説明

エンジンカバーの取付構造

【課題】エンジンカバーをエンジン部材から取り外す際に、エンジン側にグロメットが残らないエンジンカバーの取付構造を提供する。
【解決手段】カバー本体11とカバー本体の裏面側に配設され内部に収容空間を持つ枠状体よりなる取付台座とを備えるエンジンカバー1と、エンジン部材に突設された突起部と、取付台座に保持されるとともに突起部に嵌合される弾性体よりなるグロメットと、からなり、取付台座に保持されたグロメットを突起部に嵌合させることでエンジン部材にエンジンカバーが取り付けられた取付状態となるエンジンカバーの取付構造であって、取付台座が、収容空間を囲む壁部と、壁部に形成されグロメットを挿通可能な開口部17と、をもち、取付状態で、この開口部が車両前後方向に対して傾斜した傾斜方向Dを向くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン側から突出された突起部などにエンジンカバーを取り付けるエンジンカバーの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジンの上方にエンジンカバーを配置してエンジンを覆うことが一般的である。エンジンカバーは、エンジンから漏洩する騒音(透過音)を遮る機能と、エンジンを視覚的に遮ってエンジンルーム内の意匠性を高める機能とを持つ。
【0003】
従来、例えば、図6に示すように、エンジンカバー9は、ゴム製のグロメット8を介して、エンジン部材7から突出している突起部71に固定される。エンジンカバー9は、カバー本体91と、カバー本体91の裏面から突出された取付台座92とをもつ。取付台座92は、内部に収容空間90をもつ枠状体であって、グロメット8を嵌合する嵌合穴93をもつ底壁部95と、底壁部95とカバー本体91の裏面との間に収容空間90を囲むように形成された周壁部96と、周壁部96の周方向の一部に開口する開口部97とをもつ。グロメット8は、ゴム製で、エンジン部材7から突出する突起部71を挿着する挿着穴81をもち、外周部には嵌合穴93の周縁に係合する係合溝82をもつ。取付台座92の嵌合穴93にグロメット8を嵌合し、続いてグロメット8の挿着穴81にエンジン部材7の突起部71を挿着することで、エンジンカバー9をエンジン部材7の突起部71に固定することができる。
【0004】
ところで、エンジンの整備などの際には、エンジンカバー9は、エンジン部材7から取り外される。この時、作業者は、外部からエンジンカバーの取付構造が確認できないため、突起部71の軸方向に対してエンジンカバー9を車両前方向に傾斜した方向(図6の矢印A方向)に持ち上げて突起部71から引き抜こうとする。このため取付台座92の開口部97が後ろ向きに形成されている場合には、エンジン部材7側にグロメット8が残ることがある。そして、整備終了後にグロメット8が残っていることに気付かずにエンジンカバー9を再組み付けする際に、エンジン部材7側に残っているグロメット8と取付台座92とが干渉してエンジンカバー9を破損させることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−79613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、エンジンカバーをエンジン部材から取り外す際に、エンジン側にグロメットが残らないエンジンカバーの取付構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエンジンカバーの取付構造は、カバー本体と該カバー本体の裏面側に配設され内部に収容空間を持つ枠状体よりなる取付台座とを備えるエンジンカバーと、エンジン部材に突設された突起部と、取付台座に保持されるとともに突起部に嵌合される弾性体よりなるグロメットと、からなり、取付台座に保持されたグロメットを突起部に嵌合させることでエンジン部材にエンジンカバーが取り付けられた取付状態となるエンジンカバーの取付構造であって、取付台座が、前記収容空間を囲む壁部と、該壁部に形成されグロメットを挿通可能な開口部と、をもち、取付状態で、この開口部が車両前後方向に対して傾斜した傾斜方向を向くことを特徴とする。
【0008】
本発明のエンジンカバーの取付構造によれば、取付状態で、取付台座の開口部が車両前後方向に対して傾斜した傾斜方向を向くように形成されている。そのため、エンジンカバーを上方かつ車両前方向に斜めに傾けて外そうとする場合には、取付台座の嵌合穴の後方の周縁部がグロメットの係合溝に係合した状態でグロメットを突起部側に押圧して弾性変形させながら突起部に沿ってしごくように脱却することになる。従って、グロメットはエンジンカバーの取付台座に嵌合された状態でエンジンカバーとともに脱却され、グロメットがエンジン側突起部を被覆した状態でエンジン部材側に残るということがない。このため、エンジンカバーを再組み付けする際に、エンジンカバーの取付台座がエンジン側突起部に残留したグロメットと干渉してエンジンカバーを破損させるという問題は生じない。
【0009】
これに対して図6に示した従来技術では、エンジンカバー91の取付台座92は車両前後方向に対してその後方に開口するように形成されている。開口部97から嵌合穴93にはスリット98が連通されており、グロメット8の係合溝82のスリット98に臨む範囲には係合すべき嵌合穴の周縁部が欠落している。従って、エンジンカバー91を上方かつ車両前方向(矢印A方向)に斜めに傾けて外そうとする場合には、グロメット8に対するエンジンカバー9の傾斜方向(車両前後方向)にスリット98が配置されることになり、少なくともこのスリット98に臨む範囲においてグロメット8は嵌合穴93の周縁部によって規制されることがない。従って、グロメット8は嵌合穴93から外れやすく、グロメット8がエンジン側突起部71を被覆した状態でエンジン部材7側に残ることがあった。
【0010】
本発明のエンジンカバーの取付構造において、カバー本体は、肉厚が略一定で上面凸の略浅皿形状を呈するとともに、該カバー本体の外周縁に沿ってカバー本体の裏面に一体に突設された補強用あるいは遮音用のリブをもち、取付状態における車両前後方向をカバー本体の前後方向としたとき、取付台座がカバー本体の後側にあるリブと一体に設けられていることが望ましい。特に、取付状態で、開口部が車両の斜め後方を向くことが好ましい。
【0011】
カバー本体がその周縁に垂下するリブを有する上面凸の略浅皿形状の場合には、カバー本体の裏面側に設ける取付台座の開口方向は、金型のスライドコアの方向によって制約される。しかし、取付台座がカバー本体の後側にあるリブと一体に設けられている場合には、取付台座はカバー本体の外側に配置されることになるので、車両前後方向に対して傾斜した方向へのスライドコアは設定しやすい。従って、金型設計上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に係るエンジンカバーの平面図である。
【図2】実施例に係るエンジンカバーの正面図(図1のB視)である。
【図3】実施例に係るエンジンカバーの取付構造の断面図(図1におけるC−C断面)である。
【図4】実施例に係るエンジンカバーの取付台座にグロメットを嵌合する方法を説明する斜視図である。
【図5】実施例に係るエンジンカバーの取付構造の要部断面図である。
【図6】従来例に係るエンジンカバーの取付構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエンジンカバーの取付構造において、エンジンカバーは、エンジン部材のいずれかの部分に保持されてエンジン部材の上部に配置されるものであり、エンジン部材の一部のみを覆うものであってもよいし、エンジン部材全体を覆うものであってもよい。ここで、エンジン部材とは、シリンダ及びピストンからなるエンジン本体、エンジン本体のシリンダヘッドを覆うシリンダヘッドカバー、エンジン本体に燃料及び空気を供給する装置、吸気排気を制御するカム装置、あるいはオイル循環装置などの総称であり、エンジンカバーは、これらのエンジン部材に突設されたエンジン側突起部の先端に弾性材料からなるグロメットを介して保持される。
【0014】
エンジンカバーは複数の取付台座を有するが、必ずしも全ての取付台座の開口部を車両前後方向に対して傾斜した傾斜方向に設ける必要はない。しかし、取付台座がカバー本体の後側にあるリブと一体に設けられている場合には、その開口部を車両前後方向に対して斜め後方を指向するように形成することが望ましい。ここで斜め後方とは、車両前後方向を基準として時計回り又は反時計回りに15〜75°後方をいう。この角度αが小さすぎると開口部を斜め後方に指向させることによる効果が実質的に得られなくなる。一方、角度αが大きすぎると開口部形成用のスライドコアのスライド方向について制約を受けやすくなる。
【0015】
エンジンカバーは、PP、PA等の公知の樹脂材料を素材とし、射出成形など既知の方法で成形することができる。エンジンカバーの取付台座は、カバー本体と一体に成形することが望ましく、金型の中に取付台座成形用のスライドコアを用いて成形される。
【0016】
グロメットは、ゴムやエラストマなど既知の弾性材料を用いて、射出成形など周知の方法で成形することができる。この場合、グロメットの挿着穴は、例えば、金型の中に挿着穴成形用のスライドコアを用いて成形される。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例について図1〜5に基づいて説明する。図1は、エンジンカバー1の平面図であり、図2は、エンジンカバー1のB視正面図である。図3は、エンジンカバーの取付構造Iの断面図(図1のC−C断面)である。図4は、エンジンカバーの取付台座にグロメットを嵌合する方法を説明する斜視図である。図5は、エンジンカバーの取付構造の要部断面図である。
【0018】
本実施例のエンジンカバーの取付構造Iは、図1〜図3に示すように、エンジンカバー1をエンジン部材2に突設されたエンジン側突起部21に、取付台座12に保持される弾性体からなるグロメット3を介して取り付ける構造である。本実施例においてエンジン部材2は、図示しないエンジンの上部に設けられているシリンダヘッドカバーである。エンジン部材2の上部の左右両側と後方側の3箇所には、上方に突出する突起部21が設けられている。
【0019】
図1、2に示すように、エンジンカバー1はカバー本体11と、カバー本体11の裏面11aへ突出して形成された取付台座12(12a、12b、12c)とをもつ。カバー本体11は、肉厚がほぼ一定で上面凸の略浅皿形状を呈し、本体補強用あるいは遮音用のリブ14がその外周縁に沿って垂下するように形成されている。
【0020】
エンジンカバー1には、前記のエンジン部材2に設けられた各突起部21に対応する位置に各々取付台座12a、12b、12cが設けられている。
【0021】
カバー本体11の裏面側に突設された取付台座12bおよび12cは、ほぼ同様の形態であるので、以下取付台座12bについて説明する。図4に示すように、取付台座12bは、カバー本体11の裏面側に一体に立設された枠状体であり、底壁部18と、周壁部16と、開口部17とを有する。底壁部18は略半円形状であり、円弧状の外周端部18cからカバー本体11に向かって漸次拡径している周壁部16によって囲まれている。周壁部16と底壁部18とカバー本体11の裏面11aとの間には収容空間10が形成されている。半円形状の底壁部18の外周端部のうち直線状の外周端部18dは、周壁部16とは連結されておらず、グロメット3を収容空間10へ内挿可能な大きさの開口部17となっている。底壁部18にはグロメット3を嵌合する嵌合穴13が設けられており、嵌合穴13と開口部17との間は、スリット15により連通されている。
【0022】
取付台座12bの周壁部16とカバー本体11との間には、台座補強用のリブ19aが設けられている。また、取付台座12bの収容空間10にも、収容空間10をほぼ水平に区画するように台座補強板19bが設けられている。
【0023】
取付台座12aは、図3に示すように、カバー本体11の後方周縁に形成されているリブ14に連続してカバー本体11の外側に形成されている。取付台座12aはリブ14に水平に設けられた補強板19cに一体に立設された枠状体であり、取付台座12b、12cと同様の底壁部18と周壁部16と開口部17とを有し、周壁部16の一部がカバー本体11の外側に張り出している。
【0024】
取付台座12aはその中心線Dが車両前後方向Lに対して傾斜するように形成されている(図1)。すなわち、取付台座12aはその開口部17がカバー本体11の右斜め後方を指向するように形成されている。本実施例においては、車両前後方向Lと取付台座12aの中心線Dとのなす角度αは55°であった。車両前後方向線Lと取付台座12aの中心線Dとが交差しておれば角度αの大きさには特に制約はない。しかし、エンジンカバー1を取り外す際の取付台座12aとグロメット3との嵌合の安定性や金型におけるスライドコアの設定などを考慮すると、15°<α<75°が好ましい。なお、αは車両前後方向線Lに対して時計回りの角度としたが、車両前後方向線Lに対して反時計回りに設定してもよい。ここで、中心線Dは、スリット15を幅方向に2分割し、嵌合穴13の中心を通る直線である。
【0025】
図5に示すように、グロメット3は、エンジン部材2に設けられている突起部21を挿着する挿着穴31をもち、取付台座12の嵌合穴13に嵌合されて収容空間10に配置される略円筒状体である。挿着穴31は、突起部21の頭部23を保持する奥部31aと、突起部21の軸部22を保持する中間部31bとをもち、中間部31bは、奥部31aよりも小径とされている。これにより、突起部21の頭部23を挿着穴31の中に確実に保持することができる。また、グロメット3はその外周にリング状の係合溝32をもち、取付台座12の嵌合穴13の周縁と係合できるようになっている。
【0026】
本実施例において、エンジン部材2にエンジンカバー1を取り付ける手順は、まず、エンジンカバー1の取付台座12の開口部17から、グロメット3をスリット15を経て嵌合穴13に嵌挿させる。これにより、グロメット3は、挿着穴31の開口周縁3bを嵌合穴13から外部に露出させた状態で取付台座12の収容空間10に保持される。図1に示すように、取付台座12はカバー本体11に3箇所形成されているため、3箇所全てにグロメット3を嵌合させる。なお、グロメット3は、嵌合穴13の軸方向外側から内側に嵌挿させることもできる。
【0027】
次に、グロメット3を嵌合させたエンジンカバー1を、エンジン部材2の上部に位置する。この時、エンジンカバー1は、エンジン部材2に対して略水平方向に保持する。そして、エンジンカバー1を下降させ、グロメット3をエンジン部材2から突出する突起部21に押し当て押圧する。これにより、各突起部21は各グロメット3の挿着穴31に挿着され、エンジン部材2にエンジンカバー1が安定的に保持される。
【0028】
次に、エンジン部材2からエンジンカバー1を取り外すに当たっては、まず、エンジンカバー1をエンジン部材2に対して略水平方向に保持して持ち上げる。そしてエンジンカバー1の後方をさらに持ち上げながら手前に引くとグロメット3が取付台座12に嵌合された状態で突起部21から引き抜かれ、エンジンカバー1を取り外すことができる。
【0029】
本実施例のエンジンカバーの取付構造Iによれば、エンジンカバー1の取付台座12aが、車両前後方向Lに対して傾斜する方向に開口して形成されている。そのため、エンジンカバー1を上方かつ車両前方向に斜めに傾けて外そうとする場合には、取付台座12aの嵌合穴13の後方の周縁部がグロメット3の係合溝32に係合した状態でグロメット3を突起部21側に押圧して弾性変形させながら突起部21に沿ってしごくように脱却することになる。従って、グロメット3はエンジンカバー1の取付台座12に嵌合された状態でエンジンカバー1とともに脱却され、グロメット3が突起部21を被覆した状態でエンジン部材2側に残るということがない。このため、エンジンカバー1を再組み付けする際に、エンジンカバー1の取付台座12がエンジン側突起部21に残留したグロメット3と干渉してエンジンカバー1を破損させるという虞はない。
【0030】
本発明のエンジンカバーの取付構造は、上記の実施例に限定されることなく本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のエンジンカバーの取付構造は、エンジンから漏洩する騒音(透過音)を遮蔽し、エンジンルーム内の意匠性を高めるエンジンカバーのエンジンブロックなどへの取付構造として好適である。また、エンジン騒音以外の騒音を遮蔽する防音カバーにも同様の取付構造を適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1:エンジンカバー 2:エンジン部材 3:グロメット 11:カバー本体 12:取付台座 13:嵌合穴 14:本体補強用あるいは遮音用のリブ 15:スリット 16:周壁部 17:開口部 18:底壁部 21:突起部 L:車長方向 D:取付台座中心線 α:傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー本体と該カバー本体の裏面側に配設され内部に収容空間を持つ枠状体よりなる取付台座とを備えるエンジンカバーと、
エンジン部材に突設された突起部と、
前記取付台座に保持されるとともに前記突起部に嵌合される弾性体よりなるグロメットと、からなり、
前記取付台座に保持された前記グロメットを前記突起部に嵌合させることで前記エンジン部材に前記エンジンカバーが取り付けられた取付状態となるエンジンカバーの取付構造であって、
前記取付台座が、前記収容空間を囲む壁部と、該壁部に形成され前記グロメットを挿通可能な開口部と、をもち、
前記取付状態で、前記開口部が車両前後方向に対して傾斜した傾斜方向を向くことを特徴とするエンジンカバーの取付構造。
【請求項2】
前記カバー本体は、肉厚が略一定で上面凸の略浅皿形状を呈するとともに、該カバー本体の外周縁に沿って該カバー本体の裏面に一体に突設された本体補強用あるいは遮音用のリブをもち、
前記取付状態における車両前後方向を前記カバー本体の前後方向としたとき、前記取付台座が、該カバー本体の後側にある前記リブと一体に設けられている請求項1に記載のエンジンカバーの取付構造。
【請求項3】
前記取付状態で、前記開口部が車両の斜め後方を向く請求項1又は2に記載のエンジンカバーの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21486(P2011−21486A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164523(P2009−164523)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】