説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れ、構造用接着剤として好ましく用いることができるエポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)100質量部と、コアシェル型粒子(B)5〜100質量部と、硬化剤(C)とを含有し、前記コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造用接着剤には、低温のみならず高温での接着強度および柔軟性が要求される場合がある。
【0003】
例えば、自動車のルーフレール、各種ピラー等の部位において、車体剛性や強度の確保等を目的として、スポット溶接と接着剤を併用した工法(ウェルドボンド工法)が採用されているが、このウェルドボンド工法に用いられる接着剤は、80℃程度の高温において鋼板に対する高い接着強度を有することが望まれる。自動車の走行時においてルーフレール、各種ピラー等の部位は高温になる場合があるからである。また、接着強度が高ければスポット溶接におけるスポット数を減らすことができるからである。
【0004】
また、例えば自動車のフード、ドア、トランクリッド等の開きもの(蓋もの)と呼ばれる部品は、基本的に外板(アウターパネル)と内板(インナーパネル)とから構成されており、その端部はほぼ全周にわたって「ヘミング」と呼ばれるかしめ構造が採用されているが、このヘミング部の接着に用いられる接着剤には高温での接着強度および柔軟性を有することが望まれる。自動車の走行時においてヘミング部は80℃程度の高温になる場合があるからである。また、ヘミング部の接着部位に負荷がかかった場合、応力が分散されず一点に集中しやすいからである。
【0005】
このような接着剤に関連するものとして、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
特許文献1には(A)特定のエポキシ樹脂、(B)コア/シェルの2層構造を有する特定性状のコアシェル型粉末状重合体、および(C)熱活性型硬化剤を必須成分とすることを特徴とする擬似硬化性を有するエポキシ樹脂系接着性組成物が記載されている。そして、このような組成物は耐衝撃性および引張り剪断強度やT字剥離強度などの接着性能に優れるとともに、擬似硬化性が良好であるなどの特徴を有していると記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−214310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の2層構造のコアシェル型粉末を含む接着剤は、低温から常温程度における強度は高いものの、80℃程度の高温における強度が低下することを本願発明者は見出した。
【0008】
本発明は、低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れ、構造用接着剤として好ましく用いることができるエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、エポキシ樹脂(A)100質量部と、コアシェル型粒子(B)5〜100質量部と、硬化剤(C)とを含有し、前記コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むエポキシ樹脂組成物が、低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れ、構造用接着剤として好ましく用いることができることを見出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次に示す1〜7である。
1. エポキシ樹脂(A)100質量部と、コアシェル型粒子(B)5〜100質量部と、硬化剤(C)とを含有し、
前記コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むエポキシ樹脂組成物。
2. 前記シェル層のガラス転移温度が50℃以上であり、前記シェル層に隣接する内層のガラス転移温度が−30℃以下である上記1に記載のエポキシ樹脂組成物。
3. 前記コアシェル型粒子(B)が、2層および/または3層である上記1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
4. 前記コアシェル型粒子(B)の1次粒子径の平均が50nm〜500nmである上記1〜3記載のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
5. 前記エポキシ樹脂(A)が、エポキシ当量220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂およびゴム変性エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む上記1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
6. 前記エポキシ樹脂(A)中、前記エポキシ当量220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂の量が0〜100質量%であり、前記ウレタン変性エポキシ樹脂の量が0〜100質量%であり、前記ゴム変性エポキシ樹脂の量が0〜100質量%である上記5に記載のエポキシ樹脂組成物。
7. 構造用接着剤として使用される上記1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れ、構造用接着剤として好ましく用いることができるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、エポキシ樹脂(A)100質量部と、コアシェル型粒子(B)5〜100質量部と、硬化剤(C)とを含有し、前記コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むエポキシ樹脂組成物である。
本発明のエポキシ樹脂組成物を以下「本発明の組成物」ともいう。
【0012】
エポキシ樹脂(A)について説明する。
本発明の組成物に含有されるエポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型のような多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm−クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)等が挙げられる。
【0013】
また、エポキシ樹脂(A)としては、例えば、東レ・ファインケミカル社製のフレップ10のようなエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ゴム変性エポキシ樹脂;ウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
エポキシ樹脂(A)はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
エポキシ樹脂(A)は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂であるのが好ましく、エポキシ当量220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂およびウレタン変性エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0015】
エポキシ当量220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ当量が220〜300g/eqであるのが好ましい。
エポキシ当量220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂の量は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、0〜50質量%であるのがより好ましい。
【0016】
ゴム変性エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有し、骨格がゴムであるエポキシ樹脂であれば特に制限されない。骨格を形成するゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル基末端NBR(CTBN)が挙げられる。
ゴム変性エポキシ樹脂は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ当量が200〜350g/eqであるのが好ましい。
ゴム変性エポキシ樹脂はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ゴム変性エポキシ樹脂の量は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、0〜60質量%であるのがより好ましい。
【0017】
ゴム変性エポキシ樹脂はその製造について特に制限されない。例えば、多量のエポキシ中でゴムとエポキシとを反応させて製造することができる。ゴム変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシ(例えば、エポキシ樹脂)は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
なお、本発明において、ゴム変性エポキシ樹脂のエポキシ当量およびその添加量は製造時に用いる過剰のエポキシ樹脂が含まれるため“そのエポキシを含んだゴム変性エポキシ樹脂”としての量を示すものとする。
【0018】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、分子中にウレタン結合と2個以上のエポキシ基とを有する樹脂であれば、その構造として特に限定されるものではない。ウレタン結合とエポキシ基とを効率的に1分子中に導入することができる点から、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタン結合含有化合物(X)と、ヒドロキシ基含有エポキシ化合物(Y)とを反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0019】
ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコールのようなポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ヒドロキシカルボン酸とアルキレンオキシドの付加物、ポリブタジエンポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。
なかでも、ポリエーテルポリオールを用いた場合に、密着性、柔軟性等に優れた硬化物が得られるので好ましい。
【0020】
ポリヒドロキシ化合物の分子量は、柔軟性と硬化性のバランスに優れる点から、質量平均分子量として300〜5000、特に500〜2000の範囲のものを用いることが好ましい。
【0021】
ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。例えば、脂肪族ポリマーイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香族炭化水素基を有するポリイソシアネート基が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0022】
上記の反応により、末端に遊離のイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーが得られる。これに1分子中に少なくとも1個の水酸基を有するエポキシ樹脂(例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのジグリシジルエーテルおよびグリシドールなど)を反応せしめることでウレタン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0023】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ当量が200〜250g/eqであるのが好ましい。
ウレタン変性エポキシ樹脂はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
ウレタン変性エポキシ樹脂の量は、低温から高温における接着性能および柔軟性に優れるという観点から、エポキシ樹脂(A)中、0〜100質量%であるのが好ましく、0〜50質量%であるのがより好ましい。
エポキシ樹脂(A)中における前記ウレタン変性エポキシ樹脂の量が、5質量%以上である場合鋼板に対する接着がより十分であり、50質量%以下である場合接着強度を高くすることができる。ウレタン変性エポキシ樹脂の役割は、鋼板界面に極性の高いウレタン変性エポキシを局在化させることにより、鋼板界面に柔軟性を付与することである。
【0025】
ウレタン変性エポキシ樹脂はその製造について特に制限されない。例えば、多量のエポキシ(例えば、エポキシ樹脂)中でウレタンとエポキシとを反応させて製造することができる。ウレタン変性エポキシ樹脂を製造する際に使用されるエポキシは特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
なお、本発明において、ウレタン変性エポキシ樹脂のエポキシ当量およびその添加量は製造時に用いる過剰のエポキシ樹脂を含んだウレタン変性エポキシ樹脂”としての量を示すものとする。
【0026】
コアシェル型粒子(B)について説明する。
本発明の組成物に含有されるコアシェル型粒子(B)は、コア層およびシェル層を少なくとも有し、コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むものである。
コアシェル型粒子(B)は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、シェル層のガラス転移温度が50℃以上であり、前記シェル層に隣接する内層のガラス転移温度が−30℃以下であるのが好ましい。
また、コアシェル型粒子(B)は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、2層および/または3層であるのが好ましい。
【0027】
コアシェル型粒子(B)が2層構造の場合、シェル層に隣接する内層はコア層となり、コア層のガラス転移温度は−30℃以下となる。
【0028】
コアシェル型粒子(B)が3層構造の場合、コアシェル型粒子(B)は、シェル層に隣接する内層として中間層を有し、中間層のガラス転移温度が−30℃以下となる。3層構造のコアシェル型粒子(B)は、中心にガラス転移温度が50℃以上のコア層を有し、コア層を覆うようにガラス転移温度が−30℃以下の中間層を有し、さらに中間層を覆うようにガラス転移温度が50℃以上の最外殻にシェル層を有することができる。
コアシェル型粒子(B)は4層以上の構造を有していてもよい。例えば上記コア層の内部にガラス転移温度が50℃未満の層を有する4層構造であってもよい。
【0029】
コアシェル型粒子(B)を構成する各層について説明する。
まずシェル層について説明する。
本発明において、シェル層は、コアシェル型粒子(B)の最外殻の層であり、シェル層を製造する際に使用されるモノマーがアクリロニトリルを含む。シェル層によってコアシェル粒子の凝集を防ぐことができる。
【0030】
本発明において、シェル層を製造する際に使用されるモノマーはアクリロニトリルを含む。
本発明において、シェル層を製造する際に使用されるモノマーが極性の高いアクリロニトリルを含むことによって、マトリックスであるエポキシ樹脂(A)との相溶性が高まり分散性が向上する。
また、シェル層を形成するポリマーはニトリル基を有し、ニトリル基は、エポキシ樹脂(A)が硬化して生成するヒドロキシ基と水素結合を形成することができる。また、ニトリル基は、被着体(例えば、鋼板)の界面に対し作用し接着性を高めることができる。
このように、ニトリル基が形成することができるエポキシ樹脂(A)との水素結合および/または被着体に対する作用によって、本発明の組成物は、低温から高温における優れた接着性能および優れた柔軟性を有することができる。
【0031】
シェル層を製造する際に使用されるモノマーは、アクリロニトリル以外に、アクリロニトリルと共重合しうるモノマーとして、さらに、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル以外の非芳香族系単量体を含むことができる。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。なかでも、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、スチレンが好ましい。
【0032】
アクリロニトリルの量は、シェル層を製造する際に使用されるモノマーの全量中、好ましくは70質量%以下の範囲であり、より好ましくは50質量%以下の範囲である。
【0033】
アクリロニトリル以外の非芳香族系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキル;メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;シアン化ビニリデンが挙げられる。
アクリロニトリル以外の非芳香族系単量体の量は、シェル層を製造する際に使用されるモノマーの全量中、好ましくは70質量%以下の範囲であり、より好ましくは50質量%以下の範囲である。
【0034】
また、シェル層は、架橋性単量体にて架橋されていてもよい。
シェル層を製造する際に使用することができる架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ブチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。特に低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、ジビニルベンゼンが好ましい。架橋性単量体の量は、シェル層を製造する際に使用されるモノマーの全量中、通常、30質量%以下の範囲であり、好ましくは0.5〜20質量%の範囲であり、より好ましくは5〜15質量%の範囲である。
【0035】
本発明において、シェル層は、低温から高温における接着性能および耐衝撃性により優れるという観点から、スチレン−アクリロニトリル系共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ジビニルベンゼン系共重合体が好ましい。
また、本発明において、コアシェル型粒子(B)は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、シェル層のガラス転移温度が50℃以上であるのが好ましく、70〜150℃であるのがより好ましい。
なお、本発明において、ガラス転移温度は、動的な粘弾性測定におけるtanδのピーク値の温度をいう。
【0036】
次にシェル層に隣接する内層について以下に説明する。
シェル層に隣接する内層は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、そのガラス転移温度が−30℃以下であるのが好ましく、−110〜−30℃であることがより好ましく、−110〜−40℃であることがさらに好ましい。
【0037】
シェル層に隣接する内層を製造する際に使用することができるモノマーは、例えば、アルキル基の炭素数が2〜8であるアクリル酸アルキルエステル、ブタジエンを含むことができる。
アルキル基の炭素数が2〜8であるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
シェル層に隣接する内層を製造する際に使用することができるモノマーは、例えば、アルキル基の炭素数が2〜8であるアクリル酸アルキルエステルやブタジエンと共に、それに共重合可能な他のビニル系単量体を併用することができる。アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物や芳香族ビニリデン化合物、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のシアン化ビニルやシアン化ビニリデン、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられる。
アクリル酸アルキルエステルやブタジエンと共重合可能な他のビニル系単量体の量は、シェル層に隣接する内層を製造する際に使用するモノマーの全量に対して、通常、50重量%以下の範囲であり、好ましくは30重量%以下の範囲である。
【0038】
シェル層に隣接する内層は、架橋性単量体によって架橋されていてもよい。架橋性単量体は、上記と同義である。架橋性単量体の使用量は、シェル層に隣接する内層を製造する際に使用することができるモノマー全量中の、通常、0.01〜5質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜2質量%の範囲である。
【0039】
シェル層に隣接する内層を製造する際に使用することができるモノマーはさらにグラフト化単量体を含むことができる。グラフト化単量体は特に制限されない。
【0040】
コアシェル型粒子(B)が3層である場合のコア層について以下に説明する。
3層のコアシェル型粒子(B)におけるコア層を製造する際に使用することができるモノマーとしては、例えば、芳香族ビニル単量体が挙げられる。芳香族ビニル単量体は、上記と同義である。
【0041】
3層のコアシェル型粒子(B)におけるコア層を製造する際に使用することができるモノマーは、芳香族ビニル単量体以外に、さらに、非芳香族系単量体、架橋性単量体を含むことができる。
非芳香族単量体としては、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルやシアン化ビニリデンが挙げられる。非芳香族単量体の使用量は、コア層を製造する際に使用することができるモノマー全量中の、好ましくは50質量%以下の範囲であり、より好ましくは20質量%以下の範囲である。
【0042】
3層のコアシェル型粒子(B)におけるコア層は、架橋性単量体にて架橋されていてもよい。
架橋性単量体としては、例えば、分子内に二個以上の重合性エチレン性不飽和結合を有する単量体が挙げられる。具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニル単量体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、特にジビニルベンゼンが好ましい。
架橋性単量体の使用量は、コア層を製造する際に使用することができるモノマー全量中の、通常、30質量%以下の範囲であり、好ましくは0.5〜20質量%の範囲であり、より好ましくは5〜15質量%の範囲である。
【0043】
3層のコアシェル型粒子(B)におけるコア層を製造する際に使用することができるモノマーはさらにグラフト化単量体を含むことができる。
3層のコアシェル型粒子(B)におけるコア層のガラス転移温度が50℃以上の物質であることが好ましい。コア層のガラス転移温度は50〜200℃であることがより好ましく、80〜200℃であることがさらに好ましい。より高温で接着力を備える本発明の組成物が得られるからである。
【0044】
本発明において、コアシェル型粒子(B)は、1次粒子径の平均が50nm〜500nmであることが好ましく、50〜300nmであることがより好ましい。コアシェル粒子が凝集し難いので作業性が良好だからである。また、本発明の組成物の接着強度がより高まるからである。
なお、コアシェル粒子の1次粒子径の平均値はゼータ電位粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社)を用いて測定して得た値を意味するものとする。
コアシェル型粒子(B)はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
コアシェル型粒子(B)はその製造について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0046】
本発明において、コアシェル型粒子(B)の量は、低温から高温における接着性能および柔軟性に優れ、界面破壊になりにくいという観点から、エポキシ樹脂(A)の100質量部に対して、5〜100質量部である。また、コアシェル型粒子(B)の量は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れるという観点から、エポキシ樹脂(A)の100質量部に対して5〜100質量部であるのが好ましく、10〜100質量部であるのがより好ましい。
【0047】
次に硬化剤(C)について説明する。
本発明の組成物に含有される硬化剤(C)は特に限定されず、通常エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものを用いることができる。例えばジシアンジアミド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2−n−ヘプタデシルイミダゾールのようなイミダゾール誘導体、イソフタル酸ジヒドラジド、N,N−ジアルキル尿素誘導体、N,N−ジアルキルチオ尿素誘導体、テトラヒドロ無水フタル酸のような酸無水物、イソホロンジアミン、m−フェニレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、メラミン、グアナミン、三フッ化ホウ素錯化合物、トリスジメチルアミノメチルフェノール、ポリチオールなどを用いることができる。
【0048】
ポリチオールはメルカプト基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。メルカプト基を2個有するチオールとしては、例えば、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオールのようなアルキレンジチオール;ベンゼンジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、4,4′−チオビスベンゼンチオールのような芳香族ジチオール;ベンゼンジメタンチオールのような芳香族を有する炭化水素化合物のジチオール;2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンのような複素環化合物;2−メルカプト−3−チアヘキサン−1,6−ジチオール、5,5−ビス(メルカプトメチル)−3,7−ジチアノナン−1,9−ジチオール、5−(2−メルカプトエチル)−3,7−ジチアノナン−1,9−ジチオールのようなチア化合物;ジメルカプトプロパノール、ジチオエリトリトールのようなヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0049】
メルカプト基を3個以上有するチオール としては、例えば、トリチオグリセリン、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、2,4,6−トリス(メルカプトメチル)メシチレン、トリス(メルカプトメチル)イソシアヌレート、トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレート、2,4,5−トリス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオランのようなトリチオール;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトメチル)ベンゼン、テトラメルカプトブタン、ペンタエリトリチオールのようなテトラチオールが挙げられる。
また、ポリチオールとして、例えば、ポリエーテル(例えば、ポリオキシプロピレングリコール)の末端にメルカプト基を導入したポリチオール(例えば、東レ・ファインケミカル社製「QE−340M」)が挙げられる。
硬化剤(C)はこれらの中の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、硬化剤(C)の本発明の組成物中における含有量は特に限定されず、最適な量は硬化剤の種類によって異なる。例えば従来公知である各硬化剤ごとの最適量を好ましく用いることができる。この最適量は、例えば「総説 エポキシ樹脂 基礎編」(エポキシ樹脂技術協会、2003年発行)の第3章に記載されている。
【0051】
本発明の組成物は、上記のエポキシ樹脂(A)、コアシェル型粒子(B)および硬化剤(C)の他に、その用途に応じて、さらに、触媒、硬化促進剤、無機充填剤、有機もしくは高分子充填剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、摺動性付与剤、界面活性剤、着色剤等を含有することができる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。
【0052】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えばエポキシ樹脂(A)、コアシェル型粒子(B)、硬化剤(C)および必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を、室温で均質に混合することで得ることができる。
【0053】
本発明の組成物は低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れる。よって本発明の組成物は構造用接着剤として好ましく用いることができる。ここで「構造用接着剤」とは、長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤(JIS K6800)である。例えば自動車や車両(新幹線、電車)、土木、建築、エレクトロニクス、航空機、宇宙産業分野の構造部材の接着剤として用いることができる。
【実施例】
【0054】
1.エポキシ樹脂組成物の製造
第1表に示す成分を同表に示す量(質量部)で用いてこれらを均一に混合して本発明の組成物を得た。
2.評価
上記のようにして得られたエポキシ樹脂組成物を非めっき鋼板の表面に0.1〜0.2mmの厚さで塗布し、引張り剪断強度試験およびT字剥離強度試験に供した。ここで両試験ともにJIS K−6850(1999年)に従って行った。テストピース(非めっき鋼板)は0.8mm×25mm×200mmのものを用いた。試験結果を第1表に示す。また、80℃でのT字剥離強度試験における破壊形態を確認した。試験結果を第1表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
第1表に示す各成分の詳細は以下のとおりである。
・エポキシ樹脂(A)1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量190g/eq(JER828、ジャパンエポキシレジン社製)
・エポキシ樹脂(A)2:ウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ当量211g/eq(EPU−78−11、ポリオール成分:ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリイソシアネート成分:トリレンジイソシアネート(TDI)、ADEKA社製)
・エポキシ樹脂(A)3:ゴム変性エポキシ樹脂、エポキシ当量305g/eq(EPR−1309、BisAエポキシ樹脂を含有するNBR変性BisAエポキシ樹脂、ADEKA社製)
・コアシェル型粒子(B)1:、商品名IM−601(ガンツ化成社製、3層構造、シェル層を形成するポリマーがアクリロニトリル/スチレン共重合体、1次粒子の平均粒径=200〜300nm、シェル層のガラス転移温度:約80℃〜100℃、中間層のガラス転移温度:約−50℃〜−60℃、コア層のガラス転移温度:約80℃〜100℃)
・コアシェル型粒子(B)2:コアを形成するモノマーとして ブチルアクリレート を使用し、シェルを形成するモノマーとしてアクリロニトリルおよびスチレンを使用して特開平2−191614号公報に記載されている方法に従ってコアシェル型粒子を製造した。得られたコアシェル型粒子をコアシェル型粒子(B)2とする。コアシェル型粒子(B)2は1次粒子径の平均:200〜300nm、2層構造、シェル層の成分:アクリロニトリル/スチレン共重合体、シェル層のガラス転移温度:約80℃〜100℃、コア層のガラス転移温度:約−50℃〜−60℃である。
・コアシェル型粒子(B)3:商品名F−351(ガンツ化成製、1次粒子径の平均:200〜300nm、2層構造、シェル層の成分:MMA(メチルメタクリレート)、シェル層のガラス転移温度:100℃〜120℃、コア層のガラス転移温度:約−50℃〜−60℃)
・コアシェル型粒子(B)4:コアを形成するモノマーとして MMAを使用し、中間層を形成するモノマーとしてブチルアクリレートを使用し、シェルを形成するモノマーとしてメチルメタクリレートを使用して特開平2−191614号公報に記載されている方法に従ってコアシェル型粒子を製造した。得られたコアシェル型粒子をコアシェル型粒子(B)4とする。コアシェル型粒子(B)4は1次粒子径の平均:200〜300nm、3層構造、シェル層の成分:MMA(メチルメタクリレート)、シェル層のガラス転移温度:100℃〜120℃、中間層のガラス転移温度:約−50℃〜−60℃、コア層のガラス転移温度:100℃〜120℃である。
・硬化剤(C):ジシアンジアミド、商品名Dicy15(ジャパンエポキシレジン社製)
・触媒:3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、商品名DUMU99(保土ヶ谷化学社製)
・充填剤:シリカ(RY−200S、日本エアロジル社製)
【0057】
第1表に示す結果から明らかなように、シェル層を製造する際に使用するモノマーがアクリロニトリルを含まない比較例1、2はマトリックス樹脂との分散性が悪く高温での接着性が悪かった。
これに対して実施例1〜5は、引張り剪断強度およびT字剥離強度が−20℃、室温、80℃のいずれの温度においても良好であった。
また、コアシェル型粒子(B)をエポキシ樹脂(A)100質量部に対して10〜100質量部含有する実施例1〜3は、実施例5よりも、コアシェル型粒子(B)の分散性が高く、物性により優れた。
3層構造のコアシェル型粒子(B)を含有する実施例1〜3、5は、2層構造のコアシェル型粒子(B)を含有する実施例4よりも高温物性により優れた。
また、80℃におけるT字剥離強度試験における破壊形態について、比較例1は凝集破壊が60%であり、比較例2は薄層凝集破壊(被着体の表面にごく薄く接着剤層が残って破壊した場合)であったのに対して、実施例1〜5は80%以上が凝集破壊であった。したがって、接着剤としての信頼性が高い。
【0058】
なお、接着剤と被着材である鋼材の界面で破壊するのが界面破壊であり、接着剤層内部で破壊するのが凝集破壊である。接着剤と被着材とが接着されていることを保証するためにも、破壊形式としては凝集破壊が好ましい。界面破壊は接着力をコントロールできていない状態であり、信頼性に乏しい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)100質量部と、コアシェル型粒子(B)5〜100質量部と、硬化剤(C)とを含有し、
前記コアシェル型粒子(B)においてシェル層を製造する際に使用されるモノマーが、アクリロニトリルを含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記シェル層のガラス転移温度が50℃以上であり、前記シェル層に隣接する内層のガラス転移温度が−30℃以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型粒子(B)が、2層および/または3層である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型粒子(B)の1次粒子径の平均が50nm〜500nmである請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(A)が、エポキシ当量が220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂およびゴム変性エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂(A)中、前記エポキシ当量が220以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂の量が0〜100質量%であり、前記ウレタン変性エポキシ樹脂の量が0〜100質量%であり、前記ゴム変性エポキシ樹脂の量が0〜100質量%である請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
構造用接着剤として使用される請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−77305(P2010−77305A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248095(P2008−248095)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】