説明

エンジンのスロットル制御装置

【課題】バッテリ46とECU48との電気的接続が遮断され、バックアップRAM48aの記憶データが初期化(バッテリクリア)された後にエンジン10を始動させる場合、デポジットに起因する燃焼室32への供給吸気量の減少を補償するようなスロットルバルブ18の開度(スロットル開度)を設定することができず、エンジンストールが発生すること。
【解決手段】クランク角度センサ40の出力値から算出されるエンジン回転速度に基づき、エンジン10の始動時にエンストが発生したと判断された場合、エンジン10の次回の始動時におけるスロットル開度の目標値を、エンジン10の前回の始動時における目標スロットル開度よりも増大させる始動時スロットル開度増大処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気通路上に設けられて且つ該エンジンの燃焼室に供給される吸気量を調節するスロットルバルブを備えて構成されるエンジンシステムに適用されるエンジンのスロットル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1に見られるように、スロットルバルブやその周辺の吸気通路の堆積物(デポジット)に起因する燃焼室への供給吸気量の不足を補償すべく、デポジットの堆積度合いの推定結果に基づきスロットルバルブの開度(スロットル開度)の目標値(目標スロットル開度)を設定し、目標スロットル開度となるように実際のスロットル開度を制御するものが知られている。詳しくは、この制御装置は、デポジットの堆積度合いを示す指標であるデポジット係数及びスロットルバルブを通過する吸気量(スロットル通過吸気量)の目標値(目標吸気量)と関係付けられた目標スロットル開度が規定される第1のマップと、スロットル開度及びスロットル通過吸気量と関係付けられた上記デポジット係数が規定される第2のマップとを有している。上記制御装置は、まず、スロットル開度が定常状態のときに検出されたスロットル通過吸気量及びスロットル開度に基づき第2のマップを用いてデポジット係数を算出し、算出されたデポジット係数をバックアップRAMに記憶させる学習処理を行う。ここでバックアップRAMは、車載バッテリから給電されて記憶データであるデポジット係数を保持するものである。そして、学習されたデポジット係数と、目標空気量とに基づき第1のマップを用いて目標スロットル開度を設定し、この目標スロットル開度となるように実際のスロットル開度を制御する。これにより、デポジットに起因する供給吸気量の減少を補償することができ、エンジンの運転状態を適切なものとすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−068464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、何らかの要因でエンジンの始動性が低下する等の不都合が発生する状況においては、この不都合の要因を調べるためにユーザ等がバッテリと上記制御装置との電気的接続を遮断することがある。この場合、バックアップRAMの記憶データが初期化(バッテリクリア)されることで、記憶された学習結果が消去されるおそれがある。そしてこの場合、その後バッテリと制御装置とを再接続してエンジンを始動させるときに、デポジットの堆積度合いを反映した目標スロットル開度を設定することができず、エンジンストールやエンジン回転速度の落ち込みが発生するおそれがある。詳しくは、目標スロットル開度がエンジンを始動させるための適切な値を下回ることで、燃焼室への供給吸気量が不足してエンジンの燃焼を開始させることができなかったり、エンジンの燃焼が一旦開始される場合であっても、その後エンジンの生成トルクが不足したりすることでエンジンストールが発生するおそれがある。また、燃焼室への供給吸気量の不足に起因して燃焼状態が不安定となることで、エンジンストールに至らない場合であってもエンジン回転速度の落ち込みが発生するおそれがある。特に、例えば粗悪な燃料が使用されること等に起因してデポジットが多量に堆積する状況下においてバッテリクリアされる場合、適切な目標スロットル開度が設定されないことによる供給吸気量の不足度合いが大きくなることで、エンジンストールやエンジン回転速度の落ち込みの発生度合いが顕著となるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、エンジンの始動時において、エンジンストールやエンジン回転速度の落ち込みの発生を抑制することのできるエンジンのスロットル制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、エンジンの吸気通路上に設けられて且つ該エンジンの燃焼室に供給される吸気量を調節するスロットルバルブを備えて構成されるエンジンシステムに適用され、エンジン回転速度に基づき、前記エンジンの始動時に、エンジンストール又はエンジン回転速度の落ち込みが発生したか否かを判断するエンスト判断手段と、前記エンスト判断手段によってエンジンストール又はエンジン回転速度の落ち込みが発生したと判断された場合、前記エンジンの次回の始動時における前記スロットルバルブの開度を、該エンジンの前回の始動時における該スロットルバルブの開度よりも増大させる処理を行う開度増大手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、エンジンの始動時にエンジンストール(以下、エンスト)又はエンジン回転速度の落ち込みが発生したと判断された場合、上記態様にてエンジンの次回の始動時におけるスロットルバルブの開度を増大させる。これにより、次回の始動時においてデポジットに起因する燃焼室への供給吸気量の不足を極力補償することができ、ひいてはエンストやエンジン回転速度の落ち込みの発生を抑制することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記エンジンの温度が高いほど、該エンジンの始動時における前記スロットルバルブの開度を小さく設定する設定手段を更に備え、前記開度増大手段は、前記エンジンの温度が高い場合に、前記増大させる処理を行うことを特徴とする。
【0010】
エンジンの温度が高いほど、エンジンオイルの粘度が低くなること等に起因してエンジンの始動を妨げる力が小さくなり、エンジンを始動させるために要する燃焼エネルギが小さくなる。この点に鑑み、上記発明では、エンジンの温度が高い場合にエンジンの始動時におけるスロットル開度を小さく設定することで、供給吸気量を少なくして燃焼エネルギを小さくし、エンジンの温度に応じてエンジンを適切に始動させている。ただし、デポジットに起因するエンストやエンジン回転速度の落ち込みの発生は、スロットル開度が小さくなることで供給吸気量が少なくなる状況であるエンジン温度が高い状況において顕著となるおそれがある。この点、上記発明では、エンジンの温度が高い場合に上記増大させる処理を行うため、デポジットがエンジンの始動性に及ぼす影響が大きい状況において、エンストやエンジン回転速度の落ち込みの発生を適切に抑制することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記開度増大手段は、前記増大させる処理として、前記エンジンの温度が高いほど、前記スロットルバルブの開度の増大量を大きくする処理を行うことを特徴とする。
【0012】
上記発明では、上記態様にて上記増大させる処理を行うため、エンジンの温度が高いほど供給吸気量を多くすることができ、エンジンの始動時におけるエンストやエンジン回転速度の落ち込みの発生を好適に抑制することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記エンジンの燃焼制御のための車載機器の異常の有無を診断する診断手段を更に備え、前記開度増大手段は、前記診断手段によって異常がない旨診断された場合、前記増大させる処理を行うことを特徴とする。
【0014】
上記車載機器に発生する異常は、エンストが発生する要因となり得る。このため、車載機器に異常が発生する状況下において上記増大させる処理を行っても、エンジン始動時におけるエンストやエンジン回転速度の落ち込みの発生を抑制することができないおそれがある。ここで上記発明では、エンストやエンジン回転速度の落ち込みが発生する要因から、デポジットに起因する供給吸気量の不足以外の要因を極力排除して上記増大させる処理を行う。このため、デポジットに起因する供給吸気量の不足以外の要因でエンスト等が発生する状況において、上記増大させる処理が誤って行われる事態の発生を抑制することができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記スロットルバルブ又はその周辺のデポジットの堆積度合いの推定結果に基づき、前記燃焼室への供給吸気量の不足を補償するための前記スロットルバルブの開度を学習する学習手段と、車載バッテリからの給電を受けて前記学習手段の学習結果を保持する手段と、前記保持された学習結果を前記エンジンの始動時における前記スロットルバルブの開度に反映させる手段とを更に備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかる始動時要求吸気量の設定手法の概要を示す図。
【図3】一実施形態にかかる始動時におけるエンジン回転速度の挙動の一例を示す図。
【図4】一実施形態にかかる始動時スロットル開度増大処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる制御装置を車載エンジンシステムに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1に本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0019】
図示されるように、エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、エアクリーナ14、吸入される空気量(吸気量)を検出するエアフローメータ16、スロットルバルブ18が設けられている。スロットルバルブ18は、DCモータ等のスロットルアクチュエータ20によって開度(スロットル開度)が調節されることで、吸気量を調節するものである。詳しくは、スロットル開度が小さくなるほど、吸気量が少なくなる。なお、スロットル開度は、スロットルセンサ22によって検出される。
【0020】
スロットルバルブ18の下流側には、サージタンク24が設けられており、サージタンク24の下流側には、エンジン10の各気筒に吸気を導入する吸気マニホールド26が接続されている。吸気マニホールド26において各気筒の吸気ポート近傍には、燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁28が設けられている。
【0021】
エンジン10のシリンダヘッドには点火プラグ30が設けられており、点火プラグ30の先端は、燃焼室32に突出している。詳しくは、図示しない点火装置が通電操作されることで点火プラグ30に放電火花を発生させることが可能となる。
【0022】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ34及び排気バルブ36のそれぞれによって開閉される。詳しくは、吸気バルブ34の開弁によって燃料噴射弁28から噴射供給される燃料と吸気との混合気が燃焼室32に導入され、点火プラグ30の放電火花によって混合気が着火され燃焼に供される。燃焼によって発生したエネルギは、ピストン38を介して、エンジン10の図示しないクランク軸の回転エネルギとして取り出される。なお、上記クランク軸付近には、クランク軸の回転角度を検出するクランク角度センサ40が設けられており、エンジン10には、エンジン10を冷却する冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ42が設けられている。また、燃焼に供された混合気は、排気バルブ36の開弁によって排気として排気通路44に排出される。
【0023】
上記エンジンシステムに備えられるスロットルアクチュエータ20や、燃料噴射弁28等の各種車載機器は、バッテリ46と電気的に接続されており、バッテリ46を電力供給源として駆動される。
【0024】
電子制御装置(ECU48)は、バッテリ46からの給電を受けて、エンジンシステムの各種制御に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。ECU48は、CPU、RAM、ROM等からなるマイクロコンピュータや、ECU48とバッテリ46との間の主接続(イグニッションスイッチ)の状態にかかわらず常時給電状態が維持されることで記憶データが保持されるバックアップRAM48a等を備えて構成されている。ECU48は、エアフローメータ16や、スロットルセンサ22、クランク角度センサ40、更には水温センサ42等の検出信号を逐次入力する。ECU48は、これらの入力信号に基づき、燃料噴射弁28による燃料噴射制御や、スロットルアクチュエータ20による吸気量制御等、エンジン10の燃焼制御を行う。
【0025】
上記燃料噴射制御は、混合気の空燃比を目標空燃比(例えば理論空燃比)に制御すべく、エアフローメータ16の出力値に基づく吸気量等から指令噴射量を算出し、算出された指令噴射量に基づき燃料噴射弁28を通電操作する処理となる。これにより、指令噴射量に応じた量の燃料が燃料噴射弁28から噴射される。
【0026】
また、上記吸気量制御は、スロットルセンサ22の出力値に基づくスロットル開度をその目標値(目標スロットル開度)に制御すべくスロットルアクチュエータ20を通電操作する処理となる。この目標スロットル開度は、エンジン10の始動時においては、水温センサ42の出力値に基づく冷却水温に基づき、エンジン10の始動に要求される吸気量(始動時要求吸気量)に応じた値に設定される。詳しくは、図2に破線にて示すように、冷却水温が高いほど、始動時要求吸気量を少なくすべく目標スロットル開度が小さく設定される。この設定は、冷却水温に応じてエンジン10を適切に始動させるためのものである。つまり、冷却水温が高いほど、エンジンオイルの粘度が低くなること等に起因して、エンジン10の各摺動部品のフリクションロスが小さくなる等、エンジン10の始動に要する燃焼エネルギが小さくなる。このため、エンジン始動時における冷却水温が高いほど、上記燃焼エネルギを小さくすべく燃料噴射量を少なくし、これに伴い吸気量を少なくするように目標スロットル開度を小さく設定する。これにより、エンジン10を適切に始動させることが可能となる。なお、エンジン10の始動完了後においては、エンジン10の運転状態をアイドル運転状態とするために要求される吸気量に応じた目標スロットル開度を設定する処理(ISC処理)が行われる。
【0027】
特にECU48は、スロットルバルブ18やその周辺の吸気通路12の堆積物(デポジット)に起因する燃焼室32への供給吸気量の不足を補償するためのスロットル開度の増大分を目標スロットル開度に反映させる学習処理を行う。この処理は、エンジン10の始動性が低下したり、エンジン10のアイドル運転状態が不安定となったりする等の不都合が生じる事態を回避するためのものである。つまり、図2に実線にて示すように、デポジットによって同一のスロットル開度に対する燃焼室32への供給吸気量が減少することで、燃焼状態が不安定となり、上記不都合が生じるおそれがある。このため、上記学習処理を行うことで上記不都合の発生を回避する。
【0028】
ここで学習処理について詳述すると、まず、学習実行条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態では、学習実行条件を、アイドル運転状態であるとの条件、スロットル開度が安定しているとの条件及びエンジン回転速度が安定しているとの条件等の論理積が真であるとの条件とする。これは、デポジットに起因する供給吸気量の不足度合いの把握精度を向上させるための条件である。次に、学習実行条件が成立すると判断された場合、デポジットの堆積度合いが大きいほど、同一のスロットル開度に対する吸気量が少なくなることに鑑み、エアフローメータ16の出力値に基づく実際の吸気量と、デポジットがない場合に想定される吸気量とのずれに基づき、デポジットの堆積度合いを示す指標であるデポジット係数を算出する。そして、算出されたデポジット係数をバックアップRAM48aに記憶させ、記憶されたデポジット係数及びエンジン10の運転に要求される吸気量等に基づき、供給吸気量の減少を補償可能な目標スロットル開度を設定する。
【0029】
ところで、何らかの要因でエンジン10の始動性が低下する等の不都合が発生する状況においては、この不都合の要因を調べるためにユーザ等がバッテリ46とECU48との電気的接続を遮断することがある。この場合、バックアップRAM48aの記憶データが初期化(バッテリクリア)されることで、上記学習処理によって記憶された学習結果が消去されるおそれがある。そしてこの場合、その後バッテリ46とECU48とを再接続してエンジン10を始動させるときに、デポジットの堆積度合いを反映した目標スロットル開度を設定することができず、エンジンストール(以下、エンスト)が発生するおそれがある。以下、このことについて図3を用いて説明する。
【0030】
図3は、正常時のエンジン10の運転状態と比較したエンストの発生態様の一例を示す。
【0031】
図中一点鎖線にて示すように、デポジットの堆積がない又は微少である正常時においては、エンジン10の始動が正常になされた後にISC処理によってアイドル運転状態が維持されつつ学習処理が開始される。これに対し、デポジットの堆積が進行した状況下においてバッテリクリアされると、デポジットの堆積度合いを反映した目標スロットル開度を設定することができず、同図に破線にて示すように、供給吸気量の不足によってエンジン10の始動後の燃焼状態が不安定となり、エンジン10の生成トルクが不足すること等に起因して、エンジン回転速度の落ち込みが発生する。そしてこれにより、学習処理が開始されるまでのエンジン回転速度の挙動が不安定となる。ここで、例えば粗悪な燃料が使用されること等に起因してデポジットが多量に堆積する状況下においてバッテリクリアされると、同図に実線にて示すように、エンジン10の始動時における実際の吸気量が始動時要求吸気量を大きく下回ることで、エンストが発生し、その後学習処理を行うことができなくなる。特に冷却水温が高い状況(例えば30度以上となる状況)下においてバッテリクリア後にエンジン10が始動される場合には、目標スロットル開度が小さく設定されることによって供給吸気量の不足度合いが顕著となり、エンストの発生度合いが顕著となるおそれがある。
【0032】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、エンジン10の始動時にエンストが発生したと判断された場合、エンジン10の次回の始動時における目標スロットル開度を、前回の始動時における目標スロットル開度よりも増大させる処理である始動時スロットル開度増大処理を行うことで、エンジン10の次回の始動時におけるエンストの発生の抑制を図る。
【0033】
図4に、本実施形態にかかる始動時スロットル開度増大処理の手順を示す。この処理は、ECU48によって例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0034】
この一連の処理では、まずステップS10において、上記学習処理が未完了であるか否かを判断する。この処理は、エンジン10の始動時において、バッテリクリアに起因したエンストが発生するおそれがあるか否かを判断するためのものである。本実施形態では、バッテリ46とECU48との再接続がなされてからのエンジン10の始動指示の回数(例えば、イグニッションスイッチがオンされた回数)が少ないか否かに基づき、上記学習処理が未完了であるか否かを判断する。これは、上記始動指示の回数が少ない場合、学習処理がなされていない蓋然性が高いことに基づくものである。
【0035】
ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS12に進み、エンジン10の燃焼制御にかかわる車載機器が正常である旨診断されたか否かを判断する。この処理は、エンストが発生した場合に、その後始動時スロットル開度増大処理によってエンストの発生を抑制可能であるか否かを判断するための処理である。つまり、上記車載機器に発生する異常は、エンストの発生要因となり得、車載機器に異常が発生する状況下において始動時スロットル開度増大処理を行っても、エンストの発生を抑制することができないおそれがある。このため、車載機器が正常である旨診断された場合にのみ始動時スロットル開度増大処理を許可することで、エンストが発生する要因からバッテリクリアされて学習結果が消去されたことによる要因以外の要因を極力排除して上記増大処理を行う。これにより、学習結果が消去されたことによる要因以外の要因でエンストが発生する状況において、上記増大処理が誤って行われる事態の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
なお本実施形態では、上記車載機器として、燃料供給系を構成する機器(燃料噴射弁28等)、点火系を構成する機器(点火プラグ30等)及び吸気系を構成する機器(スロットルアクチュエータ20等)を想定している。また、車載機器の異常診断手法としては、例えば、定電圧電源から車載機器への通電状態の検出結果に基づき車載機器のオープン故障やショート故障が検出された場合に、車載機器の異常が生じている旨診断する手法を採用すればよい。
【0037】
ステップS12において車載機器が正常である旨診断されたと判断された場合には、ステップS14に進み、エンジン10の始動指示がなされた(イグニッションスイッチがオンされた)か否かを判断する。
【0038】
ステップS14において始動指示がなされたと判断された場合には、クランキングが開始され、ステップS16において、エンジン10の始動時にエンストが発生したか否かを判断する。ここでエンストが発生したか否かは、クランキングが開始された後、エンジン回転速度が規定速度まで到達しないか否かに基づき判断したり、エンジン回転速度が上記規定速度に到達した後に0となるか否かに基づき判断したりすればよい。これは、クランキングが行われる場合であってもエンジン10の燃焼を開始させることができずに発生するエンストや、エンジン10の燃焼が一旦開始される場合であってもその後エンジン10の生成トルクが不足することにより発生するエンストを適切に検出するための設定である。なお、エンジン回転速度は、クランク角度センサ40の出力値に基づき算出すればよい。
【0039】
ステップS16においてエンストが発生したと判断された場合には、ステップS18に進み、冷却水温に基づき、エンジン10の次回の始動時における目標スロットル開度の増大量を算出する。本実施形態では、冷却水温が高いほど、上記増大量を大きく設定する。これは、エンストの発生が顕著となるおそれの度合いが大きい状況である冷却水温が高い状況において、エンストの発生を適切に抑制するためである。つまり、上述したように、冷却水温が高いほど始動時要求吸気量を少なくすべく目標スロットル開度が小さく設定されるため、バッテリクリア後、冷却水温が高い場合にエンジン10が始動される状況は、エンストの発生が顕著となるおそれの度合いが大きい状況となる。このため、このような状況下においてスロットル開度の増大量を大きくすることで、エンストの発生を適切に抑制する。なお、目標スロットル開度の増大量は、具体的には、冷却水温を入力として、冷却水温と関係付けられた上記増大量が規定されたテーブルを用いて算出すればよい。
【0040】
続くステップS20では、設定された目標スロットル開度の増大量に基づき、エンジン10の始動時における目標スロットル開度を更新する。具体的には、本ステップの処理がバッテリクリア後に初めて行われる場合、ECU48内のROMに記憶された始動時の目標スロットル開度の初期値(始動時要求吸気量に対応する目標スロットル開度)に上記増大量を加算することで目標スロットル開度を更新し、その後再び本ステップの処理が行われる場合には、前回更新された目標スロットル開度に今回設定された上記増大量を加算することで目標スロットル開度を更新すればよい。
【0041】
続くステップS22では、更新された目標スロットル開度をその上限許容値で制限する処理(上限ガード処理)を行う。この処理は、エンジン10の始動時においてユーザに違和感を与える事態の発生を抑制するためのものである。つまり、始動時におけるスロットル開度が過度に大きく設定されると、吸気量が多くなるため、これに応じて燃料噴射量が多くなる。この場合、クランキング後にエンジン10の燃焼が開始される場合に燃焼エネルギが大きくなることでエンジン回転速度が高くなり、ユーザに違和感を与えるおそれがある。このため、上限ガード処理を行うことで、燃焼の開始によってエンジン回転速度が高くなる事態の発生を抑制し、ユーザに違和感を与える事態の発生を抑制する。
【0042】
なお、上記ステップS10、S12、S14、S16において否定判断された場合や、ステップS22の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0043】
ちなみに、上記増大処理によれば、ユーザによってエンジン10の再始動指示がなされてエンストが発生する毎に、始動時の目標スロットル開度が徐々に増大されることとなる。ここでエンジン10の始動時における目標スロットル開度が上記上限許容値に設定されることによってもエンストが発生する場合、エンジンチェックランプを点灯させることで異常が生じている旨をユーザに報知する処理を行うのが望ましい。
【0044】
また、上記増大処理によって目標スロットル開度が更新されてエンジン10の始動が完了する場合、その後のアイドル運転時においても目標スロットル開度に上記ステップS18の処理で設定された上記増大量が反映され、アイドル運転を維持することが可能となる。このため、その後の学習処理によって、デポジットに起因した供給吸気量の不足を補償するための目標スロットル開度を再び設定することが可能となる。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0046】
(1)エンジン回転速度に基づき、エンジン10の始動時にエンストが発生したと判断された場合、エンジン10の次回の始動時における目標スロットル開度を、エンジン10の前回の始動時における目標スロットル開度よりも増大させる始動時スロットル開度増大処理を行った。これにより、バッテリクリアされた場合であっても、エンジン10の次回の始動時においてデポジットに起因するエンストの発生を好適に抑制することができる。更に、その後のアイドル運転時において始動時スロットル開度増大処理によるスロットル開度の増大分を反映させることで、アイドル運転を維持しつつ学習処理を開始することもできる。
【0047】
(2)目標スロットル開度の増大量を冷却水温が高いほど大きく設定した。これにより、エンストの発生が顕著となる高水温領域でエンジン10が始動される場合であっても、エンストの発生を適切に抑制することができる。
【0048】
(3)エンジン10の燃焼制御のための車載機器が正常である旨診断されたと判断された場合にのみ始動時スロットル開度増大処理を行った。これにより、デポジットに起因する燃焼室32への供給吸気量の不足以外の要因でエンストが発生する状況において、始動時スロットル開度増大処理が誤って行われる事態の発生を抑制することができる。
【0049】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、学習処理が未完了であるか否かを、バッテリ46とECU48との再接続がなされてからのエンジン10の始動指示回数によって判断したがこれに限らない。例えば、学習処理が完了したか否かを示す学習完了フラグが設定される場合、このフラグの値に基づき判断してもよい。
【0051】
・上記実施形態において、目標スロットル開度の増大量等の設定に用いられるパラメータとしては、冷却水温に限らず、例えばエンジンオイルの温度(油温)であってもよい。これは、冷却水温と油温とが相関を有することに鑑みたものである。
【0052】
・目標スロットル開度の増大量の設定手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、上記増大量を、冷却水温が第1の規定温度未満である場合に第1の固定値(>0)に設定し、冷却水温が第1の規定温度以上であって且つ第1の規定温度よりも高い第2の規定温度以下となる場合に冷却水温に比例して大きく設定し、冷却水温が第2の規定温度を上回る場合に第1の固定値よりも大きい第2の固定値となるように設定してもよい。この場合、デポジットに起因して始動時の吸気量が顕著に少なくなると想定される冷却水温(例えば30度)を、上記第1の規定温度及び第2の規定温度で挟むように、これら規定温度を設定することが望ましい。また例えば、上記増大量を、冷却水温が規定温度以下となる場合に0に設定し、冷却水温が上記規定温度を上回る場合には規定値(>0)に設定してもよい。すなわち、冷却水温が高温となる場合にのみ始動時スロットル開度増大処理を行ってもよい。これは、冷却水温が低い場合には、エンジン10の始動時における目標スロットル開度が大きく設定されるため、デポジットが堆積する場合であってもエンストの発生度合いが高温時と比較して小さくなると考えられることに基づくものである。
【0053】
・上記実施形態では、本願発明を、学習処理を行うエンジンシステムに適用したが、この処理を行わないシステムに適用してもよい。この場合であっても、供給吸気量の不足によってエンジン10の始動時にエンストが発生するおそれがあるならば、本願発明の適用が有効である。ここで上記エンストが発生するおそれのある状況としては、例えば、エンジン10の前回の始動が低温環境下で行われて始動が正常に完了したものの、今回の始動が高温環境下で行われてエンストが発生する状況が考えられる。これは、冷却水温が高いほど始動時のスロットル開度が小さく設定されることに鑑み、今回の始動時におけるデポジットに起因する供給吸気量の不足度合いが、前回の始動時における不足度合いと比較して顕著になると考えられることによるものである。
【0054】
・上記実施形態では、エンジン10の始動時にエンストが発生したと判断された場合、次回の始動時に始動時スロットル開度増大処理を行ったがこれに限らない。例えば、エンジン10の始動時にエンジン回転速度の落ち込み(先の図3の破線参照)が発生したと判断された場合にも、次回の始動時に始動時スロットル開度増大処理を行ってもよい。ここでエンジン回転速度の落ち込みが発生したか否かは、クランキング開始後に初回の燃焼が開始された後、エンストまでには至らないもののエンジン回転速度がその目標値(例えばアイドル回転速度)を規定値下回るか否かに基づき判断すればよい。ここで上記規定値は、エンジン始動時において燃焼状態が正常である場合における上記目標値からのエンジン回転速度の低下量の想定値よりも大きい値に設定すればよい。
【0055】
・エンジン10の始動時におけるエンストの発生を抑制する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、不揮発性の記憶手段であるEEPROM(具体的にはフラッシュメモリ)を備え、デポジット係数を上記記憶手段に記憶させ、記憶させたデポジット係数を、エンジン10の始動時におけるスロットル開度に反映させる手法であってもよい。これにより、バッテリクリアされる場合であっても、記憶されたデポジット係数が消去されないため、その後エンジン10を始動させるときにエンストの発生を好適に回避することができる。
【符号の説明】
【0056】
10…エンジン、12…吸気通路、18…スロットルバルブ、32…燃焼室、40…クランク角度センサ、42…水温センサ、46…バッテリ、48…ECU(エンジンのスロットル制御装置の一実施形態)、48a…バックアップRAM。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気通路上に設けられて且つ該エンジンの燃焼室に供給される吸気量を調節するスロットルバルブを備えて構成されるエンジンシステムに適用され、
エンジン回転速度に基づき、前記エンジンの始動時に、エンジンストール又はエンジン回転速度の落ち込みが発生したか否かを判断するエンスト判断手段と、
前記エンスト判断手段によってエンジンストール又はエンジン回転速度の落ち込みが発生したと判断された場合、前記エンジンの次回の始動時における前記スロットルバルブの開度を、該エンジンの前回の始動時における該スロットルバルブの開度よりも増大させる処理を行う開度増大手段とを備えることを特徴とするエンジンのスロットル制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの温度が高いほど、該エンジンの始動時における前記スロットルバルブの開度を小さく設定する設定手段を更に備え、
前記開度増大手段は、前記エンジンの温度が高い場合に、前記増大させる処理を行うことを特徴とする請求項1記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項3】
前記開度増大手段は、前記増大させる処理として、前記エンジンの温度が高いほど、前記スロットルバルブの開度の増大量を大きくする処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの燃焼制御のための車載機器の異常の有無を診断する診断手段を更に備え、
前記開度増大手段は、前記診断手段によって異常がない旨診断された場合、前記増大させる処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンのスロットル制御装置。
【請求項5】
前記スロットルバルブ又はその周辺のデポジットの堆積度合いの推定結果に基づき、前記燃焼室への供給吸気量の不足を補償するための前記スロットルバルブの開度を学習する学習手段と、
車載バッテリからの給電を受けて前記学習手段の学習結果を保持する手段と、
前記保持された学習結果を前記エンジンの始動時における前記スロットルバルブの開度に反映させる手段とを更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンのスロットル制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36803(P2012−36803A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177162(P2010−177162)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】