等方的に低減された熱膨張係数を有する。また、エポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロスの繊維や繊維間の空隙と比較すると非常に小さいため、その配向が繊維クロス15(または単繊維群)によって阻害され難い。したがって、成形体内に繊維クロス15(または単繊維群)を高密度に含有させることができる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態の製造方法について説明する。まず、エポキシ樹脂複合成形体10を形成するために用いるエポキシ樹脂と硬化剤とを混合してエポキシ樹脂組成物16を調製する。次いで、図7に示すプリプレグ成形用金型21を準備する。プリプレグ成形用金型21の内部には、薄い平板形状に対応する形状を有するキャビティ22が形成されている。図8に示すように、このキャビティ22内に、繊維材料として、一枚の繊維クロス15を該キャビティ22の底面22aに沿うように、好ましくは、底面22aと平行になるように配置する。次いで、図9に示すように、エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に流し込み、繊維クロス15にエポキシ樹脂組成物16を含浸させる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物16を含浸させる工程の間、またはその後で、減圧或いは加圧により、混入した気泡を除去する工程を加えることが好ましい。
エポキシ樹脂組成物16が常温で粉体または固体である場合には、エポキシ樹脂組成物16を含浸させる工程において、任意の加熱装置(図示せず)によって、エポキシ樹脂組成物16は溶融状態に維持される。
【0044】
次いで、エポキシ樹脂組成物16の硬化反応が完全に進行してしまわないうちに、その金型21内のエポキシ樹脂組成物を冷却して硬化反応の進行を停止させ、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態にする。尚、冷却方法および冷却温度などの条件は、第1実施形態の場合と同様である。これにより、図10に示すような、繊維クロス15に含浸したエポキシ樹脂組成物16がBステージ状態となったプリプレグ18が得られる。このBステージ状態のプリプレグ18は、低温(例えば10°C以下)にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂組成物の硬化反応がそれ以上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。
【0045】
プリプレグ18において、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物の常温における状態は、使用するエポキシ樹脂および硬化剤の状態に依存する。例えば、使用したエポキシ樹脂および硬化剤が固体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物も常温では固体となる。使用したエポキシ樹脂および硬化剤の少なくとも一方が常温で液体である場合には、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物は半固体、すなわち高粘度のペースト状態となることもある。
【0046】
次に、図11に示すように、得られたプリプレグ18を、金型11のキャビティ12内に複数枚積層して配置する。図15に示すように、金型11のキャビティ12内に配置されたプリプレグ18を所定の温度で加熱、加圧しながら、金型11の上下に磁場発生装置として配置された一対の永久磁石13によって、プリプレグ18に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、エポキシ樹脂組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように、すなわち繊維クロス15が拡がる平面にほぼ直交するように配置されている。従って、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖は、キャビティ12の厚さ方向、すなわち繊維クロスとほぼ直交する方向に配向される。この磁場印加の際、プリプレグ18を構成するBステージ状態のエポキシ樹脂組成物は、任意の加熱装置(図示せず)により、液体状態にされる。ここで、前記エポキシ樹脂組成物は、第1実施形態の場合と同様に、その分子鎖の磁場配向が可能である液体状態にされることが必要である。
【0047】
また、エポキシ樹脂組成物16が分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する場合には、前記配向工程において、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物は液晶状態に維持されることが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂が液晶状態を発現することにより、該エポキシ樹脂の分子鎖はより高度に配向され得る。
【0048】
このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加したまま、引き続き加熱することにより、プリプレグ18を完全に硬化させて、金型11から取り出す。これにより、上述したエポキシ樹脂複合成形体10を得ることができる。
【0049】
第2実施形態において、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法として、第1実施形態において挙げた方法と同様の配向方法を用いることができる。また、磁場発生装置の種類およびエポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度の範囲についても、第1実施形態の場合と同様である。
【0050】
第2実施形態の製造方法によれば、以下の効果が得られる。
・第2実施形態の製造方法では、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物16からエポキシ樹脂複合成形体を形成するために、繊維クロス15に含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を形成する。Bステージ状態のプリプレグ18は、低温にてその状態を維持したまま、すなわちエポキシ樹脂の硬化がそれ以
上ほとんど進行することなく、保存することが可能である。そのため、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を、フィルム状、シート状、およびブロック状などの用途に合った形状で、予め必要な数量だけ用意して保存することが可能となる。また、このようにプリプレグ18を形成する工程と、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を磁場などによって配向させる工程とを時間的に分離して行うことができる。このため、後続の配向工程を急いで行う必要がなく、かつ容易に行うことができるため、配向工程における作業性が向上する。
【0051】
・上記のように、配向工程の作業性が向上することによって、複数の複合成形体において、エポキシ樹脂の分子鎖をより均一に配向させることができる。その結果、エポキシ樹脂分子鎖の配向状態のばらつき、従って、エポキシ樹脂複合成形体10のその配向方向における熱膨張係数のばらつきが低減される。よって、エポキシ樹脂複合成形体10の生産性が向上する。
【0052】
・第2実施形態の製造方法によれば、エポキシ樹脂組成物16を繊維クロス15に含浸させて、一旦、エポキシ樹脂組成物16をBステージ状態としてプリプレグ18を形成する。したがって、繊維クロス15はプリプレグ18中において固定される。このプリプレグ18を積層することによってエポキシ樹脂複合成形体10を形成するため、エポキシ樹脂複合成形体10中において、積層された繊維クロス15はほぼ平行に配置され、かつその間隔はほぼ一定に保たれる。これにより、エポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数のばらつきを、特に繊維クロス15の積層方向、すなわち、エポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向において、より低減することができる。
【0053】
・第2実施形態では、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場の印加によって配向させているので、前記分子鎖を高度に配向させることができるとともに、その配向方向を容易に制御することができる。したがって、第2実施形態の製造方法によれば、第1の平面に沿って配置された繊維と、第1の平面にほぼ直交するように高度に配向されたエポキシ樹脂の分子鎖とによって、熱膨張係数が等方的に低減されたエポキシ樹脂複合成形体を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。
【0054】
・第2実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂複合成形体10中、繊維クロス15(または単繊維群)を成形体の表面(第1の平面)と平行になるように配置し、エポキシ樹脂の分子鎖をその表面に直交する方向、すなわち、成形体の厚み方向に配向させている。このように、エポキシ樹脂複合成形体10のマトリックスであるエポキシ樹脂の分子鎖を繊維クロス15(または単繊維群)と交わる方向に配向させることにより、繊維クロス15(または単繊維群)が拡がる方向(表面に沿う方向)と、それと交わってエポキシ樹脂の分子鎖が延びる方向(厚み方向)の双方において、熱膨張を低減することが可能となる。また、エポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロスの繊維や繊維間の空隙と比較すると非常に小さいため、その配向が繊維クロス15(または単繊維群)によって阻害され難い。したがって、成形体内に繊維クロス15(または単繊維群)を高密度に含有させることができる。
【0055】
第2実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂複合成形体10は、各種複合材料、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体等の絶縁材に適用することができる。それにより、各種電子部品において、エポキシ樹脂と他の材料との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減することができる。
【0056】
なお、第2実施形態を以下のように変更して製造することもできる。
・エポキシ樹脂複合成形体10において、繊維はその繊維軸(長軸)が第1の平面に沿
うように配向されていればよく、必ずしも第1の平面と平行である必要はない。また、エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されていればよく、第1の平面に直交している必要はない。
【0057】
・エポキシ樹脂複合成形体10は、平板形状以外の任意の形状に成形されてもよい。
・繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。その場合には、例えば、単繊維はその繊維軸がエポキシ樹脂複合成形体10の表面と平行な面内に配置され、かつ、好ましくは、単繊維の繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、エポキシ樹脂の分子鎖は成形体1の厚み方向(図1のZ方向)に沿って配向される。この場合、上記製造方法において、プリプレグ18を形成する際、単繊維群の繊維軸がキャビティ12の底面12aに沿って、好ましくは平行に、かつ、各繊維の繊維軸が向かう方向はランダムとなるように、繊維群をキャビティ12内に配置する。
【0058】
・上記実施形態において、繊維クロス15に加えて単繊維群を用いる場合、前記エポキシ樹脂組成物16の代わりに、予め単繊維群を添加したエポキシ樹脂組成物を金型21のキャビティ22内に充填して、同組成物を繊維クロス15に含浸させてプリプレグ18を形成してもよい。この時、キャビティ22の厚みと比べて、単繊維の方が長い場合には、各単繊維は、その繊維軸がキャビティ12の底面に沿う方向に自動的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、各単繊維の繊維軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。
【0059】
・繊維クロス15の代わりに単繊維群を用いる場合には、前記エポキシ樹脂組成物16の代わりに、予め単繊維群を添加したエポキシ樹脂組成物を金型21のキャビティ22内に充填してもよい。この時、キャビティ22の厚みと比べて、単繊維の方が長い場合には、各単繊維は、その繊維軸がキャビティ12の底面に沿って自発的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、各単繊維の繊維軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。次に、前記組成物を加熱溶融させたのち、冷却することにより、配向した繊維を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する。次に、少なくとも1枚の前記中間体を金型11のキャビティ12内に配置する。次に、上述のプリプレグ18の配向工程と同様に、金型11のキャビティ12内に配置された前記中間体を所定の温度で加熱、加圧しながら、金型11の上下に配置された一対の永久磁石13によって、前記中間体に所定の磁束密度の磁場を印加する。これにより、前記中間体内のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる。このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、前記中間体を完全に硬化させて、金型11から取り出す。これにより、同様のエポキシ樹脂複合成形体を得ることができる。
【0060】
単繊維群を用いる場合、いずれの製造方法においても、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場によって配向させる際に、エポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一の方向に単繊維群をも配向させないように留意することが必要である。
【0061】
・エポキシ樹脂複合成形体10において、プリプレグ18を成形体の厚み方向と平行に配置し、エポキシ樹脂の分子鎖を該成形体の表面と平行に配向させてもよい。この場合、上記製造方法において、磁力線Mがキャビティ12内のエポキシ樹脂組成物16の表面と平行になるように、一対の永久磁石13を金型11の両側方に対向させて配設する。
【0062】
・前記永久磁石13は、金型11を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石13を省略してもよい。
・前記永久磁石13は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
【0063】
・磁力線Mは、曲線状等であってもよい。また、磁力線Mが二方向以上に延びるように永久磁石13を配設してもよい。さらに、磁力線M又は金型11のいずれか一方を回転させてもよい。
【0064】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態は、エポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品として、図13に示すプリント配線基板20の製造方法を提供する。プリント配線基板20は、第2実施形態の製造方法によって形成され得るエポキシ樹脂複合成形体10と、エポキシ樹脂複合成形体10を挟むように、該複合成形体10の上下両面上に形成された導電層14a,14bとを備える。プリント配線基板20において、エポキシ樹脂複合成形体10中の繊維クロス15は、該プリント配線基板20の表面と平行になるように配置されている。また、エポキシ樹脂複合成形体10中のエポキシ樹脂の分子鎖は、繊維クロス15と直交する方向、すなわち、同基板20の厚み方向に配向されている。これにより、プリント配線基板20は、熱膨張係数が等方的に小さくなるように制御されている。
【0065】
プリント配線基板20を製造するための第3実施形態の製造方法は、上述した第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体10の製造方法において、金型11のキャビティ12内にプリプレグ18(または中間体)を配置する工程の前、同工程の後、および同工程内の少なくともいずれかにおいて、図14に示すように、例えば、金属箔からなる導電層14aをキャビティ12の底面上に配置し、金属箔からなる導電層14bを積層されたプリプレグ18の最上面上に配置する。その後、図12に示した第2実施形態の製造方法と同様に、磁場を印加することによって、プリプレグ18(または中間体)中のエポキシ樹脂の分子鎖をプリプレグ18(または中間体)の厚さ方向に配向させる。このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、すなわち前記磁場を印加したまま、引き続き加熱することによって、プリプレグ18(または中間体)を完全に硬化させて、金型11から取り出すことにより、上面および底面に導電層14a,14bが設けられたエポキシ樹脂複合成形体が得られる。さらに、導電層14a,14bを、例えば、エッチングなどの周知の方法によってパターンニングして回路を形成することによって、プリント配線基板20を得ることができる。
【0066】
第3実施形態においても、プリプレグ18中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる方法として、第1実施形態において挙げた方法と同様の方法を用いることができる。また、磁場発生装置の種類およびエポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度の範囲についても、第1実施形態の場合と同様である。
【0067】
第3実施形態においては、プリント配線基板の要求特性として、絶縁体部が電気的に高絶縁性であることが挙げられるため、前記エポキシ樹脂複合成形体10内に配置された繊維クロス及び単繊維群も絶縁性であることが好ましい。導電層14a,14bとしては、金属箔、金属鍍金層、導電性ペースト層など、電気回路を形成可能なものが使用できる。
【0068】
第3の実施形態によれば、エポキシ樹脂複合成形体を用いたプリント配線基板の製造に際し、第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法と同様の効果を得ることができる。従って、第3実施形態の製造方法によれば、上述したように熱膨張係数が等方的に低減されたエポキシ樹脂複合成形体10を絶縁体とし、その絶縁体に導電層を設けたプリント配線基板20を、作業性が良好でかつ生産性が高い方法で製造することができる。また、そのようなプリント配線基板20は、導電層14a,14bと絶縁体(エポキシ樹脂複合成形体10)との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減し、スルーホール安定性を向上させることができるものである。
【0069】
また、第3実施形態には、第2実施形態における変更に加えて、以下の変更を適用することも可能である。
・金属箔などからなる導電層は、1層でもよいし複数の層であってもよい。また、そのような導電層は、キャビティ12の底面、上面、および積層したプリプレグ18の間の少なくともいずれかに配置され得る。
【0070】
・予めエポキシ樹脂複合成形体を製造し、接着層などを介して、金属箔などからなる導電層をエポキシ樹脂複合成形体に一体化させることによりプリント配線基板を形成してもよい。
【0071】
・導電層として、金属箔の代わりに、金属鍍金層あるいは導電性ペースト層を用いてもよい。
第1〜第3実施形態の製造方法によって得られるエポキシ樹脂成形体1、エポキシ樹脂複合成形体10およびプリント配線基板20において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αは、0.5以上1.0未満の範囲にある。より詳細には、前記配向度αは、平均値で0.5以上1.0未満の範囲にあり、かつその標準偏差は0.010以下である(サンプル数:20)。
【0072】
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
(ただし、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表す。)
配向度αを求めるには広角X線回折測定(透過)を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)に配向がある場合には同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。まず、成形体試料について、このデバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示す回折パターンを得る(図15参照)。この回折パターンにおいて、横軸はX線の回折角度θの2倍の角度2θを示し、2θ=20度の位置に確認されるピークは、硬化したエポキシ樹脂の分子鎖間の距離を表すものと考えられている。
【0073】
エポキシ樹脂のこの回折ピークの角度(ピーク散乱角)は、エポキシ樹脂の構造の違いやエポキシ樹脂組成物の配合の違いによって、約15〜30度の範囲となる場合もあるが、概ね20度前後に現れる。測定角をこの回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)に固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までの試料のX線回折強度分布を測定することにより、図16に示すようなピーク散乱角における方位角方向のX線回折強度分布が得られる。この強度分布におけるピークが急峻であるほど、エポキシ樹脂の分子鎖が一定方向に高度に配向されていることを示している。従って、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅Δβ)を求め、この半値幅Δβを上記式(1)に代入することによって、エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αを算出することができる。図16に示す方位角方向の強度分布の場合、配向度αは0.72である。
【0074】
エポキシ樹脂の分子鎖の配向により、エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率やエポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数をどの程度制御できるかは、配向度αの値に依存する。エポキシ樹脂成形体1およびエポキシ樹脂複合成形体10において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αが前記範囲にある場合、その配向方向において、エポキシ樹脂成形体1の熱伝導率を向上させることができ、またエポキシ樹脂複合成形体10の熱膨張係数を有意に低下させることができる。また、配向度αの標準偏差が上記範囲にあると、複数の成形体、複合成形体、および、プリント配線基板を生産した場合、複数の製品において、熱伝導率および熱膨張係数における上述の効果を安定して得ることができる。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂成形体1エポキシ樹脂複合成形体において、この配向度αが0.5未満であると、成形体の熱膨張係数が低下せず、十分な効果が得られない。一方、配向度αは、半値幅Δβが常に正の値を示すため、上記(1)式から1.0以上の値はとり得ない。
【0076】
前記エポキシ樹脂複合成形体10において、第1の平面、すなわち本実施形態においては、該複合成形体10の表面に平行な方向、およびそれに直交する方向における熱膨張係数は、いずれも5×10−6(上付きに変更のこと)〜50×10−6(/K)の範囲、より好ましくは、10×10−6〜40×10−6(/K)の範囲にあり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数とそれに直交する方向における熱膨張係数との差は、30×10−6(/K)以下である。さらに、前記熱膨張係数の標準偏差は、いずれも1.0以下である(サンプル数:20)
以下、本発明の製造方法によって製造されるエポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体の各構成要素について詳述する。
【0077】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。これらの種類のエポキシ樹脂は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。さらに、このようなエポキシ樹脂のなかでも、特に分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂(主鎖型液晶性エポキシ樹脂)を用いることが好ましい。分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の液晶状態を利用することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を容易に配向させることができる。また、その配向度も容易に制御することも可能である。エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂のうち、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の含有量は、50重量%以上であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0078】
分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂としては、分子の主鎖にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂が特に好ましい。メソゲン基とは、液晶性を示す官能基を示し、具体的には、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0079】
エポキシ樹脂分子鎖内に含まれるこれらのメソゲン基の数は、少なくとも一つ以上であり、二つ以上であってもよい。また、メソゲン基とメソゲン基の間に脂肪族炭化水素基、脂肪族エーテル基、脂肪族エステル基、シロキサン結合等から構成される屈曲鎖(スペーサ)と呼ばれる柔軟構造部を有していてもよい。
【0080】
このような液晶性エポキシ樹脂は、ある温度領域で液晶状態となり、部分的にメソゲン基が規則的に配列しやすい性質を有している。これらの液晶性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって、液晶に固有の強い複屈折性の発現により確認することができる。液晶状態の種類としては、ネマティック、スメクティック、コレステリック、ディスコティック等のいずれの液晶状態を発現するものでもかまわない。なお、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂と、分子内にメソゲン基を含まないエポキシ樹脂とを混合して用いてもよい。
【0081】
<繊維材料>
本発明のエポキシ樹脂複合成形体に用いられる繊維材料は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミックス繊維、有機繊維から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0082】
また、繊維材料は、繊維クロスおよび単繊維群の少なくともいずれかであることが好ましい。また、単繊維の生産性や取り扱い、エポキシ樹脂組成物への配合のし易さなどを考慮すると、単繊維の直径は0.1〜30μmであり、繊維クロスにおける単繊維の織り密度は横糸・縦糸ともに、5〜50本/25mm程度が実用的に好ましい。
【0083】
繊維クロス中の繊維は、エポキシ樹脂組成物が含浸し易いように、繊維同士が離間されて織成されていてもよい。また、縦糸と横糸の編みこむ数の割合についても、適宜調整しても構わない。また、繊維クロスは、フェルト布などのような繊維を高分子樹脂で固定した織布または不織布であっても構わない。
【0084】
また、繊維クロスと単繊維群とを組み合わせて使用してもよい。さらに、2種類以上の繊維クロス及び単繊維群を併用してもよい。
また、繊維クロスおよび単繊維群のうち、少なくとも1種類の繊維クロスおよび単繊維群がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と交わる方向に配置されていれば、他の繊維クロスおよび単繊維群は無配向であっても、エポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一方向に配置されていても構わない。
【0085】
ここで、繊維の異方性反磁性磁化率χaが大きい値であると、磁場雰囲気下で繊維は磁力線に平行あるいは直交する方向に大きな力を受ける。異方性反磁性磁化率χaとは、外部より磁場を印加することにより生じる、繊維の繊維軸方向の磁化率χ//から、繊維軸に直交する方向の磁化率χ⊥差し引いた反磁性磁化率の異方性を示す値である。この異方性反磁性磁化率χaが正の値を示す繊維、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維などは、磁場雰囲気下で、繊維軸が磁力線に沿って平行になるように力を受ける。また、エポキシ樹脂、特に主鎖型液晶性エポキシ樹脂の分子鎖も磁場雰囲気下で磁力線に沿って平行になるように力を受け、その方向に配向する。
【0086】
このように、エポキシ樹脂の分子鎖も、磁力線と平行になるように配向する性質を有する。したがって、異方性反磁性磁化率χaが正の値を示す単繊維群を使用し、エポキシ樹脂の分子鎖を磁場によって配向させる場合には、磁場によって単繊維群がエポキシ樹脂の分子鎖の配向方向と同一の方向に配向されないように留意する必要がある。この方法としては、磁場によって配向され難い繊維、すなわち異方性反磁性磁化率χa自体が小さい繊維を用いるか、あるいは、配向するのにより大きな力を必要とするように、長い繊維を用いる、凝集・密集している繊維を用いる、比重の高い繊維を用いる、もしくは高粘度のエポキシ樹脂組成物を使用するなどの方法が挙げられる。
【0087】
<エポキシ樹脂組成物>
エポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体を形成するエポキシ樹脂組成物16には、上述のエポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂を反応硬化させるための硬化剤とが配合されている。配合される硬化剤の種類及び量、熱硬化条件については特に限定されるものではない。例えば、通常のアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、潜在性硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート類、ブロックイソシアネート等を用いることができる。それらの硬化剤は単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。また、これらの硬化剤の配合量は、通常これらの硬化剤が使用される際の使用量と同様である。
【0088】
また、単繊維群を用いてエポキシ樹脂複合成形体を形成する場合には、エポキシ樹脂組
成物16に単繊維群が添加されていてもよい。
さらに、エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂に加えて、他の反応硬化性樹脂を少量含有していてもよい。
【0089】
また、エポキシ樹脂成形体およびエポキシ樹脂複合成形体における熱伝導率のさらなる向上、熱膨張係数のさらなる低減、並びに破壊靭性、曲げ強度、誘電率などの諸特性の向上を目的として、前記エポキシ樹脂組成物に充填剤を適量配合することも可能である。充填剤としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属炭酸化合物、金属被覆樹脂、樹脂フィラー、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素系材料、タルク、クレー等が挙げられる。より詳細には、金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としては酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。エポキシ樹脂と充填剤との濡れ性の改善や、エポキシ樹脂と充填剤との界面を補強したり、エポキシ樹脂に対する充填剤の分散を促進したりするために、前記充填剤に通常のカップリング剤処理を施してもかまわない。
【0090】
なお、エポキシ樹脂組成物には必要に応じて、硬化促進剤、硬化遅延剤、補強材、ゴムやエラストマー等の低応力化剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、エネルギー消光剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、難燃剤、消泡剤、可塑剤、溶剤等を添加することも可能である。
【0091】
<Bステージ状態>
本発明において、Bステージ状態とは、エポキシ樹脂組成物中において、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応が一部進行した状態で停止された半硬化状態を示す。従って、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にするとは、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を一部進行させた状態で、その硬化反応を停止させて、該組成物を半硬化状態にすることを意味する。この硬化反応の反応進行率は、示差走査熱量分析によって、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させた場合の反応熱量Q1と、未硬化状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させた場合の反応熱量Q2とを測定することによって、下記式(2)から求められる。
【0092】
反応進行率(%)={(Q2−Q1)/Q2}×100・・・(2)
本発明においてBステージ状態のエポキシ樹脂組成物における硬化反応進行率は70%以下である。この硬化反応進行率が70%以下であれば、その組成物に含まれるエポキシ樹脂の分子鎖の配向が可能となる。前記反応進行率は、好ましくは10〜60%、より好ましくは20〜56%である。反応進行率が70%より高くなると、硬化反応が進行し過ぎているために、後の配向工程において十分な分子鎖の配向が得られず、所望の特性が得られない。また、反応進行率が低過ぎる場合には、後の配向工程における配向は可能であるが、そのようなBステージ状態のエポキシ樹脂組成物は、粘着性を有する状態となることがあり、使用する用途によっては作業性が悪化する。Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物の反応進行率は、エポキシ樹脂と硬化剤との反応温度や反応時間、反応後の冷却速度等により調整することができる。
【0093】
また、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を保存する場合は、反応がそれ以上進行しない低温(例えば10°C以下)で保存する必要がある。保存中にエポキシ樹脂の硬化反応が進行してしまうと、後の配向工程でエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることが困難になるおそれがある。
【0094】
<プリプレグ>
上記実施形態において、プリプレグ18は、繊維クロスにエポキシ樹脂組成物を含浸させ、そのエポキシ樹脂組成物の硬化反応を一部進行させた後、硬化反応を停止し、前記エポキシ樹脂組成物を半硬化状態、すなわちBステージ状態にした中間生成物である。
【0095】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0096】
<エポキシ樹脂成形体>
(実施例1)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂であるテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Aとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度170℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得た。次に、磁束密度5テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお、印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0097】
(実施例2)
実施例1と同一のエポキシ樹脂組成物16を使用し、表1に記載の磁束密度に変更した以外は実施例1と同様にシートを作製した。
【0098】
(実施例3)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂である1,5−ビス−[4−[2−アザ−2−(メチル−4−ヒドロキシフェニル)−ビニル]フェノキシ]ペンタンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Bとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を得た。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を105℃で、時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。
なお、印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0099】
(実施例4)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂であるジヒドロキシ−α−メチルスチルベンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Cとする)と硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1:0.5のモル比で混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を調製した。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ化した組成物16を150℃で、1
時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0100】
(実施例5)
エポキシ樹脂として液晶性エポキシ樹脂である1,4−ビス−[4−(4−ヒドロキシベンゾエート)フェノキシ]ブタンジグリシジルエーテル(以下、液晶性エポキシ樹脂Dとする)と、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1モル:0.5モルで混合することによってエポキシ樹脂組成物16を調製した。このエポキシ樹脂組成物16を温度150℃に加熱した金型11のキャビティ12に入れて溶融した後、20℃に制御されたアルミ製の冷却板の上に金型11を移動して冷却し、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を調製した。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物17を150℃で、3時間にわたって加熱することにより、前記組成物17中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物17を完全に硬化させた。これにより、厚さ2mmのシート状のエポキシ樹脂成形体1が得られた。なお印加した磁場の磁力線の方向は、得られるシート状のエポキシ樹脂成形体1の厚み方向とした。
【0101】
(実施例6)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例2と同様の材料、組成および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体1を作製した。
【0102】
(実施例7)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例2と同様の材料、組成および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体1を作製した。
【0103】
(比較例1〜5)
実施例1〜5と同一の各エポキシ樹脂組成物を溶融した後、冷却せずに、エポキシ樹脂組成物が充填された金型を高温に維持したまま磁場中に移動させて、エポキシ樹脂の分子鎖の配向およびエポキシ樹脂組成物の完全硬化を行った。それ以外は、それぞれ実施例1〜5の条件および方法に従って、シート状の各エポキシ樹脂成形体を作製した。
【0104】
(比較例6)
比較例2と同一のエポキシ樹脂組成物に硬化遅延剤としてp−トルエンスルホン酸エチルエステルを5重量部添加した。この組成物を用いて、加熱時間(硬化時間)を20分間とした以外は、比較例2と同様の条件および方法でシート状のエポキシ樹脂成形体を作製した。
【0105】
(比較例7)
実施例2と同一のエポキシ樹脂組成物を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例2と同様にシート状のエポキシ樹脂成形体を作製した。
【0106】
実施例1〜5、比較例1〜7のエポキシ樹脂成形体の配向度αを理学電機株式会社製のX線回折装置(RINT RAPID)を使用して、上述した方法によって算出した。実施例2のX線回折測定による赤道方向の回折パターンの一例を図15に、回折ピーク角度2θ=20度における方位角分布の一例を図16に示す。また、比較例1のX線回折測定による赤道方向の回折パターンの一例を図17に、回折ピーク角度2θ=20度における方位角分布の一例を図18に示す。測定は20個の各成形体について行い、配向度αについて平均値と、ばらつきの指標として標準偏差を算出した。
【0107】
また、実施例1〜7、比較例1〜7について、厚さ方向の熱伝導率λをレーザーフラッシュ法で測定した。測定は20個の成形体について行い、熱伝導率の平均値と、ばらつきの指標として標準偏差とを算出した。
【0108】
実施例1〜7、比較例1〜7について、配向度αおよび熱伝導率λの平均値および標準偏差を表1に示す。
【0109】
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜7では、いずれも得られたシートの配向度αの平均値が0.5以上であり、厚さ方向の熱伝導率λの平均値が0.5W/(m・K)以上の優れた熱伝導性を有している。このように実施例1〜7では、高性能化された最近の電子部品に十分に対応できる熱伝導性シートを得ることができた。さらに、実施例1〜7の製造方法では、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用したため、作業に習熟せずとも比較的容易にエポキシ樹脂成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、配向度αおよび熱伝導率λの標準偏差が小さく、製造上のばらつきが少ないことを示しており、生産性は高かった。
【0110】
それに対し、比較例1〜5では、配向度αが0.5以上で、厚さ方向の熱伝導率λが0.5W/(m・K)以上の熱伝導性を有したシートが得られているものの、エポキシ樹脂組成物をBステージ化せずに、磁場を印加するために、金型を高温のまま移動させるなど、熟練を要する工程があるため、作業性に劣った。そのために配向度αおよび熱伝導率λのばらつきを示す標準偏差が大きな値を示しており、生産性が悪化している。また、比較例6では硬化遅延剤の効果により作業性は改善され、配向度αおよび熱伝導率λの標準偏差はやや小さくなった。しかしながら、硬化遅延剤を添加しない場合(実施例2)と比較して2倍の硬化時間を必要とするため、生産性は悪化した。
【0111】
また、比較例7では、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物においてエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎているため、後の磁場印加工程でエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができず、十分な熱伝導率を有するシートが得られなかった。
【0112】
<エポキシ樹脂複合成形体を用いたプリント配線基板>
(実施例8)
第3実施形態の製造方法に従って、エポキシ樹脂複合成形体を絶縁層として用い、導電層として銅箔を使用したプリント配線基板を作製した。エポキシ樹脂として、分子の主鎖にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭ファイバーグラス製「MS130」(重量106g/m2、密度19本/25mm)を使用した。導電層14a,14bとしては、日鉱マテリアルズ製電解銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が8vol%となるように設定した。まず、1枚のガラスクロスに温度170℃に加熱して溶融させたエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後、直ちに冷却固化させることにより、ガラスクロスに含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。
【0113】
次に、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に3枚のプリプレグ18をキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。さらに、そのプリプレグ18の上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたって加熱および加圧することによって、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、プリプレグ18を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向とした。次に、その積層板にドリルによって穴径0.9mmの穴を200個形成し、各穴のランド径1.3mm、回路幅0.2mm,回路間隔を0.2mmとなるように銅スルーホールメッキ処理を経て、回路を形成し、プリント配線基板20を作製した。
【0114】
(実施例9及び10)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を変更した以外は、実施例8と同様の材料、組成、および方法で各プリント配線基板20を作製した。
【0115】
(実施例11)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)および磁束密度を変更した以外は、実施例8と同様の材料、組成、および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0116】
(実施例12)
実施例8と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合した。その混合物に、実施例6〜9のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長3mm)を添加して、エポキシ樹脂組成物16を調製した。ガラス繊維の添加量は、成形体におけるガラス繊維含有量が21vol%となるように設定した。前記導電層14a,14bとして実施例1と同一の銅箔を使用した。まず、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃に加熱した金型11のキャビティ12の中に充填し加熱溶融した後、すぐに冷却固化させて、ガラス繊維を含有したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなるシート状の中間体を得た。次に、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に前記中間体を重ね
て配置し、さらにその上に別の銅箔を積層した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記中間体を170℃、10分間にわたって加熱することにより、該中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、該中間体を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板が得られた。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例6との同様の方法で、プリント配線基板20を作製した。
【0117】
(実施例13)
実施例8と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合してエポキシ樹脂組成物16を調製した。実施例8〜11で使用したガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(長さ30mm)を使用した。導電層14a,14bとしては、日鉱マテリアルズ製電解銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラス繊維の量は、成形体におけるガラス繊維含有量が17vol%となるように設定した。まず、金型11のキャビティ12内にガラス繊維の繊維軸が、キャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティの中に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、直ちに冷却固化させて、ガラス繊維に含浸したエポキシ樹脂がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。次に、このプリプレグ18を用いて、実施例10と同様の方法で、プリント配線基板20を作製した。
【0118】
(実施例14)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例10と同様の材料、組成および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0119】
(実施例15)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例10と同様の材料、組成および方法でプリント配線基板20を作製した。
【0120】
(比較例8)
実施例8と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラスクロスを用いて、プリプレグを作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に3枚のガラスクロスをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、エポキシ樹脂組成物16をガラスクロスに含浸させた後、そのエポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたってエポキシ樹脂組成物16を加熱することにより、該組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、実施例6と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0121】
(比較例9及び10)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を変更した以外は、比較例8と同様の方法で各プリント配線基板を作製した。
【0122】
(比較例11)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)および磁束密度を変更した以外は、比較例8と同様の方法でプリント配線基板を作製した。
【0123】
(比較例12)
実施例10と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物を完全に硬化させた。これにより、厚み2mmの積層板が得られた。印加した磁場の磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例6と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0124】
(比較例13)
実施例11と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ化した組成物を作製しない方法で、プリント配線基板を作製した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その上にガラス繊維の繊維軸が銅箔の表面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティ12内に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、該エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、そのエポキシ樹脂組成物16上にさらに別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、エポキシ樹脂組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例8と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0125】
(比較例14)
実施例8と同一のエポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例8と同様の条件および方法でプリント配線基板を作製した。
【0126】
実施例8〜15及び比較例8〜14で得られたプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分についてエポキシ樹脂の配向度αを測定した。配向度αの測定は、実施例6〜10および比較例8〜13の各プリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用いて、エポキシ樹脂の配向度αをX線回折装置(理学電機株式会社製「RINT RAPID」)によって測定したX線回折パターンより求めた。測定は20個のプリント配線基板について行い、配向度αの平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0127】
また、各実施例及び比較例で得られた各プリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分について、プリント配線基板の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。熱膨張係数の測定は、各実施例および比較例のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用い、熱機械分析装置(株式会社島津製作所「TMA−50」)によって、荷重3g、昇温速度10°C/分にて行った。測定は20個のプリント配線基板について行い、熱膨張係数の平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0128】
さらに、各プリント配線基板について、スルーホール信頼性試験を行った。各プリント配線基板をJIS−C0025に準拠して、260°Cの油および20°Cの水中へ、それぞれ10秒間ずつ浸漬させることを1サイクルとした。このサイクルを繰り返して、断線が発生するまでのサイクル数を計測した。この試験を20個のプリント配線基板について行い、サイクル数の平均値と、ばらつきの指標として、その標準偏差を算出した。
【0129】
実施例8〜15及び比較例8〜14において得られたプリント配線基板について、上記測定値および試験結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
表2の結果から明らかなように、実施例8〜15では、得られた基板の配向度αの平均値が0.5以上であり、かつその標準偏差はいずれも0.01以下の低い値を示した。また、基板の表面に沿う方向と、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させた厚み方向の双方において、平均的に低い熱膨張係数を示すとともに、それらの標準偏差はいずれも1.0以下の低い値を示した。スルーホール信頼性についても十分なサイクル数であった。各標準偏差が小さいことから、実施例8〜15で得られたプリント配線基板では、製造上のばらつきが小さいことから、実施例8〜15の製造方法は生産性が高いことが分かる。つまり、実施例8〜15の製造方法によって、熱膨張係数が小さく等方的に制御され、スルーホールにおける熱応力が低減されたプリント配線基板を安定して製造することができた。さらに
、Bステージ状態のプリプレグまたは中間体を使用したため、作業に習熟せずとも、比較的容易にエポキシ樹脂複合成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、実施例8〜11によるプリント配線基板の断面を顕微鏡で観察したところ、ガラスクロスが均等に積層されていた。
【0131】
一方、比較例8〜13においては、配向度は0.5以上で、熱膨張係数の平均値は小さく等方的であり、スルーホール信頼性試験の平均サイクル数は十分な回数となっている。しかしながら、それぞれの標準偏差が大きく、熱膨張性係数およびサイクル数にばらつきが生じている。従って、比較例8〜12においては、熱膨張係数が小さく等方的に制御され、スルーホールにおける熱応力が低減されたプリント配線基板を安定して生産することはできなかった。また、実施例8〜15のプリプレグまたはBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用した場合と比べ、高温の金型を磁場装置内に移動させるなどの熟練を要する工程があるために作業性に劣った。さらに、比較例8〜11によるプリント配線基板の断面を観察したところ、プリント配線基板の内部でガラスクロスが偏って積層されていた。
比較例14においては、Bステージ状態のプリプレグにおいてエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎていたため、後の磁場印加工程においてエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができなかった。そのため、厚さ方向の熱膨張係数を十分に低下させることができず、スルーホール信頼性試験においても十分なサイクル数を得ることができなかった。
【0132】
<エポキシ樹脂複合成形体>
(実施例16)
第2実施形態の製造方法に従って、エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。エポキシ樹脂として、分子の主鎖にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭ファイバーグラス製「MS130」(重量106g/m2、密度19本/25mm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が8vol%となるように設定した。まず、1枚のガラスクロスに温度170℃に加熱して溶融させたエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後、直ちに冷却固化させることにより、ガラスクロスに含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。
【0133】
次に、金型11のキャビティ12内に3枚のプリプレグ18を、キャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたって加熱および加圧することによって、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、プリプレグ18を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体10を得た。尚、印加した磁場の磁力線の方向はエポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向に一致するように設定した。
【0134】
(実施例17及び18)
キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を3枚から5枚または10枚に変更した以外は、実施例16と同様の材料、組成、および方法で各エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0135】
(実施例19)
キャビティ12内に配置するプリプレグ18の枚数(ガラスクロスの含有量)を10枚に変更し、磁束密度を5テスラに変更した以外は、実施例16と同様の材料、組成、および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0136】
(実施例20)
実施例16と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合した。その混合物に、実施例16〜19のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長3mm)を添加して、エポキシ樹脂組成物16を調製した。ガラス繊維の添加量は、成形体におけるガラス繊維含有量が21vol%となるように設定した。まず、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃に加熱した金型11のキャビティ12の中に充填し加熱溶融した後、すぐに冷却固化させて、ガラス繊維を含有したBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなるシート状の中間体を得た。次に、金型11のキャビティ12内に前記中間体を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記中間体を170℃、10分間にわたって加熱することにより、該中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、該中間体を完全に硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体10が得られた。尚、印加した磁場の磁力線の方向はエポキシ樹脂複合成形体10の厚み方向と一致するように設定した。
【0137】
(実施例21)
実施例16と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合してエポキシ樹脂組成物16を調製した。実施例16〜19で使用したガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(長さ30mm)を使用した。使用するガラス繊維の量は、成形体におけるガラス繊維含有量が17vol%となるように設定した。まず、金型11のキャビティ12内にガラス繊維の繊維軸が、キャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティの中に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた後、直ちに冷却固化させて、ガラス繊維に含浸したエポキシ樹脂組成物がBステージ状態となったプリプレグ18を作製した。次に、このプリプレグ18を用いて、実施例8と同様の方法で、エポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0138】
(実施例22)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を175℃とした以外は、実施例18と同様の材料、組成および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0139】
(実施例23)
エポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を180℃とした以外は、実施例18と同様の材料、組成および方法でエポキシ樹脂複合成形体10を作製した。
【0140】
(比較例15)
実施例16と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラスクロスを用いて、プリプレグを作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。金型11のキャビティ12内に3枚のガラスクロスをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、エポキシ樹脂組成物16をガラスクロスに含浸させた。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃で、10分間にわたってエポキシ樹脂組成物16を加熱することにより、該組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体を得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0141】
(比較例16及び17)
キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を3枚から5
枚(比較例16)または10枚(比較例17)に変更した以外は、比較例15と同様の方法で各エポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0142】
(比較例18)
キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を10枚に変更し、磁束密度を5テスラに変更した以外は、比較例15と同様の方法でエポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0143】
(比較例19)
実施例18と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。まず、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、前記組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、同組成物を完全に硬化させた。これにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体が得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0144】
(比較例20)
実施例19と同様の材料および分量のエポキシ樹脂組成物およびガラス繊維を用いて、Bステージ化した組成物を作製しない方法で、エポキシ樹脂複合成形体を作製した。まず、金型11のキャビティ12内に、ガラス繊維の繊維軸がキャビティ12の底面に沿ってランダムな方向を向くように配置した。そのキャビティ12内に170℃で加熱溶融したエポキシ樹脂組成物16を注入し、該エポキシ樹脂組成物16をガラス繊維に含浸させた。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃で、10分間にわたって加熱することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させるとともに、エポキシ樹脂組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmのエポキシ樹脂複合成形体を得た。印加した磁場の磁力線の方向は得られるエポキシ樹脂複合成形体の厚み方向と一致するように設定した。
【0145】
(比較例21)
実施例10と同一のエポキシ樹脂組成物16を溶融する温度を190℃に変更した以外は、実施例10と同様の条件および方法でエポキシ樹脂複合成形体を作製した。
【0146】
実施例16〜23で得られたエポキシ樹脂複合成形体10について、第2実施形態において記載した方法により、エポキシ樹脂の配向度α、並びにエポキシ樹脂複合成形体の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。その結果、実施例16〜23のエポキシ樹脂複合成形体の配向度αおよび熱膨張係数について、対応する第2実施形態の実施例8〜15のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分における測定値とほぼ同様の値が得られた。従って、実施例16〜23で得られたエポキシ樹脂複合成形体10は、実施例8〜15のプリント配線基板と同様に、製造上のばらつきが小さい。従って、実施例16〜23の製造方法は、生産性が高いことが分かる。つまり、実施例16〜23の製造方法によって、熱膨張係数が小さく等方的に制御されたエポキシ樹脂複合成形体10を安定して製造することができた。さらに、Bステージ状態のプリプレグまたは中間体を使用したため、作業に習熟せずとも、比較的容易にエポキシ樹脂複合成形体を製造することができ、作業性は良好であった。また、実施例16〜19によるプリント配線基板の断面を顕微鏡で観察したところ、ガラスクロスが均等に積層されていた。
比較例15〜21で得られたエポキシ樹脂複合成形体についても、第2実施形態において記載した方法により、エポキシ樹脂の配向度α、並びにエポキシ樹脂複合成形体の表面
に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。その結果、比較例15〜21のエポキシ樹脂複合成形体の配向度αおよび熱膨張係数について、対応する第2実施形態の比較例8〜14のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分における測定値とほぼ同様の値が得られた。つまり、比較例15〜20においては、対応する第2実施形態の比較例8〜13の場合と同様に、配向度αおよび熱膨張係数の平均値は所望の範囲であったが、それらの標準偏差が大きかった。従って、比較例15〜20においては、熱膨張係数が小さく等方的に制御されたエポキシ樹脂複合成形体を安定して生産することはできなかった。また、実施例16〜23のプリプレグまたはBステージ状態のエポキシ樹脂組成物を使用した場合と比べ、磁場を印加するために、高温の金型を磁場装置内に移動させるなどの熟練を要する工程があるために作業性に劣った。さらに、比較例15〜18によるエポキシ樹脂複合成形体の断面を観察したところ、該複合成形体の内部でガラスクロスが偏って積層されていた。また、比較例21のエポキシ樹脂複合成形体では、第2実施形態の比較例14のプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分の場合と同様に、Bステージ状態のプリプレグにおけるエポキシ樹脂の硬化反応が進行しすぎていたため、後の磁場印加工程においてエポキシ樹脂の分子鎖を配向させることができなかった。その結果、比較例21のエポキシ樹脂複合成形体では、厚さ方向の熱膨張係数を十分に低下させることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】第1実施形態および第2実施形態の製造方法により得られるエポキシ樹脂成形体及びエポキシ樹脂複合成形体を示す斜視図。
【図2】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図3】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図4】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図5】第1実施形態のエポキシ樹脂成形体の製造方法を示す概略図。
【図6】第2実施形態により得られるエポキシ樹脂複合成形体を示す断面図。
【図7】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図8】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図9】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図10】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図11】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図12】第2実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図。
【図13】第3実施形態の製造方法により得られるプリント配線基板を示す断面図。
【図14】第3実施形態のプリント配線基板の製造方法を示す概略図。
【図15】実施例2で得られるエポキシ樹脂成形体のデバイ環の半径方向におけるX線回折強度分布の一例を示すX線回折パターン。
【図16】実施例2で得られるエポキシ樹脂成形体の方位角方向の強度分布の一例を示すグラフ。
【図17】比較例1で得られるエポキシ樹脂成形体のデバイ環の半径方向におけるX線回折強度分布の一例を示すX線回折パターン。
【図18】比較例1で得られるエポキシ樹脂成形体の方位角方向の強度分布の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0148】
1…エポキシ樹脂成形体、10…エポキシ樹脂複合成形体、11,21…金型、12,22…キャビティ、14a,14b…導電層、16…エポキシ樹脂組成物、18…プリプレグ、20…プリント配線基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、
Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態とし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記物品がエポキシ樹脂成形体であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、
前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、
前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、
その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程とをさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、
前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、
前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、
前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、
その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程とをさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、
前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記Bステージ状態にする工程は、前記エポキシ樹脂組成物を冷却することによって行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応の進行度は、70%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項1】
エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成される物品の製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程と、
Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を加熱により液体状態とし、磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、該組成物中のエポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物を完全に硬化させる工程とを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記物品がエポキシ樹脂成形体であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、
前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記物品が、前記エポキシ樹脂組成物と繊維材料とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、
前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、
その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程とをさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、前記エポキシ樹脂組成物を、第1の平面に沿って配置された繊維材料に含浸させる工程をさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、前記繊維材料に含浸されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、プリプレグを形成する工程を含み、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
複数の前記プリプレグを金型のキャビティ内に積層する工程と、
前記プリプレグに磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、プリプレグ中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、
前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記物品が、エポキシ樹脂組成物および繊維材料からなるエポキシ樹脂複合成形体と、該エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに設けられた導電層とを備えるプリント配線基板であり、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程の前に、
前記エポキシ樹脂組成物に繊維材料を添加する工程と、
その繊維材料が添加されたエポキシ樹脂組成物を、繊維材料が第1の平面に沿って配置されるように、金型のキャビティ内に注入する工程とをさらに有し、
前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にする工程は、繊維材料が第1の平面に沿って配置されたエポキシ樹脂組成物をBステージ状態にすることによって、前記繊維材料を含むBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなる中間体を形成する工程からなり、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程は、
前記中間体を金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記中間体に磁場、電場、およびせん断場のいずれかを印加することにより、前記中間体中のエポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程とを含み、
前記積層する工程の前、積層する工程中、積層する工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、前記複数のプリプレグの少なくとも1枚のプリプレグの少なくとも一面上に前記導電層を設ける工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記Bステージ状態にする工程は、前記エポキシ樹脂組成物を冷却することによって行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記Bステージ状態のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応の進行度は、70%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−154003(P2007−154003A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349736(P2005−349736)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】
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