説明

エンジン制御装置及びエンジン制御方法

【課題】鞍乗型車両の転倒後に速やかに走行を再開することが出来るものを提供することを目的とする。
【解決手段】エンジン制御装置が、車両の傾斜角を検出する車両傾斜角検出手段と、当該車両傾斜角検出手段が検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させるエンジン制御停止手段とを備える鞍乗型車両のエンジン制御装置であって、エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動状態判定手段と、前記エンジン稼動判定手段がエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車または自動三輪/四輪バギー等の鞍乗型車両に搭載されるエンジン制御装置及び鞍乗型車両におけるエンジン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車または自動三輪/四輪バギー等の鞍乗型車両において、車両の傾斜が所定のしきい値を越えた状態が設定時間以上持続すると、エンジンの作動の強制停止が行われることは、既に知られている。
例えば、下記特許文献1には、制御ユニットが、転倒検出手段による転倒検出状態が設定時間以上持続したときに、エンジン回転数検出器で検出されるエンジン回転数とは無関係にエンジンの作動を強制的に停止するエンジン制御装置が開示されている。
また、下記特許文献2には、車体の傾斜を検出する傾斜センサと、車載内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定手段と、傾斜センサが検出した車体傾斜状態と運転状態判定手段が判定した運転状態に基づき車載内燃機関の運転を停止させる停止制御手段とを備え、停止制御手段は、運転状態に応じて予め異なるように設定された停止猶予時間もの間、車体が所定角度以上傾いた状態が持続したと判断すると、内燃機関の運転を停止させる車載内燃機関の制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2005−337148号公報
【特許文献2】特開2006−29294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術では、車両の傾斜が所定のしきい値以上越えた状態が設定時間以上持続するとエンジンの作動を強制的に停止する為、ライダーは、当該車両を所定角度以上引き起こした後、またはイグニッションキーによる電源OFFによってエンジン制御装置をリセットした後に、エンジンの再始動操作を行わなければならない。また、車両の傾斜が所定のしきい値以上越えた状態が設定時間を越えない場合でも、当該設定時間の間にホイールのロック等によってエンジンストールした場合、設定時間を過ぎないとエンジンを再始動することが出来ない。特に、車両が頻繁に転倒するオフロードレースでは、車両が転倒する度に、車両を正立状態まで引き起こす、イグニッションキーによって電源OFFする、または設定時間が経過するのを待ってから、エンジンを再始動していては、タイムロスが大きくなってしまう。
【0004】
また、車両の停止時に、ギアが入っている(ニュートラルではない)状態であるにも係わらず、誤ってクラッチを接続してしまうと、車両が、僅かではあるが急発進し、それに起因して転倒してしまうことがある。さらに、エンジンの始動時にも、ギアが入っている状態での始動行為、例えば、キックスタートやスタータモータによる始動を行った場合に、キックスタートやスタータモータの駆動トルクによって、前述した車両の停止時と同様に車両が転倒してしまうことがある。そして、上記要因によって交差点で転倒してしまった場合に、車両を正立状態まで引き起こす、イグニッションキーによって電源OFFする、または設定時間が経過するのを待ってからエンジンを再始動していては、長い間、交差点における交通を妨げてしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、鞍乗型車両の転倒後に速やかに走行を再開することが出来るものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、エンジン制御装置に係る第1の解決手段として、車両の傾斜角を検出する車両傾斜角検出手段と、当該車両傾斜角検出手段が検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させるエンジン制御停止手段とを備える鞍乗型車両のエンジン制御装置であって、エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動状態判定手段と、前記エンジン稼動判定手段がエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可手段とを具備するという手段を採用する。
【0007】
本発明では、エンジン制御装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記エンジン制御許可手段は、前記エンジン稼動状態判定手段がエンジンの回転数が所定のしきい値を下回っていると判定すると、すぐにエンジンの制御を許可するという手段を採用する。
【0008】
また、本発明では、エンジン制御方法に係る第1の解決手段として、車両の傾斜角を検出し、検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させる鞍乗型車両のエンジン制御方法であって、エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動判定ステップと、前記エンジン稼動判定ステップがエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可ステップとを具備するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、エンジン制御方法に係る第2の解決手段として、前記エンジン制御許可ステップは、前記エンジン稼動判定ステップがエンジンの回転数が所定のしきい値を下回っていると判定すると、すぐにエンジンの制御を許可することを特徴とするという手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジン制御装置が、車両の傾斜角を検出する車両傾斜角検出手段と、当該車両傾斜角検出手段が検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させるエンジン制御停止手段とを備える鞍乗型車両のエンジン制御装置であって、エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動状態判定手段と、前記エンジン稼動判定手段がエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可手段とを具備する。このように、エンジンストールするとすぐにエンジンの制御が許可される為、車両の転倒によって、エンジンがエンジンストールしたとしても、速やかに走行を再開することが出来る。
ことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、自動二輪車及び自動三輪/四輪バギー等の鞍乗型車両におけるエンジン制御装置に関する。
図1は、本実施形態におけるエンジン制御装置(以下、ECUと称する)を備えるエンジン制御システムの概略構成図である。この図1に示すように、本実施形態におけるエンジン制御システムは、エンジン1、燃料供給部2、ECU(Engine Control Unit)3から概略構成されている。なお、本実施形態におけるエンジン制御システムとして、バッテリを備えず、手動クランキング(例えばキック)によってエンジン始動を行うバッテリレスシステムを例示して説明する。
【0012】
エンジン1は、4サイクル単気筒エンジンであり、シリンダ10、ピストン11、コンロッド12、クランクシャフト13、吸気バルブ14、排気バルブ15、点火プラグ16、点火コイル17、イグナイタ18、吸気管19、排気管20、エアクリーナ21、スロットルバルブ22、インジェクタ23、吸気圧センサ24、吸気温センサ25、スロットル開度センサ26、冷却水温センサ27、クランク角度センサ28から概略構成されている。
【0013】
シリンダ10は、内部に設けられたピストン11を、吸気、圧縮、燃焼(膨張)、排気の4行程を繰り返すことによって往復運動させるための中空の円筒形状部材であり、空気と燃料との混合気を燃焼室10bに供給するための流路である吸気ポート10a、上記混合気を留め、圧縮行程において圧縮された混合気を燃焼行程において燃焼させるための空間である燃焼室10b、排気行程において燃焼室10bから排気ガスを外部に排出するための流路である排気ポート10cが設けられている。また、このシリンダ10の外壁には、冷却水を循環させるための冷却水路10dが設けられている。
【0014】
ピストン11には、ピストン11の往復運動を回転運動に変換するためのクランクシャフト13がコンロッド12を介して連結されている。クランクシャフト13は、ピストン11の往復方向と直交する方向に延在しており、不図示のフライホイール、ミッションギア、手動でエンジン1を始動させるためのキックペダルと連結されたキックギア、ロータ29と連結されている。
【0015】
吸気バルブ14は、吸気ポート10aにおける燃焼室10b側の開口部を開閉するための弁部材であり、不図示のカムシャフトと連結されており、当該カムシャフトによって各行程に応じて開閉駆動される。排気バルブ15は、排気ポート10cにおける燃焼室10b側の開口部を開閉するための弁部材であり、不図示のカムシャフトと連結されており、当該カムシャフトによって各行程に応じて開閉駆動される。
【0016】
点火プラグ16は、電極を燃焼室10b側に向けて燃焼室10bの最上部に設けられており、点火コイル17から供給される高電圧の点火用電圧信号によって電極間に火花を発生する。点火コイル17は、1次巻線と2次巻線からなるトランスであり、イグナイタ18から1次巻線に供給される点火用電圧信号を昇圧して2次巻線から点火プラグ16に供給する。イグナイタ18は、パワートランジタ等から構成されており、ECU3による制御の下、パワートランジスタから点火用電圧信号を点火コイル17の1次巻線へ出力する。
【0017】
吸気管19は、空気供給用の配管であり、内部の吸気流路19aが吸気ポート10aと連通するようにシリンダ10に連結されている。排気管20は、排気ガス排出用の配管であり、内部の排気流路20aが排気ポート10cと連通するようにシリンダ10に連結されている。エアクリーナ21は、吸気管19の上流側に設けられており、外部から取り込まれる空気を清浄化して吸気流路19aに送り込む。スロットルバルブ22は、吸気流路19aの内部に設けられており、不図示のスロットル(もしくはアクセル)によって回動する。つまり、スロットルバルブ22の回動によって吸気流路19aの断面積が変化し、吸気量が変化する。インジェクタ23は、噴射口を吸気ポート10a側に向けて吸気管19に設けられており、燃料供給部2から供給される燃料を、ECU3から供給されるインジェクタ駆動信号に応じて噴射口から噴射する。
【0018】
吸気圧センサ24は、例えばピエゾ抵抗効果を利用した半導体圧力センサであり、スロットルバルブ22の下流側において感度面を吸気流路19aに向けて吸気管19に設けられており、吸気管19内の吸気圧に応じた吸気圧信号をECU3へ出力する。吸気温センサ25は、スロットルバルブ22の上流側において感部を吸気流路19aに向けて吸気管19に設けられており、吸気管19内の吸気温度に応じた吸気温信号をECU3へ出力する。スロットル開度センサ26は、スロットルバルブ22の開度に応じたスロットル開度信号をECU3へ出力する。冷却水温センサ27は、シリンダ10の冷却水路10dに感部を向けて設けられており、冷却水路10dを流れる冷却水の温度に応じた冷却水温信号をECU3へ出力する。クランク角度センサ28は、例えば電磁式ピックアップセンサであり、ロータ29の外周近傍に設けられ、クランクシャフト13の回転に同期して、クランクシャフト13が所定角度回転する毎にクランク角信号を出力する。
【0019】
ロータ29は、クランクシャフト13に連結され、内周側に60°毎にN極及びS極が1セットずつ配置されるように永久磁石が取り付けられている。ロータ29(つまり永久磁石)が回転することにより、図示しないステータコイルでは、電磁誘導によって3相交流電圧が発生し、この3相交流電圧をレギュレートレクチファイヤ(図示略)へ出力する。また、ロータ29の外周には、複数の突起が回転方向に対して、各突起の後端が等角度間隔(例えば20°間隔)になるように設けられている。そして、ロータ29には、クランク角基準位置に突起の後端が位置するように、他の突起より回転方向に長い(例えば2倍)突起(クランク角基準突起)が設けられている。以下では、クランク角基準突起以外の突起を補助突起と称する。
【0020】
上述したクランク角度センサ28は、ロータ29のクランク角基準突起及び補助突起がクランク角度センサ28近傍を通過する毎に極性の異なる1対のパルス状のクランク角信号をECU3へ出力する。より詳細には、クランク角度センサ28は、回転方向に対して各突起の前端が通過した場合、負極性の振幅を有するパルス信号を出力し、回転方向に対して各突起の後端が通過した場合、正極性の振幅を有するパルス信号を出力する。
【0021】
燃料供給部2は、燃料タンク40及び燃料ポンプ41から構成されている。燃料タンク40は、例えばガソリン等の燃料を溜めておくための容器である。燃料ポンプ41は、燃料タンク40内に設けられており、ECU3から入力されるポンプ駆動信号に応じて、燃料タンク40内の燃料を汲み出してインジェクタ23へ供給する。
【0022】
ECU3は、ROM(Read Only Memory:読出専用メモリ)51、RAM(Random Access Memory)52、CPU(Central Processing Unit:制御処理部)53、加速度センサ54、インジェクタ駆動回路55及びポンプ駆動回路56等から構成されており、上記ROM51に記憶された制御プログラム、加速度センサ54から入力される加速度信号、吸気圧センサ24から入力される吸気圧信号、吸気温センサ25から入力される吸気温信号、スロットル開度センサ26から入力されるスロットル開度信号、冷却水温センサ27から入力される冷却水温信号及びクランク角度センサから入力されるクランク角度信号基づいてエンジン1及び燃料供給部2の全体動作を制御する。
【0023】
ROM51は、エンジン1の始動制御及び通常制御に必要なデータ(例えば、制御プログラムやテーブルデータ、マップデータ等)を予め記憶している読出専用の不揮発性メモリである。RAM52は、CPU53が各種演算処理を行う際に、データの一時保存先に用いられるワーキングメモリである。CPU53は、ROM51に記憶されている始動制御用データ及び通常制御用データ、クランク角度信号に基づいて算出したエンジン回転数、吸気圧信号に基づく吸気圧値、吸気温信号に基づく吸気温度値、スロットル開度信号に基づくスロットル開度値及び冷却水温信号に基づく冷却水温値に基づいてエンジン1及び燃料供給部2を制御する。
【0024】
加速度センサ54は、例えば静電容量型の加速度センサ54であり、鞍乗型車両の車体の高さ方向を基準として、車体の幅方向の加速度を検出する。すなわち、この加速度センサ54は、車体が傾斜したときその傾斜角の正弦成分の重力加速度を検出し、当該重力加速度に応じた加速度信号をCPU53へ出力する。CPU53は、加速度センサ54から入力された加速度信号に基づいて、車体の傾斜角を算出し、当該傾斜角が所定のしきい値を越える転倒検出状態が所定時間続くと、鞍乗型車両が転倒状態であると判断する。
【0025】
インジェクタ駆動回路55は、上記CPU53による制御の下、インジェクタ23から所定量の燃料を噴射させるためのインジェクタ駆動信号を生成し、当該インジェクタ駆動信号をインジェクタ23に出力する。ポンプ駆動回路56は、上記CPU53による制御の下、燃料ポンプ41からインジェクタ23へ燃料を供給するためのポンプ駆動信号を生成し、当該ポンプ駆動信号を燃料ポンプ41へ出力する。
【0026】
次に、上記のように構成された本実施形態のECU3を備えるエンジン制御システムにおいて、ECU3(特にCPU53)のエンジン制御処理について図2、図3及び図4を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)のエンジン制御処理を示すフローチャートである。図3は、本実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)を備えるエンジン制御システムを搭載した鞍乗型車両の転倒時の加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示す図であり、図4は、本実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)を備えるエンジン制御システムを搭載した鞍乗型車両の転倒検出状態中にリヤタイヤロック等によるエンジンストールが発生した時の加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示す図である。
【0027】
図2に示すように、CPU53は、電源供給部(図示略)からの電力の供給によって起動すると、加速度センサ54から入力される加速度信号を読み込み(ステップS1)、加速度センサからの加速度信号の信号レベルが正常値であるか否か判定する(ステップS2)。CPU53は、上記ステップS2において、図3及び図4に示す加速度信号の信号レベルが許容範囲(非転倒レベル及び転倒レベル)内である場合には、加速度信号が正常値であると判断し、加速度信号の信号レベルが許容範囲の上限値を超えるまたは下限値を下回った場合に、加速度信号の信号レベルが加速度センサ54の故障によって異常値になっていると判断する。
【0028】
CPU53は、ステップS2において『NO』と判定した場合には、すなわち加速度信号の信号レベルが異常値である場合には、鞍乗型車両が非転倒状態であると判断し(ステップS3)、エンジン1の制御を許可する、すなわち点火コイル17への点火用電圧信号の出力をイグナイタ18に許可し、インジェクタ23へのインジェクタ駆動信号の出力をインジェクタ駆動回路55に許可し、さらに燃料ポンプ41へのポンプ駆動信号の出力をポンプ駆動回路56に許可する(ステップS4)。なお、CPU53は、加速度信号の信号レベルが異常値である場合に、加速度信号に基づいて鞍乗型車両の転倒/非転倒を判断することが出来ない為、上記ステップS3において鞍乗型車両が非転倒状態であると判断する。
【0029】
CPU53は、ステップS2において『YES』と判定した場合には、すなわち加速度信号の信号レベルが正常値である場合には、クランク角度センサ28から入力されたクランク角度信号に基づいてエンジン1がエンジンストールしているか否か判定し(ステップS5)、ステップS5において『YES』と判定した場合には、すなわちエンジン1がエンジンストールしている場合には、上記ステップS3へ移行し、ステップS5において『NO』と判定する場合には、クランク角度センサ28から入力されたクランク角度信号に基づいてエンジン回転数を算出し、当該エンジン回転数が所定のしきい値を越えているか否か判定する(ステップS6)。
【0030】
CPU53は、ステップS6において『NO』と判定した場合には、すなわちエンジン回転数が所定のしきい値を下回っている場合には、上記ステップS3へ移行し、ステップS6において『YES』と判定した場合には、既に転倒状態であると判断しているか否か判定する(ステップS7)。エンジン制御処理は、CPU53が所定時間毎に繰り返して実行する繰り返し処理であり、すなわち所定時間が経過する毎にエンジンの制御を許可するか否か判定する処理である。そして、上記ステップS7では、前に実行した繰り返し処理の中で、後述するステップS9において既に鞍乗型車両が転倒状態であると判断しているか否かを判定している。
【0031】
CPU53は、ステップS7において『NO』と判定した場合には、すなわち既に転倒状態であると判断していない場合には、加速度信号に基づいて算出した傾斜角が所定のしきい値を越えるか否か、すなわち転倒検出状態であるか否か判定し(ステップS8)、ステップS8において『NO』と判定した場合には、すなわち転倒検出状態でない場合には、ステップS3へ移行し、ステップS8において『YES』と判定した場合には、すなわち転倒検出状態である場合には、転倒検出状態になってから所定時間経過しているか否か判定する(ステップS9)。
【0032】
CPU53は、ステップS9において『NO』と判定した場合には、すなわち転倒検出状態になってから所定時間経過していない場合には、ステップS3へ移行し、ステップS9において『YES』と判定した場合には、すなわち転倒検出状態になってから所定時間経過した場合には、鞍乗型車両が転倒状態であると判断し(ステップS10)、エンジン1の制御を禁止する、すなわち点火コイル17への点火用電圧信号の出力をイグナイタ18に禁止し、インジェクタ23へのインジェクタ駆動信号の出力をインジェクタ駆動回路55に禁止し、燃料ポンプ41へのポンプ駆動信号の出力をポンプ駆動回路56に禁止する(ステップS11)。そして、CPU53は、ステップS1の処理開始から所定時間が経過したか否か判断し、所定時間が経過したと判断した場合には、ステップS1の処理を繰り返す。
【0033】
次に、図2のフローチャートに照らし合わせて、図3を説明する。図3は、転倒によるエンジン1の稼動の停止からエンジン1の再始動までの、加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示している。点火/噴射禁止信号とは、CPU53が、エンジン1の制御を停止する際に、イグナイタ18、インジェクタ駆動回路55及びポンプ駆動回路56へ出力する信号である。すなわち、CPU53は、上記ステップS11において、イグナイタ18、インジェクタ駆動回路55及びポンプ駆動回路56へ点火/噴射禁止信号を出力することによって、エンジン1の制御を禁止している。
【0034】
図3に示す点火/噴射禁止信号の立ち上がり部分は、CPU53から点火/噴射禁止信号が出力されていることを示し、立ち下がり部分は、CPU53から点火/噴射禁止信号が出力されていないことを示す。また、図3に示すエンジンストール状態の立ち上がり部分は、エンジン1がエンジンストールであることを示し、立ち下がり部分は、エンジン1がエンジンストール解除されていることを示す。
【0035】
図3に示すように、加速度信号の信号レベルが非転倒レベルから転倒レベルへ遷移することによって、CPU53が、上記ステップS8において『YES』と判定する。転倒レベルに遷移してから所定時間経過すると、CPU53は、上記ステップS9において『YES』と判定する。そして、CPU53は、上記ステップS10において転倒状態であると判断し、点火/噴射信号を出力することによって上記ステップS11においてエンジン1の制御を禁止する為、エンジン1は、エンジン回転数が低下し、エンジン回転数が「0」すなわちエンジントールする。
【0036】
その後に、図3に示すように、エンジン1がエンジンストールすると、CPU53は上記ステップS5において『YES』と判定し、上記ステップS3において非転倒状態であると判断し、点火/噴射信号の出力を停止することによってステップS4においてエンジン1の制御を許可する為、ライダーがエンジン1を再始動すると、エンジン1は、エンジン回転数が上昇し、エンジンストールが解除される。なお、エンジン1が、エンジン回転数は低下しているが、エンジンストールしていない状態である場合に、CPU53は、上記ステップS5において『NO』と判定するが、エンジン回転数が所定のしきい値を下回るとステップS6において『NO』と判定し、ステップS4においてすぐにエンジン1の制御を許可する。
【0037】
さらに、図2のフローチャートに照らし合わせて、図4を説明する。図4は、転倒検出状態中のリヤタイヤロック等によるエンジン1の稼動の停止からエンジン1の稼動の再開までの、加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示している。
【0038】
図4に示すように、加速度信号の信号レベルが非転倒レベルから転倒レベルへ遷移することによって、CPU53が、上記ステップS8において『YES』と判定する。転倒レベルに遷移してから所定時間経過する前にリヤダイヤロック等によってエンジン1がエンジンストールすると、CPU53は、上記ステップS3において『YES』と判定する。そして、CPU53は、上記ステップS3において非転倒状態であると判断し、点火/噴射信号の出力を停止することによってステップS4においてエンジン1の制御を許可する為、所定の時間が経過していなくても、ライダーがエンジン1を再始動すると、エンジン1は、エンジン回転数が上昇し、エンジンストール解除状態になる。なお、エンジン1がエンジン回転数が低下しているが、エンジンストールしていない状態である場合に、CPU53は、上記ステップS5において『NO』と判定するが、エンジン回転数が所定のしきい値を下回るとステップS6において『NO』と判定し、ステップS4においてすぐにエンジン1の制御を許可する。
【0039】
以上のように、本実施形態に係るECU3において、CPU53が加速度センサ54から入力される加速度信号に基づいて鞍乗型車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過後に、転倒状態と判断して、エンジン1の制御を禁止させ、エンジン1のエンジン回転数が「0」になる、すなわちエンジンストールする、もしくはエンジン回転数が所定のしきい値を下回ると、すぐにエンジン1の始動または制御を許可する。さらに、CPU1は、所定時間経過中にリヤダイヤロック等が発生しても、エンジン1がエンジンストール状態になる、もしくはエンジン回転数が所定のしきい値を下回るとすぐにエンジン1の始動または制御を許可する。このように、エンジンストールする、もしくはエンジン回転数が所定のしきい値を下回るとすぐにエンジン1の始動または制御を許可する為、車両の転倒によって、エンジン1がエンジンストールしたとしても、速やかに走行を再開することが出来る。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、CPU53が、点火コイル17への点火用電圧信号の出力をイグナイタ18に禁止し、インジェクタ23へのインジェクタ駆動信号の出力をインジェクタ駆動回路55に禁止し、燃料ポンプ41へのポンプ駆動信号の出力をポンプ駆動回路56に禁止することによって、エンジン1の制御を停止させたが、本発明はこれに限定されない。
CPU53は、点火コイル17、インジェクタ23及び燃料ポンプ41の少なくとも一つを停止させることによって、エンジン1の制御を停止させ、エンジン1がエンジンストールする、もしくはエンジン回転数が所定のしきい値を下回ると、停止させた点火コイル17、インジェクタ23及び燃料ポンプ41の制御を許可するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)を備えたエンジン制御システムの構成概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)のエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)を備えるエンジン制御システムを搭載した鞍乗型車両の転倒時の加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置(ECU3)を備えるエンジン制御システムを搭載した鞍乗型車両の転倒検出状態中にリヤタイヤロック等によるエンジンストールが発生した時の加速度信号、点火/噴射禁止信号、エンジンストール状態及びエンジン回転数の時間的な変化を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1…エンジン、2…燃料供給部、3…ECU(Engine Control Unit)、10…シリンダ、10a…吸気ポート、10b…燃焼室、10c…排気ポート、11…ピストン、12…コンロッド、13…クランクシャフト、14…吸気バルブ、15…排気バルブ、16…点火プラグ、17…点火コイル、18…イグナイタ、19…吸気管、19a…吸気流路、20…排気管、20a…排気流路、21…エアクリーナ、22…スロットルバルブ、23…インジェクタ、24…吸気圧センサ、25…吸気温センサ、26…スロットル開度センサ、27…冷却水温センサ、28…クランク角度センサ、29…ロータ、40…燃料タンク、41…燃料ポンプ、51…ROM(Read Only Memory)、52…RAM(Random Access Memory)、53…CPU(Central Processing Unit)、54…加速度センサ、55…インジェクタ駆動回路、56…ポンプ駆動回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の傾斜角を検出する車両傾斜角検出手段と、
当該車両傾斜角検出手段が検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させるエンジン制御停止手段とを備える鞍乗型車両のエンジン制御装置であって、
エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動状態判定手段と、
前記エンジン稼動判定手段がエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可手段とを具備することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御許可手段は、前記エンジン稼動状態判定手段がエンジンの回転数が所定のしきい値を下回っていると判定すると、すぐにエンジンの制御を許可することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
車両の傾斜角を検出し、検出した車両の傾斜角が所定のしきい値を越えてから所定時間経過すると、車両が転倒状態であると判定して、エンジンを強制的に停止させる鞍乗型車両のエンジン制御方法であって、
エンジンが稼動状態にあるか略停止状態にあるか判定するエンジン稼動判定ステップと、
前記エンジン稼動判定ステップがエンジンの略停止状態を判定すると、車両の転倒状態に係わらず、すぐにエンジンの制御を許可するエンジン制御許可ステップとを具備することを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項4】
前記エンジン制御許可ステップは、前記エンジン稼動判定ステップがエンジンの回転数が所定のしきい値を下回っていると判定すると、すぐにエンジンの制御を許可することを特徴とする請求項3に記載のエンジン制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−84570(P2010−84570A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252729(P2008−252729)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】