説明

エンジンの制御装置

【課題】新たにセンサ類や加熱手段等を設けることを必要とせずに、排気管路に溜まる凝縮水量を正確に推定し得て、凝縮水による排気センサの損傷を、大きなコストアップを招くことなく確実に防止することのできるエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】検知素子に加熱用ヒータ30が付設された排気センサ10が排気管路109に配備されているエンジンの制御装置であって、排気ガスの温度を検出する排気ガス温度検出手段122と、吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段115と、吸気温を検出する吸気温検出手段121と、前記エンジンが始動したときにおける前記排気ガス温度、吸入空気量、及び吸気温に基づいて前記排気管路内の凝縮水量を推定する凝縮水量推定手段と、該凝縮水量推定手段により推定された凝縮水量に基づいて前記加熱用ヒータに対する通電制御を行うヒータ制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知素子に加熱用ヒータが付設された排気センサを排気管路に配備したエンジンの制御装置に係り、特に、排気管路に溜まる凝縮水量を、新たにセンサ類を設けることを必要とせずに正確に推定し得て、凝縮水による排気センサの損傷を、大きなコストアップを招くことなく確実に防止することができるようにしたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減のため、エンジン(内燃機関)から排出される排気ガスを浄化することが求められており、そのためには、燃焼に供せられる混合気の空燃比を適正な範囲に制御することが要求される。
【0003】
従来より、空燃比を適正範囲に制御すべく、排気ガス中の酸素濃度を検出して、酸素量が略ゼロとなるように燃料供給量をフィードバック制御すること等が行われている。酸素濃度を検出するには、酸素濃度比率に応じて電圧を生じる酸素センサや、酸素濃度をリニアに検出できるリニア空燃比センサ等の排気センサが使用されている。
【0004】
しかしながら、酸素センサ(の酸素濃度検知素子)が正常に動作(活性化)する温度は300℃以上、リニア空燃比センサ(の酸素濃度検知素子)が正常に動作(活性化)する温度は600℃以上であるので、センサの検知素子をヒータ等の加熱手段で強制加熱して活性温度を越えるまで昇温させる必要がある。
【0005】
そのため、従来より、前記センサに検知素子加熱用のヒータを付設し(センサ内部の検知素子の近傍にヒータを配在するのが普通である)、検知素子をヒータで加熱することが行われている。
【0006】
しかしながら、エンジン始動後において、できるだけ早くセンサの検知素子を活性化させるには、前記ヒータによる前記検知素子の急速加熱が必要となるが、急速加熱を行うと、そのときの温度上昇に伴う熱応力によって検知素子にクラックが発生する等の不具合が生じて適正に酸素濃度を検出することができなくなることがあり、最悪の場合は検知素子が破損して全く機能しなくなってしまうこともあった。
【0007】
センサの検知素子にクラック、破損等の不具合が発生する原因としては以下のようなことが考えられる。
【0008】
通常、エンジンにおいては、燃料噴射弁から噴射された燃料が吸気中に気化混合せしめられ、その混合気が燃焼室で燃焼して、その燃焼廃ガス(排気ガス)が排気管等で形成される排気管路に排出されるが、その際、排気ガスによって排気管路が暖められる。排気ガスの発熱量は、燃料噴射量、すなわち、吸入空気量に比例するので、吸入空気量の積算値が発熱量になる。
【0009】
また、エンジンの排気ガスには、燃料と吸入空気の燃焼反応によって生成された水蒸気が含まれている。この水蒸気を含んだ排気ガスが排気管路内で冷やされると、排気管路内で排気ガス中の水蒸気が凝縮して凝縮水が生成される。より詳しくは、排気管路(壁面)温度が露点以上であれば水蒸気となって排出されるが、排気管路温度が露点以下であれば排気管路壁面に水滴となって結露する。
【0010】
特に、排気管路が湾曲していて上部にガスが溜まりやすい構造であると、水蒸気は湾曲部の上部に溜まり、エンジン停止後、排気管路温度が低下してくると、その溜まった水蒸気は水分となって結露する。そのため、センサが湾曲部に取り付けられていると、検知素子表面にも水分が付着しやすい。この検知素子表面に付着した水分が前記クラック、破損等の不具合が発生する主たる原因であるが、それを説明する前に、現在実用に供されている検知素子加熱用ヒータが付設された排気センサの一例(後述の本発明の実施形態においても使用されているリニア空燃比センサ)を図3(A)、(B)を参照しながら説明する。
【0011】
図3(A)に示されるリニア空燃比センサ10は、排気管路109に取り付けられた筒状のホルダ11及び排気管路109内に挿入されたプロテクタ12を有し、プロテクタ12内に酸素濃度検知素子20が配設されている。プロテクタ12には幾つかの穴14が形成されており、この穴14から排気ガスが出入りするようになっている。
【0012】
検知素子20は、図3(B)に示される如くに、上下の保護層23、24を含む多層構造となっており、その下面側に電熱線式ヒータ30を内蔵するヒータ部29が配設されている。
【0013】
検知素子20は、検知電極21と基準電極22とを有し、これら検知電極21と基準電極22に挟まれた拡散層25に、所定の電流を流して、排気管路109を流れる排気ガスの酸素濃度に応じて、検知電極21側と基準電極22側との酸素濃度比が一定となるように、酸素を移動させる。このときの電流値が排気管路109側の酸素濃度に比例することになるので、電流値を測定することで排気管路内(排気ガス)の酸素濃度を検出することができる。酸素濃度は、燃焼の際に反応しなかった酸素であり、空燃比に対応する。よって、空燃比に応じて図4に示される如くの電流特性を持つ。
【0014】
前記検知素子20が正常に機能するには、酸素がイオンとして移動できる温度(600℃以上)まで加熱する必要がある。排気ガスが600℃以上であれば、排気ガスによる加熱が可能であるが、通常の運転では排気ガス温度は600℃以下であり、ヒータ30による加熱が必要である。
【0015】
一方、ヒータ30による加熱は、検知素子20に対して一様な温度分布にならず、ヒータ近傍部分(内部)20iが高く、ヒータ30から離れた表面部分20sが低くなるため、その温度差によって熱応力が生じる。温度差は検知素子20の熱抵抗に応じて変わる。熱抵抗が大きいと、熱は内部にたまり、温度差が大きくなる。よって、ヒータ30の温度を一定とすると、図6に示される如くに、ヒータ30への通電直後(エンジン始動直後)にヒータ近傍部分(内部)20iの温度が高くなり、表面部分20sとの温度差が最大となる。
【0016】
水分が検知素子表面20sに付着していると、素子表面20sは水分の潜熱があるので、加熱されても水分が蒸発する間は100℃に維持され、そのため、温度差はさらに拡大する。水分蒸発中の検知素子表面20sの温度上昇率は略ゼロであるが、水分が無くなった直後からは急速に上昇するので、温度上昇率が極めて大きくなる。このような検知素子20の内部20iと表面20sとの間の温度差及び急速な温度上昇に伴う熱応力により、検知素子20にクラック、破損等の不具合が発生すると考えられる。
【0017】
このような排気センサ(の検知素子)にクラック、破損等の不具合が発生することの対策として、従来においては、例えば特許文献1に所載のように、排気管路の外部に温度センサを配設し、該温度センサにより排気管路内の温度を推定し、その温度に基づいて排気管路内に凝縮水が存在し得る状況か否かを判断し、凝縮水が存在し得る状況であれば、排気管路を燃焼バーナで熱せられた熱媒体によって加熱することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−316594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、前記従来技術のような対策では、温度センサや排気管路における排気センサより上流側部分を加熱する排気管路加熱手段等を新たに設ける必要があるため、その分製造コストが嵩んでしまうという問題があった。
【0020】
本発明は、上記問題を解消すべくなされたもので、その目的とするところは、新たにセンサ類や加熱手段等を設けることを必要とせずに、排気管路に溜まる凝縮水量を正確に推定し得て、凝縮水による排気センサの損傷を、大きなコストアップを招くことなく確実に防止することのできるエンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成すべく、本発明に係る排気センサの制御装置は、検知素子に加熱用ヒータが付設された排気センサが排気管路に配備されているエンジンにおいて、排気管路の温度を推定又は検出する排気管路温度取得手段と、排気ガスの温度を推定又は検出する排気ガス温度取得手段と、前記排気管路温度に基づいて燃焼により発生する水蒸気量を算出する水蒸気量算出手段と、前記排気管路温度、排気ガス温度、及び水蒸気量に基づいて前記排気管路内の凝縮水量を推定する凝縮水量推定手段と、該凝縮水量推定手段により推定された凝縮水量に基づいて前記加熱用ヒータに対する通電制御を行うヒータ制御手段と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、通常エンジンに備えられている排気温センサ、エアフローセンサ、吸気温センサにより検出される、エンジンが始動したときにおける排気ガス温度、吸入空気量、及び吸気温(外気温)により排気管路温度、水蒸気量を推定し、この推定された排気管路温度及び水蒸気量を用いて排気管路内に溜まる凝縮水の量を推定し、この推定凝縮水量に基づいて排気センサの加熱用ヒータに対する通電制御を行うようにされるので、新たにセンサ類や加熱手段等を設けることを必要とせずに、排気管路に溜まる凝縮水量を正確に把握することができるとともに、排気センサの加熱用ヒータの通電制御を適切に行うことができ、その結果、凝縮水による排気センサの損傷を、大きなコストアップを招くことなく確実に防止することができる。
上記した以外の、課題、構成、及び効果は、以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るエンジンの制御装置の一実施形態を、それが適用された車載用エンジンの一例と共に示す概略構成図。
【図2】図1に示される制御装置の主要部を構成するコントロールユニット周りの説明に供される図。
【図3】図1に示されるエンジンに用いられているリニア空燃比センサであって、(A)はリニア空燃比センサの取り付け状態を示す全体側面図、(B)は検知素子の構造を示す部分切欠斜視図。
【図4】図3のリニア空燃比センサの出力特性を示す図。
【図5】図1に示されるコントロールユニット、リニア空燃比センサ、及びヒータの接続関係を示す図。
【図6】図3のリニア空燃比センサの始動直後における検知素子の温度上昇特性を示す図。
【図7】図1に示されるコントロールユニットが凝縮水量を推定する際に実行するプログラム(処理手順)の一例を示すブロック図。
【図8】主として図7のブロック201(排気管路温度推定に関わる部分)の説明に供される図。
【図9】主として図7のブロック201(排気管路温度推定に関わる部分)の説明に供される図。
【図10】主として図7のブロック205(排気熱量推定に関わる部分)の説明に供される図。
【図11】排気管路温度と蒸発量との関係を示すグラフ。
【図12】排気管路温度と凝縮水量との関係を示すグラフ。
【図13】エンジン運転中とエンジン停止(キーOFF)後の、(A)エンジン回転速度、(B)推定排気ガス温度、(C)推定排気管路温度、(D)推定凝縮水量の変化を示すタイムチャート。
【図14】図1に示されるコントロールユニットが凝縮水量を推定する際に実行するプログラム(処理手順)の他の例を示すブロック図。
【図15】排気ガス流量と凝縮水飛散割合との関係を示すグラフ。
【図16】図1に示されるコントロールユニットが凝縮水量を推定する際に実行するプログラム(処理手順)の別の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る制御装置が適用されたヒータ付き排気センサを備えた車載用エンジンの概略構成図である。
【0025】
図示のエンジン100は、例えば直列4気筒ガソリンエンジンであって、水温センサ110が配設されたシリンダ107の頭部(燃焼室)に点火コイル103から点火電圧を印加される点火プラグ102が配設され、また、クランク軸及び吸排気動弁機構に関連してクランク角センサ111及びカム角センサ112が設けられ、吸気系(吸気通路108)には、燃料噴射弁101、電制スロットル弁104、スロットル(開度)センサ113、吸気管圧力センサ114、エアフローセンサ115、吸気温度(外気温とみなせる)を検出する吸気温センサ121等が配設され、排気系(排気管路109)には、前述した図3に示される如くのリニア空燃比センサ10、排気ガス温度を検出する排気温センサ122、触媒118等が配在されている。前記燃料噴射弁101には、燃料タンク125から燃料ポンプ117及び燃圧制御弁126を介して一定圧に調圧された燃料が圧送されるようになっている。
【0026】
そして、本実施形態の制御装置においては、前記リニア空燃比センサ10内に設けられた検知素子加熱用ヒータ30(図3参照)の温度(発熱量)の制御、前記燃料噴射弁101による燃料噴射量や燃料噴射時期の制御、前記点火プラグ102の点火時期の制御等を行うため、コントロールユニット120が備えられている。
【0027】
コントロールユニット120は、図2に示される如くに、数値・論理演算を行うCPU401、CPU401が実行するプログラム及びデータを格納したROM402、データを一時的に記憶するRAM403、各センサ類からのアナログ信号を取り込んでデジタル信号に変換するA/D変換器404、運転状態をあらわすスイッチ類からの信号を取り込むデジタル入力回路405、パルス信号の時間間隔や所定時間内のパルス数を計数するパルス入力回路406、さらに、CPU401の演算結果に基づきアクチュエータ(燃料ポンプ117や電制スロットル弁104等)の制御を行う、デジタル出力回路407、パルス出力回路408、そして、通信回路409を備えており、これらにより、データを外部に出力し、さらに、外部からの通信コマンドによって内部状態を変更できるようになっている。
【0028】
図5は、コントロールユニット120、リニア空燃比センサ10、ヒータ30の接続関係を示しており、リニア空燃比センサ10の検知素子20から得られる酸素濃度をあらわす信号(図4参照)はセンサ信号処理回路26を介してコントロールユニット120に入力される。また、ヒータ30は、トランジスタ36のON(導通)/OFF(非導通)に応じてバッテリ37から通電され、その通電量(時間)に応じて発熱し、検知素子20を加熱する。この加熱温度を制御すべく、コントロールユニット120からトランジスタ36をON/OFFするための制御信号(デューティ信号)が供給される。なお、トランジスタ36の両端の電圧値(又は電流値)は、ヒータ30の故障診断等に用いるため、コントロールユニット120に取り込まれるようになっている。
【0029】
次に、コントロールユニット120が、エンジン始動直後において、ヒータ30で検知素子20を加熱するにあたり、検知素子20にクラック、破損等の不具合を生じさせることがないようにするための制御例について図3から図6を参照しながら説明する。
【0030】
前述したように、燃焼によって生じた水分は、排気管路(壁面)温度が露点以上であれば水蒸気となって排出されるが、排気管路温度が露点以下であれば排気管路109の内壁面に水滴となって結露し、検知素子20の表面20sにも水分(結露水)が付着する。
【0031】
また、ヒータ30による加熱は、検知素子20に対して一様な温度分布にならず、ヒータ近傍部分(内部)20iが高く、ヒータ30から離れた表面部分20sが低くなるため、その温度差によって熱応力が生じる。温度差は検知素子20の熱抵抗に応じて変わる。熱抵抗が大きいと、熱は内部にたまり、温度差が大きくなる。
【0032】
よって、ヒータ30の温度(検知素子20に対する加熱量)を一定とすると、図6に示される如くに、ヒータ30への通電直後(機関始動直後)にヒータ近傍部分(内部)20iの温度が高くなり、表面部分20sとの温度差が最大となる。
【0033】
水分が検知素子表面20sに付着していると、素子表面20sは水分の潜熱があるので、加熱されても水分が蒸発する間は100℃に維持され、そのため、温度差はさらに拡大する。水分蒸発中の素子表面20sの温度上昇率は略ゼロであるが、水分が無くなった直後からは急速に上昇する。
【0034】
そこで、本実施形態においては、コントロールユニット120が、エンジン始動時における検知素子20の表面20sの水分付着状態を推定し、表面20sに水分(凝縮水)が付着している可能性があるときは、始動直後においてヒータ30の温度(加熱量)を従来のように急速に上げないで比較的低い温度に抑え、検知素子20におけるヒータ30近傍の内部20iとヒータ30から離れた表面20sとの温度差が所定値を越えないように、ヒータ30の温度を制御するウォームアップ制御を行う。
【0035】
そして、前記ウォームアップ制御を、素子表面20sの水分が全て蒸発する時期(これも排気ガスの発熱量=吸入空気量の積算値等に基づいて推定する)まで継続し、水分が全て蒸発したと推定された時期以後は、検知素子20の温度を活性化温度(約600℃以上)まで上昇させるセンサ活性促進制御を行い、検知素子20が活性化温度に達した以降は、フィードバック制御により最適温度(例えば750〜760℃程度)で維持する。なお、フィードバック制御には、検知素子20の実温度が必要であるが、検知素子20の実温度は、それが400℃〜500℃に達すると、検知素子20から得られる信号に基づいて求めることができる。
【0036】
前記したエンジン始動時における素子表面20sの水分付着状態は、エンジン始動時における排気管路109の温度に応じて異なるので、本実施形態においては、排気管路109の温度と略同じと見なすことができるエンジン冷却水温及び吸気温(いずれか一方だけでも可)に基づいて前記検知素子表面20sの水分付着状態を推定するようにされている。
【0037】
また、コントロールユニット120は、後述する図7(から図12)の凝縮水量推定に関する処理を実行することで、排気管路109内で生じる凝縮水量Mconを推定する。
【0038】
以下、排気管路109内で生じる凝縮水量Mconの推定方法について説明する。
図7に示される凝縮水量Mconの推定方法(処理手順)においては、ブロック201の始動時排気管路壁面温度推定、ブロック205の排気(ガス)熱量推定、ブロック206の蒸発量推定、ブロック207の凝縮水量推定等の処理を行う。
【0039】
図10は、主として図7のブロック205の排気熱量推定に関わる部分を示し、ここでは、単位時間当りの吸入空気量Mair[g/s]と点火時期Madv[degBTDC]とに基づいて、燃料と吸入空気の燃焼反応により発生する単位時間当りの基本排熱量Mcal[J]を算出する。
【0040】
また、エンジン負荷、エンジン回転速度等に基づいて排気ガスの基本排熱量EXTcal(例えば排気ポート近傍における排気ガスの発生熱量)を補正する。なお、燃料カット中は、基本排熱量が持ち去られるため、その部分を考慮して排気熱量を決定する。エンジンから排出される排気熱量が判れば、排気管路109のヒートマスを考慮して排気管路温度を推定できる。
なお、排気熱量EXTcalをセンサで検出するようにしても良い。
【0041】
図8、図9は、図7のブロック201の、エンジンのイグニッションキーをONにした際の排気管路(壁面)温度推定に関わる部分の説明図であり、ここでは、前記排気管路温度をエンジン停止時水温とエンジンのイグニッションキーをONにした際の水温と吸気温(外気温)の関係から推定する。
【0042】
始動時排気管路温度推定に関して、(始動時水温)−(吸気温)の値が小さいほど排気管路温度は平衡状態に近く、また、(前回キーOFF時水温)−(始動時水温)の値が大きいほど排気管路温度は平衡状態に近いことから、(始動時水温)−(吸気温)の値と(前回キーOFF時水温)−(始動時水温)の値の比を取り、排気管路温度のどの位置にあるかを求めることができる。
【0043】
以上より、エンジンのイグニッションキーONした際の排気管路温度は、エンジン停止時水温とエンジンのイグニッションキーをONにした際の水温と吸気温の関係から推定することができる。
【0044】
次に、図7の主としてブロック206の蒸発量推定(図11)とブロック207の凝縮水量推定(図12)に関わる部分を説明する。排気管路温度初期値とエンジンから排出される排気ガス温度を合わせて、排気管路温度Texp(例えば排気温センサ122近傍における排気管路温度)を推定する。
【0045】
そして、推定した排気管路温度Texpをパラメータとする凝縮水量を図12に示す。排気管路温度Texpから、排気管路壁面での単位時間当たり凝縮水量はテーブルを参照して、現在の排気管路温度Texpに応じた単位時間あたりの凝縮水量を算出する。
【0046】
ところで、推定した排気管路温度Texpをパラメータとする凝縮水蒸発量を図11に示す。排気管路温度Texpから、排気管路壁面での単位時間当たり凝縮水量はテーブルを参照して、現在の排気管路温度Texpに応じた単位時間あたりの凝縮水蒸発量を算出する。
【0047】
この後、前回の凝縮水量推定値Mconに今回の凝縮水変化量(発生分−蒸発分)ΔMconを加算して今回の凝縮水量推定値Mcon[g]を求める(次式)。
Mcon = Mcon+ΔMcon
【0048】
この凝縮水量推定値Mconは、コントロールユニット120のバックアップRAM(記憶手段)に記憶される。コントロールユニット120のバックアップRAMの記憶データは、エンジンのイグニッションキーがOFFにされたエンジン停止中も保持される。エンジン再始動時に凝縮水量Mconを推定する際には、前回のエンジン停止直前に記憶した凝縮水量推定値Mcon(つまり、エンジン停止中に排気管路109内に残留する凝縮水量の推定値)を初期値とする。
【0049】
次に、排気管路温度Texpの挙動について説明する。
図13のタイムチャートに示されているように、コントロールユニット120は、エンジン運転中(エンジン始動からキースイッチのOFFまでの)は、上記したエンジン運転中の推定方法で排気管路温度Texpを推定し、エンジン停止中(キースイッチのOFFから再度キースイッチONまでのエンジン)は、エンジン停止中の推定方法で排気管路温度Texpを推定する。
【0050】
本実施例では、通常エンジンに備えられている排気温センサ122、エアフローセンサ115、吸気温センサ121により検出される、エンジンが始動したときにおける排気ガス温度、吸入空気量、及び吸気温(外気温)により排気管路温度、水蒸気量を推定し、この推定された排気管路温度及び水蒸気量を用いて排気管路内に溜まる凝縮水の量を推定し、この推定凝縮水量に基づいて排気センサの加熱用ヒータに対する通電制御を行うようにされるので、新たにセンサ類や加熱手段等を設けることを必要とせずに、排気管路109に溜まる凝縮水量を正確に把握することができるとともに、排気センサ(リニヤ空燃比センサ)10の加熱用ヒータ30の通電制御を適切に行うことができ、その結果、凝縮水による排気センサの損傷を、大きなコストアップを招くことなく確実に防止することができる。
【0051】
また、上記以外に、次の方法でも凝縮水量を推定できる。
コントロールユニット120は、以下に述べる図14、及び、図14をより詳細に記した図16の凝縮水量推定に関するプログラム(処理手順)を実行することで、排気管路109内で生じる凝縮水量Mconを推定する。
【0052】
以下、図14、図16を参照しながら排気管路109内で生じる凝縮水量H2OMの他の推定方法について説明する。図14に示される凝縮水推定処理手順では、ブロック311、312の排気ガス温度・流量推定手段と、ブロック315から317の排気管路温度演算手段と、ブロック321から326の凝縮水量演算手段とを備える。同様に、図16に示される凝縮水推定処理手順では、ブロック611、612の排気ガス温度・流量推定手段と、ブロック613から617の排気管路温度演算手段と、ブロック621から642の凝縮水量演算手段とを備える。
【0053】
エンジンの回転速度[r/min]と単位時間当りの吸入空気量GASM[kg/s]と単位時間当りの燃料噴射量FUELM[kg/s]と燃焼を行うための点火時期FADV[degBTDC]とに基づいて、排気ガス温度GAST[K]と排気ガスの質量流量[kg/s]を算出する(図14、図16の排気ガス温度・流量推定手段)。
燃料と吸入した空気の燃焼により発生する単位時間当りの水蒸気量PSVM[kg/s]を算出する。
【0054】
また、吸入空気量、エンジン回転速度、吸気温、車速等に基づいて、排気ポート近傍において検出された排気ガス温度GASTから排気管路(壁面)温度WALLT[k]を算出する(図14、図16の排気管路温度演算手段)。
なお、排気ガス温度GAST及び排気管路温度WALLTを温度センサで検出するようにしても良い。
【0055】
そして、排気ガス流量GASM及び/又は排気管路温度WALLTをパラメータとする凝縮割合Cのマップ又はテーブルを参照して、現在の排気ガス流量GASMと排気管路温度WALLTとに応じた凝縮割合Cを算出する。この凝縮割合Cは、燃料と吸入空気の燃焼反応により発生する排気ガス中水蒸気のうち排気管路109内で凝縮する割合である。凝縮割合Cのマップ又はテーブルは、予め、実験データや設計データ等に基づいて求めた排気ガス温度GAST及び/又は排気管路温度WALLTと凝縮割合Cとの関係を用いて作成され、コントロールユニット120のROMに記憶されている。
【0056】
この後、水蒸気量PSVMに凝縮割合Cとを乗算して単位時間当りの凝縮水増加量dMcon/dt[kg]を算出する(次式)。
dMcon/dt = PSCM×C
【0057】
この後、前回の凝縮水量推定値Mcon[z]に今回の凝縮水増加量dMcon/dtを加算して今回の凝縮水量推定値Mcon[kg]を求める。
Mcon = Mcon[z]+dMcon/dt
【0058】
この凝縮水量推定値Mconは、コントロールユニット120のバックアップRAMに記憶される。コントロールユニット120のバックアップRAMの記憶データは、イグニッションスイッチがオフされたエンジン停止中も保持される。エンジン再始動時に凝縮水量H2OMを推定する際には、前回のエンジン停止直前に記憶した凝縮水量推定値H2OM、つまり、エンジン停止中に排気管路109内に残留する凝縮水量の推定値を初期値とする(図14、図16の凝縮水量演算手段)。
【0059】
ところで、アクセル踏み込み等により吸入空気量が増加して排気管路109内を流れる排気ガス量が増加すると、排気管路109内に蓄積された凝縮水が排気ガスによって吹き飛ばされて排気管路109外へ排出される(図15に排気ガス流量と飛散割合との関係を示す)。
【0060】
そこで、本実施例では、吸入空気量GASMをパラメータとする凝縮水量推定値H2OMの減少割合のテーブルを参照して、排気管路109内に蓄積された凝縮水が排気ガスによって吹き飛ばされて排気管路109外へ排出されるのに対応して、凝縮水量推定値Mconを減少させるようにされる。なお、この場合、前記吸入空気量GASMに代えて他のエンジン負荷パラメータ(例えばスロットル開度、吸気管圧力等)を用いても良い。
【0061】
ところで、リニア空燃比センサ10は、ヒータで加熱されて高温状態のときに凝縮水が付着して被水すると、センサ素子が割れてしまうことがある。
【0062】
これらの事情を考慮して、本実施例では、凝縮水量推定値Mconがしきい値M1を越えて被水する可能性が高くなったときに、リニア空燃比センサ10のヒータ制御を禁止(又は制限)する。これにより、被水によるリニア空燃比センサ10のセンサ素子が破損等未然に防止できる。
【0063】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例では、排気センサとして活性化温度が高いリニア空燃比センサを例にとって説明したが、活性化温度の低い酸素センサにも同様に適用できるものである。
【符号の説明】
【0064】
1…制御装置 10…リニア空燃比センサ 20…検知素子 30…加熱用ヒータ 100…エンジン 101…燃料噴射弁 102…点火プラグ 103…点火コイル 104…スロットル弁 110…水温センサ 111…クランク角センサ 112…カム角センサ 113…スロットルセンサ 114…吸気管圧力センサ 115…エアフローセンサ 118…触媒 120…コントロールユニット 121…吸気温センサ、122…排気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知素子に加熱用ヒータが付設された排気センサが排気管路に配備されているエンジンの制御装置であって、
排気管路の温度を推定又は検出する排気管路温度取得手段と、
排気ガスの温度を推定又は検出する排気ガス温度取得手段と、
前記排気管路温度に基づいて燃焼により発生する水蒸気量を算出する水蒸気量算出手段と、
前記排気管路温度、排気ガス温度、及び水蒸気量に基づいて前記排気管路内の凝縮水量を推定する凝縮水量推定手段と、
該凝縮水量推定手段により推定された凝縮水量に基づいて前記加熱用ヒータに対する通電制御を行うヒータ制御手段と、を備えていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
検知素子に加熱用ヒータが付設された排気センサが排気管路に配備されているエンジンの制御装置であって、
排気ガスの温度を検出する排気ガス温度検出手段と、
吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
吸気温を検出する吸気温検出手段と、
前記エンジンが始動したときにおける前記排気ガス温度、吸入空気量、及び吸気温に基づいて前記排気管路内の凝縮水量を推定する凝縮水量推定手段と、
該凝縮水量推定手段により推定された凝縮水量に基づいて前記加熱用ヒータに対する通電制御を行うヒータ制御手段と、を備えていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記凝縮水量推定手段は、前記排気ガス温度、吸入空気量、及び吸気温に基づいて、前記排気管路の壁温を推定するとともに、前記吸入空気量と燃料噴射量とから求められる混合気の空燃比に基づいて前記排気管路の露点温度を算出し、前記推定壁温と前記露点温度とから相対壁温を求め、該相対壁温及び前記吸入空気量から凝縮水増加量を算出し、該凝縮水増加量を前回の凝縮水量の推定値に加算して今回の凝縮水量の推定値を求めることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記凝縮水量推定手段は、前記凝縮水量として、前記排気管路内における前記排気センサより上流側に溜まる凝縮水量及び/又は下流側に溜まる凝縮水量を推定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記凝縮水量推定手段は、エンジンの停止中も記憶データを保持可能な記憶手段に前記凝縮水量の推定値を記憶させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記凝縮水量推定手段は、吸入空気量又はそれに相関するエンジン負荷パラメータに応じて前記凝縮水量の推定値を減少させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記ヒータ制御手段は、前記推定凝縮水量が所定値を越える場合は、前記加熱用ヒータに対する通電を禁止又は制限することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−172535(P2012−172535A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32500(P2011−32500)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】